札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年4月29日金曜日

ロビン・フッド

『ロビン・フッド』(リドリー・スコット監督:米国・英国 2010年)という映画を観た。

スカッとしたくてこの歴史スペクタクル大作を観ることにした。「ロビン・フッド」については、漠然と12世紀末の英国で活躍した義賊としか知らなかったが、実際にもその程度しか資料がなく、これまで様々なタイプのロビン・フッドが演じられてきたようだ。

本作は、新しい視点からロビンを語っている。今回のラッセル・クロウが演じるロビンは、庶民や虐げられてきた者の立場に身を置いて権力者に対峙しており、大いに共感できた。時代にマッチしている。筋の展開に無理がなく、主人公の気持ちに感情移入しやすく作られている。凛として知的な存在感のあるマリアン・ロクスリーを演じた ケイト・ブランシェットもいい。(二人ともオーストラリア出身だそうだ。)

最後に男の嫉妬の怖さも描いている。連休中、時間のある方はDVDで観てはいかがでしょうか。(山本和利)

1年生医学史 「ファシリテーションのコツ」講義

1年生の医学史の中の『ファシリテーションのコツ』の授業を行った。
まだ、日本に馴染みのない概念なだけに、講義の準備は苦労した。

まずはじめに、先週行ったプレゼンテーションの授業の学生からの感想を紹介した。
自分たちの書いたレポートがどのように反映されているがわからないのではレポートも書く気が失せるであろう。

プラスの評価をしてくれるコメントが多く、講師としては非常に嬉しかった。中には、手厳しい指摘も多く、

「スライドのミスは命取り」
「話し方がきつすぎる」という指摘があった事を紹介した。

確かに当日は自分のパソコンではなく、他人のパソコンを使用したため、文字の配列などがずれてやや見にくいものとなっていた。

ただ、
このことだけをプリントに記載することの是非について考えてもらい、
「建設的にアドバイスする」の意味を一緒に考えてもらった。
これの意味するところが今日の「ファシリテーション」にも重要であるという前振りを行い、講義の本題に入った

まず最初に、
「ファシリテーション」の日本語訳を考えてもらった。
多くの学生が初めて聞く言葉のようで、
「分からない」との回答が目立った。
「司会をうまくする」
「物事をうまく決めるようにする」などという意見もあった。

ファシリテーションとは
「知的化学反応の触媒」のことであると紹介し
①中立的で、
②道しるべを示し、
③チームワークを引き出し、
④成果が最大となるように、
「支援する」ことであると説明した。
「自らリーダーとなり率先することではなく、あくまで、メンバーの能力をうまく引き出し、活用する手助けをするのである」と説明した。

以上の説明を聞いた上で、「誰」のファシリテーションが良いと思うか?
を聞いてみたところ、

「島田紳助」・「岡田武史」・「上田晋也」などの意見があった。
スライドでは「田原総一朗」「島田紳助」「小堺一機」を紹介したところ、
小堺一機のところで「あ~」という反応が起きた。

しかし、この人達は良き司会者であるかもしれないが、良きファシリテーターではない。

実のところ、日本には本物のファシリテーターは少ないと考えている。

参考までにGoogleで検索した結果を紹介した。
『ファシリテーション』          46万件
『facilitation』            1060万件

『プレゼンテーション』         497万件
『presentation』         3億1700万件

『札幌医科大学』             93万件

結局、検索結果としては、海外と2ケタほどの認知度の違いがあり、
プレゼンテーションと1ケタ違い、
札幌医科大学の半分程度の知名度しかないということだ。

この後、
「ファシリテーターの道具箱」(ダイアモンド社)の中に紹介してあった、ファシリテーションの概念図を紹介したが、やはりこのあたりが眠気の最も危険地帯だろう。

聴衆にとって、「新しい概念」の説明は最も難しいことだ。
どうしても、「スライド」が「スライデュメント」になってしまう。


以下の喩えを紹介した。

ファシリテーターは幼稚園児の遠足の引率の先生である。
「今日は〇〇公園に行きましょう」と道しるべを示し、公園についたら、「道路にはでないで、公園の中であそびましょう」という最低限のルールを決めて、後は子供たちに好きなことやらせて充分に遊ばせる。
取っ組み合いの喧嘩が始まったら、それはきちんとなだめて止める。どちらかを一方的に叱るようなことはしない。
充分遊んだら、最後はみんなでバスに乗って帰るようにする。(家が近いから徒歩で帰りたいとか、電車に乗りたいという意見が出ても、最後はみんなでバスに乗って、みんなで仲良く歌を歌って帰るようにする)
これをなんの違和感もなくスムーズに行えるのが、良いファシリテーターだと。

以上の喩えを紹介した。


また、フィンランドの国語の教育方法をまとめた、フィンランド・メソッドを紹介し、その教育を受けた小学5年生が、「人と話すときに気をつけること」という課題でまとめた10箇条を紹介した。

 他人の発言をさえぎらない
 話すときは、だらだらとしゃべらない
 話すときに、怒ったり泣いたりしない
 わからないことがあったら、すぐに質問する
 話を聞くときは、話している人の目を見る
 話を聞くときは、他のことをしない
 最後まで、きちんと話を聞く
 議論が台無しになるようなことを言わない
 どのような意見であっても、間違いと決めつけない
 議論が終わったら、議論の内容の話はしない

とても小学5年生がまとめたとは思えない。
このような教育を受けた大人を相手にファシリテーションを行うのは非常に簡単だが(最低限のルールがすでに幼少期から教育されて完成されている)そうでない日本人を対象にファシリテーションをするには、やはりファシリテーターがそれ相応の努力・工夫をしなければならないだろう。

最後に本日どうしても覚えてほしいこととして、
「PNPフィードバック」を紹介した。
Positive-Negative-Positive フィードバック のことで、相手の意見に対し、この方法を意識することで、議論を円滑にすすめることができるようになると教えた。

池上彰は、良きプレゼンターであり、良きファシリテーターであるが、
「いい質問ですね」とお決まりのセリフを言う事により、もうすでに最初のP は終わっており、後は引き続くNPを考えるだけで良いのである。


医学史の講義では今後、
1グループが、30分間で与えられたテーマについてプレゼンテーションし、残りの15分を別のグループが会場をファシリテートすることにより議論を深めていくという授業形態をとるが、

今回の松浦の2回の講義に対する質疑応答を、例として松浦自身がファシリテートしてみせた。

バズセッションという方法を紹介した。
講義終了後にいきなり「何か質問ありますか?」と会場に呼びかけても学生が手を挙げることはないため(実はこの日は予想に反して学生が一人手を挙げてくれたのだが、空気を読んでもらい、挙手を取り下げてもらった!)
まずはグループ内(6-9人)でこの2週間の講義について話しあってもらった。
その際に一人リーダーを決めて、グループ内の議論をファシリテートして、発表してもらうこととした。

実際のバズセッションでは「会場の近くの人と少し話しあってみてください」という時間を作ってから、質問や意見を受け付けるという方法を取ることが多い。

15分後に「グループ内での意見を発表してください」と問いかけたところ、なんと、指名しなくてもパラパラと手が挙がるようになっているではないか!!

恐るべし、ファシリテーターの道具箱!!

学生の発表は、きちんとPNPに乗っ取った発表で、聞いているこちらは非常に心地が良いが、まだまだ、ぎこちなさが残り、会場から笑いが起きていた。

松浦の「N」の部分としては、
「司会者」との区別がよくわからなかった。
「これがファシリテートだ!」というようなはっきりしたものを示していないので、よくわからなかった。
「ギャグ古く、時々スベるので、痛いなぁと思いつつ、ジェネレーションギャップを感じた」

などがあったが、きちんと「P」で包んであるため、今後の医学史の発表ではそのあたりがわかるようにしてきましょう!と素直に思え、次に繋がるフィードバックであった。


                  (助教 松浦 武志)

2011年4月28日木曜日

FLATランチョン講習会

4月28日、今年度第1回目の特別推薦学生(FLAT)を対象にしたランチョン講習会に参加した。18名が参加(学生15名)。

今回は松前町立松前病院の夏目寿彦医師から「地域医療教育」について講義をしてもらった。

まず、カンボジアでの話を、写真を中心にプレゼン。子供が何かを持っている。棒状のもので飲んでいる。3歳の子供がタバコを持っている。小学生がお酒を飲んでいる。場所によって許されていることは様々である。医療機関にかかることなく死亡した男性の写真。
どさんこ海外保健協力会の紹介。カンボジアからネパールに軸足を移しているとのこと。

地域医療に関する医学生にとったアンケートを紹介。地域医療と言っても設定によって様々である。地域医療は「人との関わりが深く、やりがいがある」。医療、福祉、行政、住民が一緒にやるのが地域医療。幸せに暮らせる街づくりを目指す。「医療はすべからく地域医療である。地域医療が注目されるのはされていないことの裏返しである。」若月俊一の言葉を紹介。

へき地医療は地域医療の究極的な姿である。現在言われている「地域医療の崩壊」とは、地方の中核病院の医師不足である。総合医は診れるものは何でも診る。夜中に骨折患者も診れる。後方病院に送る前に診断をつけておくと、後方病院で手術等の準備ができる。地域の医師の役割は曖昧であるが協調的である。

へき地における医療はインフラの一つである。教師、消防士、警官、公務員は循環するシステムをもっている。彼らの引き上げ等の話は聞いたことがない。医療だけに循環システムがない。足が遠のく。医療においても人的は配置システムの整備が望まれる。

最後に学生たちとの質疑応答があった。松前町立松前病院に行ってみたいという意見が多くみられた。(山本和利)

2011年4月27日水曜日

臨床疫学入門

4月26日、札幌医科大学大学院修士課程に入学した方を対象に「臨床疫学入門」という講義を行った。参加者は9名で医学以外の様々な背景をもった人たちである。

はじめに科学とはどういうことかについて宇宙論を例に解説した。その特徴は1)実験、2)理論(二元論、要素還元主義)、3)反証性、にある。科学が背負う問題として、論文捏造について紹介し、科学社会の構造的問題について説明した。

