札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年11月8日月曜日

群れのルール

『群れのルール 群衆の叡智を賢く活用する方法』(ピーター・ミラー著、東洋経済新報社、2010年)を読んでみた。

動物・昆虫の集団行動に学ぶ本である。

アリから学ぶこと:アリのコロニーの観察から、アリ同士が出会ったときにどう相互作用するかを定めた単純なルールに従うことによって、指導者がいなくても困難な仕事をやり遂げる。「アリは賢くない。だがコロニーは賢いのだ。」「自己組織化」がなさられるからだという。それに必要なことは次の3つである。「分権的な統制」「分散型の問題解決」「多数の相互作用」。「我々の一人ひとりが目の前の情報に反応し、特定のルールに従って行動すれば、集団全体に秩序が生まれる」「アリのコロニーも同じさ。個別のアリに一切自覚がなくても、集団の行動が変わるのだ」
「アリのコロニー・アプローチ」を用いて「巡回セ-ルスマンの問題」を解く話は面白い。

ミツバチの行動から学ぶこと:群れに多くの選択肢があること。それぞれの偵察蜂が自分の目で候補地を調べること。知識の多様性を確保すること。友好的なアイデア競争を促すこと。選択肢を狭めるための有効なメカニズムを用いること。こうすることでミツバチは短時間のうちに優れた意思決定を下している。

シロアリ(共同プロジェクトにおけるささやかな関わりが最終的に大きな成果になる)、ムクドリ(身近な仲間の行動に目を光らせることで集団が驚くほど正確な協調行動がとれる)の例も参考になる。暴走した群れの悲劇として書かれたバッタの事例はこれまた教訓的である。

このような動物・昆虫の行動を真似て人間が行って成功した事例も大変参考になる(サウスウエスト航空の自由座席制、アメリカン・エアリキッド社(ガス販売)、「ビール・ゲーム」、「ウィキペディア」)

翻って地域医療の現状を踏まえると、アリの逆で「医師は賢い。だがその集団は愚かだ」となろう。医師集団が前提とするルールのどこかが間違っているからだろう。そのひとつに「医師全員が初期から一定期間充実した医療施設で優秀な医療技術者を目指す」があるのではないだろうか。「能力を問わず(若い時期)一定期間地域に赴く」、「不確実に起因する医療過誤の責任を問わない」等をルールに加えてはどうだろうか。個人としてはともかく、専門家集団として賢くなりたいものである!(山本和利)