札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年9月30日日曜日

指導医講習会


92930日、第8NPO北海道プライマリケアネットワーク指導医講習会にチーフタスクフォースとして参加した。当日、会場である札幌医大で早朝から打ち合わせ。受講者は20名。

まず山本和利の挨拶、タスクフォース紹介後、山本和利のリードで「アイスブレイキング」。偏愛マップを使って、雰囲気を和らげた。好きな項目には子育て、旅行、サッカー観戦、などが挙がっていた。

続いて尾形和泰氏の主導で「カリキュラム・プランニング」を90分。教育のタキソノミー、一般目標(GIO)、行動目標(SBOs)の説明。RUMBA(real, understandable, measurable, behavioral, achievable)を強調した。その後、具体的な目標を自分の部署について作成してもらった。学習方略、学習環境について言及(人的資源、物的資源、時間、場所の使い方)。ここで、各グループで作ってもらった教育目標をどのように実践するについて方略を考えてもらった。続いて評価の仕方(形成的評価、包括的評価)を紹介。評価しようとするタキソノミーと評価方法を紹介した。最後に厚生労働省のHPを開いてもらい、国の医療教育政策についてコメントを加えた。

続いて、日下勝博氏の主導で「効果的なフィードバック」のセッション。自己分析能力の高い研修医、生真面目だが気づきの少ない研修医、能力以上に自己評価が高い研修医という3シナリオを用いたロールプレイを行った。3人一組でのロールプレイは研修医役、指導医役、評価者役をそれぞれ1回ずつ(緊張しやすく技術が未熟な研修医、当直明けで眠気を堪えて外来研修を受ける研修医、問題をあちこちで起こすのに自信満々の研修医の3シナリオ)。役柄になり切っての白熱した演技をする参加者が多かった。

 昼食前に全員で記念撮影。

昼食後、臺野巧氏の主導での「実践的研修評価」は、3シナリオを準備していずれか1つのシナリオに沿ってロールプレイを行った。最初に初期研修医評価のための指導医会議(指導医、看護師長、看護主任、ソーシャルワーカー、等)を模擬体験した。患者ケア、医学知識、症例に基づいた学習とそれに伴う向上、コミュニケーション技術、プロフェッショナリズム、システムに応じた医療、の6項目について評価をしてもらった。

昼食後、札幌医大松浦武志助教の主導で「EBMの実践」セッションを90分で行った。参加者の事前アンケートによると、二次資料を用いて指導している者が少なかった。そこで、今回は二次資料であるUpToDateDynaMedの使い方に重点をおいて実習が行われた。英語を読むのが不得意な参加者も少なくないので、英語を日本語に翻訳して学習するアプローチを具体的に伝授した(google chromeをインストールし、英辞郎を組み込む作業)。その後、肺炎球菌ワクチンをすべきかどうかを、PICOを作ってもらって、グループ毎でUpToDateDynaMedにアクセスして評価してもらった。「無症候性高尿酸血症の患者にどうすべきか」「娘がインフルエンザにかかった成人男性にタミフル・イナビルを処方するか」という課題が出された。

続いて、寺田豊氏の主導で「SEAを用いたプロフェッショナリズム教育」セッションを行った。なぜプロフェッショナリズムなのか、を解説。「新千年紀のプロフェッショナル憲章」を紹介。モヤモヤ領域をどう教育するか。今回は新たにバリントグループを実践してもらった。正解はない。背中を見せながら振り返ることの重要性を強調。行為中に省察し(独自で)、事後に省察し(チームや同僚で)、未来につなげる(reflection in actionon actionfor action)。事例をSEA形式にして提示。その後、各自にSEAを書いてもらった。感情面に焦点を当てる。各グループの中で興味深い例を一つ選び、それについて討議した。

続いて、場所を変えて「北海道における地域医療の現状と道の取り組みについて」と題したセッションで北海道庁の杉澤孝久参事が講演された。質疑応答後、情報交換会となり、第一日の日程を終了した。

第二日目は、稲熊良仁助教の主導で「5マイクロスキルの実践」セッション。一番の問題は、研修医が考えて答える前に、指導医が答えを言ってしまうことである。今回お勧めのマイクロスキルは5段階を踏む(考えを述べさせる、根拠を述べさせる、一般論のミニ講義、できたことを褒める、間違えを正す)。外来患者シナリオ3つを用いて2人一組になってロールプレイ(シナリオの読み上げ)を行った。最後は、自分たちでシナリオを作成してもらい、各グループの自信作を発表してもらった。

