札幌医科大学 地域医療総合医学講座

自分の写真
地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2014年3月17日月曜日

プロフェッショナリスムについて



314日、医学概論Vのプロフェッショナリスムの講義・WSを山本和利が行った。

3原則は

・患者の福利を第一に考える

・患者の自律性(patient autonomy)を尊重する

・社会正義(social justice)を推進する

 

「医師の特権」には「社会への責任」が伴うことを肝に銘ずること。

 

10班に分かれて、以下のテーマについてグループ討議をしてもらった。

  1. ステロイド筋注を要求して受診したアレルギー性鼻炎,喘息の患者
  2. 関連病院への転院を勧めても拒否する嚥下性肺炎治癒後患者.
  3. 製薬会社の勉強会に強制的に出席を求められる某教室
  4. 再三ミスを犯し続ける同僚
  5. 医療崩壊しても全く動かない行政.

 

休憩後、後半は医療について。

鎌田實氏の『雪とパイナップル』、映画『ディア・ドクター』を紹介し、SEAの導入とした。SEA(Significant Event Analysis)とは、現実の事例の中で特に重大であると発表者が 感じた点について掘り下げていく方法である。経験を振り返って成長していく人がプロフェッショナルとドナルド・A・ショーンの理論に基づいている。

1.Reflection in action(行為の中の省察)

2.事態が終了したあとに振り返るReflection on action(行為に基づく省察)

3.この振り返りから新たな自分のまとめ

Reflection for action(行為のための省察)

の三段階からなる。

 

  1. 10分でSEAシートに記載する。
    2.一人ずつイベントの描写の部分のみを発表する。
    3.みんなのイベントを聞いて、今回話し合いう。 
         したい事例の人を一斉に指さして下さい

  1. 一番多く指をさされた人の事例を発表のSEAとする。
    5. 司会は司会役が行う。
     
    30分ほどこの作業を行い、各グループから1名が発表を行った。
     
    5年生の臨床実習のまとめの際用いるので、よく修得してほしい。(山本和利)

医師のプロフェッショナリスム


 
317日、札幌医大の4年生を対象に医学概論Vのプロフェッショナリスムの講義・WSが始まった。東京医療センターの尾藤誠司氏に導入として3時間の講義・WSをしていただいた。
まず、ご自分の経歴を披露。東京医療センターの総合内科はベッドが140床であり、マッチング率は全国でもトップとのこと。初期研修医60名(全寮制)。
 
さあ、10班に分かれて、グループ討議が開始された。以下にその内容を示そう。
WS1.「プロフェッショナルと聞いて思い浮かぶイメージは?」「人は?」「どんなところが?」
学生の回答例:イチロー、他、理由はひとつのことに没頭できる、突き詰めている、から。
 
次は「社会から信頼を必要とされる仕事」という視点から考えるという課題である。
WS2.「そのような職種にどんなものがあるか?」「共通する特徴は?」
学生の回答例:公務員、消防士、警察官、弁護士、政治家、教師。ルールに基づいて誰かのために働く。命に関わる、助ける。公の人のために働く。
「プロフェッショナルに必要な要件」
まとめると、技術と意識。特別な権利と特別な義務が伴う職種である。
 
WS3.「医師」「ソムリエ」「お笑い芸人」でどこが違うか?
学生の回答例:・・・。医師はリスクを扱う。医師になるのは大変だが、生き残りやすい(国家資格)。医師には「特権と責任」が伴う。医師は人を傷つける道具を使いながら、人を助ける職業である。医師集団に自浄作用が必要である。お笑い芸人はなるのは簡単だが、生き残るのは大変。
 
休憩後、後半は医療について。
WS4.「こんな医師にはかかりたくない」という質問
学生の回答例:話を聴いてくれない、怒る医師、不都合を隠蔽する医師。技術のない医師。勉強していない下手くそな医師、口の悪い(言葉に無頓着な)医師、患者の訴えを聞かない医師、病院のための金儲け主義の医師、等。
 
WS5.「こんな医師にかかりたい」
学生の回答例:技術が優れた医師。やさしい医師。誠意のある態度をとる医師。
 
ここで「ワンピース」の一場面(弟子が師匠に必死で探してきた薬が毒であったが、師匠はそれを承知で内服して死んでしまう)を引用。Dr.クレハの「医師は優しいだけではつとまらない」。(医師に必要な4本柱は、「技術的卓越」、「人間性」、「説明責任」、「利他性」である。医師としての10の責務とは何か?かいつまんで話すと「医師の努力義務」と「患者の利益追求」である。
 
患者とどう向き合うか?
「パターナリズム(保護者)」から「説明責任(専門技術者)」へ移行している。パターナリズムの例として「赤ひげ」という映画を紹介。患者のためになりたいという親心を赤ひげはパターナリズムで行っている。パターナリズムは、親心と思って自分の価値を押しつける。それに対する不満が高まったため、パターナリズムは減ったが、一方で、医療者が自分の専門性に基づいた意見を述べなくなり、プロフェッショナリズムの低下を招いている。
 
