札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年11月30日火曜日

総合診療について

11月30日、江別市立病院の 濱口杉大先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「総合診療について」である。先生は蚊や虫が好き。熱帯医学が一番の興味とのこと。

まず、医学生のこれからについて語られた。卒業→医師国家試験合格→臨床医学(または基礎医学)→臨床初期研修(2年間)→(自由の身)→(大学医局→市中病院派遣→大学院・留学→大学勤務→教授)または(後期研修→病院スタッフ→市中病院部長・開業)

ここで「学会って何?」を語る。同じ専門科の医師たちが、いろいろやろうと集まって作った団体(日本内科学会、日本外科学会など)。ほとんどの医師は自分の専門科の学会に入る。それぞれの科の専門医制度を作って試験をする。運営資金は年会費と試験の受験料などであり、年に何回かは集まって症例発表会をする。

医師免許は国が出す。すべての診療行為ができる。終身資格である(生活に困らない)。
専門医は各学会が出す。更新が必要であるが簡単。
博士号(学位)は大学のポストに就くのに必要。純正博士と論文博士がある(差がない)。

ここから総合医療の話。そうは言っても、わかりにくい。
プライマリケア医とは、どの分野においても初期の対応をする分野(眼科のプライマリケア、整形外科のプライマリケアなど)。プライマリケア学会に属している。とどのつまり、開業医(以前は臓器別専門医)のことで、日本医師会員のほとんど。
家庭医療医(家庭医)とは、診療所などで様々な分野の外来診療を行う医師で専門は「あなたの専門」。Family medicine(家庭医療)は米国発祥。米国帰りの広い診断・治療学を中心にscienceを重んじるグループと、純正日本の僻地医療を通して独学し、患者中心の医療としてphilosophyを重んじるグループの2つに大きく分かれ、多くの医師はその2極間のどこかに位置する。現在、人気上昇中。
総合診療医とは、入院病床のある施設で、外来・入院・訪問診療などを行う医師で、多くは総合内科医。米国帰りの家庭医もこちらに属していることが多い。大学の総合診療科や一般病院の総合内科に勤務。臓器別にしにくい横断的な救急診療や感染症診療との結び付きが強い。入院診療をするため疲弊しやすく人気がない。発祥は天理よろづ相談所病院。その他沖縄中部病院や市立舞鶴市民病院、佐賀医科大学。総合診療科というのは、多くの場合総合内科である。2010年度に3学会が統合された。

総合内科とは、主に入院設備のある病院で、内科全科の診断、治療をおこなう科である。
診断学が得意(独特の診断法をもつ)で、病歴聴取、身体診察を大切にする。感染症が得意。医学教育が充実している。ICU管理が得意。内視鏡などの手技もおこなう。ベッド数100床規模の病院が一番の活躍の場である。
ここで症例を提示。 20歳男性 陸上自衛隊員(生来健康)。発熱、全身筋肉痛で入院して10日間経過。血液検査、レントゲン、CT、MRIなどで診断がつかない。抗菌薬などを様々使っても軽快せず、総合内科に紹介。患者さんは猿のように毛深かった。後期研修医は病気になる前に何をしていたのかは聞いて10分で診断がついた。(ダニを介するライム病、スピロヘータが身体に入るのに2日間かかる)

北海道では医師の絶対数は多いが地方の入院病床をもつ病院で働く医師の数が激減している。研修は大学病院よりも研修病院でおこなわれる傾向がある。北海道では医師の絶対数は多いが地方の入院病床をもつ病院で働く医師の数が激減している。

地域、特に僻地と江別市立病院の医師チーム(4名)の循環システムを提案したい。この循環システム構築に必要なものは、「総合内科医をめざす若手医師の確保」と「全国から若手医師が集まるような魅力のある教育研修病院作り」である。

総合内科研修システムの概念
研修とは与えられた機会(chance)であり、指導と評価によって支えられている。機会だけあっても駄目。指導と評価が重要である。外部講師の招聘。江別市立病院だけでは全道はカバーできないので、名寄、北見、砂川、富良野、帯広、釧路、函館などの約300床程度の総合病院に総合内科を設立し、そこに指導医を派遣し地方病院で勤務できる若手医師を育て、それぞれの病院から循環型システムを使って医師群を地方病院に短期派遣する。これができた暁には途上国にも循環型で医師を派遣!

学生へのメッセージ。「是非、好きなことをやってください!」“英語の勉強と貯金” 
この2つをやっておくと、いざやりたいことが決まった時にとても役に立ちます。

学生の感想を読むと、将来の進路について詳しくわかったこと、総合診療の中にもいろいろあると知ったこと、地域医療再生の方法を提示されたことなどを高く評価していることがわかった。(山本和利)

2010年11月29日月曜日

ミミズの話

『人類にとって重要な生きもの ミミズの話』(エィミー・スチュワート著、飛鳥新社、2010年)を読んでみた。

ミミズと言っても土の中にいる気持ち悪い虫としか認識していない者が多いのではなかろうか。ところが、本書を読んでみて、「地下で起きていることの大部分の鍵を握っているのはミミズである」ことがわかる。ダーウィンからミミズの研究『肥沃土の形成』が始まったという。土地はミミズによって繰り返し耕され、現在でも耕されているので、カルシウム不足対策に重要な役割を果たしている。地中深くまで通気性がよくなるし、植物の根が伸張しやすくあるし、養分も得られる。ミミズ1匹の腸管内には50種類もの細菌が住んでいる。

土壌生態系においてミミズは強大な影響力をふるう存在である。ミミズは死ぬと瞬く間に分解されてしまう。ミミズは皮膚で呼吸する。眠らないらしい。ちょん切られたミミズが再生するのは片側だけである。ミミズは頼もしい益虫にもなれば、恐ろしい害虫にもなる。ミミズは生態系のエンジニア。ミミズは危険をいちはやく告げる「炭鉱のカナリア」となって、土壌や地下水中に含まれる汚染物質がどの程度悪影響を及ぼしているかを明らかにしてくれる。処理施設から出るバイオソリッドをミミズに食べてもらえば、臭いが軽くなるうえ、土の粒も均質化し、栄養分の富んだ土になる。

この本を読んでから、ミミズを見つけたとき持ち帰って、そっと家の畑に入れてみた。(山本和利)

ランドラッシュ

『ランドラッシュ 激化する世界農地争奪戦』(NHK食糧危機取材班著、新潮社、2010年)を読んでみた。本書は、NHK食糧危機取材班がテレビ番組取材のために使ったものを本にしたものである。

長年放置されたウクライナ、ロシアの農地が韓国、日本、ニージーランド等に買い取られてゆく。日本商社が慎重を期して検討している間に世界最大の造船会社である韓国企業が1万ヘクタールの農地を「かっさらう」形で手に入れる。韓国の穀物自給率は27%。ソウル近郊の農地は工業地になってしまっている。農業人口は年々減り続け、高齢化が急速に進んでいる。まるで日本とそっくりである。

アフリカはランドラッシュの最前線だ。エチオピアの話。政府職員が来て農民に、水道・電気の整備や職場提供を条件に土地を手放すように促す。インド企業に渡った後、条件は反故にされる。外国企業が大規模に食糧生産をしているのに、エチオピアは慢性的な食糧不足に苦しんでいる。農民や国民が苦しんでいる一方で、ランドラッシュは受け入れ国政府にとっては外国からのありがたい投資にほかならない。

ランドラッシュを引き起こした病巣は、国際機関による「米国びいき」が原因であるという意見がある。途上国が「輸入依存体質」から脱却することは、米国・カナダ・オーストラリアが「余剰農産物のはけ口」を失うことであるからだ。「飢餓や栄養不良の原因は、『生産量の不足』ではなく『貧困と不平等』だ」「大規模な農業投資は、アンバランスな競争をもたらし、農村社会を崩壊させる恐れがある。」「ランドラッシュ」は新しい植民地主義だという意見もある。

