札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年11月6日日曜日

いのちの子ども

『いのちの子ども』(シュロミー・エルダール監督:イスラエル 2010年)というドキュメンタリー映画を観た。

監督はテレビジャーナリスト。パレスチナ・ガザ地区で20年以上取材を続けている。

骨髄移植が必要なパレスチナ人の赤ん坊がいる。パレスチナ人の赤ん坊がイスラエルで治療を受けること自体が希有なことである。治療に多額の費用が必要である。テル・アビブ郊外の病院に勤務するイスラエル人医師がガザ地区で20年以上取材を続けてきたイスラエルのテレビ記者に協力要請する。テレビで寄付を呼びかけたところ、匿名を条件に寄付が集まった。そして骨髄提供者選び、検査、適合者の判定、と話は進む。

紛争地でなければ簡単に進む過程も、大規模な爆破事件が発生したため、頓挫してしまう。
さらには、イスラエル人に助けられたことで、この親子がパレスチナ人たちから裏切り者と思われているという事実も浮かび上がる。イスラエル人に対する感謝とパレスチナ人としてのアイデンティティー、母親としての葛藤。数々の困難を経ながら、骨髄移植へと進んでゆく。

骨髄移植は、他者の骨髄細胞を受け入れて、外敵である細菌やウイルスと戦ってもらうことを期待する。だが移植された骨髄細胞自体をホストである免疫反応で排除しようとする。これは正にパレスチナとイスラエルの関係のアナロジーになっている。

映画は、イスラエル人とパレスチナ人が文化・思想の違いがあっても、多々ある相違を受容して、紛争を克服できるのではないかという希望を提示している。他者を一元的に捉えて自分たちとは相容れない存在と規定して(テロ集団等)、憎しみから報復を唱える声が後を絶たないが、この映画は「受容」することの必要を訴えかけてくる。(山本和利)