札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年11月30日水曜日

科学的思考

『「科学的思考」のレッスン 学校で教えてくれないサイエンス』(戸田山和久著、NHK出版、2011年)を読んでみた。

本書は学生向きに書かれた啓発書である。2部に分かれており、第一部は科学的に考えることとはどういうことかが書かれている。第二部は賢い市民が持つべき科学リテラシーについて書かれている。

第一部.
まず、科学が語る言葉(科学的概念)と科学を語る言葉(メタ科学的概念)を区別しなければならない。それを理解した上で、「100%の真理と100% の虚偽の間のグレーな領域で、少しでもよりよい仮説を求めて行くのが科学という営みである」と考える。科学的であるとは、予言を当てることができる、その場しのぎの仮説や要素を含まない、すでにわかっていることを同じ仕方で説明できる、等が求められる。
 
推論は次のように分けられる。
■演繹
■ 非演繹
1)帰納法:個別の例から一般性を導く
2)投射;これまで調べた事例から、次のケースを推測する
3)類比:二つのことがらはこの点で似ているから、それ以外の点でも似ているかもしれない
4)アブダクション:今までわかっていたことだけでは説明できないが、新たな仮説を置けば説明できる

演繹的推論では、真理保存的であり、前提が正しければ結論も必ず正しいが、情報量は増えない。一方、非演繹的推論では、結論が必ずしも正しいとは限らないが、結論において、情報量が増える。

科学で重要なことは、反証事例を探すことである。「科学は反証に開かれている」(カール・ポッパー)。また、実験はコントロールされていなければならない(対照実験でなければいけない)。人間相手の実験をコントロールするのは結構難しい。プラセボ効果等があるので、一つだけ条件を変えて、他の条件は完全に同じ対照実験にすべきである。単独データでは、どれだけ高い確率で治ったとしても有効とはいえない。重要なのは高い確率ではなく相関である。それを診るために四分表を作成することが有益である。系統誤差を避けるために、ランダム・サンプリングが重要となる。また、相関から因果関係の推論は慎重にしなければならない。

科学・技術だけでは解決できない問題が3つある。
1)科学技術自体が希少資源であること

2)トランス・サイエンスな問題がある
・知識の不確実性や解答の現実的不可能性
・対象がそもそも不確実な性質を持つ
・価値判断とのかかわりが避けがたい

3)科学・技術自体が問題になる
・倫理の空白地帯をもたらす:出生前診断
・技術は本質的に不完全なまま社会に放たれる

第二部.
科学・技術のシビリアン・コントロールをしなければいけない。市民はこのための科学リテラシーを持っていないといけないが、市民の科学リテラシーは知識量にあらず。必要なことは、「科学がどのように進んでゆくのか」、「科学がどういうほうに政策に組み込まれるのか」、「科学はどんな社会状況が生じたら病んでいくのか」、を問うメタ科学的知識である。
科学リテラシーを役立てるよう、社会的意思決定にしっかりと参画して、影響力を及ぼせる仕組みを作ることが重要である。「コンセンサス会議」を立ち上げ、市民が先に問題を立って、適切なフレーミングで行う必要がある。なぜなら、専門家と市民とで食い違うことが多く、そもそも科学とは答えることのできる問題だけを問うものだからである。

市民の科学リテラシーは次の10に集約できる。
1)提供された科学情報に適切な問いを抱くことができる。
2)科学の手続きには必ずモデル化と理想化が含まれることを知っている。
3)一つの情報ソースを鵜呑みにしない。「わかりやすさ」には落とし穴がある。喩えだけで満足しない。
4) 「わからなさ」がきちんと伝えられているかをチェックできる。断定的な物言いを疑う。
5)科学者の発言に、必ず外挿や推定が含まれていることを知っている。
6)強調点の置き方によって正反対の含意をもつこともあることを知っている。元ネタ情報を入手する。
7)異論が並立していることを知っている。その異論の背景には政治的対立の可能性があることを知っている
8)自分のリスク認知にはバイアスがあるということを知っている。数値化されたリスクを参考にできる。
9) 科学・技術に「安心」を要求することは合理的で、科学的・学問的に議論できることを知っている。
10)リスク論争は、フレーミングの不一致に根ざしていることを知っている。複合的・多元的なフレーミングを提案できる。

第二部では、福島第一原発事故を事例として検討を加えている。科学を社会にどのように適用させるかについて、大変参考になる書物と言えよう。(山本和利)

2011年11月29日火曜日

Community as Partner

11月29日、月寒ファミリークリニックの寺田豊先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域診断とは:community as partner」である。

ある地域に赴任して地域医療を始める時、「あなたは何から始めますか?」という問いかけから授業は始まった。

厚岸町の地域診断の事例を紹介。人口11,410人、世帯数4,474世帯。産業は漁業と酪農。
デルファイ法:専門家が独自に意見を出し合い、それを相互に参照し再び意見を出し合うという作業を繰り返す、でアンケート調査をした。
健康課題の上位ランクは、1)高齢者にかかりつけ医が不在、2)少年期の生活リズムの乱れ、・・・。高齢者独居や子供のおやつの「箱買い」が問題として挙がった。

学生時代に実習に行った揖斐村。そこで出会った言葉、「地域診断してはじめて地域医療と言える。」
を紹介。

地域視診:自分の足で(community on foot)。地区視診の16項目
1)家屋と街並み、2)広場や空き地の様子、3)境界、4)集う人々と場所、5)交通事情と公共交通機構、6)社会サービス機構、7)医療施設、8)店舗、9)町を歩く人々と動物、10)地区の活気と住民自治、11)地域性、12)信仰と宗教、13)人々の健康状態、14)政治に関すること、15)メディアと出版物、16)その他
について、学生各自に自分が住んでいる地区について書いてもらった。その間に天売島の事例を紹介。Windshield survey(車窓から評価する方法)もある。

Community as Partner Model:地域をパートナーとして位置づけ、共に取り組んでいくことを強調している(E.T. Anderson, 2004)。車輪の中心に住民がいる。8つのサブシステムを設ける。1)物理的環境、2)保健・医療・福祉(ホームレス健診)、3)経済(商店街)、4)安全と交通(SOSネットワーク)、5)政治と行政、6)コミュニケーション(広報誌)、7)教育、8)リクレーション(遊び場)。

Photovoice(Wang, et.al,2004):写真にナラティブを付ける。ここで有名なphotovoice「不満の探求」(スクールバスの窓に残る銃痕)を紹介。

Assets Mapping(McKnight,1993):強みを探して地域資源を地図化する。元気がでてくる。地元学とも言う。地域にはいいものがあるはずだ(participatory rural appraisal )。

Social mapping:社会的、物理的な空間を意識する。
地域づくりのための12の再生の法則(後藤哲也:黒川温泉で有名)を紹介。
「地図は現地ではない」(コージブスキー、1879-1950)

絶えず新しい課題にチャレンジしている寺田先生である。地域医療の奥深さを知り、感銘を受けたという学生からの意見が少なからずあった。(山本和利)

北海道地区サーベイヤー説明会

11月28日、札幌で開催された日本専門医制評価・認定機構の北海道地区サーベイヤー説明会に参加した。

松田暉研修施設委員会委員長からの挨拶。専門医制度の標準化をしたい。改革をして社会一般で認識される必要がある。認定のプロセスの透明化を図り、第三者機構が行うようにしたい。ACGMEを参考にしてプログラムと研修施設を評価する(サイトビジット)。

昨年、基本領域の18学会(精神科は辞退)の40施設を訪問した。
基本領域18学会の北海道地区から推薦されたサーベイラー(調査員)16名が集合した。そして、研修施設を評価する(サイトビジット)意義やその方法が説明された。

2011年度計画として、施設訪問調査の要領、1)サーベイヤー制度、2)調査票、3)評価の方法、が具体的に説明された。北海道では、札幌市内の5施設を年度内に視察する予定である。最後、質疑応答があり、終了となった。

専門医制度が国民目線に立ったものになるよう尽力したい。(山本和利)

2011年11月28日月曜日

北海道家庭医療フォーラム

2011年の北海道家庭医療フオーラムが札幌駅前のアスティ45において開催されました。

前半は江別市立病院 若林崇雄先生と月寒ファミリークリニック泉 京子先生
のお二人の若手医師から学生に向けてキャリアパスについての講演がありました。
お二人ともプライマリケア学会が認定する専門研修を終えた家庭医療専門医の
第二期生です。

若林先生は「私がgeneralistになったわけ」と題し先生自身のキャリアを
たどりながら、総合内科の魅力についてユーモアを交えながら解説されました。
若林先生よると医師人生3分割論があるとの持論を披露されました。
医師の人生は1 ~ 10年目を修業期、11 ~ 20年目を労働期、21年目以降を後年期
と分けてキャリアパスのポイントは医師人生の年数によって訪れるとのこと。
そのことを踏まえ、「人間は自由を与えられると不自由になる。」として
現在の若手医師のキャリアが直面する状況として医局制度が崩壊し、臨床研修制度
により、医学生には自由な選択肢が与えられたが、後記研修以後のキャリアパスを
導く事ができずに多くの人が迷っている、と解説されました。
そして総合医の多彩な可能性と様々なキャリアパスがある、とアドバイス。

泉 京子先生は北海道家庭医療センターと勤医協中央病院で後期研修に進んだなかでの
気付きを中心に家庭医としてのキャリアを積んだ経験を講演されました。

泉先生は当初より家庭医を志し、室蘭日鋼記念病院から北海道家庭医療学センター
の家庭医療プログラムに進まれた。後期研修で僻地や離島の診療所において第一線の
プライマリケアに従事していたが5年目にキャリアの見直しを行い、病棟での
診療経験が必要と考えて勤医協中央病院総合診療部で再研修を行ったとのこと。
医師5年目という中堅となってからの再研修や異なる病院での勤務についての不安
と葛藤、またそこでの気づきと発見が成長の糧となっていく様子を、時には女性
らしい視点を交えて率直に語られました。現在は若くして月寒ファミリークリニックの所長として活動されています。

引き続いてワールドカフェ形式で学生さんとファシリテーター役の若手医師がグループワーク。ディスカッションの中でキャリアプランとライフプランについてさまざまな疑問点が抽出されました。

