札幌医科大学 地域医療総合医学講座

自分の写真
地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年2月28日月曜日

患者主体の診断 その13

第7章は検査。Patient-centred diagnostic testing

 下肢のむくみの女性野の症例から
地域の病院で素敵な高齢のある女性を入院患者としてみていたが、下肢の浮腫と感染兆候に対して時間がかかるようであれば抗生剤点滴治療を行なう方針とした。退院後、再度受診してもらいDVTの疑いで診断確定の検査の為移動中、海岸沿いの景色を楽しみましたと言ってくれたのだが,診断結果は正常だった。この症例のように負担をかけて診断の必要性には疑問を感じる。一体患者主体の診断学における検査とはどういうものだろうか?
 必要な検査と
診断プロセスの中で機器診断が数多く含まれるようになってきておりこのことを考慮しないと治療にも影響を与えてしまう。また防衛医療のため必要の無い検査が莫大に実施されていることを議論していきたい。リウマチに対する生化学検査のRFやがんに対するCA-125はしばしば不適切な使い方をプライマリケア医によってされている。
卵巣がんの80%でCA-125が高値になるが、症状の無い卵巣がんが見られる点からこの指標は有効かもしれない。不幸にもstage1の50%だけCA-125が高値になり、偽陰性のリスクがある。
病院で検査された799名の患者の内膜症、妊娠初期の用な良性の状態としてCA-125偽陰性が多かったとの報告がある。
 RFはRAの検査として有効か?
RFもプライマリケアで症状や身体診察を考慮せず不適切に用いられている。カナダでの調査結果では最終的にリウマチと診断された患者のプライマリケア医によるRFなどの所見についてまとめた。
疾患名 RF検査実施率/陽性(%)
------------------------------------------
RA 56/72
SLE 50/25
OA 18/22
偽通風 39/29
不明 54/20
疾患なし 80/0

 その検査は本当に必要か?
BNPは心不全のスクリーニングや治療モニターとして有効かもしれない。しかし二つの視点が患者主体の診断学では重要
1.診断の上でどのような状態を考慮、除外しなければならないか?
2.適用すべき最も有用な検査はなにか?
 検査のあるべき姿
現在は簡単に、診断根拠無しに検査をしてしまいがちである。患者主体の診断の視点では、検査する前に臨床推論することが望ましい。不安障害やうつについても同様である
重要なことは検査上の正常というのは分布上の正常でしかないということである。ほとんどの生化学検査は信頼区間95%で定義されていている。つまり20人に1人の異常値は、真に異常ではなくて、単に枠外にあるということでしかないかもしれない。正常とみられる患者は、ただ検査が不十分だっただけかも知れない。
しかし、検査結果は、陽性、陰性、どちらでもないという3段階の結果から、診断を振り返らせ、次のステップに向かわせてくれる。
検査で大事な6つのこと(Wald)
1 検査を行う為の障害はどのようなものがあるか?
2 そのような障害はどのような経過となるのか?
3 そのような障害がおこる頻度は? 
4 検査の予測的妥当性と信頼性は?
5 検査によってその後の臨床行動は変化するのか?
6 患者の利益の視点からの検査のリスクは?

もう一度日常診療において検査について見直しをしてみよう!(寺田豊)

2011年2月27日日曜日

リーマン・ショック

『リーマン・ショック・コンフィデンシャル 追いつめられた金融エリートたち(上)倒れゆくウォール街の巨人(下)』(アンドリュー・ロス・ソーキン著、早川書房、2010年)を読んでみた。

米国の金融機関のトップについて、インタービュを基に書かれた本である。巨大な金融機関が潰されるか生き残るかを賭けた生々しい記録である。

生き残るために工作をする各金融機関の最高経営責任者(CEO)。銀行家トップを財務長官にヘッドハンティングする話。税金を投入して一企業を救済したことへの弁明を求められる財務次官。本業の詳細がわからないのに人事権を掌握する上司と首切りを恐れて危機的な状況を上申できない部下。

扱う金額が大きすぎて付いてゆけない面があるが、金融危機の中で生き残ろうとする者たちのあがきがヒシヒシと伝わってくる。米国の巨大金融機関の崩壊を救ったのが三菱UFJの出資であることが下巻で判明する。

一庶民の視点からすると、世の中を救おうとする動きではなく、個人の損失をいかに最小にするかという矮小な話に思えて、釈然としない気持ちで読み終えた。(山本和利)

2011年2月26日土曜日

「ありがとう」フォーラム

2月26日、JR水道橋駅近くの会場で「ありがとうフォーラム(医療改革国民会議)」のグランドデザイン作成の準備会に参加した。新千歳空港が雪で飛行機の離陸が遅れたため、開始1時間経ったところから参加した。尾身茂氏が司会で、医療従事者、経済学者、市民等13名の話し合い。

日本の医療を「ありがとうが行き交う医療」にするためにどうしたらよいかを提言する集まりである。既に10数回開かれているという。入室すると何を課題として入れるべきかどうかが議論になっていた。特に国民の経済的負担について記載するかどうかで議論となった。客観的なデータは示してよいのではないか。エビデンスが議論を深めることになる。それを活用できるようにすべきではないか。質と経費とはトレイド・オフである。国民が出した経費に見合う価値のあるものを創成して欲しい。医療者、政治家、国民の三位一体の運動にしたい。国民のほとんどが医療問題を知らないという現実がある。この場では成熟した議論を深めたい。解決策は簡単ではない。初回のフォーラム開催時には、準備会で作成したグランドデザインは公にしない。等意見が飛び交った。

最後に戦略分析家が、今後の戦略について意見を述べられた。もう少し実効性を持たすために戦略が必要である。インセンティブ付けをする、ITを効果的に用いる、等。国民と一緒にやって政治家を動かすためにはどうしたらよいか。政治的な決定プロセスの中に入れてゆく。供給のシステムを変えてもらう。社会保険をうまくできる仕組みを作る。これまでは政治家に一方的に訴えるだけであった。どうやって有効性を持たせるのか。できれば法律改正にもっていきたい、と。

私には、北海道で総合診療を展開することで医療経済的にどのようなインパクトがあるかデータを示すよう宿題がだされた。(山本和利)

2011年2月25日金曜日

患者さんの声を医療に生かす

NBMの講義の3回目は、2/24に難病の患者会から2名の講師をお招きをして、病の語りを語っていただいた。その内容を、医学生がライフストーリーの記述を行った。
「病いは外からは見えない」「人生という一つのストーリーの中に疾患も組み込まれている」「病いは人生、そしてその人の一部分であること」など深い共感のある記述がみられた。
ライフストーリーから抽出された項目は、3項目で 1.患者の心理が説明出来る 2.医師と患者の心理の違い 3.患者の医療への対処 であった。
感想として、医療者としては,ただ診断をして原因を取り除くのではなく、いかに仕事を続けられるか、社会の役割を果たしていけるかを考え、患者自身とともに、立ち向かっていく姿勢が必要だと感じた。患者さん一人一人のストーリーを理解し、共感することが本当に大切だということを改めて思った。患者さんを一人にさせてはいけないという強いメッセージが寄せられた。かれらが、医療現場にでるときは、今までの枠組みを超える医療が展開されるのではという期待を感じさせるものであった。これからも患者さんの声を医療に生かしていきたい!(寺田豊)

心肺蘇生術ガイドライン2010

2011年2月24日(木)7:30~PCLSで心肺蘇生術ガイドライン2010についてお話させていただきました。感想などを交えて以下に報告します。

G2005→G2010の主な変更点は、質の高い CPR の重要性 (G2005 から引き続き強調) 、圧迫のテンポを 100 回/分以上とする(「約」100 回/分から変更) 成人に対する圧迫の深さは5 cm以上、圧迫を行うたびに胸壁が完全にもとに戻るまで待つ、胸骨圧迫の中断を最小限にする、過剰な換気を避けることが挙げられます。そして最も強調したいことはA-B-C(気道,呼吸,胸骨圧迫)から C-A-B (胸骨圧迫,気道,呼吸)に変更している点です。

理由としては心停止を発症するのは大部分が成人であり、最も高い生存率を示す心停止例は、患者の年齢を問わず、心停止を目撃され、初期リズムが心室細動(ventricular fibrillation,VF)または無脈性心室頻拍(ventricular tachycardia,VT)の心停止例であるからです。あえぎ呼吸、死戦期呼吸は聞くよりも一度、見ると二度と忘れません。

久慈ウツタイン研究についても皆さんに少し紹介することができました。今後、新ガイドライン2010について、今よりもっと理解を深め、そしてもっと上手に伝えられるように頑張りたいと思います。(河本一彦)

2011年2月24日木曜日

自治医大医師の視察


2月24日、自治医科大学地域医療学センター一行3名の視察を受けた(原田昌範医師、見坂恒明助教、稲熊良仁医師)。
前日の夜は、ニポポプログラムについて説明し、その後北海道の海の幸を肴に懇親を深めた。

翌24日は、朝7時30分に始まるPCLSに大学まで足を運んで参加いただいた。
その後、地域医療のあり方や特別推薦枠学生の教育の仕方やあり方について1時間ほど意見交換を行った。
各自が出身県に戻って地域医療を活性化するための仕事に就くという。原田氏は、4月から山口県、「へき地医療支援部」に所属し、主に離島・山間部の巡回・代診を行う予定だそうだ。この後、勤医協中央病院や江別市立病院を見学する。これからの活躍を期待したい。(山本和利)

2011年2月23日水曜日

和解する脳

『和解する脳』(池谷祐二、鈴木仁志著、講談社、2010年)を読んでみた。脳科学者と弁護士との対談である。

多様性には2種類ある。Diversityとvariety。バラエティは要するにばらばらで有機的なつながりがない(闇鍋のような乱雑混合スープみたい)。ダイバーシティは表面的にはバラバラでもそこに有機的な繋がりがある。

裁判は確率と推測でしかなく、用いるのは帰納であるそうだ。

負の連合記憶。ヘッドフォーンがいいか悪いか、ペンと紙を渡してアンケートをとる。実はペンの評価が目的。ヘッドフォーンに対していい評価をした人は新しいペンより使ったペンをよいと評価する。駄目と書いた人はペンも駄目。

人間は罰を与える生き物である。自分のお金を使ってまで罰を与える。

和解をするときの究極の目標は、「相対的な快感」を作り出すことである。金銭の話は、結局快・不快、好き・嫌いの問題に行き着く。相手に感情を逆撫でされたら、たとえ大金でも受け取らない。一方、経済的には割が合わなくてもお金の裏にある「情」に、お金を出してくれるということに愛情や謝罪の意味を感じて受け取るというケースもあるようだ。

裁判の領域においても冷たい論理的な進行の仕方よりも、情のこもった納得を目指す話し方が重要であるということだ。(山本和利)

2011年2月22日火曜日

模擬患者との医療面接

2月22日、模擬患者さん12名の参加のもと、1グループ9名、12班に分かれて4年生の医療面接実習を行った。模擬患者さんはこの日に備えて6時間の練習を積んで臨んだ。総合診療科と精神科の医師が各グループに1名ついて指導をした。