ランドラッシュは地殻変動の表層に現れた現象ではないか。「米国びいき」が崩壊する前触れであると。

医療について考えてみよう。地域医療の崩壊は何かの前触れなのか?「何の崩壊」なのか?「専門診療偏重?」今を乗り切れば光が見える!総合医に、地域に、国民に。私はそう考えたい。(山本和利)

北海道家庭医療フォーラム2010

11月27日、道内の日本家庭医療学会認定後期研修プログラムの運営 組織・研修医間の交流、情報交換、お互いのレベルアップを図り、「北海道では家庭医療・地域医療が活発に行われている!」 「家庭医療を研修するなら北海道だ!」のイメージ作りを行い、北海道の医学生・初期研修医への家庭医への興味を引き起こすことを目的に「北海道家庭医療フォーラム2010」がかでる2.7で行われた。対象は、医学生および初期研修医。
広場1-6を準備。時間経過に沿って紹介する。

広場2は「頭痛の患者さんがやってきた」講師:木村眞司先生。
○×△で答えてもらう。まず人物の年齢を当てる。鳥の名前。42歳の女性。頭痛でときどき寝込んでしまう(片頭痛)。35歳男性。時々吐く(片頭痛)。じっとしている(片頭痛)。毎晩痛くてのたうちまわる若い男性(群発頭痛)。一番多い頭痛(緊張型頭痛)。締め付けられる感じで肩こり(緊張型頭痛に特異的ではない)。時々起る頭痛(緊張型頭痛)。片頭痛で両側が痛む(40%)。片頭痛の性情は拍動性である(×)。

広場3-1は家庭医療シュミレーション体験。「胸痛の患者さんがやってきた」講師:松浦武志先生。
60歳男性。胸痛。苦悶様。この病気は何か(急性心筋梗塞)。72歳の男性。前胸部が引き裂かれるような胸痛。苦悶様。(解離性大動脈瘤)。21歳男性の胸痛。突然、息をするとき痛む、息苦しい(自然気胸)。年齢・性別・主訴・背景からおおよその疾患のあたりをつける。30歳男性。自衛隊員。シクシク痛む。食欲がない。便が黒い(消化管潰瘍)。16歳女性の胸痛。いろいろ調べてわからない。朝起きると胸痛(身体表現性障害)。家庭医は診断のスペシャリストである。

広場3-2は「腹痛の患者さんがやってきた」講師:小島一先生。27歳女性の下腹部痛。頻尿、発熱。月経、妊娠について訊く(骨盤内感染症)。鑑別診断は、PID,憩室炎、卵巣捻転、子宮外妊娠、虫垂炎、等。PCR検査をする。妊娠反応陰性。PIDに特異的な所見は?(頸部を動かした時の痛み)「SEXしていない」というひとは妊娠しない(NO)。その他のSTIのスクリーニング、パートナーの治療と教育が大事。27歳の女性に必要な健康に関することは無限にある!疾患だけを診るのではない。

広場3-3は「在宅シュミレーション体験(在宅医療を体験してみよう)」講師:安藤高志先生。人口10万人の都市の診療所。「家の中で転んで歩けない」という電話。ここでの注意:診察鞄の道具確認、患者宅へ電話、免許証、携帯電話、財布。家の前で注意:立地条件、家の広さ、隣との距離、入り口(重要)、駐車場所。家の中で着目:玄関の段差、狭くて暗い廊下、電気コード。 部屋の中で着目:襖の段差、敷物の隙間、暗さ。自宅で点滴するとき必要なもの:ハンガー(紐、画鋲)。家の中に飾られている物に着目する。病院とは違った視点でヘルス・アセスメントをする。       

広場1はポスター発表。9のプログラムから発表があった。発表3分、質問2分。優秀なものを表彰。

広場4は公開講演「家庭医って何?(家庭医を知ってもらおう!)」 奈義ファミリークリニック所長 松下明先生の講演。 なぜ家庭医を目指したか?現在20年目。無医村で働くための専門科がない。そんなときRakelの「Family Medicine」という本に出会った。川崎医大総合診療部で5年。ミシガン州立関連病院で3年。行動科学という科目があった。人口6,500名の町。奈義ファミリークリニックへ。電子カルテで家族図が描ける。9名の家庭医。よく診る疾患の紹介。写真を使って後期研修医の活動の紹介。病院、自衛隊へ出張、往診。手技編。地域活動編。
家庭医を特徴つける3本柱
1)患者中心の医療
2)家族志向のケア
3)地域包括医療;予防医学、学校医、産業医、老人ホーム嘱託医。
行動変容の話。椅子の高さや視線、仕草で相手に波長を合わせる。驚いてほめる。プランは患者自身に立てさせる。重要度と自信度を訊く。怒りを表す患者に対して理解を示すことが重要。
家族志向のケア:家族の木をイメージ(家族図を描く)。家族ライフサイクル。それぞれの時期で発達課題がある。5段階ある。
生物・心理・社会モデル(G.Engel)の紹介。ターミナルケアの事例を紹介。
幕の内弁当仮説。家庭医療はバランスのよくとれた「おいしい」幕の内弁当に似ている・小さいがおいしいおかずは小児科・整形外科・皮膚科。患者中心の医療は医師患関係という白米に味をつけた混ぜご飯、癖になる味。家族と地域に目を向けた診療は弁当に「温かみとよい香り」を与える。

広場5はパネルディスカッション「テーマ;北海道での家庭医療の展開(どうすれば家庭医になれるの?)」 各プログラムの責任者への学生の質問。「多職種との連携」をどうしたらよいか?
急性期と慢性期で職種が異なるが連携は大切。連携パスを作成している。ボランティア実習に参加することを推薦。幅広く現場を見ること。多職種カンファランスに参加する。
「学生時代に打ち込んでいて、今役に立っていることは?」診療所の実習・見学。COML
との出会い。患者の生の声を聞いたこと。ケースから学ぶこと。日本PC連合学会に入ること。
学生が参加しやすい企画を増やしてほしい。

広場6は総括。 No1ポスター発表、家庭医問題の優秀解答者の発表(金メダル受賞は札幌医大3年内山博貴さん)最後は参加者全員で記念写真撮影。

場所を中華料理店に場所を移して懇親会。学生参加者全員から感想をもらった。大変好評で、来年度も充実した企画をしたい。(山本和利)

2010年11月26日金曜日

FLATランチョン勉強会

11月26日、特別推薦学生(FLAT)を対象にしたランチョンセミナー勉強会に参加した。16名が参加。医療面接その4として寺田豊助教が指導を行った。

まず復習から。患者役と医師役を割り振ってロールプレイ。咳、熱、全身倦怠感を訴える女性。滑る椅子と固定された椅子。どちらを選ぶか(医師役が滑る方がよい、危険のため)。1年生と3年生。医師主導型のシナリオを読みながら。Closed questionが多い。寺田豊助教はOpen ended questionをはじめに3回くらい繰り返すことを強調した。乾いた咳ってどんな咳?熱があるって何度をいう?2か月続く咳?Xpで陰がある。思い浮かぶ疾患は?「結核」「咳喘息」「マイコプラズマ肺炎」はあるかもしれないと考える。「アレルギー」。職業・家の様子を知りたい。答えは「過敏性肺臓炎」。病気の解説。有機粉塵によって起こるアレルギー疾患。日本では夏に出るタイプが多い。真菌が原因。

後半はサービス・ラーニング(教室における学習と地域における奉仕活動を組み合わせた学習法、体験教育)の話。
寺田豊助教の医学部時代の体験談。1年目:訪問看護、ヘルパー体験、おむつ体験。看護学科の学生と勉強会。KJ法。2年目:難病連、患者会(COML: Consumer Organization for Medicine & Low、がんの子供を守る会、市民と共に創るホスピスケアの会)に参加。ボランティア活動。ひまわり号(障害者がJRに乗って外に出る臨時列車)。3年目:緩和医療を考える会の設立。4年目:勉強会。鍼灸の勉強のために盲学校へ出向く。人との出会いがある。

