札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年6月29日金曜日

PMRの診断と治療

頚椎症の手術目的で入院した患者さんが、発熱と炎症反応があるため、手術が延期となった。病歴や身体所見からpolymyalgia rheumatica(PMR)を疑った。
 たまたま目にした

Helliwell T. et al. Diagnosis and management of polymyalgia rheumatic. British Journal of General Practice 2012;62:275-6.

を読んでみた。

      PMRは高齢者によく起こる炎症性リウマチ疾患である。

      両肩の痛み、朝のこわばり、炎症反応陽性、ステロイド低用量で著効

英国人の生涯罹患率、女性:2.4%、男性:1.7           

 診断

50歳以上の患者で、両側の肩や下肢の痛み、朝のこわばり、炎症反応陽性、が揃うと強く疑う。ただし、似たような症状を起こす疾患は少なくない。

・リウマチをはじめとする膠原病

・結核、細菌性心内膜炎などの感染症

・リンパ腫、多発性骨髄腫などの悪性疾患

・その他:内分泌疾患、薬剤性、パーキンソン病

治療

・プレドニン15mg3週間、その後、12.5mgを3週間、10mgで46週間、その後、48週間ごとに1mg減量してゆく。

・経過中は症状と赤沈、CRPでモニターしてゆく。


専門医に紹介した方がよい患者

非典型的様相

60歳以下

・慢性の経過

・肩の症状がない

・炎症性のこわばりがない

・レッドフラッグ徴候(全身症状、体重減少、夜間痛、神経所見)

・末梢性関節炎、筋疾患、自己免疫反応

・著しい炎症反応

治療への反応

・著効しない

・プレドニンを減量できない

・再発する

・プレドニンが禁忌で使えない

2年以上治療している

 最近では赤沈を依頼する医師が少なくなったが、総合診療科では初診時に欠かせない検査である。(山本和利)

2012年6月25日月曜日

入院患者の血糖値はどの程度が適当か


「入院患者の血糖値はどの程度が適当か」について勉強してみた。


最近の研究では、入院患者の38%が高血糖を示している。ランダム化臨床試験で、強化インスリン療法をしても死亡率は減らさない。逆に重篤な低血糖が増加する、と言われている。

       Kansagara D, et al. intensive insulin therapy in hospitalized patients: a systematic review. Ann Intern Med;2011154:268-82

では、31のランダム化臨床試験を分析している。

      ICUで強化インスリン療法をして患者の利益があるか?

      不利益があるとしたらどういうものか?          


プライリマリ・アウトカムとして1ヶ月以内の死亡率と入院率を検討している。

セコンダリー・アウトカムとして3ヶ月以内の死亡率、感染率、入院日数、低血糖をみている。

       結果

      有意差はなかった。RR:1.095%CI:0.94-1.07

      21%で敗血症が減った。RR:0.7995%CI:0.62-1.00

(研究により差がある)

      重篤な低血糖が6倍増えた、

この研究から得られることとして、雑誌EBMEbenezer Nyenweは次のようにコメントしている。

       入院患者の目標血糖値を80110mg/dlに設定するのは低すぎる。

       目標値は140-180mg/dlがよい。

       (入院患者ではMetforminの安易な使用も慎むよう警告している)


入院患者に関しては、血糖値を低くし過ぎないことが最近の動向のようだ。(山本和利)


日本PC連合学会理事長の記念講演

623日、札幌で開催された2012年度北海道プライマリ・ケア連合学会北海道ブロック支部定時総会に参加した。そこで日本プライマリ・ケア連合学会理事長の記念講演を拝聴した。演題は「日本プライマリ・ケア連合学会を取り巻く現実とこれからの方向性」である。参加者は約40名。
講演要旨

プライマリ・ケア連合学会の目標を紹介。「人々が健康な生活を営むことができるように地域住民とのつながりを大切にした、継続的で包括的な、保健・医療・福祉、および学術活動を行う。」

 日本は今大きな医療問題を抱えている。開業医はまじめな集団である。この学会員もまじめである。しなしながら、正義や善意だけでは何も始まらなかった。日本の医療状況はどんどん悪化している。これから本学会は戦略的やってゆく必要がある。