簡単なオリエンテーションをした後、実習開始である。9名の学生にはそれぞれ違うシナリオの模擬患者さんが当たることになる。医療面接を10分行い、学生本人の感想、模擬患者さんからのフィードバック、評価者役学生からのフィードバック、指導教官からのフィードバックで16分間かかるセッションを9回繰り返した。(午前午後で計18回)

緊張で言葉に詰まる学生や大汗をかきながら面接を続ける学生など様々であったが、服装もベンケーシスタイルで医師らしくなって、学生それぞれが真剣に取り組んでくれた。私はたまたま8名グループを担当し1回分余ったため、私自身が最後に医師役を買って出て医療面接をした。学生の食い入るような眼差しに少し緊張したが、あとで模擬患者さんに訊くと、模擬患者さんの方が緊張したということであった。学生よりも訊き方がスムーズであると褒めていただいてホッとしたのが正直な感想である。学生諸君のOSCEでの健闘を祈りたい。(山本和利)

2011年2月21日月曜日

患者主体の診断 その12

第6章は身体診察である。終盤である。

いくつかの健康問題を例に考えてみよう。若者の腹痛(1万人データから)を分析すると、外科に紹介になったのは虫垂炎と胆嚢炎のふたつが大部分であった。

尿路感染症では、排尿困難、頻尿、血尿、背部痛、叩打痛、帯下なし、等が大切な症状である。排尿困難+頻尿+帯下なしの3つがそろうとLR+:24.6、患者の自己診断はLR+4.0, LR-0.1(患者に訊け!) 。
・尿路結石 では、腰痛は LR+:27.7, 叩打痛は LR+:3.6, 顕微鏡的血尿は LR+:73.1 であった。
・虫垂炎 では、右下腹部痛:LR+:7.3-8.5、右下腹部圧痛:LR+:7.3であるが、一致率はよくない 。
・胆嚢炎 ではMurphy’s signの再現性はよくない。 胃、膵臓疾患でも起こるからである。
・腹水 では、Fluid wave(6.0), shifting dullness(2.7), peripheral edema(3.8)である。

小児科疾患をみてみよう。
・中耳炎 の40%が診断が不確かである。そのため抗菌薬処方、紹介が増えてしまう。発熱、耳痛、号泣、いらいらの4つがそろうと90%。しかし、中耳炎以外でも72%で起こる 。鼓膜発赤と診断する医師の一致率がよくない。
・脱水 では非特異的所見が多い 。Cappilary re-filling time(4.1), skin turgor(2.5)がLR+高いが、一致率は低い。

頭痛をみてみよう。
・側頭動脈炎では、非特異的所見が多く一致率が低い。 ESR>80/hは LR+:3.2である。患者からの情報が重要(jaw claudication, diplopia, temporal artery findings) である。

胸部疾患をみてみよう。
・肺炎 では、発熱、頻脈、crackle、呼吸音の減弱、喘息なしの5つがそろうとLR+:8.7。
・左心不全:70-84歳 では、息切れはLR+:5.4 、心筋梗塞の既往があればLR+:4.3, 狭心症の既往があればLR+:3.3である。肺底部に Cracklesを聴取すると LR+:2.4。
IHDの既往、心尖拍動、HR>90/m, BNP上昇がそろうとLR+:5.6 。

肺塞栓症 では、胸膜痛、血痰、呼吸困難をチェック する。患者の11%が胸膜痛を訴え、胸膜摩擦音を聴取 する。患者の7%に発熱 を認める。癌の既往があるとLR+:4.1、下肢の痛み・腫脹がるとLR+:2.6 、頻脈があるとLR+:2.5 、脈拍が90/mであればLR+:0.3である。肺塞栓症は致命的な疾患なので治療域値は低くすべきである。(山本和利)

2011年2月20日日曜日

広域医療連携ネットワーク・フォーラム

2月20日、札幌市京王プラダホテルにおいて行われた北海道南西部・広域医療連携ネットワーク・フォーラムに参加した。

最初に小樽市病院局長の並木昭義氏の挨拶があり、続いて札幌医科大学の辰巳治之教授から事業概要、基調講演があった。このフォーラムは戦略的防衛医療構想(SDMCI)に基づいているそうだ。NPO法人NORTHが中心に活動している。本フォーラムは函館、室蘭、小樽、札幌地区でネットワークを作ることが目的である。そのために総務省の後援でネットワークプロジェクトを立ち上げた。ITを使って医師の労力を減らしたい(現実はそうなっていない)。函館地区で人のネットワークも作った。それだけではだめなので、究極の代替医療(情報薬)を目指す。

各事業部会の概要報告で、まず遠藤力氏の周産期医療の話。福島県大野事件後、総合病院の産科に患者が集中し妊産婦死亡率は低下した。総合病院の産婦人科の負担が増大している。このままでよいのか。遠隔妊婦検診ネットワークで奥尻と函館の関係を健闘。受診回数を15回から8回に減らすことができた。課題は正確な情報と緊急な対応である。複雑な家族背景を抱える妊婦が多く、対応が難しい。

函館市立病院の下山則彦氏。基幹病院は、得意分野の患者を集めたい。急性期だけ診たい。それには地域における分業が必要である。連携システム(MedIka)として各病院に散らばった情報を見ることができるシステムを構築を目指した。これによって地域連携室の負担が軽減した。経営にも貢献している。課題はマンパワー不足、資金不足、メーカー間の壁である。24時間運用はできない。広域連携ができていない、等の問題もある。

休憩の後、産学連携による地域・遠隔医療への取り組みの中で、山本和利が「地域医療への乗り組みとPCLS」のことを報告した。続いて、はこだて未来大学理事長中島秀之氏が、プロジェクトの報告と医療関連研究を報告。見守りシステムの構築、NTTのヘルスケアシステム、高齢者状態把握システム、等。室蘭工業大学理事長佐藤一彦氏が、「感性工学に基づく地域医療のための工学的基盤技術の創成」について報告。ボーダレスな社会環境、機器やサービスのシームレス化、ユビキタスネットワーク社会を想定して研究している。携帯型在宅型生体計測・医療機器、医療・福祉ロボット、感性サービスエンジン、等。

招待講演は千葉県立東金病院長平山愛山氏の「ITを活用した少子高齢化時代の地域医療のあらたな挑戦」である。疾病構造と人口構造の変化を考えることが重要。これまでは医療提供側からの提案だけであった。これは全体最適の手段であるが、それだけでは不十分である。糖尿病は20年間で3倍増えた。高齢者のインスリン導入が増加している。専門医による診療の破綻しており、非専門医への技術移転をする必要がある。ある地区では6,000人の患者に専門医が3名しかいない。そのため糖尿病性壊疽が全国の5倍である。診療所医師への技術移転、専門医と非専門医との連携の強化、循環型地域連携パスを構築した。そのための三大要素は、1)診療所への紹介基準、2)検査項目のスケジュール表、3)病院への紹介基準、を確立することである。

医療再生は第二ステージへ突入している。すなわち市町村の医療財政は急激に悪化し危機的状況である。この10年間が正念場である。心血管系の合併症が増加する(人工透析も)。糖尿病、高血圧がその基礎にある。喫煙とCOPDとの関係では、喫煙層が増加した15年後に急激にCOPDが増加した。慢性疾患の重症化の予防が重要である。患者のミニマムデータを用いて層別して介入することが肝要である。糖尿病患者には診療連携パス(ミニマムデータセット・HbA1c、eGRR、尿タンパク、LDL-C、頸動脈エコー)とマップ(地域全体患者のトリアージ)を把握する必要がある。そのためには手入力は無理であり、ITを使った検査データの自動入力とアラーム化が必須である。2011年、厚労省は今後、メタボリック症候群予防から方針を変えて、糖尿病患者の重症化予防にシフトすると方針とした。大変科学的で情熱的な講演であった。北海道の地域でもこのような試みをしたいものである。(山本和利)

2011年2月19日土曜日

患者主体の診断 その11

第6章は身体診察である。中盤である。

診察室に入るところから観察することが大事である。まず歩行を見る。PMRや
Parkinson’s diseaseを疑う(Shuffling gait:LR+3.3、Difficulty rising from a chair:LR+1.9、Tremor;LR+1.4)契機となる。住環境の改善を提案することにもつながる。コンピュータの画面を見過ぎないこと!
・歯が20本以下であると、骨粗鬆症:LR+:3.4。
・喫煙者にClubbed fingerがあると肺がんのLR+;3.9。
・地域の高齢者をケアするとき、化粧と健康度に関連がある。口紅をさす、ドライアーで髪をすく女性は快復度が高い。

医師の観察能力は様々である。
・黄疸(bil>3mg/dl)を検出できたのは医師の70% でった。驚くことに7%の医師がbil>15mg/dlを検出できなかった。
・貧血を診断するのに、結膜蒼白はLR+:16.7で、手掌線蒼白はLR+:7.9であった。

患者主体の診断は、患者の目を通して世界を見ることでもある。臨床情報を選り分ける。身体診察をしながら考える時間を持つことができる。肛門診察が男性の尿路系の診断に役立つというエビデンスはあるが、ルーチーンに肛門診察をする意味はない。研修医も直腸診の訓練を受けていない。(山本和利)

2011年2月18日金曜日

ピープル・スキル その5

『ピープル・スキル 人と“うまくやる”3つの技術』(ロバート・ボルトン著、宝島社、2010年)の第5回目。

第12-14章「対立解消スキル」
人間生活に対立はつきものである。対立は避けられない。対立は関係を破壊する。
「現実的な対立」と「非現実的な対立」があり、それを区別しなければならない。前者は、要求、目的、価値観などの対立であり、後者は無知、誤解、伝統や偏見、欠陥のある組織構造、敵意などから生まれる対立である。

対立解消ポイントは、1)敬意をもって相手に接すること、2)相手の立場を理解するまで話を傾聴すること、3)自分自身の意見・要望・感情などを表現すること、である。

シェークスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』に書かれた古代ローマ・アントニーのケースを挙げている。アントニーは上記の3つの技法を用いて答弁してこの難局を乗り切ったと。
対立には3つの種類がある。「感情の対立」、「価値観の対立」、「要求の対立」。これらに対して協調型問題解決法を推薦している。

1)要求という点から問題の本質を明らかにする、2)解決策についてブレインストーミングをする、3)当事者双方の要求を最も満足させる案を選ぶ、4)誰が、何を、どこで、いつまでに行うかを計画する、5)計画を実行する、6)プロセスを評価し、後日効果を検証する。

コミュニケーションに大切なことは、次の3つである。「誠実さ」、「無私の愛」、「共感(empathy)」。無関心(apathy)でも同情(sympathy)であってもいけない。「同情」は相手の「ために感じる」ことで、人を見下すようなものになりやすい。客観的な立場が弱まり、いざというとき行動に移りにくい。
共感の3要素。1)適切な距離を保ちながら相手の感情を正確に理解すること、2)その「感情」を引き起こした状況を理解すること、3)自分が受け入れられていると相手がわかるようなやり方で接すること。

「いうは易く、行うは難し」、そんな印象を持った。皆さんはいかがでしょうか。(山本和利)