「暮らしの手帖」を例に科学的な姿勢について解説した。PICOについて解説し、臨床研究のプロトールの書き方などを紹介した。

その中で、糖尿病に関するACCORD研究(厳格な血糖コントロールを目指した群の方が生命予後は悪かった)と二十世紀最良の論文と言われるCAST(Cardiac Arrhythmia Suppression Trial)studyを紹介した。(心筋梗塞は急性期が過ぎてから合併する不整脈が時として致死的となるため、抗不整脈薬が有効であるという理論・予測があり、抗不整脈薬が予防的に投与されていた。しかし、最も有効な薬剤グループを調べるためにランダム化比較試験による臨床実験が行われところ、中間報告で最も死亡率の低いのは薬剤非投与群だったことが判明。安全のために試験の一部が打ちきりとなり、以後は抗不整脈薬が一律に投与されることはなくなった。)

後半、臨床研究のプロトコールに作成法や統計の話、研究のデザイン・バイアスについて言及した。

参加者からは、「もう一度講義を受けたい」「PICOが今後の研究生活に役立ちそうだ」「文系出身者には難しかった」等の意見をいただいた。(山本和利)

特別推薦選抜入学者オリエンテーション

4月26日の夕刻、札幌医科大学島本学長、黒木医学部長、高橋副医学部長から今年度特別推薦枠で入学した1年生15名に励ましの言葉をいただいた。

その後,学生各自が自己紹介をしてくれた。その中で山本和利がサマーキャンプのことやFLATの活動、ランチョンセミナーとして勉強会の紹介を行った。

例年になく地域医療への関心を伺わせる学生たちの発言があった。頼もしい限りである。後日、懇親会を予定しています。(山本和利)

FLAT症例勉強会(1)

4月26日の昼休み、4年生のFLATのメンバーと第一回目の症例を用いた勉強会を行った。症例はCase-based learningの外国の本からとった。

4日間続く感冒症状後に鋭い胸骨上の痛みで来院した78歳男性。ニトログリセリンが無効。体温38.5度。BP;105/65mmHg。HR:17/m。
病歴と身体診察から鑑別診断を挙げ、論理的推論を進めていった。
心電図で全領域のST上昇をみとめ、胸部XPは正常であった。
その後、低血圧状態に陥っている。

学生たちには、なかなか急性心膜炎やその後の心タンポナーゼが思いつかないようであった。

今後、月2-3回のペースで行う予定である。次回は5月2日を予定、興味のある方、準備なしで参加できます。(山本和利)

2011年4月26日火曜日

4年生EBM 「情報収集のしかた」講義 

遅ればせながら
先週の金曜日に、
医学部4年生のEBMの中の「情報収集」の講義をした。

EBMの4つのステップ
  Step 1 臨床上の疑問の定式化
  Step 2 情報収集
  Step 3 情報の批判的吟味
  Step 4 自分の患者への適用
Step2の情報収集はどのようにしたらいいのだろうか?という講義。


ごちゃごちゃ理論を説明しても、眠くなるだけなので、
実際の症例を提示。

<症例>
50歳の男性がテレビで肺炎を予防するワクチンがあると聞いたため
打って欲しいと来院。特に既往歴はない

「疑問の定式化(PECO)」
Patient :   どういう患者さんに
Exposure :  何をしたら
Comparison : 何と比べて
Outcome :  結果がどう違うのか

これに当てはめさせたところ…
ほとんどの学生は、配布したハンドアウトの次のページの「答え」をみている。
やはり、ハンドアウトを先に配るのは良くないか?

「疑問の定式化(PECO)」
Patient :  特に既往歴のない50歳男性に
Exposure :  肺炎球菌ワクチンを打つと
Comparison : 打たない場合に比べて
Outcome :  死亡率が低下するか? 肺炎が減少するか?

答えを見る前に当てられてしまった学生は、
自信なげに答えたが、「そう!そのとおり!」

で、その答えを見つけるために何を調べるか?
例として、

2chに投稿したら、「名無しさん」が答えてくれた。
『教えてgoo!』に投稿したら『医師』という人が答えてれた。
『Yahoo知恵袋』に投稿したら『専門家』という人が答えてくれた
『肺炎球菌』でググッたところ、Wikipediaに予防という項目があった
STEP内科学に記載されていた
新臨床内科学に記載されていた
朝倉内科学に記載されていた
QB2011年版に国家試験問題として出題されていた

以上を紹介したところ、
上記の順で信用があるようだったが、
「自分の父親にそのとおりにしますか?」と聞いたところ、
「・・・・。もう少し、他をあたります」とのこと。
どうも、教科書は言うほど信用されていないらしい。。。


そこで、ネット上で、
1)根拠が明白で、
2)信頼できて、
3)すでに批判的に吟味され終わっていて、
4)家族の治療にも使えるサイト

として、
Up To DateとDyna Medを紹介した。

Up To Dateは個人契約の場合500ドル/年かかるが、
札医大の情報センターから
学内者はタダでアクセスできることを紹介した。
知らない学生が意外に多く、もったいない話である。

また、
英語が苦手・嫌い・見るのも嫌という学生向けに
「英辞郎」と「ライフサイエンス辞書」という
ネット上の無料の医学英語辞書を紹介した。

また、Google Chrome全文翻訳や、
Googleツールバーのマウスオーバー辞書など、
英語のハードルをできるだけ下げるツールの紹介も行った。 



実際に「pneumococcal vaccine」をコピペして、
Up To Dateで検索したところ、

肺炎球菌ワクチンは、
侵襲性肺炎球菌感染症の予防にはなる。
肺炎予防や死亡率の低下については、確たる証拠がない
65歳以上の人には勧められる
2-64歳は慢性心不全・慢性肺疾患・糖尿病・喫煙者・アルコール依存
慢性肝疾患・髄液漏・人工内耳・長期療養施設入居者の人に勧められる。

と疑問に対する答えが明確に記載されていた。


Dyna Medも同様に検索したところ、
UpToDateと同様の結果が得られた。


一応、日本語の有用サイトとして、

メルクマニュアル
Minds
今日の診療(これも学内者はタダでアクセスできる)

以上を紹介した。


まとめとして
英語サイト
 EBMにのっとり、明確な情報がある。
 ほとんどすべての臨床情報が得られる
 更新が頻繁=最新情報に当たれる

日本語サイト
 EBMというよりは著者の経験に基づくことも
 必要な情報がない場合もある
 更新が遅い=最新情報でないことも

と紹介した。
しかし、英語サイトにも問題があり、

 疫学データは欧米(米国)のデータが基本
 日本で採用されていない医薬品もある
 薬品の使用量も、米国での使用量が掲載
 そのまま日本の医療に適応はできない
 誤訳により、致命的なまちがいを犯す可能性がある。

など、注意が必要なことを示した。

まとめとして、
① とりあえず、ググる。 
② おすすめ教科書を読んでみる。
③ 解決しなければ、UpToDateなどの二次資料を英語で読む。

というアプローチ法を紹介した。


おすすめ教科書として、

Harrison's Principles of Internal Medicine 18th.Ed.
Current Medical Diagnosis & Treatment 2011
ハリソン内科学 第3版 (原著第17版)
ワシントンマニュアル 第12版
10分間診断マニュアル―症状と徴候 時間に追われる日々の診療のために
考える技術―臨床的思考を分析する
聞く技術―答えは患者の中にある〈上・下〉

以上を紹介した。


今回の講義は、マニュアル的な情報提供に終わってしまう可能性があったため
あえて配布資料に印刷していないスライドを途中にいれて、
興味を引いたりと、いろいろ工夫したが、
1-2人があちらの世界に招かれていた。

講義後の感想では、
「ぜひ紹介されたサイトを利用してみたい」
「WikipediaからUpToDateにしてみます」
といった前向きな発言が多く、
有意義な講義であったと思われた。

半年後にEBM情報収集の実習があるので、
その時にこの度の講義の効果が出ていることを期待したい。


                       (助教 松浦武志)

2011年4月25日月曜日

君を想って海をゆく

『君を想って海をゆく』(フィリップ・レオレ監督:フランス 2009年)という映画を観た。

英国で暮らす恋人に会うために、行き場を失ったクルド人青年がドーバー海峡を泳いで渡ろうとした話である。離婚を希望する妻の気持ちを引きとめるためにその青年の水泳指導を引き受けた中年男性に、父子にも似た感情が芽生えてくる。この映画はフランスで大ヒットし、移民担当大臣を巻き込んだ大論争が勃発したそうだ。映画の中でも描かれているが、難民を手助けしただけで市民が警察に尋問される法律があるようだ。密入国をしようとする場面で、当局の二酸化炭素の探知機や密入国者が察知されない様にビニール袋をかぶって耐えるシーン等にリアリティがある。

フランスはロマ人(ジプシー)の「自主的帰還」という措置も行っている。日本ではミャンマー難民の受け入れを2010年9月28日より行ったそうだ。

この映画は難民に対する「不寛容」を描いている。別の映画『扉をたたく人』のテーマも同様である。東日本大震災後に日本中で助け合いの輪が広がっている。我々は誰を受け入れ、誰を(無意識に)排除するのか、今問われている。(山本和利)

2011年4月24日日曜日

北海道プライマリ・ケアネットワーク定期総会

4月23日、札幌アスペンホテルにおいて2011年度の第一回理事会と定期総会が行われた。2010年度の活動報告、決算報告、2011年度の事業計画、予算案が承認された。役員選挙がおこなわれ新たに5名の理事が選出され、1名が退職に伴い辞任された。引き続き代表理事は山本が、副代表理事は佐古先生、田村先生が互選された。

続いて第4期生の研修発表会が行われた。ある研修医。1年間で141名を担当し12名が死亡。膿胸の患者。改善なく積極的治療から撤退。どうすれば良かったのか悩んだ。78歳のCOPDの患者。好酸球増多あり。専門医が受けてくれない。試行錯誤しながら対応。たまたま軽快。一過性好酸球性肺炎であった。時間外に発熱で受診した63歳男性。10年前、悪性リンパ腫、MDS。数日前まで肺炎で入院していた。目のかすみとふらつきで受診し、低ナトリウム血症があり、補液で対応。一般外来で輸血と感染コントロールで対応。徐々に全身状態が悪化。あらたに進行胃癌を発見。数か所に転移。告知後、自宅療養を希望。1ヶ月後に再入院。泣きながら胆汁性嘔吐を繰り返す。「無地正月迎えたら一緒にお祝いしましょう」というこの研修医の言葉が患者を勇気づけたようだ。最後は毎日家で過ごした。元自衛官の患者は手で敬礼をしてお別れをした。その後、奥さんが訪ねて来て感謝の言葉を述べられた。
指導医からのフィードバック:彼は、陰で他人に見えないところで頑張っているという評価であった。

