札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年6月28日月曜日

専門医・認定医制度を考える

  6月27日、第1回プライマリケア連合学会学術大会。「専門医・認定医制度を考える」シンポジウムに参加した。亀谷学氏の司会で進行。

  伊藤澄信氏。前PC学会の認定制度担当者。これまで認定医1,100名。専門医80名。米国FM学会の制度を基本につくった。実技試験を実施した。経歴、事例報告。Modified essay questionによる論述試験。その後制度をいじらずに来ている。認定医取得者が家庭医専門医の受験資格者とするのは難しい。時限的に受験資格賦与を交渉予定である。本領域の専門医であり、他の基本領域専門医との併記はできない。2014年まで資格は維持。

 竹村洋典氏。前日本家庭医療学会の担当。発端は若手家庭医からの要求から始まった。学会後期研修認定プログラム設立を始めた。WSを定期的に行った。専門医試験には従来のPC学会のものに新たにポートフォリオを含めた。その上に病院総合専門医を設ける。プログラム責任者連絡協議会を結成した。生涯教育としてWSを企画。研修の場は診療所または小病院で家庭医機能を研修。総合内科、小児科の研修を必修。良質のジェネラリストを養成するために優れたプログラムを用意する。

  山城清二氏。前日本総合診療医学会の担当。病院総合医後期研修プログラム5年間の素案を作成。家庭医専門医の内容と重複が多いため、再検討した。家庭医専門医の上に2年間のプログラムを置く(病院総合医を特徴づける能力を追加したものを6つ)。現在、NANTO家庭医養成プログラムを作成。今後、プライマリケア応援体制の確立が重要。

  山下大輔氏。オレゴン健康医科大学家庭医療学科。海外の家庭医療専門医認定の歴史を解説。初期、19世紀、GPの時代。20世紀に入って急速な医学の専門分化。GPの急激な減少。1960年代:専門化進行、へき地医療危機。現在、新たな認定更新制度の開始。他の専門医が認定に関わっている。再認定制度、自動更新なし(試験あり)。自己評価、質評価が問われる(診療録の評価、半年後に再評価)。英国。ポートフォリオを用いてReflective practitionerとして生涯学習する姿勢を評価。受験者の負担料が30万円かかる。
今後の専門医制度の課題。医師個人の質の保証。社会のニーズ。専門家集団としての質向上。学問としての基盤の確立。再認定の扱い。既存開業医・認定の扱い。資金・時間・人材・実現可能性。

  岩本裕氏。NHK解説委員。患者サイドに立った要望。過去においては、国民皆保険が生んだ幻想。お医者さんはエライ!3時間待ちの3分診療。専門しか診られない医師たち。
  家庭医とかかりつけ医の違いが国民にはわからないだろう。専門医制度も信用できない。がん認定医の迷走(患者不在の論争)ぶり。未熟な技量の専門医による医療事故。ホームドクターが必要である。今求められている家庭医には、「安心を提携する」「ジェネラルな専門医」「健康な人も知っている家庭医」を要望。

  最後に討論がなされた,フロアーからの意見の一部を披露する。
「専門医の育成」:施設認定とプログラム認定が必要。アウトカムが重要。教育が存在しない場所に派遣されることがないようにすべきである。更新期間は5年。
「現役の医師が専門医になるには」:移行措置は必要。わかりやすくして国民の理解が必要。現場のニーズに合わせて融通を持たせる。質も大事だが、アクセスも大事。病院の勤務医をサポートする制度にしてほしい。初めは知識ベースの試験で数を確保する。生涯教育を充実させる。学会、日本医師会、厚労省の3つが話し合って欲しい。
「国民に認知されるためにどうあるべきか」:国民だけでなく、診療所の医師にも認知して欲しい。地域の医師と一緒にやってゆくことも重要である。99%が専門医である状況を変えなければならない。卒前教育を充実させる。制度を複雑にしてはいけない。米国の二の舞になっていけない。(FM vs. GIM).レベルを保証する制度設計。社会全体・国民の行動を変える。キャンペーンを行う。

 この学術集会をきっかけに、専門医制度がしっかりと船出することを願う(山本和利)