最後に、中村哲氏の本「医者 井戸を掘る」を紹介。冬季早期臨床体験学習できる施設を紹介。その後、3年生からこれまで行った早期臨床体験の報告をしてもらった。(山本和利)

2010年11月21日日曜日

道立羽幌病院支援


11月17,18日、札幌医科大学の支援チームの一員として羽幌病院に赴いた。前日18:00札幌発特急バスはぼろ号で出発。途中トイレ休憩を入れて羽幌まで3時間。バス停前の旅館に宿泊。宿帳記載時に専門科を訊かれる。「総合診療科?」「そんな科があるのですか?」と昨日札幌医大の内科と耳鼻科を受診したという旅館の従業員と会話を交わす。住民は札幌を目指し、医師がその羽幌へ支援に来る。何かチグハグである。

17日、朝、旅館から病院まで20分ほどの道を歩いてみた。人影は疎らである。役場、警察、消防署、小学校、病院がこの道のりの中に収まっている。坂の上にレンガのきれいな病院が立っている。駐車場に車は疎らである。


私の担当は救急患者または新規の訴えを持つ内科予約外の患者である。予想に反して担当した患者は多くなかったが、カルテ記載の薬剤と実際に患者さんに手渡されている薬剤に違いある事例があり、リスク・マネジメントに関して提案をすることができた。運よく救急車には当たらなかった。今回、たまたま複数のところからの支援が重なり、私の負担は多くはなかったが、2011年1月からそれらの支援もなくなるということで病院にとって大変な日々はまだまだ続きそうである。

昼休みに町内の本屋に出かけてみたが、週刊誌が中心であり、新書や一般書籍はほとんどなかった。病院の職員の方々はアマゾンなどで注文しているようだ。2日目の昼食を日下勝博医師に案内されて海産物の土産物店で食べた。1300円の海産丼はウニ、イクラ、マグロ、鮭、ホタテ、等10種類以上が山盛りである。是非、羽幌に立ち寄ったときには食べてみてください。話のついでにフェリー乗り場、サンセットホテル、海鳥センターの前を通ってきた。札幌に居るときと異なり、ゆっくりとした時間の流れる時を過ごした2日間であった。
(山本和利)

11月の三水会

11月17日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は9名。大門伸吾医師が司会進行。日本PC連合学会誌の事務局が紙面作成のため参加。

振り返り3題。
初診から看とりまでした83歳の肺がん患者。左肺上葉に結節影。肺がんでClass V。呼吸器専門医受診を家族に伝えた。その後家族がでて来て告知をしない方針になり、対処療法で外来経過観察となった。内服加療を続けながら介護認定を申請。Ca 11.5mg/dl、発熱、SaO2低下、食欲低下、咳、呼吸苦が徐々に出現し入院となった。酸素2l/分。告知はいまさらできない。地元の訪問看護を紹介する予定であったが、突然血痰等の症状が出現し死亡。振り返り:家族の希望通り自宅でしばらく経過観察できた。苦痛が少ない。告知をすべきではなかったかと反省している。地域医療資源が乏しい。告知について;告知するメリットの方が大きい。告知後の精神反応がある。参加者からこれまで受け持った末期がん患者さんについての報告があった。

脳梗塞で嚥下機能が低下し肺炎を繰り返す86歳女性。娘が1時間かけて食事をさせている。発熱、低酸素血症、炎症反応あり。CTで両側下肺野に肺炎像。娘と栄養の方法を検討したところ、娘は経口摂取に拘った。再度、発熱、心不全症状出現。この経過を5回繰り返す。働いているため娘は自宅で看られない。施設では1時間かけた経口摂取は無理。施設に入るには胃瘻を作らざるを得ない。結局、入院3カ月後に胃瘻作成。リハビリ病棟に転棟。振り返り:肺炎のリスクを下げることができた。主治医自身が胃瘻をつくることについての考えが固まっていない。造設する医療者と長期管理する医療者で考えが異なるのではないか。アンケートによると胃ろう、人工呼吸器を望まない人は94%。事前指示が普及することを望む。胃瘻の適応を厳密にすべきである。「できるけれども、あえて行わない」という選択肢も念頭に置く。「胃瘻で生きているのを見るのは辛いが、何もしないで死なせることはできない」

アルコール依存症一歩手前の52歳男性。失業中。兄を頼って帰郷したら、兄はアルコール依存症であった。意識が低下し受診。るいそう、脱水、肝機能障害あり。1食100円で過ごし、家で焼酎1l/日摂取。検査の結果、アルコール性肝炎。CAGE質問票を実施。精神科医にコンサルト。行動変容を促すアプローチを目指した。社会復帰サポート・センターを居場所とし、ボランティアをしてもらう。所長がサポートしてくれ、生活保護を申請した。体重が増加し、意欲もでてきた。5A(Ask, Assess, Advice, Assist, Arrange)アプローチを行った。面接の「反映」技法を用いた。科学的事実を伝える。難しいことを言わず簡単にアドバイスした。

これらのディスカッションの様子は日本PC連合学会誌の総合カンファランスの欄に掲載される予定である。(山本和利)

2010年11月18日木曜日

ニポポ・スキルアップ・セミナー:感染症診療の基本原則

11月17日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は江別市立病院の総合内科の濱口杉大先生で、3回シリーズのオープニングをかざる講義およびワークショップでした。講義内容は、代表的な感染症の起因菌、抗生剤の説明などを、医学生1年目から後期研修医そして診療所で活躍される先生までと幅広い17名の参加者を対象として行われた。感染症について医学部1年目でも理解できるようわかりやすく講義した後、ランダムに設定された感染症の症例に対してグループディスカッションを行うというシャッフル型という条件設定されたカードをランダムに配布し組み合わせて症例を作るという新しい形のワークショップで行われた。
3グループに分かれ、(1)「60歳女性」+「ステロイド内服中」+「下腿の発赤、腫脹、疼痛」がみられたという症例、(2)「60歳女性」+「インド帰り」+「咳、膿生痰、側胸痛」がみられたとういう症例、(3)「20歳女性」+「化学療法中」+「腹痛、下痢」になったという架空の症例を通した活発なディスカッションで感染症の理解を深めた。
講義終了後も質問が相次ぎ、今後の宣伝もあり次回のセミナーもさらに盛況なものとなる予感のうち終了した。
次回は1月19日18:30から勤医協中央病院の石田浩之先生による「違いが分かる、大人になるために…と言っても感染症に関して」。場所は札幌医大講堂共用実習室で多くの方の参加をお待ちしています。(寺田豊)

2010年11月16日火曜日

FLATインタビュ

11月15日、北海道新聞の記者からの申し出があった特別推薦学生(FLAT)を対象にしたインタビュに、オブザーバー参加した。学生7名、北海道新聞記者6名が参加。各自自己紹介後、道新の仕事の紹介。

「羅臼の例に見る地域医療の困難」という新聞記事をまとめたものを提示。「2008年、羅臼診療所が一人から二名になった。1年で1億7000万円の赤字。6.6億円の不良債務。自己都合で1名退職。2か月内科医が勤務。その後、内科医が赴任したが18日間で退職。根室地区は10万人当たり医師91名。その後、2010年3月、6000人の町で無医村となる(働けば働くほど患者が集まり、疲れてしまった。行政とのコミュニケーション不足。宿舎の水道管破裂を2カ月放置)。非常勤医師による週3日の体制。地域医療を守る条例を作った。道内の一人勤務医療機関は7か所。」これを前振りとして、意見交換開始。

リーダーの高石さんがFLATの活動を紹介。ランチョンセミナー、留寿都・幌加内のサマーキャンプを紹介。フォトボイスによる地域診断。地域に積極的に赴いている。

「利尻の実習で印象に残っていること」な何かという質問が記者からあった。社会的な入所が多かった。住民の地域への愛着が強いことがわかった。医師が昆布取りを手伝っていること。医師が住民の生活を見ている。医療スタッフ不足を実感。地域に魅力がないと医師は行かない。地元も盛り上げてほしい。時間をかけて島の街並みに触れることができてよかった。「地域で医師としての自分の役割を見つける」という医師の言葉。

