札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2009年12月24日木曜日

何かを失くすこと

 

ある日の夕刻、携帯電話を落とした。その日の朝も、教室内に置き忘れていたのに家に電話して探してもらったり、自分の部屋をあちこち探したりと大騒ぎをしたばかりである。日中いくつかの会議に出席し、飛行機に間に合うために慌ててタクシーで駅に向かった。タクシーを降りてポケットを探ってはじめて紛失に気付いた。実は札幌に赴任直後、財布を三度落としている。映画館、列車内であったが不思議と誰かが届けてくれた。とはいえその後、妻のアイデアで小さな肩掛バッグを購入してからは、財布を落とすことがなくなった。しかしながら携帯電話はそのバッグに入れないでズボンのポケットに入れて持ち歩いているためか、よく落とす。今回は結局、タクシー会社が届けてくれた。出張先に見つかったと連絡が届くまでの間、大変不安であったし、電話をかけてくともすぐかけられず不便この上なかった。

 何かを失くしてはじめてそのことの大切さ・便利さに気付くことがある。ソケイヘルニアになってはじめて普通に歩けることの大切さを知った。

 大学病院は研修医が来なくなってその大切さを知った。地域は医師が来なくなってその大切さを知った。いつも傍にあるとその大切さに気付かない。健康に気遣った夕食を家族のために作ってくれる妻。大学での診療や教室の運営に陰で支えてくれる教室員や秘書。

何かを失う前に、その大切さを思いやる感性を磨かなければならない。落し物をした日の出張先でそんなことを考えた。

(山本和利)

 

2009年12月21日月曜日

研究取材:弓削メディカルクリニック

研究取材の第3弾である。

今回の取材地は滋賀県にある弓削メディカルクリニック。香ばしいうなぎの匂いがあちらこちらでする浜松を朝7時に出発する。新幹線を使って米原経由で近江八幡駅へ。

各駅停車の電車の窓に映る瓦屋根や寺社仏閣が懐かしい。9時、弓削メディカルクリニックに到着。元産婦人科病院という2階建ての施設である。ナース兼ケアマネージャー兼経営者の雨森先生の奥様に施設を案内していただく。一階が診療室で、2階が会議室と研修医等の短期住居として利用されている。現在常勤医師が4名で、外来診療、在宅ケアを中心に活動しているが、来年度の医師確保が課題のようだ。その後、雨森先生の予約外来を見学する。関西弁の挨拶で始まり和やかに診療が進んでゆく。電子カルテをフル活動させている。時系列にして印刷した検査データを患者さんに手渡しながらユーモアをまじえて説明してゆく。この電子カルテへのアクセスは顔面認証だそうだ。繁忙時診療終了後に使用するディクテーション入力であるが、電子カルテに先生が言ったと通りに音声を吹き込むことで正しい漢字に変換されてスラスラと入力にされてゆく。大学よりも開業医の先生方のほうがはるかに医療の電子化にすばやく対応している。

研修医の先生にインタービュ。臓器専門医志望である2年目研修医。診療所の実態が把握できるし、医師の紹介状の利用の仕方、家族背景や住宅状況の把握など、大学病院では経験できないことをたくさん学んだと、2週間という短期間であっても好評であったようだ。その後、その日勤務の医師の方々と雑談をしながら昼食をいただく。雨森先生に近江八幡駅まで送っていただき、新大阪経由で曇天に変わった関西空港から雪降る札幌へ戻った。

(山本和利)

 

2009年12月16日水曜日

研究取材:亀田ファミリークリニック館山


 

「地域医療現場で研修医は何を学ぶか」という研究取材の第2弾である。

今回の取材地は千葉県南部の亀田ファミリークリニック館山。宿泊地館山へは、東京駅前から夜間のハイウェーバスで入った。乗客は2席を1名で座り、言葉少なく眠っている者が多い。イルミネーションの中を走り、夜の東京湾を越えての道のりは思ったよりも短かった。井上陽水の「あー、夜のバスが・・・」というメロディが突然浮かんできた。館山駅前の予約したホテルは素泊まりであり、部屋は広いが薄暗くランケーブルが設置されていないのが辛い。と思っていたら出発直前にランケーブルが設置されていることを発見。

朝、8時半にタクシーで亀田ファミリークリニック館山へ。海辺の県道脇に大きな看板が目立つ巨大な建物に到着する。早速、医師、訪問看護師、ケアマネージャー、訪問PT,OT総勢20数名で行う朝の申し送りに、見学希望の初期研修医1名と一緒に参加させてもらう。電子カルテを見ながらの報告が各部署からなされてゆく。皆さん私服なのでどの人がどの職種なのか区別がつかない。医師の内訳は指導医5名、研修医11名で運営されているそうだ。たくさんの医師がいて羨ましく思えるが、家庭医プログラムが全国にできるようになり、ここでも医師、研修医の確保が簡単ではなくなってきているらしい。

岡田院長に院内を案内していただく。この施設は、クリニック、訪問看護ステーション、リハビリ室、歯科、透析室の5つの部署で構成されている。もともとはスーパーマーケットであったものを医療施設に改築し、門前薬局もマクドナルドのドライブスルーであったのだと。広々としたスペースの中で、外来診療、リハビリや透析が行われている。それでもまだ利用されていないスペースがかなりあり、将来の拡張用にリザーブしてあるのだそうだ。最近ではスポーツ医学の外来を週2回はじめ、リハビリ、透析、妊婦健診に加え、ユニークな活動の一つとなって定着しつつある。

シニアレジデントの診察を脇で見学させていただいたが、一人15分の予約患者さんに対して丁寧な診察をしていた。高齢者へのインフルエンザの予防接種の勧めや転倒を懸念して家族に防止策を提案するなど、家庭医らしさを感じる診察風景であった。診察室には同伴者のための座り心地のよさそうなソファが設置されていたのが印象的であった。

