札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年4月1日金曜日

プロフェッショナリズム講義

 遅ればせながら、3月30日のプロフェッショナリズムの講義について。
 前日の尾藤先生の講義ではプロフェッショナリズムの一般論のグループワークが多かったので、今日は実際の臨床現場でプロフェッショナリズムが問われる場面を設定してグループワークを行ってもらった。
 
 自分が病院でただ一人の呼吸器内科医で、休日に病棟から呼び出しの電話がかかったとき、病院ヘ行きますか?という設定で、いろいろな条件をつけた。

医師側の要件
1)交際相手と初めてのお泊り旅行中。
2)小学生の子ども2人と妻と2年ぶりの家族旅行中 
3)子どもの独立を機に熟年離婚を迫られ、関係修復のための夫婦の温泉旅行中

患者側の要件
1)翌日には症状がよくなってきている
2〉翌日になって症状が悪くなり、人工呼吸器をつけなくてはならない状態になった。
3)いつも診てもらっている呼吸器内科医は『いつでも診てあげるよ」と外来で言っていた
4)自分の家族が主治医に不信感をもっており、病状について説明して欲しいと思っている

以上のような条件をつけてそれぞれにどのように行動するかをグループで話しあってもらった。

学生からは
1)患者の重症度(死のリスク)と訴訟のリスクに応じて、病院に行く
2)しかし、自分のプライベートのすべてを投げ出すわけにはいかない
3)特に医師側の条件が2)3)と患者側の3)4)が重なった場合は判断が割れた。

思った以上に学生からは病院に駆けつけるという意見が多かった。



ここで、
「一般に定められた義務以上の義務」の概念として「超義務」の概念を説明した。
医師が、患者のために本来は出勤しなくてもよい休日に出勤する場合や、
東京電力の社員が、被曝することが分かっていて、原発の修理に行かなければならない場合などである。

その後、
「医師は、超義務を果たす義務があるか?」という問題を提起し、
「超義務の義務化は医師の疲弊を招き、いずれ患者の不利益になる」という事実を説明した。


休憩を挟んで、
患者側の要求と、医師側の要求のギャップを埋めるためにどのようにしたらよいかを
1)医師個人としてできること
2)病院としてできること
3)患者家族としてできること
に分けてグループで話しあってもらった。


ここでは様々な意見が出た。
1)医師個人として
普段から同僚などとコミュニケーションを良くしておいて、いざという時頼めるようにする。
他科の先生と情報共有を普段からする。
患者家族と普段から信頼関係を気づいておく。
ある程度の領域まではみられるような訓練をしておく。
海外へ出張していると嘘をつく。

2)病院として
主治医がいないときの体制を病院としてきちんと決めておく。
呼吸器内科医がひとりになってしまわないような医師体制を築く。
超義務の分の割増料金をきちんと払う。
超義務の分は患者負担とする。
週末は大学から応援をもらうような体制を作る。
医師労働についてマスコミなどを通じてアピールする。

3)患者家族として、
医師も人間であることを理解してもらう。
病気についての知識をつけてもらう。
普段から主治医を信頼関係を築けるようにする。


などなど、
なるほどと思える意見や
「嘘をつく」や、「患者負担を増やす」といった、それそのものがプロフェッショナリズムを問われるような意見も多数出た。

ここで、
文部科学省+日本学術振興会が交付する科学研究費補助金により行われた研究で「わが国における医師のプロフェッショナリズム探索と推進・教育に関する事業研究」(2006年-2007年度代表 尾藤誠司)を紹介した。

この研究による提言では、

1) ICUや救急部を除き、完全交代勤務制は日本にはなじまない。
2) 患者の利益に対する医師の義務疲労が過剰にならない当番医体制を確立する。
3)主治医不在時には当直(当番)医が責任を持って診療することを、病院が公言する。
4)当番医が診療しても、患者利益が保証できる医療が行えるよう教育や情報共有を行う
5)当番医は主治医に遠慮なく連絡でき、それに対し主治医は遠慮なく「行けない」と言える   
6)主治医→当番医 当番医→主治医の引き継ぎを確実にするため診療記録の改善が必要
7)当番医となる医師に、どの専門であってもプライマリケアレベルの診療能力を保有する自己研鑽システムを病院が確立する。

などが提案されていた。


この後、講義の最後に
当番医体制を確立するために必要な意思のスタイルとして「病院総合医」を提案した。
分かりやすく説明するために

1) 専門医 
臓器専門医 〇〇病専門医 
「専門以外は診られません」

2)家庭医
外来はなんでも診て、ちょっと得意分野があり
「入院診療は基本的にしません」

3)ある程度総合的にみられる専門医
外来の一般診療はできるが、入院は専門以外は診ない。
「ほとんどの日本の開業医のスタイル」

4)ある程度専門的にみられる総合医
入院診療において、専門の周辺領域をかなり幅広く見る
「病院総合医」

を提示した。

3)のある程度総合的にみられる専門医だけではカバーできない分野が多く、当番医体制には向かない。
4)のある程度専門的に見られる総合医が何人か居れば、ある程度の領域をカバーでき当番医体制に適している。と説明した。


日本の地域の基幹病院では「病院総合医」こそが求められており、地域医療再生の鍵であることを強調し、最後に『休みたければ病院総合医を目指そう!』というメッセージで講義を終了した。



講義後の学生の感想では、
病院総合医という概念を初めて知ったという感想が多く、
「ある程度総合的にみられる専門医」を目指していたが、そうではなくて、「ある程度専門的に見られる総合医」が求められていることに気がついたという嬉しい感想もかなりの数に上った。

しかし、病院総合医は目指してみたい医師像ではあるが、その指導体制の不備や、キャリアパスの不明確さを指摘する感想も複数あり、こうした不安に応えられるような、講義・実習を用意する必要があるだろう。


(助教・松浦武志)