札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年10月28日木曜日

アメリカン・コミュニティ

『アメリカン・コミュニティ』(渡辺靖著、新潮社、2007年)を読んでみた。

米国って最近はイラクに戦争を仕掛けたり、経済破綻の元凶となったサブプライムローン問題などで評判を落としたりしている。世界最高の医療レベルを持ちながら、それにアクセスできない国民が30%以上いる国。そしてそれを改善しようとすると、自己負担が増えるという理由で反対する多数の国民。米国ってどんな国なのだろう。米国社会のコアは、その社会を内側から支えるコミュニティであろう。本書は社会学者が9箇所の米国のコミュニティを取材した報告である。

ニューヨーク州メープルリッジのボルダホフ(キリスト教原理主義)、マサチューセッツ州サウス・ボストンのダドリ-・ストリート(ゴミの町)、アリゾナ州サプライズのメガチャーチ(草の根宗教右派)、テキサス州ハンツビル(刑務所・死刑執行の町)等、様々なところに行っている。

米国は多様だ。そして、「賛成・反対」の二元論だけでなく、細かな議論もある。反論が用意されて一つに収斂しないようにはなっているが、その中心にあるのが資本主義、市場主義であることは否定できない。

米国の人々が様々なコミュニティに帰属せざるを得ない背景も見えてくる。ゴミの山・残飯の山のサウス・ボストン・ダドリ-・ストリートを有機野菜の香りで満たした試みなどは、地域再生の参考になろう(トップダウンの企画力・指導力・予算が重要と痛感する)。これを読むと米国への理解が少し深まるかもしれない。(山本和利)

炙り屋本店

過日、札幌ススキノの海鮮料理店『炙り屋本店』に学外講師と学生を連れて行ってみた。

数人でも個室で静かに話ができるのがうれしい。刺身の盛り合わせ、ホッケの干物を注文。サラダが4種類あり分量も多い。生ラムの串焼きも美味しい。梅酒の種類も豊富。

会話も弾んで、日本の医療問題からそれぞれの人生問題まで多岐にわたる。最後は甘いもの(シャーベットかゼンザイ)をとってお開きとなる。(山本和利)

2010年10月26日火曜日

離島、米国そして札幌

10月26日、手稲家庭医療クリニックの小嶋一先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「家庭医療の実践- 離島、米国そして札幌-」である。

まず、自己紹介をされた。東京生まれ。居酒屋で酔っ払いに囲まれて育った。九州大学卒。沖縄中部病院で研修。離島医療に従事。米国で家庭医の研修を受ける。2008年手稲渓仁会家庭医療センター(愛称「かりんぱ」)で活動。19床の有床クリニック(ホスピス・ケア)で、年間100名の看とりをしている。初期研修医4名、後期研修医6名、内科から研修医4名。内科、小児科、産婦人科を標榜。在宅医療もしている。地域医療への貢献(幌加内へ研修医を派遣)も目指す。

これまでの道のりをさらに具体的に話された。初期研修は野戦病院のようなところで沢山の患者を診た。担当患者350名。離島に行くことが決まっていたので積極的に研修をした。週に140時間働いたことがある(寝る、食う、仕事しかない)。卒後3年目の離島経験。伊平屋島、人口1500人。医師一人、看護婦一人。毎日当直。風邪から心肺停止、外傷、精神錯乱まで何でもありであった。慢性疾患への対応がわからなくてもう少し勉強したくなった。

米国Family medicine residency:2003年、先輩が道筋をつけてくれて米国へ行くことになった。5年間研修した。3年間の研修で無理なく開業ができる段階的なプログラム。開業を前提とした教育。継続外来専門施設で研修。外来診察数:150人(1年目)+1500人(2-3年目)。Family Health Center(FHC)は、指導医と研修医がグループ診療を行う。外来にロールモデルがゾロゾロいる。経営なども実地で学べる。

FHCでよく遭遇する問題:小児検診、風邪、健診、皮膚科、腰痛、腹痛、(保険の関係で糖尿病、高血圧が意外と少ない)。術前検診、避妊相談、うつ病、禁煙指導、麻薬中毒、等。FHCで家庭医の幅を思い知った。米国の研修で納得したのは、ロールモデルがいる、入院と外来のバランスがとれている、一人立ちするための移行システムである、等々。

家庭医・家庭医療とは
「患者が望むこと」はいつもシンプルである。すなわち原因の追及、体調を治してほしい、等。風邪の患者さんを風邪の診療だけで終わらせない。エビデンスを大切にする。これまでの縦割り医療では実現できない視点を持つ。予防、未病、健康増進も。複雑な要因を解きほぐし解決する。アクセスが容易である。人生の始まりから終わりまで関わる。年齢、性別、病気の種類を問わない。入り口としての役割。患者の味方になって共に悩みを分かち合う。複雑な問題を整理して導く。医療のプロフェッショナルである。

ロールモデルやメンター(自分を理解、先を進んでいる、成長を助ける、尊敬に値する)に出会うことが大切。

現場主義:スキーはスキー場で習え。へき地医療を知らずして家庭医とは名乗って欲しくない。

家庭医の5つの武器
・ Community Medicine
・ Community Outreach
・ Behavioral Science
・ Quality Improvement
・ Practice Management
時間の関係で詳細は別の機会にということであった。

日本の家庭医には未来がある。その理由として4つ挙げられる(僻地医療の崩壊、予防医療のエビデンスに基づいた実践、産科・小児・救急医療の人手不足、恵まれた保険制度)。

最後に学生にエールを3つ送られた。「武器を磨け」「良きパートナーを」「二歩先を読み、一歩先を照らし、今を精一杯」

学生たちは家庭医療の具体的な内容や離島医療、米国の研修医の実態について知ることができ、感銘した者が多かった。講義が終わってからも追っかけで二名が昼食に参入してくるほどであった。小嶋先生、ありがとうございました。(山本和利)

アドバイザー面談

10月26日、札幌は初雪。みぞれ。
10月25日、札幌医科大学学生のアドバイザーとして担当の学生と面談した。11名中9名が参加。

近況を尋ねると、アキレス腱を切った者や排尿失神で倒れて顔面を怪我した者がいたが、大きな問題はないようであった。

大学への要望として、講義の冷房・暖房をしっかり入れて欲しい、医学部・体育館付近にウォータークーラー(冷たい水飲み器)を設置して欲しい。医学部内に5年生が座れる部屋が欲しい、等があがった。
2年生から、進級規定が厳しくなり進級できるかどうか不安を抱いている者が多いという意見が出た。