ある研修医。2年目の1年間で150名を担当し、10名を看取った。今は地域医療を経験したい。今回は、肺がんターミナル患者と家族への対応について発表。発熱、咳、膿性痰。抗菌薬で改善。自宅退院は自信がないという理由で、自宅介護より施設介護を家族から提案された。人的資源の活用を提案したが受け入れられなかった。調整中に病状が悪化し死亡された。在宅医療について考える契機となった。「介護負担」「介護方法」「介護の抱え込みを防ぐ」「経済的問題」「医療者の適切な支援」等、在宅死について考察した。
指導医からのフィードバック:彼は、様々な問題を抱える患者を落ち着いて診てくれたし、診療録を非常にしっかり記載されていた。

6期生3名へのオリエンテーション。最初に「ニポポ」研修の概要について山本が説明し、各自にiPODを贈呈。その後、研修医を受け入れてくださる4施設(江別市立病院、勤医協中央病院、松前町立松前病院、三意会我妻病院)から研修内容、スケジュールの発表があった。

最後は第6期生の歓迎レセプションが行われた。参加者全員からエールが送られ、それを受けて6期生から研修に向けての決意を述べられた。理事会からレセプションまで参加すると8時間の長丁場であったが、充実した時間を過ごすことができた。(山本和利)

2011年4月23日土曜日

暗殺国家ロシア

『暗殺国家ロシア 消されたジャーナリストを追う』(副田ますみ著、新潮社、2010年)を読んでみた。

ソ連崩壊後、エリチィンの時から腐敗が目立ち、プーチンになってから彼の悪口をいうことが出来ないような独裁国家になっていることが記されている。もしもこの暗黙の了解を破ると罷免または死(暗殺)が待っている。

現代のロシアにはチェチェンの独立問題が色濃く反映されている。チェチェン共和国は北カフカスでも有数の石油産出国であり、カスピ海の油田パイプラインがチェチェン共和国内を通過している。そのため、ロシアにとっての利害が大きくてチェチェンを独立はさせられないのである。

本書の後半は、ベスラン学校占拠事件について、ロシア当局の対応、報道に関するひどさが暴露されている。それに関わる『ノーバヤガゼータ』の若き女性新聞記者の活躍と心意気が素晴らしい。「もし私が殺されても、『ノーバヤガゼータ』の同僚達がそのあとを引き継ぐでしょう」と。ロシアでは、政権に楯突く者には死が待ち受ける。プーチンが大統領に就任した2000年から2009年までに、120人のジャーナリストが不慮の死を遂げているのである。プーチンの腰巾着となって享楽を貪る堕落したジャーナリストと命がけで国民に情報を開示しようとする一握りのジャーナリストの対比がすさまじい。

日本にあっては、自民党が政権をとろうが民主党がとろうが、私たちが何を主張しようしようと命を取られないという意味においては幸せなのかもしれない。(山本和利)

2011年4月22日金曜日

2型糖尿病のケア

4月21日、PCLSで「2型糖尿病のケア」の講義を行った。その要点は次の通りである。

包括的な評価として、病歴、身体診察(身長、体重、血圧(立位も)甲状腺、皮膚、血管拍動、反射、深部知覚)、血液検査(HbA1c,尿たんぱく、脂質、肝機能、腎機能)、専門医への紹介(眼科、若年女性:家族計画、歯科、精神科(必要なら)が大切である。

参考までに、Clinical Trial in Type 1 Diabetesを示した。
1)Diabetes Prevention Trial-1
2)The Diabetes Control and Complications Trial (DCCT)
3)Immune intervention trials in new-onset type 1 diabetes

Clinical Trial in Type 2 Diabetesとしては、
1)The Diabetes Prevention Program
2)Kumamoto study
3)The United Kingdom Prospective Diabetes Study (UKPDS)
4)The Steno-2 study、5)ACCORD, ADVANCE, and VADT studies、がある。

最近の研究からいえることは、2型糖尿病の発症早期は厳格な血糖コントロールを目指す.発症から10年以上経っているコントロール良好例も,そのまま厳格な血糖コントロールを継続する.しかしながら発症から10年以上経っているコントロール不良例では,血糖コントロールよりも血圧コントロールや脂質低下療法,アスピリン投与など集学的治療に重点を置くべきである。特に高齢者の場合は,低血糖を回避し,HbA1c 7.0~8.0%程度を治療目標とする.

最後に、千葉県立東金病院平山愛山氏の「ITを活用した少子高齢化時代の地域医療のあらたな挑戦」を紹介した。疾病構造と人口構造の変化を考えることが重要である。これまでは医療提供側からの提案だけであった。これは全体最適の手段であるが、それだけでは不十分である。糖尿病は20年間で3倍増えた。高齢者のインスリン導入が増加している。専門医による診療の破綻しており、非専門医への技術移転をする必要がある。市町村の医療財政は急激に悪化し危機的状況である。この10年間が正念場である。心血管系の合併症が増加する(人工透析も)。糖尿病、高血圧がその基礎にある。

そこで、糖尿病患者には診療連携パス(ミニマムデータセット・HbA1c、eGFR、尿タンパク、LDL-C、頸動脈エコー)とマップ(地域全体患者のトリアージ)を把握する必要がある。

提示症例や治療法についてここでは割愛した。

今後の課題として、ネットワーク勉強会をさらに発展させて、専門医と総合医の連携システムを構築し、医療の質の改善に取り組む必要があろう。(山本和利)

「プレゼンテーションのコツ」 医学部1年生講義 

今日は、医学部1年生「医学史」の中の、「プレゼンテーションのコツ」の講義を行った。

「プレゼンテーションのコツ」のプレゼンテーションは失敗することが許されないため、相当気合を入れて準備した。


まず最初に
「今日は眠くならないプレゼンをします」と言い切って、講義に入った。


まず、学生に
「良いプレゼンテーションとは?」と問いかけた。

「簡潔に分かりやすく」
「眠くならない」
「初心者にもわかるような」
などの意見が出た。

次に
「誰のプレゼンテーションが上手だと思うか?」と問いかけた。

「アップルの社長」=「スティーブ・ジョブズ」
「ジャパネットの高田社長」
などの意見が出たが、殆どの人が「分からない」とのことであった。


一般に、日本人はプレゼンが下手だと言われるが、
全国民に広く知られるような印象的なプレゼンを行う人が、
あまりにも少ない証拠なのであろう。

アップル社長の「iPod」のプレゼンは世界的に有名だが、
ソニー社長の「WALK MAN」のプレゼンは見たことない。

日産のゴーン社長のプレゼンは有名だが、
トヨタの社長(名前がそもそもわからない)のプレゼンは見たことない。



講義では、
スティーブ・ジョブズ(アップルCEO)
マイケル・サンデル(ハーバード大学教授)
池上彰(フリージャーナリスト)
高田明(ジャパネットたかた社長)

を例に紹介し、
「どうして彼らのプレゼンは上手なんだろうか?」と問いかけた。

それは、
「何かを伝えようとする情熱があるからだ」と。

今日の自分にも、あふれんばかりの情熱があることを学生に伝え、
講義の本題に入った。



プレゼンテーションの基本は3つ。

1)伝えたいことのストーリー(構想)を紙と鉛筆を使ってまとめる

 パワーポイントを前にして構想をまとめると、どうしても箇条書のスライドが出来る。
 箇条書のスライドは、スライドでもドキュメント(文章)でもない
 「スライデュメント」と呼ばれる最悪のスライドであることを紹介した。


2)伝えたいことをまとめたら、それにふさわしい魅力的な見出しをつける

 見出しは、シンプルに、分かりやすく、簡単に
 レオナルド・ダ・ビンチの「洗練を突き詰めると、簡素になる」の格言を紹介。

 例として、
 アップルがiPhoneを発表したときの「今日アップルが電話を再発明する」
 Googleの創始者の「googleなら1クリックで世界の情報にアクセスできます」
 スターバックスCEOの「スターバックスは職場と家庭に挟まれた第3の場所を創る」
 を紹介した。

 なんて美しい、洗練されたタイトルなんだろう。改めて感動する。


3)魔法の3点ルールを活用する。
 
 三銃士・三種の神器・三冠王など人間は「3」を好む生き物である
 話は3つにまとめると、まとまりが良くなる。

 例として
 今のアップルには三本の柱がある。
 最初の柱はもちろん、マック。
 2本目はiPodとiTuneの音楽事業
 3本目はiPhoneだ。        ―スティーブジョブズ

 人民の、人民による、人民のための政治 ―アブラハム・リンカーン


以上の3点を紹介した。(魔法の3点ルールを地で行くまとめ方)

その後
隣どうしの学生2人でペアになってもらい、
「今自分が最も興味があって、他人に伝えたいと思っていること」を
お互いに3分でプレゼンしてもらった。


やり方は、
スライド4枚で

①   プレゼン全体のタイトル
②ー④ 魔法の3点ルールに従いまとめた魅力的なタイトル3つ。

のようにまとめてもらい、
②-④のスライドは1枚1分で強制的に次のスライドに移るというルールでプレゼンを行ってもらった。


狭い教室で110人55組がプレゼンを行うと、教室はかなり騒然とした状態となった。
そんな中で学生諸君は、声を大きくしたり、身を乗り出したり、
派手なジェスチャーを行ったり、しっかりと相手の目を見たりと、色々工夫していた。
中にはiPhoneを持ち出して、写真を見せながらプレゼンする学生もいた。


----講義で話した以上の、基本を超えたプレゼン技術を身につけているじゃないか!