 ここで家庭医療の定義を紹介。間口を広げて、より質を厚くするよう目指す。誕生から死までの個人・家族を継続的診てゆく医療である。

 今ジェネラリストに対する言葉が混乱している。その混乱を収拾するために制度的な担保を必要としている。

 医師会はどこまで地域医療に手を差し伸べて来たのか。この学会が主幹になり得ないのはなぜか。戦略を考えてゆきたい。

 「プライマリ・ケア・スタイル」というものがある。この学会員はリックサックを背負って、服装に拘らない。お金を持たない。よく勉強する。インターネットに強い。ネットワーク作りがうまい。他の学会にはない雰囲気がある。他者をリスペクトする。この流れを尊重してゆきたい。

 今回はアライアンス委員会について説明したい。日本医師会会員は16万人。開業医と勤務医が半々となっている。専門医としては外科が最大で2万人いる。総合内科専門医が14千人。家庭医専門医は圧倒的に少ない。本学会の会員数は5788名。研修プログラム数は増えたが、参加研修医の数は増えていない。サブスペシャリティに総合医がない。

宅医療・介護が今後大きな問題となる。死亡者数が今後40万人増えると予想されている。専門医から開業医に移るとき、自分の得意分野の受診患者は少ない。それに対応できる施設は増えない。そんなマンパワーでこの状況を乗り切れるのか?

 この学会が主幹になるためには、現実を突き破る必要がある。次の2つを進めたい。

・プライマリ・ケア・スタイルの拡大

・高い専門性の維持


現実を見ながら、ちょっとでも良い方向に進んでゆこう。他学会の方々と手を携えてゆく。

日本の閉塞した医療状況を改革してゆこうという意欲の伝わる講演であった。(山本和利)




2012年6月21日木曜日

ライフ・ストーリー聴取

621日、特別推薦学生(FLAT)を中心とした勉強会で講義をした。1年生から4年生まで約10名参加。幌加内での地域実習における「ライフ・ストーリー聴取」についての事前講義である。

読者の関心を引く物語は「英雄の旅」(キャンベル)の3要素が含まれる。


1.             呼びかけとともに始まる出立
2.             イニシエーション「試練の道」
3.             帰還

患者は次の「3つの物語」のいずれかを持つ。(アーサー・フランク)。

  u    回復の物語
  u    混沌の物語
  u    探求の物語

医療者の役目は、患者の語る「混沌の物語」を治癒に向かう「探求の物語」に変えることにある。

医師に求められる専門性
u  進歩しつつある科学的な専門的知識を持つと同時に、患者の言葉に耳を傾け、病いという試練を可能な限り理解し、患者の語る病いのナラティブの意味づけを尊重し、目にしたことに心を動かされて患者のために行動できるようになること。

物語が扱うのは

u  体験であって、主張ではない。
u  物語の知は、各人が、他人に降りかかってきた特定の出来事を、個別の意味ある状況として理解できるようにする。
u  物語の知を使うことで、他人の苦境を理解できるようになる。

インタビューのポイント
u  インタビューの仕かたは、自由面接法(開いた質問)を用いる。
u  語り手の話しやすいところからはじめ、自然の流れのなかで、相づちを打ったりしながら、聞きたいことに関心を示していく (無知の姿勢)。

以上を参考にして、9月末に行われる実習においては、住民の方の生き様を「英雄の旅の3要素」にまとめてほしい。(山本和利)



ランチョン勉強会

620日、特別推薦学生(FLAT)を中心としたランチョン勉強会に参加した。1年生から4年生まで約10名参加。
20歳代の女性、発熱、痰を伴う咳、呼吸困難。皮下に握雪感を触れる事例である。


気管支喘息の重積発作について、診断や治療について確認した。(山本和利)

緩和ケアの基本

620日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は勤医協中央病院の小林良裕先生である(3回シリーズの初回)。テーマは「緩和ケアの基本」で,参加者は12名。