洋菓子店から取り寄せたロールケーキを食べながらくつろいだ雰囲気の中会話が弾み、約1時間で散会となった。(山本和利)

2010年10月25日月曜日

日本プライマリ・ケア連合学会理事会

10月24日、東京の医師会館で開催されたプライマリ・ケア連合学会理事会に参加した。

はじめに前沢理事長の挨拶。各支部における会合における活動を紹介された。
9月19日、20日に東京医療センターで行った専門医・認定医試験で、専門医の受験者は67名で合格者は56名(83%)、認定医は24名受験し合格者は21名(87%)であった。

秋季セミナーの開催予定を報告された。人気が集中していて希望者が受講できないものをある。より多く参加者が集えるよう日時や規模について検討中である。

各種委員会(広報・学会誌編集、生涯教育、認定制度、地域ケアネットワーク、倫理、研究支援、国際関係、渉外、学会名称検討、選挙制度検討、等)から活動方針・活動計画の報告があった。話題:地域ケアネトワーク委員会が自殺予防WGを立ち上げた。倫理委員会は男女比を1対1とした。選挙のブロック分けをどうするか。来年度の夏期セミナ(8月6-8日)は経費を削減するため筑波大学の施設を利用する。若手医師部会で冬季セミナーを企画中(2011年2月19日、東京大学)。病院総合医の専門医に関する事務局が決定(あゆみコーポレーション)。学会誌の電子化に伴い、どこまで一般の方がアクセスするようにするかが話題となった。学術集会での口演の査読することになった。

税理士事務所との契約が成立したことが報告された。各支部からの活動報告。プライマリ・ケア薬剤師認定制度について。人気が高い(薬剤師がとりたい資格第2位)。生涯研修受講の認定となる。会計報告(総額1億円)。

ロゴ・マーク、シンボル・カラーが承認された。白黒印刷をしたとき見にくい部分があることが問題になった。

第2回学術大会は7月2,3日に札幌で開催。その内容の発表があった(メインテーマ「時と人をつなぎ 今飛躍の時へ」)。参加費は医師が1万円、医師以外の職種が5千円程度。口演希望者には査読システムを考えている。第3回学術大会は九州で開催。第4回学術大会は東北ブロックで開催予定。医事新報の新連載企画(薬剤連載)が承認された。日本専門医制評価・認定機構への加盟。プライマリ・ケア認定医Bコースを2014年までとする(経過措置)。地域医療再生への寄与、日本歯科医師会との連携、WONCAフィリピン大会への途上国参加者支援について、報告があった。次回の理事会は2011年3月6日。(山本和利)

ペルシャ猫を誰も知らない

『ペルシャ猫を誰も知らない』(バフマン・ゴバディ監督:イラン 2009年)という映画を観た。

イランのクルド人監督バフマン・ゴバディがポップ・ミュージックへの規制の厳しいイランを、実在の事件・場所・人物に基づいてドキュメンタリー風に映画化したものである。デビュー作の『酔っぱらった馬の時間』はイランから迫害を受けるクルド人を描いていた。第2作目が『わが故郷の歌』、第3作目が『亀も空を飛ぶ』。今回は当局の規制厳しい中、その目を逃れながら密かに音楽活動を続ける若者たちの姿を描いている。当局に無許可でゲリラ撮影を敢行したそうだ。

出演者のほとんどは実在のミュージシャンたちである。地下室で音が漏れないように工夫しながら練習したり、田舎の牛小屋で練習したりといった場面がユーモアを交えて描かれる。ペルシャ語のラップミュージックも登場する。

監督はこの映画が完成後、イランを離れたそうだ。主役の2人も撮影が終了したわずか4時間後にイランを離れたらしい。反権力を貫き通す強靱な精神力に支えられて作られた映画である。音楽好きの方は是非ご覧下さい。(山本和利)

家庭医療学の研究

10月22日、藤沼康樹先生に学生講義終了後、スタッフ向けの講義をしていただいた。講義のタイトルは「家庭医療学の研究対象」である。
先生は今、リサーチに興味があり、プロジューサー役をしている。一流の研究者が素晴らしいメンターとは限らない。中小病院の現場の人とリサーチをするのは大変(自己負担のない研究はなかなか進まない)。現在、自腹で12名集めた。

質の高い家庭医療・プライマリケアを効果的・効率的に寄与する学問分野である。単純なヘルス・リサーチではない。
「日本の家庭医療の課題から」
1. 質
(ア) 質を何で測るか
(イ) 安全性、有効性、患者中心性、適時性、公正性
(ウ) 測定のスケールを作る、幸福かどうか
・継続的質改善:T2(ガイドライン通りの診療がなされているか)、SEA
・経営、運営、マネージメント
・生涯学習のシステム作り
・chronic care を大枠で考える:systematic approach(chronic care model)
2. 患者中心性
・共通基盤の確立
・意志決定の実施
・healingと深い繋がり:deep interviewをする
3. テクノロジー
・情報テクノロジー
・診断・治療テクノロジー
4. 研究
・研究ネットワークの構築
・アカデミック部門の協力
5. 政策
・医療政策への関与
・患者の立場から
・Social medicineの立場から
・研究に基づく提言
・地域基盤型参与研究:運動に近い、photo mapping
6. 教育
・教育の充実
・生涯教育

教室員それぞれが研究へのモチベーションが上がったのは確かであるが、このように文字にしてしまうと講義を直接受けたときのインパクトが伝えられないのがもどかしい。
藤沼先生、ありがとうございました。(山本和利)

家庭医、家庭医療、家庭医療学を紹介します!

