札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年8月30日月曜日

「感情」の地政学

 『感情の地政学』(ドミニク・モイジ著:早川書房 2010年)を読んでみた。
  ハンチントンの「文系の衝突」やフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」といった決定論的歴史観(アメリカの武力行使の正当化)への反省に立って、分析手段に感情を加えることで世界を理解しようとする試みである。ここでは、恐れ、希望、屈辱を取り上げている。恐れは、自信が消失している状態(なんてことだ)。希望は自信の表明(やりたい、やれる、やろう)。屈辱は、将来に希望を持てなくなった人の傷ついた自信(そんなことができるはずがない)。
 グローバリゼーションは、国境を越えた経済活動の、市場を通じた統合と定義され、冷戦構造に取って代わった国際システムであり、世界をフラット化したかもしれないが、同時に世界をかつてないほど感情的にしてしまった。
 問題のある世界を変えるためにどうしたらよいのか。「世界の健康」にはバランスのとれた感情が欠かせない。他者との関係がかつてないほど重要になっている。感情は季節と同じように周期的に繰り返すが、感情は変えられる。日本は高齢化や高い若者の自殺率などで、自信を失っており、希望は恐れに変わっている。

  著者は、感情は文化や宗教、地理といった要因とは異なり、人間の意識の持ちようによって変えられるという点を強調している。ほとんどの国や文化は、希望を持ち続け、恐れと屈辱を乗り越えるために変化しなければならない。

  希望を持つためには自信を持たなければならない。自信を持つためには・・・。話が循環して、具体的な策が見えにくいが・・・。自信、希望がこれからの世界のキーワードであることは間違いない。
(山本和利)

2010年8月26日木曜日

研修医の振り返り

8月25日、総合診療科に8月1日から実習に来ている研究医の振り返り評価をおこなった。実習として毎日、3-7名の新来患者の医療面接をしてもらい、午後の時間、疑問を抽出してUpToDate等を使って調べてもらっている。それを翌日朝、約30分から1時間かけて発表してもらっている。

まだ1ヶ月も経たないのに、しっかりと成長していることが見て取れる。具体的にはopening statementをしっかり述べて、現病歴、既往歴、家族歴、説明モデルを話して、鑑別診断を挙げ、その後、身体診察に移り、再度鑑別診断を追加したり、除外したりする。そして立てた検査プランと、その結果を見て治療・教育プランを述べることができるようになっている。

医師になってまだ数ヶ月なので外来研修を行うことに心配が少なからずあったが、杞憂に終わった。外来運営に貢献してくれているし、教室に清々しい空気を吹き込んでくれている。さあ、9月も頑張ってゆきましょう!(山本和利)

2010年8月25日水曜日

北海道メディカルラリー


第5回 北海道メディカルラリーⅰn 函館に参加して

2010年8月21、22日の2日間、「第5回北海道メディカルラリー」が函館市内を舞台に開催されました。メディカルラリーとは、救護チームが模擬現場で特殊メーキャップを施した模擬患者を観察、処置、診察をして、限られた時間内にどれくらい的確に治療をすることができるかを競う技能コンテストです。具体的には、医師、看護師、救急救命士がチームを組み、出動指令に従って模擬現場へ出動します。そこでは模擬患者が決められたシナリオに従っていろいろな演技をします。それに対して救護チームは必要な処置を行わなければなりません。

たとえば、「意識のない人が道路に倒れています」と出動指令が出され、指定された地点に行ってみると、頭から血を流した人(模擬患者)が実際に路上に倒れてけいれんを起こしています。チームはその傷病者に対して観察を行い、止血処置、人工呼吸、薬剤投与などの必要な処置を行います。そしてその行為を横にいるジャッジが評価し、採点します。このように実際の現場を再現したものをシナリオステーションと呼び、北海道メディカルラリーin函館では計8ステージが設置されていました。各チームはそのシナリオステーションを順番に回り、評価、採点が行われ、その総合得点で順位を競います。このようなメディカルラリーの意義は、以下のような点にあります。