WS6「医学的に正しいことと、患者にとってよいことは、同一であるか」
首輪を外すか外さないかで悩む「首長族の娘」の話。家族・社会が正しいのか、本人が正しいのか。
「正義の味方」と「悪」の特徴を列挙。正義の味方ほど、一人で確信に満ちた信念で頑なに闘おうとする。「自分の守ろうとする人にとって最良は何か」が大切。医療者は専門家でなければならない。一方で患者にとっては素人なので、患者に教えてもらう(無知の姿勢)ことが大切。
 
最後に「もはヒポ」プロジェクトを紹介。(“もはやヒポクラテスではいられない”21世紀 新医師宣言プロジェクト)正義を背負っている自分に疑問を抱いて、企画したそうだ。総選挙で決定した「私の新医師宣言」を紹介した。
 
最後に学生へのメッセージ:患者を支配しようとする自分から脱却しよう。「助ける」ことと共に「助けられる」ことが重要である。
 
臨床実習にいってよい医師にであったら、どこに感動したか1日考えて、その医師に質問してみる。駄目な医師にであったら、どこに失望したか1日考えて、その医師に質問してみる。
 
学生の意見を引き出しながらの授業で、学生はいつの間にか講義に引きこまれて、プロフェッショナリスムについて真剣に考える3時間であった。(山本和利)

膵β細胞ブドウ糖毒性を軽減させるための糖尿病治療


32日、札幌で川崎医科大学金藤秀明先生の講演を拝聴した。
 
その前に道内の医師から臨床経験からの話。
インスリン注射の間違え
1.インスリンを同じ場所に打つ。
2.針をすぐ抜いてします。
3.混濁を均等にしない。
ペンタイプは徐々に使いやすくなってきている。
デグルテクは42時間持続。8時間ずれてもOK.
インスリン自己注射ができない患者に、週1回使用。HbA1Cが低下。
切り替えに問題はない。
 
インスリン強化療法。
注射回数が多い。厳格にコントロールを目指すと低血糖の危険が増す。
人によってインスリン基礎分泌パターンが異なる。
デグルテクでは60mg/dlの低血糖が低下する。日内血糖値の幅が小さくなる。
 
CGMの検討で。Hba1c<7%の患者の40%に夜間無自覚性低血糖が認められた。
血糖変動が大きいと動脈硬化指標が増す傾向がある。狭心症、眼底出血につながる。
デグルテクは、夜間低血糖がなくなり、平均化する。日中の食後血糖値が上昇することがある。
日中食後尿糖(+)の患者には無自覚性低血糖が隠れている可能性がある。
 
 糖尿病糖毒性の分子メカニズム
過食、肥満→「脂肪毒性」(炎症性サイトカイン、FFA)→インスリン抵抗性、分泌低下。
β細胞の機能低下。
 
β細胞数の低下、インスリン分泌低下。酸化ストレスが関連している。転写因子MafAPDX-1の発現が低下する。C-Junの発現が誘発される。
 
インクレチンの役割
GLP-1応答性インスリン分泌が低下している。GLP1受容体の低下。
 
 β細胞の保護を考えた治療方略
インクレチンはK細胞(上部小腸)、L細胞(下部小腸)から分泌されている。
 
インスリン短期間治療後には、インクレチン関連薬剤で85%がHbA1c<7.5%以下を達成できる。
早期インスリン導入が有効。β細胞機能が保持される。長期間にわたって糖尿病の再発が少ない。グルコース応答性インスリン分泌が保持される。MafAの発現が上昇。
糖毒性がかかっているときには、インスリンを早期に使用することが効果的。GLP1受容体アゴニスト、DPPIV阻害薬で経過観察しやすい。
 
インスリンの早期導入を強調された。
(山本和利)

シネメディスン



35日午後、NBMの授業の一環として映画を用いた教育を試みた。
 
はじめに「医師のナラティブ」について講義をした。医学生・医師のストレスについて、疫学調査を紹介。研修を開始後、1/3がうつ状態になる。医師の感情労働として、一般診療、救急、看取り、判断・治療ミスなどを取り上げた。先輩たちに臨床実習中に感じた思いを「医療の理想と現実」「医師と患者の考え方のギャップ」「自分の生の感情と医師の役割」に分類して紹介。バーンアウトしないためにも、うまくナラティブを活かすことを説いた。患者と医師との相互作用で生まれるナラティブを同僚と話し合うこと等。
 
その後、シネメディスンの紹介をし、映画批評の概説を述べた。
「ドクター」というウイリアム・ハート主演映画の開始から終了まで123分間分を観てもらった。あらすじは、「恵まれた家庭と高い名声を誇る心臓外科医が、突然癌宣告を受けることで一転、一人の無力な患者になる。患者になってはじめて気づく自分の勤務する病院システムの事務的で冷たい接遇や医師の態度。家族と築けない良好な関係。そんな状況の中で、末期癌患者と出会い、新たな人生の模索を始める・・・」。
 
