札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年11月30日水曜日

科学的思考

『「科学的思考」のレッスン 学校で教えてくれないサイエンス』(戸田山和久著、NHK出版、2011年)を読んでみた。

本書は学生向きに書かれた啓発書である。2部に分かれており、第一部は科学的に考えることとはどういうことかが書かれている。第二部は賢い市民が持つべき科学リテラシーについて書かれている。

第一部.
まず、科学が語る言葉(科学的概念)と科学を語る言葉(メタ科学的概念)を区別しなければならない。それを理解した上で、「100%の真理と100% の虚偽の間のグレーな領域で、少しでもよりよい仮説を求めて行くのが科学という営みである」と考える。科学的であるとは、予言を当てることができる、その場しのぎの仮説や要素を含まない、すでにわかっていることを同じ仕方で説明できる、等が求められる。
 
推論は次のように分けられる。
■演繹
■ 非演繹
1)帰納法:個別の例から一般性を導く
2)投射;これまで調べた事例から、次のケースを推測する
3)類比:二つのことがらはこの点で似ているから、それ以外の点でも似ているかもしれない
4)アブダクション:今までわかっていたことだけでは説明できないが、新たな仮説を置けば説明できる

演繹的推論では、真理保存的であり、前提が正しければ結論も必ず正しいが、情報量は増えない。一方、非演繹的推論では、結論が必ずしも正しいとは限らないが、結論において、情報量が増える。

科学で重要なことは、反証事例を探すことである。「科学は反証に開かれている」(カール・ポッパー)。また、実験はコントロールされていなければならない(対照実験でなければいけない)。人間相手の実験をコントロールするのは結構難しい。プラセボ効果等があるので、一つだけ条件を変えて、他の条件は完全に同じ対照実験にすべきである。単独データでは、どれだけ高い確率で治ったとしても有効とはいえない。重要なのは高い確率ではなく相関である。それを診るために四分表を作成することが有益である。系統誤差を避けるために、ランダム・サンプリングが重要となる。また、相関から因果関係の推論は慎重にしなければならない。

科学・技術だけでは解決できない問題が3つある。
1)科学技術自体が希少資源であること

2)トランス・サイエンスな問題がある
・知識の不確実性や解答の現実的不可能性
・対象がそもそも不確実な性質を持つ
・価値判断とのかかわりが避けがたい

3)科学・技術自体が問題になる
・倫理の空白地帯をもたらす:出生前診断
・技術は本質的に不完全なまま社会に放たれる

第二部.
科学・技術のシビリアン・コントロールをしなければいけない。市民はこのための科学リテラシーを持っていないといけないが、市民の科学リテラシーは知識量にあらず。必要なことは、「科学がどのように進んでゆくのか」、「科学がどういうほうに政策に組み込まれるのか」、「科学はどんな社会状況が生じたら病んでいくのか」、を問うメタ科学的知識である。
科学リテラシーを役立てるよう、社会的意思決定にしっかりと参画して、影響力を及ぼせる仕組みを作ることが重要である。「コンセンサス会議」を立ち上げ、市民が先に問題を立って、適切なフレーミングで行う必要がある。なぜなら、専門家と市民とで食い違うことが多く、そもそも科学とは答えることのできる問題だけを問うものだからである。

市民の科学リテラシーは次の10に集約できる。
1)提供された科学情報に適切な問いを抱くことができる。
2)科学の手続きには必ずモデル化と理想化が含まれることを知っている。
3)一つの情報ソースを鵜呑みにしない。「わかりやすさ」には落とし穴がある。喩えだけで満足しない。
4) 「わからなさ」がきちんと伝えられているかをチェックできる。断定的な物言いを疑う。
5)科学者の発言に、必ず外挿や推定が含まれていることを知っている。
6)強調点の置き方によって正反対の含意をもつこともあることを知っている。元ネタ情報を入手する。
7)異論が並立していることを知っている。その異論の背景には政治的対立の可能性があることを知っている
8)自分のリスク認知にはバイアスがあるということを知っている。数値化されたリスクを参考にできる。
9) 科学・技術に「安心」を要求することは合理的で、科学的・学問的に議論できることを知っている。
10)リスク論争は、フレーミングの不一致に根ざしていることを知っている。複合的・多元的なフレーミングを提案できる。

第二部では、福島第一原発事故を事例として検討を加えている。科学を社会にどのように適用させるかについて、大変参考になる書物と言えよう。(山本和利)