札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年3月31日木曜日

プロふぇしょなりずむ

4年間お世話になった大学での最終講義は新5年生対象のプロフェッショナリズムについての講義。

「ディアドクター」のビデオをみてロールモデルを考えてみる。もう一度ビデオ借りてロールモデルそして地域医療を考えてみたいという学生の声

プロフェッショナリズムにおいて私たちが大切にしている価値は、私たちの行動のなかに示される。プロフェッショナルの第一歩が「臨床実習」患者さんにとっては、実習生も医師と同じ。そして患者さんの命とかかわり、みんなの一言、行動が大きな意味を持つことをメッセージとして伝える。

患者さんのメッセージより「まず名前の確認から」
医療事故防止のためには、「名前の確認は、最も重要なことである」としっかり、認識しておいて欲しい!「パッチ・アダムス」のビデオをみて、大事な名前をもつ一人の人間としての患者さんとの関わりを大切にとのメッセージを再確認!

プロフェッショナリズムに役立つ新しい評価法の紹介::ポートフォリオ、Significant Event Analysis(SEA)を実例を交えて説明。なぜ意義深いのか(感情を振り返り)なぜ起こったのか(言語化して)次への行動指針へ!

そして「プロジェクトX」から「霧の岬・命の診療所」のビデオをみた後、「臨床実習」に出る前のプロフェッショナル一歩手前のプロふぇしょなりずむの10の誓いをグループワークで作成:
・患者さんの話を聞く
・予想外を予想する
・ベストを尽くす
・命を大切にする
・しっかりとコミュニケーションを図る
・健康管理をする
・自分の行動を反省をして、ほめる
・生涯学習を行う
・誠実になる などの誓いがたてられた。
これから医療の世界へ飛び出す医学生にエールを送りたい、頑張れ!
(寺田豊)

2011年3月30日水曜日

クレアモントホテル

『クレアモントホテル』(ダン・アイアランド監督:米国・英国 2005年)という映画を観た。

老いた未亡人がロンドンの時代に取り残されたホテルに長期滞在する。宿泊者の関心は、誰に誰が訪ねてくるかである。しかし、彼女には親戚も友人も誰も訪ねてこないため、寂しく時が過ぎてゆく。そんなある日、道ばたで転んだことをきっかけに小説家志望の青年と出会う。その青年に事情を打ち明けて、孫のふりをしてもらいホテルに訪ねてきてもらうように頼み込む。そうなった途端、実の娘や孫が突然現れて、話が紛れながら進んでゆく。

これは孤独を扱った映画である。自立して生きることの喜びと少しの悲しみを描いている。映画の中で『逢い引き』という映画を青年に紹介する。それをきっかけに青年が女性と巡り会う。

老後をどう生きるか、問いかける映画でもある。(山本和利)

2011年3月29日火曜日

プロフェッショナリスム

3月29日、東京医療センターの尾藤誠司氏に、昨年に続き札幌医大の新5年生を対象に医学概論Vのプロフェッショナリスムの講義・WSをいただいた。まず、ご自分の経歴を披露。ここの総合内科はベッドが130床であり、診療と教育に従事。

12班に分かれて、グループ討議が開始された。ワークショップ形式で、和気藹々とした雰囲気の中、授業が進められた。先生からミニレクチャーを入れながら、「専門職に課せられるもの」「よい医師とはどんな医者か?」などを考えてもらった。

中略(外来に山本和利が呼び出されため)・・・・。2010年3月のHP記事を参照のこと。

専門職にとって「自分は何ができるか?」「自分に何ができるか?」の違いは何か。自分中心か、患者中心か。「患者のための医療」(してあげる)、「患者の立場に立った医療」(させていただく)は理想の医療か?患者のためにならないこともある。「パーターナリズム」対「説明的関係」。インフォームド・コンセントと時代。「お互いが信頼し意見を交換できる健康な医療」を目指したが医療者が委縮し始めている。少し医療者のレベルを上げてゆく。

途中、映画の「赤ひげ」「ディア・ドクター」を推薦。ロックバンドBump of Chickenのギルドという曲を推薦。仁術と親心。ゆれる医療専門職の意識。実際の臨床は、科学的な内容と物語的内容が混然一体になっている。糖尿病のACCORD研究を紹介(統計的に有意といってもその差はわずか)。

話は医療界から離れて、「手作り自転車に、心をこめて」障害者の方に儲からない自転車を作り続ける堀田健一さんの話。20歳の誕生日に首輪を外すか外さないかで悩む「首長族の娘」の話。見えているが、見えていないことがある。

最後に学生へのメッセージ:「もはやヒポクラテスではいられない」時代で、医師にすすめたい毎日の習慣。

「さっきの私どうだった」(批判を受け入れる態度)
「あしたはこうしてみよう」(常に変わってゆく)
「ちょっと助けてほしい」(一人で頑張らない)
「服脱いじゃう」(鎧を減らす)
「あなたのこと、わからない」(訊かないとわからない)
「ありがとう、ごめんね」(素直になる)

「揺らぎながら、ともに成長する」。

尾藤先生、楽しい講義、ありがとうございました。

2011年3月28日月曜日

医師のナラティブ

2011年3月3日、 札幌医大医学部4年生を対象とした「医学概論・医療総論4」の「医師の感情とストレス-医師のナラティブ」と題した講義を行いました。

授業の目的は、医師という職業が心身ともにストレスをためやすいことを知ってもらうこと、医師自身の健康管理にとって自らの感情に注目する重要性を知り、ストレスの対処方法について体験しながら学ぶことでした。

まず、日本の医師の重労働についての実態や、燃え尽きやうつ状態を呈している医師の疫学を提示し、医師の仕事がストレスフルである要因について整理しました。

次に、医師の仕事を感情労働という視点から説明しました。感情労働というのは、職務内容には、労働者の肉体と頭脳(肉体労働、頭脳労働、という言葉があります)に加えて、労働者の感情も提供されている、という考え方です。
1970年代にアメリカの社会学者であるホックシールドが提唱した概念で、近年日本でも医療現場で注目されてきており、主に看護領域での研究が行われています。

医師の感情についてはこれまでほとんど研究されておらず、今後研究を進めていく必要があります。

授業の後半では、ストレス対処の方法として、名古屋大学の阿部恵子先生から教えていただいた「Healer’s Art」を紹介しました。医療者も、患者さんと接する中で様々な経験をして傷つきます。そのような経験を語り合うことによって、語ることの癒しの力を感じたり、お互いの喪失や悲しみを共有することを通じて、セルフケアを行うという考え方です。

語り合うためには安全な場所が必要であり、100名の学生が参加する講義で、このような取り組みをするのは難しいので、今回は各人に“ストレスマップ”を書いてもらい、それを周りの人たちと共有することにしました。自らのストレスを可視化し、ほかの人と共有するだけでも、1人でストレスを抱え込むよりは気持ちが楽になると思われます。

医師が自らの経験、傷つきや、悲しみ、怒りなどの感情を語ることは、医師のナラティブと考えることができると思います。
これまでは患者のナラティブに注目が偏っていたように思われますが、ナラティブは相互作用であるので、今後は患者のナラティブを受け止める医療者側のナラティブへも注目していく必要があると思います。
医師のナラティブは、医師のセルフケアにもつながる可能性があると思われます。(山上実紀;一橋大学大学院社会学研究科)

2011年3月27日日曜日

東北・関東大震災の支援

3月11日に発生した東北・関東大震災で日本中が地獄図の中に落とされてしまった。被災して2週間が経過した今も、医療資源、マンパワーが不足し肺炎や脱水での死亡が多数報告されている。そんな中、日本中からたくさんの支援が行われているが、長期的な支援が必要となろう。

札幌医大でも発生直後より救急部が支援に出動し、その後も継続的に支援チームを派遣している。現在は一チーム4名で構成され、宮古地区で9日間ずつ活躍している。

当教室でも何らかの形で支援できないかを模索していた。そんな中、昨年まで岩手県で診療していた河本一彦助教の希望もあり、4月29日から5月7日までのマンパワーが不足しがちなゴールデンウイークの期間、当教室を代表し札幌医大の一員として彼が派遣されることになった。その際には被災地の状況を報告してもらう予定である。(山本和利)