最後は寺田豊氏の主導で「ティーチング・パールを共有しよう」のWS。参加者各自が得意ネタで10分間講義を白板で行い、そのやり方へのフィードバックをしてもらった。慢性下痢、排尿障害、安全なCV挿入法、重症患者の栄養、甲状腺機能亢進症、加齢黄斑変性症、小児の血管確保法、脳卒中、心停止のアルゴリスム、エコーによる気胸診断、副腎腫瘍、下肢静脈瘤の診断と治療、ヘリコバクター・ピロリ菌、透析用シャント、吐血患者のpitfall、急性大動脈解離、チーム医療、川崎病、子宮外妊娠、酸素化について等のテーマで行われた。最後に研修医のプレゼンテーションについてのミニレクチャーを行った。ライムモデル、SNAPPS法、GRIPEモデル、江別式プレゼンテーションを紹介。

 
最後に総括として、参加者全員の感想をもらい、受講者に終了証を手渡して解散となった。

 今回も参加者からの評判は上々であった。次回は教育技法を盛り込みながら、地域医療教育がうまくできるような工夫をしてゆきたいと考えている。(山本和利)

 

2012年9月28日金曜日

江別市立病院の総合内科カンファランス

928日、藤田保健衛生大学の植西憲達先生を迎えて行われた総合内科カンファランスに参加した。参加者20名。

症例検討として、『数か月前から起こった呼吸困難・浮腫を主訴に救急外来を受診した80歳台女性』を提示。両下肢の浮腫、呼吸苦、尿量の減少、右眼の腫れ、があった。

ここで植西先生が浮腫の病態を挙げた。

                全身性                    局所性

・静水圧上昇    心不全、腎不全

・浸透圧低下    アルブミン低下

Permiability亢進  敗血症、血管拡張剤    angioedema, 炎症

カルシウム拮抗薬、NSAID,ステロイド、漢方薬(甘草)も原因となること、鑑別に心膜炎を忘れないこと。High output failure(貧血、甲状腺機能亢進症、脚気)も。

高齢者の原因は複数のこともある。甲状腺機能亢進症が原因であれば、心房細動で発症することが多い。

呼吸数、呼吸の大きさ、貧血、頚静脈、甲状腺、肺音、腹水、末梢血管拡張(肝臓疾患の感度が高い)を知りたい。

身体所見:BP;112/72mmHg, HR;95/m, Sp2;95%, RR:22/m, BT;36.8℃、JVP;不明、no goiter, lung: clear, heart; no murmur、下肢にSlow-pitting edema(+)、非常に背中が曲がっている(右眼の浮腫の原因:右下で寝るから)、(逆流性食道炎を起こしやすい)

ここまでで可能性があることは

「胸郭変形」と「薬剤」である。

検査(抜粋)

Hb:8.8, TP:6.1, Alb:2.6, ALP;761, AST;38, ALT:24, LDH;424,K:3.2, CRP:3.0HbA1c:5.6CPK:264, CK-MB;18, toroponin I;0.05low T3 stateHBeAb(+), HBAg(-)

pH;7.49, pC2;33.2, p2;75.2

ECG;PVC(+),AMI所見なし(Kが低いので補正すべき)

貧血の検索が必要である。アルブミンが低い。

胸部XP;胸骨骨折が疑われる所見あり。(骨粗鬆症の可能性があるが、転移がないか?)

CT:肋骨骨折がある。胸椎圧迫骨折、心拡大、心のう水(+)、胸水少量。肝硬変所見あり。

植西先生が挙げた問題点と対策

#1 dyspnea, edema

・薬剤の中止、SpO2モニター

・利尿剤投与は全身状態をよくしてからでよい。

#2 Anemia

・フェリチン、ビタミンB12eGFR,便潜血→消化管内視鏡

#3 Fructure, Thoracic deformity

・治療

・ビタミンD

<経過>

・利尿剤で改善

・内視鏡で蠕動障害あり、アカラジアを疑う所見というコメントが返ってきた。抗セントメレア抗体が陽性であった。皮膚粘膜所見なく皮膚筋炎は皮膚科で否定された。

・骨折の手術後、食事のつかえ感は軽快し、アルブミンも上昇し、浮腫も軽快し、4ヶ月後退院となった。

<総合評価>

・骨折の影響が大きいと思うが、複数の要素が影響したと考えたい(Hiccum’s dictum)。

・高齢者ではよく遭遇する。

 