10月22日、生協浮間診療所・医療福祉生協連 家庭医療学開発センターの藤沼康樹先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「家庭医、家庭医療、家庭医療学を紹介します!」である。まず、自己紹介をされた(内科医から芸風変更し家庭医に、ロンドンの診療所で勉強、考えて言葉にすることが大切と認識、地域全体で医学生を育てる)。

写真を見せながら日常診療を語る。「家庭医研修のある一日」を紹介。4歳の女の子が喘息発作で受診。付き添いのお母さんの治療もする。糖尿病でかっているとき前立腺がんを見つけてもらった男性(診療所のトイレにBPHのパンフレット)。下痢の子供2名。家族の中で認知症のお爺さんの相談。高血圧通院中の患者の膝関節穿刺。不機嫌な3歳児。左耳の中耳炎。下痢の高齢者に物忘れのスクリーニング。嘔気の女性が、実は妊娠。1歳児健診。慢性腰痛への対応。高血圧の患者がたまたま火傷。うつ病の男性。「虫さされ」で来院した男児。伝染性膿化疹。家庭内暴力でシェルターにいる親子。巻き爪の治療。禁煙外来受診者、等々。学生たちは幅広い診療内容に驚きをもって聴き入っている。楽しそうに語る姿が学生を引き付けるようだ。

「ある地域の千人の人に1ヶ月毎日健康日記をつけてもらいました。」(White KL et al:The Ecoligy of Medical Care.New England Journal of Medicine,1961の図を提示)
頭痛患者のごく一部しか医療機関に来ない。家庭医は「地域をカバー」している。

臓器別専門医のケア・モデルは、「病い・疾患 = 連続体 患者 = エピソード」である。

一方、家庭医療のケア・モデルは、「患者/家族 = 連続・継続 病い/ ライフイベント = エピソード」である。何かあったら相談に乗る。年代別年間死亡者数の推移をみると百万人。将来は160万人。その25%が在宅死。

在宅医療の実際の事例を次々に提示。高齢者と中年独身男性。グループホーム。多剤服用を減量。癌末期の患者の急変に対応(バッハを聴きながら永眠)。脳梗塞後遺症患者の胃ろう交換。肺がん末期。卵巣がん末期(配偶者へ誕生会を企画)。ごみ屋敷+猫問題をもつ患者。

アフガニスタン・カブール大学の研修:高度医療にしか興味がないことがわかったので、開き直って往診に同行させたり、問題症例のカンファランスを見せたりした。文化背景によって反応が異なることがわかった。(この研修が契機となりカブール大学の研修プログラムが変わったそうだ)。

「健康テーマパーク」突然、待合室であるテーマの講義を始める。「夏休みこども企画:医学部一日体験入学」夏休みの自由研究になる。子供にとって生きるとはと問うと、「間違えてうんこを踏んでしまうこと」という文章があった(一寸先は闇?)。

家庭医のよろず相談が大切。日本は医療システムの使い方を国民に指導しない唯一の先進国である。家庭医はとりあえず、なんでも相談にのる。

家庭医が高齢者をみる、医学的診断をつけることで解決する問題は、高齢者の場合は50%しかない。「物忘れ」「ころびやすい」「失禁」「元気がない」「ふらふらする」症状への対応を家庭医は得意とする。病気だけでなく、健康なところ、元気なところをのばすことに家庭医は関心がある。元気なところを伸ばす(健康生成論)。

在宅医療:家庭医は、自宅でできるだけすごしたいという願いを最大限かなえることができるように支援する。「がんの在宅緩和ケア(痛みや苦痛のコントロール)」。「非がんの在宅緩和ケア(アルツハイマー病、透析しない末期腎不全、末期心不全、老衰(むせやすくなり、食べられなくなったりすること))」

家庭医が思春期をみる。「予防医療が大事(アルコール、タバコ、クスリ、性感染症)」。「思春期独特の悩み相談」。「かぜ」やちょっとした「けが」のときに、予防的介入をしたりする。

家庭医がこどもをみる。小児科≠小児保健。「予防注射、乳幼児健診を積極的に行う。」「両親や祖父母も含めた健康相談にのる(家族指向性小児保健)」「比較的元気な急性期の症状に対応する(見逃してはいけない病気をつねに意識)。

家族をみる。「こどもからお年寄りまで相談にのれるので、家族全体の相談役=かかりつけ医=家庭医になれる。」「家族と病いは密接な関連をもっている。」「家族全体へのかかわり方を家庭医は知っている。」

予定の講義内容はまだまだあったが、あっという間に1時間が過ぎた。もう一度、聴きたい。家庭医療を将来の選択肢の一つに入れたい等、学生に大きな影響を与えてくれた。「藤沼先生、“どや顔”最高でした!!」という学生の声に、失礼と思いつつ噴き出してしまった(先生、御免なさい)。

藤沼先生、ありがとうございました。(山本和利)

2010年10月21日木曜日

10月の三水会

10月20日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は11名。大門伸吾医師が司会進行。

振り返り4題。
食べられない88歳男性。食べない、動けない。糖尿病、高血圧、慢性腎不全、認知症。食が細くなった。BUN;100,Cre;4.0.身体診察とCT施行。著しい脱水が判明。老衰と説明し家族も了承。家族の了解を得て補液200ml/日で経過観察している。1カ月経て看護師から何もしなくていいのですかと問われた。困った顔をした。これ以上何もしたくないなという印象であるが、ステロイドや抗鬱薬が効くことがなかったか一抹の不安はある。多職種でカンファレンスをする時間的余裕がない。できることなら臨床倫理4分割をしたい。

88歳女性。食べられない。高血圧、慢性心不全、狭心症、逆流性食道炎。脳梗塞の既往。白内障。脱水、腎機能低下、好酸球増多所見あり。ステロイド欠乏状態が判明。ステロイド治療を行い食べられるようになったのでグループホームに返そうとしたがそこから断られた。主治医の趣向で方針が決められているのではないかという不安がある。多職種でカンファレンスをどうようにしたら開けるか。行政を巻き込むとよい。関心を示すスタッフを巻き込む、等の意見が出た。

思春期のケア。まじめそうな16歳男子高校生。電車に乗った直後より、腹痛が起こりトイレに駆け込むと水様便。進学に対するプレッシャーがあり、母親が無自覚。RomaII診断基準やBMW基準を参照し、器質的疾患の除外を検討した。リスクファクターがなければ大腸内視鏡は不要とのこと。過敏性腸症候群を疑い、学校に連絡し、母親への説明を行った。薬物療法を導入し、早めに家を出るなどの生活指導を実施。主治医自身も過敏性腸症候群であることを告げた。3ヶ月後、症状改善した。過敏性症候群は難治性疾患であると思っている。「いつでもトイレにゆける」という言葉を主治医が患者さんにかけたことはよかった。これは家族療法でもある。「腹痛」から「進学に対するプレッシャー」に焦点を移し、「治す」から「気にしない様にする」というコーピングをしているという点で、賞賛の言葉をもらった。

