札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年12月22日土曜日

臨床推論 理論と実践


1217日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は山本和利である(3回シリーズの初回)。テーマは「臨床推論 理論と実践」で,参加者は8名。

要旨

・医師が経験を基に、患者の病歴・身体所見等から直感的に診断を下すヒューリスティックはツボに嵌ると効率がよいが、間違ってしまうことがある。そのような過ちに陥らないためにベテラン医師が行う診断のプロセスは、仮説・演繹法である。

病歴・身体診察から仮説を立て、その可能性を、検査を介して微調整し、診断を検証するプロセスをとる。

・検査前確率を経験や文献から数値化する。

・治療で得られる利益と治療がもたらす不利益を想定して、治療域値を計算する。

・治療すべきか,経過観察すべきか決断が下せないとき,検査をする。

・陽性または陰性であるときの検査後確率を、検査前確率、感度、特異度(または検査前オッズと尤度比)から算出する。

・検査後確率を治療域値と勘案して治療を選択する。

・患者の意向(価値観)を尊重して、話し合って最終判断を下す。

 

診断のプロセス、1)パターン認識法、2)アルゴリスム法、3)仮説・演繹法、4)徹底的検討法の4つのパターンを説明。

医師がこれまでの経験を基に、患者の病歴・身体所見等から直感的に診断を下す方法をヒューリスティック(heuristic)、そして、それに付きまとう代表性バイアス(典型的な症状で診断を決める)、利用しやすさバイアス(すぐ思いつく診断に飛びつく)、係留・調整バイアス(一度決めた可能性にこだわり続ける)を説明。

 

病歴・身体診察から仮説を立て、その可能性を、検査を介して微調整し、診断を検証するプロセスをとる。ベイズ(Bayes)の分析方法を説明した。

 

事例のopening statementは、「亜急性の背部痛、下肢・膝関節上部痛で受診した避妊ピル内服中の29歳女性」。この情報から、4chest pain killers の一つである肺塞栓症(解剖学的:肺、病態生理的:血管性)を第一に考慮して話を進める。もちろん、しっかり問診をとって、合わせて急性冠症候群、緊張性気胸、解離性大動脈瘤、食道破裂、心タンポナーゼ等を除外する必要はある(must rule out)。

 

まず、肺塞栓症の可能性(検査前確率)を何%であるか想定(数値化)をする。問診と身体診察で肺塞栓を除外するルール(pulmonary embolism rule-out criteriaPERC)を取り上げた論文で事前確率を検討する。8項目(50歳以上、脈拍100 /分以上、SpO295%以下、血痰、避妊ピル内服、深部静脈血栓症の既往、4週以内の手術・外傷、片側下肢の腫脹)すべて当てはまらない場合はPERC陰性、一つでもあればPERC陽性とする。文献によるとPERC陰性では有病率6.4%、PERC陽性では11.3%であった。この患者は、「避妊ピル内服」「下肢の浮腫」の2項目が当てはまる。PERC陽性なのでそれを参考にして検査前確率を10 %と想定した。

 

ここで則、治療すべきかどうかを検討。

 治療により得られる利益が、それによって被る損失よりはるかに大きければ、その疾患の可能性が低くとも行うだろうし、利益よりも損失が大きければ治療を控えることになる。

0                        t:threshold                                         1.0

治療しない
治療する

                            ↑ (0        

 

ここで、実際にどのくらいの病気の可能性があったら治療を始めるか(治療域値:t)を説明。詳細は省略。

当該疾患の患者の利益をB、当該疾患でない者の損失をCと表現すると、治療閾値(t)はBとCの割合によって決まるとも言うことができる。結論としては、t=C/(C+B) または t=1/[(B/C)+1]と表すことができる。 

 

PERC論文では、B/Cを生存率から推測して、肺塞栓症の治療閾値(t)=1/[(B/C)+1]=1/(49+1)=0.02と計算している。肺塞栓症である検査前確率を0.02以上と考えれば,治療をすべきであるという結論になる。

 