後半は道内の家庭医養成コースをもつ後期研修プログラム担当者から
施設と研修内容についてのプレゼンテーション。引き続いて全員の記念撮影。


最後に若林・泉両氏に学生からの質問に答えていただき、続いて後期研修プログラム責任者により「北海道の家庭医療」「家庭医・病院総合医の育て方」をテーマとしてパネルディスカッションが行われた。

主な内容としては北海道の家庭医療の現状、専門医との協力の仕方、
医師人生での地域医療への携わり方、大学の家庭医療教育の役割、
結婚と転勤などでした。

その後は軽食を取りながらの懇親会となり、打ち解けた雰囲気の中で学生と医師
の情報交換が行われました。

北海道家庭医療フォーラムは今回で4回目となり学生22名、医師23名、事務方
より5名の計50名の参加があり大変盛況となりました。
各学生も日ごろから医療系のイベントやインターネットなどを通じて盛んに
情報交換やつながりをもっています。彼らがやがて家庭医・総合医となって
北海道の地域医療を変えていってくれることを願っています。(助教 稲熊良仁)

2011年11月26日土曜日

田舎暮らし

11月25日、 FLATランチョンセミナーが行われました。
講師は松前町立松前病院 木村眞司院長、タイトルはずばり、「田舎暮らし」です。
FLATのメンバー13名参加。

まず、木村先生がFLATメンバーの出身地の人口を質問。人口1万人程度の地域出身者は1名だけ(因みに松前町は人口約1万人弱)。そこから「田舎」という言葉のイメージをどんどん質問していき、「田舎にあって都会にないもの」、「田舎にはなくて都会にあるもの」などをメンバーに聞きながらランチョンは進行。

・田舎にあるもの:人とのつながり、文化(食文化として漬物など)、伝統(お祭り、しきたり;例えば葬儀で読経の際に10円玉を投げるなど)、
・田舎にないもの:デパート、レンタルDVD、大きな書店など。

ここまでで「田舎」という単語のイメージを再確認しました。そしてその「田舎」での3つの環境(生活・勤務・教育)について松前の様子を説明。勤務環境では、限られた医師、専門家がいない、週末の町内待機、学会などの勉強会にアクセスしにくい・・・などなどでした。

ただ、医師の「生涯学習」については、都会でも田舎でも本人のやる気次第で、環境の問題ではないとの指摘に、ドッキっとする自分・・・。

FLATメンバーから「自分の好きなことをする時間はあるか?」と質問がありました。
木村先生の答えは勿論「Yes!!」。野鳥観察、畑、釣り、読書などたくさんの趣味をもっていらっしゃり、この前はビニールハウスも作ったということですから驚きです。

 将来、地域医療に従事するメンバーに「田舎」で働くこと≒「地域医療」をわかりやすく解説してくださった大変興味深いランチョンセミナーでした。(助教:武田真一)

2011年11月25日金曜日

自治医大OB学生交流会

11月25日、自治医大におけるOB学生交流会に招かれ、参加した。

卒業生の活動が紹介され、医師に必要な能力についてのミニ講義、そして地域ににおける具体的な活動の報告があった。

私に締めの言葉を求められたため、「自治医大卒業生の利点は、お金をもらって若者が嫌がる苦労が買えることである。地域で輝ける青春を送ることが、中年クライシスを乗り切る道である」とエールを送った。

参加した学生は、ほとんどが黒のスーツにネクタイで望んでおり、凛々しい青年たちであった。「青年よ、地域で輝け!」(山本和利)

松前での取組

松前町立松前病院木村眞司先生講義
今日は医学部4年生「地域医療」の中の
「松前での取組」と題した木村先生の講義を拝聴した。

まずは木村先生自身の自己紹介から始まった。
日本国内にとどまらず多彩な経験をお持ちである。
松前病院では「全科診療医」として診療に当たっている。
医師としての目標として、
1)ジェネラリストとしてやりたい。
2)地域医療の向上
ということを挙げられていた。

続いて松前病院の紹介。
医師11人(スタッフ6人 後期研修医5人)
そのほかにも常に初期研修医や医学生が入れ代わり立ち代わり出入りしている。
そんな中での松前病院の1週間。
朝の勉強会・症例カンファレンス・老人ホームの回診・多職種カンファレンス
研修医の教育回診などなど、病院内の仕事は多彩で
そういう魅力にひかれ、研修医・学生が北海道内外から訪れている。
水曜日・木曜日はインターネットによる症例カンファレンス・講義が行われている。
これは当講座も参加しているが、取りまとめを松前病院が行っている。
全国で70カ所。約200人が参加。

続いて、松前病院でよくみられる病気と題して
1昨年の木村先生の外来を受診した患者さんの問題リストの統計が紹介された
頻度順に
消化器系…便秘 脂肪肝 胆嚢摘出後
循環器系…高血圧 狭心症 心房細動
呼吸器系…気管支喘息 COPD ニコチン依存
血液系……鉄欠乏性貧血 正球性貧血 再生不良性貧血
代謝内分泌…糖尿病 脂質異常症 耐糖能異常
腎…………腎機能障害 糖尿病性腎症 前立腺肥大
婦人科……子宮筋腫
神経系……パーキンソン病 糖尿病性神経障害 脳梗塞後
精神科……不安神経症 鬱病 不眠症
心理社会的…独居 家庭内の問題 介護ストレス
などなど、実に多彩な病気・病態を診療している。
「本当は医学部授業で頻度順に教えられればいいが、、、」
との木村先生の感想はまさにその通りだろう。

続いて、「松前を楽しむ」と題して、
家庭菜園の話やビニールハウスの作成秘話・新企画「釣り」などの紹介があった。
どの企画にも松前病院の研修医の先生や実習に来た学生が参加しており、
非常に和気あいあいとした楽しい雰囲気を感じることができた。
中には、今日の講義に参加している学生の写真もあり、非常に盛り上がった。
病院内で開かれた札幌医科大学医学部合唱部のコンサートの様子も紹介されていた。

はなむけの言葉として、木村先生自身が送られた言葉として
塚田英之先生の
「若くありなさい。そして、若いうちは何でもしなさい」
ドイツの著名な物理学者の
「外の世界を見なさい」という言葉を紹介していた。
最後のまとめとして、
松前病院がやっていることは、どこもやっているようなこと。
至極当たり前のこと。でもこの積み重ねが大切。
これをやるのである。
勉強し続ける。最善を尽くす。楽しむ。
松前のため、北海道のため、日本のために。
と締めくくっていた。
非常に興味ひかれる講義であった。(助教 松浦武志)

2011年11月24日木曜日

糖尿病地方会

11月23日、札幌市で開催された第45回日本糖尿病北海道地方会に参加した。

疫学
・20年間の糖尿病患者像の変化:インスリンと多剤併用群が増え、HbA1cは改善していたが、高血圧、高脂血症の併存が増え、糖尿病合併症・動脈硬化疾患と認知症が増加した。
・eGFRと糖尿病発症リスク:健診時のeGFRが。10年後の糖尿病発症のリスクであると報告した。単相関から推測しているので交絡因子である可能性がある(山本和利コメント)。

DPP4阻害薬
・肥満者にもDPP4阻害剤は有効であった。
・SU二次無効例に、長期的には効果が不十分であった。
・DPP4の製剤を変更することで、HbA1cの改善を認めることがある。
・SU剤とDPP4を併用するときには、低血糖を6%に認めるので、SU剤は減量すべきである。
・少量のインスリン治療者では、DPP4に切り替えができるかもしれない。

GLP-1作動薬
・インスリンで肥満、コントロール不良例にGLP-1作動薬に切り替えて著功した事例報告。
・インスリンを中止し、GLP-1作動薬とピオグリタゾンとの併用で内臓脂肪が著明に改善した事例。
・肥満糖尿病コントロール不良例にGLP-1作動薬に切り替えて改善を認めた事例。入院管理下で行うべきであろうと。
・肥満患者に体重減少効果があった。インスリンを止めても、HbA1c・血圧値も体重も減少。3カ月でピークを迎える。
・副作用として、胃腸症状が多い。
・非インスリン群に切り替えを行って、有効であった(95%)。罹病歴が短い、軽症例に効く。
・同じ注射薬であるが、インスリンより低血糖が少ない、最終的な薬ではないということで、患者にはインスリンよりも受け入れやすいようだ。

■ランチョン・セミナー:最適なインスリン治療戦略 昭和大学 福井智康氏。
・糖尿病患者は長期に経過観察すると、⊿CRPが低下する。
・強化インスリン療法に必要な情報:基礎インスリン:追加インスリン=3:7に近い。
・朝食後1時間値が重要である。より速く効くインスリンが好ましい。
・日中のインスリン感受性は増加する。ランタスはレベミルに比較してグルカゴン抑制作用が強い。その結果、血糖値が安定しやすい。早期に強化インスリン療法をすると、分泌能の保護に繋がる。
・持効型インスリンで空腹時血糖値をコントロールすると、速効型インスリン3回打ちから SU薬の併用に切り替えられる可能性がある。
・持効型インスリンとDPP4阻害薬との併用は有効であるという報告が出て来ている。(山本和利)

2011年11月23日水曜日

SHAMPOO

11月22日、月寒ファミリークリニックの寺田豊先生の「在宅医療」の講義を拝聴した。

ます写真を見せながら在宅診療を語った。在宅医療の一日を紹介。車で行くことが多い。

診療録はSAOPで書くが、在宅医療ではSHAMPOOを提案(寺田氏のオリジナル)。

SHAMPOO
在宅医療にはsoapよりシャンプーが必要。

Subject and Sign
出会う症状。だるい:脱水。便の訴え:うつ、・・・。 尿の訴え:頻尿、前立腺肥大。
、かゆい:疥癬、・・・。転倒:意識が変:脳卒中、徐脈、レビー小体病、・・・・。

House and Home
家と家族をみる。庭の様子をみる。
飾ってある写真。家族の歴史がそこにある。
昔の道具などを利用する。
家族と地域医支援。医療改革で、かかりつけ医を地域ケアの中心に。病院医療から在宅医療へ移行。
在宅医療を可能にする条件
家族の協力:39.7%。
・・・
Photo elicitation
隠されたものを引き出す。
写真から引き出せるもの。家族の「宇宙」を知る。
ジョハリの窓。フィードバックを利用して、患者さんの扉を開く。ある在宅患者さんの本棚に髙村光太郎の「知恵子抄」を発見。これが鍵だと直感した。ポロポーズ時のものであった。