小児麻痺で知的障害のある50歳代女性。ベッド上生活。食欲低下があり血液検査を施行。肝腫大があり、大腸内視鏡で大腸がん(adenocarcinoma)が発見された。肝臓に多数の結節あり。化学療法は難しいという判断。家族は保存療法を選択。その後、腹部膨満が出現。施設での点滴を指示したが、看取りまではできないと主張する施設側。とりあえず入院とした。食事は全量摂取。根気よく食べさせる付き添いの家政婦さんの力が大きい。病院では特別することがないので、施設での受け入れを促したが拒否されたため、療養型施設への転院を勧めた。結局、施設でケアすることになった。2ヶ月後、点滴をしながら療養している。状況を改善しようとしたが、逆に患者さんのQOLを悪化させてしまったのではないか。退院後の往診などのフォローアップ体制があればとも思った。

臨床登録医の医師からALS患者の在宅人工呼吸器管理の準備について報告があった。気管カニューレの交換実習。飼い猫が同居していて問題ないか。災害時の電源確保は発電機で。多職種の人々が大勢集まり連帯感が高まったことを報告。

北海道プライマリケアネットワークの補助金をもらって企画した「中高生への禁煙教育と喫煙アンケート調査」研究をするつもりであったが、実態調査は学校を通じてはしにくいので、意識調査に変えなければいけないという問題が生じた。参加者全員で話し合いをした。学生さんがどれだけ真剣に記入してくれるか、学校・父兄の対応などについて熱い議論となった。(山本和利)

2010年10月19日火曜日

総合医と臓器別専門医

10月19日、勤医協中央病院総合診療科の臺野巧先生の講義を拝聴した。はじめに講義のポイントは「Think globally, Act locally.」で始まった。その後、自己紹介をされ、臓器別専門医(脳外科医)から総合医への転身された経緯を話された。スケート部で東医体三連覇、POPS研究会で活躍、学生会を創設し、寮生活の改善活動をしたとのこと。

脳外科時代は、臨時手術、当直業務、緊急呼び出しが主な業務。充実していたが、年をとると大変と感じていた。同窓会にゆくと他の専門医となった医師も同じ悩みを持っていることがわかった。専門以外の知識がないため全科当直が非常にストレスだった。CT,MRIで異常がないと薬だけ出して終わり。めまいの患者ではDPPVが一番多いが、脳外科はそれに対応できない。そんなとき、『家庭医・プライマリケア医入門』という本に出会った。総合医とは総合する専門医なのだということがわかった。

札幌医大の総合診療科で総合医としての基礎づくりをした(病歴聴取、身体診察など)。学生さんとの学習会:EBM。勤医協へ赴任してから教育の重要性に気付いた。またそこで総合医が認められていることへの驚きと健全なスペシャリズムのあることを知った。

日本の医療情勢。
高齢化率の上昇し、複数の問題を抱えている患者や加齢・廃用の比率増加。総合医、老年医学のニーズが増加する。病院機能の限界。健康増進が重要。複雑系を扱う専門性が必要。Versatilist(十分深い専門性と周辺分野も適度に詳しい)がもう少し増えていかないと日本の医療はうまくゆかない。少人数でよい、相乗効果がでやすい、休みをとりやすい。John Fryの「理想の医療供給体系」を紹介。

世界の医療情勢。
マッキンゼーによる分析。各専門医数の規制がないのは米国と日本のみである。医師への規制があるのが世界の流れである。不足する科ではインセンティブを賦与している。
米国の現状:コストが他の国の2倍で、GDPの17%。高額な医療機器の使用と外科手技が多いためである。臓器別専門医が多いと医療費がかかる。プライマリケア医の育成を強化する。一方、英国の現状。医療費を8.4%に上げた。プライマリケアを重視。

これから医師になる方への問題提起。
総合医が提供する医療は専門医よりもレベルが低いのか?「NO!」である。卒業時にプライマリケア医を目指すのは数%である。各科の専門医の必要数が検討されていない。最後まで理解がすすまないのは医師側ではないか。ハワイ大学外科町淳二先生の言葉を引用。「日本の医師は、できれば最初の5年間くらいはgeneral physicianとしてのトレーニングを積むべきだ」
勤医協中央病院の新しい取り組みを紹介。屋根瓦式研修医教育やMini-CEX,等。

先輩からの熱いメッセージであった。学生さんから総合医支援の声が多数寄せられた。この講義で自分の進路を総合医にしようと思ったといったものが少なからずあった。「もっと総合医になりなさいという講義が必要である」という意見が思いの外多く、こちらとしても大変勇気付けられた。臺野先生、ありがとうございました。(山本和利)

日本プライマリ・ケア連合学会理事長に聞く

10月13日、KKR札幌でプライマリ・ケア連合学会理事長である前沢政次氏にインタビューを行った。

このインタビューは、我が国のジェネラリストを牽引してきた先学に、古きをたずねて将来の針路を学ぶことをねらいとし、これまでに日野原重明氏、鈴木荘一・央両氏に貴重なご意見を頂戴した。今回は、3回目として前沢理事長にお話を伺った。

まず、前沢理事長にプライマリ・ケアに関心を持たれたきっかけを伺い、さらに自治医大から北海道大学に至るまでの足跡を尋ねた。そして、新学会の目指すものについて意見をお願し、最後に、理事長が学会誌に期待するものもお聞きした。

この記事は、日本プライマリ・ケア連合学会誌 第33巻4号(2010年12月号)のインタビュー:ジェネラリスト温故知新に掲載予定である。一つの論文が切っ掛けで前沢理事長の進路が変わったことや家庭医療研究会立ち上げのころの興味深い話を聞くことができた。請う、ご期待。(インタビュア:山本和利)

2010年10月18日月曜日

第17回北海道プライマリ・ケアネットワーク理事会

 10月16日、札幌かでる2・7においてNPO法人北海道プライマリ・ケアネットワークの第17回理事会が行われた。

役員辞任の件,2010年度研究助成金を若林医師に追加助成する件、スキルアップセミナーの件(精神疾患3回、感染症3回)、夏家庭医療学季セミナーにポスター参加の件、8月21日(三水カンファ富良野)の報告、第6回指導医講習会の報告、宣伝広告・パンフ・ポスターの件、11月27日に行う北海道家庭医療フォーラムの件、臨床研修の地域医療研修に関する実態調査、レジナビフェア アンケート結果、総合内科医養成研修センター運営事業、2011年度募集に関わる件、2011年度研修施設の選定の件、2011年度役員改選等について話し合われた。

