札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年8月30日金曜日

サイト・ウォッチ

8月29日、勤医協のぽぷらクリニックで、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。寺田豊医師が司会進行。後期研修医:1名。他(技師、放射線技師、看護婦、事務員):17名。

はじめに参加者の自己紹介。家庭医療への熱い思いをそれぞれが語ってくれた。

 
ある研修医の経験症例。ある1型糖尿病患者の事例。80歳代の女性。1型糖尿病。多発性脳梗塞と認知症(長谷川式11点)。高血圧、気管支ぜんそく、発作性心房細動、膝OA(人工関節置換術後)、大腿骨頭頸部骨折.

樺太生まれ。飲食店経営。夫は胃がんで他界。その後、厨房で仕事。生活保護受給。長女と二人暮らし。子ども4名は札幌市内に居住。

イレウスで入院時、HbA1c;11.3%.急性膵炎、1型糖尿病と診断された。

「入院したくない」「血糖値が高めの方が体調がよい」という思いがある。糖尿病ケトアシドーシスや低血糖で数回入院している。通院が困難となり、往診導入となった。

問題点

#高齢認知症

#インスリン管理が必要。

#食事管理

#同居者が病気で、患者の面倒が看られない。他の子供の理解もない。

往診前の訪問(長女の思い)

・入院させたくない。

・血糖値の異常は仕方がない。

・このまま亡くなったほうが本人は楽ではないか。(介護放棄?を感じた)

経過

インスリン1回注射。低血糖がしばしば起こる。400mg/dl以上もしばしば。慢性の臍周囲の持続痛を訴える。

入院を提案したが、拒否。インスリン2回うちも拒否。自己血糖測定も拒否。

BPSモデル、INTERMED(病歴、現状、見通しについて、BPS+医療との関わりが加わる)で分析。 

同居者を交えた多職種在宅合同カンファランスを行った。同居者の誤解が減り、医療者と理解が深まった。インスリン量を減らし、低血糖を減らすことにした。

Patient-Centered Care(認知症ケアby トム・キットウッド、1990年)

認知症の人の視点で世界を見るようにする。相互に支えあう。倫理と社会心理学を重んじる。

 低血糖発作の頻度が減り、同居者との人間関係が改善し、同居者の喫煙本数も減少した。また慢性腹痛の評価をすることになった。大動脈解離が疑われたが、造影CTは回避した。

このような複雑な事例では、①問題点の抽出、分析、②患者・家族とのコミュニケーション、③多職種連携が重要であることがわかった。

90分にわたるプレゼンテーションであった。家庭医療の手法を獲得しながら、内科的な診断・治療技法についても同時に向上させることを新たな目標に掲げ会は終了となった。(山本和利)

 

2013年8月23日金曜日

第25回 家庭医療学夏季セミナー

標記のセミナーが810日~12日に神奈川県湯河原町にて行われた。主に家庭医療や総合診療を志す学生・研修医対象で、毎年200人前後の参加者に対して、ワークショップ(WS)や講演会の講師が250人も集まる豪華なセミナーである。

 その中の一つとして、「おどる身体診察 ~OSCEでは教えないコツとキモ~」と題したWSを行ってきた。

 昨年まで、当講座の助教であり現在は町立厚岸病院に勤めている稲熊先生と共同講師という形で行った。勤務地が離れているためWSの準備はネット会議などで行い、実際に膝を突き合わせて打ち合わせをしたのはWS前日の夕方であった。

 WSはお互いの自己紹介から始まり、まず、どうして身体診察の講義はつまらないのかの原因を考えてもらった。

 1)診察の型だけを覚えている。

 2)所見がどうして生じるのかを理論的に理解できていない。

 3)臨床にどう役立つのかが分からない。

以上の3点に集約できそうであった。

そこで、このワークショップでは、身体所見が陽性になるメカニズムを「解剖学的」な視点と「生理学的」な視点に分けて、説明した。

 
 解剖学的には、腹痛の生じるメカニズムとして、タッピングや叩打診の解剖学的な意味や体性痛や内臓痛・関連痛の生じるメカニズムを説明した。

 生理学的には、回転性めまいが生じるメカニズムとして、三半規管の模型を使って自責の動きなどを視覚的に説明した。

 短い時間ではすべての診察所見について説明している時間はない。学生諸君には、「診察主義だけを覚えても意味がない。解剖学の知識と生理学の知識に裏打ちされた診察手技こそが意味があり、おもしろいのである!」というメッセージを伝えて前半を終了した。

後半は身体診察が臨床にどう生かされるのかを実際の症例をもとに自分が夜間救急外来に出た時を想定して考えてもらった。

症例は45歳の男性で1週間前からの腹痛と、当日の黒色便を主訴に深夜0時に救急車で来院。直腸診では本人の申告通り黒色便を認めたと仮定してもらった。上部消化管出血の診断は簡単であろう。