ピープル・スキル その4

『ピープル・スキル 人と“うまくやる”3つの技術』(ロバート・ボルトン著、宝島社、2010年)の第4回目。

第9-11章「自己主張(アサーション)スキル」
聴くだけでなく自己主張も必要である。そのとき重要なのは、相手に対して服従であっても攻撃であってもいけないという点である。
ポイントは、1)客観的に相手の行動を説明すること、2)相手が引き起こす影響を具体的に明示すること、3)自分自身の感情を表現すること、である。

相手が防衛反応を示した場合、どう対応したらよいか。
予め準備をしてメッセージを送り、沈黙して間をとる。防衛反応が出たら、反映型のリスニングで対応する、解決策に焦点を当てる。

さらに自己主張能力を高めるには、12の方法があるそうだ。

自己評価の高すぎる研修医等に指導医としてフィードバックする際にこのような能力が必要である。(山本和利)

2011年2月17日木曜日

患者の語り

2月17日、NBMの授業の一環として患者さん二名から患者体験を語っていただいた。

初期対応に問題があり診断がつくまでに10年間苦しんだAさん。冒頭、不定愁訴の患者が多い、ということを学生さんには知ってほしい、と訴えた。
小児喘息にかかった。心が弱い、精神修養ができていないと言われて傷ついた。長い通学路、喘息の発作を悟られないように気をつかった。中学に入って喘息は落ち着き、気管支拡張薬を使うことが減った。大学生になって夕焼けを見ていても青空を見ていても涙が出てくる自分に気づいた。鬱なのかなと思っていた。24歳になって動悸がひどくなった。階段を登っても症状が改善しない。食欲があり一見元気のため、誰も取り合ってくれない。喘息が再度悪化した。処方されたβ刺激剤を内服するとドキドキして死にそうであった。恐怖感がひどかった。寝付きが悪く、目が見開いて目がランランとした状況であった。いつも腹ぺこ状態であった。食べても食べても太らないので皆にうらやましがられた。早朝の脈拍が90/分。排便後120/分であった。親戚にバセドウ病がいたので、バセドウ病ではないかとかかりつけ医に訊いてみた。首を触ってもらい、血液検査をしてもらった。コレステロールが低いといわれたが、「肩こり・ストレス」と診断され、ビタミン剤を処方された。少しも治らないので奇病と思っていた。健診で心臓に雑音があると言われ、大学病院を受診したが、不整脈はあるが心臓に異常はなく、気のせいといわれた。その結果、自分を責めるようになった。そのうち飲み込めなくなり呂律が回らなくなった。ひとりでご飯を食べられなくなった。海の底でおぼれているような感じであった。ある日、地下鉄で動けなくなった。暑い日が続く夏、母親に大学病院に連れて行ってもらった。担当医師ははじめ甲状腺疾患を疑ったようだが、以前の開業医での話をしたら、気のせいということになった。あと受診するとしたら精神科と言われた。その頃、JALのジャンボジェットが墜落したニュースを聞いて恐怖にかられた。気管支拡張剤を上限まで使っても喘息が治らない。市中病院を受診し入院を勧められたが仕事の関係で断った。夜間救急では医師の指示通りの処置を受けると心臓がドキドキするので、いい加減に吸入をした。その場面を看護婦に見つかって仮病と言われた。その後たまたまよい医師に出会って甲状腺ホルモンとシンチ検査を受けた。そこではじめてバセドウ病と診断された。現在、再発寛解を4回繰り返している。喘息は薬剤でうまくコントロールされている。

不信と信頼の気持ちが揺れ動きながら闘病について語った70代女性のBさん。
幼少時、病弱で転地療法したところ病欠がなくなった。50歳代、食後に腹痛、嘔吐、下痢で受診。急性膵炎、慢性膵炎となる。この10年間、膵臓の病気で入退院を繰り返した。たまたま関西で受けた人間ドックで膵臓がんと診断された。地元の大学病院に入院し精査を受ける。医師が来ないまま検査の連続であった。毎日、隣のベッドにきていた医師に5日後にはじめて主治医として挨拶される。関西のときと同じ検査が続いた。その点をついたところ「医師自身が信頼している医師の行った検査所見が知りたいから」と言われた。40日後、粘液産生腫瘍と診断。説明した二人の医師の勧める治療法は全く違っていた(経過観察と即手術)。選択は患者任せであった。説明に納得できなかったので退院したが、薬や必要な書類がなかなかでなかった。意地悪をされているのではないかと疑った。関西の病院で8時間に及ぶ手術を受けた。病理検査は良性と判定された。時間が経つと症状が徐々に軽快してゆく(「日ぐすり」という考えも大事)。その後、胆管炎や急性膵炎の症状も起こし、CTで膵石を発見された。手術を勧められ、はじめは断っていたが、観念して手術を受けた。入院の前に外科担当医になかなか出会えない。そのときは不満と不信感が渦巻いたが、ベッドサイドで同じレベルの視線で語る医師に出会って信頼感が芽生えた。その医師の座右の銘は「実るほど 頭を垂れる 稲穂かな」。患者の気持ちは信頼と不信が背中合わせである。

学生さんには講演者のどちらかに宛てて感想文を書いてもらった。患者さんの想いが少しでも学生に伝わって欲しい。(山本和利)

2011年2月16日水曜日

医療面接実習

2月16日、松前町立松前病院の八木田一雄医師と当教室スタッフの指導で医療面接の学生実習を行った。午前と午後の2つに分けてそれぞれ3時間。はじめに30分のミニ講義。その後、三人一組になって簡単なシナリオを用いて医師役・患者役・評価者役のロールプレイをおこなった。シナリオは9つの用意し、各自が三回ずつ医師役を経験した。3回終わる毎に、全体で集まって振り返りを行った。

真剣に取り込む学生が多い。学生に寄せる期待は大きい。(山本和利)

2月の三水会

2月16日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は8名。大門伸吾医師が司会進行。来年度は3名新規参加があることを報告。

振り返り5題。
1年目研修医から学会での症例報告のプレゼンテーション。腰痛、頻尿で受診し、たまたまCTで発見された虫垂粘液嚢胞腺癌の症例。CEAが高値。虫垂は隔壁を有し石灰化あり。76例/日本の10年間。手術所見、疫学データを提示。予後は良好。

ある研修医。小児科研修中。入院患者が少ないため、外来での研修が主である。1歳2ヶ月。20歳代の母親、祖父母含め生活保護。これまで10回の入院歴。毎日、外来に来る。血液検査、XPを頻回に行っている。様々な社会資源にアプローチしている。喘鳴。下痢を主訴に受診。入院させるとあまり問題なし。退院後、40度。SaO2:92%。WBC;32,000、肺炎で入院、セフェム系抗菌薬が著効。病院と家族の関係が悪化しているため、母親と面談し傾聴。発熱、喘鳴、下痢についてアドバイスする。代理ミュンヒハウゼン症候群を疑われてはいるが確証はない。クリニカル・パール:「疾病利得がありそうな人への対応は難しい!」。

ある研修医。小児科研修中。入院患者はそこそこにいる。マイコプラズマ肺炎治療中に肝機能障害を起こした8歳男児。38.4度。SaO2:99%。GOT;235,GPT;358,CRP;1.0右中肺野に陰影あり。AZM、CTRXを使用。翌日、肝機能はやや改善。解熱。しかし肝機能が悪化。膝に痒みのある結節性紅斑が出現。嘔吐を繰り返す。その後消退傾向。薬剤を中止しても肝機能は悪化。マイコプラズマ抗体の値は2回目で4倍増加。自然寛解した。マイコプラズマ肺炎に伴う肝機能障害と考えた。クリニカル・パール:「マイコプラズマ感染症は多彩な病像をとる」。

ある研修医。剖検がはじめて取れたことを報告。中高生への「無煙教育」。喫煙率男性42%、女性18%。禁煙講演を実施。害や恐怖を強調。カーティ(顔がしわくちゃ)、ケリー(すべすべ)の双子の写真を提示。寸劇も披露。タバコの売り上げは3兆5千億円。経済的損失は7兆円。タバコ代の64.5%が税金。(もともとは戦費を賄うため)。生徒・保護者の反応は上々。成人にはワークショップ形式で実施。

24歳男性。排尿時違和感、亀頭から拝膿。性生活を聴取。パートナーへの受診を促す。ニューキノロンを処方し、梅毒、HIVをチェック。パートナーを診察。婦人科症状を聴取。婦人科受診を促す。性病のレビュ-。クリニカル・パール:「性病を疑ったらパートナーも受診させる」。「性病で受診する若者には性教育の必要がある。」

2年目研修医。毎日婦人科手術に入る。65歳女性。子宮体癌。腹腔鏡至急全摘術。術後覚醒が悪く、応答なし。MRI,画像診断で異常なし。転院し2日後自然に軽快。クリニカル・パール:「不可解なことに遭遇することもある」。(山本和利)

2011年2月15日火曜日

患者主体の診断 その10

第6章は身体診察である。

医療面接後、身体診察に移る。症状と病歴と身体診察を統合する。発熱等、患者の訴えは信頼に足る(LR+:4.9)。医師が患者の額に手を当てて体温を推測する(LR+:2.5)より尤度比は高い。患者の関心事を理解することも重要である。「平均への回帰」という統計学的現象を理解する必要がある(たまたま異常値であっても正常であれば次回の測定では平均に近づく)。家族、友人の報告も重要なときがある。

身体所見の再現性や妥当性が重要。(しっかり聴診をしていないため)呼吸器専門医が気づいていない肺の胸膜摩擦音を、著者自身が聴取した経験を通じて、最近、多くの医師が身体診察をやめてしまったように見えると嘆いている。黄疸があり胆嚢が触れる患者の肝外閉塞のLR+は26.0,肝内閉塞の LR+は0.04である。(胆嚢が触れなければ肝内閉塞の可能性が高い)。
70cmほど離れて3つの言葉を囁いて、半分以上できなければ聴覚障害がある( LR+:6.0),聞き取れると( LR:0.03) 。
背部痛がなければ急性胆のう炎の確率は1/2になる。

尤度比を計算で求める際、所見同士が独立しているかどうかを考慮することが大切である。できれば切れ味のよい1所見がよい
・腹水の検出
 Shifting dullness (LR+:2.3)
Positive fluid wave (LR+;5.0)
・肺炎
 呼吸音の減弱(LR+:2.3)
 発熱 (LR+:2.0)

どんなに切れ味がよい身体所見であっても、再現性がよくなければ臨床では使えない。すなわち、評価者が異なっても所見が一致しなければ意味がない、ということである。心音所見については、専門医間の一致率は高いが、PC医ではその保証はない。不一致が起こる理由として、道具が悪い、環境がよくない、訓練が足りない、などが考えられる。
・末梢動脈が触知の有無は一致率が高いが、正常か減弱かの判断の一致率は低い
・片目が赤い場合に、結膜炎と重大な病気の識別が大切である。15cm離して2秒間ペンライトの光を当てたとき、患者が不快ならLR+:4.2, 不快なしならLR;0.2である。
・血圧は両手で測るのがよい。10mmHg差があることもあるから。(山本和利)