しかしながら,すぐに治療した方がよいと言われても,病気の可能性が低い場合にはなかなか実行しにくい.そこで大部分の医師は診断の確率を上げるか下げることができる簡便な検査をしてから治療するかどうかの決断することになる。

陽性または陰性であるときの病気の確率(検査後確率)は、感度、特異度に加えて、検査前確率の3つがわかれば計算できる。

 

D-ダイマーの肺塞栓症に関する感度は95%,特異度は50%であるので、これらの数値を用いて2×2表を用いて検査後確率を求める。

2×2表による計算

検査前確率0.1
 
肺塞栓症
 
検査後確率
あり
なし
D-ダイマー
陽性(>500
95
450
95/545=0.17
陰性(0-500
5
450
5/455=0.01
 
100
900
1000

Bから、検査後確率はD-ダイマーが陽性であれば0.1717%)、陰性であれば0.01(1%)ということになる

D-ダイマーが陽性であると、治療域値2%を明らかに超えているので、医師としては治療を選択することになる。

 

次に患者の意向(価値観)を尊重して、話し合って最終判断を下す(shared decision making)。

実際には、エコー検査で深部静脈血栓症の確認を死、造影CTで肺動脈の血栓を確認する。

治療は、抗凝固療法を行い、ピル内服中止を指導することになろう。

参考文献

1)  Kassirer JP, et. al. Learning Clinical Reasoning second edition. Boltimore: Lippincott Williams & Wilkins, 2010.

2)  Kline JA, et al. Prospective multicenter evaluation of the pulmonary embolism rule-out criteria. J Thromb Haemost. 2008;6(5):772-780.

3)  Hugli O, et al. The pulmonary embolism rule-out criteria (PERC) rule does not safely exclude pulmonary embolism. J Thromb Haemost. 2011;9(2):300-304.

4)  Sox HC et.al: Medical Decision Making,Boston,Butterworths,1988.

5)  Pauker SG and Kassirer JP: Therapeutic Decision Making; A Cost-Benefit Analysis :New England Jounal of Medicine.1975; 293:229-234.

6)  Fletcher RH, et al. Clinical epidemiology The essentals third edition, Baltimore:Williams & Wilkins,1996.

 

 

12月の三水会

1219日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。松浦武志助教が司会進行。後期研修医:2名。他:6名。

研修医から振り返り2題。

ある研修医の経験症例。90歳代男性の気胸、肺炎、トロッカー挿入。基礎疾患がないのか?宿主の免疫を考慮して抗菌薬を判断する。60歳代男性、糖尿病で入院させインスリンを導入したが、自己退院。20歳男性のマイコプライマ肺炎。マクロライド耐性菌では?80歳代男性、RA+間質性肺炎患者が呼吸困難に自己判断でHOTの酸素を上げた。ステロイドパルス療法に反応せず、間質性肺炎が進み、死亡。真菌、サイトメガロ、ニューモシスティス等ではなかったか?高校生の気胸、胸腔ドレナージ。精神疾患をもつ70歳代女性。肺結核と診断。60歳代男性、便秘で精査した後腹膜巨大腫瘍。ノロウイルス感染症。慢性咳の30歳代男性、クラリスで軽快。

NSAIDs、プラザキサで出血性胃潰瘍を起こした70歳代女性。認知症、糖尿病、精神疾患あり、入浴をしていない。ネグレクト状態。37.3℃、BP:94/64mmHg, HR;100/m, SpO2:98 %, RR:16/m,呼吸;正常。両下肢浮腫。疼痛、発赤を伴う感染病巣あり、WBC;19000,Afであった。心不全、蜂窩織炎と判断。NSAIDsとCEZ1g×2回で経過観察。改善が見られず、ユナシンを使用。CHADSスコア4点でプラザキサを使用。その後、食欲無くなり、内視鏡で出血性胃潰瘍と判明。

コメント:ピロリ菌の検索は必要。NSAID潰瘍の予防にはPPI(保険適応がない).老人へのNSAIDは要注意。

ある研修医。中学生の感冒薬大量服薬による自殺未遂を報告(詳細略)。

ある初期研修医の経験症例。緑内障発作。吐血・黒色便の70歳代男性、マロリー・ワイス症候群。40歳代女性の右下腹痛、虫垂炎を疑ったが憩室穿孔であった。60歳代男性、発熱、意識障害、大腸菌による菌血症であった。侵入経路は何か?80歳代女性、入院中の血便、小腸出血であった。50歳代女性、上肺野の肺炎。結核の可能性はないのか?