今回は和室で行われたため、足の置き場に困る理事が多かったように見受けられた。次回は洋室にします。

総合医・家庭医養成に対する意欲のある意見が多数出された。今後とも気持ちを引き締め、参加施設ネットワークを活かして地域医療に貢献できる策を提案してゆきたい。(山本和利)

ニポポ研修医面接2

10月16日、札幌医科大学で来年度ニポポ研修医の第二回目の面接を行った。面接官は山本和利と木村眞司理事。事務局の日光ゆかりが同席。大変意欲のある方であり、あっという間に1時間が経過した。

二次募集を開始しました。総合医、家庭医になりたいという意欲のある研修医方々、応募してください!
(山本和利)

幸福(しあわせ)

『幸福(しあわせ)』(小林政広監督:日本 2006年)という映画を観た。

舞台は北海道の勇払駅。苫小牧の近くらしい。この監督は北海道を舞台にすることが多い。男女の主人公が揃ってお尻を突き出してガニ股で歩く。別の映画「春との旅」の若い女性もガニ股で歩くように指導されたらしい。そんな中年男がボストンバッグ一つでふらりと勇払駅に降り立つ。そして街外れの公園で、突然倒れるように眠ってしまい、場末のスナックに職を見つけた中年女が、男を介抱し店に連れてくる。

男も女も過去に秘密を持って生きているようだ。そこに香川照之扮する常連客が狂言回しとして登場する。歌手を目指すもうまくゆかず人生に失望してカラオケで「心凍らせて」(高山厳やテレサ・テンが歌っている)を歌う場面が固定カメラで撮った映像で流れる。そんな場面が4回も出てくる。この場面がなかなか展開しないので面はゆい面もあるが、慣れてくると味わい深い。

家族に捨てられた男と、家族を捨てた女。それぞれが見つけ出す幸福とは何か。そんな映画の結末よりも、映画の醸し出す雰囲気を味わいたくて、もう一度観たくなる映画である。(山本和利)

2010年10月12日火曜日

地域医医療:講義2

10月12日、北海道庁保健福祉部の鈴木隆浩主幹から「北海道の地域医療の現状と道の取り組み」を拝聴した。

北海道の医師数は12,000人で、全国の4%を占める。これまで右肩上がりであり、224.9名/10万人であったが、2004年からは北海道内の医師数の伸びが鈍化している。また医師の地域偏在もある。札幌圏には6,371名がいるが、南檜山圏には34名しかいない。10万人当たりで見ると上川中部圏は317.5人であるが、根室圏は91.2人に過ぎない。ドクターヘリを3機導入しているが、限界がある。

アンケート調査によると、日本中で医師が1万8千人不足し、北海道は780人不足している。現状の1.1倍必要という計算になる。女性医師が増加(13.1%)し、無床診療所が増加し、病院・有床診療所が減少している。小児科を主たる診療科とする医師数は不変だが、複数標榜する医師が減少している。産婦人科は20-30歳代の女性医師が6割を占める。

道内の卒後臨床研修医の状況として、大学の研修医が不足し、地域の医師の引き上げが起こっている。国が研修医制度に見直しをかけたが、研修医数の上限を決められたため、北海道にとっては有効な政策となっていない。その中でさらに数十名が去り240名が後期研修医として道内に残っている。

北海道の医療機関の特徴は市町村立病院が多く、100床未満の病院も6割と非常に多い。
そして54.4%が標欠となっているため、診療報酬が少ないため経営が成り立ちにくい。
1人勤務の診療所・病院が増えているが、一人やめるとドミノ倒しで医師がやめてゆく。

次のような北海道の取り組みを紹介。
北海道医療対策協議会
・ 医師派遣要請
・ 全体調整依頼:現在22名の要請に4名に応諾。
・ 札幌医科大学地域医療支援センターから15名派遣
・ 旭川医大:3名
・ 自治医大:10名
・ 北海道地域医療振興財団:14件成立
・ 北海道女性医師バンク:最近は成立が少ない。
・ 地域医療支援派遣医師確保事業:最近は0件
・ 道外医師招聘事業:道内13名、道外3名
・ 医師版移住促進事業:11名
・ 短期医師:派遣日数:2,230日
医学生向け合同説明会
総合医養成支援事業
指導医養成事業
10億円の予算をつけている。(4億円増加)
学生奨学金制度:6年間で1,200万円、将来は全体で奨学生が160名になる。
研修医への貸与金制度:年額240万円もある。
道内の医学部入学者344名。

新たな事業
・ 地域医療指導医派遣システム推進事業:北大
・ 総合内科医養成研修センター運営支援事業:23病院を指定

授業の最後に学生に質問。
将来僻地に行ってもいい人:約10名。
内科系希望:約15名
産科・小児科:約5名。

道庁が様々な取り組みをしていることを始めて知る学生が多かった。成果が今ひとつなので、さらなる取り組みを期待したい。(山本和利)

サンゲ・サブール

『悲しみを聴く石』(アティーク・ラヒーミー著、白水社、2009年)を読んでみた。

アフガン亡命作家によるフランス語で書かれた作品である。暗い部屋に意識のない男が寝かされていて、その周りで祈りの言葉を九十九回唱え続ける妻。その中に独白が混じり込む。

「サンゲ・サブール」とはペルシャ語で「忍耐の石」。その魔法の石に向かって他人に言えない不幸・悩みを打ち明けると、石はそれをじっと聴き、飲み込み、あるとき、粉々に土砕ける。その瞬間、語り手は苦しみから解放されるという神話があり、タイトルはそれからとられている。

 あまりにも辛い不幸は、誰かに語るしか癒されない。他人にも言えない。意識のない石なら言える。意識のない夫の身体になら語ることができる。

総合診療外来で、ときどき私を「忍耐の石(医師)」と見なして語りかけてくる患者さんがいる。私は石になりきれているだろうか。「忍耐の石」となって患者さんの話を聞き続けたら、患者さんは苦しみから解放されるのだろうか。自分が砕け散らないと駄目なのか。

語ることの大切さを思わずにはいられない作品である。(山本和利)