ADL
活動性を評価する。
ここでADL(DEATH:dressing, Eating, Ambulating, Toileting, Hygiene)、IADL(SHAFT: Shopping, Housework, Accounting, Food preparation, Transport)を紹介された。

Medication and Meal
薬がない。冷蔵庫の中や畳の下。デンマークには風邪薬がない。風邪をひいたら即休養。

Plan and Prognosis
短期、中期、長期の治療計画を立てる。在宅看取りの率:日本は10%、米国は31%、オランダは31%である。おかえりなさいプロジェクトを紹介。

Object Data
患者さんの基本データ。尿回数、便の状況。室温、湿度も重要。「虫が体から出てくる」患者さん。便から虫がでてくるという「寄生虫妄想」であった。初老期の女性に多い。
認知症、移動機能障害を評価。
できるだけ薬を処方しない。

Open information
情報を共有し、多職種と連携する。

在宅主治医が担う役割
在宅診療に関する最終責任者、2.介護保険に関わる役割、3.在宅ケアチームの機能調整。病診連携。循環、連携できる医療システムのカギとなるのが在宅医療。Uターン(紹介元へ)、Iターン(病院の患者を適切な診療所に)、Jターン(紹介元とは別の診療所に)。オープンベッドシステムを広げる。

往診料:720点、在宅患者訪問診察料:830点である。

「往診」と「訪問診療」(診療計画を立て定期的に行う)を別に扱う。

外来診療:日本は14回/年、OESDは6回/年。診察回数:日本は7,000回/年。入院日数:日本は28日。医療資源について。日本は病院で患者さんを診る文化を作ってしまった。患者の受診回数、医師一人当たりの診察回数、急性期病床の平均在院日数は世界一である。

在宅医療に必要な知識・技能
1)患者や介護者のアセスメントができる、2)よく遭遇する問題への対応と予防ができる、3)在宅医療機器を用いての診療ができる、4)在宅医療関連の書類を作成することができる、5)コミュニケーション能力。

在宅医療で大切なこと。
「病気は家庭医で治すもの」「家庭的な雰囲気の中で」

最後に学生個々人が考える「在宅医療」に書いてもらった。その一部を紹介する。「患者さんと最も距離の近い医療」、「患者背景を重視する医療」、「思いやりのある医療」、「家族の一員になること」、「地域の担当医」、「体だけでなく心、家庭、生活、歴史に接する医療」

学生は今回の授業を通じて、「SHAMPOO」という概念でしっかりと在宅医療を理解し、在宅医療に興味を持つようになったようだ。(山本和利)

2011年11月22日火曜日

講座同門会


11月19日、当教室も1999年の創立以来12年を迎え、毎年の恒例である同門会が札幌医科大学で行われました。


当教室は現在37名の同門会員がおりますが、そのうち14名の参加にて午後1時より行われました。


教授、同門会長の挨拶に始まり、各参加者の1年間の振り返りを行いました。 振り返りは各自が事前に用意したパワーポイントのスライドで行います。 最初は現在の教室助教4人から、各自の自己紹介と1年の活動報告。 その後同門会員の発表に移りました。


振り返りのなかでは、震災の被災地に赴いた方、新天地で新たな取組みを試みる方、現在の職場でさらに発展をされた方、そして地元で患者さんの人生に寄り添う方、学問を追求される方、それぞれの多彩な活動の一端に触れることができ、非常に意義深いものとなりました。


本年度の地域貢献賞は合田尚之先生に贈られました。苫小牧で合田内科小児科医院を開業されながら、ご多忙な中で長年にわたり当教室を同門会長として支えて頂きました。最近では近郊の在宅医療にも積極的に取り組まれ、患者さんに寄り添う事と医師としての真摯な姿勢を後輩に示されておられます。

最後は教室長から同門会決算発表と会則の承認が行われ、記念撮影をしてその後の懇親会となりました。(助教 稲熊良仁)

つど医2011

11月19日、午前中に北海道の医療系学生North Powersが企画運営した。「つど医 2011 ~北海道の医療系学生集まれ!~」が札幌医科大学で行なわれていたため、参加してきました。

こうしたイベントをインターネットを駆使したネットワーク力で学校や地域の枠を超えて軽々と実行してしまう学生さんたちのパワーは素晴らしい。

多彩なイベントが行われましたが、私は午前中のみの参加で、夕張希望の杜理事長の村上智彦医師の講演「地域医療における医療者間連携」を聴いて来ました。

村上先生は北海道の歌登町出身。せたな(市町村合併の旧瀬棚町)の診療所で地域医療を始め、住民への予防医学に取り組んで1989年度、高齢者1人あたり治療費全国一を記録した一人当たり医療費を2002年度に約半分に減らしました。

村上先生の講演は私が1年目研修医であった2001年に地域医療総合医学講座の講義に来られ、初めてお会いした記憶があります。それから様々な事があり、村上先生の名前は全国区になり、現在の夕張希望の杜設立に至っています。

本日の講義は医療系学生向けに現在の夕張の現状をお話されました。夕張希望の杜のモットーは「支える医療」。患者さんのADLが下がっても「以前できていた事」を行なうことを支援するとのことでした。

車椅子であっても、パチンコに行き、脳梗塞後遺症があっても仲間でお寿司を食べに行き、日々に張り合いを持ってもらう。当初は周囲は「何かあったらどうするの?」と疑問を抱くそうですが、高齢者にとっては最低限の安全が保証されれば、リスクをとっても得られる喜びが大きいようです。曰く「誤嚥するなら病院食より楽しみにしていた寿司でするなら本望」。その言葉を裏付けるように写真の患者さんたちもスタッフも皆さん笑顔でした。年齢を重ねても、病を得ても患者さんの「人間らしさ」を実現する医療が夕張の医療であることが感じられる講演でした。(助教 稲熊良仁)

2011年11月21日月曜日

NO IMPACT MAN

『地球にさやしい生活』(ローラ・ギャバート監督:米国 2009年)という映画を観た。

ニューヨークに住む夫婦が環境に全く影響を与えない生活に挑んだ1年間の記録である。主人公は作家であるが、ブログNo Impact Man.comを立ち上げ、雑誌「タイム」が選ぶ環境に関する世界注目ウェブサイトでトップ15に挙げられているそうだ。

主人公が選んだ生活上の原則に次のようなことが含まれる。電車もエレベーターも使わない、食べ物は全て青空市場で買いゴミを出さない、外食はせずコーヒーも飲まない、生ごみはミミズを飼って土に戻す、レンタル菜園で野菜を栽培する、電気を使わない(冷蔵庫、洗濯機が使えない)。これでは余りに不便であるということで、少し工夫をして太陽電池を取り入れてコンピュータでブログは更新している。この辺のことがコミカルに映像化されている。

1年間限定で始めた生活であるが、中々大変である。夫婦喧嘩にもなる。とは言え様々な困難を乗り越えながら、少しずつ環境保護に対する二人の意識が変わってゆくのがわかる。行動も変わってゆく。自転車を手放さない。テレビは見ない。友人を招いて遊ぶ。できなかった料理を妻がするようになる、等。

原発事故以来、環境問題に対する日本人の関心が高まっている。今こそ沢山の日本人に観てほしい映画であるが、私が見た会は休日の昼なのにたった3名であり、あやうく私一人で貸し切りになるところであった。本作品を観ることで、自分の生活上、本当に必要なことは何なのかを考える契機になるだろう。(山本和利)

2011年11月19日土曜日

森聞き

『森聞き』(柴田昌平監督:日本 2010年)という映画を観た。

この映画は「森の名人」と呼ばれる老人たちの人生と技について高校生が聞き書きをした場面やそのための準備・まとめの場面等を映画にしたものである。そもそもは2002年から毎年行われている「森の聞き書き甲子園」という企画に、毎年100名の名人と高校生が選ばれ、これまでに900組の名人と高校生の出会いを演出しているという。その中から必ずしも優秀とは言えない高校生4名を監督が選んで、映像化したものである。

私が鑑賞した日に、監督が上映挨拶に見えており、その後有志が集まって監督を囲んでの懇談会にも参加した。そのとき、幸運にも選んだ名人や高校生に対する選択基準を聴くことができた。林業関係者のみならず、ハンターやマスコミ関係者も参加していて様々な分野の方々の話も聞くことが出来た。

監督は元NHKのディレクター。沖縄赴任時に戦争体験を織り上げる番組を企画し、それがうまくゆかず、それを契機に退職したと話されていた。『ひめゆり』という沖縄戦の映画も撮っている。高校生である娘さん世代の考え方を知りたいと言うことも映画作成をする動機の一つのようだ。

焼き畑の名人、茅葺きの名人、木に登っての杉の種取り名人、木こりの名人が登場する。技もすごいが、人生について語る内容も素晴らしい。名人それぞれ「いい顔」をしている。そのような仕事であるが、時代の変化とともに名人技を継ぐ人がおらず、消滅の危機にある。技を見せることがこの映画の主張ではないので、あえて技の全てを見せていないが、それでも私からすると感嘆する技である。

一方、インタービュする高校生の日常生活は丁寧に取材して映像化している。その結果、現在の高校生がどのような生活をしてどのような悩みを持っているのかの一端にふれることもできる。

本作品を通じて若者がどのように考えて、人と出会って仕事を選択してゆくのかがよくわかる。一つの仕事を長年続けている理由は、好きだからではなく、使命感であるというある名人の言葉が印象的である。(山本和利)

2011年11月18日金曜日

運動器急性疾患

11月16日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は札幌徳洲会病院の森利光院長である。テーマは「運動器急性疾患」で,参加者は10数名。

脳梗塞既往がありCre1.8の意識消失。脳外科、腎臓内科、循環器科、糖尿病科、整形外科では、どこも診たがらない。

高齢者には臓器別専門医の力は発揮できない。今までは専門医に診てほしい、といわれていたが、これからは総合医に診てほしい、になって欲しい。

総合医の必要性を訴え、研修医に熱いエールを送られた。

5項目を講義。そのポイントを示そう。
骨折;ろっ骨骨折は全外傷の10%。局所の圧痛は感度が高い。診断は治療に影響を与えない。「自転車から転倒。ハンドルを右胸部にぶつけた。呼吸苦はなし。第6肋骨に圧痛を認める。骨折しているかどうか知りたがっている」Xpを撮るが、骨折線は認めない。