家庭医療学の理論的基盤

  6月26日、第1回プライマリケア連合学会学術大会。「家庭医療学の理論的基盤」について2時間の講義。自己紹介後、聴講者に2人一組になってもらい、拍手・ハイタッチをして自分のハマっていることを話しながら自己紹介し合ってもらった。雰囲気が和むのが伝わってくる。事例について話し合いを入れながら、講演を進めた。
  医療のパラダイム変化、家庭医療学の歴史 、家庭医療学の基本原理(総合医・専門医を巡る勘違い、受療行動、コミュニケーション技能/医師・患者関係、癒しのプロセス、患者中心の臨床技法、予防と健康増進、家族と病気)等を話した。

家庭医療学の基本原理
1.家庭医は病気よりも人そのものに関わる。(康問題に限らない。病気を治したことで関係性は終わらない)
2. 家庭医は病気の背景を探る。
3. 家庭医は、疾病予防や健康増進の機会と捉えて患者の関係者と接触する。
4. 家庭医は、診療の場で得たものを患者が所属する集団にも当てはめて考える。
5. 家庭医は自分自身を,健康を司るコミュニティの一員と見なす。
6. 家庭医は、できれば患者と同じ生活習慣を実践する。
7. 家庭医は患者を在宅でケアをする。(知らぬうちの病気の背景を理解する)
8.   家庭医は、患者の訴える主観的側面を重要視する。
9.   家庭医は限りある資源を有効に利用する。

その中でbiopsychosocial modelの提唱者のGeorge L. Engelを紹介。(he need for a new medical model: a challenge for biomedicine. Science 1977;137:535-44)

最近の理論Joachim P Sturmberg ( The Foundations of Primary Care)も紹介。

  自治医大の卒業生や顔見知りの先生方がたくさん聴講してくれた。自分自身にとっても家庭医療学の重要性を再認識する機会となった。このような機会を与えてくださった内山富士雄先生に感謝いたします。一日も早い回復を願っております。(山本和利)

卒前におけるプライマリケア教育

6月26日、第1回プライマリケア連合学会学術大会。前野哲博教授の司会でシンポジウム開始。3/4の大学で地域枠学生を採用し、今年度は1,027名となった。地域医療に追い風が吹いている、と。大学の問題や自治体の問題の提示して演者にバトンタッチ。

  高知大学の阿波谷敏英教授。家庭医道場を年に2回、学生が実行委員会を作って運営している。延232名が参加。学生からの評判はよい。土佐山へき地診療所を指定管理としてそこで教育。幡多地域医療道場もある。課題としては、学外の善意に支えられていること、宿泊・移動の経費が問題。教育の効果として、地域志向性を測定することの困難であり、将来地域への定着は不確実である。ウルトラマン型(医局派遣。1年。スーパーマン的活躍を期待される。燃え尽きる。)からアンパンマン型の医師を地域に定着させたいという意見はユニークであった。

  聖マリアンナ医科大学の亀谷学教授。選択講義「家庭医療」について解説してもらった。翻訳した「プライマリケア何を学ぶべきか」という本を基に授業を構成。受講前後で家庭医療のイメージが変わったことを報告。症例シナリオを挙げて、どの科に診てもらうかを問うと講義受講後で家庭医を受診させるという意見が増え、専門医を受診させるという意見が減った。家庭医に対する認識が大きく変化するので、講義形式であっても有効であることを提示してくれた。

  森崎龍郎医師が札幌医科大学の地域医療実習について、まず変遷から説明。はじめは総合診療科の外来実習。2003年度から地域の第一線医療機関へ1週間。2006年から2週間。健康教育。ときに農作業などもしている。実習後で地域医療に対する評価は上がる。実習への満足度は高い。現在は必修実習で2週間。34施設の協力。学生の希望を考慮して割り振る。ポートフォリオの作成、日々の振り返り、地区視診、Significant event analysis。(人の死。病状説明。患者の仏雑な背景。失敗。患者との関わり、初診患者の診察。一連の臨床経過を診る経験。)患者・コミュニティに関する気付き(訪問診療、救急外来、慢性期病院の病棟)、ミニ研究、ライフストリー聴取、パラレル・チャート等を課題としている。これらの実習を最終日に振り返りをしている。評価はこれらにOSCEを加えている。このような実習は基礎的な卒然教育として重要な場であるとまとめた。

