札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2009年4月20日月曜日

大学教官の4月

本年2月、教室創設10周年となった。2月1日赴任であったため、翌年の授業日程は3名の学生の1時間講義と週2回の外来診療以外は全く予定がない状態であった。

話を現在に戻そう。ソケイヘルニアの手術を終えて退院の翌日月曜日、久しぶりに妻に車で送ってもらう。笑ったりくしゃみをしたりすると痛む。そのためいつも車の中で聞いている落語が聞けない。9時から5年生対象の「professionalism」のオリエンテーションの講義を担当。その後、復学した学生と面談。

3月31日(火)、新患患者を数人診る。教室員が勤務していた町立病院の町長と懇談。

4月の予定では、15回講義(講演)が入っている。

4月1日(水)、再診外来、カンファランス。

4月2日(木)、朝7時にY病院へ診療支援に向かう。朝の1時間、2年目・3年目研修医と症例検討会。右側腹部痛の70歳代女性。尿管結石の既往があるので研修医は尿管結石と思っているらしいが、患者本人から病歴を聞くと転倒して脇腹を打っており、本人は「肉離れ」と思っている。研修医より患者の診断の方が正しいのがなぜか可笑しい。

4月3日(金)、「professionalism」の仕上げの授業。学生医師(Student physician: SP)憲章を3時間のワークショップ形式で学生自身が作成する授業である。作成を始めて今年で3年目であるが、先輩たちの真似を嫌うようだ。学生の作成した2009年度SP憲章は次の通りである。

私たちは次のことを宣言します。

Sincere 誠実な気持ちで

Active 積極的に取り組み

Professional 医療人としての自覚と

Moral 倫理観を持ち 

Encourage 互いに高め合い

Develop 日々成長する

以上に掲げた「SAPMED」の精神に則り、感謝の気持ちを忘れず、臨床実習に臨むことを誓います。

SAPMEDとは札幌医科大学(Sapporo Medical University)の略称である。午後、医学部長、病院長のもとで授与式を行い、宣誓をした後全員で写真撮影をして終了となる。写真は病院1階の患者待合い室と臨床研究棟に飾られる。

4月4日(土)、北海道プライマリ・ケアネットワーク後期研修プログラム(ニポポ)のオリエンテーションに参加。新規研修医2名、受け入れの4施設と事務局が参加。研修医全員にiPODを贈呈する。情報検索ツールであるDynamedにいつでもアクセスして最新のエビデンスを入手できるようにするためである。iPODの欲しい方は是非ニポポに参加を! 席を移して懇親会で盛り上がる。

4月5日(日)、午前は映画。午後は娘と落語会。

4月6日(月)、札幌近郊の病院の診療支援で外来を担当。50歳代の男性。左ソケイ部の腫瘤を主訴に来院。立位での腹部診察を終えてソケイヘルニアと診断し外科を紹介する。1週間前に自分自身が手術を受けたばかりなので、知識をひけらかしたくなる。手術の内容、病棟での苦労話に加えて、入院費の詳細を伝え自分のズボンを下げて傷まで見せてあげた。「原因は何ですか」と聞かれて、「加齢だそうです」と答える自分が悲しい。

4月7日(火)、午前に新患外来を担当。午後、入学2日目の1年生に「医学史」のオリエンテーションの授業。目が輝き、授業に集中する姿勢が初々しい。ゴールデン・ウィークを過ぎても先輩と同じように(私語・マンガ読み・途中退席など)ならないことを祈りたい。

4月8日(水)、午前再診。午後、カンファランス。16時ころから4年生に「Evidence-based Medicine」の第1回目の講義。途中で抜けてゆく学生を尻目に講義を続ける。感想文の内容は好意的なものが多く一安心。その後、今年度から導入されたメンター制の説明会に参加。

4月9日(木)、7時30分からTV会議システムを使ったPrimary Care Lectureで「山本はこうしている!エビデンスに基づく糖尿病治療2009」の講義を30分行う。たくさんの質問をいただき、うれしい限りである。詳細はホームページの参照。