感染:1)化膿性関節炎、診断が遅れると骨が破壊される。2)化膿性脊椎椎間板炎、アルコール多飲の肝硬変患者。3)腸腰筋膿瘍、発熱、股関節痛を訴える。4)化膿性腱膜炎、犬に咬まれた症例。

診断のポイント:痛みは有効な指標。第6番目のヴァイタル兆候とも言われる。

悪性腫瘍「どんな時に転移性脊椎腫瘍を疑いますか?」50歳以上。体重減少、癌の既往、薬でよくならない。安静でよくならない。SpPin(特異度の高い検査が陽性のときは確定できる), SnNout(感度の高い検査が陰性のときは除外できる)で診断確定または除外をする。

糖尿病足障害:痛みがない。骨髄炎は掻爬。この際には第6番目のヴァイタル兆候とならない(無痛なので)。

脊柱管狭窄症:まれであるが馬尾障害(排尿、排便障害)に注目。自然寛解が期待できない。
「専門医へ紹介した80歳の患者が手術後、かえって悪くなったといって受診した」どんな言葉をかけますか。「死ぬまで付き合っていきます」

簡潔明瞭な歯切れのよい講義であった。この内容は翌日のPCLSでもなされた。次回は「圧迫骨折」を予定。(山本和利)

2011年11月17日木曜日

11月の三水会

11月16日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は12名。稲熊良仁助教が司会進行。後期研修医:5名。他:7名。

研修医から振り返り6題。

今回から、病棟、外来で受け持った患者について供覧することにした。

ある研修医。小児科で研修中。感冒性腸炎、急性上気道炎、喘息が多い。ときに水痘、手足口病。水痘についての議論で盛り上がった。外来、新生児、乳児健診、ワクチン、子育てサロン(ロール・プレイもする)、病後児デイサービス、産婦人科外来で研修。母親とコミュニケーションをとることやその対応が難しい。

1歳児男児の母親に「子供の歯磨きにフッ素塗布をした方がよいか?」と質問された。母子保健上、法的な滋氏義務はない。幼稚園、保育園での89%が実施。札幌市、旭川市は実施していない。虫歯予防には水道水へのフッ化物添加、フッ化物塗布、砂糖制限が重要。日本は虫歯が多い(2.4本)。
予防接種の話題。任意接種のワクチンの接種率がよくない。日本の保健行政は、各自治体の裁量にまかされている。そのため地域格差がある。地域の医療関係者が連携して取り組む必要がある。

ある研修医。抗凝固薬再開につき悩んだ一例。75歳男性。発熱、悪寒。前立腺がん(膀胱瘻)、Af、脳梗塞。軽度黄疸あり、貧血あり。CTで胆嚢肥大。胆管炎。CHADS2スコアが4点。ヘパリンを使用後、下血が出現。前立腺がんの直腸浸潤と診断。ストマは作らないことになった。出血のリスクを冒してまで抗凝固薬は使用しない。胆管炎は軽快し、リハビリをしている。何もしないで経過観察をしたい。
クリニカル・パール:患者・家族に抗凝固薬のリスクを十分に説明することが必要である。

ある研修医。あるCPA蘇生後の一例。68歳女性。全身浮腫。CPAで救急搬送となった。蘇生後、CVカテーテルを挿入。今後の栄養をどうするか。家族の意見は延命医療を拒否。院内カンファランス(医師のみ)の結果、気管切開術を行い、PEGを造設した。本当は徹底的に患者家族と話し合うべきであった。患者家族の意向に沿えなかった。最初のコミュニケーショ不足が指摘された。

ある研修医。夜間当直中に63歳男性がめまい、腹痛で受診。苦悶様で体をくねらせる。腹部は平坦、圧痛なしで、急性胃腸炎と診断した。休ませてほしいと患者がいうので点滴を依頼した。3日後、その患者さんがICUに入院している。術後腸閉塞であった。排便、嘔吐はなかった。BUN:77, Cre;5.7。癒着性イレウス、敗血症性ショック、腎前性腎不全。

ここで腸閉塞のレビューが披露された。(省略)

クリニカル・パール:高齢者の腹痛には重症疾患をいれるべきである。下痢だからといって腸閉塞を否定してはいけない。腸閉塞は臍周囲の痛みで発症する。高齢者救急受診の原因で多いのは胆道疾患と小腸閉塞である。

ある研修医。訪問診療をすると、家のことがよくわかる。

85歳女性。酒飲みの長男と二人暮らし。整形外科と内科の薬が重なっている。むくみあり、Hb:4.7g/dl。(鉄剤を中止したため)

89歳の独居女性。胸部大動脈瘤持ち。イレウスで入院。退院後、ある朝、死亡しているのを発見された。

82歳女性。認知症で動けないという理由で往診依頼。風呂に3年間入っていない。本人は困っていない。入院を勧めたが拒否。

80歳女性。脳梗塞後遺症で寝たきり。ベッドから転落。頭部CTで硬膜下血腫。

84歳男性。心原生脳梗塞。CPAで救急搬送。心電図から心筋梗塞によるAf。翌日、意識は全く正常になっていた。しなしながらその後、ベッドから転落。低血圧。収縮期雑音あり。心エコーで心室中か隔穿孔であった。

クリニカル・パール:医療から隔絶された家もまだまだある。やっぱり心臓疾患は怖い。

ある研修医。コントロールに難渋している糖尿病患者。76歳女性。脳梗塞の既往。インスリン治療していてもHbA1c:10%。精査で膵がんは否定的。デイサービスで定期的運動をしてもらった。その日の血糖値はよいが、往診した日の血糖値は悪い。しっかり食事療法はしているが、御代りは自由である。「自分だけではできない」患者。

相談症例。96歳の意識のない女性。PEGを作らないと療養病棟に移れない場合、PEGを作るべきか? 生物学的禁忌、社会学的適用。


今回は様々な症例が提示され、議論も盛り上がった。受け持ち症例をエクセルにまとめて提示する方法は今後も継続してゆきたい。(山本和利)

2011年11月15日火曜日

へき地医療って何だろう

11月15日、西吾妻福祉病院並びに六合温泉医療センター 折茂賢一郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「「地域医療の課題と展望-へき地医療って何だろう」である。

東日本大震災での医療支援(宮城県女川町)について。医療者をセットにして4回支援した。外で簡易トイレの使用が苦痛であった。電気と水がない。住民は水の摂取を控えるため、体調不良となる。16mの高台にある病院が被災。津波の動画を供覧。医療従事者は自分が助かっても自分の家族の音信がわからないまま、目の前の患者に対応しなければならなかった。10日間、入浴もできない。日が昇ると活動し、日が沈むと終了(皆で集まって酒を飲む)。患者は自分の病気のことをほとんど知らなかった(薬手帳や薬剤がないため)。内服薬をせめて1種類でも記憶してもらうようにしたい。寝たきり患者はすぐ褥瘡ができる。逆に糖尿病患者の血糖コントロールは改善した。聴診器1本で対応する医療(日ごろの診療態度を問われる)。国際疾病分類から大震災を考える。社会参加を目標とする。被災直後から慢性疾患の管理、リハビリ、心の管理が重要。

「山と離島のへき地医療って違うか」と学生に質問。
山村、半島、広大な地域、大きな島と周辺の離島、本土から距離のある離島、高齢化住宅タウン、山谷地区、等、地域によって様々である。台風のときの対応が難しい。ヘリコプター搬送(有視界飛行である:夜間飛ばない)。

これまでの活動を披露された。自治医大卒。29歳で六合へき地診療所長。「村の命を僕が預かる」。現在、2施設の管理者。白衣を着ない仕事が沢山あった。へき地包括医療に触れた3年間。顔が見える活動を続けた。半無医村の認識(必要なときに医師がいない、看とり)。その反省を踏まえて福祉リゾート構想へ発展させた。六合温泉医療センターを建設。コメディカルが地域へ出向く医療を目指した。そして最前線医療から「支える医療」へ。草津温泉、白根山の近くで対象人口26,000人。観光客年間六百万人。高齢化率>30%の地区で外科系・周産期の救急医療を確保。地域の拠点病院を建設。ヘリポート増設。24時間保育。屋根瓦式研修を導入している。

豊富な写真を提示しながら講義は進んだ。

     
最後に「医療モデル」と「生活モデル」の違いを強調された。目指す目標は「生活モデル」である。
    
今回は、前半で東日本大震災での被災地支援を行ったときの話をされた。リアリティのある話に学生達は感銘を受けていた。何も設備のないところでの診療に総合医が役だっていることがストレートに伝わる授業であった。(山本和利)

内科学の展望(後半)

11月12日、横浜市で行われた第39回内科学の展望を聴講した。

■2型糖尿病のインクレチン療法 秋田大学 山田祐一郎氏。

糖尿病は認知症を増やす(久山町研究)。食後血糖値を押さえることが重要。グルコースを静脈投与するとインスリンが感知して血糖値を下げる。食べるとインクレチンがインスリンを分泌させる。食事量に応じたインスリン追加分泌が起こる。インクレチンによって食後血糖値がコントロールされている。食後血糖を上げないためには、ゆっくり食べる、甘いものを減らすことが大切。
GLP1作動薬、DPP4阻害薬が食後高血糖に効く、変動も減らす。それ以外に体重を抑える、β細胞を保護する、臓器保護する、こともできる。他の薬剤と併用できる。DPP4は心血管イベントを減らす。骨折リスクも減らす。

■COPDの病態と治療 京都大学 三島理晃氏。
リモデリングが起こっている。気道抵抗は気道内径の4乗に反比例する。
COPDはステロイドで制御できない。可逆性に乏しい。肺気腫病変。LAA%が病理像と相関する。LAA%は体重と逆相関する。LAA%が小さい群は生存率がよい。