その他地域医療に関する話題。自主的にいろいろな地域に実習に行った。地域に行くことが大事。地域医療合同セミナーでチーム医療が体験できる(保健福祉の視点から俯瞰できる)。地域で保健師と一緒に保健福祉をしたい。家庭医・総合医を目指したい。道東のへき地で活躍した道下先生を目指したい。住民の生まれたときから死ぬまでを見たい。日常疾患を地域で診れるようになりたい。入学してから地域医療に触れる機会が多く、地域医療・公衆衛生活動に魅力を感じた。一人ひとりの顔と名前を覚えて活動できる。人との出会いを大切にしたい。地域医療をやりたい気持ちが強まっている。人のために役に立ちたい。

「地域で生活するのにどういうものが必要か?」について2班に分かれてディスカッションが行われた。
学生の意見。行政が暖かいと医師が働きやすい。保健師との連携が重要。食べ物も重要。医師も普通の人間であるという住民の理解が必要。対話が必要。地元の暖かい歓迎が必要。医学の進歩についてゆくネット環境が必要。

学生一人一人が地域医療について真剣に考えて日々を過ごしていることを再認識する貴重な機会となった。彼らの情熱をスポイルしないようなシステム作りを推進したい。(山本和利)

2010年11月15日月曜日

蟻族

日本と中国の間で尖閣列島の問題などを切っ掛けに再び不穏な空気が漂っている。そんな中、中国の高学歴フリーター集団を扱った『蟻族 高学歴ワーキングプアたちの群れ』(廉 思著、勉誠出版、2010年)を読んでみた。

前半は学術論文形式で、後半が蟻族と称される若者の書いた生きざまが記されている。本書は中国国内では十回近く版を重ね、「蟻族」の名が響き渡る切っ掛けとなったという。高学歴ワーキングプアたちの群れを「蟻」に見立てて論文を書いているところが興味深い。研究の立ち上げからの経緯が記されており、社会学の論文が出来上がってゆく様を俯瞰できる。

「蟻族」の特徴は3つ、大学を出ている、所得が低い、一か所に集まって暮らしている、である。著者らがその所在地によって「京蟻(ジンイー)」(北京の場合)などと略称で呼んでいるのも面白い。発生原因をマクロとミクロの視点から、心理状態、性・恋愛・結婚、所得状況、職業、教育状況、インターネット、集団行動の傾向、等について分析している。

後半の「蟻族」の一人ひとりのレポートを読むと、仕事がなく悶々とする日々の鬱屈がヒシヒシと伝わってくる。日本の就職で苦しむ若者たちも同じような状況なのであろう。

翻って、場所とポジションさえ気にしなければ生きていける医師の気楽さに申し訳なさも感じた。学術論文とドキュメンタリーの両方が一冊で楽しめる良書である。(山本和利)

日本糖尿病学会北海道地方会

11月14日、第44回日本糖尿病学会北海道地方会に参加した。
午前は、インスリン・薬物療法を中心とした一般演題を中心に拝聴した。観察開始時のHbA1c>9%でもインスリン導入率は4割程度。Pioglitazone(アクトス)は単独でもインスリン併用でも体重を増加させる。皮下脂肪が増加する。強化インスリン療法を離脱できた群は、肥満群でCPR分泌がよく、離脱しやすい。メトフォルミンを高容量1500mg/日でHbA1cが1.8%まで低下する。

午後は、DPP4製剤を中心に拝聴。

ランチョンセミナーは京都府立医科大学福井道明先生の「将来を見据えたインスリン治療戦略」を拝聴した。
11月14日は世界糖尿病dayで、各地でブルーにライトアップが行われていることを紹介。

インクレチン・ブームである。しかしインスリンをうまく使うことが大切。内服薬単剤では6割がHbA1c>7%。医師が糖尿病ならHbA1c>7.7%で導入したいと思っているが, 患者さんに実際に導入しているれべるは9.2%となっている。HbA1cの値に対して、軽症では食後高血糖が寄与、コントロール不良では空腹時血糖が寄与している。

単純で確実なインスリン戦略が重要である。まず、空腹時血糖を下げる。内服薬に少量持効型インスリンを加える(BOT)。注射を毛嫌いする患者さんも、体験すると変容する。アピドラは亜鉛無添加で即効性。胃切除患者に推薦できる。

まずライフスタイル+メトフォルミンで、さらに基礎インスリン、さらに基礎インスリンPLUS、さらに強化インスリン療法。日本では混合製剤が多いが、これは推薦されない。混合型2回から持効型1回へ。混合型は低血糖が多い。体重も増えない。

大変参考になったが、選択した論文が後援する製薬会社の製品を絶賛する内容ばかりであり、インスリン製剤一般についてもう少し別の視点の論文を加えて公正な発表にして欲しかった。その方が説得力が増すと思うのだが・・・。(山本和利)

北海道内科地方会

11月13日、第257回北海道内科地方会に参加した。
一般演題は呼吸器、腎臓、血液の発表を拝聴した。原因不明胸水に対して胸腔鏡で診断がついたマントル細胞リンパ腫、黄色爪症候群に併発した悪性胸膜中皮腫例、肺に限局した結節性肺アミロイドーシス、粟粒結核中に発見された結核性腹部大動脈瘤、結核性腸腰筋膿瘍、低K血症が著明なシュグレン症候群に合併した尿細管アシドーシス、扁桃腺炎後急性腎不全(IgA腎症の増悪、脱水を背景としたNSAIIDsによる腎虚血)、上気道感染後亜急性甲状腺炎と微小変化ネフローゼ症候群の同時発症例、小腸大量出血を来たした膜性腎症合併ANCA関連血管炎、バクタ・アレルギー(?)ネフローゼ症候群(バクタの予防投与の良し悪しが問題となった)、反復性皮下血腫と血気胸を持つEhlers-Danlos syndrome、等。
各発表に対して診断・病因について活発な意見交換があった。内科医の診断・病因に対する良い意味での拘りを感じた。

専門医部会教育セミナーの司会を山本和利が担当した。今回のテーマは「血球減少を呈する疾患への対応」で、札幌共立病院の古川勝久先生が提示をしてくれた。

第一例は「脳外科から紹介された貧血症例」で、低球性貧血であった。鼻出血、脳AVM、胃の毛細血管拡張が見つかり、オスラー病と診断された。病歴・身体診察の全体から疾患を考える必要を思い知らせてくれる提示であった。

第二例は「高血圧治療中に見られた血小板減少」で、大球性貧血もあった。胃癌による胃全的術を受けているため、ビタミンB12欠乏によるものと診断しその補充で貧血は改善した。血小板減少はさらに悪化し、最終的に降圧に用いていたカルシウム拮抗剤の中止で急速に改善した。いつも薬剤が原因でないかと念頭に置くことの重要さを再認識させられた。

最後に札幌医大第4内科の小船雅義准教授より「血球減少へのアプローチ」の講義を頂いた。
高齢者の貧血;Hbが低い方に分布している。貧血があると死亡率が高まる。定義はHb <11g/dl。悪性腫瘍、感染症を持っている人が多い。小球性貧血の大部分は鉄欠乏性貧血である。十二指腸が切除されていると鉄の吸収がなされず鉄欠乏性貧血(フェリチンが12以下)を引き起こす。静脈注射の鉄はブドウ糖に溶かすのがよい。少なめの鉄剤投与がよい。慢性感染症に伴う貧血(鉄剤を投与しても造血しない)を鑑別することが重要(輸血が唯一の治療)。
血栓、感染症が背景にある巨大血腫に対してワーファリン内服している40歳代女性を提示。
大球性貧血を示す高齢者で、悪性貧血(亜急性脊髄連合失調症)が増加している印象がある。貧血と黄疸がある場合、溶血性貧血(網状RBC増加)を疑う。