  筑波大学(水戸地域医療教育センター)の小林裕幸准教授。市中病院で教育。総合診療科を核に教育。ミニレクチャーを行っている。チーム医療のやり方を説明。電子カルテに記載させている。研修医レベルの要求を学生に求めている。プレゼンテーションを重視。症例を選択しての外来教育。二人一組で行う。身体診察教育を重視。学外でロールモデルの場を提供。
  その後、医療経済的視点、地域へ送り出すときの言葉等、フロアから活発な意見が出された。情報交換だけでなく交流の場としても有意義であった。

地域医療における漢方の役割

6月26日、第1回プライマリケア連合学会学術大会。伊那市国保美和診療所の岡部竜吾先生の講義を聴いた。漢方は「仮想理論モデル」であるが、西洋医学で説明できない病状も漢方では説明できることがある、と。患者に共感し、一生懸命に関わってゆくことで「心身一如」「人を診る」漢方を広めてゆきたいと。ただし、西洋医学の視点も忘れず、両者をうまく使い分けることを強調している。漢方の副作用にも触れられた。「黄」がつくもの(エフェドリンを含むため)、「附子(トリカブト)」(しびれ、不整脈)、「甘草」(偽性アルドステロン症)に注意。
  漢方薬としては大建中湯、六君子湯を紹介。「脾胃が弱い」ものに効く。胃腸機能を高める。名人は少ない薬でたくさんの症状に対応する。
  「地域をみる」話題では、BPPVと気候変動の関係を話された。天気が崩れる前に頭痛、めまいが起こる症状(「ふりけ」)に五苓散が効く。診察室は住民にとって非日常的な場所である、と認識することを強調された。
「気の里構想」を打ち出し、ボランティアの活用等で地域づくりに関わっている。
  単に漢方薬の使用というような話に終わらず、漢方を通じての地域づくりをするという非常にスケールの大きな講演であった。(山本和利)

2010年6月25日金曜日

統計の話

 6月23日、プライマリ・ケア・レクチャーシリーズで「文献の批判的吟味」の講義をした。TV会議システムもソフトがversion upされた。詳細はホームページからダウンロードしてください。統計のことを中心に話をした。

統計処理で用いられる10のだましのテクニック
1.コンピュータにデータを入力し、P<0.05になったところで統計的有意として報告する。
2.比較する両群のbaseline dataに差があっても補正しない。
3.正規分布しているかどうかチェックしない。
4.脱落群は無視する。治療を受けた対象だけを分析する。
5.x軸とy軸の相関をみて、相関係数rを求める。統計的に有意であれば因果関係があるとする。
6.外れ値が計算を台無しにするようなら、それはないものとして計算する。逆に、外れ値が自分の思っている結論に役立つようなら、疑わしいものでも残す。
7.2群の差をみた値の95%信頼区間に0が含まれる場合には、95%信頼区間を記載しない。(本文では簡単に触れるが、グラフには入れず、結論でも無視する)
8.6ヶ月予定の2群比較試験で4.5ヶ月で有意差がでたら、試験を打ち切り、報告する。
 6ヶ月終了予定時で統計学的有意差が今一歩の場合には、もう3週間試験を続ける。
9.結果が思わしくない場合には、特殊なサブグループで有意差がないか検討する。
10.始めに計画した統計処理で結果が思わしくない場合には、有意さがでるような別の統計処理を行う。

このようにならないようにしてください。

中略・・・。

最後に症例数決定に必要な情報を計算式で示した。
1. 検出したい差
 臨床的に意味のある差
2. エンドポイントの散らばり
3. 統計的過誤率
 αエラー:通常5%
 βエラー:通常20%を決めると計算できる。
当該患者のこれまでの1年以内死亡率は30%であり、新薬で20%以内に抑えることが期待されるとする。新薬群:対照群=1:1とすると294人が必要である。

当該患者のこれまでの1年以内死亡率は30%。うまくすると15%まで抑えられるかもしれないと想定すると、必要な患者数は112人となる。

読者が研究を行う際の参考になればうれしい。(山本和利)