●競技者が普段経験することが少ない、現実に即した現場の状況を実際に体験できます。
●現実に即した状況を体験することで、救急医療が現場から始まり、その際にはチームワークや指揮命令系統の確立が重要であると認識できます。また、各種コースを受講している者にとっては、自分の能力を試す絶好の機会となります。
●客観的に採点、評価され、その結果をフィードバックされることにより、自分たちの不十分な点、習得していない分野を認識でき今後の勉強方針についての方向性を示すことができます。
我々「チーム久慈エリア」の参加メンバーは、私が今年3月まで勤務していた岩手県立久慈病院 救命救急センターの看護師2名、久慈広域連合消防本部から救命士5名と私、札幌医科大学地域医療総合医学講座の河本一彦の計8名です。

チーム久慈エリアのメディカルラリー挑戦は今回が全くの初めてです。メンバーは外傷初期診療のJPTEC,JATECまたは心肺蘇生術のBLS,ACLS受講者,災害派遣医療チームのDMAT隊員や災害の標準医学教育プログラムBDLS、ADLS受講者などがそろいました。…が様々過酷な想定でなかなか思うようにいきませんでした。加えて函館の厳しい残暑が待ち構えていましたがメンバー全員で力を合わせて全8ステージをやり終えた満足感でいっぱいです。函館の大地でとても有意義な2日間を過ごしました。

○○事故で傷病者が△名。救急隊3人です。さあ、どうする?そうだ。まず応援隊を呼ぼう。そして安全を確認してから現場に入って…搬送の優先順位は?どの病院へ?どのような手段で搬送する?などと考え始めると今でも夢に出てきそうです。地域における病院前救護の在り方やバス横転などの交通事故、災害などは、どこの地域でもいつでも起こる可能性があり、僕は今回メディカルラリーに参加して、地域医療における救急の役割や必要性を強く感じました。(河本一彦)

医の智

 『Medical wisdom and doctoring』(Robert R. Taylor著:Springer 2010年)を読んでみた。著者は米国家庭医療学の大家である。15のテーマで章立てされ、記載されている。

患者ケアの章から抜粋。ユーモアの使用は、患者は60%の医師が使ったと認識しているが、一方医師は38%しか使っていないと報告している。医師の言葉で患者さんが癒されることもあれば、傷つくこともあることを肝に銘じなければならない。医療以外のチョットした話をすることも大事。長く通院する患者では、チョットした話が患者の満足度を上げているそうだ。そんな話の中へ医師自身のことを少し混ぜて話すとさらによいようだ(医師の15%が報告)。患者がどんな病気になったかよりも、病気になったのはどんな患者を知る方が重要である。共感こそが万能薬である。医師の知識や技術がどうあれ、癒しは微笑みから始まる。

コミュニケーションの章。Etiquette-based medicineという言葉で患者や家族に敬意を示しながら行う医療の必要性を訴えている(N Engl J Med 2008;359(19):189-9.)。患者さんと視線の高さを合わすこと。開いた質問をすること。チョットした腹痛を主訴に受診した主婦が子育ての悩みを訴えはじめたら、腹痛は受診のための「入場券」と考える、という考えが大事。第三の耳で聞くこと(病歴として言葉にならないことの方が最も重要なこともある)。医師は自分が話しているときには何も学べない。器質的疾患が見つからないときに「誰でも人生の問題を抱えている。私もそうだ。そうなると体調も悪くなる。何か思い当たることがないかな?」と聞くのも有効である。

診断の章。Think first of horses, not zebras. Don’t forget to think about zebras.
(稀な疾患よりもよくある疾患をはじめに考えなさい。頭の隅に希な疾患も置いておくこと)。まだまだ続く(ここまで100頁)・・・。

 先人たちの知恵が簡潔にテーマに分けて記載されている。箴言は章の終わりにまとまって記載されており、比較的新しい内容は参考文献を挙げて根拠を示しながら記載されている。このようなタイトルの本は買っても積んで置くことが多いが、思った以上に読みやすい本である。時間に余裕のある方は是非一読を。
(山本和利)