午前の診療終了後、後期研修医の方にインタービュをした(この夏の家庭医専門医試験で私が模擬患者役となったブースで受験した医師が2名もいて、そのせいもあってか様々な便宜を図っていただいた)。地域医療の現場で感じた良い点を挙げていただいた後、家庭医を増やすにはどうしたらよいか、医師を確保できない地域をどのようにしたら充実させることができるかについて訊いてみた。この話題になると俄然議論が盛り上がってきた。私の持論である「医師として20%の時間を公共のために」という意見は概ね賛同が得られたように思えたが、方法論については様々な意見がでた。

帰りの時間となったため後ろ髪を引かれながら東京経由で、次の宿泊地浜松へ向った。

(山本和利)

 

2009年12月8日火曜日

研究取材:奈義ファミリークリニック


 

突然、思いもよらぬ研究費が入り「地域医療現場で研修医は何を学ぶか」という研究を立ち上げ、各地を取材することにした。

今回の取材地は1泊2日の予定で岡山県北部の奈義ファミリークリニックである。札幌から宿泊地の津山まで、東京経由で岡山空港、そしてJRと乗り継いで7時間かかった。岡山の土地勘がないため、以外に岡山から津山までの距離を遠く感じる。

朝、7時半に松下明先生にホテルまで迎えに来ていただき、車で30分の道のりを行く。途中、日本原病院・おとなの学校という関連施設を見学。先生はオープン病棟に入院している終末期の女性患者を見舞っていた。奈義ファミリークリニックに到着し、写真撮影。以前観たビデオに収められた施設のイメージとは若干印象が異なった。もっと広大な敷地にあるのかと思いこんでいた。朝の申し送りに参加させてもらう。指導医4名、研修医7名で運営している。見学した月曜日は5つの診察室が開いていた。うらやましい限りのマンパワーである。

松下先生の外来を見学。電子カルテに家族図が描けるのに感激した。電子カルテになるとコンピュータ画面を医師と患者が90度の角度でお互いに見つめながら面談する様式になるようだ。必要に応じて壁にかかっている耳鏡、眼底鏡を駆使して診療する。皮膚の脂漏性湿疹を癌ではないかと心配する男性患者には、デジカメで必要な写真を撮って、すぐにコンピュータに登録して所見を入力していた。基礎疾患があり肩関節痛を訴える60歳代女性。肩関節注射で劇的に改善した。その後、インフルエンザ予防接種を勧める。いかにも家庭医らしい診療である。検診の結果の相談をしたり、町の補助を受けられる肺炎球菌ワクチンを勧めたりしている。後頭部痛の検査を依頼したところMRAで脳動脈瘤が見つかってしまった70代の女性。帰り際に、くも膜下出血を起こしてしまった時の延命に関する事前指示をそれとなく伝えている。先生に対する親愛を込めた眼差しを感じる。

研修医の先生の外来も見学しようとしたが、癌疑いで経過観察していた患者さんへの癌告知であったため遠慮した。告知までの経過観察時間が少し長かったと研修医は反省していることが後のインタービュでわかった。この記録を入力しているとき、研修医の先生が私の翻訳した「患者中心の医療」を持参してサインを求められた。正直うれしかった。研修医2名にインタービュ。地域医療の現場で感じた良い点をたくさんの挙げていただいた。あえて問題点を探ると、職場から自宅が遠いこと、皆バラバラの診療所で働いている、皆それぞれの自宅同士が遠い、夜遅く終わるが皆家庭もある、などで一緒にお酒が飲めないとのこと。人数が多いため、4施設に関わっており一人で継続的の一人の患者さんに関わりにくいと聞いて、医師数が多いことの問題点を認識できた。

うどん屋で特上天ぷらうどんを奢ってもらい、長い帰路に就いた。

(山本和利)

 

2009年12月7日月曜日

「北海道・家庭医療フォーラム2009」やりました!

 ちょっと報告が遅くなりましたが、先月末11月28日(土)に北海道の家庭医療後期研修プログラムを運営する7つの組織共催で「北海道・家庭医療フォーラム 2009」を行いました。
 今年は北海道で運営されている各研修プログラムの先生達それぞれから講義や
ワークショップを行ってもらうことにしたのですが、医学生・研修医だけで約30名
を集めて行うことができました。(講師やスタッフを合わせると最終的に50名くら
いの大きな会になりました。)

 札医大の学生の中には、直前に行ったアナウンスを聞いた学生が結構来てくれたので、もう少し前からもっと宣伝しておけばよかったかな、と少し反省。
 数年前我々が行ったキャリアチョイスのアンケート調査では、道内医学生各学年
の約1割に「ジェネラリスト志向」の学生が存在するようだ、との結果でした。1割
というと非常に微々たる数と思われがちですが、実は各学年10名×6学年×道内3大学=180名もの学生が(北海道内だけで)将来のキャリアとして家庭医を考えてくれているかもしれない、というわけで、こういった会を行うことは非常に重要ではないかと考えている次第です。
 そういった意味で、今回北海道家庭医療学センターの草場先生が説明してくれた
家庭医の意義から具体的なキャリア、そして将来のビジョンに至るまでの話は、学
生・研修医達に非常に分かりやすいものだったと思います。(草場先生、さすがで
す!)あとはどのようなことをしているのか実際を見てもらうことができれば、相
当説得力があるだろうなぁと思います。

 懇親会でもいろいろな先生とお話しする機会を作ることができよかったです。
 このような機会を通して道内の各家庭医研修プログラム間の交流が広がり、お互
いより発展していって欲しい、と思っています。

詳しくはこちらにも:http://www.hokkaido-primarycare.jp/news/news.html

もりさき