糖尿病 12TIPS

1. 尿糖検査は糖尿病の診断に用いない

2. 三食きちんとゆっくりよく噛んで腹八分

3. 食後に有酸素運動を

4. 食事・運動療法で3ヶ月行い、改善しない場合は経口薬を投与

5. 妊娠中の治療はインスリン

6. インスリンは超速効型、速効型以外は静注してはならない

7. コントロール不良の場合にはインスリン導入が必要である。

8. 食事摂取ができる患者にスライディング・スケールは用いない

9. ステロイド治療開始とともに高血糖を呈することがある

10. 血糖よりも血圧コントロールが重要

11. 脂質代謝へのアプローチは積極的に治療

12. 血糖自己測定は必ずしも必要としない

教授会終了後、診療支援・研修医指導のため新千歳空港から女満別空港へ。

4月10日(金)、朝8時、研修医と症例検討し病棟で患者を診察する。総合外来を担当し札幌へ帰る。

4月11日(土)、16時、東京都医師会で三学会統合に伴う編集者会議に参加。早めに東京入りして内科学会の聴講。総合内科医のあり方についてシンポジストの意見を拝聴。18時、エビデンスに基づいた勃起障害の講演に引き続いて、泌尿器・内科医に対してナラティブ・ベイスト・メディスインについての講演を行った。講演の最後に、聴講者からの提案で急遽電子投票が行われることになった。�山本の言う通り、�どちらかと言えばそう思う、�山本の言うことは非現実的、の3つから選択するもの。�57%、�38%、�5%、であった。最高齢と思われる会長さんが情報交換会での乾杯で、私の講演で一番勉強なった話は「忙しい医者は涙のための時間が持てない。実は・・・暇な医者も涙のための時間が持てない。患者の気持ちをようやく聴けるような年齢になると、耳が遠くなっている。」と発言。講演のおもしろさは、脱線にある? 

山本和利

2009年4月6日月曜日

生まれて初めての手術

私はつい先日生まれてはじめての手術を受けたところです。1ヶ月前に右下腹部に睾丸を蹴られた時のような痛みを感じました。そのうち、立ったとき右ソケイ部に腫瘤を蝕知するようになり、ソケイヘルニアと診断され手術を勧められた次第です。手術自体は硬膜外麻酔と吸入麻酔のため記憶のないまま終わりました。しかしながら、経営や医療事故防止の観点から、経過がよくともソケイヘルニアのクリニカルパスに従って入院生活を過ごさなければなりません。そこで初めて36時間の絶食と24時間のベッド上安静、尿道カテーテルの留置を体験しました。患者さんの大変さを、身をもって体験できました。またこれまで3年間減量に努め、毎日の体重測定、ダイエット日記、妻や娘の厳重な監視にもかかわらず一向に減らなかった体重が、3日間の入院で見事に落ちまました。これも厳格で不自由なクリニカルパスの効用かもしれません。

初めて自由を束縛された生活を余儀なくさせられましたが、自由勝手に出歩いたり飲食したりするよりも術後経過がよくなるだろうという思いと、数日の我慢であることが遵守させたのかもしれません。そんな苦労のお陰で望外にも目標体重を維持できています。

入院病棟の見舞客の話し声の中に、札幌近郊のある病院が今年度から研修医の派遣を打ち切られ、中堅医師が疲弊して病院が運営の危機に瀕しているということが聞こえてきました。痛みに耐えながら眠れず朦朧とした頭の中に次のような地域医療再建策が浮かんできました。厳格で不自由なクリニカルパスを入院患者管理に適応するのと同じように、次のような政策を地域医療にも策定してはどうかということです。初期臨床研修終了後の1年間、夜間救急や医療過疎地、離島勤務など現在医師不足で苦悩している領域に約8,000名の医師を振り分けるというものです。 

このような短期間自由を制限することになる地域医療政策は、初期臨床研修終了医師たちには無謀な提案でしょうか。もちろん地域医療を再生するためには、政策的誘導のみならず現場でそれぞれが試行錯誤を繰り返すことが必要かと思います。臨床研修制度も見直しが行われると決まりました。北海道では、地域医療再建に向け、行政、医師会、大学関係者、市町村長会などが共同で対策を練るような企画が進行しています。「総合診療」能力を身につけた医師を増やし「地域医療」に関わらせるというスタンスを推進すべく活動してゆきたいと、生まれて初めての手術を経験した新年度の開始にあたり気持ちを新たにしております。

山本和利