札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年3月15日火曜日

患者主体の診断 その16

第8章は研究である。その前半。

患者主体の診断に関する研究の仕方を述べている。前提として、患者主体とはいえ、エビデンスがないと決断に役立たない。一方で研究から得られたエビデンスだけを問題にすればよいというわけでもない。また臨床経験も決断に当たっては大事である。研究の質が低いと、問診や身体診察から得られる情報の価値が下がるので、質の保証が重要な課題となる。

患者主体の診断に関する研究をする際に、2つのタイプの疑問がある。
一つは臨床の疑問であり、もう一つは診断プロセスについての疑問、である。

<臨床の疑問>
他の研究者の成果を確認したり、予測データを示したりするには、次の3つのコア要素を考慮する必要がある。
1.患者とその健康問題
2.介入
3.患者志向の転帰
ときに現在の診断法より優れた方法はないかを探ることも求められる。

プライマリケアの現場では、患者と健康問題と分けて考えるよりも、医師を訪れる兆候を中心に考えればよい。たとえば、「60歳以上の男性の肛門からの鮮血」「20-40歳女性のめまい」「新規発症の動悸」「新規発症の鉄欠乏性貧血」等である。

このような患者に介入するとは、検査に加えての詳細な問診、身体診察等をすることも同等の価値がある。

患者本位で考えると、疾患を診断するだけでなく、患者が被る不快、障害、不満足にも着目する必要がある。癌がないことを保証することも大事である。治療に役立たない検査を控える等の配慮がないと、患者が傷つき、不快となる。

患者本位で考えると、転帰に関する事項の5点について考慮すべきである。
1.有効な治療法があるか
2.診断がよくなることで治療結果がよくなる、または治療が早まるか
3.早期発見により死亡率が低下するか
4.診断がよくなることにより合併症が減るか
5.診断がよくなることで患者の転帰にどう影響するか

残念ながら、診断に関する研究は、検査や疾病が主体となっている。それらは役に立つ情報を提供してくれるが、それだけでは不十分である。

<診断プロセスについての疑問>
患者主体のアプローチには、しっかりとした情報が必要である。
次の2つの再現性が確保されなければならない。1)同一者が時間をおいて評価したとき、2)異なる者が評価したとき、である。

検査前確率についての評価をSackettが次のように提示している。

1)検査前確率が妥当か?
・必要な属性が十分に提示されているか
・最終診断基準が明確で信用できるか
・診断プロセスは包括で的かつ一貫しているか
・はじめ診断が着かない患者については、その後の経過観察が十分な期間なされているか

2)検査前確率の根拠は重要なものか
・診断は何で、可能性はどのくらいか
・信頼区間はどの程度か
(山本和利)