安定期COPD管理。禁煙、インフルエンザワクチンは増悪する率を50%を低下させる。肺炎球菌ワクチンも重症者に勧められる。長期作用性抗コリン剤、β2刺激剤・吸入ステロイド薬も推奨。在宅酸素療法患者にはときどき動脈ガス採血を実施すべし(高CO2血症の否定のため)。禁煙は大切。酸素圧が下がるので飛行機搭乗には注意。

COPDは全身疾患である。心疾患、動脈硬化、GERDが多い。栄養障害が肺気腫を助長するという研究が注目されている(神経性食欲不振症)。治療の基本はABCアプローチである(antibiotics,bronchodilator, corticosteroid)。CTによる評価は必須。夜間不眠は要注意(増悪の可能性大)。

■炎症性腸疾患の新展開 東京医科歯科大学 渡辺守氏。
患者数は15万人で若者に多い。治療の進歩が著しい。クローン病に抗体製剤レミケード(TNFα抗体)が89%に効く。ヒュミラが認可された。この領域では薬のタイムラグがない。粘膜ヒーリングという考え方がでてきた。症状のみならず内視鏡でも改善を目指す。さらに完全寛解を目指す。「早く治療すればもっとよくなる」ので、自然経過を変えることを目指す[手術不要となる]。Top-down治療が推奨(強力な治療を開始する)。それによって、20% の患者が抗TNFα抗体を中止できる。40%は免疫調節薬も中止できる。まれは副作用が報告されているので要注意である。HepatosplenicT細胞リンパ腫が20例報告された。若年男性が多い。進行性多巣性白質脳症も1例報告。

潰瘍性大腸炎の重症例は3%である。クローン病とは異なり重症例が少ない。これまでの治療をうまく継続することが大切である。5ASAをフルドーズ使う。ステロイドを長く使い過ぎない。

■リウマチ・膠原病の分子標的治療 慶応義塾大学 竹内勤氏。
1942年、クレンペラーが提唱。RAは治療法が確立している。抗ccp抗体が診断に有効である。喫煙はリスクでるので、禁煙指導をすること。RA患者は適切な治療をしないと10年後に寝たきりになる。
最近、分類基準が変わった。RAの所見は、新生血管、T細胞、破壊である。
抗体製剤、受容体Ig融合蛋白が有効である。TNF、IL6、TNFαの濃度で用いるTNFα抗体容量を変更できる。
問題点として、その製剤に対する抗体ができる(注射時反応)と、効果が発揮できない。それは特定の遺伝子を持っている人に起こる。その予防策としてMTXまたはステロイドを併用する。副作用は感染症(肺炎、結核、ニューモシスティス肺炎)、呼吸器合併症である。ST製剤とステロイドを用いる。

医学が絶えず進歩しているのが実感できた。知識の更新に有益であったが、問題点もある。

今回、内科学会総会の教育講演と内科学の展望が同一会場同時刻での開催となった。それに参加すると認定医・専門医認定の単位として各10単位がもらえるとしていた。実際には両方を聴講できないにもかわらず、大部分の参加者は両方の料金計8000円を払っていた。このやり方は、生涯教育の内容を学会参加における支払金額で換算する方式であり、内科学会の生涯教育制度がいい加減であることを露呈したものといえよう。(山本和利)

2011年11月14日月曜日

模擬患者養成WS

11月2日 SP(模擬患者)養成についてのWSに出席した。

医学部4年生に対して行われるOSCEの医療面接の課題には必須の
SPをどのように養成していくのかを各大学の現状の共有も含めたWSであった。
SPについては大学内での養成を行なっているところと、
学部に委託している大学と2:1程度の割合であった。

内部養成のメリットとしては
大学の教育の方針にあったSPの養成ができることである。
4年生のOSCEだけでなく、1年生向けの課題、
6年生向けの課題など、幅広く応用することができる。
デメリットとしては、養成まで時間がかかることと、
SPを指導する教員の負担・各SPの一般化が難しいことなどが挙げられた。
SPの一般化(質の担保)についてはこのWSで一番のテーマであった。

外部委託のメリットとしては、
質がある程度保証されていることと、
教員の負担が少ないことなどであった。
逆にデメリットとしては、
経費がかかる・小回りが効かない。
教員がOSCEに関心がなくなる等が挙げられた。


札幌医科大学もSPの内部養成を進めているところであるが、
内部養成を目指している多くの大学では、本学と同じように
OSCEの1-2ヶ月前から、SPに課題の練習をしてもらい、
本番に臨むという態勢をとっているようであった。

そんな中で、年間をとしてSPの活動を行なっている大学からの
発表は非常に参考になった

試験の前の一定期間だけ、活動するのではなく、
年間を通して、学習会などの企画を行うことにより、
継続した教育活動が可能となっているようだ。

SPの養成は単にシナリオをもっともらしく演じてもらうだけでなく
学生へのフィードバックの仕方や、コミュニケーションの技術・
SPどうしでの学習会での指導の仕方など
教員側から彼らに提供できる情報は多い。
そういった情報交換会を定期的に行うことにより、
良好な関係を築くことができ、
SPどうしで、技術を高め合うことも可能になり
好循環が生まれるとのことであった。

本学でもぜひ取り入れていきたい。(助教 松浦武志)

内科学の展望(前半)

11月12日、横浜市で行われた第39回内科学の展望を聴講した。

メインテーマは「日常臨床で遭遇する内科疾患の治療最前線」である。

■副腎疾患の診断と治療アップデート 横浜労災病院 西川哲男氏。

「副腎疾患は決してまれではない」という主張で、様々な疾患についての要点が述べられた。
原発性副腎不全。るいそうと色素頓着を起こす。自己免疫疾患が多い。橋本病に合併しやすい。甲状腺自己抗体が陽性のことが多い。低血糖を認めたら、副腎不全を頭にいれる。
急性副腎不全の惹起因子は、感染、胃潰瘍、バセドウ病である。

褐色細胞腫:性差なし、糖尿病でやせ型の患者に注意。偶発発見が半数。MEN2A。

クッシング症候群。高血圧、糖尿病、骨粗鬆症による骨折。大腿骨頭壊死。

原発性アルドステロン症。高血圧の6-10%を占める(?)。低K血症、若年。病歴では区別できない。PAC/PRAの比を見る。早期診断による手術が腎障害を予防する。

副腎癌は比較的若年者に多い。コルチゾール産生型が多い。大きさは3.8cm以上で、原則摘出。偶発腫瘍。58歳前後、ホルモン非産生型が多い。3.5cm以上は癌を疑う。

■慢性腎疾患へのアプローチ 東北大学 伊藤貞嘉氏。

「尿蛋白またはGFR<60ml/mが3カ月以上続く場合、CKDという。新しい分類ではステージ3を2つに分けた。アルブミン尿が増え、GFRが低下すると心血管病が増える。この機序は、粥状動脈硬化→細動脈(圧差が大きい)の損傷→アルブミン尿→脳心臓疾患発症。アルブミン尿があるということは進行性を意味する。

年齢とCKDのインパクト。55歳未満ではCKDのみが心筋梗塞再発リスクとなった。高齢者の尿蛋白は心血管疾患と末期腎不全に移行しやすい。尿蛋白を減らすとリスクが低下する。微細な変化を早期に捕まえる。

■高血圧の最新治療 大阪大学 楽木宏実氏。

「成因:ゲノムワイド関連解析で日本ではATP2B1,FGF5, CYP17A1、CSKが見つかっている。細胞内カルシウム動態に関連している。食塩感受性の成因。ある遺伝子異常が見つかっている。自律神経と免疫。交感神経が亢進し、あるリンパ球を刺激する。

治療法の開発については、アジルサルタンが強い降圧効果があった。アンジオテンシンII2ワクチンの開発が進んでいる。頸動脈洞の持続電気刺激も有効そうである。腎交感神経のカテーテルアブレーションも。これによってインスリン感受性が改善する。

先制医療の開発。既存の薬剤を使っての介入。高血圧発症前に介入すると中止後に高血圧になる率が低下する。TROPHY研究、STAR CAST研究がある。

治療の最適化。認知症の予防のためには血圧は下げた方がよい(酸化ストレスを下げるから)。高齢者の血圧を140mmHg以下にしても利益はなかった(日本の研究)。下げ過ぎると心臓死、不整脈死が増える(エビデンスはない)。

2剤併用ではカルシウム拮抗薬は利尿剤との併用が最適であった。

■心房細動治療の最新の考え方 心臓血管研究所 山下武志氏。

大変わかりやすい講演であった。「複雑より単純がよい(Keep it simple)」という主張である。「心電図ではなく人を治す」ことを強調された。

3ステップで考える。
1)命を守る(基礎疾患の治療)、2)脳を守る(脳梗塞の予防)、3)生活を守る。
CHADS2スコアが2点以上にワーファリンを処方する。現在我が国の実施率は50%以下である。脈拍数によって、生命予後は変化しないので、脈拍数にこだわるのはナンセンスである。カテーテルアブレーションは根治療法ではない(成績はよいが、2年後からの再発率は増えてゆく)。ワーファーリンは継続するのがよい。

心房細動に関して、3つの変化があった。1)患者数が2.5倍に増加。2)成因が複雑化した。60%が高血圧。30%に心不全歴がある。心原生脳梗塞は2.3倍。AFFIRM Study で不整脈剤は生命予後を改善しない。再発率も改善しない。ワーファリン治療のみ有効という結果が明らかになった。3)カテーテルアブレーションが導入され、またワーファリンに代わる薬が出現した(ダビガトラン)。ダビガトランは非常に有効であるが、高齢者の腎機能低下者には禁忌である(消化管出血が増えるから)。開始前に腎機能を評価し、開始後APTTを2回チェックする必要がある。(山本和利)

2011年11月12日土曜日

地域包括医療の制度と理論

11月11日、松前町立松前病院の八木田一雄先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域包括医療の制度と理論」である。

まず自己紹介。1995年自治医大卒業。青森県で地域医療を実践。次に松前町立松前病院の紹介。人口は9,027人。漁業、水産養殖業が主。病院1、診療所3、歯科4.高齢者38%。病院の周りには桜がいっぱい。100病床で常勤医10名。眼科・耳鼻科は非常勤。診療所の支援もする。3町における唯一の病院で対象人口は16,000人。後方の函館の病院まで2時間。内科系医師は全科診療医と称している。勉強会が多い(松前塾、テレビ会議システム)。松前地域医療教育センターとして研修医を受け入れている。学生の受け入れ年間30名。