FLATランチョン:心臓の聴診

6月25日、特別推薦学生を対象にランチョンセミナーを開いた。11名が参加。身体診察その2と題して木村眞司先生が心臓の聴診の指導を行った(臺野巧先生が実習の補助に飛び入り参加)。まず参加学生の一人に前に出てきてもらい、外来患者として聴診を行った。
ポイントと話の進行。
1. 高齢者の大動脈狭窄の音を見逃さない。第二肋間胸骨右縁で。首への放散に注意。同時に脈をとって立ち上がりが鈍くないか。
2. 解剖の復習。胸骨と肋骨の関係。ルイス角の部位が第二肋骨の付着部位である。
3. 男子学生に裸になってもらい、直接マジックで胸骨と肋骨を書き込んだ。
4. 他の10名の学生に触れてもらいながら部位を確認する。私も触らせてもらった。
5. 4つの聴診部位(大動脈弁、肺動脈弁、三尖弁、僧帽弁領域)を教えた。
6. I音(三尖弁、僧帽弁の閉鎖音)、II音(大動脈弁、肺動脈弁の閉鎖音)の識別。
7. CDで聴いてみる。イチニ、イチニ、イチニ(タッタ、タッタ、タッタ)
8. 実際に聴診器を使って聴いてみる。
9. I音とII音の区別がつかないときには、I音とII音の間に脈が触れるので脈を参考にする。
  午後の授業の関係で3年生が30分のみの参加となってしまったが、全員が目を輝かせて参加していた。一部の学生は後ろ髪を引かれながら授業へ。

ミニ知識。
 膜型:高い音、ベル型:低い音、を聴く。走ると拡張期が短くなる。III:心室への急速流入音、容量負荷。大動脈閉鎖不全の時、Kentuckyのリズム。心尖拍動が触れるあたりで。IV音:心房から出る。心不全。拡張障害。Tennesseeのリズム。(山本和利)

2010年6月22日火曜日

富良野協会病院総合内科(2)

 6月18日、富良野協会病院で総合内科の外来と病棟カンファランスに参加した。脳梗塞による不全麻痺患者の指示を出しながら入院患者のカンファランス。発熱を主訴に入院し、抗菌薬で対応していた高齢男性。低空飛行のままときどき、突然喘鳴を起こす。炎症反応は高くはないが、右肺を主体に胸水が出現。総合内科だけでなく、循環器科の医師にも相談。気軽に心エコーと気管支鏡を請け負ってもらった。心不全は考えにくいということで、呼吸器疾患に対する治療への助言をいただいた。科を越えて相談が気楽にできていい雰囲気である。研修医の先生方、疲れを溜めず頑張ってください。(山本和利)

2010年6月17日木曜日

旭川医大生の早期体験実習その後

  5月に旭川医大の早期体験実習の授業の一貫として、地域医療に関するインタービューを受けたことを報告した。
  実習終了後にいただいたお礼の手紙の中に、実習発表会の評価投票で15グループ中第4位という好成績であったと書かれていた。さらに「北海道の医療現場に貢献するであろう私たちのモチベーションを高め、日々の勉学への情熱を改めて燃え上がらせてくれた。」また同級生からは「総合医に対する今までの意識が変わった。」というコメントをもらったそうだ。
  このインタービューが総合診療や北海道の地域医療に対して考える切っ掛けになってくれて本当にうれしいかぎりである。礼儀正しく感受性の高い学生に出会えて清々しい気分である。(山本和利)