コメント:髄液のタンパクが正常であれば髄膜炎は否定できる。

78歳女性、胸部違和感、意識障害。糖尿病、狭心症の既往。呼吸数26/分、上肢の握力低下。心電図に変化なし。心筋逸脱上昇なし。WBC;12000,経過観察を決めた。念のため頭部CTを撮影したら、くも膜下出血であった。水頭症をきたしていた。三次病院で脳動脈瘤が見つかり、緊急クリッピング術となった。

路上に倒れていた中年男性が救急外来にかつぎ込まれて着た。34.2℃。頭部の坐創あり。頭部CTは異常なし。WBC;20000,CTで胸腰椎圧迫骨折。血圧低下。心電図に異常なし。頭部CTを再度撮影し、くも膜下出血であった。三次病院に搬送。外傷性くも膜下出血は手術しないと。

クリニカル・パール; くも膜下出血イコール人生最大の痛みとは限らない。612時間後までの頭部CTの感度は97%。判断が困難なときは腰椎穿刺を行う(感度93%、特異度95%)。(山本和利)

2012年12月17日月曜日

限界集落


地域医療とは必ずしも過疎地の医療を指すわけではない。過疎地では高齢化が進み、限界集落化して、日本各地で村が消滅するのではないかといううわさを聞く。

限界集落問題の問題を、1)高齢化をなぜ過度に重視するのか、2)集落とは何か、3)社会解体予言の取り扱い方、の3点から切り込んだ本に出会った。山下祐介著『限界集落の真実』(2012年)筑摩書房、である。

高齢化の高い場所は、まず山間部に現れる。半島沿岸部にも現れる。中心市街地にも。比較的大きな都市の郊外にも。

5つのタイプに分類できる。

1.村落型

2.開拓村型

3.伝統的町

4.近代初期産業都市

5.開発の早い郊外住宅地

高齢者が定着し、その下の世代が「排出」し、子供を産む世代がなく、「少子化」する。

限界集落は予想に反して、しぶとく生き続けているそうだ。過疎化による消滅はあるものの、高齢化の進行による集落消滅は一つも確認できていないという。また、(政策のために)消えたといっても田畑は活用されているらしい。

世代間の地域継承という観点では、昭和一桁生まれの堆積と、それ以降の世代の流出が根本にある。そして、世代間による地域住み分け、すなわち、若い世代が中心集落を、年寄りばかりが周辺集落を形成することになるが、それは生き抜く上では合理的な面も否定できないようだ。

とは言え、住み分けが極端になると、そこに矛盾が起こる。著者は、過疎の村は勝手に消滅してしまえばよいと、他者が判断できるのかという、疑問を投げかけている。

・限界集落は非効率的な場か?

・誰にとっての効率性か?

・他者が判断できるのか?

これは医療倫理に類似している。

過疎地に住む住民や研究者たちは手をこまねいて見ているわけではない。集落発の様々な取り組みもある。住民参加型バス:毎月1000円、乗っても乗らなくても全戸で購入する案は成功したという。一方で、外から持ち込まれた案はうまく行かないようだ。結局、住民主体の取り込みであることが重要となる。そのとき「自分たちが良く見えること」は、欠かせない重要な認識である(集落の個性を活かす)。故郷に片足を残している人や戻ってくる可能性のある人を再生プランに入れる(徳野貞雄氏の提唱するT型集落点検)、メディアへの露出も大切、集落を再生の起点とすること、等。

再生は危機感から始まる。周辺から中心が見えるが、中心から周辺が見えない(中心の不理解)。過疎地には危機感があるが、都市部に危機感もなく、コミュニティ機能も衰退している。