<寄り道談話>

□その1:少量の酸素投与でSpO2が改善する場合、CO2が溜まっていることが多い。一回換気量が小さいから1Lの酸素でも影響が大きくなるから。

PaO2, FO2は平均気道内圧が関係PaCO2は分時換気量が関係。

□その2;ALP上昇+normalγGPTの原因

・骨(骨折、骨軟化症)

・肝臓疾患(膿瘍)

PBC(γGPTも上がる)

□その3多発性骨髄腫の4つのno

脾腫(-),骨シンチ(-), ALP 上昇(-),fever(-)

□その4:IVCが相関するもの

CVP

・右房圧

・ただしJVPとは相関しない。

□その5:低酸素では肺血管は縮む。

□その6:梅干し1ケに塩分2g。

□その7:Limited screloderm

Calcinosis

Raynaud

Esophageal deformity

Sclerodactylia

Telangiectagia

□その8:Scleroderma GI

・腸の蠕動低下

・食道炎

・腸管毛細血管拡張

NOMI

奇をてらうことなく、自然な論調で話が進み、かつ病態生理を駆使した素晴らしいカンファランスであった。(山本和利)

2012年9月27日木曜日

兵庫医科大学講義


924,25日、兵庫医科大学医学部4年生を対象に、「医療と社会」「食の話」「貧困の話」「科学性と人間性」「腹痛患者のシナリオを提示し診断プロセス」という講義を行った。1コマ75分授業を2日間でまとめて5回行うスケジュールである。

 
導入はドキュメンタリ映画の一場面から入り、学生に問いかけた。その後、映画「ダーウィンの悪夢」を例にして、それぞれが最善を目指した結果、「ミクロ合理性の総和は、マクロ非合理性に帰結する。」「個々にとってよいことの総和は、全体にとって悲惨にある。」と結論づけ、地域医療にも当てはまるのではないか?と学生に問いを投げかけた。次に、「世界がもし100人の村だったら」(If the world were a village of 100 people)という本を紹介した。その後、1961年 に White KLによって行われた「 1ヶ月間における16歳以上の住民健康調査」を紹介した。日本も北米も大学で治療を受けるのは1000名中1名である。「医療とは」何かを知ってもらうため、ウィリアム・オスラーの言葉を引用した。「医療とはただの手仕事ではなくアートである。商売ではなく天職である。」医師は特定の技能をもつ者として権力から守られるという特権が与えられている。一方で公共に尽くすという使命があるということを強調した。

 
2コマ目、3コマ目の授業では、食料と貧困の話。アジア・アフリカ等の地域の物乞いの収入を増やすため手や足を切断する話や貧困の原因が政治の腐敗であるという話をした。食料の絡みから「狂牛病」の経緯を紹介。1985年4月、一頭の牛が異常行動を起こす。レンダリング(産物は肉骨粉)がオイルショックで工程の簡略化により発症を増やしたと考えられる。1990年代に英国で平均23.5歳という若年型症例が次々と報告。社会の経営論理を優先させた対応のしかたが、十数年後に医療に悲惨な影響をもたらした事例である。

 
4コマ目、「科学性と人間性」。オリバー・サックス『妻を帽子とまちがえた男』に収録されている、診察室では「失行症、失認症、知能に欠陥を持つ子供みたいなレベッカ」、しかし、庭で偶然みた姿は「チェーホフの桜の園にでてくる乙女・詩人」という内容を紹介した。次にAntonovskyの提唱する健康生成論(サルトジェネシス)を紹介。彼は健康の源に注目。健康維持にはコヒアレンス感が重要であることを述べた。また、医療分野を離れて、他の分野での科学的アプローチについても述べた。まず考古学の世界「神々の捏造」という本を紹介。次に農業の話。Rowan Jacobsen「ハチはなぜ大量死したのか(Fruitless Fall)」を紹介。2007年春までに北半球から四分の一のハチが消えた。何が原因か科学的に検証してゆくプロセスを科学性の例として取り上げた。人間的アプローチの例として、NMBの6Cアプローチを紹介した。