2011年3月26日土曜日

ソウル・キッチン

『ソウル・キッチン』(ファティ・アキン監督:ドイツ・フランス・イタリア 2009年)という映画を観た。

これまで『愛より強く』『そして、私たちは愛に帰る』で許すことの大切さを切々と訴えたファティ・アキン監督の最新作は、何と喜劇である。喜劇は軽く観られがちであるが、実は高い技術が求められる。日曜日のミニシアターは満席状態である。

料理と音楽が楽しめる映画である。出身がトルコ系ドイツ人ということもあって、多国籍な音楽が満載である。

ファースト・フードしか出さない店に、すぐ気持ちが切れてしまい一流料理店を首になった凄腕の料理人が来る。そこに音楽家や税務署、地上げ屋、食品衛生局などがドタバタと出入りがあり、話が進んでゆく。
前作とは異なった味わいのある喜劇であり、時間を忘れさせてくれる至極の映画である。(山本和利)

2011年3月25日金曜日

人身売買

『告発・現代の人身売買 奴隷にされる女性と子ども』(デイヴィッド・バットストーン著、朝日新聞出版、2010年)を読んでみた。本書は、世界各地にある拉致、売春、強制労働等について告発した本である。

アジアで性産業に閉じ込められている子どもや女性、インドで強制労働させられる家族、アフリカで誘拐されて兵士させられた子ども、ヨーロッパの性産業シンジケート等の話が記載されている。

本書は、第1版の一部と最新の2版が翻訳されている。翻訳者が交渉して、2版でカットされているスレイ・ニアンとピエール・タミのエピソードを掲載している。このことによって人身売買の悲惨な状況がヒシヒシと伝わってくる。最後が悲惨な状況を乗り越えている分、少しの救いもある。

著者は作家という枠を超えて、NOT for Sale(人間は売り物ではない)の活動家になっている。本書には我が国の状況が書かれていない。訳者によると日本は到底優等生とは言い難いそうだ。性的搾取を目的に外国人女性を入国させて、自由を奪って売春や風俗産業に従事させるケースが後を絶たないという。また、児童ポルノの製作、流通、所持に対する容認度が甘いし、日本人男性による東南アジアへの売春ツアーも下火になっていない。

まずは事実を知ること、そして声を上げることが大切だ。(山本和利)

2011年3月24日木曜日

世界文学

『東大で世界文学を学ぶ』(辻原登著、集英社、2010年)を読んでみた。著者は多くの文学賞を受賞している作家である。本書は東大文学部で行った学生講義の記録である。

第一、二講義では、思ったことや自然について文章にして描写するまでに至った歴史的な側面が記述され、その貢献者としてロシアのゴーゴリと二葉亭四迷が取り上げられている。

第三講義の「舌の先まででかかった名前」は、講義の雰囲気がよく出ている。また提出された謎についての解説が参考になる。

第五、六、七講義で燃え尽きる小説と題して、『ドン・キホーテ』『ボヴァリー夫人』『白痴』の大筋を述べながら、すばらしさを解説している。『ドン・キホーテ』の全三巻を買っておきながら読んでいない私には大変参考になった。これが文学の原点(近代文学の嚆矢、神話のベールを剥ぐ)であると強調されているが・・・。『ドン・キホーテ』のすばらしさは、物語の中で物語を批判する点にあるそうだ。

第八講義では、ストーリーとプロットの違いを解説している(E・M・フォースターの論)。ストーリーは、時間の進行に従って事件や出来事を語ったもの。プロットは、時間進行は保たれているが、二つの出来事の間に因果関係が影を落とす。さらに時間を変更させて、謎を含んだ因果関係を示すとレベルの高いプロットになるということである。ここで『悪魔の詩』が取り上げられている。セルバンテスは騎士道精神の背後にある聖書をからかった訳であるが、『悪魔の詩』を書いたラディシュ氏はコーランを愚弄したとして最高指導者ホメイニから宗教令ファトワー(死刑判決)が出された。ある文化背景の中にあっては、言語は冒涜の力を持つ。この出版に関わった者が既に40名以上死亡しており、日本語の翻訳者(五十嵐一氏)も暗殺され、犯人は未だにつかまっていないという。暗殺されたとき一主婦であった五十嵐夫人は、現在、学び直して看護短期大学の副学長になって身体障害者にしっかり向き合う活動をしているそうだ。

第九講義では、自作の『枯れ葉の中の青い炎』はどのようにして書かれたか、が語られている。世界文学とは関係ないが、ここが私には一番面白かった。他の読者もきっと『枯れ葉の中の青い炎』を手に取りたくなるだろう。

「この一冊で<世界文学>のすべてがわかる!」と帯に書かれているが、読むと益々わからなくなった。学ぶとは「自分自身が何も知らないということを自覚することである」と考えれば、著者の意図は達せられたのであろう。(山本和利)

2011年3月23日水曜日

一坪遺産

『TOKYO一坪遺産』(坂口恭平著、春秋社、2009年)を読んでみた。本書は、建築家でありながら建物を建てるよりもリフォームに興味を持つ著者が、路上の小さなスペースを有効に使っている場面を12に絞って報告している。

パラソル下の靴磨き屋、宝くじ売り場、隅田川の0円ハウス、中野のパーキングガーデン、等。そこに足を運んでその場の空気を感じて、絵を描き、インタービュをしている。

お金はなくとも狭い空間を工夫して過ごしやすくしている「一坪遺産」の持ち主への、著者の愛情と敬愛の念を感じる。著者自身が描いている妹尾河童氏のそれと似た挿絵も素晴らしい。

本書を読んでゆくと、狭い空間の方が中途半端な空間より快適なのではないかと錯覚しそうになる。日頃、部屋が狭いと嘆きながらも乱雑な中で生活している私には、部屋のあり方を再考する契機となった。(山本和利)

2011年3月22日火曜日

患者主体の診断 その18

第9章 本書の結論である。
■ 患者主体の診断の目指すところは、患者から直接得られた情報を解釈し、合理的に適用することにある。
■ 診断過程に患者を取り込み、患者の視点から損得を考慮して慎重に精査をすることを強調したい。
■ 患者主体の診断はPC文脈に合うような最良のエビデンスに基づいてなされるべきである。
■ エビデンスに限らず臨床経験や臨床の知恵も含まれる。
■ 不確実な状況に怖じ気づいて、闇雲に検査に走ると問題にある。
■ 「あなたの気持ちを聴くような機会を医師は提供してくらますか」という質問は大事。

限られた医療資源を有効に使うために問いたい
■ 健康管理行政官は新しい診断機器を導入するよりも、患者との時間を増やすことに予算を増やすべきではないのか。
■ 高度医療等は他の専門家に任せて協力を得ながら、PC医自身はもっと患者主体の診断に焦点をあてるべきではないのか。


本書はプライマリ・ケア医が診療する際に重視すべきことが、科学的根拠を示しながら論理的に述べられている。機会があれば、是非翻訳して出版できたらと思っている。(山本和利)

2011年3月21日月曜日

無縁社会

『無縁社会“無縁死”三万二千人の衝撃』(NHK「無縁社会プロジェクト」取材班編、文藝春秋、2010年)を読んでみた。本書は、NHKで放映されたものを活字化したものである。

「行旅死亡人」という言葉を本書で初めて知った。「住所、居所、もしくは氏名が知れず、かつ遺体の引き取り者なき死亡人は、行旅死亡人とみなす」ということである。現在はそんな「行旅死亡人」が増えている時代であるという。アパートの一室でひっそりと亡くなっている者、水死体で上がる者、等。そんな中から記者たちが身元や過去の軌跡を求めて記事にしている。引き取り手がなく、埋葬もままならない遺体のかなりの数が献体となって医学部での解剖実習に回されている。最終章では、絆を取り戻すための人生を送った人のレポートが載せられ、少しの救いもある。

東北・関東大震災に被災しながら品格を持って、飢えや寒さに耐えている日本人の姿がテレビ画面に映し続けられている。各地から援助の手も続々と挙がっている。日本は無縁社会ではないと思える映像である。水、食料、ガソリン、電気を失っても絆を大切にする日本人に、復興への希望を感じた。(山本和利)

葬送流転

『葬送流転人は弔い、弔われ』(星野哲著、河出書房新社、2011年)を読んでみた。本書は、朝日新聞に連載されたニッポン人脈記「弔い 縁ありて」を全面的に書き換えたものである。