相手に何かを伝えようという情熱があれば、
ごちゃごちゃプレゼン小細工を教えなくても、自然と身につけていくものである。


最後に
プレゼンが上手になりたければ「練習するしかない」事を伝えた
あの、スティーブ・ジョブズも相当な準備・練習をしてプレゼンに臨んでいる。


「頂点に立つ人は
 努力が他人より多いという程度でも
 ずっと多いという程度でもない。
 『圧倒的に』多いのだ」

という言葉を紹介して、講義を終えた。


110人、一人も眠ることのない90分の講義であり、
最初の宣言通りの講義となった。




学生の感想には、
「大学の講義で初めて眠らずに90分聞くことができました」
など、講師としては非常に嬉しい感想が多かった。
それだけでなく、
最も情熱を注いだ、プレゼンの基本の3点を
きちんと理解してくれていると思われるコメントが多かった。


中でも最も嬉しい感想は、
「スティーブ・ジョブズが来日したようでした」


う~ん、うれしいけど、
ホントは、サンデル教授を意識して講義したんだけどなぁ。
まぁ、いいか。

今度はスティーブ・ジョブズでやりますか。


                  (助教 松浦武志)

2011年4月21日木曜日

4月の三水会

4月20日、札幌医科大学において今年度最初の三水会が行われた。参加者は14名。大門伸吾医師が司会進行。初期研修医:3名。後期研修医:5名。他:6名。

最初に、ニポポの研修評価について山本がスライドを使って紹介した。続いて参加者全員が自己紹介をした。新規ニポラー3名。人間科学、分子生物学を研究していた医師。北海道に住むことに憧れていた元刑務官の医師。農学部出身の農村医療に興味を持つ医師。

研修医から振り返り3題。
ある研修医。小さな病院。高齢化率33%。某政治家の力の影響で設備は整った町である。ゆっくり病院業務に慣れているところである。往診は今後入る予定。

症例は強い間欠的腹痛、下痢で受診した6歳の男児。前日から黄色の下痢便。浣腸したら血液混入。便培養、ウイルス検査をされて入院となった。比較的元気であるが、痛みだすと泣き出す。筋性防御なし。6歳としては腸重積の可能性は低くなるが、やはり腸重積を疑い、超音波検査を行った。腸重積と診断し、ガストログラフィンで高圧浣腸を行い整復した。この後、90歳の腸重積症例に出会った(先進部が大腸癌)。
振り返り:腸重積は2歳未満が多い。3兆候は「間欠的腹痛」「嘔吐」「血便」である。3つ揃う場合は10-49%。Common diseaseのrareケースを見逃してはいけない。見逃さないためには浣腸と腹部単純XPが大事。
クリニカル・パール:「年長者の腸重積は、必ず器質的疾患があると考えるべし」

ある初期研修医のSEA。1歳の女児。血便で「出血性腸炎」として紹介された。エコーでtarget sign, pseudokidney signがあり、注腸して最終診断は腸重積となった。紹介の医師の手紙からはじめから腸重積を除外していた。自分で考える習慣をつけることが重要であると思った。
クリニカル・パール:「前医の診断を鵜呑みにしない」

ある研修医。2年目研修で141名を担当し12名が死亡。記憶に残る患者。時間外に発熱で受診した63歳男性。10年前、悪性リンパ腫、MDS。数日前まで肺炎で入院していた。目のかすみとふらつきで受診し、低ナトリウム血症があり、補液で対応。一般外来で輸血と感染コントロールで対応。徐々に全身状態が悪化。あらたに進行胃癌を発見。数か所に転移。告知後、自宅療養を希望。1ヶ月後に再入院。泣きながら胆汁性嘔吐を繰り返す。「無地正月迎えたら一緒にお祝いしましょう」というこの研修医の言葉が患者を勇気づけたようだ。最後は毎日家で過ごした。元自衛官の患者は手で敬礼をしてお別れをした。その後、奥さんが訪ねて来て感謝の言葉を述べられた。「自分はたいしたことをしていないのに、患者さんは感謝してくれた」

このような患者さんに主治医機能を発揮しながら研修を続けている二ポラーを心強く思うカンファランスであった。(山本和利)

2011年4月20日水曜日

修士大学院説明会

4月20日、札幌医科大学修士大学院生に対して、各大学院のコースについての説明会が行われた。

地域医療総合医学講座のビジョン&ミッションを語った。
研究として
•地域医療センターの構築
•北海道地域医療の実践プロジェクト(地域医療ダイナミックス)の開発、研究
•北海道における地域診断プログラムの開発、研究
•医学教育および研修プログラムの開発、研究
•総合、家庭医療研究
•EBM、NBM研究
•その他
教育と研究の連動
・医学教育に対して、EBM,NBM,プロフェショナリズム教育を導入し実践し、研究にも発展させる
・SEA、ポートフォリオなどの教育ツールを学生教育、プライマリケア研修で実践し、さらなる医学教育システムの開発、研究を行う
・大学と都市部の総合診療研修と地域医療研修を有効に活用し、新たな研修プログラムを作成していく。またその結果を北海道プライマリケアネットワーク(後期研修プログラム;ニポポ)や研究にフィードバックする。(山本和利)

2011年4月19日火曜日

地域医療に関するアンケート

1年生を対象に行った地域医療についてのアンケートの結果を報告したい。
110名のうち90名近くが地域医療の必要性を訴え、40名弱がすすんで地域医療に実際に従事したいと答えている。

青が地域医療の必要性
赤が実際に従事したい

彼らをスポイルせず、北海道の地域医療に邁進してくれる医師を育てたい。
(山本和利)

2011年4月18日月曜日

墓標なき草原

『墓標なき草原(上)(下) 内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』(楊海英著、岩波書店、2009年)を読んでみた。

本書は、漢民族がモンゴル人を大量虐殺した歴史をモンゴル人の視点から再現したものである。中国にもモンゴル人が住む広大な地域がある(内モンゴル自治区)。近代日本がモンゴル人の草原に触手を伸ばしたがゆえに、モンゴル人の領土が中国に占領されたという経緯がある。中国共産党は「モンゴル人たちは対日協力者」だと断罪し、1967-70年にかけての大規模なジェノサイドを発動した。本書は14人のモンゴル人の語りを中心に、かれらの人生を描いている。単に中国を批判するにとどまらず、矛先は日本にも向けられている。

ここでは孫文は漢人たちの民族主義を最優先させた人物に過ぎないと評価は低い。文化大革命は防衛上の問題があり、内モンゴルからはじめられた。

見開きに掲載された二枚の写真が印象的である。文化大革命前と後のモンゴル人の初診であるが、かつての笑顔が消え、暗く額に皺を寄せた写真になっている。

中国の内外の若者においては熱狂的に現中国を支持している者が多いようである。本書にあるような抑圧された人からの発言と中国内で満足して生活している人からの発言には大きな隔たりがあるだろう。抑圧された人の声に共感してしまう傾向のある私なので、読者の方にはブログからの印象ではなく、ご自分で様々な情報に接してじっくりと判断していただきたい。(山本和利)

2011年4月17日日曜日

フード・インク


『フード・インク』(ロバート・ケナー監督:米国 2008年)という映画を観た。
『雑食動物のジレンマ』の著者であるマイケル・ポーランが製作に関わり、第82回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされている。

世界の食の問題を一言で言うと、多国籍企業が政治家を取り込んで、食を独占できるように法制化して、健康に悪い食品を安く提供するシステムを形成しているということである。メキシコの大豆農家を破綻させて、彼らを不法入国者と知りながら低賃金で3K労働に従事させる。遺伝子組み換え大豆以外は栽培できないような法制化された米国の農業に驚愕した。それに、ブッシュもクリントン両大統領が加担していたのである。低賃金で働く労働者は、スーパーに並ぶお手ごろ価格の食品が健康に悪いと分かっていても買わざるをえない状況にある。そんな身近な疑問から、アメリカ国内における巨大化した農業市場の問題、そして、大量消費・大量生産される“食”の知られざる裏事情に迫っていく。

パンフレットにあった製作者からのメッセージを次に挙げたい。

・労働者や動物に優しい、環境を大事にする企業から買う
・スーパーに行ったら旬のものを買う
・有機食品を買う
・ラベルを読んで成分を知る
・地産食品を買う
・農家の直販で買う
・家庭菜園を楽しむ
・家族みんなで料理を作り、家族そろって食べる
・直販店でフードスタンプが使えるか確かめる
・健康な食品を教育委員会に要求する
・食品安全基準の強化を議会に求める

「システムを変えるチャンスが1日に3回ある。世界は変えられる。ひと口ずつ。変革を心から求めよう。」
放射能汚染だけでなく、日常の食に関心を向けよう。(山本和利)

2011年4月16日土曜日

友川カズキ


『友川カズキ 花々の過失』(ヴィンセント・ムーン監督:フランス・日本 2009年)という映画を妻と観た。 歌手・詩人・画家である友川カズキのドキュメンタリー映画である。

友川カズキの歌を聴くと、医師国家試験に受かって静岡で研修を始めたころのことを思い出す。過激な歌詞に惹かれて、今は亡き病理医富元一彦氏とレコード店スミヤで「生きているって言ってみろ」を店内に流してもらったことを思い出す。

映画を観ると齢を重ねても変わらない過激さに驚く。むしろ、年とともに過激になっている。映画を観てはじめて4人も子どもがいることもわかった。ほとんど家庭は顧みられていないようであるが。秋田なまりで絞り出すような声が心を揺さぶる。

できたら一度、彼の歌を一度聴いてみてほしい。(人によって好き嫌いが分かれると思うが)
今、「生きているっていってみろ」を聴きながらこれを書いている。

ビッショリ汚れた手拭を
腰にゆわえてトボトボと
死人でもあるまいに
自分の家の前で立ち止まり
覚悟を決めてドアを押す
地獄でもあるまいに
生きているって言ってみろ
生きているって言ってみろ
生きているって言ってみろ(山本和利)

2011年4月15日金曜日

EBM診断編1

4月15日、Evidence-Based Medicine 診断編1。はじめに、診断のプロセスについての解説をした。 4つのパターンが知られている。
1)パターン認識
2)多分岐法(multiple branching method)
3)仮説・演繹法(hypothesis-deductive method)
4)徹底的検討法(method of exhaustion)

胸痛の症例。
■40歳の女性Aは階段を昇った後、左前胸部にしめつけられるような痛みを5分間経験した。その後、立ち止まって休んだら治まったが心臓病ではないかと心配して来院した。

■60歳の男性Bも階段を昇った後、左前胸部にしめつけられるような痛みを5分間経験した。その後、立ち止まって休んだら治まったが、やはり心臓病ではないかと心配して来院した。

■30才の女性Cは階段昇降時にズキンという10秒間続く左前胸部痛を主訴に来院した。

命に関わる病気を見逃してはいけない。4 chest pain killer(急性冠症候群、肺塞栓症、解離性大動脈瘤、緊張性気胸)。

どんな疾患を考えるか。
労作性狭心症で考えてみる。科学的に診断するためには、はじめに、事前(検査前)確率を想定することが大切である。

一般に医師が診断に用いる推論は患者の年齢,性別,人種,主訴から,ときに身体所見や検査データから初期仮説を形成することから始まる.これは経験的,主観的なものであるため、厳密なものではないが、データを蓄積することによって一般化できることもある
初期仮説で想定した病気の検査前確率は,病歴と身体所見から推定される.