 
5コマ目は、腹痛患者のシナリオを提示し診断プロセスを解説した。鑑別診断の仕方に重点を置いた。ABアプローチ[Anatomy(解剖)Byoutai(病態)]を強調した。途中21組になって医療面接の実演をしてもらった。最後に米国の家庭医療学の本からとった16例のケーススタディを行った。

 両日ともに授業終了後、大きな拍手をもらった。テーマが普段の授業でなされている内容と異なるためか、「新鮮であった」「もっと世の中のことを知らなければならないと思った」等の感想がたくさん寄せられた。やってよかった!(山本和利)

 

 

2012年9月22日土曜日

金沢大学講義

920日、金沢大学で、4年生に「プライマリケアと家庭医療」の講義をした。

正規の講義では、自己紹介をした後、これまで関わってきた事例を交えながら、医療のパラダイム変化、家庭医療学の歴史 、家庭医療学の基本原理(総合医・専門医を巡る勘違い、受療行動、コミュニケーション技能/医師・患者関係、癒しのプロセス、患者中心の臨床技法、予防と健康増進、家族と病気)等を話した。

学生さんの感想として、「総合医・家庭医のことが理解できた」「家庭医のイメージがかわった」等、好意的なものが多かった。

 
終了後、総合診療部の研究室に場所を移した。(金沢大学は新しい外来棟や研究棟が新築され、内部の方の案内がないと目的地にたどり着けない迷路状態であった)。

正規の授業終了後、学生有志を募っての「医療に関わる食と貧困」という講義を行った。栄養士の方も参加していたが、栄養学からの食のあり方ではなく、食糧の確保や農薬使用・遺伝子食品の是非といった観点からの話であったので、新鮮であったようだ。(山本和利)

2012年9月19日水曜日

緩和ケアの基本(3)

919日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は勤医協中央病院の小林良裕先生である(3回シリーズの最終回)。テーマは「緩和ケアの基本」で,参加者は15名。

今回は、「疼痛以外のマネジメント」である。

症例検討3題。

60歳代女性。乳がんによる骨転移。やせが著しい。オキシコンチン40mg×2、ロキソニン180mg 3×を内服。腰椎転移が判明した。

1)疼痛緩和における薬物はどうするか?

・アセトアミノフェン4gまで使用できる。2400mg4を処方。

・ケタミン(唯一エビデンスがある)。50mg-200mgを持続静脈注入。

2)非薬物治療をどうするか?

・コルセット固定(ADLが制限される)

・放射線治療 30Grey:70%に奏功する。しかし、時間がかかる(すぐ効かない)。

3)呼吸困難感(呼吸不全はない)と画像の増悪に対して?

・モルヒネ:エビデンスはない。呼吸回数を減らす。痛みと同様に使用。吸入のエビデンスはない。

・抗不安薬(ジアゼパン):緊張緩和、呼吸数は低下する。

・コルチコステロイド

・酸素投与でよくなる患者さんもいる。

・鎮静が必要なこともある。

・呼吸困難感(自覚症状)と呼吸不全(SpO2の低下)を区別すること。延髄の呼吸中枢が関与。アセスメントをすること。

70歳代男性。悪性リンパ腫。化学療法+放射線療法。殿部痛。ビリビリしびれる。オキシコンチン40mg×2、ロキソニン180mg 3×を内服。

1)しびれを評価し、薬物はどうするか?

・神経性疼痛ではないか。坐骨神経由来のしびれであった。抗けいれん薬が効く。リリカ、ガバペンが第一選択である。リリカの方が切れがよい。よく効く。副作用は眠気と浮動性のめまい。リリカ25mg分1から始める。300mgまで増量可。

2)倦怠感の出現には?

・身体的異常を除外する。

・コルチコステロイド(リンデロン):一日1回内服でよい。朝内服(不眠の原因になるから夜は避ける)、Naを貯めないので、胸水・腹水があっても使いやすい。

・酢酸メドロキシプロゲステロン(ヒスロンH):600mg-1200mg/日。

・アンフェタミン(リタリン)は、今は使えない。

・心理療法、音楽療法、アロマテラピーなど。

60歳代男性。胃癌によるがん性腹膜炎。アセトアミノフェン2400mg、オキシコンチン10mg2、ノバミン3T3.じっとしていられない(アカシジア)。謳気、嘔吐が強い。

1)謳気、嘔吐を評価し、薬物はどうするか?