時代とともに葬儀の在り方も変わってきているようだ。無縁社会が蔓延して亡くなっても家族が遺体や遺品を引き取らないことが増えている。そこで登場したのが遺品引き取り業である。葬儀を生前に行う例、イエ制度を離れて永代供養契約をする例、散骨、樹木葬、エンバーミングなどのことが記述されている。

「遺体はまだ生きている」の章では、日本人の遺体に対する独特の思いが記されている。完全な身体がないとあの世で死者が不自由を強いられるという思いがある。映画「おくりびと」の裏話や主演した本木雅弘氏と原作となった『納棺師日記』の作者青木真門氏との交流も記されている。日本の葬式代は高いのか、低いのか。

テレビでは東日本大震災で瞬時に多数の死者が出たことを報じている。被災者は天災を淡々と受け入れているように表面上見える映像が流れてくる。きっと表情に表わさない悲しみが鬱積しているはずである。このやり場の気持ちをどこにもってゆけばいいのか。(山本和利)

2011年3月19日土曜日

第三期生:ニポポ終了式

3月19日、NPO法人北海道プライマリ・ケアネットワーク後期研修プログラム「ニポポ」第三期生の研修修了式が行われた。

代表理事である山本が東北・関東大震災による日本の混沌とした状況に触れた後、開会挨拶と祝辞を述べた。修了者の濱田修平さんが3年間の研修の振り返りを行った。その後、修了証書授与および記念品贈呈(電動フォトフレーム)を行った。「地域こそが最先端!」と「絆」と山本が書いた二枚の色紙を手渡した。

その後、祝賀会に移り、乾杯の挨拶を理事である木村眞司先生にいただいた。フランス料理を食べながら研修受け入れ施設であった江別市立病院と留萌市立病院の両院長よりお言葉をいただいた。参加者全員からテーブルスピーチがなされたが、ほとんどが頑張り過ぎるほどの濱田先生の活躍についてであった。それを受けて修了生より感謝の気持ちと今後の抱負の詰め込まれた挨拶が一人一人に対してなされた。 最後に理事である梶井先生 が閉会挨拶をされ、全員で記念撮影 を撮って散会となった。

濱田先生は4月から江別市立病院の総合内科に所属し、診療と教育に従事される予定である。震災後の暗い雰囲気を吹き飛ばしてくれるような素晴らしい会であった。3年間、陰に日向にお世話してくださった皆様方にこの場を借りてお礼申し上げます。(山本和利)

2011年3月18日金曜日

患者主体の診断 その17

第8章は研究である。後半。プライマリケア領域で使われる研究デザインは、ケース・コントロール研究と横断研究である。

<ケース・コントロール研究>
速い、安い、後ろ向き研究
癌などのまれな疾患に適する
交絡因子を調整する
患者志向というより疾患志向である。
横断研究に比較して、ケースコントロール研究は予測妥当性を過大に評価している。
入院患者が中心であった。
有病率が高めとなる。
一致率が低い
新しい臨床情報を組み込めない

<横断研究>
この研究手法はこれまでの至適基準に対して臨床事項を比較検討するものである。
「新規発症の動悸患者」研究を例にとって説明したい。これは一般医の設定で情報を収集した。62名の医師が36診療所で9ヶ月間にわたり新規の動悸患者を集めた。「病院不安うつスケール」をすべて満たすよう問診が行われた。それぞれの患者に心臓のイヴェントを記録する「リズムカード」が渡され、2週間、動悸を感じたときに記録するように指導した。残念ながらこの手法は、選択バイアスが問題となる
2000人を診ている医師の場合、動悸を訴える新規の患者は年間6名程度予想される。62名の医師として単純に計算すると279名となるはずだが、実際には139名の党則であった。訴えの強い患者や紹介した患者だけを登録したのかもしれない。合併症を持つ患者が除かれるため、現実の現場と少し設定がずれているかもしれない。変化を研究する手法である。

至適基準について。注意深い観察でよいことにする場合もある。急性ではない腹痛研究で、後に重篤な疾患であることを予測するのにもっとも役立つのは症候と所見であった。早期がんの患者は腹痛だけのときより、腹痛と肛門出血があるときに発見される。

PC医の関わりとしては、症状から事前確率を設定することにある。まず、病歴から可能性を想定し、それに身体診察所見から可能性を修正し、さらに検査から最終的な可能性を設定する。EBMを学んでいる人がこの手法を用いる傾向がある。

臨床情報を実践に活かすには、

1.この診断の仕方はこれまでのものより優れているか?
2.この診断のプロセスはこれまでのものより優れているか?
3.全体を通じて現在のものより優れているか?
4.さらに侵襲的な検査をすることで、何か得るものがあるか?
をチェックする。

患者にとっては、費用効果性よりも、現実的に受け入れやすく、便利なことの方を重視する。急性足首捻挫研究を紹介。750施設で5ヶ月間、踵骨折の臨床情報を調査した。「踵付近の痛み」「55歳以上」「後方からの骨の圧痛があること」「診察時に加重をかけられない」が踵骨折の予測に有意に貢献することがわかった。これをOttawa ankle rulesというようになった。これによって、XP撮影数, 待ち時間、経費が低下した。

患者主体診断研究の優先事項

疾患
明確な定義
臨床的な意味:有病率、重篤度
診断に問題を含み、よりよい診断法があるか
情報を改善することで診断過程が改善するか

臨床情報
PC医が使えるか:病歴、身体診察
信頼性
患者に安全で受けいれやすい
妥当性・再現性のある指摘基準

診断のインパクト
有効な治療があり、診断法を改善することで治療率が改善し、治療の開始がはやまる
早期に介入が可能となり、死亡率が低下する
診断法を改善することで病気や検査による合併症が低下する
である。(山本和利)

OSCE再試

3月15-17日、共用試験医学系OSCEの再試が実施された。

東医体参加後、本試験に参加できなかった3名と合格点に達しなかった数名が各課題ごとに受験した。
私は医療面接の試験官を担当したが、きちんとした身なりで患者さんに接しても問題ないだけの技能・態度を各自が身に着けていた。

4月から始まる臨床実習でさらなる飛躍をしてほしい。(山本和利)

2011年3月17日木曜日

ベッドルームで群論を

『ベッドルームで群論を』(ブライアンヘイズ著、みすず書房、2010年)を読んでみた。

数学の専門家ではない著者が書いた、興味深い数学の話である。タイトルになっているベッドルームで群論とは、ベッドマットレスの位置を変える方法について述べながら、群論を語る流れになっている。

本書は12の話題を取り上げている。科学的なバイアスのない割り付けにランダムさは常用であるが、その「無作為さ」を作り出すのが難しいようだ。お金の考察も面白い。税金や福祉をはじめとする収入の組織的再分配方法がどうような効果をもたらすか。富める者に税金をかければフリーマーケット経済の破綻は確実に防げる。コンピュータ・シュミレーションで、取引のたびに一定割合の富を所得税として徴収し、それをすべての当事者に均等に分けることにする。すると税率が低いあいだは破綻を防ぐことができなかったが、税率が15%を超すと、経済は破綻せずに永遠に続くように見えたそうだ。これからすると、日本の消費税も15%くらいがよいのかもしれない。DNAの二重螺旋構造の解明のプロセスも興味深い。戦争に関する統計解析から、戦争がいつどこで勃発するか予測できるか(できないそうだ)。歯車の歯の数を計算するアルゴリスムを模索し、時計職人達の思考の跡をたどる。現在、コンピュータは2進法、人間は10進法を用いるが、それ以外の3進法の魅力を追う考察もある。

初めに書かれてから数年後に「後から考えてみると」という文章を追加して、それぞれのテーマについて読者の反応やその後の情報を追加している。数式を見ることなく数学的思考に触れることができるので、医学で疲れた頭脳にとって気分転換になるかもしれない。(山本和利)

2011年3月15日火曜日

患者主体の診断 その16

第8章は研究である。その前半。

患者主体の診断に関する研究の仕方を述べている。前提として、患者主体とはいえ、エビデンスがないと決断に役立たない。一方で研究から得られたエビデンスだけを問題にすればよいというわけでもない。また臨床経験も決断に当たっては大事である。研究の質が低いと、問診や身体診察から得られる情報の価値が下がるので、質の保証が重要な課題となる。