感冒で薬剤内服後の血小板減少。皮下出血で血小板が5.2万。薬剤中止で徐々に改善。薬剤性の可能性が高い。血小板減少を起こす可能性のある薬剤は3,000種類以上ある。
ITPにHP除菌で血小板上昇した事例を提示。(その他の治療法:ステロイド、脾摘出、免疫抑制剤)。肝臓疾患を除外する必要がある。
血小板減少の20歳代女性。その後汎血球減少となる。最終的に白血病を発症した。
MDSと診断できない血球減少症(特発性血球減少症)という診断概念が出てきた。

血球減少に対して、最新の情報を織り交ぜながら、事例を提示してくれた講義であり、プライマリケア医の私にとって大変有益が内容であった。(山本和利)

2010年11月12日金曜日

地域での日常疾患

11月12日、松前町立松前病院の木村眞司院長の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域での日常疾患」である。

まずは「松前町、松前漬けを知っているか?」という問いかけから。軽く自己紹介。北海道生まれ、北海道育ち。将来なりたかった職業;英語教師、坊さん、農業従事者。「ネパールの青い空」を読んで地域医療に貢献しようと思った。空手道部、スキー部。自宅通学。学生時代に米国の医学生と出会った。そこでFamily Medicineを紹介された。恩師塚田英之先生の言葉、「君、若くありなさい。若い時は何でもしなさい(オリジナルはドイツ語)」を紹介。母校に残ろうとした物理学者ファインマンが恩師に言われた言葉、「よそがどんなかを見てきなさい(オリジナルは英語)」。様々な研修をして2005年から松前町立松前病院で家庭医・何でも科医で働いている。ここで松前町の紹介に移る。北海道最南端。函館まで95km。桜、鳥。野鳥観察小屋。医師の紹介。江良診療所。医師の一日を、写真を使って紹介。「松前塾」。「プライマリ・ケア・レクチャー・シリーズ」。

松前町でのよくある病気・症状
それぞれの領域で1番頻度が多いのは、消化器系:便秘、循環器系:高血圧、呼吸器系:気管支喘息、血液:鉄欠乏性貧血、代謝・内分泌:糖尿病、腎・尿路系:腎機能障害、神経系:パーキンソン病、精神系:不安障害、社会問題:独居、感覚系:糖尿病性神経障害、難聴、筋骨格系:関節炎、RA、皮膚:皮膚乾症、その他;肥満。
夜間救急では発熱が断トツに多い。
入院患者;認知症、高血圧、糖尿病、肺炎、脱水、心不全、気管支喘息、うつ病、等が多かった。

後半は松前町立松前病院の実習方針・風景の紹介。実習者はすべてのカンファランスに参加。必ず観光案内をする。希望者には農作業。皆で歓迎する。(新企画)一緒に走る、山登り、魚釣り。

最後に学生さんに考えてもらいたいことを述べられた。様々な地域や医療機関を見て見聞を広める。自分が本当にやりたいことを見つける。一人ひとりの行動が医療を変えるかもしれない。学生さんの中から将来北海道の地域医療を担う人がたくさんでることを願っている、という言葉で授業を終えられた。

学生の感想として、楽しそうな松前病院の実習に参加したいというものと、札幌を飛び出して視野を広げたいというものが多かった。実行力のある指導医の言葉の威力が絶大であることを再認識した。(山本和利)

FLATランチョン勉強会

11月12日、特別推薦学生(FLAT)を対象にランチョンセミナー勉強会に参加した。18名が参加。身体診察その5として木村眞司先生が神経診察の指導を行った。

まず河本助教を患者役に実際の診察を披露した。頭痛を主訴に受診の30歳代男性。転げまわる痛み、目が痛む。嘔吐はない。脳外科のMRIで異常なし。群発頭痛。ペンライト、眼底鏡、ハンマーを使用。

まず5分間の簡易診察法を披露した。ペンライトで目に光を当てる。眼底鏡で両眼底を診る。指を追視して視野の検査。額、口唇の筋力を検査。顔面、両手、両足の知覚検査。バレー徴候検査、握力、上肢・下肢の筋力検査。ハンマーを用いて上肢・下肢の反射検査。指―鼻試験。手でギンギンギラギラ。閉眼で直立。歩行検査。踵歩き、つま先歩き。タンデム歩行。片足立ち。両手を前に出して蹲踞。

一通り終わったところで学生から質問を受ける。指鼻試験は小脳機能を診ている。協調運動の検査。肩が伸びるくらいの距離で行うのがコツ。距離をうまく測れない例をコミカルに演じて学生からの笑いを誘う。バレー兆候(立位、閉眼)。異常例では手が回内して下がってくる。軽度の麻痺があるどうかを検査する(錐体路兆候)。ここで脳梗塞、脳出血の説明。TIAなど軽微な麻痺の時、下から勢いよく持ち上げると、行き過ぎて戻る場合がある。脳梗塞になると相対的に回内する筋肉が強くなる。徒手筋力テストのコツは、鼓舞する、途中で筋力を変える、筋力が出にくい患者の不利なポジションで始める、左右を比べる。正常な人を沢山診ることが向上のコツである。ギンギンギラギラは片手ずつ行う(回内・回外を繰り返す)。大きく速く。ここでパーキンソン病の説明。患者の模倣。筋強剛。蹲踞は体幹の筋力を診ている。手を前に出させるのは手を使わせないためである。

今回は参加者数が最大であった。11月27日の家庭医療フォーラムのビラを配布して終了となった。

松前町立松前病院で実習したい場合は、hospital@e-matsumae.comの岩城主査に連絡を。(山本和利)

2010年11月10日水曜日

第1回日本PC連合学会 秋季生涯教育セミナーに参加して

2010年11月6、7日の両日、「第1回日本プライマリ・ケア連合学会 秋季生涯教育セミナー」が大阪科学技術センターで開催されました。初日の6日には、福井県立病院ERの林寛之先生と国立病院機構京都医療センターの坂根直樹先生の2講演、7日にはワークショップ全26企画の中から2企画を受講してきました。以下、ワークショップの概要と感想を交えて報告します。

●1日目(11月6日)
講演Ⅰ 15:00~16:30
そんなはずじゃ、なかった…救急地雷回避Tips!
福井県立病院ER 林寛之先生
歩いてくる患者の0.2~0.7%は、とんでもない重症患者が紛れている。胸やけ・胃が痛いは要注意。下壁の心筋梗塞では迷走神経刺激で嘔吐、除脈、心窩部痛を認めることも。Dr.林の30㎝の法則:心臓を中心に30㎝範囲内で痛みがあれば疑う。胸痛のPitfalls:圧迫感LR1.7、冷や汗LR4.6、さらに両肩への放散痛LR7.1を示す。AMIのPitfalls最初の心電図の感度は13~69%しかない。重症だったら、救急車で救命センターに行ってくれればいいのに、予告も無く目の前でバッタリ出会うことも。そんなパニック救急にも負けずに、薬局でのトラブル、一般外来での地雷救急を事前に察知するトリアージ能力、および地雷が爆発した時の救急対応、薬剤使用のPitfallsについて講演頂きました。
僕も大学の教員として学生や研修医の方に話をする機会が少しずつ増えてきましたが林先生の講演内容も講演の進め方や声の大きさ、トーンとても勉強になりました。

講演Ⅱ 16:40~18:10
楽しくてためになる糖尿病教育
国立病院機構 京都医療センター坂根直樹先生
糖尿病は患者教育の病気ともいわれている。しかし、例えば体重を減らしましょう、食事に気をつけましょう、腹八分目にしましょうなど医学的おどしを使って行動変容をせまっても、「時間がない」「食事制限をするとストレスがたまる」と言い訳されることもよくある。これを心理学では「抵抗」を呼ぶ。患者が抵抗を示した時は、指導法を変えるサイン。患者の性格タイプや価値観に合わせた指導が効果を上げる。楽しく患者をやる気にさせる糖尿病教育について、HbA1cを体温に例えたり、糖尿病を駅に例えて自分が今どこにいるのか自覚を促す方法、行動変容のステージと技法について御講演いただきました。
坂根先生がおっしゃっていた「HbA1c外来」にならないように気を付けて明日からの診療に役立てようと思います。