時の試練に耐えうるのかどうか、2010年代は曲がり角に来ている。できれば住民主体の生き残りをかけた運動に医療者として関わってゆきたいものだ。(山本和利)

 

 

2012年12月15日土曜日

地域医療講義:総括



1215日、札幌医科大学医学部4年生を対象にした「地域医療」コースの講義の総括を行った。
前半は稲熊良仁助教が地域医療での体験を通じて「いのちをつなぐ」という講義をした。感動して涙が出そうになったという学生の感想が寄せられていた。

 
後半を山本和利が担当。1961年 に White KLによって行われた「 1ヶ月間における16歳以上の住民健康調査」を紹介した。日本も北米も大学で治療を受けるのは1000名中1名である。
引き続いて地域医療再生の話をした。14回の授業を通じて、地域医療への理解が深まった、総合診療への道も選択肢に入れようと思った、地域医療実習が楽しみ等の意見が寄せられた。
理論と実情は理解しただろうから、今度は臨床実習を通じて地域医療現場の空気を感じ取って来て欲しい。(山本和利)

 

 

医師に必要とされる多角的能力


1214日、医学概論Iで「医師に必要とされる多角的能力」の講義を行った。これは札幌市内の医療機関で行う実習の導入として企画されたものである。

まず、医師の仕事について高校生レベル向けに書かれた本の内容をかいつまんで紹介した。

後半、これまでに私が出会った様々な患者さんたちのことを提示した。リアルな社会の物事は、複雑で、不確実で、不安定で、独特で、価値観に葛藤があり、単純な対応ができないことを示した。

入学直後に目を輝かせて聞いていたのに、私語をしたり机に顔を埋めている学生が少なからずいたのには驚いた。

札幌市内での臨床実習で、「医師に必要とされる多角的能力」を実感して欲しい山本和利)

2012年12月9日日曜日

身体疾患と不安・抑うつ

128日、北海道身体疾患と不安・抑うつ研究会に参加した。

 北守茂氏の「難治性過敏性腸症候群の3例」

10代女性、長期にわたる下痢と腹痛、不登校。試験で一番前の席で、下痢恐怖の予期不安。自己臭恐怖。

IBSは4型。下痢型、便秘型、混合型、分類不能。血便、発熱、体重減少がある場合には、器質的疾患の除外が必要。コロネル、トフラニールを処方。重症化するにつれて精神症状が目立ってくる。

20歳代男性。腹痛と予期不安。いじめの対象になるため学校ではトイレに行けない。バスにも乗れない。器質的異常なし。直腸感覚閾値が低下していた(これはIBS患者全般に当てはまる)。直腸生検でPost-infectious IBS。自律訓練療法。解決志向型作業療法(原因を追究しない)。就職できた。

30歳代女性。腹痛、水様性下痢、摂食障害、嘔吐、無月経。体重減少が著しい。家庭問題あり。筋力低下。点滴するが改善なく、点滴に不信を抱く。内視鏡で異常なし。解決志向アプローチで対応している。

IBSの治療

1.一般的アプローチ

2.心身アプローチ

3.認知療法(認知行動療法、絶食療法、催眠療法)、原因追究よりも人間関係の構築の方が有効である。

 井出雅弘氏の「過敏性腸症候群並びに慢性疼痛の心身的治療」

IBSのRome II診断基準を紹介。機序:脳腸相関。機能性胃腸症候群。
50歳代男性。広場恐怖を伴うパニック障害と下痢型IBS。予期不安が強く、電車に乗れない。薬物、支持的精神療法、暴露的接近アプローチ。桂枝加芍薬湯、イリボーを追加で徐々に改善。意外と漢方薬が効く印象を持っている。自臭症にトフラニールが効くことあり。

 慢性疼痛の治療:クロナゼパム(リボトリール)、アミトリプチン(トリプタノール)が効く。最近ではリリカ、トラムセットを処方することもある。注意を他へ向ける(現実生活優先)。