問題はこの患者に深夜0時にどう対処するかである。バイタルサインは

意識清明 血圧120/60 HR86回 整 体温37.0℃ 呼吸数18回であった。

 

 ① PPI(タケプロン)を処方し帰宅。

   明日、消化器内科受診。

② 入院してPPI+補液で朝まで経過観察

    明日、消化器内科紹介。

③ 消化器内科医をコール。

    深夜130から緊急内視鏡。

以上の選択肢を提示したが、ほとんどの人は「バイタルサインが落ち着いているので、①もしくは可能であれば②」とのことであった。

 ここで、起立時血圧の重要性を説明し、大量出血に対して、特異度が99%であると説明した。安静臥床時の血圧や脈拍は中等量出血や大量出血に対して感度は20%程度しかないことも併せて説明した。

 この患者は起立した途端HR125へ上昇し、立ちくらみを自覚した。すでに大量出血の可能性が極めて高いため答えは③となるのである。

 この結末には多くの学生が驚いていた。血圧ひとつで夜中に消化器内科医を呼び出す重要な根拠となるのである。

 最後のまとめとして、病歴や身体診察はただやみくもにルーチンワークとして行っていても全くその意味をなさない。

 その意味を十分に理解したうえで、臨床上で意味のある病歴・身体所見を取りに行くようにしなければならない。そうすることを繰り返すと、病歴や身体所見がいかに重要で意味のあるものかが身にしみてわかるのである。

 

 まだ、経験のほとんどない学生には、どのような教科書を使えばいいのか? どのように勉強したらいいのかを、最後に参考文献を示しながら解説した。

 起立時血圧の重要性だけを教えても今後につながらない。どのような勉強をしたらいいのかを伝えてこそ、意味のある教育なのである。

 「教育=共育」 我々の教育に対する熱意・意気込みを強調して、WSを終了した。

                             (助教 松浦武志)

 

2013年8月12日月曜日

未来医療研究人材養成拠点形成事業

文部科学省から「未来医療研究人材養成拠点形成事業」の公募がなされていた。

 
今後急速に高齢化が進展し、「医療」「介護」「予防」「生活支援」「住まい」の5つの要素を柱とした「地域包括ケアシステム」を、市町村レベルで実現できるかどうかが大きな課題となっているという認識の下、これに対応できるリサーチマインドを持った総合診療医の養成を大学に期待してとのことである。これに対して各地の大学から選定件数に対して46倍の申請が上がっていた。

88日、札幌医科大学が応募した「北の地域医療を支える総合診療医養成プラン」が採択された。

〈事業の概要〉
本学では、これまでに北海道の地域医療を担う医師育成を目的に、地域医療枠15人、北海道医療枠55人の入試制度改革や本学独自の特徴的な地域医療実習を実践しているが、この実績に新たに総合診療教育を強化したプログラムを構築する。まず、保健医療学部とのチーム医療地域実習を拡充・必修化し、地域医療枠を含む全学生が総合的な診療を学べるプログラムを作成する。卒後教育では、①総合診療医養成特化コースを創設し、本学と指導医派遣で連携関係にあり、総合診療医育成実績のある江別市立病院と松前町立松前病院に、本学分室を設置、専任教員を配置して、強力な指導医体制で総合診療医を養成し、更に疫学や予防医学等の実績のある研究体制を整備する。また、②総合診療マインドを持つ専門医養成コースとして、内科専門医を取得する中で幅広い視野で患者を診られる医師の養成に取り組む。本学と地域病院が連携して多様な対応ができる総合診療医を養成する。

 
これを機会に、さらに北海道の地域医療充実に向けて邁進してゆきたい。(山本和利)

APAME2013


83日、日本医学会館で開催された日本医学編集者会議とAsia Pacific Association of Medical Journal Editors Convention 2013 とのjoint meetingに日本PC連合学会誌編集長として参加した。

最初の15分間だけ日本語(北村聖氏)で、その後は英語で会は進行した。高久文麿氏の開会挨拶。


今回は、論文投稿に関わる不正行為について論じられた。Valsartanの不正の影響か。日本の不正投稿は世界第3位。医療事故が増えている。抗うつ薬の処方量が増している。


科学が変容する側面として、科学者が増えたこと、開発・研究競争が激化したこと、利益相反が絡むこと等を取り上げられた。その後、様々な不正行為について解説が行われた(ウイルス学の論文を記載したとき、その内容が細菌兵器開発に使わらないかという懸念が述べられた)。このような動向に対して、さまざまな対策を立てる必要があることが強調された。


 論文作成について、厳正な態度で臨む必要があることを実感させられる会であった。(山本和利)