●2日目(11月7日)
ワークショップ①9:00~10:30
只今 予約受付中『外来を愉しむ 攻める問診』
藤田保健衛生大学 山中克郎先生
診断の80%は問診による、10%は身体診察、10%が検査と。攻める問診、問診の技術をみがくことは重要である。最初の3分間で患者さんの心をグッとつかむ、鑑別診断が少ないキーワード中のキーワードを見つける、そしてパッケージで繰り出す質問で鑑別診断をぐっと絞り込む。40代 男性 ミャンマーから帰国。発熱+皮診で受診。しばらくして肺の陰影→Asian Big Fiveマラリア、デング、チフス、レプトスピラ、リケッチアの5つを考える。皮膚症状+肺→膠原病、サルコイドーシス、マイコプラズマ、緑膿菌、リッケチア。…するとリッケチアが浮かび上がる。特に専門外で診断を行う時にキーワードからの展開が有効と。どうしても検査に偏重しがちな自らの診療を反省して、明日からの診療に攻める問診で臨めるよう頑張りたい。

ワークショップ②11:00~12:30
ワークショップ③13:30~15:00
一度見れば忘れないSpPinな身体所見
大船中央病院 内科 須藤博先生
※SpPinとは「特異度(Specificity)の高い所見が陽性(positive)のとき、その疾患の診断(Rule in)に役立つ」という意味の略語。
「お宝はすぐ目の前にある」多忙な日常診療でも、少し注意を払うだけで見えるものが沢山ある。あらかじめ知ること、その上で観察力を磨く。ほんの少しの努力で分かることが沢山ある。須藤先生がこれまで集めてきた症例の画像・動画たくさん見せて頂きました。例えば「爪」について。爪は10日で約1㎜伸びる。テリーネイル、リンゼイネイル、ミルケライン…爪の所見にこんなに多くの名前が付いていること、全身疾患が爪に形、色として影響を与えていることを初めて知りました。身体診察の奥深さ、面白さを感じることのできた講演でした。2日間を通じて、何より自分には「勉強」が必要だと強く感じました。まずマクギーの身体診断学を読みます。(河本一彦)

2010年11月9日火曜日

地域医療の課題と展望

11月9日、西吾妻(あがつま)福祉病院 & 六合(くに)温泉医療センター 折茂賢一郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「「地域医療の課題と展望」である。

これまでの活動を披露された。自治医大卒。六合へき地診療所長。現在、2施設の管理者。白衣を着ない仕事が沢山あった。へき地包括医療に触れた3年間。顔が見える活動を続けた。半無医村の認識(必要なときに医師がいない、看とり)。その反省を踏まえて福祉リゾート構想へ発展させた。六合温泉医療センターを建設。コメディカルが地域へ出向く医療を目指した。そして最前線医療から「支える医療」へ。草津温泉、白根山の近くで対象人口26,000人。高齢化率>30%の地区で外科系・周産期の救急確保。地域の拠点病院を建設。ヘリポート増設。24時間保育。屋根瓦式研修を導入している。
豊富な写真を提示しながら講義は進んだ。

「山と離島のへき地医療って違うか」と学生に質問。
山村、半島、広大な地域、大きな島と周辺の離島、本土から距離のある離島、高齢化住宅タウン、山谷地区、等、地域によって様々である。台風のときの対応が難しい。ヘリコプター搬送(有視界飛行である:夜間飛ばない)。
     
最後に「医療モデル」と「生活モデル」の違いを強調された。
 
医療モデルは、目的を疾病の治癒、救命におき、目標を健康に、ターゲットは疾患(生理的正常状態の維持)であり、病院(施設)で行われる。チームは 医療従事者で構成され命令・指示がなされるオーダー型である。対象のとらえ方は、医学モデル (病因-病理-発現)で 急性期(短期間・cure期)が適応となる。
Evidence-Based Medicineの手法が用いられる。

一方、生活(QOL)モデルの目的は、生活の質(QOL)の向上であり、目標は自立(自己決定に基づき、自己資源を強化し、社会的生活を送る)を目指す。ターゲットは障害(日常生活上の支障・困りごと)(日常生活動作能力[ADL]の維持)であり、社会(地域・家庭・生活施設)で行われる。チームは異職種(保健、医療、福祉、介護等)で構成され、協力・協働するカンファレンス型である。対象のとらえ方は、 障害モデル(ICF・国際生活機能分類)で、急性期を過ぎたcare期に適用される。ケアマネジメントの手法が用いられる。
    
授業では時間がなく言及できなかったが、配布資料から重要な部分を提示する。
   現状は「地域医療不全」と認識すべきである。
     治療の前に病態を明らかにすること。
     その為には詳細な病状の把握。
       都市への医師偏在
       国公立病院の経営不振と人材確保困難
       各科専門医崇拝主義
       勤務医からの脱落(9時―17時勤務)
       医療訴訟問題
       女性医師の増加
       国民の意識の変容(専門医療志向)
       関係省庁の縦割り行政の影響     等など
     大ナタをふるう勇気こそが、唯一の治療方法?…社会保障制度のパラダイムの再構築…

一診療所から出発して、地域に出向く病院と急性期対応病院を建設した行動力に多くの学生が感銘を受けていた。後半の時間が足らず、現在の医療状況の分析にまで話が及ばなかった点勿体なかった。(山本和利)

2010年11月8日月曜日

群れのルール

『群れのルール 群衆の叡智を賢く活用する方法』(ピーター・ミラー著、東洋経済新報社、2010年)を読んでみた。

動物・昆虫の集団行動に学ぶ本である。

アリから学ぶこと:アリのコロニーの観察から、アリ同士が出会ったときにどう相互作用するかを定めた単純なルールに従うことによって、指導者がいなくても困難な仕事をやり遂げる。「アリは賢くない。だがコロニーは賢いのだ。」「自己組織化」がなさられるからだという。それに必要なことは次の3つである。「分権的な統制」「分散型の問題解決」「多数の相互作用」。「我々の一人ひとりが目の前の情報に反応し、特定のルールに従って行動すれば、集団全体に秩序が生まれる」「アリのコロニーも同じさ。個別のアリに一切自覚がなくても、集団の行動が変わるのだ」
「アリのコロニー・アプローチ」を用いて「巡回セ-ルスマンの問題」を解く話は面白い。

ミツバチの行動から学ぶこと:群れに多くの選択肢があること。それぞれの偵察蜂が自分の目で候補地を調べること。知識の多様性を確保すること。友好的なアイデア競争を促すこと。選択肢を狭めるための有効なメカニズムを用いること。こうすることでミツバチは短時間のうちに優れた意思決定を下している。

シロアリ(共同プロジェクトにおけるささやかな関わりが最終的に大きな成果になる)、ムクドリ(身近な仲間の行動に目を光らせることで集団が驚くほど正確な協調行動がとれる)の例も参考になる。暴走した群れの悲劇として書かれたバッタの事例はこれまた教訓的である。

このような動物・昆虫の行動を真似て人間が行って成功した事例も大変参考になる(サウスウエスト航空の自由座席制、アメリカン・エアリキッド社(ガス販売)、「ビール・ゲーム」、「ウィキペディア」)

翻って地域医療の現状を踏まえると、アリの逆で「医師は賢い。だがその集団は愚かだ」となろう。医師集団が前提とするルールのどこかが間違っているからだろう。そのひとつに「医師全員が初期から一定期間充実した医療施設で優秀な医療技術者を目指す」があるのではないだろうか。「能力を問わず(若い時期)一定期間地域に赴く」、「不確実に起因する医療過誤の責任を問わない」等をルールに加えてはどうだろうか。個人としてはともかく、専門家集団として賢くなりたいものである!(山本和利)