6月の三水会

 6月16日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は12名。
今回は若林崇雄医師が司会進行役。ユニークな疑問を投げかけて質疑応答を深めてくれた。
ある研修医は、ラポール形成が困難であった入退院を繰り返すCOPD,HOT導入中で点滴希望の70歳代男性を報告。家族カンファランスを企画し、介護サービスの利用、訪問看護を提案。ヘルパーに情報が筒抜けになってしまうので提案を拒否。3回の面談の中で週1回の診療所受診を提案。SSRIを処方し不安感を軽減させた。解決に近付けたのは、落とし所が見つけられたのが大きい。今後、継続性が問題になるという意見が出された。
入院患者・再診患者が増えて目の前の仕事をこなしていくのが精いっぱいの研修医。そんな中にあっても診療内容を記録することが大切と自覚している。初診外来を13時まで行い、その後入院患者への対応。仕事を受ける境界線を作ったり優先順位をつけたりする必要があるのではないかという意見が出た。病院全体の医療者に負担がかかり過ぎている状況で、業務改善をどうしたらよいか、悩ましい問題だ。
食道癌ターミナルの患者・家族への対応。術後、UFT内服で経過観察中、食欲不振、全身倦怠感にどう対応するか。患者に対する家族の一人の気持ちが逸り過ぎる傾向あり、癌患者の心理過程をブロックしている。この家族のケアが重要であろう。病室に行ったら患者さんと握手をしようと思っている。
高齢者のケア。認知症、III度AVブロックを抱える患者の糖尿病が悪化。薬を内服する時サイダー、甘酒を飲んでいたことが判明。糖質0のサイダーに変えたら、糖尿病のコントロールが改善した。状況を把握することと改善策を提示することの大切さを痛感。
胃癌術後で精査をせず訪問管理を受けている患者。介護者の急な入院に伴いホスピスへ入院に導くことができた。オピオイド開始して経口摂取可能となった。侵襲の少ない検査をするべきではなかったか。疼痛の評価よかっただろうか。認知障害のある高齢患者の疼痛患者の評価について報告してくれた。
終了後、8月富良野で行う予定のカンファランスのやり方について意見交換がなされた。(山本和利)

2010年6月14日月曜日

レジナビ in Tokyo

  6月13日、東京のビックサイトで開催された後期研修説明会に参加した。ニポポ・プログラムからは山本和利、大門伸吾医師、日光ゆかりさんが参加。本年度は、北海道庁もはじめて参加し入り口付近に北海道地域の施設をまとめてくれるという配慮がなされていた。両隣が松前町立松前病院と留萌市立病院であった。
  生まれて初めて、ティッシュ配りをしながら呼び込みをした。お陰で7名の研修医の方々に説明を聞いてもらうことができた。全体的には東京の有名病院のブースに人気が集まり、北海道や東北は人通りも疎らであった。とは言え、昨年説明できたのが1名であったことを考えると、本年は上出来である。研修医獲得に向けて頑張ってゆきたい。(山本和利)

江別市立病院教育カンファランス

6月12日、江別市立病院で行われた「川島篤志先生による教育カンファランス」に参加した。前日に講演「地域基幹病院の総合内科が地域医療を変える-成功している公立病院からのメッセージ-」があったが、拝聴できなかった。
当日朝7時開始であったが、都合で9時から参加した。会場は50名ほどの若い医師の熱気でムンムンしていた。7-8名1組6グループで討議が行われた。
症例提示後、患者さんの症状に合わせて、「熱と頭痛」で鑑別診断を3つ挙げる課題が出た。感冒、髄膜炎、PMR,側頭動脈炎、副鼻腔炎、脳膿瘍、歯性上顎洞炎、Still病、偽痛風(crowned dens syndrome)、などがあがった。
議論が進む中で、参考になったこと。
「赤血球円柱、蠟様円柱を見たら要注意。」
「腎臓は身体所見ではわからない。」
「過去のデータを取り寄せる。」
「関節炎はアルゴリスムがあるから簡単。分岐点を押さえる。関節穿刺をする。」
「診察では関節列隙を意識する。」
「静脈洞血栓症を意識して眼底を見る。」
「ネフローゼ患者の患者が腹痛の場合:静脈血栓症を考える。」
「小動脈がやられていると考えたら、腎、肺、神経、皮膚の4つをチェックする。」
「ANAはSLEに関連するもので、膠原病のスクリーニングではない。」
「好酸球からみの病気はステロイド治療を開始すると組織所見が変化してしまう」
その後、感染症疾患の実際と銘打って呼吸器疾患9例を提示。肺結核を中心に講演。
肺結核のリスク。ニューキノロンは結核をマスクする。疑ったら動く。粟粒像を見たら粟粒結核、癌を疑い、隔離、胃液培養、肝生検等を考慮する。非定形抗酸菌症を提示。ニューキノロンを安易に使わない。
休憩を挟んで「症例プレゼンテーションのコツ」を伝授。プレゼンテーション・フォーマットを話す側と聞く側で統一させる。プレゼンテーションは臨床能力を反映する。上手なプロファイルでイメージを持ってもらう、等教えてもらった。
最後は身体診察の小テストを受けた。頭の先から爪先まで、質疑応答を繰り返し2時間以上の講義であったが、大変役にたつものであり、身体診察の大切さが身にしみた。もっと勉強しなければと痛感した。川島篤志先生、ありがとうございました。お疲れ様でした。
(山本和利)

