札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2014年7月22日火曜日

膠原病診療


 

7月20日、日本内科学会第51回生涯教育講演会が行われた。

 

京都大学 三森 経世先生

 

■膠原病診療

 

膠原病の一次スクリーニングは抗核抗体で行うが、40倍をカットオフポイントにすると正常者でも40%ある。160倍を推奨。40.80倍はグレイゾーンである。

SLEには、抗DNA抗体、抗sm抗体、抗リン脂質抗体をチェックする。

 

抗dsDNA抗体、抗ssDNA抗体、抗sm抗体、抗U1RNP抗体で評価をする。抗U1RNP抗体は、Raynaud現象、肺高血圧症、髄膜炎でも陽性になる。

 

疾患の見当がつかないときは、抗RNP抗体、抗SS-A抗体、抗ssDNA抗体がよい。LE細胞は用いる必要はない。

 

PSSは、抗Scl-70抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体を測る。

 

多発筋炎・皮膚筋炎では、抗JO1抗体、抗ARS抗体を測る。

 

RAでは、抗CCP抗体の感度・特異度が高く、早期診断や予後推定に有用である。

冠動脈疾患


 

7月20日、日本内科学会第51回生涯教育講演会が行われた。

 

岡山大学 伊藤 浩先生

 

■冠動脈疾患

 

安定狭心症患者に冠動脈インターベンションをしても生命予後を改善しない。有害ですらある。

 

診断コンセプトを変える必要がある。虚血の診断よりもリスクの層別化が重要である。

フラミンガム危険因子、クレアチニン値、高感度CRP、頸動脈IMT,ABI,単純CT、などで評価。

高感度CRP、単純CTが重要である。

CRPは補体の活性化を行い、慢性の動脈炎症を起こす。

動脈硬化は食後作られる。採血は食後行い、中性脂肪を評価する。

 

 

生命予後改善をもたらす治療薬は、ACE阻害薬、β遮断役、スタチン、抗血小板薬、エイコサペンタエン酸などがある。LDLコレステロール値の値にこだわらず、リスクの高い患者はスタチン内服が進められる。

 

何より、加齢によるサルコペニア(筋肉減少)予防のため、運動と食事療法が重要である。岡山での全県あげての取組を紹介された。

 

 

B型肝炎


 
7月20日、日本内科学会第51回生涯教育講演会が行われた。
 
信州大学 田中栄司先生
 
■B型肝炎(HBV)
 
B型肝炎は多彩な病態を示す。
HBsAg(現在感染)
HBsAb(過去感染)
HBcAb(現在+過去感染)の3つでスクリーニングをする。

HBV DNA量が7ログ以上が高容量、4ログ以下が低容量である。
複製の起点であるHBVcccDNAをどの薬も破壊できないため、HBVを完全に排除できない。
 
日本人に多いGenoetypeC,Bjである。B型はインターフェロンに反応し、非活動性に移行しやすい。A型はキャリア化しやすい。
 
治療薬はインターフェロンと核酸アナログ(エンテカビル)である。インターフェロンは治療期間が2448週間と限定されている。核酸アナログはHBV複製過程を直接抑制する。今年度登場するテノホビルは妊婦への安全性が高い。インターフェロンはdrug freeをめざし、35歳未満の非伸展性活動性肝炎が適応となる。
 
HBs抗原陽性のHBVキャリアでは、通常の化学療法でも高率に再活性化する(Denove肝炎)ため、基本的にエンテカビルの予防投与を行う。
ステロイドは、ウイルスを直接刺激し、リバウンドを起こすので要注意である。
 
 
 

慢性骨髄性白血症




 

7月20日、日本内科学会第51回生涯教育講演会が行われた。

 

近畿大学 松村到先生

 

■慢性骨髄性白血症(CML) 

 

CMLは造血細胞レベルの細胞に、染色体転座が起こり、フィラデルフィア染色体上に形成された融合遺伝子が恒常的に活性型チロシンキナーゼとして、過剰な生存・増殖をもたらすことで発症する。

現在、治療はチロシンキナーゼ阻害薬であるイマチニブである。5年生存率は89%である。

第二世代のニロチニブ、ダサニチブが開発され、有効性はイマチニブを上回っている。しかし、これらの薬剤はCML細胞を死滅させないことから、一生涯継続する必要がある。年間薬価は700万円である。とは言え、イマチニブ中止5年時点で約40%の症例が寛解を得ている。

 

 

多発性硬化症




 

7月20日、日本内科学会第51回生涯教育講演会が行われた。

 

九州大学 吉良潤一先生

 

■多発性硬化症

 