学生に想定させるとBさん(病気の可能性の高い場合)を低めに、逆にCさん(病気の可能性の低い場合)を高めに設定する傾向にある。今回もそうであった。

2×2表を書いての検査後確率の計算。検査の結果(横に)と真の診断の結果(縦に)である4種類の組み合わせを表現した図である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 至適基準・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・疾患あり・・・・・・・・・・疾患なし
簡易検査陽性・・・ TP(真陽性数:●)・・ FP(偽陽性数:▲)
簡易検査陰性・・・ FN(偽陰性数:■)・・ TN(真陰性数:◆)

科学的な考え方。Bayesの定理
18世紀に英国人Bayes Tが考えたもので「はじめに考えた可能性」に「あとから得られた情報」を加味すると「あとで考える可能性」が得られるというものである。診療の場面では(検査前確率)を想定して、検査の(感度・特異度)を用いて計算すると(検査後確率)が得られる、となる。

検査結果が陽性であれば即診断確定というわけにはいかず、表でいうと、検査が陽性の場合の検査後確率=●÷(●+▲)であり、検査が陰性の場合の検査後確率=■÷(■+◆)である。
感度=●÷(●+■)=TP/(TP+FP)と表される。感度を知るためには、表を縦みることがポイントである。
特異度=◆÷(▲+◆)=TN/(FP+TN)と表される。特異度を知るためには、感度と同様に表を縦にみることがポイントである。

診断しようとする疾患の検査前確率がCさんのようにかなり低いとき又はBさんのように高いときには、検査後確率の変動が少ないので、診断のためにあえて検査をする必要はない。また、検査前確率が高いときには、陰性結果であってもまだかなり検査後確率は高いことが多く(Bの場合は85%)、陰性結果のみで最終診断とすると偽陰性という誤診になりかねない。検査前確率が低いときには、陽性結果が得られても(Cの場合5%)、偽陽性の可能性の方が強く残る。当然であるが、精査すべきなのは、Aさんのように疾患があるかないかはっきりしない場合である。

検査前確率の応用:診療の場
病気かどうかわからない人が集まる市中病院(A)、病気の人がたくさん紹介されてくる大学病院(B)、病気の人が少ない人間ドックや検診(C)に置き換えて考える.

大学病院では検査前確率が高いので、結果が陽性の時に病気と診断しても間違うことは少ない。一方、大学病院と同じ方法を用いて、診療所や検診の現場で実施すると、たとえ結果が陽性であっても偽陽性の可能性が高いということである。

すなわち、診断過程はどのような患者層を診ているかによって違って然るべきであると言えよう。

検査前確率の応用:検査前確率の間違った設定
ある患者について、大部分の医師が想定する検査前確率とはかけ離れた検査前確率を想定する医師は、確定または除外診断に至るまでに、さらに高額で危険な検査を追加するはめになる。
学生さんはこの講義を受けて、しっかり問診をし身体所見をとって検査前確率を適切に想定するということの重要性を認識してくれたようだ。(山本和利)

医学史

1年生を対象に「医学史」という講義を前期に毎年おこなっている。昨年だけ授業枠が確保できず、一年間休んだが、今年度再開となった。

1年生、110名全員が出席した(留年組5名は免除)。最初に、医学に入学した動機や将来の志望についてと総合診療、地域医療についてのアンケートに30分かけて記載してもらった。

その後、頻回の検査を求めて受診した頭痛患者、治療方針に医師と家族で齟齬が生じた進行がん患者例を提示して、考えてもらった。

入学して一週間経ていないのでまだ目が輝いている。いつまでもこうあってほしいものである。

総合診療、地域医療についてのアンケートでは、総合診療の必要性、特に地域医療の必要性だけでなく、従事したいという意見が多かった。彼らをスポイルせず、北海道の地域医療に邁進してくれる医師を育てる使命を再認識させられた。

次回、次々回は松浦助教が、プレゼンテーションの仕方、ファシリテーションの仕方を講義する予定である。(山本和利)

2011年4月13日水曜日

ハーブ&ドロシー


『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』(佐々木芽生監督:米国 2008年)という映画を観た。 ニューヨークをはじめとする米国で熱狂的に迎えられたドキュメンタリー映画である。

小さなアパートで暮らす二人の老人の現代アートコレクション(4500点超)がアメリカ国立美術館に寄贈された。20世紀のアート史に残る作家の名作が多数あり、それらは時価にしたら数百億円の価値があるという。彼らはニューヨークで暮らす郵便局員と図書館司書の夫妻に過ぎない。二人の共通の趣味は現代アートのコレクションである。給料に限りがあるので“自分たちの給料で買える値段であること。アパートに収まるサイズであること。”が購入の基準となる。

好きなことをやり続けることのすごさ、お金に囚われない姿勢に感動する。夫婦が手を繋いで美術展を回る姿がほほえましい。素晴らしい夫婦愛を描いて映画でもある。

コレクションといえば、私の場合、よくジャズのCD売り場にゆく。東京の大きなCD販売店では、買い物籠をいっぱいにしてなお目をギラギラさせながらCDを漁っている客を見かける(ほとんどが男性であるが)。こうなるとCDを聴くことよりもコレクションそのものに取り憑かれているのかもしれない。私もジャズの雑誌で勉強して、ほしいCDを厳選し、自分の給料を考えて購入を控えるようにしている。(山本和利)

2011年4月12日火曜日

捕食者なき世界

『捕食者なき世界』(ウイリアム・ソウルゼンバーグ著、文藝春秋、2010年)を読んでみた。

著者は科学ジャーナリストであり、保全生物学について20年以上取材を続けている。

たくさんの生物種が絶滅しているというが、地球の生態系は、捕食者と被食者の微妙なバランスによって維持されてきた。ところが人類がほとんどの大型肉食獣を滅ぼしてしまった。その結果、頂点捕食者が居なくなり、草食動物が増えすぎてしまい、植物が食い尽くされようとしている現状を訴えている。

まず、海辺においてヒトデを放逐することで生態系がどのような影響を受けるかについての保全生物学初期の野心的な実験を報告している。

鹿が保護され狼がいなくなった米国では、森が荒れ果て、鹿にダニが運ばれて人間が病気や鹿による追突事故で苦しむことになった。コヨーテが駆除された地域ではアライグマや狐、猫が鳥の巣を荒らしたため、森から鳥が消えてしまった。サハラ以南のアフリカでは、ライオンやヒョウがいなくなった地域をヒヒの集団が占拠し、アフリカ一の作物泥棒兼殺し屋となった。

公園緑地化の解決策として鹿の食害に悩む国立公園に八頭の狼を放ったら、鹿が捕食されて減少しかつ恐怖心から行動が変化して森が回復しつつあるという。

日本においては、オオカミ絶滅後、鹿による被害が深刻であるそうだ。日本の森は笹が支えていると言っても過言ではない。鹿はその笹を集中的に食べ尽くし、日本の森林生態系に底知れぬ影響を与えている。

モンゴルを舞台にした小説『神なるオオカミ(上)(下)』(ジャン・ロン著。講談社、2007年)でもオオカミの役割の大切さを述べていた。頂点に立つ者の真の役割を再認識する必要があるということであろう。(山本和利)

2011年4月11日月曜日

ありあまるごちそう


『ありあまるごちそう』(エルヴィン・ヴァーゲンホーファー監督:オーストリア 2005年)という映画を観た。

徹底した利益追求と経費削減が世界中に蔓延し、需要の供給のバランスを崩し、世界中で貧富の差が広がっている。

この映画を観ると、世界が飢えてゆくメカニズムがわかる。人類は今や120億人を養えるだけの食料を生産しながら、毎日10万人もの人が餓死し、10億人が栄養失調になっているという。世界中の大都市で大量の食糧が毎日捨てられている。日本人が廃棄している食糧(一般家庭から1100万トン:2005年)は、途上国の約5000万人分に匹敵するそうだ。ブラジルのある地区では食べ物がなく汚れた水を危険と認識しながら摂取している。一方で、まだ食べることのできるパンが毎日山もように棄てられている。

映画は漁業や農業、酪農等の生産現場に密着して、レポートされている。何万羽もの鶏が生産ラインにのって消費者にわたる形の商品になるまでの10分近く続く流れ作業が生々しい。

東日本大震災の被災地のような状況が世界の各地で日々続いているのだ。(山本和利)

2011年4月10日日曜日

新しい研修医

4月から、当科に1年目の研修医が3か月の予定で配属となった。

一度米国の大学で経営学の勉強をされてから医学部を卒業された女性医師である。
オリエンテーション後、早速、外来で初診患者の問診をとってもらっている。
また学生向けの私のEBMの授業や松浦助教の臨床推論の講義を聴講してもらった。

秘書に加えて女性が2名となり、教室は和気藹々とした雰囲気で華やいでいる。(山本和利)

飽きる力

『飽きる力』(河本英夫著、NHK出版、2010年)を読んでみた。

著者は科学哲学者であり、オートポイエーシス(自己創生)の専門家である。「飽きる」というとネガティブな印象を受けるが、それをポジティブに評価して記述している点が大変ユニークである。

長期的な積み上げが必要な場合には、努力とは異なる工夫が必要だそうだ。努力だけでは筋違いの迷路に入り込んだときに、努力を有効な努力とし続けるための心の働きが「飽きる力」である。強いラグビーや野球のチームは絶えず練習方法を変えているらしい。飽きるとは「心のゆとり」に近いものである。「飽きる」と「あきらめる」とは違う。どうしても必要な三か月の基礎トレーニングは必要であるが、それでうまくゆかなければ次の選択肢を見つける(飽きる)ことも必要である。なぜなら同じことをしていること自体が既に下降線に入っている状態であるからだ。

著者は、「パラダイム転換」は一つの錯覚であるという。「限界まで来たら別の視点でやってみる」は、本当の視点の切り替えになっているかどうかあやしい。つまり、パラダイム転換には、それに対して手遅れになって初めてそのことに気付くような面がある。それでは物事の変換、時代の変動の最中に居る者にはそのまま活用することができない。地域医療崩壊について、私も専門医onlyから総合医との協同という「パラダイム転換」を主張しているが、手遅れという点では痛い点をつかれている。