・がんの症状マネジメント

2007年から緩和ケア研修会が行われている。がん治療モデルが変わってきた(これまではがん治療をし終えてから緩和医療に移行する)。

WHOの定義も変わってきた(2002年)。「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患に伴う様々な問題に直面している患者とその家族に対し、疾患の早期から疼痛、身体問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に対してきちんとした評価を行い、それが障害にならないように予防し、対処をすることで、QOLを改善するアプローチである」

今は診断早期から有機的な連携をもって抗ガン治療を行い、緩和ケア、死後には遺族ケアを行う。4期肺がん患者のRCTでも、標準治療群よりも早期緩和ケア群の方が抑うつ、不安が少なく、生存期間の中間値が長いことが報告された。

・全人的苦痛という概念をシシリー・ソンダースが提唱。

身体的(痛み、身体症状)、精神的(不安、苛立ち)、社会的(経済的、仕事上、家庭内)、スピリチュアルな苦痛(生きる意味、自責の念)

日本のがん拠点病院は全国で388か所。道内は20か所。地域の偏在がある(道南、札幌に集中)。

・ホスピス・緩和ケアの歴史

教会、巡礼者・病人をもてなす施設。1967年にシシリー・ソンダースがセントクリストファホスピスを設立。1986年にWHOが「cancer pain relief」を発刊。

日本では1977年「死の臨床研究会」が発足し、1981年に三方原病院ホスピス病棟開設。2007年、「がん対策基本法」施行。緩和ケア研修会開催が義務化。2012年、入院日数による入院料の差別化。現在の平均在院日数は40日である。

緩和ケアはチームで行う。(主治医、看護師、ソシャル・ワーカー)死亡者は2025年に170万人を超えると予測。65歳以上の死亡者:79%(2000年)。世帯数4800万、世帯人数2.63人(2001年)。死亡場所;病院;82.3%、高齢者施設;3.1%、自宅:14.6%。日本では病院死が多い。施設死が少ない(2005年)。医療従事者は病院死を望んでいない(23%)。市民は38%。

患者の心の支えになるのは配偶者・子どもであり、宗教には頼らないようだ。「望ましい死」は人によって様々である。

近代医療は「死を否定」「cure」「延命」を目指すが、ホスピスケアは「死を否定しない」「care」「QOL」を重視する。

援助者の資質は5つ。1)誠実さ、2)感性の豊かさ、3)忍耐強さ、4)謙遜、5)愛

ここで事例を2つ紹介。

がん性疼痛の分類

・体性痛:部位が限局、明確(うずく、差し込む、鋭い痛み)

・内臓痛:局在が乏しく、不明確(押される、鈍い)

・神経因性疼痛:しびれ、電気が走る、焼けつく

疼痛コントロールの目標

・夜間の睡眠

・安静がとれる

・体動ができる

がん治療の原則

・経口剤

・時刻を決める

・痛みの強さに応じた薬剤

・患者ごとに適量を決める

・服用に際して細かな配慮

・鎮痛補助薬を用いる

三段階除痛ラダ―に則る。(1.非オピオイド性鎮痛薬(NSAIDs, アセトアミノフェン)、2.弱オピオイド、3.強オピオイド)。日本では医療用麻薬の使用がまだまだ少ない。

痛みが押させられるモルヒネ血中濃度に対して、眠気は2.5倍で、呼吸抑制は10.4倍ではじめて出現するので、安心して増量してよい。

質疑応答

Q;過去にはオピエイド(芥子由来)といったが、今はオピオイドという

A:様々な麻薬様物質が発見されたから。

Q:緩和医療の現場にどうして僧侶が出てこないのだろうか?