地域密着型チーム医療実習in紋別


地域密着チーム医療実習で3年生の学生さんたちと8/16-21紋別に行ってきました。
連日12時前まで事前学習の熱い日々の毎日でした。地域の中でこそ学べる実習でした。
いままた こうして あなたにも出会えたから・・・と「パーキンソン病からの 贈り物」というすてきなブログを発信している藤木五月さんに会ってきました。とても楽しく、生きる力をもらってきました。このような地域と人と力を合わせていくことが地域医療の鍵だと痛感しました。(寺田豊)/

2010年8月23日月曜日

8月三水会 (富良野)



 8月21日、今回は土曜日であるがニポラーが研修している富良野協会病院に出向いて三水会が行われた。参加者は、院長、事務長、研修委員長、看護部長、外来婦長、病棟婦長、ナース、初期研修医、旭川医大生等々、計25名。
午前中、外来患者について研修医の指導。突然怒り出すということで外来ナースの評判最悪の患者や発熱・頭痛で髄膜炎疑いの患者さんなど様々。
 会に先立ちニポラーに対する360度評価を院長、副院長、研修委員長、看護部長、外来婦長を入れて行ったが、評判は良好である。小休憩後、三水会に移行した。まず、山本和利が「総合診療とは」というタイトルで1時間講演をした。講演では住民・患者のニーズに医師自身が変容して応答しようとするのが総合医であるということを強調した。しっかりと聴いてもらっているという雰囲気が伝わってきたので一安心。そして、大門伸吾医師が司会進行でカンファランス開始。腰痛あり、骨そしょう症があり、新鮮な圧迫骨折で救急受診した80歳代女性について検討した。嫉妬・被害妄想で家族に愛想を尽かされている。家はごみ屋敷化。精神科で門前払い。市からも見放された。妄想性障害と妄想性人格障害について概説。入院後、出張の精神科医に相談。療養型施設を紹介し受諾。適切な距離を自覚して信頼関係を築くことができた。「患者さんとの適切な距離をどうとったらよいのか?」「背景を重要視するカンファで、興味深かった」等の意見が出された。もう一例、富良野協会病院の高齢男性患者さんの緩和ケア・家族指向性・対応の難しい家族について検討。院長、研修委員長、ナースの方々は積極的に参加してくれた。

終了後、丘陵にある眺めの良いワインハウスでビール・富良野ワインを飲みながらのバーベキュー大会。病院スタッフと懇親を深め、23時帰宅。(山本和利)

ブリコルール

『邪悪なものの鎮め方』(内田樹著:basilico 2010年)を読んでみた。
 受験生へのメッセージとして、知的パーフォーマンスの向上というのは、情報量を増やすことではないと伝えている。重要なのは「そのうちに役に立つかも知れないもの」を嗅ぎ分ける能力だそうだ。その中でレヴィ=ストロースが『野生の思考』で紹介した「ブリコルール」について記載している。マトグロッソのインディオはジャングルを歩いていてなんだか分からないけれども、それに惹きつけられてとりあえず「合切袋」に放り込んでおく。彼らは全財産を袋に詰めて移動するので運ぶ内容は限られる。そんな状況においては「何に役に立つか今は言えないが、いずれ役に立ちそうな気がするもの」に反応する能力が生死を分けることがあると述べている。
その例として『太平洋ひとりぼっち』の堀江兼一氏のことをあげている。彼は出発前に床に落ちていた小さな板切れを海に捨てようとしたが思い直してとっておくことにした。しばらくしてヨットが嵐に襲われて、船室の窓ガラスが破れて海水が浸水してきたとき、この板切れを窓にあてがって浸水を止めたという。
 「自分が何を探しているのかわからないときに、自分が要るものを探し当てる能力」これこそが最高の知的パーフォーマンスである。

地域医療を再生させるために何をしたらよいのか?様々な人と出会い、本や映像にヒントが隠されていないか日々模索をしている。とりあえず、自分の鞄に放り込もう!それが「学び」というものらしいから。(山本和利)