2011年2月14日月曜日

ナラティブ・アプローチ

2月14日、富山大学保健管理センター斎藤清二教授のNarrative-Based Medicine(NBM)の講義を拝聴した。

一昔前、医療コミュニケーションなどは教えられなかった。善意の素人を超えるためには、科学的な知識を持つことが大事である、とそれだけ重視したからである。時代が移りこの10年間、コミュニケーションの重要性がいわれるようになった。医療の問題に、正解は一つではない。そこで医師には臨床判断力と患者さんと繋がる力が必要である。医療面接の目的は、聴くこと(情報収集)と説明すること(診断・治療)の二つがあると考えられるが、より重要なことは信頼関係の構築である。ミステリーの3要素。誰が(who)、どうやって(how)、動機(why)である。医療も同じである。Who、howは客観的に示せるが、whyは主観的である(正解がない)。羅生門アプローチ(様々な人の話を聴く)を紹介。

導入で医療崩壊の話が出され、その防止のためには信頼の構築、信頼の保証が重要であることが強調された。信頼関係は空気のようなもの。問題は息苦しくなったときである。「患者さんはなぜ安心できないのか?」について、講義が進んでゆく。はじめは薬の副作用について、安心を与える保証編。次は説明編。まれな副作用を説明してゆくと患者さんの不安は募ってゆく。

医療実践の避けられない特質は3つある。
・不確実性(uncertainty)
・複雑性(complexity)
・偶有性(contingency):おおよその見通しを立てることができる

不安を安心に変えることが大切。イレッサの例。よくなった患者さんもいるが、2%に間質性肺炎を発症し、苦しみながら死んでゆく。説明し保証を与えようとしても、この方法では限界がある。そこで大切なのが対話である。

対話編。副作用のあるかないかを知りたいのではない。(感情に焦点を当てってみる)。心配があるらしいので、相手に訊いてみる(無知の姿勢)。開かれた質問で訊く。不安にはきっかけがある。そして相手の不安を正当化してあげる(共感の表現)。アンビバレンスの両方を言語化してそのまま返すことが大切。共通基盤の共有化。葛藤表現。オウム返しで答える。「はい、その通りです」と相手が答えるような質問の仕方をするとよい。

患者満足度を高める対話の構造
・抱える技法
非言語的メッセージ
傾聴技法
共感表現
・揺すぶる技法
保証
説明
自己開示(commitする)
抱えてから揺すぶる。(神田橋先生)

ここからナラティブ(物語の交流・対話)の話。NBMという言葉は1998年にBMJで提唱された。基本は対話の医療である。全人的医療を提唱するムーブメントの流れを汲む。EBMの過剰な科学性を補完する。学際的な専門領域との広範な交流を特徴とする。

ナラティブとは意味づけつつ語ること。GPT:90の意味は?その意味付けは多様である。
その背景(context)、困難(trouble)、人物(character)、時間配列(chronology)によって意味が違ってくる。脂肪肝かもしれないし劇症肝炎かもしれない。
ここで朝日新聞の投書を提示。虫垂切除後の腹痛例。医療におけるナラティブは、私たち医師に反省的思考(reflective thinking)を促す。

NBMの定義:病い(illness)を患者の人生という大きな物語の中で展開する一つの物語であるとみなし、患者を物語の語り手として尊重する一方で、医療者側にも物語があり、両者が対話を通じて摺り合わせ新たな物語を創り出す。腹痛、下痢、無気力を繰り返す悪循環にはまっている40歳男性例。語りが変化していき、それを患者と医師とが共有する。

NBM実践のプロセス
1.Listening:「患者の病い体験の物語」の聴取
2.Emplotting:「患者の病い体験の物語」の共有
3.Abduction:「医療者の物語」の進展
4.Negotiation and emergence of new story:「物語のすり合わせと新しい物語の浮上」
5.Assessment:これまでの医療の評価

物語能力(narrative competence)by R. Charon (2006)
・患者への傾聴、理解、解釈、尊重
・想像力、共感力
・物語を紡ぐ
・患者のために行動する

最後に夏の夜のトラブル例を提示。救急現場で点滴を要求する殺気だった男性。何とか点滴をして帰し、次回出会ったときには患者が前回の失礼な態度を謝った。共感的対応の大切さを振り返っている。医師は患者の体に触れることができるという特権を持っている。それを患者が許してくれるのは信頼関係ができているからである。

学生たちはこちらが思った以上に真剣に聴いていた。(山本和利)

2011年2月13日日曜日

北海道内科地方会

2月12日、第258回北海道内科地方会に参加した。
B会場の一般演題を聴講した。

呼吸器疾患。
■SIADHによる失神患者に肺門リンパ節腫脹があり、それを経食道的生検で小細胞がんと診断した事例。診断も日進月歩している。
■肺がん様の進展があり、剖検で胸膜中皮腫と診断された例。この例では血小板が上昇していた。

血液疾患。
■AML寛解中患者のトポイソメラーゼ治療後の治療関連白血病。まれであるが予後不良。多発静脈血栓症の若年女性にトロンボモジュリン(rTM)が奏功した例。ヘパリンは無効であった。
■まれな慢性活動性EBV感染症。肝脾腫、肝機能障害、汎血球減少、蚊刺過敏症の症状から診断された。化学療法で完全寛解が得られるのは難しい。

内分泌・糖尿病。
■糖尿病ケトアシドーシスと甲状腺クリーゼを合併した若年女性例。HbA1c;9.9%。抗GAD抗体陽性。発熱あり。インフルエンザ感染後である。眼球突出あり甲状腺クリーゼと診断。甲状腺腫大なし。ステロイド、βブロッカー、抗甲状腺薬を使用。1型糖尿病には甲上腺機能をチェックすべきというコメントあり。
■内科的治療抵抗性肥満患者への外科治療(腹腔鏡下袖状胃切除術)。174cm,160kg1。SASもあり。HbA1c:12.8%。術後1.5年で82kgになった。貧血や栄養障害はない。この手術はまだ保険適応ではないため自己負担が大きい。肥満手術は日本では年間90例。大分大学、東京大学、岩手医大で実施。
■高血糖(HbA1c:17.8%)に伴った橋中心髄鞘崩壊症(central pontine myelinolysis)。構音障害、歩行障害。リハビリで改善。無症状の1型糖尿病の19歳女性。HbA1c;4.8%。抗GAD抗体陽性。インスリン分泌は維持されている。外来経過観察中。まれにこのような症例報告があるそうだ。学校野糖尿病検診で発見される1型糖尿病は1名/10万人。
■糖尿病患者のスタチン治療中高TC血症にエゼチミブを追加した。LDL-Cが有意に低下した。患者主体のoutcomeではないので、ここまでする必要があるのか疑問ではある。
■速効性インスリン分泌促進薬とDPP-4阻害薬の併用効果。症例数が少なく「やった、効いた」のレベルの報告であった。

アレルギー・膠原病疾患。
■腎門部に腫瘤を呈したMikulicz病。プレドニン30mg/日で治療し糖尿病が悪化。HbA1c;10.8%。後腹膜線維症を疑った。IG4形質細胞が陽性。時間的、空間的多発性が特徴である。9.3%に悪性疾患が合併する(大腸癌やMALTリンパ腫など)。
■P-CHOP療法で皮膚硬化と間質性肺炎が改善した全身性強皮症。B細胞の活性化が関係か。リツキサンが著効したという報告が出てきている。
■壊死性リンパ節炎後(プレドニン30mg内服で寛解)に成人型スティル病を発症した事例。発熱、リンパ節腫脹、右季肋部痛と下痢。フェリチン高値(300台)。非対称性のピンクの皮疹あり。スティル病にしてはフェリチンが低いというコメントあり。パルボウイルス感染症の可能性を示唆。
■現局性の脂肪萎縮を示した皮膚筋炎。浮腫性腫脹の上肢。プレドニン内服後、パスル療法施行。皮膚硬結にMRIを施行し生検で確定した。若年型に多く、成人型ではまれ。
■メサンジウム増殖性糸球体腎炎を合併したシュグレン症候群。7割が間質性腎炎の合併である。

感染症。
■熱帯型マラリア。西アフリカに滞在。帰国後、断続的な発熱。咳嗽。CRP;2.5。マラリア迅速キットで陽性所見。塗抹標本からマラリアと診断。メフロキン内服で軽快。72時間後、マラリア迅速キットは陰性化した。
■結核病棟勤務のナース。クオンティフェロン陽性。ツ反が強陽性。結核菌は陰性。抗結核薬治療をしたが腹部腫瘤が増大(振り返ると治療による初期悪化と考えられた)。結核性リンパ節炎の診断に経食道生検が有効であったという報告。
■豚丹毒菌による感染性心内膜炎。腰痛、下腿浮腫・疼痛。胸部Xpで空洞あり。肺炎の治療を開始。アルコール多飲。齲歯が多い。CRP;7.6。血液培養検査でグラム陽性菌陽性。心エコーで僧帽弁に疣贅。それと別に喀痰から扁平上皮がん細胞陽性。心内膜炎のみ加療し退院となった。弱毒菌が検出された場合、免疫不全の患者背景を検索する必要あり。

一般演題終了後、専門医部会はスキルアップ『内科医に必要な救急救命の知識と技術』に参加した。企画を土田哲人氏が行い、橋本暁佳氏と河本一彦助教がサポートした。

橋本氏の講演ポイント
1)100回/分
2)乳腺を結んだ線上の胸骨を5cmの深さで圧迫
3)胸郭を完全に元に戻す
4)中断をしない(気道確保は後回しでよい、VF,VT例が最も頻度が高い、hands-only CPRでよい)
5)過剰な換気を避ける。

聴講後、3グループに分かれて参加者全員が上着を脱いで実習を開始。思ったよりもうまくできて、講師の方に褒められた。
続いてAEDの操作法。
ともかく電源を入れることが第一である。自動音声ガイドに従ってパッドを装着しソケットにケーブルを差し込む。胸骨圧迫を続ける。ショックボタンを押すときだけ患者さんから離れる。(湿布やテープを外す。そうしないと火傷する)。すぐ胸骨圧迫を再開する。1分の遅れが蘇生率を10%下げるそうだ。(山本和利)

2011年2月12日土曜日

ピープル・スキル その3

『ピープル・スキル 人と“うまくやる”3つの技術』(ロバート・ボルトン著、宝島社、2010年)の第3回目。引き続きリスニング・スキルについて。

第6-8章「ボディー・ランゲージを読む」
感情は言語より非言語行動に宿る。事実情報を伝えるには言語が最適であるが、感情表現は非言語行動が勝る。

1.一番役に立つと思う手がかりに「注意を集中する」。
1)顔の表情(目とその周辺)、2)姿勢・ジェスチャー、3)声、4)衣服・身だしなみ・環境。
2.ボディー・ランゲージは「文脈」の中で読み取る。
3.言葉と態度の食い違いに注目する。
4.自分の感情と身体的な反応に注意を向ける
汲み取った相手の気持ちを「反映」すること。しかしながらボディー・ランゲージはときに誤解を招くことがある。

反映能力を高める方法
1)わかった振りをしない、2)「気持ちがわかる」という言い方はしない、3)応答の言い回しを変えてみる、4)感情に注意を向ける、5)相手の感情にぴったり合う言葉を選ぶ、6)声で共感を示す、7)会話の具体性を高める、8)独断的にならずに確固たる応答を返す、9)相手の秘めた能力に会話の中で触れる、10)質問に隠された感情を汲み取って応答に反映させる、11)過大な期待はしない、12)反映型リスニングには時間を惜しまない。