患者主体の診断に関する研究をする際に、2つのタイプの疑問がある。
一つは臨床の疑問であり、もう一つは診断プロセスについての疑問、である。

<臨床の疑問>
他の研究者の成果を確認したり、予測データを示したりするには、次の3つのコア要素を考慮する必要がある。
1.患者とその健康問題
2.介入
3.患者志向の転帰
ときに現在の診断法より優れた方法はないかを探ることも求められる。

プライマリケアの現場では、患者と健康問題と分けて考えるよりも、医師を訪れる兆候を中心に考えればよい。たとえば、「60歳以上の男性の肛門からの鮮血」「20-40歳女性のめまい」「新規発症の動悸」「新規発症の鉄欠乏性貧血」等である。

このような患者に介入するとは、検査に加えての詳細な問診、身体診察等をすることも同等の価値がある。

患者本位で考えると、疾患を診断するだけでなく、患者が被る不快、障害、不満足にも着目する必要がある。癌がないことを保証することも大事である。治療に役立たない検査を控える等の配慮がないと、患者が傷つき、不快となる。

患者本位で考えると、転帰に関する事項の5点について考慮すべきである。
1.有効な治療法があるか
2.診断がよくなることで治療結果がよくなる、または治療が早まるか
3.早期発見により死亡率が低下するか
4.診断がよくなることにより合併症が減るか
5.診断がよくなることで患者の転帰にどう影響するか

残念ながら、診断に関する研究は、検査や疾病が主体となっている。それらは役に立つ情報を提供してくれるが、それだけでは不十分である。

<診断プロセスについての疑問>
患者主体のアプローチには、しっかりとした情報が必要である。
次の2つの再現性が確保されなければならない。1)同一者が時間をおいて評価したとき、2)異なる者が評価したとき、である。

検査前確率についての評価をSackettが次のように提示している。

1)検査前確率が妥当か?
・必要な属性が十分に提示されているか
・最終診断基準が明確で信用できるか
・診断プロセスは包括で的かつ一貫しているか
・はじめ診断が着かない患者については、その後の経過観察が十分な期間なされているか

2)検査前確率の根拠は重要なものか
・診断は何で、可能性はどのくらいか
・信頼区間はどの程度か
(山本和利)

2011年3月14日月曜日

ふたつの嘘

『ふたつの嘘』(諸永裕司著、講談社、2010年)を読んでみた。

米軍占領下にあった沖縄の返還を巡る嘘についてのことが書かれている。

一つ目の嘘。1972年、毎日新聞記者であった西山太吉氏が密約を追求したところ、女性事務官を籠絡して情報を手に入れたという話にすり替えて国家公務員法違反で逮捕された。その夫人が40年の歳月を経て口を開いた。当時の日記を挟みながら記事は進む。沖縄の軍用地を原状回復させるための400万ドルを日米のどちらが払うのかの交渉が最終段階でまつれ、米国が自発的に払うと明記させたが、日本側が肩代わりするとしか読めない内容であった。その追求に国会で若き横路孝弘が立つ。これが元で西山氏は新聞社を退職し、佐藤栄作氏はノーベル平和賞をもらった。裁判の一審は無罪、その後、密約が問われることなく、争点は男女関係に絡んだ取材方法に限られ二審、最高裁で逆転有罪となる。その後、ギャンブルに走る夫。20005月29日、密約を裏付ける資料が出た。

後半は二つ目の嘘。「情報は誰のものか」を問う弁護士、小町谷育子氏の話。密約を裏付ける資料を琉球大学我部政明教授が米国で発見。

裁判で国は嘘を認めるのか。自民党から民主党に変わって国の姿勢は変わったのか。真実を暴くには戦い抜くしかないのだろう。

東北・関東大震災による福島原発の放射能漏れ事故について、政府広報に嘘がないことを祈りたい。(山本和利)

2010年度共用試験医学系OSCE

3月12日、札幌医科大学4年生を対象に2010年度共用試験医学系OSCEが実施された。

前日14時46分に1000年に1度と言われるマグニチュード8.8の大地震が東北地方を中心に襲った。準備中、JR運行停止や空の便の欠航が刻々と流れる。機構のモニターや東京からの外部評価者が参加できない状況となる。東医体参加でもどる途中の学生3名も参加できず。

今回2回目の土曜日実施である。今回も昨年同様医療面接に12列、身体診察(6課題)に4列を設け、半日で終了することができた。

反省会の場で、総じて昨年よりも自学自習している学生が少ないという印象を持たれた評価者が多かった。大地震の爪痕深い中、OSCE自体は円滑に運営された。休日にもかかわらず参加頂いた教官・事務の方々、ありがとうございました。

3月15日に講評を行い、3月17日まで再試の予定である。

FLATワールドカフェ


3月11日、特別推薦学生(FLAT)を対象にしたランチョン・ワールドカフェに参加した。10名が参加。
来年度どのように活動するかについてワールドカフェ形式で話し合いをした。各テーブルに2-3名ずつ。ホスト1名が記録し、留まって解説をする。その他の者は移動する。15分間フリートークを3ラウンド繰り返す。ミツバチが花の受粉を広げるようにしてゆく。全体報告、まとめをする。

1. FLATこんなことがしたい。
2. 来年度のFLATキャンプは?
3. 今後のFLATへの提案。
いき詰まったら次のような質問をしてみる。「一切の制限がなかったら」何をしたいですか?「何が解決したら」できるんだろうか?現状でも確実にできる「小さな一歩」は?

1.FLATこんなことがしたい。
もっと交流の場を増やす。北大・旭川医大との交流を図る。勉強会を開く。応急処置、検眼鏡、レントゲン読影を勉強したい。医師の生の声を聴きたい。アジアの医療を見たい。医学英語の勉強会。英語論文を読みたい。シナリオからどうしたらいいか考えるような勉強会。ホームステイ。離島体験。

2.来年度のFLATキャンプは?
テントでキャンプをしたい。夕張・松前に行きたい。救急・内科・外科ツアーを企画する。病院実習。道内3大学合同実習。農作業・漁業・酪農。

3.今後のFLATへの提案。
毎週集まる。春休みに活動する。昼休み以外がよい。夕方。学年によってやりたいことが違う。学年ごとに勉強する。まだ行っていない地域に行きたい。手術を見たい。ECG、Xpの勉強会。HPを造る。メーリングリストに全員登録する。

学生さんにはこの意見を持ち帰って、充実した企画を提案してもらいたい。(山本和利)

2011年3月11日金曜日

ナノハイプ狂騒

『ナノハイプ狂騒(上)(下)』(デイヴィッド・M・ベルーベ著、みすず書房、2010年)を読んでみた。本書は、ナノテクノロジーの狂騒を批判し、その関係者の事情を記述している。

第1章は、ナノテクノロジーに光をあてたファインマンと『創造する機械』を著したドレクスラーについて書かれている。生物学的に合成されたナノロボットが米国を混乱に陥れるマイクル・クライトンの『プレイ』は二流な作品とこき下ろしている。

上下巻に亘ってナノテクノロジーの狂騒が書かれているので、コンピュータ等に興味がある人には参考になるかもしれない。私には内容が細かすぎて最後は斜め読みになってしまった。(山本和利)

2011年3月10日木曜日

外来感染症診療

3月9日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は勤医協中央病院総合診療部の川口篤也先生である。趣味はバンド活動。テーマは「外来感染症診療」で,参加者は18名である。

まずは質問から。問題を提示して、研修医や学生に訊いてゆく形式である。

風邪に抗菌薬は必要か?「原因はウイルスなので不必要」
風邪の診療は簡単か? 楽しいか?「楽しめない」「本当に風邪か」
そもそも風邪とは?「上気道の急性カタル性炎症性疾患の総称」(カタルとは、鼻閉、鼻汁、咳、咽頭痛などの症状)80-90%がウイルス性。風邪とは、患者自身が「風邪だと思う」と言って受診する症候群である。それゆえスペクトラムが広い。狭義の風邪には抗菌薬は必要ないが、風邪症候群には抗菌薬を処方する場合も不要な場合もある。風邪疾患における医師の存在意義は、他疾患の鑑別・除外である。
「風邪診療は新しい出会いの始まりである」という側面もあり、予防医学的な介入を現実的な範囲で行える。
鑑別疾患を考えてみよう。