2010年8月20日金曜日

戦争に関する映画

8月15日、敗戦の日。この時期、戦争に関する映画がいくつか上映されている。『キャタピラ』(若松孝二監督:日本 2010年)という映画を観た。寺島しのぶ(2010年ベルリン映画祭で最優秀女優賞を受賞)が熱演している。田舎の村で暮らす帰還兵(顔面が焼けただれ、四肢を失った無残な姿:芋虫:キャタピラ)夫婦の姿を通し、戦争の愚かさを描いている。勲章を胸に“生ける軍神”と祀り上げられる帰還兵。東京大空襲、米軍沖縄上陸と敗戦の影が迫る中、戦場で人間としての理性を失い、蛮行の数々を繰り返してきた自分の過ちに苦しめられる。1945年8月15日正午、天皇の玉音放送。戦闘場面はないが、戦争の残酷さを考えさせられる。
その他、『ハート・ロッカー』(キャスリン・ビグロー監督:米国 2009年)という映画。バクダッド郊外の炎天下、処理班と姿なき爆弾魔との壮絶な死闘。イラクに駐留するアメリカ軍爆発物処理班兵士が戦争のスリルにのめり込んでゆく姿を描く。現場の悲惨さはTVゲームとは違うのだ。折角除隊したのに戦場にスリルを求めて戻ってゆくとは・・・。
『ONE SHOT ONE KILL-兵士になるということ』(藤本 幸久監督:日本 2009年)という映画。サウスカロライナ州パリスアイランドのアメリカ海兵隊ブートキャンプ(新兵訓練所)に入隊した若者が、12週間の訓練で「戦場で人を殺せるようになる」ための洗脳教育場面が描き出されてゆく。恐ろしい!日本に生まれた幸せをしみじみ感じた。
 『ウィンター・ソルジャー ベトナム帰還兵の告白』(“ウィンターフィルム・コレクティブ”編集:米国 1972年) 勇気あるベトナム帰還兵たちが公聴会で戦場の悪夢を生々しく語る。しかし、米国のマスコミが黙殺。その証言を記録するドキュメンタリーである。
 『ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実』(ピーター・デイヴィス監督:米国 1974年)第47回アカデミー賞でドキュメンタリー長編賞を受賞し、数多くのベトナム戦争映画に多大な影響を与えたドキュメンタリー。さまざまな証言や取材映像を通し、ベトナム戦争の真実に迫っていく。

 こんな映画を観ていると医療の問題が小さく感じてしまう。(山本和利)

2010年8月17日火曜日

研修医通信発行

8月17日、「よりよい研修ライフを応援する 研修医通信」No.36 2010年8月号(8月1日発行)という研修医向け雑誌が手元に届いた。山本和利について、巻頭グラビアメッセージに掲載。
見出しは
「自分の道は自分で切り開く」
「総合医育成プログラムを立ち上げる」
「医師に“越境”が求められる」
「日本の半数の医師を総合医に」である。
是非、一読をお願いします。(山本和利)

2010年8月12日木曜日

カナダからの訪問者


8月12日、北オンタリオ医学部(Northern Ontario School of Medicine)のFamily Medicineに勤務しているRobert J. Hamilton氏の訪問を受けた。北オンタリオ医学部はカナダの行政区の医学部で、北部オンタリオの過疎地域の医療に従事する使命を負っており、2005年に設立された比較的新しい大学である。
当教室のHPを見て、大学の使命が類似しているので、情報交換や今後の交流を求めて教室を訪れてくれた。1時間を越える話の中で、札幌医科大学における地域医療総合医学講座の活動やニポポプログラムの活動を大変興味深いとお褒めの言葉をいただいた。
今後も連絡をとりながら、交流を続けてゆきたい。(山本和利)

保健医療福祉連携教育学会

8月12日、札幌で開催された「第3回日本保健医療福祉連携教育学会学術集会」に参加し、日本医療社会事業協会の笹岡 眞弓さんと「IPWにおける現任教育と方法、およびその評価」というシンポジウムの座長を担当した。大会長は元札幌医科大学学長今井浩三氏である。