3種類のフィードバック
1)マイナス
2)反映
3)プラスアルファ

プラスアルファのフィードバック
1)身体に触れる、2)事実情報を伝える、3)話し相手のために行動を起こす、4)専門家を紹介する、5)自己開示する、6)直面化する。

注意点
1)タイミングを図る、2)多用しない。

反映型リスニングが望ましくない場合
1) 相手を受け入れられないとき、2)相手の問題解決能力を信頼できないとき、3)相手と「一定の距離を置く」ことができないとき、4)リスニングを自分を隠す手段として使うとき、5)聞き手の心の準備ができていないとき。

リスニングは簡単ではない。

この後、自己主張(アサーション)スキル、対立解消スキルと続いてゆく。私の紹介で興味を持たれた方は、是非一読をお勧めする。(山本和利)

2011年2月11日金曜日

臨床入門:医療面接

2月9日から臨床入門の集中講義・実習が始まった。約1ヶ月間の長丁場である。学生にとっては5年生に進級できるかどうかに関心があり、そのためにはcomputer based testing(CBT)とObjective structured clinical examination(OSCE)のふたつの試験を合格しなければならない。

授業の最初に、職業人としての心得を話した。プロフェッション(専門職)として、利他主義、社会・人類に対してのミッションを持って業務を遂行すべきことを強調した。この心構えに加えて、患者さんに奉仕するのだという気概、患者さんから教えてもらうのだという感謝の気持ちを忘れないことを話した。
 
臨床入門コースのオリエンテーションをした後、福井次矢先生監修のビデオテープでOSCEと医療面接について解説をしながら授業を進めた。その後、津田司先生監修のビデオテープで医療面接について解説をしながら授業を進めた。このビデオには故田坂先生が医師役で出演している。
ポイントは
・身だしなみ、言葉づかい、礼儀
・医療面接の目的、意義
1.患者と良好な関係を構築する
2.患者から情報を収集する
3.患者への働きかけ(治療・教育)

・面接の手順と把握すべき情報
はじめはOpen-ended questionを用いること、その後にClosed questionに移ること。

・基本的コミュニケーション技法
1.導入
2.主訴の把握
3.共感
4.説明モデルを知る
5.不足分を直接質問法で補う
6.既往歴・家族歴・患者背景を聞く
7.要約と診察への導入
8.患者教育・治療への動機付け

最後に二人一組になって簡単なシナリオを用いて医師役・患者役のロールプレイをおこなった。
臨床実習に向けての期待が大きいためか、学生の目は誰もいつになく輝いていた。(山本和利)

2011年2月10日木曜日

思考する豚


『思考する豚』(ライアル・ワトソン著、木楽舎、2010年)を読んでみた。著者はその独自の生命観から生涯、世間から激しい批判にさらされた人らしい。アイルランド島の僻地に住んで執筆したそうだ。2008年にこの世を去っている。

豚と文学というとジョージ・オーウェルの『動物農場』を思い浮かべる。豚は他の何よりも人間自身を思い起こさせる存在らしい。

豚の性質を一言で表すと「群居性」である。接触を好む社会的動物である。豚は恐ろしいほどよく眠る。体を掻くための何らかの場所を必要とする。目印は「糞をする場所」である。草食動物の中で、日常的に何でも食べる唯一の動物が豚である。適切な食べ物を探す能力に長けている。豚の祖先と人間の祖先は同時期に同じように雑食性を辿ってきた。豚は鼻で地を掘る。その鼻の全構造は一本の骨によって支えられている。豚はきれい好きで繊細である。共食いをし、会話もするという。

豚が登場する文学や映画についての考察も興味深い。

食物禁忌の由来の記述は参考になる。
作物栽培に重点を置くようになり、植物性食品を動物に食べさせて、人間がその動物を食べるより、直に植物性食品を人間が食べた方が効率的であった。そうなると動物の肉は贅沢品となり、特別なときのみ食されるようになった。中でも贅沢な肉(豚)が仕来りの上で不浄なものとされ禁忌の対象となった。

豚についてこれだけ広範囲に扱った書物は少ないであろう。著者は象について考察した『エレファントム』という本も書いている。それを本書と同じ福岡伸一氏が訳している。あまり売れるとは思えないがよくぞ訳して出版したものだ。医学には全く役に立たないだろうが、豚について蘊蓄を傾けることができるようになろう。暇を持てあます方にお勧めする。(山本和利)

2011年2月8日火曜日

患者主体の診断 その9

患者主体の診断学における病歴(Past Medical History)その3
 健康に関する行動
健康に対する行動を把握する為には患者主体の診断学においては重要。
喫煙、性行動、アルコールは症状、疾患との関連性が深い。残念ながら患者は社会的受け入れられる行動については過大に報告するのだが、逆に喫煙などの行動についてはあまり語りたがらない。
子供の喘息の患者が受診したときは必ず親の喫煙について聞くことにしている。子供の服にタバコのにおいがするときは、外でタバコを吸うように強く指導している.しかし現実は冬の寒い日などでは実行されていないようだ。

 アルコール依存
アルコール依存より喫煙者を見つけることは容易であるとの印象がある。不幸にも自分だけではなく、アメリカの家庭医の推定によるとはアルコール依存症は19%の診断率であった。オーストラリアでは28%以下、フランスでは16%にとどまっていて、特に女性は5%のみの診断率である。様々な身体症状を来すためアルコール依存を見抜く指標が重要である。女性では週14単位,男性では21単位が診断指標となる。
あ食飲酒日記と比較すると問診での酒量は過小申告となっている研究報告がある。したがって問診では最初、最後で聞くよりも中間で聞くなどの工夫が必要である。患者は週単位での酒量よりも日単位での酒量を気にしているが、このような酒量の枠組みは重要である。
アルコール依存の診断には、採血によるMCV,γGTPと同様にCAGE法などの手法も現実的である。専門的教科書では採血などを重視し、患者主体の診断がおろそかにされている傾向がある。

異性、配偶者、子供連れの患者に性行動を聞き出すことはさらに困難である。その為にはスキルが必要である。
わかりやすい言葉を用いてopen-endedで質問をし,長時間のインタビュー形式は避けることを提唱している。
例としては「たまに飲み過ぎると体に悪いですよね」「去年1年ではどうでしたか?」などである。
正確な質問が有効であると考えられているが、少しひっかけた (bogus testing)質問も一つの方法ではあり、喫煙、アルコール、薬物利用などを引き出すのに有効である。

 遺伝子的要因
プライマリケア医は他の専門医との違いは全人的に包括的なケアを行うところにある。
家庭医は家族を1単位としてケアし、家族ケアを扱っている。また遺伝的因子が健康の重要な因子となっていることがわかってきた。大腸がん、乳がん,子宮がん、卵巣がんがその例である。しかし生活様式や健康感なども家族の健康に影響を与えるため一筋縄ではいかない。
頭痛も遺伝子的要因もあるが、社会、心理や環境的側面も関係があり、多因子が影響を与える。喘息、骨粗鬆症、統合失調症の兄弟がいる場合の相対リスクは2.6、3.0、8.6である。

 患者主体の診断学における家族歴
家族歴聴取の研究から、1997年イギリスでのGPは平均29%の割合で家族歴を聴取していた。
GPは診断にあたって家族歴は診断において多くの情報を与えてくれると感じている。自分自身も喘息、片頭痛において家族歴は重要だと思っている。しかし家族歴について妥当性(validity)と信頼性(reliability)の確認は必要である。
表に乳がんの家族歴をまとめた。一親等での家族歴は高い信頼性がある。年齢も重要な因子である。
この点において情報提供書を作成する際において家族歴は注意を払わなければならないとの報告がある。

 家族歴の有効なアセスメント法
プライマリ領域では家族歴聴取は30分をかけて、総括的なアセスメントをすべきであり以下の手法も有効である。
(1)家族状況を持ち帰って自己記入出来る問診用紙を用意する
(2)電子化した家族図を用いる
(3)特別な状況では家族外来を設定する

 家族歴をどのように予測するのか?
片頭痛診断歴のない、感染の証拠もない“sinus headache”の88%が片頭痛型熱発、膿性分泌物のない反復性頭痛の病歴患者では、前頭洞部分の症状の存在は片頭痛のプロセスである。(Arch Intern Med. 2004) 5.3%の頭痛患者は片頭痛であるとの報告がある。
Smetanaは、片頭痛の症状について陽性、陰性尤度比を報告した。
たとえば片側(LR+3.1)吐き気(LR+23.2)であるから計算結果はLR+71.9%となり、結果80%の事後確率となる(寺田豊)

2011年2月7日月曜日

インテリジェンス 闇の戦争


『インテリジェンス 闇の戦争』(ゴードン・トーマス著、講談社、2010年)を読んでみた。英国の100年間の情報機関の活動すなわち、諜報、防諜、プロパガンダ等について書かれた本である。EU内には25の情報機関があるそうだ。2009年8月、英国のMI5(英国内の安全保障)とMI6(海外での諜報活動)が創設100周年を迎える。どの国でも右派が軍部や軍需産業と癒着し、一方リベラル派は安全保障や国防に音痴であるといわれる。MI6は2,500人の正規職員と同数の契約職員を抱える。英国中に監視システムが張り巡らされた。イスラム過激派や中国人スパイにMI5は振り回されている。そんな中で情報機関も過激派も新人リクルートに奔走している。

チャーチル、ルーズベルト、スターリン、ヒットラーの話。英国に紛れ込んだソ連のスパイ(キム・フィルビー)探しの話が面白い。彼はモスクワに移住し、スパイ活動のすべてを暴露する回顧録を発表した。当時同僚であったのが作家グレアム・グリーンである。

後半は1989年以降のイラクの細菌兵器のこと、中国の天安門事件、南アフリカ共和国の生物兵器による黒人抹殺計画、9.11前後の話、等興味が尽きない話題満載である。(山本和利)

患者主体の診断 その8

患者主体の診断学における病歴(Past Medical History)その2

 受診パターン
症候から基づいた診断は、大腸がんに対する下血などがあるが、癌に対する体重減少がプライマリ領域では代表的である。
さらに言えば、受診回数、市販薬の服薬状況、喫煙パターンなどの行動様式の変化が重要である。
特に英国のGPでは、しばらく受診していなかったひとが新たな問題で受診すると癌であるとされている(要注意!!)
自殺企図や小児の尿路感染は潜在的な診断価値がある。
自殺企図との場合、受診回数が増加している傾向がみられる。(受診回数増加しているときは自殺を考慮する!!)
小児の尿路感染は2.5年間で2.94回または21%受診が増加する。(受診回数増加しているときは尿路感染を考慮する!!)