本論
健康について三者それぞれの思い入れがある。
家族の思い:いつまでも長生きして欲しい。
本人:寝たきりにはなりたくない。
医療者:その人らしく生活して欲しい。

事例を提示。80歳の女性。息子夫婦と3人暮らし。脳出血、保存的治療。右片麻痺。肺炎を繰り返すので胃瘻造設。自宅療養を希望、というシナリオを提示。昔は、訪問診察、訪問看護、介護のサポートは保健師、介護は家族。今は問題リストを挙げる。ここでADL(DEATH:dressing, Eating, Ambulating, Toileting, Hygiene)、IADL(SHAFT: Shopping, Housework, Accounting, Food preparation, Transport)を紹介され、それに沿って事例を分析された。これを基にサービス担当者会議。話し合いで決めた導入サービスを決める。ジョクソウ予防のため介護ベッドの導入。精神面のケアをし、退院、在宅療養となる。

超高齢化社会
高齢化とは:65歳以上の高齢者人口の総人口に占める率。高齢化>7%。2901万人。日本は23.1%。医療費は9.1%。北海道:一人当たり103.7万円(全国大2位)。高齢者は循環器系、癌、筋骨格系が多い。
一人暮らし高齢者が増えており、認知症を有する高齢者が増加している(250万人)。特別養護老人ホームの入所申し込み者の状況:42万人が待機している。施設に入所率4%。

介護保険制度[2000年から]:8段階に区分される。市町村に申請。訪問調査+主治医意見書。認定審査会で要介護認定をする。
昔;市町村が決める。所得による違い。長期入院。医療費の増加。介護に向かない。という問題があった。

老人医療費。全体では34兆円。GDPの10.6%.

介護保険。
現在:自立支援。利用者本位。社会保険方式。所得に関わらず1割の利用負担。保険料約4千円。2種類(第1号被保険者:65歳以上、第2号被保険者:特定疾患が対象)。特定疾患16種類。7.9兆円。居宅サービス、地域密着型サービス、等が受けられる。訪問調査+主治医意見書(傷病、心身状況、特記、等を記載する。介護の手間、ケアプランに役立てる)、認定審査が必要となる。要介護認定、要支援認定。
介護支援専門員(ケアマネジャー)の業務;毎月のケアプランを作る。一人39人まで担当できる。モニタリング、連絡の調整。

在宅療養を可能にする条件:入浴や食事の介護、介護に必要な用具、訪問診療、等。384万人が利用。
サービス受給者数の推移:脳卒中、認知症が多い。主介護者は配偶者、子、子の配偶者。女性が多い。

地域包括ケアの5つの視点による取り組み
1.医療との連携強化
2.介護サービスの充実強化
3.予防の推進
4.多様な生活支援サービス確保や権利擁護
5.バリアフリーの高齢者住居の確保

尾道市御調(みつぎ)町の取り組みを紹介した。

地域包括ケアシステムの持つ8つの機能
1.ニーズの早期発見
2.ニーズへの早期対応
3.ネットワーク
4.困難ケースへの対応
5.社会資源の活用・改善・開発
6.福祉・教育
7.活動評価
8.専門力育成・向上
その成果:1)寝たきり老人が減少する。2)高齢者本人も家族も安心して在宅ケアを選択することができる(50%が自宅で介護を受けたい)。在宅死:11.7%である。3)老人医療費の抑制に繋がる。

松前町の取り組み
地域ケア会議を月1回。サービス担当者会議。ケアマネジャー連絡会。グループホーム運営会議。在宅医療;54名。週2回、1回7-8名。脳卒中後遺症、認知症、骨折術後が多い。臨時往診はできていない。在宅での看とりの体制が整っていない。

今回は実践だけでなく、理論や制度について学ぶことができた。(山本和利)

2011年11月11日金曜日

夕張の今

11月11日、特別推薦学生(FLAT)を対象にしたランチョンセミナーに参加した。学生11名、教官3名が聴講。今回は、10月3日から6日に夕張町で行った地域医療実習の振り返りを2年生の佐藤南斗君が行った。司会進行役は稲熊良仁助教。

夕張を選んだ理由は村上先生と面識があったことと、財政破綻した町を見てみたかったから。夕張とはどんな町か?メロン(メロン熊、夕張夫妻:負債がある、お金はないけど愛がある)。映画。炭鉱の町(1990年に会社が撤退)から観光の町へ変わろうとした。2006年財政破綻した。一時癪入金で見かけ上は黒字に見せていたが、その額は500億円だそうだ。

村上先生(予防医療を推進、健康講話、医療費削減、夕張希望の杜理事長)と診療所(内科医1名、歯科医1名、非常勤医師数名)の紹介。職員が一人数役担っている。介護老人施設を併設し、ケアマネージャーが活躍しており、施設間の連携がうまく機能していた。

実習開始日、初雪であった。村上医師の外来見学から学んだこと。「できるだけ患者に近い立場で(出身地を聞き出す、敬語は使わない)」「例えを用いてわかりやすく話す」「うまくパターナリズムを使う(患者が嫌がることは婉曲に)」ピンピンコロリが増え、健康寿命が延びたそうだ。

訪問診療の実習では、入院を拒否して在宅で頑張る患者からライフストーリーを聞き出す課題が出された。その紹介がなされた。この地域の特徴として、義理深さと権利意識の高さが挙げられる。税金の滞納率が高い。

まとめ
あるナースの言葉「財政が破綻してくれてよかった」。職員が生き生き働いているし、在宅医療が活発になったから。村上医師の言葉「人が変わらなければ街はよくならない」「医療は目的ではなく手段である」「地域で働くことは映画を撮ることに似ている。もちろん写真家(専門医)が必要なときもある。でも俺は映画を撮ることの方が好きだ。・・・」

このように医学生が、医療を越えて街づくりに興味を示している。これは素質によるものなのか、教育の成果なのか。(山本和利)

2011年11月10日木曜日

フランケンシュタイン

『フランケンシュタイン』(メアリー・シェリー著、光文社、2010年)を読んでみた。

小説は書簡の中に、さらに書簡が出て来て、その中で怪物のことが記載されているという構成になっている。

過去に3冊か翻訳出版されているが、新訳ということで読んでみた。フランケンシュタインは怪物のことと思っている人が多いが、フランケンシュタインは怪物を作った博士の方の名前で、怪物に名前はない。たくさんの映画がつくられ、その影響が強いからであろう。

科学の進歩により怪物を創造することになるのだが、所詮18世紀の小説。その辺の過程にはほとんど触れていない。墓場で死体をよく研究している場面が出てくるが、材料やその大きさも不明確である。怪物は、普通の人間より大きいと記されているが、それは小さいと作るのが大変であるからというのが理由である。

物語が進むと、怪物がフランケンシュタイン博士の後を追って脅迫する場面が何度も出てくるが、どうやって移動し、何を食べているかなど具体的なところが見えてこない。3年で読み書きができるようになり、人間への愛が目覚めると言われても・・・ついてゆけなかった。本作品をこんな風に読むのは、邪道なのだろう。

知性と感情を獲得した怪物が、人間の理解と愛を求める(自分と同じ女性版「怪物」の作成を懇願する)が、それが拒絶されて疎外される話である、と解説されている。しかしながら、私には余りに具体性が乏しく、感動することもなく終わってしまった。

名作とは様々な解釈ができる作品だそうだ。読者が違えば、私と違って感動が引き出せるかもしれない。人によっては本作品を「資本家」と「労働者」の対立と読み替える説もあるそうだ・・・・。(山本和利)

2011年11月9日水曜日

水の透視画法

『水の透視画法』(辺見庸著、共同通信社、2011年)を読んでみた。

著者はジャーナリスト。共同通信社に入社し、北京特派員などを経験。退社後、文筆家となり芥川賞受賞している。

ここ数年間に書かれたエッセイを集めた本である。すべての文章が重く、暗い。しかし、読者に不快感は与えない。確固とした思想的な裏づけがあるだけでなく、著者が脳梗塞後遺症で右半身付随であり、さらに癌二つに罹患しているということが多いに関係しているように思われる。著者一個人としてこの世に執着がなく、次世代へ向けての「遺言」なっているからであろう。そこには言葉一つ一つに鋭さがある。権威に対して立ち向かう肝っ玉がある。庶民に向ける眼差しに優しさがある。

今のジャーナリズムには一見正論と思われる意見はあるが、「塩梅(あんばい)」「ほどあい」がないということを秋葉原事件求刑公判に絡めて発言している。同じことが医療にも言えるのではないか。ほとんどの医師は全てに対して最高を追及し、それができないと思われる(自分の専門分野ではない)患者は診察しない。同様に患者も軽微な兆候であろうと自分に対しては最高の医療の提供を求める風潮がある。医師も患者も自分自身を中心において理想を追求している。お金もマンパワーも限られた現実の地域医療では「ほどほど」が求められるが、それに応えられる医師もいない。そのような抜本的解決案は未だに示されない。地域医療が崩壊して当然であろう。

テクノロジーを信じて、人智は万能、自然を克服したと奢る科学者・政治家に、2011年3月11日に大きな地割れが走った。お金万能を謳歌してきた我々の日常は、崩壊しつつある。次世代を担う者たちは、それに合わせて新しい価値観を作り出して、行動してゆかなければならない。

著者によると本書は不特定多数ではなく、ひとりに読者に語りかけるように書いたという。
世間に媚びることなく、結局は日々を「誠実に生きることが重要なのだ」というメッセージがどのページからも伝わってくる。若者には是非読んでほしい。(山本和利)

2011年11月8日火曜日

大学教授のように小説を読む

『大学教授のように小説を読む方法』(トーマス・C・フォスター著、白水社、2009年)を読んでみた。

プロの読者と一般大衆を分ける3つのアイテムは、「記憶」、「シンボル」、「パターン」、だそうだ。
新しい作品を読むとき、記憶を手繰って類似点や予測される結末を探す。象徴性に焦点を当てて考える。ほとんどの文学研究者は、表面に現れたディテールを読みながらディテールが示すパターンをみている。