日本プライマリ・ケア連合学会誌編集会議

10月11日、東京の医師会館で開催されたプライマリ・ケア連合学会編集委員会に編集長として参加した。

掲載不可の判断をどうするか、原著論文の基準をどうするかが始めに話し合われた。できるだけ建設的な意見を編集委員会から著者にフィードバックすること、単に方法論的な面だけを重視して原著にするのではなく、方法論に問題があってもプライマリ・ケアの視点でユニークさがあれば原著とすることなどが確認された。

特集企画として「家庭医専門医制度について」と「総合診療カンファランス」という案が出された。また来年度の学術集会の中で「論文の書き方」というワークショップを編集委員会で企画することになった。その後、和文誌、英文誌の掲載予定の論文報告がなされた。

最後に、PubMEDへの収載を打診すること、理事・代議員に査読のできる分野についてアンケートをとって査読者の数を増やすことなどが提案された。(山本和利)

息もできない

『息もできない』(ヤン・イクチュン監督・出演:韓国 2008年)という映画をリクエスト上映企画で観た。

殴る・蹴るの場面がこれでもかこれでもかと出てくる映画であるが、見終わって余韻の残る映画でもある。家庭内暴力の中で育ち愛を知らない手加減のない仕事振りで恐れられている取立て屋と精神を病み、働けない父を抱えている女子高生の運命的な出会いを描く。

小児期に暴力被害を受け、成人となって否定したはずの暴力を生活の糧にしている男が、父親を殴る自分の姿が自分の嫌った父と同じであることに気付き、その無意味さに気づいたとき、ドラマが待っている。暴力が世代を経て伝播してゆく悲惨さが伝わってくる。

監督が持ち家を売って、さらに借金までして作ったという映画である。韓国映画の傑作がまた生まれた。(山本和利)

ニポポ研修医面接

10月9日、札幌医科大学において来年度ニポポ研修医の面接を行った。面接官は山本和利と佐古和廣副代表理事。事務局の日光ゆかりが同席。医学部に入るきっかけ どんな医師になりたいのか どんな医療がしたいのか、北海道プライマリ・ケアネットワーク「ニポポプログラム」の魅力、研修修了後の進路、初期研修の振り返り等を訊いた。来週も面接が予定されている。総合医、家庭医になりたいという意欲のある研修医が応募してくれることを期待したい。(山本和利)

2010年10月8日金曜日

FLATランチョン勉強会

10月8日、1,3年生の特別推薦学生(FLAT)を対象にランチョンセミナー勉強会に参加した。2年生は看護実習期間中で不在。13名が参加。身体診察その4と題して最近髭を生やし始めた木村眞司先生が腹部診察の指導を行った。

まず腹部に起こった痛みについて学生に問いかけから始めた。腹部の解剖について3年生に、肝臓と脾臓の場所を訊いた。胃、十二指腸、小腸、大腸、等様々な部位の病変で起こる。
過去に経験した事例を出しながら講義を進めた。歩いた時に心か部痛が起こる例。心電図は正常であったが、心臓カテーテル検査で三枝病変が発見された。胆嚢、胃、肝臓。
臍部は小腸病変である。
下腹部痛は大腸、膀胱。

次に参加学生の一人に仰向けになってもらい腹部触診を行った。学生がアドリブで虫垂炎患者を演じてくれた。
ポイントと話の進行。
1. まず右側に立っての視診から。
2. 次に聴診。聴診器を温める。腸雑音を聞く。(学生が聴診器で聴く)
3. 右季肋部の打診。
4. 軽く全体を触診。痛みのある部位は最後に診察。
5. マックバーニー点を教授。腹膜刺激兆候。踵叩打試験、閉鎖孔兆候、等。

女子学生の参加が目立つ。体験者になるのも女性が多い。男子学生、集まれ!(山本和利)

地域医療特論:産婦人科

10月8日、札幌医科大学の3,4年生を対象に北見日本赤十字病院の水沼正弘先生が行った「地域医療特論」を拝聴した。はじめに産婦人科の齊藤豪教授の導入があった。(次週も小児科の講義が予定されている)。

まず、日本赤十字社の紹介。基本精神は人道、公平、中立、独立、奉仕、単一、世界性である。北見市はかつて野付牛町といっていたそうだ。北見日本赤十字病院は1935年に開設。5か月で完成。トイレ、水回りが大事。1980年改築。現在、680床。急性期病院として期待されているため、慢性疾患患者が病院から追いやられた。2008年は内科の引き上げにあい苦労した時期であった。4年後には500床で新築病棟が完成予定。25億円事業で北見赤十字病院主体事業を企画している。現在の医師数は91名。研修医は約10名(かつては30名)。当初東大、慶応大学出身の研修医を受け入れていたときの話も出た。職員は約千名。

地域医療連携について。オホーツク医療圏内(青森県と同じ面積)での「地域完結型医療」を目指す。北網地区と遠網地区。地方センター病院が1施設。地域センター病院が3施設。対象人口は31万6千人。北見市は12万7千人。外部に患者が流出しにくい。内科、整形外科は完全紹介制になっている。精査、高度医療が必要な患者のみを診るようにしている。かかりつけ医と専門医との「二人主治医制」を目指している。放射線科医が4名いる。電子カルテ化が進んでいるので、かかりつけ医が北見日赤病院の情報を自分の医療機関から閲覧することができる。また「開放型病院」であり、かかりつけ医が北見日赤病院で手術もできる。救急は小児科の患者が多い。当直時に遭遇した殺人事件の被害者、頭蓋底骨折、解離性大動脈瘤、等の経験談を紹介された。

北見日赤病院はユニセフ・WHO認定施設。産科・新生児医療は圏内で複数の医療機関が対応してくれているので比較的恵まれている。分娩数は減少しているが、ハイリスクの早産、多胎産が多い。頸管縫縮術の紹介。750gの超低出生児の20年にわたる経過を文献考察を含めて報告。最後に医療事故の話。子宮破裂事例とその反省。胎児敗血症事例。全前置胎盤・癒着胎盤の事例。感動的な家族立会分娩を紹介。

講義の後半、具体的な産婦人科の事例は生々しく、産婦人科に関わらない者には普段聞くことができない内容であり、大変参考になった。学生たちのアンケートをのぞき見ると、現場の大変さを感じ取ったようであり、地方でも最先端の医療が実践されていることに驚いているようでもあった。(山本和利)