全国大学総合診療部連絡協議会

6月11日、東京の順天堂大学センチュリータワーで開催された全国大学総合診療部連絡協議会に参加した。主幹校医学部長の開催挨拶の後、文科省高等教育局医学教育課新木一弘課長から「大学病院の諸課題について」の講演があった。総合診療部には62大学病院に教授が49名でいる。大学病院医師数は29,000名であり、総合診療に関わる医師数154人(0.5%)にすぎない。入院患者を扱っている病院もあるが、外来診療のみの大学が多い(54.5%)。また患者数は多くなく、診療単価が低いため収入も少ない。
総合診療部には、収入のことではなく、地域医療をする人を育てる臨床研修のあり方であり、臨床実習を見直し、医学教育の充実(基本的診療能力を身につける、総合診療、地域医療の現場との連携、チーム医療を支える(360度評価))等を期待している。そのため、モデルカリキュラムの改訂を考えている。総理の所信表明で「強い社会保障」を挙げた。医師数を増やす方針で、国立大学の地域医療教育の講座の充実(2名分)を図れることになっている。
大学総合診療部へのアンケート結果では、常勤3-5名が多く、3年間で変動がないところが一番多い。一日外来患者数;10-20名。
質疑応答で、様々な意見がだされた。「大きな絵を描く」「明文化して大学総合診療部が一体となって総合医を増やす政策を要求する」など。総合診療医学会、家庭医療学会、PC学会が統合された中にあって、総合診療医学会は2つに分裂してしまって重苦しい雰囲気であった。小異を捨てて大同団結したいものである。(山本和利)

2010年6月10日木曜日

科学的とはどういうことか?

  6月10日は4年生を対象に「EBMと臨床研究」という講義の最終回である。
  医療の内容を科学的に説明しようとする場合、どうしたらよいか。極論するとy=ax+bという一次関数にしたモデルで考えるということである。
  多重ロジステック回帰分析を例にとろう。健康でいる率をY軸、喫煙年数をx軸にとるとS字型をとる。それを一次関数(直線)にしようとするには、Y軸の健康でいる率をオッズに変換してグラフを書くと指数関数に近くなる。そこでそのオッズをさらに対数にすると何と直線になるのである。
  そして現象がどのくらいその直線に乗るかみるのが寄与率である(このことを論文などで一生懸命表現することになる)。このような多変量解析を用いて計算しても、生身の人間を対象とした研究では相関係数はせいぜい0.5にしかならない。つまり統計学的には、寄与率は0.5×0.5=0.25であり、人間を対象にした場合25%しか説明できないのである。とは言え、科学的であるためには、絶えず勉強して25%の科学性を確保する努力が必要であることを強調した(人間性だけでは宗教と変わりがないことになる)。
  後半は「ハチはなぜ大量死したのか(Fruitless Fall)」、「奇跡のリンゴ」(石川拓治著:幻冬舎 2008年)など、科学的に農業に取り組む話をした。
  学生からは思ったとおり、後半の医学以外の話に対する評価が高かった。13回に分けて行った授業については、思いの外、好意的な意見が寄せられていた。(山本和利)

生活者中心のケア

  6月26日、東京で開催される日本プライマリ・ケア連合学会で「家庭医療学の理論的基盤」というタイトルで講演をすることになっている。6月9日、その予行を教室で行った。次のような内容を考えている。
医療のパラダイム変化
家庭医療学の歴史
家庭医療学の基本原理
     ・総合医・専門医を巡る勘違い
     ・受療行動
     ・コミュニケーション技能/医師・患者関係
     ・癒しのプロセス
     ・患者中心の医療の方法
     ・予防と健康増進
     ・家族と病気
 予行終了後、教室員から「生活者中心のケア」を強調して話すのがよいのではないかという意見が出された。あと2週間あまりである。しっかり準備をしたい。(山本和利)