・オランザピン(ジプレキサ)が著功した(世界的に注目されている)。2,5mgで開始。半減期が長い。高血糖に注意。

・サンドスタチンが便利。3Aを持続皮下注入。

■便秘

・センノサイド、カマ。ラキソベロンは耐性がつきにくい。

■高Ca血症

・脱水の補正、ビフォスフォネート、ステロイド、エルシトニン

■せん妄

・原因の除去

・セレネース、リスパダール

■輸液

5001000ml/日に控える。

■鎮静

・鎮静水準(深い、浅い)と鎮静方法(持続と間欠)を組み合わせる。

・倦怠感と呼吸困難感が最期まで残ることが多い。

・ドルミカム10mg+生食100mlを点滴する。耐性が起こる。深い鎮静にはフェノバールの持続皮下注入を選択する。

今回は、二人1グループになって話し合いをし、意見を出し合った。事例を中心に話してもらったのでわかりやすく、即使える実践的な講義であった。(山本和利)

9月の三水会

919日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。松浦武志助教が司会進行。後期研修医:2名。 初期研修1名。他:7名。

研修医から振り返り3題。

ある研修医。外来症例。糖尿病の外来をどのようにしたらよいか迷っている。心窩部痛の62歳男性。潜血陽性で尿路結石を疑った。心電図をとっていない。心筋梗塞を除外しなくてよいのか、という意見が出た。DICという概念を患者家族に説明するが難しかった。5日間続く発熱で受診した20代女性。クラミジア感染症であった。アジスロマイシンの一発投与が原則。両手足末梢のしびれを訴える30歳代女性。血液・MRIに異常なし。多発末梢神経障害を疑い神経内科へ紹介(糖尿病性、アルコール性、ビタミン欠乏性が多い)。コメント:外来では命に関わる疾患を除外する努力をすること。自分が初診で診た患者の経過を追ってゆくことが大切。多発単神経炎ではAIDsを除外すること。喘息発作にネオフィリンとステロイドを使ったが、ネオフィリンは日本のガイドラインにしかない。サクシゾンを使うことは少ない(アスピリン喘息を悪化させる)。

(内科認定医合格の報告)。

70歳代女性。診断に苦慮している左胸水の症例。高血圧治療中。大腿頸部骨折の術後。発熱。農家の主婦。認知症がある。頻尿である。咳、血痰はなし。バイタル・サインは安定。心肺に異常所見なし。肺炎、胸膜炎、癌を鑑別診断に上げる。旅行歴、温泉歴を聞きたい。感染性心内膜炎、肺梗塞を除外したい。心不全を除外するために、体重の増加の有無を知りたい。CRP:6.1,WBC;8160 。胸水穿刺:滲出性胸水所見であった。リンパ球優位であった。ADA;41.7.ABPC/SBTは無効であった。骨折は病的骨折の可能性はないのか。背景にRAがあった。両手関節で骨破壊があった。リウマチ性胸膜炎の可能性が挙がってきた。ステロイドを開始したところ、胸水は減少した。考察:RAに無期肺+代償性胸水と考えた。胸水の鑑別診断について考察。クリニカル・パール;片側胸水には結核、癌を念頭に置く。リウマチ性も忘れてはならない。コメント:リンパ球が有意で、ADAが高いことから結核性胸水が疑われる。ステロイドで胸水が減ったことだけでリウマチ性と断定できない。要経過観察。

ある研修医。外来症例。両側顎関節痛。夜間に痛みで目覚める。20歳台男性。動悸、胸部苦悶、手足のしびれ。過呼吸症候群と診断。(初発の時には、器質疾患を見逃さないように)。10歳女性の腹痛。便秘またはモリミナ(処女膜閉鎖)と診断し経過観察。心窩部痛で受診した60歳代女性。検査後胃炎と診断。

20歳台の妊婦症例。17週に分娩希望で受診。1経妊1分娩。健診で「胎児奇形」の可能性が高いことが判明。告知をすると妊婦から「自分の責任?」「食事の影響など」の質問がでた。患者・配偶者と人工妊娠中絶についての様々なやり取りがあった。詳細は略す。難しい告知をしなければならない事例であった。妊婦の受容が難しく、医学的対応に対して家族からのたくさんの非難を受けた。否認や怒り、取引、抑うつ、受容等の過程を経験した。胎児奇形の文献考察が行われた。詳細は略す(プライバシーの関係で詳細を記すことができないのが残念である)。キュブラー・ロスの「死の受容モデル」が参考になった。様々な危機モデルが提唱されている。コメント:家族の反応には傾聴しかないか。