  町立別海病院の西村進氏が「別海町での保健医療福祉連携-医療過疎地域からの挑戦とその可能性- 」を発表。多職種教育に適した背景・環境を様々な職種の学生・職員に開放している内容をユーモアを交えて報告した。インターネット環境が整っているがそれ以上に訪問診療の場で様々な職種が交流することが大事であると総括された。
  小千谷市魚沼市医師会の上村伯人氏が「『地域医療研修』こそIPE・IPWの実践で」を報告。「医師が医師を教えるのではなく、地域が医師を育て、地域が医療を育てる」という理念に立って、都内の研修病院の研修医を診療所で受け入れている。「地域医療の全体像がつかめた、現場の生の声が聞けた、幅広い体験ができた」と研修医には好評のようだ。その後、評価について3演題が続いた。・・・中略・・・。

はじめてこの学会に参加して、多職種連携による教育に熱心に取り組んでいる人たちがたくさんいることを知った。
台風の進路を気にしながらの散会となった。次回の開催地は神奈川県とのこと。今後の発展を祈りたい。


(山本和利)

2010年8月10日火曜日

オホーツク医療環境研究講座

8月9日、北見日本赤十字病院において第1回北見赤十字病院地域医療再生計画運営委員会に参加した。参加理由は、この度札幌医科大学に北見日本赤十字病院が寄付して創設された「オホーツク環境医学講座(特設)」の兼任教官に就任したためである。これは「地域再生計画」として策定し、最終的に25億円の予算を基に創設されたものである。講座への予算は4億6千万であり、2010年8月1日より2014年3月31日までである。担当代表教授は第1内科の篠村恭久教授である。
はじめ、吉田茂夫院長の挨拶があり、事務局よりこの運営員会の概要が説明された。部会として、特設講座及び医師・看護師・理学療法士等の派遣・研修部会、地域医療ネットワーク部会、周産期救急ドクターカー部会の3つ設置された。これらについて順に説明がなされた。

翌日にはプレス発表や島本和明学長の講演会が企画されている。
近い将来、目的に盛り込まれた「地域再生」が成られることを祈りたい。(山本和利)

2010年8月9日月曜日

The Biopsychosocial Approach

 『The Biopsychosocial Approach: Past, Present, Future』(Richard M. Frankel、et al. 編集:University of Rochester Press 2003年)を読んでみた。
  導入でGeorge L. Engelの論文The Clinical Application of Biopsychosocial Model.
Am J of Psychiatry.1980;137:5.を、付録でThe Need for a New Medical Model: A Challenge for Biomedicine.Science.196(1977);129-36の全文を読むことができるのが嬉しい。有名なSystems Hierarchyが掲載されているのは1980年のものであり、心筋梗塞既往のある55歳のセールスマン(2児の父親)が以前と同様の症状を起こしたため救急室に運ばれてきたという事例を取り上げてBiopsychosocial Approachを解説している。受診の不安、血管穿刺の失敗、心停止、蘇生術(成功または失敗)を図示して解説している。1977年の論文は図や表は一つもなく、Biopsychosocial Approachという概念の提案となっている。

Biopsychosocial Approachの6要素は次の通りである。
1. 患者の物語と生活環境情報を引き出す
2. 生物並びに心理、社会要素を統合する
3. ケアにおける人間関係性を重視する
4. 医師自身の考え、感情を省察する
5. 臨床問題の解決に焦点を絞る
6. 多面的な治療をする

Moira Stewartらは、 これから出発して臨床研究を踏まえて「患者中心の臨床技法(6要素)」を提案したものと思われる。(1.疾患と病いの両者を探る、2.全人的に理解する、3.共通基盤を探る、4.予防・健康増進に努める、5.良好な人間関係を構築する、6.現実的になる)

 これはGeorge L. Engelの業績を盛り込んでBiopsychosocial Approachについてまとめた素晴らしい本である。3,000円台で手に入るので総合診療・家庭医療を目指す人には是非購入していただき、一読を勧めたい。(山本和利)