 受診パターンからわかること
症状の経過が24時間以内で受診した呼吸器疾患の患者の場合は肺炎を疑う!
duration of illness  LR+
------------------------
<1 day         13.5
<4 day         2
>7 day         0.5

 共存的妥当性(concurrent validity)
病歴は診断を目的とするが、誤診、忘却などの認知的問題を有する。
良い例がOAにある。イギリスのGPのカルテから医師の診断結果と患者が使用する言葉と一致するのは偶然でしかない。
認知的バイアスは心理的、性的な問題があると報告されている。21歳までのうつの診断率は44%とどまる。
尿路系の外科手術の病歴は男性場合直接聞かなければ答えることは無い同様な認知的バイアスは以前の治療について語るときにはハロー効果も影響がある。つまり特定の医師や病院で全ての治療を受けた答えてしまう傾向がある。能力のある医師は誤診した時は条件が悪かったのだと思う…
病歴の共存的妥当性について評価する為に、ボストンの眼科受診したよくある慢性疾患について質問をとり、感度、特異度を算出した。
 あなたの本当の病気は?
sensitivity /specificity
-----------------------------------
arthritis 75 /66
CHD 64 /96
hypertension 91 /88
diabetes 84 /97
cancer 71 /89
use of aspirin 73/70
use of steroids 66 /96(ステロイド内服していますかと聞いても、内服している人が必ずしもハイと答える訳ではない?!)

 病歴の共存的妥当性
がんと心不全の研究では、がん全般の感度79%で乳がんでは91%、前立腺がんでは90%、肺がん90%、メラノーマでは53%との報告もある。感度が低くなるのは70歳以上、禁煙者、低学歴であった。
既往歴の聴取では、open-endedな質問よりclosedな質問がされる。ある研究では視覚的な補助があると女性のホルモン療法の服薬名を正確に思いこすことに役立ち、カレンダーを利用することも有効である。がんは15%,喫煙に関しては25%,アルコールに至っては36%が誤った個人情報であった。これらは親類や友人からの情報がより正確な情報にする為に有効である可能性はある。

 共存的妥当性を高めるには
近親者の情報は本人の情報との一致率は高いが親戚の情報はあまり信用出来ない
精神科疾患の一致率はκ値は0.58、認知症で0.41、アルコール依存で0.26、うつに至っては一致率は0.19と信頼性は低いものとなっている。配偶者や子供は大人になってからの情報は有効であるが、子供の頃の情報は有効ではない。親類からの情報はドーズレスポンス効果がありより多くの情報が正確な状態把握に役立つ。患者主体の診断学においては、親類などの情報は40%不確かではあるが、日ごとの状態変化や行動を把握するのには有効である。(寺田豊)

2011年2月6日日曜日

指導医教育WS

2月5,6日、札幌KKRホテルでの北海道医師会主催の「第9回指導医のための教育ワークショップ」にタスクフォースとして参加した。前日、同会場で約1時間の打ち合わせ。参加者は28名(道外から2名参加)。

開会、役員挨拶、タスクフォース紹介後、奥村利勝旭川医大教授からオリエンテーション。続いてKJ法を用いての「北海道における医師養成」を120分。医師不足、マンパワー不足に伴う問題を挙げるグループが多かった。現在の研修制度についてかなりの不満があることも実感できた。昼食後、旭川医大の野津司氏のリードで「学習目標」について。課題として医療安全、医療連携、チーム医療、1次救急、入院診療に必要な基本的手技が選ばれた。続いて勤医協中央病院の尾形和泰氏のリードで「学習方略と教育評価」。夕食後「北海道における地域医療」と題したナイト・セッションで北海道庁の鈴木隆浩主幹と野津司氏が講演された。斜里町立病院で内科を一人で背負っていたときの体験を話され、聴講者に衝撃を与えた。一人1分の外来診療を続けた後、入院患者70人を診る。北海道の町立病院は有床で救急が確保されなければならないことを強調された。質疑応答後、20:30近くに第一日の日程を終了し、参加自由の懇親会となった。

第二日目は、朝8;00開始。山本和利のリードで「フィードバックについて」、自己分析能力の高い研修医、生真面目だが気づきの少ない研修医、能力以上に自己評価が高い研修医という3シナリオを用いたロールプレイを行った。コーヒーブレイク後、北海道医療大学の守谷満氏のリードで「コーチングを取り入れた面談」を行った。エンパワーメントとコーチングの違いについての解説後、短期研修を受ける医師について3シナリオを用いてのロールプレイを行った。昼食後、北海道大学川畑秀伸氏のリードで「参加者各自の5分間レクチャーとそのフィードバック」を行った。私が関わったグループのテーマは、紅斑について(三次元的に皮疹を診る)、腹部外傷への対応(繰り返しエコーを)、広汎性発達障害(患者さんは出会った人によって転帰が変わる)、鼻出血の止め方(鼻血では死なない)、熱性けいれんへの対応(複雑型を見逃さない)、CT所見のない突発性頭痛(動脈解離を見逃さない)、であった。それぞれが巧みに白板を使って簡潔に得意ネタを披露された。簡潔・明瞭・タイミングが大事。最後に参加者全員から1分間感想を述べてもらったが、参加して有意義であったという意見が多かった。北海道の地域医療(斜里町立病院)の実情が一番衝撃的であったようだ。様々な年代・診療科の医師が集まる集会の価値を強調される意見が聞かれた。ミニレクチャー導入を検討したいという意見もあった。写真撮影、修了証授与後、散会となった。(山本和利)

2011年2月5日土曜日

読書ノート2009

2009年に読んだ本を次に示す。

Practice Under Pressure Primary Care Physicians and Their medicine in the twenty-first century(RUTGERS UNIVERSITY PRESS),The Trouble with Medical Journal(Royal Society of Medicine),Narrative in Health Care,PATIENT-CENTERED DIAGNOSIS, The Inner Consultation Second Edition (Radcliffe),From General Practice to Primary Care THE INDUSTRIALIZATION OF FAMILY MEDICINE,WHAT REALLY MATTERS,TEXTBOOK OF FAMILY MEDICINE 3rd edition(Oxford),Evidence-based medical ethics(Humana Press),EVERY PATIENT TELLS A STORY Medical Mysteries and Art of Diagnosis(BROARDWAY BOOKS).

伊藤一刀斎(上)(下)(廣済堂出版)、知りすぎた男 ホーン・フィッシャーの事件簿、マンアライヴ、刈りたての干草の香り、ナポレオンの剃刀の冒険、わが闇、続人情馬鹿物語、新海外ミステリ・ガイド、人情馬鹿物語、ミステリ・リーグ傑作選(上)(下)(論創社)、医療再生はこの病院・地域に学べ!(洋泉社)、テレビ画面の幻想と弊害(悠飛社)、動的平衡(木楽舎)、ユダヤ教・キリスト教・イスラームは共存できるか(明石書店)、世界恐慌を生き抜く経済学、横道世之介(毎日新聞社)、芸能鑑定帖(牧野出版)、知る技術!(北星堂)、屋上ミサイル(宝島社)、円朝ざんまい、幸田文しつけ帖(平凡社)、ハチはなぜ大量死したか、新・作庭記、スリーピング・ドール、気の力、ガセネッタ&シモネッタ、意味がなければスイングではない、まほろ駅前番外地、泣き虫弱虫諸葛孔明 第弐部、御宿かわせみ、大明国へ参りまする、源平六花撰、グローバリズム出づる処の殺人者より、一手千両、少年譜、冬のはなびら、眠る鯉、玻璃の天、街の灯、闇の華たち、ドンナ・マサヨの悪魔、天才までの距離(文芸春秋)、眠りの森(扶桑社)、なぜあの商品は急に売れ出したのか(飛鳥新社)、数学のできる人はこう考える(白揚社)、四人の兵士、さりながら、ジーザス・サン、姿なきテロリスト、やんごとなき読者、グールド魚類画帖(白水社)、CIA ザ・カンパニー(上)(下)(柏艪社)、死のドレスを花嫁に(柏書房)、ワークショップ入門、奇縁まんだら、松林図屏風(日本経済新聞出版社)、機密指定解除-歴史を変えた極秘文書(日経ナショナルジオグラフィック社)、壮心の夢、アメリカ後の世界、ラストラン、あるキング(徳間書店)、父のトランク、わたしの名は紅、デモクラシー以後 協調的「保護主義」の提唱(藤原書店)、ヤバい社会学、恐慌の黙示録(東洋経済新聞社)、フロスト気質(上)(下)、タンゴ・ステップ(上)(下)、目くらましの道(上)(下),歯と爪,殺人交叉点,ながい眠り,乱歩の軌跡(東京創元社),神々の捏造(東京書籍),イトイの通販生活,黄昏(東京糸井重里事務所), 神曲崩壊,橋本治という考え方,女中譚,許されざる者(上)(下)(朝日新聞社),安徳天皇漂海記,美人料理,彫残二人,シナン(上)(下),音楽の聴き方(中央公論新社),贈与論,現代語訳 学問のすすめ,橋本治と内田樹,日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で,フラジャイル 弱さからの出発,サブリミナル・インパクト,多読術,うろたえる父、溺愛する母,日本語で読むということ,読み上手 書き上手,古代から来た未来人 折口信夫,日本語で書くということ,アレグリアとは仕事はできない,害虫の誕生,朝日平吾の鬱屈(筑摩書房),風天 渥美清のうた(大空出版),ぼくの病気はいつなおるの?(太陽の子風の子文庫),おいしいコーヒーの経済学(太田出版),かがやく日本語の悪態,ヒッチコックに進路を取れ,ブラックホールを見つけた男(草思社),追憶のハルマゲドン,分ける・詰め込む・塗り分ける,予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」,優雅なハリネズミ,二瓶の調味料,人類が消えた世界,誰も読まなかったコペルニクス,さよなら、愛しい人,審判,ロミオ,黒と赤の潮流,カリギュラ,深海のYrr(上)(中)(下),ブルー・ヘヴン,フィンチの嘴,ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上)(下),シルフ警視と宇宙の謎,リスクにあなたは騙される 「恐怖」を操る論理(早川」書房),東天の獅子(一)(二)(三)(四),青い空、白い雲、しゅーという落語(双葉社),ジャズマンが語るジャズ・スタンダード120(全音楽譜出版社),ガサ通信(青土社),小説の楽しみ(水声社),<盗作>の文学史(新曜社),幻影の書,歴史のなかの未来,二十世紀から何を学ぶか,正義で地球は救えない,謎手本忠臣蔵(上)(下),チャイルド44(上)(下),李陵・山月記,小林秀雄先生来る,怯えの時代,空白の桶狭間,貨幣の思想史,海峡,春雷,岬へ,ポーの話,神器(上)(下),誘惑,下山事件(シモヤマ・ケース),太陽を曳く馬(上)(下),仮想儀礼(上)(下),デンデラ,「3」の発想 数学教育に欠けているもの,日本辺境論,いつか響く足音,ガラスの街,カデナ(新潮社),迷走する資本主義 ポスト産業社会についての3つのレッスン(新泉社),王道の樹,矢上教授の午後(祥伝社),鳥かごの詩,20世紀の幽霊たち,賢者はかく語りき,寂しい写楽,小太郎の左腕(小学館),33個めの石(春秋社),みのたけの春,蛇衆,王道 日本語ドリル,夢の痂,化粧,ムサシ,無知,商人,今日よりよい明日はない,資本主義崩壊の首謀者たち,ベーシック・インカム入門,悪党の金言,女三人シベリア鉄道(集英社),御留山騒乱(実業之日本社),日本人の知らない日本語(市井社),鴨川ホルモー(産業編集センター),ブルーノート・コレクターズ・ガイド(三一書房),大人のための新オーディオ観賞術,三悪人,一所懸命,「生きている」を見つめる医療 ゲノムでよみとく生命誌講座,千世と与一郎の関ヶ原,落語論,いじめの構造,ザ・ブルーノートジャケ裏の真実,チェーン・ポイズン,緋色の空,ポトスライムの舟,江戸の病,新参者,赤い指,インフルエンザ・パンデミック,白州次郎・正子 珠玉の言葉,浮き世のことは笑うよりほかなし(講談社),とっぴんぱらりのぷう,訓読みのはなし,新アラビア夜話,宝島,アンナ・カレーニナ(1)(2)(3)(4),世界がドルを棄てた日,タリバン,ドキュメント 底辺のアメリカ人,イスラム金融はなぜ強い,第1感,水上のパッサカリア(光文社),天怒(上)(下),黒の狩人(上)(下),かみつく二人(幻冬舎),乱視読者の新冒険(研究社),松岡正剛千夜千冊(求龍社),グローバル恐慌,一粒の柿の種 サイエンスコミュニケーションの広がり,翻訳と日本の近代,福翁自伝,柿の種,中国の五大小説(下),水深五尋,襲われて 産廃の闇 自治の光(岩波書店),人はなぜ生きるのか?,結城半蔵事件始末 追跡者(学研),落語家はなぜ噺を忘れないのか,犯罪王 カームジン,仲達,地の日天の海(上)(下),秋月記,リンガラ・コード,自然体のつくり方,女神記,テンペスト(上)(下)(角川書店),一の富 並木拍子郎種取帳,二枚目 並木拍子郎種取帳,ハーンと八雲(角川春樹事務所),軍師の門(上)(下),忍者烈伝(角川学芸出版),嘘つき映画館 シネマほらセット,「ウィッシュ」と「ワジェット」とボブ,世界文学全集I-03 存在の耐えられない軽さ,感染地図 歴史を変えた未知の病原体,世界文学全集I-06 暗夜/戦争の悲しみ,アメリカン・ゴッズ(上)(下),世界文学全集II-02 失踪者/カッサンドラ,ジャズ・レーベル完全入門,]世界文学全集II-05 クーデタ(河出書房新社),私はフェルメール 20世紀最大の贋作事件,経験知」を伝える技術 デープスマートの本質(ランダムハウス講談社),忘却の力 創造の再発見,他者の苦痛へのまなざし,ダーウィンのミミズ フロイトの悪夢,日時計の影,ドラゴンは踊れない(みすず書房),街場の教育論(ミシマ社),名著誕生1 マルクスの「資本論」,名著誕生「コーラン」,落語こてんパン(ポプラ社),大人のいない国(プレジデント社),昭和のエートス(バジリコ),オウム なぜ宗教はテロリズムを生んだのか(トランスビュー),10年後あなたの本棚に残るビジネス書100,ネクスト・ソサエティ,まぐれ 投資家はなぜ運を実力と勘違いするのか(ダイアモンダ社),リヴァーサイド・ブック,決定版ベツレヘム・ブック,ジャズピアノ入門,ジャズ50年代,モダンジャズ黄金時代 1951-61 ハードバップ入門(ジャズ批評),みうらじゅん対談集 正論(コアマガジン),映画でわかる世界と日本(キネマ旬報社),パクリ学入門(ガイヤ・オペレーションズ),アートのための数学(オーム社),ジュウナサン・ストレンジとミスター・ノレル(ヴィレッジブックス),新宿末廣亭のネタ帳(アスペクト),悼詞(SURE),薄氷の踏み方,仕組まれた9.11(PHP),おもしろい歴史物語を読もう,日本の医療のなにが問題か,大学の反省,偏愛マップ,誘惑される意志(NTT出版),国家論 日本社会をどう強化するか,暴力はどこからきたか 人間性の起源をさぐる,日本という方法,フロイト思想を読む,病気が変えた日本の歴史,そして戦争は終わらない,マネー資本主義 暴走から崩壊への真相,揺れる大国 プーチンのロシア,日本とアメリカ1 日本は逆襲できるか,日本とアメリカ2 日本は生き残れるか(NHK),医者が心をひらくとき(上)(下),医療のモンダイ,医療政策入門(医学書院).(山本和利)