映画を観て感じたことをレポートして貰った。重篤な病気に罹患しないと態度が変わらない医師のあり方や違和感のある病名告知のあり方等、たくさんの指摘があった。全般的には医師のあり方について学ぶことができて有益であったという意見が大半を占めた。患者体験をしないと本当に患者の気持ちがわからないのか、という点にまで言及する者はなく、その点にまで踏み込んでほしいと感じた。
 
CBTやOSCE合格に追われる学生にとって学びとリフレッシュをもたらす授業であったと思いたい。(山本和利)

患者の病の語り もう一つのカルテ




 

34日、NBMの授業の一環として患者さんから患者体験を語っていただいた。導入・司会役は月寒ファミリークリニックの寺田豊医師。

 

学習目標は、1)患者医師関係についての基本を理解する、2)患者心理を理解し患者中心の医療を展開する、である。

 

「患者さんの声を医療に生かす」という本を紹介。臨床では聞こえない声がある。耳を傾けてみよう。

 

患者さん(patient:苦しみに耐えている人)からでしか学べないことがある。

説明一つで天国にも地獄にもなる。

患者の声を医療に活かす(患者の声が果たす役割)。

  • 医療の現実を知る
  • 病気に関わる社会、制度などの問題
  • 教科書にはない患者さんの生活、病気への思い
  • 物語として医療、疾患を見直す
    「患者中心の医療」という本を紹介。
    疾患と病いの違い。病いの意味は?
     
    患者会のいうものを紹介。

  • 当事者の会;がんの患者会、COML
  • 家族の会;がんの子供を守る会
  • 集団療法としての会;AA、断酒会、くろぱんの会(慢性疼痛)、レタスの会(拒食症) 等。
    「患者会の、3つの役割」は、 1)病気を科学的にとらえること、 2)病気と闘う気概をもつこと 、3)病気を克服する条件をつくりだすこと、である。
     
    患者会には、「セルフ・ヘルプ・グループ」としての役割 もある。

  • 病気の悩みを共有したい
  • 同じ障害を持つ人と話をしたい
  • 自分の経験を役に立てたい
     
    セルフ・ヘルプ・グループの役割は、a) 問題の解決や軽減、 b) 問題とのつきあい方を学ぶ 、c) 安心していられる場所、環境を作る 、d) 情報交換 、e) 社会に対して働きかけをする 、等がある。
     
    自助
    拍手をやめない。形から入る。履物をそろえると心もそろえられる。患者さんの肘を持って歩くイメージ。
    自助の反対語は孤立である。
     
    もう一つのカルテ。患者さんへの思い。パラレル・チャートという。研修医時代のパラレル・チャートを紹介。患者と自己の物語をじっくりと振り返り、意味づけし、解釈し、再構築作業である。そして、自己の気づきを深める。
    病室にある
     
    「北海道 脊柱靭帯骨化症 友の会」から講師をお迎えして講演を拝聴した。
    最初の患者さんの話は「私とOPLL」。職業、病歴を紹介。49歳でMRIにより診断された。脊髄圧迫症状が急速に悪化し、ペンギンのような歩き方になった。茶碗を持てない。同時に父親の介護。誰に手術してもらうか?進行を止めることしかできなかった、最近治療法がいくつか発表されてきた。手術から6年たって、この病気と仲良く付き合っていくしかない。今、B型肝炎訴訟も戦っている・・・・
     
    2番目の患者さん。・・・洗濯物を右手だけで干す。髪を右手だけで洗う。手術のために生活の調整が必要であった。術後も症状が残る。(割愛)・・・歩行困難が出現。黄色靭帯骨化症と診断、手術。お金がかかった・・・麻酔科の薬の効果に感激。
     
    わかってほしいこと。見た目に障害がわかりにくい。やりたいのにできないことがたくさんある。
    受け入れる。できないことはあるけれど、すべてできないわけではない。    
     
    二人からのメッセージ
    「いつも患者のそばにいて、患者と共に病に向かい合い、患者が病と折り合いが付けれるように支える人でいてほしい」
     
    2限目。
    ナラティブって何? 患者の「語り」を通じて、患者の「思い」にアプローチしようとするのがNBMの実践法。
    語られざる物語を聞き取る。寄り添いながら聞き続ける態度が重要である。
    「なぜ」という問いかけが重要。人の心がわかる力が必要。相互変容してゆく覚悟が必要。
    医療に与えられている大きな特徴
    ・患者の人生の内奥への接近を許されている
    ・患者の物語がケアの一部になる。
    ・患者の経験にみみを傾ける経験によって、医療者は、そのケースに積極的に関心を持ち続けることになる。
     
    患者の語りと医師の語り
    ・説明モデルとは、「患者が思っている」と医師が思うことの一つの解釈であり、患者の実際の言葉を直接描写したものではない。
     
    読むこと、書くこと、省察することことを通じて、医療者は患者の病の物語の誠実な力強い読者となって、患者の苦境を意味のあるものにする。
     
    アンテナ感覚
     
    Illness is a foreign country.
    ・多くの患者はガイド、通訳を必要とする。
     
    学生には本日の講演についてタイトルをつけて、ライフストーリーとして書きとってレポート提出してもらった。(山本和利)