症例1.3月9日、30歳男性。発熱、倦怠感。インフルエンザを心配。38.5℃。咽頭痛、咳。PR;100/m、SaO2;97%, 警部リンパ節腫大なし。インフルエンザ迅速検査:陽性であった。
「インフルエンザ様疾患」;悪寒(LR;2.6)、高熱(LR;5.4)、筋肉痛、倦怠感、頭痛)、冬はライノウイルスが多い。くしゃみがあると否定的(LR;0.47)

症例2.30歳女性。発熱、咽頭痛、咳がないと。CVA圧痛あり。
「尿路感染」であった。気道症状のない発熱に安易に風邪と言ってはいけない。

症例3.30歳男性。発熱、膿性鼻汁、頭痛。頭の前の方が痛む。下を向くと痛みが悪化。随膜刺激症状なし。
「急性副鼻腔炎」:二相性の症状。後から頭痛。片側性の叩打痛。Waters撮影。CTをTorと風邪患者の87%に異常あり。最初から抗菌薬を使う必要はない。起炎菌:肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラキセラ。ペニシリン内服。中耳炎も同じ考え方。小児は耐性菌が多い。

症例4.発熱、咳、呼吸苦。下肺野に吸気時crackle聴取。
「肺炎」。Heckerlig score:喘息がない、37.8℃以上、HR>100/m, 呼吸音減弱、crackle,の5項目を評価する。重症度は、意志障害、呼吸数>30/m、収縮期血圧<90mmHg、脱水、年齢(65歳)で判断する(CURB-65)。市中肺炎には、はじめからキノロンは使わない。ペニシリン、アジスロマイシンをお勧めする。なぜなら、キノロンは結核にも効くので、診断が不明確になる。緑膿菌に効く唯一の経口薬だから、温存したい。

症例5.発熱、咽頭痛。両側扁桃腺腫大、白苔あり。頚部リンパ節が腫大。
「急性咽頭炎」伝染性単核球証。咽後膿瘍、扁桃周囲脳炎、急性喉頭蓋炎、Lemierre症候群,ジフテリア。ウイルス性が多い。
Center Score;38℃以上、警部リンパ節腫脹、扁桃浸出物、咳がない、15歳以上は1点、45歳以上はー1点。2点以上で迅速溶連菌検査を。溶連菌患者に濃厚接触した場合は、治療を。

講師の川口先生から次のようなフィードバックをいただいた。「今回は学生から研修医1年目でもわかるようにという観点で作成しましたが、医師の方にとっては物足りない内容だったと思います。学生にとって難しい内容でも最初から後期研修医向けと話していれば、それは了解可能な範囲となり、それでも参加すると面白いことがあると思って学生さんが参加してくれれば嬉しいですね。個人的にはターゲットについては初期・後期研修医向けとするのが妥当と感じます。」

今後はターゲットを明確にして開催してゆきたい。来年度の企画は小児科疾患と整形外科疾患を予定しているが、今回、整形外科疾患企画予定者の徳洲会病院の森先生がわざわざ参加してくださった。来年度もお楽しみに!(山本和利)

2011年3月9日水曜日

3月の三水会

3月9日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は10名。大門伸吾医師が司会進行。体調不良で発表予定者が1名欠席。

振り返り5題。
田舎の病院から中都市の総合病院へ移っての感想。
・限られた中での検査や投薬から即日結果が出る医療へ
・患者中心からスタッフ中心に
・言葉から紙のコミュニケーションに
・車の移動からJRでの移動に
・明確なトップダウンから曖昧なトップダウンに
・外来は閉院した開業医の先生の患者さんを引き継ぐ
・内科の予約外は派遣会社からの先生が主に診療(3年目から15年目)。能力、専門科もまちまち(来年度から派遣医師の受け入れ中止)
・高齢者の肺炎、尿路感染、出張の呼吸器内科、耳鼻科の患者、皮膚科の入院。
・脳卒中の急性期後のリハビリ
・老衰やCPA
・内科を循環器科と消化器科が診て、それ以外を総合内科が診ている。

ある研修医。小児科研修3月目。1年間の総括。一人であったらどうなったことか。三人いれば発展がある。観光地である展望台にも島にも行けなかった。肩・腰・膝の診療ができるようになった。関節注射ができるようになった。骨折に対応ができる。子供診療に慣れた。新患外来、慢性期患者の再診、救急対応、上部消化管内視鏡を担当した。個人的には手応えを感じた。仕事はそれなりにこなして、一般内科医をやっていけるという自信がついた。実力不足を痛感した。困ったときもっと医療スタッフに相談すればよかった。倫理カンファもしたかった。目の前の仕事以外のことができなかった。北海道に来てよかった。充実した1年間であった。

ある研修医。研修施設の運営に関し改善を求めた事例。療養病床の運用基準。院内からの転科のみ。退院後の療養先が決定している患者。運用が40%なのに基準を満たさず受け入れてくれない。1床受け入れで15,000円増える。30床の空床を埋めると1億5千万円の増収となる。運用病床の基準を改められた。利用率は60%に上昇。
1年間を振り返って、忙しすぎた。160名の病棟患者を担当。自分自身の限界がわかった。自己研鑽、教育の重要性を痛感した。

1年目研修医。CPCでの報告。83歳男性。高血圧、高脂血症、高尿酸血症。CAGB術後。今回AAA術後のリハビリ目的で入院。下痢、嘔吐。発作性上室性頻拍。CTで胸水。左下肺野にラ音。肝腫大。BUN:49,UA:13.5、BNP;3490、CTR:64%、心エコーでMR,TR。VTとなり除細動をかける。治療に奏功せず死亡。
甲状腺のクリーゼの可能性は? ウイルス性劇症型心筋炎は? 心筋梗塞?
剖検診断:バイパス血管(静脈)の血腫による閉塞(梗塞)を起因とするVT。とすると、下痢の説明ができるのかという疑問あり。

産休・育休中の研修医。赤ちゃんは5ヶ月。ママ友ができた。集団予防接種に呼ばれた。体温計を渡されBCG接種。30分間はその場で経過観察。接種部位の自然経過についての説明がなかった。副反応としてのリンパ節の腫大やコッホ現象(接種後の強い局所反応)の説明もなかった。
結核予防法の改正により次のように変わった。ツ反の廃止。生後六ヶ月未満に変更となった。乳幼児期の1回だけの直接接種。
接種に関わる医療者がやり方を本当に理解しているかどうか不安がある。

皆それぞれに日々学んでいることを実感した振り返りの会であった。(山本和利)

大学総合診療科外来初診患者の動向

3月6日(日)13:00~北海道医師会館で北海道プライマリ・ケア研究会第53回学術集会が行われました。総会後の学術集会で一般演題「札幌医科大学総合診療科外来初診患者の動向」を発表させていただきました。感想などを交えて以下に報告します。

札幌医科大学附属病院は、大学病院・特定機能病院である一方で、地方都市の市街地にある大規模な総合病院としての性格も有しており、高度先進医療とあわせてプライマリ・ケアを担う医療機関です。大学病院を受診する患者さんのほとんどは専門診療を希望して来院すると一般的には考えられますが、現在の日本の医療制度のもとでは、風邪を引いたと訴えて大学病院へ受診する患者さんもいます。今回、我々は2010年4月~12月の期間で、プライマリ・ケア国際分類(International Classification of Primary Care:ICPC-2)を用いた受診理由のコード化を行い、大学病院における総合診療科の役割を検討しました。

初診患者総数は400名を超えており、やや女性がやや多い傾向でした。また幅広い年齢層の患者さんが受診されていることが分かりました。ICPC-2コードによる受診理由は発熱(熱っぽいも含む)が最も多く、次いで倦怠感、頭痛であることが分かりました。半数以上の方が当科で診療終了または当科再診となっておりますが、院内専門外来や他院紹介となった方も多くいらっしゃいました。主訴が多様で院内紹介の難しい患者さんも多く、十分な医療面接を行うことで適切な紹介、他科との連携が可能となっていること、またじっくりお話を聴くことで、高い患者満足度につながっていると推測されました。今後もさらに多項目でICPC-2のコード化を行い、総合診療科初診患者の解析・検討を深めていこうと考えております。

計6演題、最後の発表者となり、とても緊張しました。一般演題発表後、特別講演で我妻病院の池田先生が「地域医療-地域のプライマリケアとターミナルケアを支えるケア-」を御講演されました。地域だからこそできる豊かなEnd-of-life care、地域で命を看取るということ、「プライマリケアドクターこそターミナルケアを」と話される先生の言葉を耳にして、心が奮い立ち、とても感動しました。 あっという間でしたがとても有意義な研究会でした。(河本一彦)