家庭医療夏期セミナー

8月7-9日、群馬県ヘリテージ・リゾートで行われた「家庭医療夏期セミナー」に参加した。
8月7日、到着早々、今回の講演者として来ていた自治医科大学同窓の尾身茂氏とたまたまお会いし、現在の医療状況を打開するための案について話し合うことができた(医療の在り方を提案する「医療改革国民会議」なるものの立ち上げを検討中とのこと)。
温泉が有名ということで数人と出かけたが、部屋から大浴場まで10分ほど歩かなければならないほどの広大な敷地である(それほどの田舎とも言えるが)

21:00よりmeet the expertsと称した懇親会である。学生のムンムンとした熱気でむせかえる中、車座になって学生との語りあいが始まった。途中、参加した日本プレアイマリ・ケア連合学会理事一人ひとりに挨拶が求められた(理事には選挙中の候補者のように名前の書かれたタスキが用意されていた)。選挙演説のように赤い顔をして長く話す人、歌いだすひと、様々である。今回は特に女性の参加者が目立った。車座での話の中で、第一声が「へき地医療をやりたい」という女子学生の言葉はうれしい驚きであった。少し元気をもらった。途中、200名を超える参加全員での写真撮影は圧巻であった。整列に10分ほどかかったが、笑顔を合言葉にパチリ。撮影者は札幌医大学生の丸山君。熱帯夜、会はまだまだ続く・・・。

8月8日、午前中は様々な人と情報交換。午後、後期研修プログラムとしてニポポを紹介した。7名の方々と話ができた。これを機会に情報交換を続けてゆきたい。

会は月曜まで続くが、私は仕事関係で会場を後にした。
(山本和利)

遊び場としてのEBM

8月6日、年に1-2回開かれている脂質代謝に関する勉強会で長崎大学医歯薬学総合研究科創薬科学の池田正行教授の「遊び場としてのEBM・遊び道具としての臨床試験」という講義を拝聴した。
「グランドに落ちているのは地雷、と銭だけではない、ネタもグランドに落ちている。」という導入から、「なぜ臨床試験が必要なのか?」という主題に入った。臨床試験は人体実験であるが、それがないと人間にドッグフォードやキャットフードを食べさせることと同じになるからであると。日本人のわが身のこととして考えない風潮を批判。それは我々に当事者性がないからである。それを取り戻すには、自分の関心のあるテーマでツッコミ力を鍛えることが重要であると。学生講義で使用しているスライドで話は進む。医療に限らず、世の中の出来事を考えるとき、「人」「物」「結果」すなわち、「患者」「介入」「アウトカム」をチェックする姿勢を強調した。EBMでいうところのPECOを別の言葉で表現したものである。もう少し具体的に言うと、「組み入れ基準・除外基準」「用法」「有効性・安全性・評価指標」ということになる。新聞広告でよくお目にかかる「脳内核酸」の宣伝文を例に、具体的に批判を展開していった。

話の後半は次の4点。
1. 豆乳クッキーダイエットを例に、一般人の健全な批判精神が不足していることを指摘。それは素人に留まらず、専門家にも当てはまると言及した。4つの医学系学会が2009年度のインフルエンザ騒ぎで学会を延期したが、サッカー、野球の試合は一試合も中止しなかったと。日本は「一億総始皇帝」化している。不死を求めて、エビデンスのない「アンチエイジング」「脳ドック」「PET健診」の隆盛をその例としてあげた。
2. 「医薬品のリスク・ベネフィットバランスはグレイである」というのが正しい認識であるはずなのに、「白か黒か」という誤ったイメージがあり、それが根本的な問題であると。厚労省を「けしからん」と非難するのは、期待が含まれており、その非難の背後には依存が隠れていると指摘。その依存体質が、薬害を繰り返す秘密であると。「誰がリスクを引き受けるのか」を考えてみる必要がある。建築基準法改正の例をあげ、規制緩和で耐震疑惑が起こり、強化で住宅販売の落ち込みが起こった。「規則依存と自律」は非常に難しい問題である。確かに。
3. ドラック・ラグ(新薬の承認が遅いこと)。米国に比べて2.5年遅いというが、米国のやることは何でも素晴らしいと考えるのは鹿鳴館時代と同じである。Cox2(ロフェコクシブ)が夢の鎮痛薬として米国でもてはやされたが、5年後に心血管リスクが増すことがわかった(大腸がんの予防効果もあるともって5年間追跡したら、心血管死が増加していた)。平均余命、乳児死亡率を見るまでもなく、米国を真似る必要はない。確かに。
4. 「ゼロリスク探求症候群」と評して、リスクゼロを求める消費者を批判している。ここが一番この講演者の拘っている点のようだ。あえて日本人が食べなくてもよい米国牛肉に、なぜ消費者がリスクゼロを求めてはいけないのか。専門の薬剤の話での一貫性が影を潜めていると感じたのは私だけであろうか。

