札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年10月12日火曜日

サンゲ・サブール

『悲しみを聴く石』(アティーク・ラヒーミー著、白水社、2009年)を読んでみた。

アフガン亡命作家によるフランス語で書かれた作品である。暗い部屋に意識のない男が寝かされていて、その周りで祈りの言葉を九十九回唱え続ける妻。その中に独白が混じり込む。

「サンゲ・サブール」とはペルシャ語で「忍耐の石」。その魔法の石に向かって他人に言えない不幸・悩みを打ち明けると、石はそれをじっと聴き、飲み込み、あるとき、粉々に土砕ける。その瞬間、語り手は苦しみから解放されるという神話があり、タイトルはそれからとられている。

 あまりにも辛い不幸は、誰かに語るしか癒されない。他人にも言えない。意識のない石なら言える。意識のない夫の身体になら語ることができる。

総合診療外来で、ときどき私を「忍耐の石(医師)」と見なして語りかけてくる患者さんがいる。私は石になりきれているだろうか。「忍耐の石」となって患者さんの話を聞き続けたら、患者さんは苦しみから解放されるのだろうか。自分が砕け散らないと駄目なのか。

語ることの大切さを思わずにはいられない作品である。(山本和利)