2011年3月8日火曜日

映画鑑賞2010

2010年に観た映画・DVDを紹介する。

日本作品
パレード、のんちゃんののり弁、ハゲタカ、南極料理人、おとうと、さまゆう刃、春との旅、クヒオ大佐、ONE SHOT ONE KILL 兵士になるということ、LOVE Hotel Collection、純喫茶磯辺、ラッシュライフ、しあわせのかおり、加藤周一 幽霊と語る、幸福(しあわせ)、一万三千人の容疑者、日本列島、証人の椅子、雁の寺、からみ合い、黒い十人の女、女理髪師の恋、密約 外務省機密漏洩事件、実録三億円事件時効成立、麦秋、晩春、大菩薩峠、日本の一番長い日、BOX 袴田事件 命とは

米国・カナダ作品
イングロリアス・バスターズ、3時10分、決断のとき、パブリック・エネミー、カールじいさんの空飛ぶ家、インビクタス 負けざる者たち、キャピタリズム マネーは踊る、バッド・ルーテナント、シャッター・アイランド、マイレージ・マイライフ、ザ・ロード、闇の列車、光の旅、インセプション、クレイジー・ハート、New York, I love you、アバター、シングルマン、新しい人生のはじめかた、ハート・ロッカー、フローズン・リバー、クロッシング、いとしい人、フラッシュ・バック、ダイアモンド・ラッシュ、未来を写した子どもたち、キング・コーン、身代金、殺人ゲームへの招待、評決、ファミリー・プロット、シーラ号の謎、ウィンター・ソルジャー ベトナム帰還兵の告白、ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実、ワイルドバンチ、ブリット、ドッジボール、マジック、ダーティー・ハリー5、渚にて、情婦、泥棒成金、ダイヤルMを回せ、私は告白する、フレンジー、海外特派員、ロープ、理由、ハングオーバー、外套と短剣、死刑執行人もまた死す、第9地区

欧州作品
予期せぬ出来事 第5集 vol.1、かいじゅうたちのいるところ、エンター・ザ・ボイド 、ずっとあなたを愛してる、誰がため、月に囚われた男、カティンの森、フェイカーズ、レクイエム、アイガー北壁、しかし それだけではない、ボローニャの夕暮れ、華麗なるアリバイ、ウディ・アレンの夢と犯罪、リトル・ランボーズ、トランスポーター、トランスポーター2、ジャガーノート、北海ハイジャック、穴、地中海殺人事件、オスロ国際空港/ダブル・ハイジャック、セラフィーヌの庭、ジョニー・マッド・ドッグ

北欧作品
続・我が闘争、ミレニアム ドラゴン・タツーの女、ミレニアム2 火と戯れる女、ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士、マルティン・ベック/サヴォイホテルの殺人/ロセアンナ・/バルコニーの男/消えた消防車

韓国作品
君に微笑む雨、グッドモーニング・プレジデント、アバンチュールはパリで、牛の鈴音、霜花店(サンファジョム) 運命、その愛、息もできない、達磨よ ソウルに行こう!、達磨よ 遊ぼう!、後悔なんてしない、渇き

北朝鮮作品
アリラン祭、洪吉童(ホンギルトン)

イラン・中近東作品
彼女が消えた浜辺、予感

台湾・中国・香港作品
コネクテッド、戦場のレクイエム百年恋歌、マジック・キッチン、スター・ランナー、スカイ・オブ・ラブ、海角七号 君想う、国境の南

中南米作品
太陽のかけら

南米作品
瞳の奥の秘密

<お勧め作品>
・春との旅(北海道のロードムービー)
・ONE SHOT ONE KILL 兵士になるということ(軍隊の理不尽さがわかる)
・証人の椅子、密約 外務省機密漏洩事件、BOX 袴田事件 命とは、(えん罪の怖さ、それに立ち向かう勇気)
・日本の一番長い日(天皇制を守ろうとした終戦前夜)
・インビクタス 負けざる者たち(許すことの大切さ)
・キャピタリズム マネーは踊る(資本主義の問題点)
・シングルマン(生と死を考える一日)
・ハート・ロッカー(戦争現場の恐怖)
・フローズン・リバー(公正に生きるとは何か)
・未来を写した子どもたち(子供の目を通してみた世界)
・キング・コーン(米国人は歩くトウモロコシである)
・ウィンター・ソルジャー ベトナム帰還兵の告白、ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実(ヴェトナム戦争の欺瞞)
・牛の鈴音(土と生きる農民の姿)
・息もできない(この迫力!正に息もできない)
・彼女が消えた浜辺(イランの現実、文化背景の重さ)
・海角七号 君想う、国境の南(日本と台湾との過去を考え、かつ音楽が楽しめる)
(山本和利)

2011年3月7日月曜日

シネマ教育

3月7日、NBMの授業の一環として映画を用いた教育を試みた。これまでの授業の流れは次のようである。
1.NBM概論
斎藤清二:3時間
2.患者のナラティブ
山本和利:3時間
3.患者の病いの語り
寺田 豊:3時間
4.医師のナラティブ
山上実紀:3時間
5.シネマ、総括
山本和利:3時間

今回は「ドクター」というウイリアム・ハート主演映画の開始から40分間分を観てもらった。(恵まれた家庭と高い名声を誇る心臓外科医が、突然の病に倒れることで一転、一人の無力な患者になる。患者になってはじめて気づく事務的で冷たい病院システムや医師の態度。家族との頼りない絆。そんな状況の中で一人格闘を続ける・・・)。

学生に感情を揺すられた場面にタイトルをつけてもらい、感想を求めた。

学生Aのタイトル「科学者として、哲学者として」・・・患者・医療者に限らず、人は本当に常に書き換え続けられる1冊の本のようだと感じました。映画の主人公もこれから新たな物語を作ってゆくのだと思います。患者さんの物語の良き登場人物として、また全体の進行を観察する冷静な書き手として臨床で患者さんとお会いできたらと思います。

学生Bのタイトル「derection(方向)」・・・医師に必要なスキルはやはり“コミュニケーション能力“、それも”患者方向へのコミュニケーション能力“が大切なのだ。その能力がないと、患者への理解や共感ができないばかりか、自分自身のことも理解する機会を失っているのだろう。・・・NBMの5回の授業を通じて、患者さんの話を聴いて本当に素晴らしい体験をすることができた。科学的で人間的な二つの側面が求められるこれからの医療について5・6年生の実習では実際に肌で感じながら考えてゆきたい。

学生各自が様々な気づきを書き綴っている。映像による教育力のすごさを実感した一日だった。(山本和利)

2011年3月6日日曜日

日本プライマリ・ケア連合学会理事会

3月6日、東京の医師会館で開催されたプライマリ・ケア連合学会理事会に参加した。
はじめに前沢理事長の挨拶。会員数が増えている(5,800名)。冬期セミナーでの若手の活発な動きを報告。続いて各委員会から活動報告があった。病院総合医については、今後は日本内科学会との協議をしながら進めることになった。薬剤師認定制度が機構理事会で認証された。1月19,20日、第6回若手医師のための家庭医療冬期セミナーが東京大学において280名が参加して開催された。2011年秋季セミナーは東京と大阪において各々定員400名で2回開催される予定である。渉外委員会から各団体との関係のあり方について説明があった。選挙制度等検討委員会からブロック割の案がだされた。北海道、東北、関東・甲信越、中部、近畿、中国・四国、九州・沖縄の7つ。理事の選出は、地域ブロック選挙、全国区選挙、理事長指名の3つから。地域ケアネットワーク委員会は、委員長が交代し新たに看護師、介護支援専門員協会から推薦をもらい活動を開始する予定である。自殺予防WG、医科歯科連携推進WSの報告。学会誌編集委員会から34巻1号の報告。原著・研究が5編。専門医・認定医制度の特集。広報委員会からHPに各委員会が書き込めるようにしたい。HPの一元化が討議された。国際関係委員会から活動報告。名称検討委員会から「日本プライマリーケア学会」を提唱し、2013年の総会で正式に決定したい、と。在宅医療推進に関する報告。若手医師部会から「若手ジェネラリスト 全国80大学行脚プロジェクト」立ち上げの報告があった。学生部会から2名が特別に出席し報告。地域医療連絡協議会、多職種連携教育等との関わりを強める必要を強調された。