A:仏教は葬式が主体で、縁起が悪いと日本人は思っているからではないか。

緩和ケア全般にわたる講演であった。次回から具体的な内容となるので、今から楽しみである。(山本和利)

6月の三水会

620日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。大門伸吾医師が司会進行。後期研修医:2名。 初期研修4名。他:5名。

研修医から振り返り4題。

ある初期研修医。外来患者のリストを検討。ブヨ刺症。呼吸苦。SaO2低下。エピネフリン皮下注をするかどうか迷った。コメント:アナフィラキシーとして、エピネフリン・大量輸液をすべきであった。排便を堪えていて失神し、交通事故を起こし、骨盤骨折の事例に遭遇。

21才男性。失神・四肢のしびれ。眼球結膜の充血。「針を見ると意識が遠のく」ため、検査をしぶる。しびれが消失したため、歩いて帰宅。後日、チルト試験で陽性であった。循環器科への受診につなげることができたことを評価。患者の診療に消極的になってしまったことを反省。

調べたこと:若年者失神では神経原性:6080%。QT延長症候群、ブルガタ心筋症も念頭に置く。最も診断に寄与したのは心電図であった。全例に心電図は必要。頭部CTの有用性は低い。頻度的には不整脈、出血、脱水、迷走神経反射が多い。コメント:過換気の事例には、過呼吸をさせないように喋らせること。初回発作例に安易に「過換気症候群」とラベリングしないことが重要。


ある研修医。小児科研修の外来リスト。ロタ胃腸炎が多い。細菌性腸炎は、原因菌としてはサルモネラ、キャンピロバクターが多い。これは反応性関節炎を起こす(リウマチに似る)。旅行者下痢症は抗菌薬治療。抗菌薬治療が必要なのは赤痢、チフスくらいか。最近のエビデンスを調べてみよう。

全身倦怠感、発熱を主訴にした18歳女性。体重減少(3kg/)、慢性咳で気管支喘息として治療されていた。鑑別診断として百日咳、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、咳喘息、逆流性食道炎、副鼻腔炎、等が挙がる。HR;100/分。下顎リンパ節に圧痛あり。頸部に圧痛があり。尿に細菌(+)。CVA叩打痛(+)、CRP;陰性→後日9.6。尿路感染症を考えた(セフトリアキソン治療)が、入院時に行った血液検査で、甲状腺機能が亢進した検査結果が得られた。亜急性甲状腺炎が考えられる。TSHレセプター抗体をチェックし、エコー、シンチを行おうとした。生理は最近あったと担当医には応えていたが、その後、検査で妊娠が判明。ウイルス感染→亜急性甲状腺炎→一過性の甲状腺機能亢進症、と考えた。

クリニカル・パール:若い女性をみたら妊娠を考える。性交歴を聴取するには、良好な医師患者関係が重要である。

妊娠を否定する問診項目:「普段通りの最終月経」「本人が否定」「本人が思っていない」を聞くこと。

ある研修医。外来症例。過換気で精神科通院している心筋梗塞であった39歳女性。胸部・頸部・口腔内の疼痛。心電図に変化がなかったが入院させた(以前にこのような患者がAMIであったから)。12時間後、トロポニンIが上昇。心臓カテーテル検査で#9が100%閉塞と判明。頸と臍の間の痛みの鑑別に心筋梗塞を入れること。

69歳の発熱、耳下腺腫脹を経験。

50歳代女性。腰痛。ベッドから転落し、腰痛。両側下肢のしびれ。うつ病、パニック発作、C型肝炎の既往。腰椎のMRIでL5の狭窄あり。コルセット、リハビリで対応。積極性が見られない。ある日、トイレ歩行中、眼球上転し、意識消失していた。蘇生術を施行。心エコーで肺高血圧所見であった。心臓カテーテル検査で肺塞栓症と診断され、血栓除去術を行った。

本例は非手術例であったが、肥満、腰痛で臥床しがちであった。その予防として早期離症、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、低分子ヘパリン等がある。臥床しがちな患者さんには、肺塞栓症の予防が大切である。ただし、内科患者については、はっきりとした予防ガイドラインはないようだ。リスクを計算するソフトはあるようだ。

ある初期研修医。糖尿病と診断された44歳男性。血糖値:350mg/dl。HbA1c;12.2%,BMI;17.アルコール多飲。インスリンで加療し、そのまま継続。抗体検査等からslow progressive IDDMと診断した。最近、低血糖気味である。インスリンの使い方を調整する。
調べたこと:抗GAD抗体はIDDM6080%で陽性。インスリン自己抗体;IDDM4090%で陽性。抗IA-2抗体;若年者で陽性なりやすい。