離島地域医療実習

6月9日、札幌医科大学1年生を対象にした「離島地域医療実習」の計画について関係教官の間で話し合いが持たれた。夏休みに利尻島で行う予定の実習(35名枠)に70名以上の応募があった。それにより安全性や経費のことで問題が生じ対策が協議された。利尻島の受け入れ側の喜んでくれているようだ。関係教官の奔走により最終的に今年度については希望者全員を参加させることになりそうだが、来年度以降については予算や教員確保に問題があり、どうなるか未定である。
このような実習を通じて一人でも多くの学生に地域医療について興味を持ってもらうことを期待したい(山本和利)

2010年6月7日月曜日

青森県総合診療学術フォーラム

6月5日、第6回青森県総合診療学術フォーラムに呼ばれて講演をした。2年前に呼ばれたときに「EBMの過去・現在・未来」と題して講演したので、今回はそれにNBMの話を加えて、医療のあり方について講演した(「EBM と NBM」)。弘前大学医学部付属病院地域医療支援センター長・総合診療部教授の加藤博之先生が約10名の医学生を引き連れて聴講してくれた。医療を科学的に展開することは大事であるが、エビデンスは日々刻々変化するものである。最近の報告では約5年間で半分のガイドラインが書き換えられると言われている。様々な人間を対象とした臨床研究ではしっかりとした研究計画に則った研究であってもその成果の25%しか説明できないこと等を解説した。その中で「なぜハチが大量死したか」を科学的に追及した本を紹介した。今回は青森ということで青森県岩木町に住む木村秋則氏の無農薬リンゴ栽培にのめり込んでゆく生き様(「奇跡のリンゴ」)を、科学的な農業実践の例として紹介した。
講演の後半は、科学的に説明できないことについては、人間的・物語的に対応することが大事であること、そしてプライマリ・ケア医ができるナラティブに必要な6つのCについて、事例を挙げて解説した。(Conversations、Curiosity、Circularity、Contexts、Co-creation、Caution)。聴講する参加者の真剣な眼差しをヒシヒシと感じ、それにつられて話の脱線が多かったため、時間を30分ほど延長しての講演となってしまった。
講演後の情報交換会で、弘前大学の学生さんに囲まれ、総合診療のことや今後の学習の仕方について等たくさんの質問を受けた。学卒の編入生が多い印象を受けたが、彼らの医療に対する真剣な態度に、地域医療への希望を見出すことができた。
 1泊2日の日程で、ねぶたの里も楽しむことができた。青森県出身自治医大卒業生の皆さん、弘前大学の加藤教授、学生さん、聴講していただきありがとうございました。(山本和利)

2010年6月4日金曜日

FLATランチョン勉強会:医療面接1

6月4日、1,2,3年生の特別推薦学生(FLAT)を対象にたランチョンセミナー勉強会に参加した。13名が参加。まず今年度行う幌加内サマーキャンプの事前説明。有名そばやの紹介。地域診断、病院実習、ソバ打ち実習など。
  医療面接その1と題して当教室の寺田豊助教が講義と実習指導を行った。導入の知識。診断の8割に寄与する。治療としても重要である。
  学生への質問と応答。
1. どんなことを訊くか?世間話をしてリラックスさせる(中立な質問)。一般的には天気の話がよい。「今日はどうしましたか?」と、最初はざっくりと訊く(開かれた質問)。どのような思いで来ているかを訊く。その後、詳しく情報を取る(閉じた質問)。既往歴。思い当たる日常を訊く(説明モデル)。何を期待しているのか。治療、検査。職歴。家族関係。嗜好。タバコ(銘柄をきく)。生活リズムを具体的に訊く。
2. シナリオ「夜間の呼吸困難、咳を訴える45歳の女性」を用いて、3人1組でロールプレイ開始。医師と患者の椅子の位置関係をどうするか。割り当てられた役のシナリオを書かれた通りに読み上げる。終了後、患者役をした者に対して、医師に対してどう思ったか話してもらった。「安心感がある。」「心がこもっていない」等の反応有り。相手の表情を見ながら話ができているか。アンテナ感覚が大事。話しやすくさせることに心がける。声のトーン(低音で)、スピード(ゆっくり)を考える。身振り、手振りで58%伝わるそうだ。
 入れ替わって2ランド目を開始。学生さんは皆ロールプレイを楽しんでいた。
 宿題を出されて次回へ続く。(山本和利)