悪天候により予定の演者が到着できず、北見公一氏が急遽「慢性頭痛と不安・うつ」の講演を行った。

慢性頭痛患者は多い。薬を毎日、68錠を内服している。はじめは効いたが、だんだん効かなくなった。生理前に片側がガンガン痛む。謳気、光に耐えられず、暗い部屋で静かに寝ている。母親が頭痛持ち。不眠で肩に索状硬結、傍脊柱筋筋膜痛→三叉神経第一枝を刺激する。生活環境が変わった。これは慢性連日性頭痛である。(片頭痛の慢性化・変容性片頭痛)誘因:不眠、不規則、不安・抑うつ、心的外傷体験。

治療:
睡眠衛生指導、睡眠・悪夢の改善、セロトニンを増やす、予期不安を減らす、トリプタン製剤。薬物乱用頭痛。反跳性痛みである。常用薬を止めさせる。予防薬を処方する。(クロナゼパム1/2錠、アミトリプチン1/2錠)、発作時にトリプタン製剤。これらを患者にわかりやすく説明する。パンフレットも利用する。

過敏性腸症候群や頭痛に対して、一般的事項と講演者の豊富な経験を踏まえた有益な講演会であった。(山本和利)

2012年12月7日金曜日

community as partner

127日、月寒ファミリークリニックの寺田豊氏のcommunity as partner

講義を拝聴した。

キーワードは「Health for all」:何か問題が隠れていないか。

症例(DV,母子家庭等)を提示しながら話が進む。(北海道は母子家庭率が高い)

 
プライマリ・ヘルスケアとは

WHOアルマ・アタ宣言

・「health for all

フェミニズムについて考えてみる。

・ケアリングや他者の世界観・経験を重視

・私たちの理解を深め、社会変容への理解をもたらす。

源流に遡ること

・溺れる人が多い→見張り小屋→上流に危なっかしい橋がかかっていた

・「根本原因の解決に取り組む」

地域との対話

・フォトボイス:写真に声を付ける。

・対話からエンパワーメント(特長は信頼、意見交換、希望、批判的思考)

・地区視診アンケート16項目(学生個々に記入)windshield survey

 8つの要素

1.物理的環境、2.保健・医療・福祉(ホームレスが多い地区は住みやすい、ホームレス検診)、3.経済(商店街を見る、失業率)、4.安全と交通(交通機関は何か、住民は安全と感じているか、SOSネットワーク)、5.政治と行政(ポスター、集会)、6.情報(広報誌)、7.教育(大学があるか、いじめ率、不登校)、8.レクリエーション(子どもたちの遊び場所)

・地元学(吉本哲郎氏が提唱):ないものさがしを止めてあるもの探し

 

Community as partner model

・地域で医療をしているだけでは地域医療とは言えない。

・コミュニティの目指すべき目的や解決法を施策化し、コミュニティ・エンパワメントに繋がることを目指す。

・「社会的共通資本としてのコミュニティ」(宇沢 弘文)

・「笑顔アゲイン」プロジェクト

 

パートナーとしての地域医療モデル

・地域診断でストレッサーを評価し、コミュニティにエンパワーメントを付与する。

・「community is partner

地域医療とは、そこにあるものが、かけがえのない繋がりをもち、誰一人として欠けることのない医療のあり方である。

 

最後に学生個々人に「地域医療」を定義してもらった。そしてその「地域医療」をみなで作り上げてゆきましょう、という言葉で締めくくられた。(山本和利)

 

 

2012年12月4日火曜日

地域医療と救急医療


124日(火)「地域医療と救急医療」について、医学部4年生に講義をしました。

以下、授業内容を要約します。

これまで、我が国の救急医療体制は医療機関の体制整備を中心としていましたが、緊急を要する救急搬送中の傷病者の医療確保を図る体制整備、いわゆる病院前救護体制の構築が進められております。

病院前救護におけるメディカルコントロールとは、 地域全体を1つの医療機関とみなして医療機関内と同様の仕組みで傷病者に提供する医療サービスの「安全」と「質」を保証することです。

プロトコルとは、医学的根拠に基づいて、地域の特性に応じて策定します。

プロトコルで指示する内容(4つのT

1.Triage:観察に基づく緊急度・重症度評価

2.Treatment:安定化・処置

3.Transport:搬送手段、搬送時間

4.Transfer:搬送先医療機関

救急救命士における院外心停止例に対する医師の具体的指示(特定行為)