すべてを一刀両断に切り捨てる自信に溢れた講演であった。講演の中で批判の対象になった対極の持論を持つ浜六郎氏との討論会があったら是非拝聴したいなどと夢想してしまった。(山本和利)

2010年8月6日金曜日

札幌医科大学の研修医採用面接

8月6日、冷房のない部屋で茹だるような暑さの中、札幌医科大学の研修医採用に面接役として参加した。一人10分、フォーマットに則って面接をした。札幌医科大学の研修プログラムの魅力は、大部分の受験者がたすき掛けであること、自由度が高いことを挙げていた。(皮肉なことに、大学のプログラムではありながら大学ではないところで研修ができること、大学が決めたことより自分の好きに変更ができることが魅力となっているようだ)。
理想の医師像は「実力があり、患者さんに感謝される医師」とのこと。地域医療には10年以上かけて実力をつけてから貢献したいという受験者がほとんどだった(地域医療が崩壊してゆくのは待ってはくれないのだが・・・・)。地域医療への光が見えない。もっと、光を!(山本和利)

趣味は何ですか?

『趣味は何ですか?』(髙橋秀美著:角川書店 2010年)を読んでみた。著者は、趣味は何かと問われて、「ない、ような気がします」と答える自分に唖然として、様々な人々に趣味について問いかけ、趣味とは何かを考察している。
 坂本龍馬にはまった人、航空傍受する人など変わった趣味を紹介している。さぞかし楽しいのかと思いきや皆さん「つまんない」と答えている。寒いところで何時間も耐えて無線を傍受する姿は、ジョギングと同じように苦しみを味わいたいのだろうと推測している。趣味の定番は、男性は「蕎麦」、女性は「ヨガ」だそうだ。
 「切手の消印集め」が趣味というのも面白い。消印を集めて50年。人生を振り返って「自分の時間が欲しいな」と答えている。他のことをやってみたいけれど、この趣味に縛られているからやれないらしい。「エコ」「防災」「亀」「ラジコン」にはまっている人等、様々だ。
 本書を読んでわかったことは、趣味に興じているは必ずしも楽しい訳ではなく、それに縛られてやっているのだということである。
趣味に全ての時間を捧げても楽しい訳ではないのだと考えると、本書を読むことで今自分自身が楽しくなくても人生こんなものか(趣味に逃げても同じ)と妙に納得できる効果があるかもしれない。(山本和利)

2010年8月4日水曜日

札幌医科大学のopen campus

8月3日、札幌医科大学のopen campusの地域枠学生入学についての説明役として参加した。地域枠で入学した二名の2年生が大活躍してくれた。
寺田豊助教は全体のプレゼンテーションに参加。インターネット勉強会についてと諏訪中央病院の鎌田實氏が書いた『雪とパイナップル』という絵本を紹介した。(急性リンパ性白血病であるアンドレイの闘病生活の中で、家族や医療スタッフが捜したものは希望。幸せを捜すプロセスとしてパイナップル探しがある。悲しみの中に落ちてしまうことになった時こそ人との繋がりが生きる希望を見出してくれるのではと結ばれている絵本。)参加者の心に響いたようだ。
札幌医科大学を優秀な学生がたくさん受験してくれることを期待したい。(山本和利)