2010年10月6日水曜日

音楽嗜好症

『音楽嗜好症』(オリヴァー・サックス著、早川書房、2010年)を読んでみた。

神経学・精神医学教授で開業医として活躍するオリヴァー・サックスがまたまたユニークな本を出した。これまでパーキンソン病を扱った『レナードの朝』やユニークな神経疾患を紹介した『妻を帽子と間違えた男』等、10冊近く出版している。

本書では、音楽と神経疾患との関係を出会った患者さんや手紙をもらった事例、文献などを引用に紹介している。突然音楽が聞こえるようになった患者、特定の音楽で誘発される癲癇発作、「音楽の幻聴が聞こえる」患者を紹介。音楽幻聴には難聴と関係が強いらしい。セロクエルやガバペンで治療に成功した例があるそうだ。

知的障害がある一方で音楽的才能がすばらしい音楽サヴァン症候群や病的に音楽好きなウイリアムズ症候群についてこの本ではじめて知った。

視覚障害があると音楽能力が高まる話やその考察も興味深い。音楽に色がついていると認識してしまう感覚(共感覚)を持つ事例も紹介されている。音階ごとにそれぞれに色が付いている人や音階に味がついている人もいるようだ。

 最終章は「認知症と音楽療法」である。馴染みのある音楽を聞かせることによって不眠や問題行動が減少する事例を紹介している。

オリヴァー・サックスの本を読むといつも「人間って不思議だ」「世の中には様々な症状を持つ人が沢山いるのだ」という気持ちにさせられる。日常診療の中で、患者さんの訴えを真摯に受け止めなければならないと改めて思った次第である。(山本和利)

地域医医療:講義1

10月5日、札幌医科大学地域医療総合医学講座の「地域医療」講義の第1回目を行った。

自己紹介をした後、これまで地域医療で経験した事例を紹介した。
まず、映画「ダーウィンの悪夢」を通じて、個々の合理的な活動を集約したときに、全体として最悪の結果が起こりうるという「合成の誤謬」の例として紹介した。日本の地域医療の現状も例外ではないと。

地域医療の総論を述べ、最後に短期間ではあるが伊良部島で診療にあたった研修医の日記を紹介した。

学生さんから、たくさんの好意的な意見が寄せられた。短期間でいいのなら是非、地域医療の現場に行きたいという意見が多く見られた。今後の授業への期待も大きいことがわかった。14時間の講義で構成されている。学生諸君、請うご期待。

2010年10月5日火曜日

くまげら


JR富良野駅近くの郷土料理店『くまげら』に行ってみた。

因みに「くまげら」とはキツツキ科クマゲラ属に分類される鳥類で、日本では1965年に国の天然記念物に指定されている。アイヌの間では「チプタ・チカップ」(船を掘る鳥の意)と呼称され、クマの居場所を道案内する神として崇められていたそうだ。

この店はテレビドラマ「北の国から」の撮影にも使われ、宮沢りえ、中嶋朋子も来店したという。シカ肉、鶏肉などを中心としたクマゲラ鍋が名物。チーズを豆腐のような食感で味わうチーズ豆腐がうまい。ジャガイモを詰め込んだソウセージ「しろうさぎ」も美味しかった。うまい日本酒も用意されており、風情のある容器で運ばれてくる。中国からの観光客がバスで乗り付けていた。夜12時までやっているという。もともとは蕎麦屋で、夜9時半すぎると蕎麦を注文できるという。食通の方は、富良野を訪れたときにはいかがでしょうか。(山本和利)

卒業試験小委員会

10月4日、札幌医科大学卒業試験小委員会に参加した。10月中旬に行われる試験の問題約750問(本試験、再試験問題を合わせて)を委員会で検討した。

誤字、脱字に始まり、用語の適切さ、表現の仕方、等を国家試験問題作成の手引き書に則りながら7名で検討した。16時半に始まり、終了は22時であった。

本試験は3日間、学生の健闘を祈りたい。(山本和利)

2010年10月4日月曜日

患者と医療従事者とで創る物語

 10月3日午前中、メンタルケア・スペシャリスト養成講座で「患者と医療従事者とで創る物語」という講義を行った。受講者の1割くらいが男性。

導入は私自身の若かりし日に実践した静岡県佐久間町の地域医療の紹介から入った。その後、オリバー・サックス『妻を帽子とまちがえた男』に収録されている、診察室では「失行症、失認症、知能に欠陥を持つ子供みたいなレベッカ」、しかし、庭で偶然みた姿は「チェーホフの桜の園にでてくる乙女・詩人」という内容を紹介した。最近発刊された「音楽嗜好症」もついでに紹介。
医学教育における視点の変化を紹介し、研修医、総合医には、持ち込まれた問題に素早く対応できるAbility(即戦力)よりも、自分がまだ知らないも事項についても解決法を見出す力Capability(潜在能力)が重要であることを強調した。

後半は、本題のナラティブの話。6つのNarrative要素:Six “C”を紹介。
隣にたまたま座った受講生同士で話し合いながら講義を進めたので、笑いに包まれ和やかに進行した。聞き上手の精神対話士になってください。(山本和利)

北海道PC研究会第52回学術集会

10月3日、北海道プライマリケア研究会第52回学術集会に参加した。
一般演題。
第1題目。「99カード」の使用報告。オレンジ色の袋に薬剤情報を入れて、玄関枠に設置しておくと、救急対応時に有益である。

第二題目。総合診療科におけるPIPC(Psychiatry in Primary Care)の使用経験の検討.
身体化障害やうつ病を疑った場合にこれで問診すると15分くらいで終了し、診断・治療に有益であった。

第三題目。若手家庭医のへき地診療所での実践。患者数が増え、一人の受診回数や医療費が減少し、医療費が大幅に減少したことを報告した。

第四題目。粟粒陰影を示した3事例。粟粒結核を鑑別することが重要で、従来の喀痰検査に加えPCR法やQFT2Gが有効である。

第五題目。ジスロマックSRによって発症した横紋筋融解症。幸い補液のみで1カ月後正常化した。ジスロマックSRによるものはきわめてまれであるが、注意が必要である。

第六題目。大腸憩室から出血を繰り返した抗血小板薬使用例。ステント治療をしたばかりの人の場合、薬剤をどのようにしたらよいのかが議論となった。

第七題目。非胸痛性急性心筋梗塞の臨床像。20%に胸痛なし。重症感が強く、嘔吐、冷汗は早めに心電図をとること。非胸痛は下壁梗塞に多い。死亡率が高い。12誘導心電図で95%は診断できた。