1.乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液

2.食道閉鎖式エアウェイ、ラリンゲアルマスク及び気管内チューブによる気道確保

3.アドレナリンを用いた薬剤の投与

以上、地域全体をひとつの医療機関としてとらえ、地域特性に応じたプロトコルを作り 、MC協議会を通して多職種で「顔の見える関係」を構築することが大切であると考えます。

(助教 河本一彦)

地域医療


本日、医学部4年生を対象に「地域医療」の講義をさせていただきました。

地域の診療所で勤務した「2年間」について、自分が経験したこと、苦労したことなどを講義しました。講義後のアンケートの中で「地域医療を大切と思っているのならば、どうして大学にいるんでしょうか?」というようなニュアンスの質問がありました。

その辺、講義できちんと説明すべきだったと反省しています。20115月より大学に来て勉強している理由は「よりよい地域医療のシステムってどうなの?」というのが本題です。勿論、地域医療を勉強して資格をとるというおまけもございますが・・・。

 このブログに大学にきた理由を書くことで質問の回答とさせていただきたいと思います。

(助教 武田真一)

2012年11月30日金曜日

臨床疫学のまとめ

1129日、4年生を対象にした「臨床」シリーズの最終回の講義を行った。

前半は、第一外科の水口准教授による「ガイドライン」の話。ガイドラインが出来るまでのプロセスをわかりやすく語ってもらった。

科学的に現象を説明しようとする場合、医療ではy=ax+bという一次関数にしたモデルを採用している。健康でいる率をY軸、喫煙年数をx軸にとるとS字型をとる。それを一次関数(直線)にしようとするには、Y軸の健康でいる率をオッズに変換してグラフを書くと指数関数に近くなる。そこでそのオッズをさらに対数にすると直線に変換できるのである。この手法が多重ロジステック回帰分析である。

そして現象がどのくらいその直線に乗るかみるのが寄与率である。このような多変量解析を用いて計算しても、生身の人間を対象とした研究では相関係数はせいぜい0.5にしかならない。つまり統計学的には、寄与率は0.5×0.5=0.25であり、人間を対象にした場合25%しか説明できないのである。とは言え、科学的であるためには、絶えず勉強して25%の科学性を確保する努力が必要であることを強調した。

 最後に「ハチはなぜ大量死したのか(Fruitless Fall)」、「奇跡のリンゴ」(石川拓治著:幻冬舎 2008年)など、科学的に農業に取り組む話をした。(山本和利)

 

2012年11月22日木曜日

11月の三水会


1121日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。松浦武志助教が司会進行。後期研修医:2名。他:7名。

研修医から振り返り2題。

ある研修医。長引く咳の0歳児。扁桃腺培養で百日咳。急性胃腸炎後の低血糖の4歳児。ケトン陽性。アセトン血性嘔吐症。ノロウイルスとロタウイルスの重複感染。発熱、嘔吐、腹痛で受診した21歳男性。McBurney圧痛あり、虫垂炎の疑い。腹痛・便秘の81歳男性。腹部に腫瘤。排便で軽快。サバすし摂取後の眼瞼腫脹。ヒスタミン中毒の疑い。4日間続く咽頭痛、発熱の20歳台女性。ウイルス性(EB,HIVを考慮)。めまいが主訴の60歳台女性。Epley法で改善。前日からの臍周囲の腹痛を訴える50歳の男性。CTで小腸壊死。開腹手術となる。Non-occlusive mesenteric infarctionであったか。