2010年8月2日月曜日

The Road

 映画『ザ・ロード』(ジョン・ヒルコート監督:2009年)を観た。

  終末期の地球を書いたコーマック・マッカーシーのザ・ロードを忠実に映画化したものである。人間社会の規範が崩壊し人食いが常態化してしまった世界の闇の中で、父と子が不条理な闇と闘いながら南を目指す。映画の中で世界の破滅の原因は示されない。荒廃した風景(閉鎖された高速道路、買い物用カート、スキージャケット、ビニール袋、テープを巻いた靴)の中を現在のホームレスのような人が安全と食料を求めて彷徨う場面が続く。

  最後の場面に希望が見出せるが、現在のホームレスを生み出し続けている世界こそ終末期ではないかと思わせる映画であった。(山本和利)

エントロピー

 『エントロピーがわかる』(アリー・ベン-ナイム著:講談社 2010年)を読んでみた。

  エントロピーは不確実性に繋がるので、題名をみて購入してしまった。エントロピーは増す方向にあり決して元に戻らない理由を、専門家でない一般読者にも伝わるように書かれた本である(読んでみると実際は難しい)。熱、温度、秩序、無秩序など、サイコロゲームを使って説明している。「系はいつも低い確率の事象グループから高い確率の事象グループに進む」「起こる頻度の高い事象は、高い頻度で起こる」を延々と説明してゆく。

 情報理論に興味のある者には、付録の「茶さじ1杯の情報理論」に書かれている「最もおろかな戦略」と「最もかしこい戦略」が参考になろう。(山本和利)

北山修の臨床心理学入門

 40年前フォーク・クルセダーズで活躍した精神科医で精神分析の専門家である北山修氏の退官講義を収めた『臨床心理学入門』(NKH教育 2010年7月26-29日)というTV番組を観た。40年の時が精悍な青年を白髪の落ち着いた感じの紳士に変えていた。TVにはこの40年間あえて出なかったとのことである。その理由の一つとして、TVは「うら」を伝えられないこと、見ることで想像ができなくなり、創造力が低下することを挙げていた。
臨床心理において、「ことば」は5つの点で重要である。
1. 名付けをする。
2. カタリシス効果をもたらす。
3. 意識化する。
4. 心の内容が変質する(部分的にしか表せない)
5. 人生を物語にする。
日本語は非言語化を好む。日本人は鬱積を心に溜めやすい。・・・中略・・・

  TVやビデオで編集が進むと、素顔がどこかに行ってしまい、「自惚れ鏡」となってしまう。時代がどんなに進んでも自分の心を映し出す鏡はない。カウンセラーは心の照らし返し役になることで、生き残る道がある。そうなるためには修行(口伝)が必要であり、包容力のある二者間「内」交流ができなければならない。

  ラストメッセージは「いなくなるから取り入れられる」であった。(子離れしない母親の話すことを子は受け入れない)。定年で教官が去っていくのも重要であるといって教壇を去った。
ポジションに執着しないことも重要なのであろう。(山本和利)

薬剤師・看護師学び直しプログラム

7月31日、北海道医療大学主催の「薬剤師・看護師学び直しプログラム」の講義を担当した。受講者は札幌が30名、北見が12名(遠隔授業)。14時開始。二人一組になってもらいアイス・ブレーキングの後、質問を交えながら聴講者参加型の講義を進めた。最初は「エビデンスに基づいた医療提供とは何か」で、PECO、患者中心のoutcome、エビデンスの寿命、EBMの4ステップ、情報の4Sを解説し、50歳硬性の高脂血症を例に情報の批判的吟味を行った。
後半は「文献のクリティークの基礎」ということで、「夜間に足がつる」患者さんが薬局に来たという設定で演習をした。資料として、メルクマニュアルならびにDynaMed、UpToDateを用いた。はじめは文献なしで薬剤師役、顧客役のやりとりをしてもらい、段々と情報を増やしてゆく方法をとった。
コメディカルが聴講者の場合、英語力が医師に比べてやや劣るため英語資料をどう用いるかが今後の課題と思われた。とは言え、思った以上に会場が盛り上がり、好評であった。
(山本和利)