再発、寛解を繰り返す自己免疫性の脱髄疾患である。疑ってMRを撮ると診断できる。髄液検査で細胞・蛋白増加がみられ、オリゴクローナルIgGバンドがみられる。

Th17/Th1細胞が寄与する。日本では視神経脊髄型が多い。AQP4抗体がアストロサイトを破壊する。

日本では2013年現在、17,000名の患者がいる。女性で増加しており、若年化している。高緯度地区で多い。遺伝と環境の相互作用で、EB,ピロリ菌、ビタミンD欠乏、タバコが関係する。

 

治療は、急性期はステロイドパルス療法で、効果不十分の場合は血液浄化療法を追加する。

再発防止には、インターフェロンβである。

効果不十分の場合は、フィンゴリモドが使用される。副作用で、徐脈性不整脈、ヘルペス罹患、黄斑浮腫がある。

ナタリズマブ(インテグリンに対するモノクローナル抗体)が使用できる。年間薬価は300万円する。JCウイルス抗体陽性者では、進行性多巣性白質脳症の発症リスクが増す。

 

 

 

内科地方会から




 

7月19日、日本内科学会第271回地方会が行われた。

 

症例からのtake home message

 

■逆流性食道炎加療中の患者で下痢が続く。ランソプラゾールによるcollagenous colitis の可能性を考える。縦走する線状潰瘍が特徴。

 

■栄養不良患者を急激に栄養改善を図ったとき起こる障害をrefeeding syndromeと呼ぶ。BMIが16以下のときは栄養投与前から電解質、ビタミンの補給をし、水分、熱量の補給を小量から徐々に増量すること。

 

■発熱のみの側頭動脈炎もある。臨床症状の乏しい不明熱の鑑別診断の一つである。

 

■肺クリプトコッカス症(続発性)は、糖尿病患者ではHIV患者についで多い(12%)。死亡率は15%で、非糖尿病患者の23倍高い。

 

■癌治療中の視力障害は、眼寒連網膜症を考える。

 

リネゾリド (linezolid) 抗生物質の一種で、バンコマイシンに対する薬剤耐性を獲得したバンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin-resistant Enterococci, VRE)および黄色ブドウ球菌 (Vancomycin-resistant Staphylococcus aureus, VRSA) に有効な新薬として登場した。安易に長期投与すべきではない。薬事性末梢神経障害を起こす。

 

■前立腺炎の治療中に、感染性動脈瘤が発見された報告。

 

■8トリソミーを伴う骨髄異形成症候群では、小腸潰瘍、結節性紅斑などベーチェット様症状を伴うことが多い。

 

 

 

2014年7月18日金曜日

Community as Partner



 

623日、黒松内診療の寺田豊先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域診断とは:community as partnerである。

 

ある地域に赴任して地域医療を始める時、「あなたは何から始めますか?」という問いかけから授業は始まった。

 

自己紹介。月寒の家庭医量センターの紹介。患者さんの描いた絵。「にほんの里」100選のひとつ。太平洋と日本海にどちらも30分で行ける。ぶなの北限。

 

源流に遡る。どうする?

上流におんぼろの穴のあいた橋があった。下流での救命対策より、予防が大切。地域医療は後追いの病院医療ではない。ドイツの「クアオルト」(健康保養地)1)病院などの治療施設、2)専門医、3)交流施設、4)滞在プログラムを義務付け。静岡県の朝霧高原診療所。「優先順位を明確にした生き方」

 

黒松内 Phptp-Elicitation 2013(写真を使って引き出す)「黒松内で生きる」何もないからいい。清明な風景。水彩画展を開催。「田中式体操を普及中」鶏の放し飼い。何もないからできる。和菓子を作る。だからこそ、美味しい風景。「探してみよう!地域医療」の企画。

 

地域医療って何でしょうか?

学生各自に定義してもらう。

「地域に根ざした医療」(地域によって異なる)

地域医療の意味するところ?「地域診断をしてはじめて地域医療である」

Community-oriented primary care

65歳女性、OPLLに罹患。地域を知る手法「フォトボイス」PhotovoiceWang, et.al,2004):写真にナラティブを付ける。ここで有名なphotovoice「不満の探求」(スクールバスの窓に残る銃痕)を紹介。「僕の乗っているバスは毎回違うと断言できます。なぜなら、窓の弾痕の穴が毎回違うからです」写真を撮って言葉をつける。テーマに合わせて写真を撮る。皆で振り返る。月寒で実施。アンパン道路。

 

 

 