2010年6月3日木曜日

奇跡のリンゴ

 「奇跡のリンゴ」(石川拓治著:幻冬舎 2008年)を読んでみた。これはNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で放映された内容をさらに取材を重ねて本にしたものである。青森県岩木町に住む木村秋則氏が何気なく出会った一冊の本(福岡正信氏の「自然農法」)に触発されて無農薬リンゴ栽培にのめり込んでゆく生き様の記録である。数学や機械いじりが好きだったリンゴ農家次男に生まれた青年が、トラクターに魅せられてトウモロコシ栽培をはじめ、いつしか無農薬リンゴつくりに憑かれてゆく話である。リンゴが実らず「カマドケシ」(収入がない)となるも、赤貧、異端視に耐え、自殺寸前にまで追い込まれながらリンゴに関するあらゆる本を読破して様々な実験を繰り返し、遂に成功に至る物語である。
  本や人との偶然の巡り合わせ(農薬アレルギーの配偶者等)、周囲のサポートなどに加えて、「ひとつのものに狂えば、いつか必ず答えに巡り合う」という強い信念が大切であると本書を読んで思い知らされた。
  様々な試みに加えて木村秋則氏はリンゴを子どものように扱い時間があると「リンゴの木に語りかける」ことをしていた。その中で次の言葉が印象的である。語りかけることをしなかったリンゴは全て枯れてしまった。それが今でも心残りであると。
  地域医療の現状を憂いてばかりいないで、やり通す信念が大事なのだ。地域医療にとって語りかけ続けるべきリンゴとは何なのか?(山本和利)

札幌医大2年生からインタービューを受ける

6月2日、札幌医大2年生4名(特別推薦枠の医学部学生2名、理学学科1名、看護学科1名)が当教室を訪れた。特色GP地域医療合同セミナーIIの授業の一貫として、地域医療・総合診療に関するインタービューを受けた。
総合診療(患者・住民のニードに合わせて変容する)と専門診療(高度な医療への即戦力)の違いを説明し、地域医療を崩壊させないためには「個々の医師が2割の時間を公共のために提供する覚悟としっかりとした国策(総合医の比率を増やす等)」が重要であることを強調した。話がつい脱線してしまうのだが、かえってそれが学生さんの興味を引くようだ。予定の30分はあっという間に過ぎて、2時間弱かかってしまった。
どの学生さんももっと勉強しようと思ったという感想を残してくれた。学生さんのモチベーションを上げることはできたことは、インタービューを受けた側としては合格ということであろうか。真剣に話を聴いてくれる学生と出会って、私の方が元気をもらったようだ。さあ、頑張ろう!(山本和利)

2010年6月2日水曜日

日本プライマリ・ケア連合学会理事会

5月30日、東京の医師会館で開催されたプライマリ・ケア連合学会理事会に参加した。専門医・認定医試験の日程は9月19日、20日に東京医療センターで行うことになった。受験の意思表示は6月10日、書類提出は6月30日が締め切り。
 総会は第1回学術大会場において6月26日11:00-11:50に開催。理事会は年3回予定。新規の各委員会(広報・学会誌編集、生涯教育、認定制度、地域ケアネットワーク、倫理、研究支援、国際関係、渉外、学会名称検討、選挙制度検討)の担当副理事長、委員長、副委員長に関する理事長案発表があったが、広報と学会誌は分離することになった。HPは広報委員会で。年度計画とその予算化が必要。日本医学会加盟、WONCA加盟に向けて活動する。平成22年度の予算案を検討。平成23年度の学術集会開催地は札幌で、草場先生が会長に決まった。平成24年度の学術集会開催地は福岡を予定。会費納入の医師会員4,400名、薬剤師300名。ロゴマークの公募が提案された。
旧母体となる学会でなされてきた活動をいかに維持・発展させるかについて活発な意見交換がなされた。(山本和利)