雨を例にとってみよう。大量の水は、私たちの存在の根源に訴えかける力を持っている。降って来る雨は清らかなのに、地面に落ちた途端に泥んこのぬかるみをつくる。再生させる雨もある。季節によって意味が変わる。雨は太陽と出会って虹をつくる(虹は平和の象徴)。これが霧になると混乱や困惑の合図となる。

もしひとつの意味しかないのであれば、それは象徴性ではなく寓話だそうだ。寓話とは、AイコールBの置き換えで、あるものに別のものを指示させる技法である。ジョージ・オーウェルの『動物農場』は寓話である。革命は確実に失敗するという、ただ一つのメッセージを伝えようとした。寓話は変則を扱わない。一方、象徴はそんなに整然としたものではない。ヘミングウェイの『老人と海』はキリストを扱った寓話と読めるそうだ。

飛ぶことは自由を意味する。セックスを映像化できない時代には、波打ち際を写し、誰かさんがいい思いをしたことを表現した。

また英米文学を読むのに、ギリシヤ・ローマ神話、聖書、シェクスピアの知識は欠かせない。
この世に存在するあらゆる物語は、それ以前に存在した物語の上に成り立っている。

大学教授のように小説を読むには、結局過去の名作をたくさん読んで、記憶を辿りながら、パターンを分析し、どのようなシンボルが隠されているかを探るということになるのだろう。何事にも近道はないようだ。(山本和利)

2011年11月7日月曜日

運命は幻想である

『アイデンティティと暴力 運命は幻想である』(アマルティア・セン著、勁草書房、2011年)を読んでみた。

著者はハーバード大学経済学・哲学教授。厚生経済学への貢献によりアジア人としてはじめてノーベル経済学賞を受賞している。

彼が重視するのは「共感」と「コミットメント」である。人は倫理的価値観で「コミットメント」をする場合、個人は必ずしも利己的な行動をとらない。人々が「共感」に基づく意思決定をする限り、そこには社会的なアイデンティティの存在を認めざるをえない。アイデンティティとは、複数のそれの中から、個人が理性的に選び抜くものである。センは人が自分の欲することを達成する能力(潜在能力)を高めることを重視する。すなわちひとりの個人の「人間開発」を重視する姿勢である。

世界的な政治的対立は、往々にして世界における宗教ないし文化の違いによる当然の結果と見なされている。そのように世界の人々を文明ないし宗教によって区分することは、人間のアイデンティティに対する「単眼的」な捉え方をもたらす。単一のアイデンティティを押しつけることは、暴力を助長する。その典型といえるサミュエル・ハンチントンが著した『文明の衝突』の問題点は、対象を単一に基準で分類されているところにある。

一方、人のアイデンティティが複数あるとすれば、時々の状況に応じて、異なる関係や帰属の中から相対的に重要なものを選ばざるをえない。「イスラム社会」対「西洋社会」のような単純化に陥ってはならないのである。

最近NHK番組でブレイクしたマイケル・サンデルとセンとの違いは何か。サンデルはコミュニティ主義者であり、「人が所属するコミュニティが、その人が何であるか(アイデンティティ)を規定する」と考えるが、センは「人がアイデンティティを選択する」としている。人生は単に運命で決まるわけではない、という主張である。グローバル化については、その是非ではなく、問題は「怠慢(やるべきことをやらない過ち)」と「遂行(すべきでないことをする過ち)」にあるとしている。

本書を読むと、アマルティア・センの主張は至極全うに思える。ABO式の血液型でその人の性格や運命を決めつけるやり方が流布しているが、これはまさに単一に基準で分類されて行われている。人の運命は所属組織や血液型等の単一の属性で決定されるのではない。誰であれ単純な単一の基準では分けられないと考えれば、「共感」や「寛容」の気持ちが芽生えるのではないか。

運命は自分で選び取るのだ。生きる上で勇気を与えてくれる。他人に優しくなれる本である。(山本和利)

2011年11月6日日曜日

いのちの子ども

『いのちの子ども』(シュロミー・エルダール監督:イスラエル 2010年)というドキュメンタリー映画を観た。

監督はテレビジャーナリスト。パレスチナ・ガザ地区で20年以上取材を続けている。

骨髄移植が必要なパレスチナ人の赤ん坊がいる。パレスチナ人の赤ん坊がイスラエルで治療を受けること自体が希有なことである。治療に多額の費用が必要である。テル・アビブ郊外の病院に勤務するイスラエル人医師がガザ地区で20年以上取材を続けてきたイスラエルのテレビ記者に協力要請する。テレビで寄付を呼びかけたところ、匿名を条件に寄付が集まった。そして骨髄提供者選び、検査、適合者の判定、と話は進む。

紛争地でなければ簡単に進む過程も、大規模な爆破事件が発生したため、頓挫してしまう。
さらには、イスラエル人に助けられたことで、この親子がパレスチナ人たちから裏切り者と思われているという事実も浮かび上がる。イスラエル人に対する感謝とパレスチナ人としてのアイデンティティー、母親としての葛藤。数々の困難を経ながら、骨髄移植へと進んでゆく。

骨髄移植は、他者の骨髄細胞を受け入れて、外敵である細菌やウイルスと戦ってもらうことを期待する。だが移植された骨髄細胞自体をホストである免疫反応で排除しようとする。これは正にパレスチナとイスラエルの関係のアナロジーになっている。

映画は、イスラエル人とパレスチナ人が文化・思想の違いがあっても、多々ある相違を受容して、紛争を克服できるのではないかという希望を提示している。他者を一元的に捉えて自分たちとは相容れない存在と規定して(テロ集団等)、憎しみから報復を唱える声が後を絶たないが、この映画は「受容」することの必要を訴えかけてくる。(山本和利)

2011年11月5日土曜日

イタリアの精神科医療

『人生、ここにあり!』(ジュリオ・マンフレドニア監督:米国 2008年)という映画を観た。

世界保健機関 (WHO)によると、世界で1億5400万人がうつ病に、2500万人が統合失調症に苦しんでいる。また、毎年80万人以上が自殺しているそうだ。

本作品は、1978年、バザーリア法により精神病院が閉鎖されたイタリアの実話に基づいて制作された。約30年前のイタリア。一人の正義感が強い労働組合員が、所属していた組合から異動を命じられ、閉鎖された病院の元患者たちによる協同組合に移る。毎日を無気力に過ごしている患者たちに、自ら働いてお金を稼ぐことを持ち掛ける。みんなを集めた会議で、床貼りの仕事をすることが決まる。失敗を繰り返すある日、仕事現場での思わぬ事故をきっかけに、仕事自体が芸術として評価され、大きなチャンスが訪れる。自由を初めて知った患者たちに、喜びと試練が待ち受ける・・・・

イタリアにおける精神科医療の実態を垣間見ることができる。閉鎖病棟にお願いするような患者とは日頃接する機会が少ないので、このような映画を通じて精神科医療について考える機会になろう。

日本映画では、『精神(せいしん)』(想田和弘監督)というドキュメンタリー映画がお勧めである。外来の精神科クリニック「こらーる岡山」を舞台に、心の病を患う当事者、医者、スタッフ、作業所、ホームヘルパー、ボランティアなどが織りなす世界を映し出している。(山本和利)

2011年11月4日金曜日

病院前救護におけるメディカルコントロール

第341回 プライマリ・ケアレクチャーシリーズ(以下PCLS)の報告です。

今回、私は「病院前救護におけるメディカルコントロール」について、お話しさせて頂きました。皆さんはメディカルコントロールって言葉、聞いたことがありますか?私は以前、病院前救護体制における指導医等研修を受講したことがあります。救急センターでは知らない人のいないこのメディカルコントロール(以下MC)という言葉も、地域で働かれている先生達には聞きなれない言葉だって事に気付いたためです。

メディカルコントロールとは、医療サービスを提供するにあたり、その質を保証し同時に患者の安全性を確保する仕組みを指します。具体的には医療関連行為を以下の4要素から担保する仕組みの事です。

・医学的方向性の決定は、医師によって包括的になされる。
・医療関係職種が実施する医療関連行為は、医師の指示のもとになされる。
・実施した結果については、常に医師によって医学的解析(検証)を受ける。
・検証に基づいて、体制についても見直しがなされる。

病院前救護におけるMCとは、地域全体をひとつの医療機関とみなし、医療機関内と同様の仕組みで傷病者に提供する医療サービスの安全と質を保証することを言います。地域で救急医療に関わる全ての関係者の方々に広く、病院前救護におけるメディカルコントロールという考え方やその仕組みを知って頂き、自身も地域医療に貢献できるよう日々研鑽を積んでいこうと思います。(河本一彦)

南三陸震災支援を終えて

札幌医科大学の東日本大震災支援の一環として、2011年11月24日から31日まで宮城県本吉郡にある南三陸町へ診療支援に派遣されました。今は帰路の飛行機の中でこの文章を書いています。今回の派遣について私の私見も交えながら報告いたします。

南三陸町は宮城県の北部、牡鹿半島の北に位置しており、今回の震災でも住民約17,000人のうち、実に南三陸町は震災で死者564人、行方不明664人と壊滅的な被害を受け、職員も39人が亡くなったという甚大な被害を受けました。南三陸町にある公立志津川病院には津波が4階の高さまで襲い、多数の患者さんやスタッフが犠牲になりました。テレビ報道でも震災の象徴的な施設としてくりかえし放映され、有名になりました。

私が南三陸町で診療支援するのは今回で二度目になります。前回は札幌医大への入職前に前任地の有給休暇を利用し個人でNGOを通じて医療ボランティアに参加しました。今回の大学からの派遣が南三陸町になったのは偶然でしたが、以前に見知った現地スタッフも多く、個人的には感慨深いものでした。

病院施設が津波で甚大な被害を受けたため、町内ベイサイドアリーナ内にイスラエルから譲渡を受けた医療設備を用いて設営された仮設診療所で一次診療を行い、6月から約30km離れた内陸の登米市立よねやま診療所内に病棟機能を移転再開し入院および検査を行っています。

公立志津川病院は常勤スタッフDr7名(整形1、外科2、内科4)に私のような各地からの応援Drが1名ないし2名が加わっています。また診療所には各科専門医が日替わりで診療に来られています。病棟側のDrは常時3〜4人で看護師30人とともに入院病床39床(一般27床、療養12床)を受け持ちます。