書物合戦

『書物合戦』(樋口覚著、集英社、2005年)をたまたま図書館で見つけたので読んでみた。

18世紀に『ガリヴァー旅行記』を書いたジョナサン・スウィストが古今東西の名作を登場させて論争させた『書物合戦』という本があるそうだ。ロンドン留学中の夏目漱石や正岡子規のことに触れながら、その反骨精神を紹介している。『ガリヴァー旅行記』が当時の世間を風刺したものであるとは知っていたが、『書物合戦』はその上をゆくようだ。

続いて扱っているのは「電波戦争」である。『1984年』、『カタロニア賛歌』を書いたジョージ・オーウェルが第二次大戦中、BBCを通じてスウィストに会見を申し込んで成功したインタービュ記事を紹介している(200年の時間差があるので当然フィクションであるが)。その中でスウィストの言葉を借りて世間を批判した。オーウェルはこれをラジオでも放送した。ラジオを利用したのはオーウェルであり、ヒットラー(ラジオを通じた演説)であったという。テレビはラジオにすべてにおいて優っている訳ではない。ラジオには俗的な正体を曝露することなく演説を通じて幻想を醸し出すことができるからである。オーウェルはドイツのベルリンから流す放送に、ラジオBBCで戦況ニュース解説を流して対抗した。

別の章ではオーウェルの変遷が綴られている。オーウェルと似たような人生を送った人物として著者は、沖縄の警察官をやめて写真家に転身した比嘉康雄を挙げている。ページをめくってゆくと話はホイットマンとヘンリー・ミラーを登場させ、『インドへの道』を書いたE・M・フォースターについて論じている。

オーウェルの時代はラジオの時代であった。時が流れ、「鉄道」から「ラジオ」、「テレビ」、「インターネット」と情報を取得する手段は移り変わってゆく。表層的で断片的な情報はインターネットで簡単に取得できるかもしれないが、じっくりと深読みを味わうには書物がよいと再認識した次第である。「やはり書物は面白い。」(山本和利)

地域包括医療の制度と理論

11月5日、松前町立松前病院の八木田一雄先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域包括医療の制度と理論」である。

まず自己紹介。1995年自治医大卒業。青森県で地域医療を実践。次に松前町立松前病院の紹介。人口は9272人。漁業、水産養殖業が主。病院1、診療所4、歯科3.高齢者35%。病院の周りには桜がいっぱい。100病床で常勤医8名。診療所の支援もする。3町における唯一の病院で対象人口は16000人。内科系医師は全科診療医と称している。勉強会が多い(松前塾、テレビ会議システム)。松前地域医療教育センターとして研修医を受け入れている。

本論
80歳の女性。息子夫婦と3人暮らし。脳出血、保存的治療。右片麻痺。肺炎を繰り返すので胃瘻造設。自宅療養を希望、というシナリオを提示。昔は、訪問診察、訪問看護、介護のサポートは保健師、介護は家族。今は問題リストを挙げる。これを基にサービス担当者会議。話し合いで決めた導入サービスを決める。退院。在宅療養となる。

超高齢化社会
高齢化とは:65歳以上の高齢者人口の総人口に占める率。2901万人。日本は22.7%。医療費は9.1%。北海道:一人当たり103.7万円。高齢者は循環器系、癌、筋骨格系が多い。一人暮らし高齢者が増えており、認知症を有する高齢者が増加している(250万人)。特別養護老人ホームの入所申し込み者の状況:42万人が待機している。

介護保険制度:8段階に区分される。市町村に申請。訪問調査+主治医意見書。認定審査会で要介護認定をする。
昔;市町村が決める。所得による違い。長期入院。医療費の増加。介護に向かない。という問題があった。
現在:自立支援。利用者本位。社会保険方式。1割の利用負担。2種類。特定疾患16種類。7.4兆円。居宅サービス、地域密着型サービス、等が受けられる。
介護支援専門員(ケアマネジャー)の業務;毎月のケアプランを作る。一人39人まで担当できる。家族の負担。緊急時の対応。

在宅療養を可能にする条件:入浴や食事の介護、訪問診療、等。
サービス受給者数の推移:脳卒中、認知症が多い。主介護者は配偶者。子、子の配偶者。

地域包括ケアの5つの視点による取り組み
1.医療との連携強化
2.介護サービスの充実強化
3.予防の推進
4.多様な生活支援サービス確保や権利擁護
5.バリアフリーの高齢者住居の確保

尾道市御調(みつぎ)町の取り組みを紹介した。

地域包括ケアシステムの持つ8つの機能
1.ニーズの早期発見
2.ニーズへの早期対応
3.ネットワーク
4.困難ケースへの対応
5.社会資源の活用・改善・開発
6.福祉・教育
7.活動評価
8.専門力育成・向上
その成果:寝たきり老人が減少する。高齢者本人も家族も安心して在宅ケアを選択することができる。老人医療費の抑制に繋がる。

松前町の取り組み
地域ケア会議を月1回。サービス担当者会議。ケアマネジャー連絡会。グループホーム運営会議。在宅医療;42名。脳卒中後遺症、認知症、骨折術後が多い。臨時往診はできていない。在宅での看とりの体制が整っていない。

実践だけでなく理論や制度について詳細に述べられたので、その点を学生は高く評価していた。(山本和利)

2010年11月4日木曜日

人生という作品

『人生という作品』(三浦雅士著、NTT出版、2010年)を読んでみた。

一人の人間の生き様をまとめあげた論文集である。はじめに文字学者・白川静を取り上げている。彼はこれまでの文字の成り立ちに対する考え方を根本的に変えた人である。「口」はもと耳口の口ではなく、祝告の器の形にほかならないというのである。「道」「眞」の解釈にしても、古代人の生活様式をもとに呪禁で解釈している。これによって文字を一貫した考えで解釈ができるようになった。優れた学説はすべてその起源に詩的直観を持つ(三浦雅士)。しかしながら、学会の重鎮の反撃が凄まじい。白川静の学説は孤立し、拡散しないで排他的に凝縮する(三浦雅士)。凡庸の専門家集団は簡単には受け入れてはくれない。医療以外の分野でも同じことなのだ。本書を通して白川静の学者としての矜持をみた。

(なぜ、呪禁で成り立っていた文字の原義が忘却されたのかについての考察も面白い。)

章が変わると、「歴史」ではマルクス、レヴィ=ストロースが取り上げられている。「小説」では安部公房、太宰治が俎上に上がっている。三浦の得意分野であるバレエの話にはついてゆけず読み飛ばした。

著者はこれだけの内容を書くためにものすごい下調べをしたことが推察される。膨大な基礎知識と取材力に圧倒された。学問で生きるためには生半可では駄目であることを思い知らせてくれる書物でもある。
(山本和利)

在宅医療

11月2日、寺田豊助教が「在宅医療」の講義をした。

写真を見せながら在宅診療を語る。まず、在宅医療とは何かを説明。在宅医療の歴史として、ゆきぐに大和病院を設立した黒岩卓夫氏を、病院がひらく都市の在宅ケアを始めた増子忠道氏を紹介した。

医療資源について。日本は病院で患者さんを診る文化を作ってしまった。患者の受診回数、医師一人当たりの診察回数、急性期病床の平均在院日数は世界一である。

在宅医療は。医療資源に対して新たな視点を生み出す。早川一光氏を紹介。「自分の体は自分でまもる」1980年、「わらじ医者京日記」で第34回毎日出版文化賞を受賞。

家族と地域支援。かかりつけ医を地域医療の中心に据える。在宅医療と総合医。社会的入院から地域での在宅医療の強化、在宅で看とりができる制度の展開。在宅療養を可能にする条件がある(家族の協力、入浴・食事介護、自宅の改築、緊急時連絡体制、通院手段の確保、定期的訪問、療養指導、等)。

病診連携。循環、連携できる医療システムのカギとなるのが在宅医療。Uターン(紹介元へ)、Iターン(病院の患者を適切な診療所に)、Jターン(紹介元とは別の診療所に)。オープンベッドシステムを広げる。