一生懸命であることに飽きることも大切。「努力していることの疲れ」はないだろうか。失敗から直接学ぼうとしてはいけない、とも主張している。

リハビリについての発言にも注目したい。症状や病気というのは一つの個性なのである。その能力を回復させるためには、健常者に比べて何が欠けているかではなく、自らの発達過程のなかで、どこから自分がこの能力を獲得してきたかという、本人のなかの現状と健常であった場合の分岐点まで戻ってゆくことが必要である。しかしながら、現状のリハビリは健常者から見てその欠けている部分に刺激を与えるものになってしまっている。

一つのことが長続きしないと悲観したり、意味が見いだせないまま漫然と同じことを繰り返したりしている者にとっては、本書を読むことで少し希望が見いだせるようになるだろう。(山本和利)

2011年4月8日金曜日

EBM総論

4年生を対象に「EBMと臨床研究」という講義を毎年前期におこなっている。「EBMと臨床研究」という枠組みは今年度が最後となり、来年度は臨床研究部分が切り離されて、「臨床疫学」という授業科目となる。

そもそもEBMがどうして世に出てくるようになったかを説明した。
カナダのマックマスター大学の一般内科に携わる医師らが、機械論を基本としたこれまでの「科学的」アプローチが臨床実践にそぐわないと批判的に総括し、これを変えるための新しい実践法EBMを提唱したものである。Sackettの次の言葉は有名である。
「優れた医師は、自分自身で培った専門的知識・技能とともに最善の利用可能な外部根拠を利用する。そのどちらかが欠けても不十分である。その知識・技能なしの臨床行為は、外部の根拠に虐げられる危険性がある。というのも、たとえ優れた外部根拠であっても、個々の患者には適用できなかったり、不適切であったりするからである。一方、最新で最善の根拠なしの臨床行為は、急速に時代遅れになり、患者にとって有害になる危険性がある」

続いて、EBMをどのように実践するかをわかってもらうために、治療についての実践方法を例で解説した。
脳梗塞発症を心配する59歳の男性。13年前に心筋梗塞罹患。血管外科に通院中。空腹時血糖値:158mg/dl、 HbA1c:5.8%。 総コレステロール, 中性脂肪、HDL-Cの情報はない。左頚動脈に収縮期血管雑音を聴取する。

第1段階で、質問を受けた者が答えることが可能な疑問文を作成し,第2段階で、情報の収集をし,第3段階で文献を批判的に吟味し,第4段階で得られた情報が自分の担当する患者に適用できるかどうかを判断するという手順を踏む。

疑問の定式化の例を示す。
P:Patient:心筋梗塞の既往患者に、
I:Intervention:pravastatin治療を行うと、
C:Comparison:プラセボの場合に比べて、
O:Outcome:stroke発生率または死亡率が低下するか。

次の情報の収集は、最近では原著論文を批判的に吟味した情報をまとめた二次情報データベース(Dynamed、UpToDateなど)を利用することが得策である。関連のあるキーワードを用いて検索を行うことにより簡単に情報にたどり着くことができる。

そして、情報を批判的に吟味する。批判的吟味とは、しっかり読むことであり、具体的には1)妥当性、2)結果、3)適用について検討することである。今はEBM関連書から簡単にさまざまなチェックリストを入手することができる。治療関連の情報では、ランダム化の有無、経過観察率、割付け通りの解析(intention to treat)有無が質の善し悪しに大きく影響を及ぼす。転帰の評価は相対リスク:relative risk (RR)にとどまらず、絶対リスク減少(ARR)やnumber needed to treat(NNT)=1/ARRでも行う必要がある。できれば、95%信頼区間もみておく必要があろう。

授業では科学性を強調したわけではない。逆に「人間を対象にした場合75%は科学が通用しない」ことを述べた。「たとえば、血圧が高いことがどれだけ死亡につながるかということがわかる確率を考えてみる。多変量解析を用いて計算すると、相関係数はせいぜい0.5にしかならない。つまり統計学的には、寄与率は0.5×0.5=0.25であり、人間を対象にした場合25%しか説明できない。高血圧患者には社会的背景や生活環境などさまざまな要素が絡んでくるからである。」

 エビデンスを知ることで、誰もが行っている治療法ができなくてはいけないのは当然のこと。それを」提供することは医療専門職としての誠意であり、前提にあるもの。しかし、それだけで十分かというとそうではなく、75%は、エビデンスのみで解決できない問題が絡んでいるということだ。残りの75%は人間力で対応しなければならないのである。

今回、一人も授業中、席を立つ者も、入室する者もなく、驚くほど行儀がよかった。授業後の感想も好意的なものが多く、科学性のみならず人間性が大事であることを記載しているものが多かった。学生さんのこの授業に対する期待も高いことがわかったので、次回も気を引き締めて臨みたい。(山本和利)

2011年4月7日木曜日

倚りかからず

『倚りかからず』(茨木のり子著、筑摩書房、1999年)という詩集を読んでみた。

「倚りかからず」

もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない
もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足でたっていて
なに不都合のことやある
倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ

凛とした態度で、孤高に生きる姿勢に己の弱さを見た。頑張らなければ!(山本和利)

2011年4月6日水曜日

感染宣言

『感染宣言 エイズなんだから、抱かれたい』(石井光太著、講談社、2010年)を読んでみた。

米国で最初のエイズ症例が発見されたのが1981年。日本では2009年に新規感染者は1,021名である。本書は2008年に9ヶ月かけて行ったHIV感染者とその家族への調査の結果、書かれたものである。現在進行形で恋愛パートナーが居る率は60%、感染を告げている率は50%であった。

様々な人生が書かれている。第二章は、血友病製剤でエイズになった男性と結婚相手の結婚に至るまでのそれぞれの家族の思いが生々しく書かれている。

第三章はHIV患者のDVを繰り返し離婚係争中に自殺した例を取り上げている。

第四章は、ゲイであることを隠すために偽装結婚をして、隠れて男性とつきあいながら感染した男性とその夫人との結婚生活。

第五章は、HIVに感染しながら子供を生んでたくましく子育てをしている夫婦を描いている。

「エイズは男女にとって大切なところに忍び込み、彼らを極限状態にまで追い詰めます。」という言葉が、何となく生きている私の胸を刺す。(山本和利)

2011年4月5日火曜日

研修医向けオリエンテーション -医療事故について-

今日は、本年度札幌医大で研修を始める研修医(1年次10人 2年次36人)を対象にオリエンテーションの1講義を担当した。

医療事故について講義した。


まず、医療訴訟について、民事訴訟と刑事訴訟に分け、ここ数年は「刑事事件になる」医療事故が増えている現状を紹介。民事訴訟では「賠償額」が問題になるが、刑事訴訟ではその「犯罪性」が問題となり医師が「犯罪者になる」可能性を説明。現在進められている「医療事故第三者評価委員会」のことを紹介した。

こうした社会情勢の中で、医療事故は
1〉いかに防いで
2)いかに訴訟にしないか
が大切。


1)医療事故を防ぐ

ハインリッヒの法則を説明
ひとつの大事故には30の軽度の事故がありその影に300の障害のでない事故が存在する。

医療版ハインリッヒの法則
300件の障害のない事故の下に数千から数万の事故に至る危険行為や約束違反があると説明。

例えば、
1処置1手洗いを完全に実行しているか?
患者のフルネームを必ず確認しているか?


ヒヤリハット事例の検証(振り返り〉をすることの大切さを説明。
1)ヒヤリハットを隠さない文化(研修医)
2)ヒヤリハットを責めない文化(指導医)
3)ヒヤリハットを振り返る文化(医局)
が必要。



2)医療事故の後の対応

事例を紹介
50歳女性(無症候性胆石症・高脂血症あり)
食後の右上腹部痛と発熱。
Murphy Sign陽性でエコー上胆嚢壁の肥厚があり総胆管は拡張していない。

この患者さんの診断は?と聞くと
さすが2年目研修医。
即座に「急性胆嚢炎」との答え。
しかし、「鑑別診断は?」と聞くと、「膵炎・・・」

「急性心筋梗塞」や「イレウス」「胆管炎」などが出てこない。
すでに診断の段階で訴訟のリスクを抱えている………………
まぁ、今回はここが問題ではないのでスルーしておく。


治療をどうするかを考えるに当たり、
2005年の急性胆嚢炎診断ガイドラインと
2007年のTokyo Guidelineを紹介したが、
これを知らない研修医が多い。
さらに治療の段階でも訴訟のリスクを抱えている………………
まぁ、これも今回の問題ではないのでスルーしておく

「急性胆嚢炎では発症早期に腹腔鏡下胆嚢摘出術をすすめる」

そのとおり外科病棟に入院し、当日手術が行われた。


しかし、術中、胆管損傷が起き、胆汁性腹膜炎を発症し、再手術で胆管再建術を行うが、狭窄が生じ術後胆管炎を繰り返し、術後30日目に死亡したとの症例を紹介した。

UpToDateによれば、
腹腔鏡下胆嚢摘出術の重大合併症は2.6%に起き、胆管損傷が起きればその5%は死亡するとある。

日本腹部救急医学会の調査によると
2008-2009年の140余りの病院の急性胆嚢炎を調べたところ、
5000例あまりに腹腔鏡下胆嚢摘出術が行われ、手術関連死亡は0.5%とある。


この患者が、
1)自分だったら?
2)自分の母親だったら?
3)この患者の主治医だったら?