医師数は病院規模の比して充実しているように感じられますが、常勤医には医師会派遣や震災前に町内で開業されていたDrなど期限付きで勤務されておられたり、診療所と病棟で離れており二重に当直業務がある事を考慮するとまだまだ厳しいというのが実情です。

24日に着任してからの業務はもっぱら米山診療所内の公立志津川病院で入院病棟を受け持ちました。内科として入院患者は急性期として12〜15人おり自治医科大出身の5年目Drと共に診療にあたりました。

患者さんは80代以上の高齢で複数の疾患を抱えている方が多く疾患も非常にバラエティに富んでいました。診断、治療、検査、その後のマネジメントまで、過去の地域病院勤務を思い出しながらの毎日でした。基本的に常勤医のサポートですので病院総合医(ホスピタリスト)として病棟業務に専念しました。手前味噌ですがこうした小規模病院における総合医の有用性を実感しました。

病院は6月に再開し業務的にも落ち着いた感がありスタッフも非常に明るく、キビキビと働いていました。皆さん優秀で素晴らしい方達でしたが、私が個人的に感じたのは、Nsの患者さんへの対応、Dr同士の繋がり、事務の方の仕事、その全てにおいて病院全体が何か一つの気迫のようなものに満たされている事でした。例えて言うなら、彼らにとって患者さんは守るべき故郷の一部であり、同僚は共に死線を越えた戦友であり、病院は再建の日まで絶やす事のできない希望の砦という事でしょう。

休憩時間などに多くのスタッフから震災の日の思いや出来事などを聞かせて頂きました。肉親をなくされた人、病院で津波に遭遇した人、町外にいて津波を免れた人、財産を失った人あるいは残った人、みなそれぞれに震災への思いを胸の奥に秘めておられました。なかにはPTSDの症状のある人もおられましたが、ケアは十分とは言えず、現在の仕事への使命感と時の過ぎ行く中で癒やして行く他はなく、まだまだ長い年月が必要でしょう。

入院患者さんは後期高齢者が中心で特に慢性疾患のコントロールは震災を機に悪化している方が多かったと思います。退院やリハビリにあたっても、若いご家族をなくされた人、家を失い仮設住宅に入られている人などは自宅へと戻る事ができずに施設入所を選択される方もおられました。津波に呑まれギリギリで命拾いした患者さん等は、非典型的なめまい感などで入院されている方もおられました。PTSDが主因と思われ、検査では異常なく入院後軽快しましたが、人生経験を積み重ねた高齢者ではPTSDは典型的な症状を来さないのかもしれません。

今回の震災前は、公立志津川病院はいわゆる東北の小規模病院で、勤務するスタッフもごく普通の人々でありました。被災した患者さんの多くは着のみ着のまま避難したため、自らの疾患や処方さえも満足に分かりませんでした。無意識に信じていた今日と同じ明日は、未曾有の災害が消し去り、皆が過酷な運命の中に投げ出されてしまいました。今まで地域医療において無形に支えられていたものが無くなり、初めて気付くものがありました。
 

医療の復興はいつが終わりと言うことは無く、特に我々のような総合医・プライマリケア医は現地で最も必要とされています。今こそ継続的に支援し同じ地域医療に携わるものとして連帯を示すべきであると考えます。
 
今回の東日本大震災は、かねて医療過疎であった地域をさらに自然災害が襲うという極限の地域医療を出現させました。しかし同様の事は、その規模のいかんに関わらず、明日にも日本全国で起こり得る事です。震災の犠牲者の為にも全国民が自らのこととして共有し、将来について考え、行動する事が必要です。すべては「お互いさま」の心と考えます。

東日本大震災では全国から非常に多くの医療関係者やボランティアが被災地に入り、支援と同時に災害医療と地域医療の立て直しという得難い経験をしました。これからはその経験を持ち帰り、それぞれの地域において普段から医療スタッフの教育や住民への健康意識や受療行動の啓発が重要になると考えます。

まとめとなりますが、今回の経験を一言で言えば、「一所懸命」。私も将来再び地域医療に赴く際には心に留め置きたいと思います。

最後に今回の派遣期間中に御協力いただいた地域医療総合医学講座の山本教授、同僚の河本助教、武田助教、松浦助教、飴田秘書ら皆様ほか札幌医科大学の皆様に謹んで感謝を述べたいと思います。(助教 稲熊 良仁)

2011年11月2日水曜日

マルクスを読もう

『若者よ、マルクスを読もう』(内田樹、石川康宏著、かもがわ出版、2010年)を読んでみた。

これは高校生向けに書かれたマルクスの案内書である。本書は、二人の教師による書簡のやりとりで4部構成となっている。初めが『共産党宣言』、次が『ユダヤ人問題に寄せて』『ヘーゲル法哲学批判序説』、3番目が「経済学・哲学草稿」、そして最後が『ドイツ・イデオロギー』である。

『共産党宣言』(1848年)とは、「いまの社会にはこういう欠点がありますな」「そうするとこういう具合に改革が進むでしょう」なんてことが書いてある文章だそうだ。マルクスは当時29歳。本の書き出し。「一つの妖怪がヨーロッパを歩き回っている・・・共産主義という妖怪が。・・・・」経済理論は出てこない。

内田氏は、彼がマルクスを読むのは「自分の頭がよくなった気がする」からだそうだ。そして「マルクスは僕の問題を解決してくれない。けれども、マルクスを読むと僕は自分の問題を自分の手で解決しなければならないということがわかる」と書いている。それが「マルクスの教育的なところだそうだ。またマルクスの文章の「麻薬性」に触れている。それはたたみ掛ける命令文である。革命宣言を「憎しみ」や「破壊」ではなく、「友愛」の言葉で終わっていることを高く評価している。

『ユダヤ人問題に寄せて』で。内田氏はマルクスに反論する。「社会のゆがみや不合理はふつうシステム全体にゆきわたった制度疲労が原因です。どこか1箇所だけ病んでいて、あとは全部健全なので、病んだ部分だけ外科手術でえぐり取れば、たちまちシステムは回復するというようなシンプルな仕方で社会制度は劣化するわけではありません。」と。

石川氏がマルクスの著作の内容を紹介し、それを受けて内田氏が独特の言い回しで、彼なりに理解した内容を述べている。ウーン、この内容が高校生にわかるのだろうか。私にはついて行けずに居眠りをしてしまいそうになる。とは言え、難しい哲学・経済学書にほんのチョット近づけるきっかけになるかもしれない。(山本和利)

2011年11月1日火曜日

北海道の地域医療

11月1日、幌加内町国民健康保険病院の森崎龍郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域医療の実践 幌加内での医療と生活」である。

まず、自己紹介をされた。横浜生まれ。富山医科薬科大学卒。漢方医。2010年幌加内町国民健康保険病院に赴任。幌加内町の紹介。3つの日本一。そばの作付面積、日本最大の人造湖(朱鞠内湖:ワカサギ釣りができる)、最寒記録-41.2℃(霧氷が見える)。人口1,704人、世帯数855(町として最小数、人口密度が最低)。過疎の町で高齢者が多い(高齢化率35%)。小学校2年生は8名で全員女子。病院の紹介。町内唯一の医療機関。医療療養13床、介護療養29床。建て替えの予定は宙に浮いている。平均入院患者28.6名。平均外来患者数43.6名。常勤医師2名、非常勤医師1名、職員数40名。

日々の診療。外来:超音波、内視鏡検査。訪問診療。入院;回診、病棟業務。病棟管理。予防医学。保健福祉医療連携。産業医。

入院病棟:在宅生活が困難な方。脊椎損傷の方。認知症の方。脳卒中後遺症による胃瘻造設者。末期がん患者。骨折、火傷の方。
外来診療:高血圧、糖尿病、高脂血症。OA.認知症など。慢性疾患が複数組み合わさった患者が多い。それに急性疾患が加わる。小児の肺炎。帯状疱疹。マダニ咬傷。

当直:自宅待機である。2週に1件の救急車。関節脱臼。大腿骨骨幹部骨折。結膜浮腫。農薬が眼に入った患者。

プライマリ・ケア医として
1.まずはすべてに対応する。
2.自分のできることをする。
シンプルに。スーパードクターである必要はない。

道北ドクターヘリ事業:旭川日赤病院が基地。1年半で4回要請している(交通事故、脳卒中)。悪天候、夜間の対応が問題。

在宅医療:老々介護。認知症同士の介護。カバーする地域の範囲が広すぎる。冬期間の厳しさ(雪はねが大変)。介護スタッフ不足。

出張診療所;4つの診療所。公民館の一部を借りているところもある。
保健福祉総合センター(アルク):ディサービス、居住部門、老人福祉寮。ふれあい福祉村構想。地域ケア会議の紹介。

予防接種事業:未就学児の任意予防接種をすべて全額助成。中学生女子の子宮頚がんワクチン全額補助。インフルエンザワクチンは中学生無料、町民は千円、高齢者の肺炎球菌ワクチン助成。保育園健診。

講義の途中に、幌加内そば打たん会、野菜作り、スキー、ワカサギ釣り等、田舎の生活の魅力を紹介してくれた。

夏から秋にかけてのエピソード。農繁期に頭痛で倒れた女性がいるといって救急隊から連絡があった。血圧が高くて、意識障害があった。くも膜下出血を疑い、脳外科のある病院に紹介。その配偶者に糖尿病、高血圧、喫煙についての指導。その母親は大動脈弁狭窄症による労作時呼吸困難がある。精査を勧めたが、結局、自宅で亡くなられた。女性の最終診断は毒キノコ中毒であった。

1年半年経って感じること:患者さんの顔が見える。保健・福祉・救急の連携がスムース。旭川市が比較的近いので助かっている(高度医療・専門医のありがたみがよくわかる)。外傷が多い。人材不足(医師、看護師、介護士、ヘルパー、給食婦、等)。高齢者の生活(冬をどう過ごすか)。意外と子供が多い。シンプルに、コンパクトに地域医療を経験することができる。若いうちに是非、経験を!

学生さん達は「ホンワカとした雰囲気の中で家族と一緒に地域で暮らす楽しさ」を感じとってくれたようだ。(山本和利)