80歳代女性。ある肺炎の一例。咳、喀痰。慢性C型肝炎、高血圧の既往。38.1℃、BP:94/64mmHg, HR;80/m, SpO2:92%, RR:16/m,呼吸音減弱。WBC;1200,Hb:10.7, PLT:10万、BUN:36, Na;128, K;2.9, CRP;13, TSH:42,D-dimer:1.6XP:左肺に浸潤影。胸水を認める。喀痰でグラムを施行し、抗菌薬を開始。甲状腺機能低下状態と判断し、チラージンも処方。降圧薬を中止した。喀痰吸引を継続。痰つまりが強く、SpO2が低下する。心肺停止となり、気管内挿管をし、ICUへ移動。喀痰からクレブジエラ菌を検出。敗血症が考えられた。一時的に蘇生したが、最終的に家族に見守られながらなくなった。クレブジエラ肺炎による肺炎と考えた。急激に病状が悪化したことに驚いた。初期データから敗血症への移行が予測されたにも関わらず、対応が遅れてしまった。早期にICUに入室させるべきであった。

クレブジエラ肺炎:重症化しやすい。院内感染症、免疫不全患者に多い。COPDなどへの2次感染も多い。高齢者では敗血症、死亡例が多くなる。抗菌薬耐性菌が増えている。カルバペネム系抗菌薬を使う。

クリニカル・パール;肺炎では重症度を判定し、予後不良例では速やかにICU管理とする。

コメント:肺炎というより膿胸であったのではないか。胸水穿刺をすべきであった。肺と交通しているのではないか。

ある研修医。入院症例。尿路感染症の80歳代女性。PEG後に症状改善。糖尿病、蜂か織炎。Afでプラダキサ、ロキソニン内服中であったが、胃潰瘍出血を起こした。抗潰瘍作用があるのは、PPIとサイトテック。風呂で溺れた高齢女性。両肺野肺炎、肺水腫と診断。非定型肺炎と心不全と診断し治療(クラリスロマイシンと利尿剤)で改善。溺れた原因は何か?風呂の中で失神したのではないか?AMIの可能性はなかったのか。失神の原因の大部分は心臓由来である。発熱、胸膜炎の高齢女性。喘鳴が続いている。SpO2が低い。拘束性障害であったが、結核はない。家族が自宅で看護できなくなった脳転移を来たした肺がん末期患者。膝痛の高齢男性。偽痛風と診断。心窩部痛あり、胃癌による多発肝腫瘍が見つかる。COPDが基礎にある肺炎。外来患者:腹痛主訴の患者、たまたま撮ったCTで腹水、肝臓委縮があり、肝硬変であった。血管や門脈奇形はなかったか?虫垂炎と診断し手術となった患者。

非ホジキンリンパ腫で緩和ケアを行った70歳台の女性。Af,嗄声で耳鼻科を受診し非ホジキンリンパ腫と診断された。化学療法を施行。放射線療法。気管切開と腸瘻が造設されている。皮下結節が多数。CTで気管食道瘻がある。皮下腫瘤多数。胸水あり。家族は早期の終結を望んでいる。

緩和ケア専門医はいない。利尿剤、フェントステープを使用。身の置き所のない倦怠感にリンデロンを開始。塩酸モルヒネを増量。腸瘻からIVH管理に変更。不穏もみられたか最終的に死亡。

コメント:最後にIVH管理にする必要があったのか。皮下点滴でよかったのではないか。経験を積んでくると、何もしなくなる傾向がある。(最後だけモルヒネの持続皮下注入くらいである)。

ニポポ卒業生が研究について相談のため参加。

30歳台女性。4年前に右の自然気胸。保存療法で軽快。今回、自然気胸の再発(50%の虚脱)。脱気のためチューブを挿入。翌日未明に呼吸苦。ドレナージから血液が洩れて来る。HR:120/m、BP:100/70mmHgSpO2:90,経過観察3時間後、HR:150/m,顔面蒼白。胸腔穿刺した。緊張性気胸であった。緊急手術で事なきを得たが、癒着が剥がれた怖い事例であった。

クリニカル・パール;気胸にドレナージをしても安心しないこと。

前回、報告した、数カ月かけて動けなくなった80歳代女性(プレドニン10mg、アザルピジン内服中。両下肢に紫斑がある。下肢の筋力が明らかに低下。WBC;20000CRP;20)のその後。血管炎、悪性関節リウマチ(リウマチ血管炎)であった。

今回は卒業生が参加してくれ、経験を披露してもらいながら、適切な指導をしてくれた。(山本和利)