協議事項として、役員選挙規定案、学術大会について、田坂賞について、専門医・認定医認定制度の要項、認定薬剤師の地域実習について、診療所施設認定に関する検討について、認定看護師の検討方法について、事務員雇用ついて等が審議された。2012年学術集会は9月1,2日に博多の国際会議場で開催されることになった。2013年学術集会は東北ブロックでの開催を予定。現在、家庭医専門医は179名、PC認定医は865名。専門医制度の構築について担当委員から説明があった。会議はまだまだ続く・・・。
次回の理事会は2011年6月30日。(山本和利)

2011年3月5日土曜日

富良野サイトウオッチ

3月5日、ニポポプログラムの研修医である服部晃好先生の研修評価に山本和利、日光ゆかりの2名で富良野協会病院に出かけた。山本は前日に東京から旭川空港経由で富良野入り。この時期は天候が安定せず、到着が大幅に遅延。空港からの富良野行き最終便に乗ることができずタクシーを利用。予定外の出費となる。

11時開始。病院長、小児科医長、整形外科部長、病棟看護師、薬剤師、放射線技師、ソーシャル・ワーカー、事務長が参加して360度評価法を行った。約40分にわたり意見交換が行われたが、各部門の評価はどれも非常に高く、問題は見当たらないということであった。どの部署からもコミュニケーション能力の高さを賞めていただいた。
その後、山本、大門医師、服部医師で総合内科に入院患者さんの治療法について検討を行った。

帰りはJR経由で帰途についた。JR富良野駅には「北の国から」のテーマ曲が流れ、北海へそ踊りの人形が飾られている。

服部先生、富良野での研修ももう少し。過労にならないように気を津つけて頑張ってください。指導医の先生方、職員の方々、今後もよろしくお願いします。(山本和利)

地域医療実習の実践

3月4日、東京にある都道府県会館において鹿児島大学主催で行われた地域医療実習の実践シンポジウムに参加した。はじめに鹿児島大学の獄崎俊郎離島へき地医療人材育成センター長の挨拶があり、続いて岡山雅信自治医科大学准教授の「地域医療マインド醸成のための地域医療実習のあり方」という講演を拝聴した。

地域医療マインドとは次のようなことを満たそうとする気持ちである。地域医療マインドを持った指導医の背中をみながら共に体験し、地域のニーズを直接肌で感じることが重要である。
「地域医療」とは、住民の健康問題のみならず、生活の質にも注目しながら、住民一人一人に寄り添って支援していく医療活動である。「切り取らない」ことが大事。
「今なぜ地域医療か」高齢者社会の到来、医療費の高騰、等、多様化している。「医師の役割」幅広い領域・分野に対応しなければならない。診療所医師の業務は、主に外来、予防接種、介護、在宅医療、学校医、各種健診業務である。幅広い医療の提供と住民との良好な人間関係の2つが受診者の満足度に影響している。
「地域で高い評価を得る医師の姿」は、幅広い医療の提供、住民との良好な人間関係、初期救急医療の提供、保健・福祉の実践、医療機関の健全な経営、である。
自治医大のカリキュラムは、低学年から臨床との関連を重視、2年間の臨床実習、全診療科の実習をしてきたが、今後は次の「地域医療の教育の3要素」を強調する(地域医療に対する心構え・意欲・使命感の醸成、地域医療システムの理解、基本的な診療能力の習得)。1998年から選択から必修に変わった。1999年、質を保証するため、各県に臨床講師制度を設け、学生の出身県で行うことになった。指導医の熱意は重要である。地域医療の楽しさ、やりがい、喜びを学生が味わえる内容でなければいけない。2001年、病棟実習以外の内容を取り入れた「標準プログラム」を提示した。日本において地域医療実習については、2003年、大学外での実習が提案された。世界の流れを見ると1987年、WHOのレポートにcommunity-based educationの勧告が出されている。

事前に集計した地域医療実習教育に関するアンケート結果の発表があった。何らかの実習が行われているのは87%。実施項目数は大学に差がある。健康教育、予防接種の実施率は50%以下であった。

その後、各大学の取り組みとして、札幌医大、長崎大学離島・へき地医療学講座前田隆浩教授、岡山大学地域医療人材育成講座佐藤勝教授、筑波大学地域医療教育学前野哲博教授から発表があった。私も札幌医大を代表して発表を行った。札幌医大のポートフォリオのフォーマットを送って欲しいという意見が数大学から寄せられた。長崎大学は3コースがあり、歯学部、薬学部も他大学からも受け入れている。参加者数が急上昇。暮らしに近い医療の体験が売り。画像の遠隔診断はドクタヘリの導入に伴い頻繁に使われるようになってきた。最後に、総合討論が行われた。(山本和利)

2011年3月4日金曜日

患者主体の診断 その15

第7章の検査の終盤 Patient-centred diagnostic testing
現在プライマリケア医は、MRI、エコー、内視鏡など幅広い検査が利用出来るようになっている。しかし、技術にとらわれて身体診察や病歴などの情報がおろそかになっている。
自分自身が内視鏡をする中で、検査を実行出来ることが大事なのではなくて、本来の検査目的を思い出すことが重要だと感じた。
このことから学んだことは
1)患者の満足度の点で,どのような検査が必要なのかを熟考すること
2)検査結果は、(検査を行うものの技量によるため)信用出来るものでは無い可能性があること

 検査の検査者による違いは;κ値
例としては、スパイロ検査はκ値としては呼吸器専門医では0.31以内、GPでは-0.12以内であった。
胸部レントゲンは世界的に良く使用される検査であるが、スクリーニング、診断において問題がある。特に肺疾患を診断する手法として病歴、身体診察よりも感度が良いとされている。1950〜60年代にフィラデルフェア在住の45歳以上の6027人の男性ボランティアに6月毎10年間のレントゲンスクリーニング検査を症状と喫煙状況の研究がある。
肺がんとの関係は?レントゲン検査より臨床症状のほうが肺がんとの関係が深い。
Clinical feature Risk%(肺がん)
------------------------------------------
当初CXPで異常なし 1.78
当初CXPで所見あり 2.64
慢性咳 2.98
声のかすれ 3.42

 胸部レントゲン検査は必要?
胸部レントゲン検査では、擬陽性、擬陰性があることを知っていなければならない。例としては、検査条件、体位、不十分な息止めなどがある。また検査上問題が無くても肺野位置によっては診断が困難で、喀血患者の半数は胸部レントゲン検査では正常である
プライマリケアでは、症状や既往が重要で、鼻汁、咽頭痛、25回以上の呼吸数、体温、夜間の発汗、筋痛、痰がなどの情報により肺炎を疑い、レントゲン検査は行わなくとも良いかもしれない。
心不全については、レントゲン検査のκ値は0.5で、LR+も肺血管影の増強2.0、心拡大2.4にとどまるが、一方BNPはECGと合わせるとLR+4.5になる。

 より適切な診断のために
検査を行う範囲が増加するにつれて不適切な検査の増加に対して懸念している
腹部CT検査は自然暴露の4.5年分、胸部レントゲン検査の500倍の被爆量がある。しかし急性腹症ではない場合にも使用されているとの報告がある。既に病歴、身体診察から明らかな診断情報が得られているにもかかわらず60%の患者が検査を受けている。
プライマリケア領域でも、腰痛に対しての検査は、レントゲン検査からCT,MRIに取って代わってきている。
6週間以内の急性腰痛は、全身症状が無く神経所見が無ければ,そのような画像検査は必要ない。
患者主体の検査ではもう一度診断プロセスを再確認することが必要で、事前確率を考量して検査を考慮しなければならない.

