札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年11月14日月曜日

内科学の展望(前半)

11月12日、横浜市で行われた第39回内科学の展望を聴講した。

メインテーマは「日常臨床で遭遇する内科疾患の治療最前線」である。

■副腎疾患の診断と治療アップデート 横浜労災病院 西川哲男氏。

「副腎疾患は決してまれではない」という主張で、様々な疾患についての要点が述べられた。
原発性副腎不全。るいそうと色素頓着を起こす。自己免疫疾患が多い。橋本病に合併しやすい。甲状腺自己抗体が陽性のことが多い。低血糖を認めたら、副腎不全を頭にいれる。
急性副腎不全の惹起因子は、感染、胃潰瘍、バセドウ病である。

褐色細胞腫:性差なし、糖尿病でやせ型の患者に注意。偶発発見が半数。MEN2A。

クッシング症候群。高血圧、糖尿病、骨粗鬆症による骨折。大腿骨頭壊死。

原発性アルドステロン症。高血圧の6-10%を占める(?)。低K血症、若年。病歴では区別できない。PAC/PRAの比を見る。早期診断による手術が腎障害を予防する。

副腎癌は比較的若年者に多い。コルチゾール産生型が多い。大きさは3.8cm以上で、原則摘出。偶発腫瘍。58歳前後、ホルモン非産生型が多い。3.5cm以上は癌を疑う。

■慢性腎疾患へのアプローチ 東北大学 伊藤貞嘉氏。

「尿蛋白またはGFR<60ml/mが3カ月以上続く場合、CKDという。新しい分類ではステージ3を2つに分けた。アルブミン尿が増え、GFRが低下すると心血管病が増える。この機序は、粥状動脈硬化→細動脈(圧差が大きい)の損傷→アルブミン尿→脳心臓疾患発症。アルブミン尿があるということは進行性を意味する。

年齢とCKDのインパクト。55歳未満ではCKDのみが心筋梗塞再発リスクとなった。高齢者の尿蛋白は心血管疾患と末期腎不全に移行しやすい。尿蛋白を減らすとリスクが低下する。微細な変化を早期に捕まえる。

■高血圧の最新治療 大阪大学 楽木宏実氏。

「成因:ゲノムワイド関連解析で日本ではATP2B1,FGF5, CYP17A1、CSKが見つかっている。細胞内カルシウム動態に関連している。食塩感受性の成因。ある遺伝子異常が見つかっている。自律神経と免疫。交感神経が亢進し、あるリンパ球を刺激する。

治療法の開発については、アジルサルタンが強い降圧効果があった。アンジオテンシンII2ワクチンの開発が進んでいる。頸動脈洞の持続電気刺激も有効そうである。腎交感神経のカテーテルアブレーションも。これによってインスリン感受性が改善する。

先制医療の開発。既存の薬剤を使っての介入。高血圧発症前に介入すると中止後に高血圧になる率が低下する。TROPHY研究、STAR CAST研究がある。

治療の最適化。認知症の予防のためには血圧は下げた方がよい(酸化ストレスを下げるから)。高齢者の血圧を140mmHg以下にしても利益はなかった(日本の研究)。下げ過ぎると心臓死、不整脈死が増える(エビデンスはない)。

2剤併用ではカルシウム拮抗薬は利尿剤との併用が最適であった。

■心房細動治療の最新の考え方 心臓血管研究所 山下武志氏。

大変わかりやすい講演であった。「複雑より単純がよい(Keep it simple)」という主張である。「心電図ではなく人を治す」ことを強調された。

3ステップで考える。
1)命を守る(基礎疾患の治療)、2)脳を守る(脳梗塞の予防)、3)生活を守る。
CHADS2スコアが2点以上にワーファリンを処方する。現在我が国の実施率は50%以下である。脈拍数によって、生命予後は変化しないので、脈拍数にこだわるのはナンセンスである。カテーテルアブレーションは根治療法ではない(成績はよいが、2年後からの再発率は増えてゆく)。ワーファーリンは継続するのがよい。

心房細動に関して、3つの変化があった。1)患者数が2.5倍に増加。2)成因が複雑化した。60%が高血圧。30%に心不全歴がある。心原生脳梗塞は2.3倍。AFFIRM Study で不整脈剤は生命予後を改善しない。再発率も改善しない。ワーファリン治療のみ有効という結果が明らかになった。3)カテーテルアブレーションが導入され、またワーファリンに代わる薬が出現した(ダビガトラン)。ダビガトランは非常に有効であるが、高齢者の腎機能低下者には禁忌である(消化管出血が増えるから)。開始前に腎機能を評価し、開始後APTTを2回チェックする必要がある。(山本和利)