新しい研修医がさらに2名参加してくれた。今回は疾患に関する話題が多かった。発表する研修医によって内容も様変わりするのかもしれない。(山本和利)

2012年6月16日土曜日

心房細動をめぐる最近の話題

263回日本内科学会北海道地方会で専門医部会教育セミナー「心房細動をめぐる最近の話題」を拝聴した。講師は市立札幌病院の甲谷哲郎氏である。
心房細動の治療の仕方が変わりつつあるという。ミニレクチャー後、症例を介して講義が行われた。

■心房細動について

病態は異常自動能亢進であり、、肺静脈付近に原因があると言われている(肺静脈と心房の付近をアブレーションする治療法がある)。ポンプ機能の低下が起こる。血栓形成による脳塞栓症(大きな梗塞巣)を予防する。最近では高血圧、冠動脈疾患、心筋症に伴うAfが急増している。

・治療の歴史をみてみると、除細動をすると長年されてきた。米国の研究で、リズム治療した群とレート治療群(正常化した者のワーファリンは中止となっていた)とで脳卒中発症を比較したがアウトカムに差はなかった。ワーファリンは継続することが重要である。

・日本でJ-RHYTHMという研究が行われた。発作性Afではリズム治療(サンリズム、タンボコール)。持続型はレート治療(ワソラン、ジギタリス)が有効ということになった。

もちろん、基礎疾患がある場合には、基礎疾患をまず治療する。

・日本で行われたJAST研究によると、軽症者へのアスピリンの脳梗塞予防効果はなかった。

CHADS2スコアが3点以上はワーファリンを使用する。INR;75歳以下では2.0-3.0, 75歳以上は1.6-2.6を目標とする。{CHADS2CHF(心不全)、HT(高血圧)、Age75(高齢)、DM(糖尿病)は、それぞれ1点、Stroke/TIA(脳卒中/一過性脳虚血発作)は2点に計算される。合計点をCHADS2スコアという。}

・ワーファリンは2mg/ 日から開始する。この治療はモニタリングが大変。抜歯のときは継続でよい。内視鏡検査でも服薬は継続でよい。

・ダビガトランは出血が少なく、ワーファリンと効果に差がない。CHADS2スコア1点にも推奨となった。腎機能低下者には要注意。副作用として消化器症状がある。手術時には24時間前に中止すればよい。ワーファリンからダビガトランに切り替わる事例が増えるだろう。

■症例

54歳男性、心房細動がアルコール飲酒後の翌日に起こる。受診時の心電図は正常。

診断;発作性心房細動。甲状腺をチェックする。治療は禁酒。CHADS20点なので抗凝固療法はしない。サンリズムまたはタンボコールを使用。安定したところで薬剤を中止。


75歳女性。高血圧治療中。心房細動120/分が2日間以上続いている。糖尿病はない。左房径はやや大きい。

診断;持続性心房細動。甲状腺をチェックする。治療:まず、血圧のコントロール。CHADS22点なので抗凝固療法の適応。レートコントロール目的でβ遮断薬またはワソランを使用する。

43歳男性。検診で異常なし。海外出張後、動悸を主訴に救急車で受診。120/分。

診断;心房細動。治療:若い人では翌日、正常になっていることが多い。ワソラン静注。ワソラン3T+サンリズム3Tの処方をする。改善なければ、翌日、朝食を抜いて受診してもらう。ヘパリンを使用してDCをかけた(血栓形成がされる48時間以内にかけなければならない)。心電図は正常化し、その後、再発なし。


44歳男性。検診で心房細動を指摘されている。無症状。72/分。左房径が大きい。甲状腺機能は正常。

治療:CHADS20点なので抗凝固療法はしないのがエビデンス。ただ患者から希望があったため、ワーファリンで抗凝固療法を3週間おこなってから、入院してもらいヘパリン静注後、DCを行った。洞調律になったが2ヶ月後にAfに戻ってしまった。ワーファリンを継続している(4週間以上継続する必要がある)。