2011年2月4日金曜日

ピープル・スキル その2

『ピープル・スキル 人と“うまくやる”3つの技術』(ロバート・ボルトン著、宝島社、2010年)の第2回目。

第3-5章「リスニングとヒアリング」
友情の深さ、家族の絆、職場での業績等は、人の話を聴く力があるかどうかで大きく違ってくる。
リスニングとは、知覚体験の意味を解釈し理解することに関わる、より複雑な精神プロセスをあらわす。ヒアリングは、耳で感じた聴覚的な刺激が脳に送られる生理的な知覚プロセスをさす。リスニングが大事!
リスニングの3スキル
1.向き合いスキル
2.うながしスキル
3.反映スキル

向き合いスキル
1)真剣な態度を見せる、2)適切な動作を示す、3)アイコンタクトをする、4)集中できる環境を作る。
コミュニケーションの85%は非言語的なものである。

うながしスキル
1)話のきっかけを与える、2)最小限の刺激を与える(相づちを打つ)、3)質問を減らす、4)相手に気を配りながら沈黙する。

4.反映スキル
1)言い換えを行う、2)感情を汲み取り応答に反映させる、3)真意を汲み取り応答に反映させる、4)相手の話を要約する。

OSCEの医療面接の指導で行っている内容が多数含まれている。(山本和利)

2011年2月3日木曜日

雑食動物のジレンマ(2)


『雑食動物のジレンマ ある4つの食事の自然史』(マイケル・ポーラン著、東洋経済新報社、2010年)。その2。
第2部は田園の食物連鎖について言及している。ポリフェイス農場を取材した記述が続く。
「この仕事はほとんど動物がやっている」ということだ。草は食物連鎖の基盤である。草にとって、木との縄張り争いと日光を得る競争がある。動物に食べられないようにすること火事に備えるために深い根系と根頭が発達したという。ここで見られるのは工場的農業と正反対である。田園で多年草を複合栽培し、太陽光エネルギーで地域の市場へ、多様化して動物植物の力を借りて地域で作った肥沃性を利用し鶏用肥料で行う。

途中、有機農作物普及の問題点が提示されている。
アルバート・ハワードが提唱した「自然界の仕組みを模倣するというやり方」が当初あったが、工業的有機農場が主となり、スーパーマーケットの要求に出くわしたとき、オーガニック的理想はあまりに厳しく、守られるよりも破られる方が多い。オーガニックな食事は、ふつうの食事と同じくらい化石燃料(加工と輸送のため)をつかってしまう。

草は毎年何千キロもの炭素を空気から取り除いている。牛の餌をなぜ牧草からトウモロコシに代えてしまったのか。牧草よりも早く肉を生産できるし、トウモロコシを栽培するより買った方が安いからである。トウモロコシは巨大な機械の歯車にぴったり噛み合う(安定性、機械化、予測性、互換性、規模の経済)が、牧草はそうではない。

非常にうまくやっている農家を取材したところ、驚くほど生産が高いのである。「自然界では、鳥類はいつも草食動物を追いかける」、「農業とは、大規模な運営には適応しない。それは農業が、生き、育ち、死んでゆく植物や動物にものだからである。」という。
複数の動物や植物を一緒に育てること(積み重ね式)で欠点を補正できる。その単位をホロンと呼ぶ(アーサー・ケストラーの『機械の中の幽霊』から)。林地は水源の涵養と浸食防止に役立ち、農場の水源となる。良質な堆肥作り。「農場の最も素晴らしい資産のひとつは、ほとばしる命の喜びである」
自家処理の問題(家畜の屠殺)。規則で縛って一般の農家では試行しにくい法制度である。毎日、殺すだけの仕事を低賃金の移民労働者に丸投げする仕組みに疑問を投げかけている。
政府の規制が有機栽培物の値段を上げているという。人間の健康に影響する食品が価格だけを基準に売られているのはおかしい(バーコード管理)。旬のものを食べる(何でも一年中食べられるという考えを捨てる)。

第3部は「森林」である。自分自身で狩猟・採集・栽培した食材でつくるディナーへの試みである。人間の雑食性に関する考察が続く。人間の生存のために肉食は必要なくなったが、菜食主義の問題点もある(パーティ等での人間関係の悪化、大切な伝統や習慣からの疎外)。「動物の幸福」を考え始めると迷路に陥る。

食事は「安い、早い、簡単」でいいのかどうかを今、我々は食のあり方を問われている。(山本和利)

患者主体の診断 その7

 第5章は患者主体の診断学における病歴(Past Medical History)

医師は患者の現在の健康問題を評価してしまった途端、次は検査に走ってしまう誘惑にかられる
しかし、患者主体の診断学においては患者からできるだけ多くの情報を引き出すべきである。
患者の症状から情報を得た後にも、まだ病歴、健康に対しての行動、社会歴、仕事歴と家族歴から診断にとって有益な情報が得られる
そして付け加えるならば、病歴は症状に対しての妥当性(validity)と信頼性(reliability)について注目するときには臨床判断過程において特に重要な役割を果たす。

消化器症状の患者例から400例の消化器症状の患者のGPへの紹介事例では症状からの診断して逆流性食道炎、機能的疾患、臓器的な疾患、例えば胆石、消化管潰瘍や癌まで幅広く見てしまい、内視鏡検査を行う際に、患者の年齢、NSAIDs服薬歴や以前の潰瘍の既往歴などに注意を置くベきであると述べている.(大事なことを聞き忘れないように)
患者主体の診断学において病歴を知る為に、2つの点を知る必要がある。それは『予測的妥当性(predictive validity)』と『並存的妥当性(concurrent validity)』である。

背部痛について
背部痛はプライアリケアではよくみられる健康問題である。
患者は原因をまず知りたがり、初期診断に関して長期にわたって議論が戦わされている。
腰椎レントゲン検査はよく行われるが診断がつかないことが多い、または誤った方向に導く場合もあり、被爆とコストの問題がある。
重大な疾患を見逃さない為に生じている問題とも言える。(まずレントゲンでは…ない!)