地域視診:自分の足で(community on foot)。地区視診の16項目

  1. 家屋と街並み、2)広場や空き地の様子、3)境界、4)集う人々と場所、5)交通事情と公共交通機構、6)社会サービス機構、7)医療施設、8)店舗、9)町を歩く人々と動物、10)地区の活気と住民自治、11)地域性、12)信仰と宗教、13)人々の健康状態、14)政治に関すること、15)メディアと出版物、16)その他
  2.  
    Community as Partner Model:地域をパートナーとして位置づけ、共に取り組んでいくことを強調している(E.T. Anderson, 2004)。車輪の中心に住民がいる。8つのサブシステムを設ける。黒松内で実施。1)物理的環境、2)保健・医療・福祉(ホームレス健診)、3)経済(商店街)、4)安全と交通(SOSネットワーク)、5)政治と行政、6)コミュニケーション(広報誌)、7)教育、8)リクレーション(遊び場)。
     
    黒松内緊急経済対策。
    黒松内ぶなの森自然学校。
    黒松内マナヴェール(生涯学習施設)。黒松内トワ・ヴェール(道の駅)
    。黒松内遊ヴェール。
    保健と医療。専門医がいない。黒松内「クアオルト」構想。地域医療を予防的観点、健康保険の視点から町おこしを進めてゆく。
     
    地域のパートナー:いいところを知っている。ナートナーシップは「2乗の幸せ」
    地域医療とは、そこにあるものが、かけがえのないつながりを持ち、誰一人としてかけることのない医療のあり方である。
     
    最後に学生に「地域医療」を考えてもらった。「地域のニーズに合わせる」「経済や社会も含める」「患者さんの背景、環境からも診て行く」「巻き込まれて地域を見てゆく覚悟が必要」「その地域で育った人の特性」「人だけでなく地域全体を元気にする」等の意見が出た。
     
    黒松内に赴任して新しい課題にチャレンジしている寺田先生である。(山本和利)
     
     

2014年7月8日火曜日

地域医療実践のために



 

616日、江別市立病院の日下勝博医師が講義を行った。

 

まず自己紹介。自治医大卒。道立羽幌病院、焼尻診療所勤務。道内の中小病院で過ごしてきた。どこも人手不足、崩壊の危機。総合診療とは?地域医療とは?その答えを探す旅であった。

 

総合診療って何?「広く浅く」では使えない。「広く深く」はありえない。「広く中程度」ではインパクトがない。

 

焼尻島での事例。人口350名。陸まで船で1時間。50歳さん。「なんとなく頭が痛い」1年前から。いろいろな病院に行った。

脳外科、婦人科、整形外科、内科に行った。

「単なる頭痛」「更年期障害」「高コレステロール血症」「胆石」

これらに7種類の薬を処方された。

 

よくある筋緊張性頭痛、鎮痛剤の飲みすぎ。カフェインの飲みすぎ。

コーヒーを我慢して、薬をできる限り減らしたら頭痛は改善した。

 

80歳男性。元気がなくて寝てばかりいる。「高血圧、糖尿病、高脂血症、認知症、不安神経症、前立腺肥大症。

16種類の薬が処方されていた・ほとんど内服していない。薬を最小限にした。

 

専門医は専門分野に深い知識と確かな技術。専門分野の中で考え、分野外のことに口出ししない。合成の誤謬(個々では正しくても、全体ではおかしい。)バランスよくみる医者の不在。

 

総合診療とは、患者の問題を総合的に解決すること。

 

江別について。人口12万人、酪農とレンガの町。337床。「大きな田舎」である。西の舞鶴、東の江別。

崩壊の原因。縦割り・細分化の弊害。

疾病構造の変化。

札幌との競合。

 

ある夜の救急外来。84歳女性。慢性心房細動、慢性心不全。感冒症状後、食欲なし。循環器科医は「肺炎」、呼吸器内科医は「心不全」。総合診療医「肺炎を契機に心不全が悪化した」

 

臓器を特定できない。いろいろな臓器が悪い。Commonで単純な問題。地域の要となる。→地域の中小病院。病院総合医があってもいいのではないか。

 

研修医を核としたチーム医療

受け持ち患者一覧を供覧。肺炎等、感染症が多い。

 

症例提示。59歳女性。右背部通、上腹部痛。胆嚢に胆泥あり。右下腹部に圧痛。CTで憩室あり。右足のしびれ。→転移性脊椎腫瘍。

 

最後に

地域医療の現場では

知力、胆力、哲学、体力、魅力、少々の運、が必要。

 

町立南幌病院プロジェクトを紹介。

深刻ではないが複雑。

看護婦不足。

守りから攻めの地域医療を目指す。

 

具体的に総合内科の診療を提示しながら、地域医療・総合診療について語ってくれた。(山本和利)