ある医療改革者の遺言。今井澄氏の「聴診器を温めて」を紹介。諏訪中央病院での活動を紹介。鎌田實氏にバトンタッチ。その中の言葉に「患者の胸に冷たい聴診器を当ててはならない。」がある。寺田氏は私たちがこの志を引き継いでゆくのだと力強く宣言した。

最後に家庭医のバイブル「A textbook of Family Medicine」(Ian R. McWhinney)を紹介し、学生に自分なりの在宅医療の定義を書いてもらった。

その一部を紹介する。「つなぐ医療」「置いてきぼりにしない医療」「家庭・家族の幸せをつくるもの」「人が一番自然な状態で病気と付き合っていける方法」「病院サービスとその人の人生を繋ぐ架け橋となること」「最小の医療資源でより大きな満足をもたらすことができるもの」「人生のQOLを高める医療」
学生はしっかりと考えていることが窺い知れた。(山本和利)

2010年11月1日月曜日

疝気の虫

過日、札幌道新ホールで行われた『立川志らく独演会』に行って来た。ゲストはその師匠の立川談志である。前座(または二つ目)の落語の後、志らくが「紺屋高尾」を熱演。

中入り後、立川談志の登場である。食道がん、糖尿病の療養中とあって、立っている姿も痛々しい。歩くのもやっと、座るのが一仕事といったところである。声がかすれて聴き取りにくいためか、スタンドマイクとは別に胸元にピンマイクを付けている。5分で終わるか1時間やるのかやってみないとわからない状態。場内に緊張が走る。北海道での思い出話から始まり、様々なジャンルのジョークを次から次へと披露していった。途中、頭の中で沢山の情報が走馬燈にように駆け巡るのであろう。ジョークの間に思い出した無関係な話題をついつい挿入してしまう。そして最後は「落語チャンチャカチャン」と題して様々な落語を数秒ずつ繋げて語り、会場の拍手喝采を浴びた。これまでと異なり落語を聴いてもらえることに対する感謝の姿勢が仕草の中ににじみ出ており好感がもてた。短い時間であったが談志の頭の中は落語に関する知識で満ちあふれていることが想像できた。全盛期の落語をもっと聴きたかった。翌日に検査入院が予定されているという。これが、私が観る最後の高座であろう。名残惜しい。

談志の後を受けて、談志の十八番「疝気の虫」を志らくがやってくれた。疝気とはソケイヘルニアであると解説し話は始まった。しかし、広辞苑を引いてみると「漢方で腰腹部の疼痛の総称。特に大小腸・生殖器などの下腹部内臓の病気で、発作的に劇痛を来たし、反復する状態」とある。落語の方は「ソケイヘルニア」でないと話がつながらないのでやむなしか。時事ネタ(流行のラーメン屋から首相批判、等)を入れながらポンポンと話がすすんでゆく。最後は弾け落ちで終わった。

生で聴く落語を堪能できた幸福な時間であった。もう談志の落語を生で聴くことはできないが、その志はしっかりと志らくに受け継がれている。立川流、恐るべし!(山本和利)

同門会

10月30日、午後1時半より4時半頃まで地域医療総合医学講座教室で同門会が行われた。

参加者16名からの挨拶とこの1年の振り返りあるいはトピックをパワーポイントにまとめて10分以内での発表があった。例年になく沢山の関係者が参加してくれて、地域医療総合医学講座に対するそれぞれの思い入れが強いことが伺い知ることができた。
その後、山本和利が地域医療総合医学講座の1年間の活動報告を行った。

(毎年恒例)の地域貢献賞は幌加内国保病院チームの森崎龍郎氏に授与された。参加者にささやかなお土産が進呈され、参加者全員による記念写真撮影となった。

場所を移して北海道のお寿司を食べながら二次会で歓談し散会となった。多くの参加者が三次会で地域医療に関する情報を交換しながら気炎を吐いた。(山本和利)

秋季キャンプ振り返り

10月29日、特別推薦学生(FLAT)を対象にしたランチョンセミナーに参加した。学生14名、教官3名。今回は、9月25日に幌加内町で行った秋期キャンプの振り返りである。これは毎年実習時の感動が薄らがないように終了1ヶ月以内に行っている。司会進行役は河本一彦助教。

自由な雰囲気のもとで「地域医療」について学生の意見を語ってもらった。来年度はできれば学生から実行委員を募り企画をしてもらうことになった。時期については夏の方(7月中旬)がよい(2年生が学外実習と重なってしまう)とか、冬は時間的に余裕があるとか幾つか案がでた。1,2年生主体で3,4年生がリーダー役とするのがよい。毎年場所を変えた方がよい。町民との懇親会は必要。町の中を見る時間を増やして欲しい。バスをチャーターした方が現地で時間的に余裕ができる。学生の実行委員を選んで企画する。

実習の感想:蕎麦を食べるたびに幌加内を思い出す。写真を撮る時間がなかった。2年間続けて行ってさらに地域を知ること、溶け込むことの重要さを学んだ。住民の実際の生活を知ることができたのがよかった。地域を学んだ。住民が親切で暖かく受け入れてくれたことがうれしかった。町の受け入れ態勢の重要性を感じた。いろいろなことが聞けた。現地に行かないとわからないことがたくさんあるとわかった。出身地域の医療の充実に貢献したい。住民の人と話すことで沢山学ぶことができた。

実習を好意的に意義付けてくれている学生が多いことがわかった。(山本和利)

地域医療の実践

10月29日、幌加内町国民健康保険病院の森崎龍郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域医療の実践」である。

まず、自己紹介をされた。横浜生まれ。富山医科薬科大学卒。漢方医。2010年幌加内町国民健康保険病院に赴任。幌加内町の紹介。3つの日本一。そばの作付面積。日本最大の人造湖(朱鞠内湖:ワカサギ釣りができる)。最寒記録-41.2℃。人口1,745人、世帯数853(町として最小)。高齢者が多い。小学校1年生は8名で全員女子。病院の紹介。町内唯一の医療機関。医療療養13床、介護療養29床。2年後に建て替え予定。平均入院患者28.6名。平均外来患者数43.5名。常勤医師2名、非常勤医師1名。佐賀大学総合診療部が支えて来た。来年度からは二人体制となる。

日々の診療。外来:超音波、内視鏡検査。訪問診療。入院;回診、病棟業務。病棟管理。予防医学。保健福祉医療連携。産業医。

入院病棟:在宅生活が困難な方。脊椎損傷。脳卒中後遺症による胃ろう造設者。末期がん患者。
外来診療:高血圧、糖尿病、高脂血症。OA.認知症など。慢性疾患が複数組み上がった患者が多い。それに急性疾患が加わる。
当直:自宅待機である。2週に1件の救急車。関節脱臼。大腿骨骨幹部骨折。結膜浮腫。

プライマリ・ケア医として
1. まずはすべてに対応する。2.自分のできることをする。シンプルに。スーパードクターである必要はない。

道北ドクターヘリ事業:旭川日赤病院が基地。2回要請している(交通事故、脳卒中)。悪天候、夜間の対応が問題。

在宅医療:老々介護。認知症同士の介護。カバーする地域の範囲が広すぎる。冬期間の厳しさ。介護スタッフ不足。

出張診療所;4つの診療所。
保健福祉総合センター(アルク):ディサービス、居住部門、老人福祉寮。ふれあい福祉村構想。地域ケア会議の紹介。

予防接種事業:未就学児の任意予防接種をすべて全額助成。中学生女子の子宮頚がんワクチン全額補助。インフルエンザワクチン、高齢者の肺炎球菌ワクチン助成。

半年経って感じること:患者さんの顔が見える。保健・福祉・救急の連携がスムース。旭川市が比較的近いので助かっている(高度医療・専門医のありがたみがよくわかる)。外傷が多い。人材不足(医師、看護師、介護士、ヘルパー、給食婦、等)。高齢者の生活。意外と子供が多い。

最後に、幌加内そば打たん会、野菜作り、スキー、ワカサギ釣り等、田舎の生活の魅力を紹介してくれた。(山本和利)