アメリカの公的病院を受診した2000人の背部痛を主訴とした患者について、癌の診断基準と照らし合わせて病歴、個人特性、症状、検査についてまとめた。 (DeyoとDiehlet al , 2000)結果からは、ESRも有効な指標となり20以上でLR+2.4, ESR50以上ではLR+19.2になる。
治療歴とESRを組み合わせればレントゲン使用を22%減らすことが出来る。(レントゲンではなくてESRをとってみよう)

病歴聴取から背部痛とがんの関係は?
clinical feature      LR+
---------------------------------
previous history of cancer 14.7
sought medical care   3
in last month
age>50     2.7
unexplained weight loss 2.7
episde>1 month 2.6
insidious onset 1.1
muscle spams 0.5
spine tenderness 0.4

動悸もまた病歴が重要な情報となる症状である。Zwieteringらが2年以上の期間で、762人の不整脈診断に至ったはじめて動悸を主訴にして受診した患者に対して構造的な病歴聴取を行った。総合医に動悸とともに呼吸困難、失神、狭心症状、倦怠感などの症状で受診した患者を対象とし、心電図検査を診断基準とした。果たして病歴聴取から不整脈はわかるのだろうか?
 feature in history Odds
----------------------------
hypertension 1.9
arrthymias 8.5
cardiovascular disease 3.3
cardiovascular 5.8
medication
psychosomatic complaints 0.2
frequent attender 0.4
CNS medication 0.4
もう一度病歴聴取を再確認してみましょう!(寺田豊)

2011年2月2日水曜日

開設13年目に突入

地域医療総合医学講座が開設されて12年が経過した。干支が一回りし、当教室に集まってくれたメンバーも各地に巣立ち、全国から新しいメンバーが集い、今新しい時代を迎えようとしている。

大学に在籍していると医学教育のはやり廃りが大きく響いてくる。少し前のキーワードは「総合診療」であり、全国各地の大学に総合診療部が多数創設されたが、医療を取り巻く環境の変遷に伴い大学における総合診療は縮小の流れに飲み込まれている。ここ数年のキーワードは「地域医療」にとって代わってしまった。日本全国いたるところに時限付きの「地域医療」関連の寄付講座が設立されている。そこでは当教室同様、地域枠学生を地域の需要に見合ったジェネラリストに育て、彼らを各地に送り出す使命を負っている。

診療にあっては、マンパワー不足のため、今年度は病棟診療から一時的に撤退した。その分、外来診療、教育、地域支援に力を注いだ。このような逆風の中にあって、心ある教室員が陰日向を問わず、身を粉にして教室行事を支えてくれた。この場を借りて感謝したい。

教育にあっては、長期的な視野に立って、特別推薦枠学生(通称FLAT)たちと定期的な学習会や地域の現場へ出かけての実習(キャンプ)を行っている。地域医療の要となる「地域医療」や「臨床疫学(EBM)」の講義を学内・学外の教室メンバーの力を結集し継続している。全国に魁けて行ってきた大学外での臨床実習(地域医療実習)は定着して、札幌医科大学の特徴のひとつになっている。

今後ともスタッフ一丸となって、北海道の地域医療教育・診療に貢献していきたい。(山本和利)

2011年2月1日火曜日

映画鑑賞2009

映画鑑賞の記録を、場所を教室ブログに代えて復活しました。

<鑑賞した映画・DVD・ビデオ>
日本作品
パコと魔法の絵本、ザ・マジックアワー、20世紀少年 第1章 終わりの始まり、20世紀少年 第2章、禅 ZEN、アメリカばんざい、憑神、フツーの仕事がしたい、遭難フリーター、愛のむきだし、ウール100%、ポチの告白、小三治、叛乱、インスタント沼、重力ピエロ、歩いても 歩いても、殺人容疑者、チョコラ!、ディア・ドクター、ノン子36歳(家事手伝い)、精神、少年メリケンサック、嗚呼 満蒙開拓団、妻の貌、色即ぜねれいしょん、不灯港、ちゃんと伝える、陸に上がった軍艦、あおげば尊し、buy a suit スーツを買う、バオバブの記憶、バスーラ、沈まぬ太陽、行旅死亡人、点と線、黒い画集・寒流、黒い画集・あるサラリーマンの証言、トキワ荘の青春、陰日向に咲く

韓国作品
ヨコズナ・マドンナ、ファン・ジニ、タチャ、映画は映画だ、悲夢、チェイサー、正しく生きよう、My Son ~あふれる想い~、母なる証明。

台湾・中国・香港作品
紅い鞄、胡同愛歌、草原の女、レッドクリフ PartII 未来への最終決戦、エグザイル/絆、天使の眼、野獣の街、四川のうた、追憶の切符、Orzボーイズ!、世界、食客

米国・カナダ作品
カプリコン・1、ブレードランナー、ダージリン急行、スルース、ラースとその彼女、ボーダータウン 報道されない殺人者、チャーリー・ウィルソンズ・ウォー、アンダーカヴァー、リダクテッド、ウォーク・ザ・ライン、I'm not there、ダウト あるカトリック学校で、ゴッドファーザーI、ゴッドファーザーII、ゴッドファーザーIII、ワイルド・バレット、パッセンジャー、フロスト×ニクソン、チェンジリング、ザ・バンク 堕ちた巨像、女工哀歌(エレジー) 、グラン・トリノ、ミルク、スラムドッグ$ミリオネア、ブロンコ・ビリー、バーガー・ヴァンスの伝説、オーシャンズ12、許されざる者、夕陽のガンマン、ファイヤ・フォックス、目撃、君とボクの虹色の世界、消されたヘッドライン、僕らのミライへ逆回転、女バス、レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで、バトル・イン・シアトル、ミセス・スミスの犯罪、生きるべきか死ぬべきか、裸の町、ディファイアンス、レディ・イヴ、セントアンナの奇跡、殺人者、サンシャイン・クリーニング、マンマ・ミーア、キャデラック・レコード、扉をたたく人、あなたが寝ている間に、いつも二人で、宇宙戦争、あの日 欲望の大地で、リミッツ・オブ・コントロール、リカウント、その男は静かな隣人、カオス・セオリー、マイケル・ジャクソン THIS IS IT、刑事マッカロイ、枢機卿、野望の系列、僕の大事なコレクション、イン・ハー・シューズ、MI:2、知りすぎた男、裏窓、舞台恐怖症、ナチョ・リブレ 覆面の神様、聖女ジャンヌ・ダーク、愛を読むひと、レスラー、デュプリシティ、ウエディング・クラッシャー、天使のくれた時間、最高の人生、ロック・ミー・ハムレット

欧州作品
フォロー・ミー、画家と庭師とカンパーニュ、アラトリステ、チェ 28歳の革命、マルタのやさしい刺繍、チェ 36歳の手紙、英国王給仕人に乾杯!、裏切り者、リトル・オデッサ、エレジー、ロルナの祈り、動物農場、いのちの戦場 アルジェリア1959、時計仕掛けのオレンジ、夏時間の庭、アライブ 生還者、BOY A、犯罪河岸、THIS IS ENGLAND、幽霊と未亡人、彼女の名はサビーヌ、刑事、マン・オン・ワイヤー、人生に乾杯!、96時間、ルパン、奇人たちの晩餐会、パイレーツ・ロック、湖のほとりで、ポー川のひかり、ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵No.1と呼ばれた男 Part1 ノワール編、Part2 ルージュ編、未来の食卓、HELP! 四人はアイドル、ビートルズ ファースト・ライブ・イン・アメリカ、夜の終わりに、約束の土地

南米作品
コレラの時代の愛、神の羊、オリンダのリストランテ

ロシア作品
懺悔、チェチェンへ アレクサンドラの旅、マザー サン、ファザー サン、痛ましき無関心、日陽はしずかに発酵し

イスラエル作品
シリアの花嫁、戦場でワルツを。

イラン・中近東作品
そして 私たちは愛に帰る、クロッシング・ザ・ブリッジ、愛より強く、太陽に恋して、雲が出るまで、子供の情景、パンドラの箱、僕たちのキックオフ
北欧作品

ホルテンさんのはじめての冒険
東南アジア作品
コウノトリの歌、母と娘(ANAK)

豪州作品
オーストラリア

<お勧め作品>
・愛のむきだし(6時間が退屈に思えない)
・ポチの告白(警察告発映画)
・小三治(芸人の生き様)
・ディア・ドクター(偽医者を通して医療を考える)
・精神(精神疾患を抱える患者と医師の交流)
・ちゃんと伝える(伝えることの大切さ)
・バスーラ(貧困を生きるアジア)
・沈まぬ太陽(企業の論理に翻弄される男)
・母なる証明(これが母の愛なのか)
・胡同愛歌(古き良き中国)
・四川のうた(開発に沈む中国農村)
・スルース(探偵と泥棒の二人芝居。リメイク版)
・リダクテッド(戦争の恐怖)
・女工哀歌(エレジー) (アジアの低賃金労働の実態)
・グラン・トリノ(許すことを学んだイーストウッド)
・女バス(女子バスケットボールに打ち込むドキュメンタリ)
・扉をたたく人(目的を持って生きることの大切さ)
・ロルナの祈り(社会の闇に生きる人々と真実の愛に目覚める女性の物語)
・BOY A(人は新しく生き直せるのか)
・未来の食卓(食を考える)
・シリアの花嫁(パレスチナを考える)
・そして、私たちは愛に帰る(許すことの大切さ)
(山本和利)

幻のU937


2月1日、留萌市立病院の笹川院長の講演『地域医療マインドと研究マインド』を拝聴した。札幌医大1,2年生向けの授業でもある。札幌医大時代は卓球部で活躍。研究生・助手時代に教授に内緒で行った免疫抑制物質U937研究についての苦労話があった。その後、成果がでずお蔵入りとなった。学位をとって道立病院へ赴任となった。振り返ると研究マインドとして筋道を立て辛抱強く失敗にくじけない精神が涵養された。人類への貢献に関われたし、学位取得で一区切りついた。

1993年、教授に留萌市立病院で赴任するようにいわれた。留萌の紹介。人口65,000人。生活習慣病(癌、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、認知症)の増加は全国と同じ。病院で死亡する率は80%。国の方針はベッド数の減少。どこで最期を迎えるか?

地域医療の現状。
留萌地区では医療難民の増加が問題となっている。高齢者が地元で最期を迎えることができない。自治体病院のベッド数は10%にとどまっているのに、へき地医療拠点、救急救命、災害医療センター、賞に医療拠点、がん診療連携拠点、を担わされている。救急、産科、小児科を担うことで約2億円が不採算となる。2008年から新ルールができて、各市町村が応分に負担してもらうようになった。2007年度8億の赤字が2010年に1億円の黒字となる。

「地域住民の声をよく聞き、地域医療マインドをもってよく考える」
広域医療連携が必要。一人診療所が多い。南北に150km。ER型救急である。専門医が待機して院内連携が重要である。

地震への備えが必要。チーム連携が重要。

連携の地域医療力アップが必要。10年前から在宅診療を継続している。予防ケアとして健康の駅でコホート研究をしている。3年が経った。カズノコの作用、インスリン抵抗性、等を研究。2月1日、病院横に在宅支援診療所・東雲研修診療所が開設される。
「住み慣れた地域、住宅で、できるだけ最期まで、自立した形で残りの人生を過ごせるように支援してほしい」という住民の声がある。「町がひとつのホスピタル」構想。在宅で社会性を保てるが、一方で家族の負担増や急変時の対応への不安等がある。「治す医療から支える医療へ」地域で完結できる連携医療を目指す。脳卒中地域連携パス。地域連携一生パス。慢性期の患者には多職種連携。福祉の連携。高齢化率が30%を超える。

キーワードは『連携』。インスリンパワー検診の話。この低下が生活習慣病である4疾患の発生につながっている。道内5大学が留萌で連携。途中、留萌の食材を紹介された。

トップダウンからボトムアップ。システムでなく、優れた医療人を育成。
早期に地域に接触し、勤務後も最新の知識・技能を研修し、学び続ける。

地域に望まれる医師像「病気・人・地域を診る」が求められる。笹川先生の精力的な行動力に圧倒される話であった。このような積み重ねがあって地域医療が再生してゆくのであろう。(山本和利)