特別講演は京都大学の福原俊一教授の「プライマリケアの研究とは?」というものである。
いつになく沢山の参加者があり活発な討議が行われた。(山本和利)

消えた警官

『消えた警官 ドキュメント菅生事件』(坂上遼著、講談社、2009年)を読んでみた。

2010年10月、大阪の特捜検事の捏造事件がマスコミを騒がしている。本書は1952年大分県菅生(すごう)で起こった駐在所爆破事件を検証したものである。戦後、農地改革など民主的な政策がとられる中で、地主が強くて封建的な風土の残る菅生で、国家権力・警察が謀略を練って起こした捏造事件である。

謎の男が現れ、地元の過激分子と一緒に駐在所爆破事件を起こす。しかしながら三人逮捕されたはずなのに、そのうちの一人が消えてしまう。それを共同通信や新聞社の記者がこの疑惑を追及してゆく経緯が記されている。無実を勝ち取るまでの法定場面や科学捜査の場面は手に汗を握り、次のページをめくるのが待ちきれない。

 いつの時代も権力の横暴は存在するのだ。ミステリー嗜好の方にも、ドキュメント嗜好の方にもお勧めである。(山本和利)

SABOT

札幌地下鉄東西線丸山公園駅近くのイタリア料理店『SABOT』に行ってみた。
人気が高く当日直接いっても入れないという。名前を一見するとフランス料理かと思うが、ワインはイタリア産ばかりである。SABOTをインターネットのフランス語辞書で引くと「靴」と出てくる。靴の形をしたイタリアを意味しているということか。

ワインはボトルで頼むと1本が4千円以上とやや高め。サラダの量は多くないがうまい。鴨肉料理は柔らかく生姜が添えられており、とろけるような味であった。ピザは薄くカリカリと焼きあげられており、出前のピザとは異なった美味しさがある。注文してから食べるまでやや時間がかかることと料金がやや高めが難。時間と懐に余裕のある方にはお勧めである。(山本和利)

2010年10月1日金曜日

激しい腹痛・下痢と血圧低下

「53歳 主婦。去年から2・3カ月に一度の割合で激しい腹痛の下痢のときに嘔吐があり、血圧が急に下がります。
座って至れないほど、具合が悪くなり、トイレで倒れてしまいます。
その状態が30分ほど続き、ようやく起きれるようになります。
何が原因なのでしょうか?
家族がいないときに倒れたらと思うと不安です。
便潜血検査は毎年異常ありません。」

<総合医からの回答>
この経過全体から受ける印象としては、過敏性腸症候群の症状として激しい腹痛の下痢、
嘔吐が起こり、自律神経の一つである副交感神経の亢進により血圧が急に下がるものと考えられます。この過敏性腸症候群は、腸の粘膜に病変がなく、ただ腸の働きが強くなりすぎることによって腹痛や便通異常といった症状が現れる病気です。ストレスやプレッシャーがかかると腸が敏感に反応して症状を起こす、つまり腸の自律神経の不安定な状態といえるでしょう。

便潜血検査は毎年異常がないということですが、年齢のことを加味しますと炎症性腸疾患や悪性疾患を現時点では否定できませんので、最寄りの医療機関を受診し血液や便検査、消化器内視鏡を受けることをお勧めします。

炎症性腸疾患や悪性疾患が否定されれば、過敏性腸症候群に対して有効な内服薬がありますので、それで症状を軽減することができます。便の水分バランスを調整する薬、腸のけいれん・緊張を取り除く薬、便秘に対しての軽い下剤・整腸薬や腸管運動機能調整薬などが有効です。環境やライフスタイルの改善も重要です。また、便秘が主症状の場合は高繊維質のものを食べるとよいでしょう。

血圧が低下する症状がそれでも起こる場合には、医師に相談すると血圧の下がりにくい内服薬やその時の対処法を教えてくれると思います。(山本和利)

2010年9月29日の北海道新聞【学んで直そう】に掲載された。

学生担当症例の検討会

9月30日、金沢大学総合診療部の学生実習の振り返りに参加させてもらった。MSワードに書かれた文章を供覧しながら発表。従来の症例検討のスタイルである。

第一例目。嘔吐、頭痛、心か部痛の20歳代の女性。バッファリン内服中。その後、右下腹部痛が出現。学生は片頭痛と思っていたと。それぞれの問題について診断名を挙げていたが、できれば一つでまとめてほしいとコメントした。20歳の女性ということなので、オッカムのかみそり(Occam’s Razor)「一つの原因は観察されるすべての事象の源である」でゆく。もう一点患者自身の説明モデルを追加するよう指摘した。推測:片頭痛とバッファリンによる胃腸障害に虫垂炎など感染性の腸疾患を併発したと考えた。

第二例目。60歳代男性。膵がん・胃癌術後。抗がん剤治療中に急性白血病化した。地固め療法中、ショック状態。救急車で心停止。救急対応で蘇生。学生は最初、敗血症性ショックと考えたが、後でカリウム値が高く、クレアチニン値も高かいことが判明。考えるべきこと多数あり。

第三例目。汎血球減少で多発性骨髄腫を疑い精査となった80歳代女性。歩行障害あり。診断後、多発性骨髄腫の新薬を開始した。高齢者に対してどのように治療をしてゆくかが議論された。

小泉教授が3例に2時間かけて学生を指導する従来型の症例検討のスタイルが、久しぶりでありそれが新鮮でもあった。(山本和利)

プライマリケアと家庭医療

9月30日、金沢大学総合診療部の講義を依頼され、5年生に「プライマリケアと家庭医療」の講義をした。
毎年、招かれて行っている内容を今回は一部変えて、本年6月に行った「家庭医療学の理論的基盤」の内容を追加した。

自己紹介をした後、これまで関わってきた事例を交えながら、医療のパラダイム変化、家庭医療学の歴史 、家庭医療学の基本原理(総合医・専門医を巡る勘違い、受療行動、コミュニケーション技能/医師・患者関係、癒しのプロセス、患者中心の臨床技法、予防と健康増進、家族と病気)等を話した。

従来よりも授業中の学生さんの反応はおとなしい印象であった。対話形式の授業を歓迎する声も聴かれた。ただ記述によるフィードバックも少なく少し残念であった。

 終了後は総合診療部臨床実習の振り返りの会に参加させていただいた。

 夕刻場所を変えて、学生有志を募っての会では「地域基盤型実習」という講義を行った。