検査 indication(κ値)
------------------------------------------
CXP 心肥大(0.48)
CT 脳卒中の異常(0.6)
MRI 椎間板評価(0.59)
下肢エコー DVT(0.69)
甲状腺エコー 結節の有無(0.57)
内視鏡 GERD(0.59)
肝生検 肝硬変(0.49)

 より適切な診断のためのダイアログ
患者主体の検査では以下の2段階のダイアログを意識する。
第1段階
症状、病歴、画像診断歴、主たる感染症、妊娠の可能性、体内金属物そして現時点での診断について検討する
第2段階
1)さらに問診、身体診察からの診断の可能性についての評価を考慮する
2)診断に対しての裏付け、フィードバックに対して最小限の検査で最大限の効果があるのかを意識する
3)最初の診断から適切のステップを踏んで診断しているか
4)患者のリスク、ベネフィットを考慮しているか

 検査はどうすれば減らせるのか?
オランダでの8年間の85名のPC医の検査の適切なフィードバックの介入研究では、検査を減らせることが報告された衝撃的なものであった

検査 減少率(%)
-------------------
血算 39
血清 60
生化学 30
尿検査 48
細菌検査 17
ECG 4

 患者主体の診断における検査のあり方
プライマリケア領域では世界的傾向としては7−8%の検査が増加している。診療医の視点では、検査の診断に対する効果についての考察が必要で、さらに患者主体の診断においては経済的な効果の研究も重要である。8年間の85名のGP介入研究では患者1人あたり2ドルのコスト削減を可能にした。医療資源について有効であった。このように患者主体の本当に必要な検査を考えるきっかけとなれば…(寺田豊)

2011年3月3日木曜日

海外帰国者の発熱

2月にバリ島から帰国後の30歳代女性。帰国2日目、悪寒を伴う発熱が続くため近医を受診。汎血球減少を伴う発熱のため入院となった。インフルエンザ陰性。咽頭発赤あり、咽頭周囲に口内炎あり。両耳介後部に直径1-2cmのリンパ節を触知。右大腿伸側に丘疹が点在。
この病歴からどんな病気を疑いますか。

病歴、身体所見からデング出血熱の疑いが高い。現地では蚊に刺されたという。バリ島旅行後の発熱では、デング熱を疑う必要があるようだ。点状出血もあり、診断基準からはデング出血熱の基準を満たす。特効薬はなく、対処療法で急場を凌ぐことが肝要である。確定するには25,000円かかる抗体検査が必要。

Dengue feverの症状は、発熱、頭痛、眼窩痛、筋肉痛、関節痛、皮疹であり、出血斑や点状出血、下血を伴うとデング出血熱となる。不顕性のことも多く、潜伏期間は5-8日。発熱は2-7日続き、発熱は二相性である。身体所見では比較的徐脈でリンパ節腫脹を起こす。皮疹は50%に見られ、麻疹や風疹のそれに似ている。胸水や肝腫大がみられることもあるそうだ。血液検査では汎血球減少や肝機能障害を起こすようだ。

海外渡航者の発熱には、日頃経験しない疾患も鑑別診断にいれなければならないことを痛感した。(山本和利)

2011年3月2日水曜日

患者主体の診断 その14

第7章の検査の中盤 Patient-centred diagnostic testing
 IBSについて
過敏性腸症候群は、IBD、感染や大腸がんを除外して、典型的な症状に基づいて診断を試みる、診断基準にはManning criteria とRome criteria がある。患者は、リスクのある検査に関心を払う。例としては大腸内視鏡は0.4から1.2%の合併症のリスクがあり、致死的なリスクは0.01%である。さらにアメリカにおいては800万ドルの過剰なコストがかかっている。Suleimanらはベイズの方法でIBSの診断法を適用した。5%の事前確率だとすると大腸内視鏡を用いないで非侵襲的な病歴、身体診察、便潜血、CBC、甲状腺などの生化学検査などにより事後確率は80%になる。
 パーキンソン病について
パーキンソン病であると一目見てわかる男性がいた。歩行困難、仮面様顔貌、震戦がみられていたが、パーキンソン病である告げたが妻は失望して私にこういった「あたたはパーキンソン病だと告げた4人目の医者で、神経内科医からの手紙を渡してくれた…」75%のパーキンソン病では静止時震戦がみられ、教科書にはピルローリングなどの記載があるが、パーキンソン病と症候群の鑑別は専門医でも困難である。病理結果からみると25%は誤診されている。その結果、治療は不適切なものとなり,患者に対して社会的不適応を作り出してしまっている。本当にパーキンソン病の診断は難しい!?
震戦でパーキンソン病の診断に至った例は、LR+1.3で硬縮と寡動でも2.2にとどまっている。驚くべきことにレボドパでの改善例は僅か1.4である。65歳以上でのパーキンソン病の事前確率は1%で問診、身体診察で疑っても20%である。その他疑うべき兆候の報告はあるが、信頼性は乏しい。最近パーキンソン病の診断は、SPECT、DaT(ドパミン輸送体)SCANに置き換わって来ている。DaTSCANのパーキンソン症候群と本態性震戦の鑑別の感度は97%で特異度は100%である。プライマリケア医は、このような特異的検査について患者主体の診断学の視点から関心をもっておくべきである。
 DVTの診断
DVTの診断はプライマリケアにおいて特別な意味合いを持っている。最近のメタアナリシスでは、悪性腫瘍でLR+2.7、以前にDVT既往があればLR+2.3最近に手術既往があればLR+1.8と有益なエビデンスがある。しかしながらこのような尤度比がつかえなければ、除外診断の為にコストのかかる画像診断に頼ることになる。またDダイマーは手術、外傷、がん、妊娠などと同様にDVTの診断に有益な情報をもたらす。Dダイマーが陰性の場合はDVTの陰性尤度比0.20であるので事後確率を算出する際に重要である。プライマリケアにおいて修正WellsスコアがDVT診断にプライマリー領域で有効である。
 迅速な診断のために
患者主体な迅速検査は、すぐに検査結果が得られることそれが患者ケアに役立つことである。今までの検査に比べて分析時間、報告時間が短縮されている。ERなどの報告によると7%の改善率にとどまっている。出来る限り心筋梗塞を疑う患者対応にプライマリケア医として迅速検査は重要と考えている。心筋梗塞の患者はECGが正常でCPKも正常でも偽陰性の場合があることをよく知っているので、心筋梗塞のトロポニンの感度は、2時間で33%、8時間後では86%であり、適切な対応が可能となる。
 質の保証はどうするの?
プライマリケア医は臨床診断を行う際に検査について信頼性、確かさについて疑問をもつが、プライマリケアの視点での研究は少ない。
外来患者や学生などの健康で限られた対象者でのコフォート研究である場合が多い。このことは進行性し全身に広がった疾患では陽性になることがあるが、そうでない場合は陰性所見となってしまう。患者主体の視点から検査機器は理想的な状態のデータを提供するだけではなくて、プライマリケア領域から集められたデータと提示できるようにすべきである。

検査結果の信頼性は内部と外部的な質のコントロールにより、内部的質のコントロールとは、診断基準などの日々の診療に基づく検査データをどのように適応していくかにかかっている外部的質のコントロールとは迅速検査と検査機関からのデータを統合する形となる。これからいかにデータを統合するかにかかっていると言える。プライマリケア領域では簡易検査は質の保証についての関心が強い。その例としては8年以上アメリカでの血糖測定器の問題により24名が死亡し986名が影響を被った例がある。しかし検査機関での検査結果の信頼性についても疑問を持つべきなのかもしれない。検査結果はデータが戻るまでには経過のなかでの不確かさがある。
プライマリケア領域での検査について以上のような視点での研究は必要ですね。(寺田豊)

2011年3月1日火曜日

留萌サイトウオッチ

2月28日、ニポポプログラムの研修医である濱田修平先生と岸野宏貴先生の研修評価に山本和利、日光ゆかりの2名で留萌市立病院に出かけた。札幌駅から特急に乗って約1時間で深川駅に着き、そこから一両編成の電車で約60分。あたり周辺は雪景色。

17時半から会議室で開始。病院長、副院長、外科部長、病棟看護師、薬剤師、事務長が参加する360度評価法である。看護師さんの評価が意外に厳しいことに少し驚いたが、医師からの評価は非常に高かった。研修内容が欲張りすぎており、忙しいスケジュールになりすぎていたようだ。病棟業務、外来業務、診療所での往診、救急や夜間入院患者の受け入れ、健康教育と論文作成、等。このような忙しさが病棟に居る時間を減らし、先の看護師さんの評価につながったのかもしれない。約1時間にわたり意見交換が行われた。このようなプロセスを一つ一つ踏みながら、研修プログラムの質を高めてゆきたい。

山本は留萌駅のそばの旅館に一泊し、翌朝帰途についた。JR留萌駅には巨大な「カズノコ」が陳列されていた。

濱田先生、岸野先生、留萌での研修、あと一ヶ月。頑張ってください。温かい目で見守ってくださっている職員の方々、住民の方々、ありがとうございます。(山本和利)