65歳男性。検診で心房細動を指摘された。自覚症状なし。心電図;心房細動で90/分。

治療:CHADS20点だが、65歳以上は治療選択に関して議論がある。この事例ではレート治療のみで経過をみて、いずれ抗凝固療法を開始する。(最近のエビデンスではレート治療をしても差がないとなっている)。

70歳男性。動悸。心電図;心房細動で120/分。

治療:CHADS21点。β遮断剤とダビガトラン(プラザザキサ)を処方。(III群のヘプリコールは専門医が用いる薬剤である。なぜなら心機能が落ちるし、致死性不整脈を誘発するから)。

聴衆者から、個々の症例について対応方針を聞きながら講演を進められた。久しぶりに盛り上がった講演会であった。(山本和利)

脳卒中医療の現状と課題

263回日本内科学会北海道地方会で特別講演「脳卒中医療の現状と課題」を拝聴した。講師は北海道大学脳神経外科の宝金清博教授である。
 ■慢性虚血に対する血行再建術

STA-MCAのバイパス;1530分で終わる負担の少ない手術である。手術による脳卒中再発率は2.4%、内科的治療は16%となっている。(この研究は古くて、現在は内科治療の成績が向上しているため、単純に比較できない)。

このバイパス術は日本で発展し、手術レベルは高い。MRIで異常がないが、TIAを起こす例に適応がある。過去のRCTNegative studyとなり、欧米ではやらなくなっている。日本では、血行動態を考慮して手術するかどうかを判断しており、より精密な研究となっている。欠点として術後に過灌流が問題となる[3.7]。その結果、脳出血を起こすことがある。造影所見だけで判断すると15%に起こる。

・内頸動脈血栓内膜剥離術[狭窄は70%以上が適応]FDG-PETがプラーク診断に有効。

シャントを用いて行うと安心。

 ■血管内外科治療

・症例は増えている。年間2万件(外科の半分)

破裂動脈瘤、未破裂動脈瘤、閉塞性脳虚血障害の3つがある。

CAS(carotid artery stent)と呼ぶ。塞栓予防が大切である。Sapphire研究というものがある。それによると対照群よりCASの方が、有意に成績がよかった。

 動脈瘤手術は年間3万件。未破裂動脈瘤手術は1万件。ただし長期の結果が分かっていない。コイルによる動脈瘤治療が開発された。血栓を起こすことがある。一度施行されると他の方法による再治療が難しい。始めにこの方法が採用されるため、手術に難しい症例が回される。その結果、簡単な症例で若い医師が経験できないというジレンマがある。脳ドックを受けると70%の人に未破裂動脈瘤が発見される!スタチンが動脈瘤を縮小させるという報告があり、今後研究プロジェクトが行われる予定である。

 ■地域医療とtPA

J-ACTのいう日本発の研究が有名である。この治療は3時間以内に行う必要があるが、この治療が必要な患者の3%にしか実施されていない。日本では発症から救急車を呼ぶまでに4時間。病院到着までに5時間かかっている。救急車は7分で現場に到着している。到着後診断に1時間。このような現状から、発症後4.5時間までは使用可能にしようという動きが出て来ている。早期に治療を開始するためには、住民への啓発活動が重要である。

 ■脳虚血治療のinnovationの芽

ラットの実験では3時間血行が止まると脳機能は不可逆になる。中枢神経は再生しないと言われている。治療はリハビリが主体であった。今、幹細胞治療が注目を集めている。幹細胞が組織細胞に分化する(神経幹細胞、ES細胞、iPS細胞等を用いる)。

北大では骨髄間葉系幹細胞を用いて、梗塞周辺に脳内移植する。札幌医大は静脈内注入をしている。神経症状は明らかに改善する。理論はいろいろあり、確定されていない。

 ■医療と社会

医療における正しさが今問われている。医療資源の公正な分配を、今後迎える肩車社会ではどうするか。「医学的正当性」対「社会的公正」。自然の流れに反する医療を許してよいのか。共同体論を訴える哲学者もいる。極端な延命今後、問い直されるだろう。

 最新の医療の話から、医療の在り方論まで、幅広い話で聴衆を引きつける宝金先生らしい講演内容であった。(山本和利)