の3つの立場で、どのように思うかを尋ねたところ
1)悔しい。一応死亡率0.5%とは分かっているが、まさか自分に起こるとは・・・
2)ありえない。自分の身内に起こるとは・・・
3)事実をきちんと説明して、申し訳ないと…………


3者3様の対応であった。

ここで、柳田邦男氏の「2.5人称の医療」の紹介をした。
1人称の医療  自分の人生の選択
2人称の医療  自分の愛する人の人生の選択
3人称の医療  他人の人生の選択。専門家としての客観性・冷静さが求められる

「合併症は、どのような医師が行っても、
 ある一定割合は不可避に起こるもので、
 今回は残念ながらその合併症が
 たまたま、あなたに起こったということです」

「術前に、0.5%の死亡率であることは、
 お話しましたし、それを同意の上での手術ですよね」

といった説明は3人称の医療であると言える。

2.5人称の医療とは、
3人称の立場を保ちながら1人称・2人称の視点を合わせ持つこと

「乾いた3人称から潤いのある2.5人称へ」

何も難しく考えることはなく
「自分の家族だと思って、患者の診療に当たる」
言い古された格言の通りのことであると説明し、講義をまとめた。


医療事故・訴訟を防ぐには
1)ヒヤリハットを振り返る文化
2)2.5人称の医療


合計46人 一人も寝ることなく50分の講義を終了した。

(助教 松浦武志)


清冽

『清冽 詩人茨木のり子の肖像』(後藤正治著、中央公論新社、2010年)を読んでみた。

著者はノンフィクション作家であり、スポーツものを含めてたくさんの著作がある。この著者の新作は意識して読むようにしている。

本書は、茨木のり子の生涯を辿りながら、要所に作品(詩)を掲載している。

昭和天皇の在位が半世紀に達した1975年10月の公式の記者会見に対する反応がすごい。
天皇がホワイトハウスで「私が深く悲しみとするあの不幸な戦争」という発言に対して、戦争に対して責任を感じているという意味かと記者が問うた。それに対して、天皇は「そういう言葉のアヤについては、私はそういう文学方面はあまり研究していないのでよくわかりませんから、そういう質問にはついてはお答えが出来かねます」という応答があった。それに触れて彼女は「四海波静」という作品を書いている。

戦争の責任を問われて
その人は言った
  そういう言葉のアヤについて
  文学方面はあまり研究していないので
  お答え出来かねます
思わず笑いが込みあげて
どす黒い笑い吐血のように
噴き上げては 止まり また噴きあげる

・・・・・以下略・・・
タブーとしての領域にあえて「野暮を承知で」踏み込んで逃げない。そこを著者は評価している。

私は次の詩が好きだ。

としをとる それはおのが青春を
歳月の中で組織することだ

彼女の詩集をあらためて読みたくなった。(山本和利)

2011年4月4日月曜日

日本PC連合学会誌編集会議

4月3日、東京の医師会館で開催された2011年度2回プライマリ・ケア連合学会編集委員会に参加した。

まず、投稿論文の審査状況の説明、第34巻2号の連載論文の進捗状況の説明が事務局からなされ,続いて第2回学術大会での「論文の書き方」WSについての運営の仕方について討議がなされた。メーリンググループを作って引き続き検討することとなった。第2回学術大会については第34巻3号に大会長に執筆依頼することになった。また、3月11日に発生した東日本大震災に対する日本プライマリ・ケア連合学会の活動報告を支援部会に急遽依頼することが了承された。

新たに査読者選考に役立つ会員名簿を作成したのに伴い、査読を依頼する際に活用するよう提案がなされた。続いて日本語誌が電子ジャーナル共同利用システムであるJ-STAGEに申請中であるという報告がなされた(採択率は25%という狭き門である)。
連載として、インタビュー・ジェネラリスト温故知新(松村理司氏)、臨床医学の現在(プライマリ・ケア・レビュー:小児の予防接種、アトピー性皮膚炎)、ジェネラリストに学ぶ診断推論(田中和豊氏)、反省的実践家入門(日本におけるバリントグループの展開)等があがっている。乞うご期待。
 

2011年4月3日日曜日

JALファーストクラス

半年ほど前にJALの職員の訪問を受けた。経営が大変なのだろう。JAL利用の勧誘である。その時サービスとしてファーストクラスの無料チケットをおいていかれた。なかなかJALに乗る機会が少ないのとそもそも千歳便にファーストクラスが設定されていないことが多く、使用する機会がなかった。

今回、朝の東京行きの便でサービスチケットを運良く使うことができた。これまでJシートも座ったことのない身には、革張りのシートはかなり広くて座りやすい。女性アテンダントの笑顔もいい。朝食サービスは一口サイズのサンドイッチとヨーグルト、果物以外におにぎり、麺も追加注文できるようだ。コーヒーやお茶を頼むと、煎餅とクッキーが付いてくる。冷たい飲み物に「のむトマト酢」もある。コーヒーは特殊の銘柄という触れ込みであったが、特別美味しいということはなかった。これから仕事があるためアルコールは吟味できなかった。一見豪華なヘッドホーンを使って音楽を聴くことができるが、これも特別音がよいという訳ではなさそうだ。マスクとアイマスク、耳栓を持ち帰るよう勧められ、降りるときにミネラルウオーターも持たされた。ほんのちょっとリッチな気分になって学会に向かうことができた。(山本和利)

2011年4月2日土曜日

読書ノート2010

2010年に読んだ本を次に示す。

100 Diagnostic Challenges in Clinical Medicine(World Scientific)、The Biopsychosocial Approach: Past, Present, Future(University of Rochester Press)、Medical Wisdom and Doctoring The Art of 21th Century Practice(Springer)、Evidence Based Physical Diagnosis 2nd edition(SAUNDERS)、Learning Clinical Reasoning 2nd edition(Lippincott/Williams & Wilkins)、The Rise and Fall of the Biopsychosocial Model(Johns Hopkins University Press)、Medical Decision Making A Physician's Guide(CAMBRIDGE)

ティアニー先生の診断入門、診断力強化トレーニング(医学書院)、神様がくれた漢字たち、生き抜くための数学入門、人間の条件 そんなものいらない(理論社)、現代語訳 帝国主義(未知谷)、ひそやかな花園(毎日新聞社)、聖杯と剣(法政大学出版局)、イノセント・ゲリラの祝祭、涙の理由、アリアドネの弾丸(宝島社)、蟻族 高学歴ワーキングプアたちの群れ(勉誠出版)、闘うレヴィ=ストロース、桂東雑記 拾遺(平凡社)、四とそれ以上の国、逃亡者、完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者、夜がはじまるとき、火群のごとく、オーケイ、ひかりの剣、ソウル・コレクター、闇の奥、村の名前、円朝の女(文芸春秋)、人類にとって重要な生きもの ミミズの話(飛鳥新社)、落語を聴くなら春風亭昇太を聴こう(白夜書房)、イタリア広場、印象派はこうして世界を征服した、チェチェン 廃墟に生きる戦争孤児たち、悲しみを聴く石、イタリア広場(白水社)、漂着(柏艪社)、孤独なボウリング(柏書房)、欧州激震、欧州迷走、発熱(上)(下)(日本経済新聞社)、「多様な意見」はなぜ正しいのか(日経PB社)、火の闇 飴売り三佐事件帖、フリーフォール グローバル経済はどこまで堕ちるのか、神去なあなあ日常、一諾 季布遊侠伝、最強組織の法則 新時代のチームワークとは何か(徳間書店)、書物合戦(東洋経済新報社)、蝦蟇倉市事件2、叫びと祈り、未来医師、ボディ・イメージ(東京創元社)、数学のリアル(東京書籍)、春風亭昇太ひとり会 はじめての落語(東京糸井重里事務所)、吉本隆明のDNA、イチローに糸井重里が聞く、極北クレーマー(朝日新聞出版)、部長の大晩年、オーディンの鴉、f植物園の巣穴(朝日新聞社)、単純な脳、複雑な「私」(朝日出版社)、SOSの猿、職業としての大学教授、行動経済学 感情に揺れる経済心理、あんじゅう(中央公論新社)、SFはこれを読め!、ドンキホーテの末裔、風邪の効用、隣の病い、ちくま日本文学全集 色川武大、ちくま日本文学全集 中島敦、ちくま日本文学全集 江戸川乱歩、脱力系!前向き思考法,下から目線で読む「孫子、地域再生の罠、快楽の効用 嗜好品をめぐるあれこれ、ポストモダンの共産主義(筑摩書房),心の力(致知出版社)、わたしたちが正しい場所に花は咲かない(大月書店)、考えなしの行動?(太田出版)、死は万病を癒す薬,ミレニアム2 火と戯れる女(上)(下)、ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(上)(下)、川は静かに流れ、拮抗、100年予測 世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図、オランダ宿の娘、これからの「正義」の話をしよう、トッカン 特別国税徴収官、死者の名を読み上げよ、本から引き出された本 引用で語る、読書と人生の交錯,明日をどこまで計算できるか?、「予測する科学」の歴史と可能性、カオスとアクシデントを操る数学、卵をめぐる祖父の戦争、ラスト・チャイルド、ミュージコフィリア、犬なら普通のこと,神父と頭蓋骨,湖は飢えて煙る,ヒョウマン・ファクター(早川書房)、るり姉、バイバイ ブラックバード、二度寝で番茶(双葉社)、未来医師(創元社)、不可能を証明する 現代数学の挑戦、ミツバチの知恵、名将と参謀 時代を作った男たち(青土社)、隠れた指/虫物語(青柿堂)、ジャズオーディオ宣言(誠文堂新光社)、沈黙のジャーナリズムに告ぐ(水曜社)、貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告、どこから行っても遠い町,ラッシュライフ、三人姉妹、グラーグ57(上)(下)、ユダヤ警官同盟(上)(下)、巡礼,つばくろ越え、月桃夜,奇跡の脳、人生の色気、逆境を生きる、駅路/最後の自画像、マドンナ・ヴェルデ、オー!ファーザー、男子の本懐,サクリファイス,エデン,天国旅行,代替医療のトリック,役に立つ落語,思考の飛躍 アインシュタインの頭脳、まずいスープ、地図のない道、アメリカン・コミュニティ、引かれ者でござい 蓬莱屋帳外控、闇彦、オラクル・ナイト、リオ 警視庁強行犯係・樋口顕、朱夏 警視庁強行犯係・樋口顕、ビート 警視庁強行犯係・樋口顕、ランドラッシュ 激化する世界農地争奪戦、今夜は最高な日々.文学のレッスン(新潮社)、陽気なギャングが地球を回す、深川駕籠(祥伝社)、養老孟司の旅する脳、謎解きはディナーのあとで、一生モノのジャズ名盤500(小学館)、こどもたちは知っている(春秋社)、終末のフール、青嵐の譜、追想五断章、日本語の乱れ、光媒の花、旅する哲学 大人のための旅行術、銀狼王、群れのルール、[新訳] チェーホフ短編集(集英社)、白銀ジャック、主よ 永遠に休憩を(実業之日本社)、肥満と飢餓 世界のフード・ビジネスの不幸のシステム、言い残しておくこと(作品社)、エール大学式4つの思考道具箱(阪急コミュニケーションズ)、ポケットの中のレワニワ(上)(下)、戦場の掟、地アタマを鍛える知的勉強法、阿修羅、この胸に深々と突き抜ける矢を抜け(上)(下)、骸骨ビルの庭(上)(下)、ザ・勝負、虹の彼方に、あらいざらい本の話、影法師、小暮写真館、仮説の検証 科学ジャーナリストの仕事、パラドックスの悪魔、キング&クイーン,人生に二度読む本、きつねつきの科学、エントロピーがわかる 神秘のベールをはぐ7つのゲーム、人生をよりよく生きる技術、ブレイズメス1990、消えた警官 ドキュメント菅生事件,進化の運命 孤独な宇宙の必然としての人間、「戦後」を点検する、イベリアの雷鳴、燃える蜃気楼、遠ざかる祖国、随想、ギリシア文明とはなにか、思考のレッスン 発想の原点はどこにあるのか、僧侶と海商たちの東シナ海(講談社)、鈴を産むひばり(港の人)、訴訟、イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ、カッコウの卵は誰のものか、青江の太刀、将たる所以、きりきり舞い、影響力 その効果と威力、街場のメディア論、『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する(光文社)、魔法使いクラブ、沸騰都市、神様のすること、林住期、プラチナデータ、晴天の霹靂、往復書簡(幻冬舎)、ジャズ選曲指南(渓流社)、吉本隆明 論争のクロニクル(響文社)、ホーチミン・ルート従軍記、医療のこと、もっと知ってほしい、努力論、人間の境界はどこにあるのだろうか?、「分かち合い」の経済学、数の魔法 数秘術から量子論まで、山椒魚戦争、文学フシギ帖、偶然とは何か、笑いのこころ ユーモアのセンス(岩波書店)、雪冤、ダブル・ジョーカー、おそろし、趣味は何ですか?、ブギウギ、マリアビートル、「みんなの意見」は案外正しい、お台場アイランド・ベイビー(角川書店)、三世相 並木拍子郎種取帳、忘れかけていた人生の名言・名句、史記 武帝紀 一、史記 武帝紀 二、史記 武帝紀 三、犬の力(上)(下)(角川春樹事務所)、噛みきれない想い、軽くて深い井上陽水の言葉(角川学芸出版)、浜矩子の「新しい経済学」(角川グループパブリッシング)、世界文学全集I-11 鉄の時代、海底八幡宮、掏摸、ヘタな経済書より名作に学べ 金と相場、教養としての世界宗教事件史(河出書房新社)、元素生活(化学同人)、ゼロから考える経済学(英治出版)、ポスト・ブックレビューの時代(上)(下)(右文書院)、フロム・ヘル(上)(下)、人類の星の時間、嵐の夜の読書、思想としての<共和国>、巡礼コメディ旅日記、世界文学を読めば何が変わるか? 古典の豊かな森へ(みすず書房)、世界がもし100人の村なら(マガジンハウス)、ソキョートーキョー、Railway Stories(ポプラ社)、私学的、あまりに私学的な(ひつじ書房)、告白(ビーワークス)、邪悪なるものの鎮め方(バジリコ)、たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する、ブラック・スワン(上)(下)(ダイアモンド社)、数学の秘密の本棚(ソフトバンク・クリエーティブ)、ケンブリッジ・サーカス(スイッチ・パブリッシング)、ニーチェ 道をひらく言葉(イースト・プレス)、種をまく人(あすなろ書房)、量子力学はミステリー、風の陣 立志編、風の陣 大志編、風の陣 天命編、風の陣 風雲編、風の陣 烈心編(PHP)、サイエンス・イマジネーション、科学技術の200年をたどりなおす、人生という作品(NTT出版)、インビクタス、ロスト・シティZ 探検史上、最大の謎を追え、いのちの中にある地球 最終講義:持続可能な未来のために(NHK出版)(山本和利)

2011年4月1日金曜日

プロフェッショナリズム講義

 遅ればせながら、3月30日のプロフェッショナリズムの講義について。
 前日の尾藤先生の講義ではプロフェッショナリズムの一般論のグループワークが多かったので、今日は実際の臨床現場でプロフェッショナリズムが問われる場面を設定してグループワークを行ってもらった。
 
 自分が病院でただ一人の呼吸器内科医で、休日に病棟から呼び出しの電話がかかったとき、病院ヘ行きますか?という設定で、いろいろな条件をつけた。

医師側の要件
1)交際相手と初めてのお泊り旅行中。
2)小学生の子ども2人と妻と2年ぶりの家族旅行中 
3)子どもの独立を機に熟年離婚を迫られ、関係修復のための夫婦の温泉旅行中

患者側の要件
1)翌日には症状がよくなってきている
2〉翌日になって症状が悪くなり、人工呼吸器をつけなくてはならない状態になった。
3)いつも診てもらっている呼吸器内科医は『いつでも診てあげるよ」と外来で言っていた
4)自分の家族が主治医に不信感をもっており、病状について説明して欲しいと思っている

以上のような条件をつけてそれぞれにどのように行動するかをグループで話しあってもらった。

学生からは
1)患者の重症度(死のリスク)と訴訟のリスクに応じて、病院に行く
2)しかし、自分のプライベートのすべてを投げ出すわけにはいかない
3)特に医師側の条件が2)3)と患者側の3)4)が重なった場合は判断が割れた。

思った以上に学生からは病院に駆けつけるという意見が多かった。



ここで、
「一般に定められた義務以上の義務」の概念として「超義務」の概念を説明した。
医師が、患者のために本来は出勤しなくてもよい休日に出勤する場合や、
東京電力の社員が、被曝することが分かっていて、原発の修理に行かなければならない場合などである。

その後、
「医師は、超義務を果たす義務があるか?」という問題を提起し、
「超義務の義務化は医師の疲弊を招き、いずれ患者の不利益になる」という事実を説明した。


休憩を挟んで、
患者側の要求と、医師側の要求のギャップを埋めるためにどのようにしたらよいかを
1)医師個人としてできること
2)病院としてできること
3)患者家族としてできること
に分けてグループで話しあってもらった。


ここでは様々な意見が出た。
1)医師個人として
普段から同僚などとコミュニケーションを良くしておいて、いざという時頼めるようにする。
他科の先生と情報共有を普段からする。
患者家族と普段から信頼関係を気づいておく。
ある程度の領域まではみられるような訓練をしておく。
海外へ出張していると嘘をつく。

2)病院として
主治医がいないときの体制を病院としてきちんと決めておく。
呼吸器内科医がひとりになってしまわないような医師体制を築く。
超義務の分の割増料金をきちんと払う。
超義務の分は患者負担とする。
週末は大学から応援をもらうような体制を作る。
医師労働についてマスコミなどを通じてアピールする。

3)患者家族として、
医師も人間であることを理解してもらう。
病気についての知識をつけてもらう。
普段から主治医を信頼関係を築けるようにする。


などなど、
なるほどと思える意見や
「嘘をつく」や、「患者負担を増やす」といった、それそのものがプロフェッショナリズムを問われるような意見も多数出た。

ここで、
文部科学省+日本学術振興会が交付する科学研究費補助金により行われた研究で「わが国における医師のプロフェッショナリズム探索と推進・教育に関する事業研究」(2006年-2007年度代表 尾藤誠司)を紹介した。

この研究による提言では、

1) ICUや救急部を除き、完全交代勤務制は日本にはなじまない。
2) 患者の利益に対する医師の義務疲労が過剰にならない当番医体制を確立する。
3)主治医不在時には当直(当番)医が責任を持って診療することを、病院が公言する。
4)当番医が診療しても、患者利益が保証できる医療が行えるよう教育や情報共有を行う
5)当番医は主治医に遠慮なく連絡でき、それに対し主治医は遠慮なく「行けない」と言える   
6)主治医→当番医 当番医→主治医の引き継ぎを確実にするため診療記録の改善が必要
7)当番医となる医師に、どの専門であってもプライマリケアレベルの診療能力を保有する自己研鑽システムを病院が確立する。

などが提案されていた。


この後、講義の最後に
当番医体制を確立するために必要な意思のスタイルとして「病院総合医」を提案した。
分かりやすく説明するために

1) 専門医 
臓器専門医 〇〇病専門医 
「専門以外は診られません」

2)家庭医
外来はなんでも診て、ちょっと得意分野があり
「入院診療は基本的にしません」

3)ある程度総合的にみられる専門医
外来の一般診療はできるが、入院は専門以外は診ない。
「ほとんどの日本の開業医のスタイル」

4)ある程度専門的にみられる総合医
入院診療において、専門の周辺領域をかなり幅広く見る
「病院総合医」

を提示した。

3)のある程度総合的にみられる専門医だけではカバーできない分野が多く、当番医体制には向かない。
4)のある程度専門的に見られる総合医が何人か居れば、ある程度の領域をカバーでき当番医体制に適している。と説明した。


日本の地域の基幹病院では「病院総合医」こそが求められており、地域医療再生の鍵であることを強調し、最後に『休みたければ病院総合医を目指そう!』というメッセージで講義を終了した。



講義後の学生の感想では、
病院総合医という概念を初めて知ったという感想が多く、
「ある程度総合的にみられる専門医」を目指していたが、そうではなくて、「ある程度専門的に見られる総合医」が求められていることに気がついたという嬉しい感想もかなりの数に上った。

しかし、病院総合医は目指してみたい医師像ではあるが、その指導体制の不備や、キャリアパスの不明確さを指摘する感想も複数あり、こうした不安に応えられるような、講義・実習を用意する必要があるだろう。


(助教・松浦武志)

Student Physician憲章

4月1日、医学概論VのプロフェッショナリスムのWS最終日にstudent physician憲章を学生自身に創ってもらった。まず12班に分かれて、KJ法を用いて島つくりを開始した。

「心」の入った文字で統一しようとする案や「漢字一文字」で表現しようとする案、Pray for Japanを捩った英語のみの案、雪の結晶を盛り込んだ案、漢字のみで表現してお経のように読み上げる案、「山本和利」を文章内に入れ込む案等の意見がでた。

各班から出された案を学生一人ずつが投票して決めた。和気藹藹とした雰囲気の中作業はすすんでゆく。

最終的には雪の結晶を盛り込んだ案を基本に、6文字を選び、それに文章をつけることになった。

2011年 SP憲章は以下の通りである。

(このマークは雪の結晶を表しています)長い冬の間、すべてを覆う白く冷たい雪は、しかしつぶさに見ると一つ一つが形の違う美しい自然の芸術品であります。
雪の結晶はここ北海道の象徴であり、我々は札幌医大の学生として、医師を目指すうえでの目標を雪の結晶に掲げます。
命:生命を尊重し
智:勤勉に向上心をもち
律:自覚と責任をもち
愛:人を愛し、人に尽し
絆:仲間を大切にし、助けあい
希:夢と希望を今この手に
そしてこの結晶の中心には我々一人一人が理想を掲げ、臨床実習に臨むことを誓います。(山本和利)