ある初期研修医。自験例。右ひざの痛み、腫脹。バドミントンで着地時にひねる。右前十字靭帯断裂の手術。用手的診断で「内側側副靭帯損傷」と診断された。関節穿刺針が太くて、怖くなり取りやめた。膝関節疾患の診断法について学んだ。また半月板損傷の診断法についても学んだ。患者としての気持ちを経験できた。関節穿刺をしてもらえばよかった。

卒業生の報告。職場は、救急に力を入れている研修医に人気のある病院である。元気な研修医が多い。専門医も不足しているが、周囲の地域から患者がドンドン送られてくる。専門医が自分の専門以外の領域も診ている。そのため「総合内科」としての立ち位置が難しい。「どんな患者も嫌がらずに引き受けること」を続けていたら、最近になって緩和医療を必要とする患者を紹介されるようになった。

今回は、産科で出会った重いテーマについての発表があった。患者家族の立場を尊重しての傾聴の重要さを再認識した。また、治療する上での正確な診断が必要であるが、その難しさを実感した。(山本和利)

2012年9月16日日曜日

Narrative-based Medicine

915日、第49回小児アレルギー学会で話をした。

要旨

医師と患者間で診断や治療方法に齟齬があることがしばしば話題になる。医師が,科学的な対応に主眼をおき過ぎて、患者自身,あるいは患者の生きた体験や抱える信念を理解しようとしないこともその一因かもしれない。医師に求められる専門性とは、日進月歩の科学的な専門的知識を持つと同時に、患者の言葉に耳を傾け、病いという試練を可能な限り理解し、患者の語る病いの意味づけを尊重し、目にしたことに心を動かされて患者のために行動できるようになることである。その実践法がNBMである。

NBMという言葉は1998年にBritish Medical Journalで提唱された。基本は対話の医療であり、全人的医療を提唱する流れを汲むものである。学際的な専門領域との広範な交流を特徴とする。

ナラティブとは、「意味付けつつ語る」ということであり、その意味付けは多様である。そして、ナラティブに必要な技能とは、「聴く」、「理解する」、「解釈する」、「患者の苦境をその複雑さとともにまるごと把握する」の4つである。

ナラティブが扱うのは、体験であって主張ではない。ナラティブ能力を磨くことで、医師は、患者に起こった特定の出来事を、患者にとっての重大な状況苦境として捉えることができるようになる。ナラティブの特徴は、聴き手と語り手とが相互に絡み合い勇気づけあいながら、患者に起こった出来事に意味づけしようとすることである。

ここで強調したいのは、NBM実践の方法論・テクニックに精通することによって患者とのコミュニケーションが改善し、良好な人間関係が得られると単純化して考えることは危険である、ということである。その前に、患者の生活の改善に少しでも役に立ちたいという医療姿勢がなければ、慇懃無礼な医療者に陥りかねない。そうならないためには現場で患者と一緒に悩みを共有することをたくさん体験することである。

講演では、一般診療現場で役立つ6つのナラティブ要素(会話、好奇心、循環性、背景、共創、慎重性)を紹介した。

患者の満足度を高める対話をするには、言葉以外の手段で非言語的メッセージを伝え、患者の言葉を傾聴し、共感する必要がある。さらに、一段落したところで、患者の抱える健康問題について十分理解したことを説明して、患者に安心してもらい、ストーリーのすり合わせと新しいナラティブを患者と一緒になって創ってゆき、その成り行きの経過を追って行く。

医療従事者の方々には、患者の価値観・意向を尊重する診療を実践してほしい。(山本和利)

 

 

 

EBMか、NBMか

915日、第49回小児アレルギー学会でPros and Cons: narrative-basedか、evidence-basedか」のnarrative-basedの立場で話をした。

要旨

現代医療は,科学的であることに主眼をおき、患者自身,あるいは患者の生きた体験や抱える信念を軽視する傾向にある。それを打破するために、科学的根拠・医師の経験・患者の意向の3つのバランスをとることを訴えて始まったEBMであるが、近年はその中の科学的根拠ばかりが強調されている。そもそも科学とはどういうものであろうか。それは現象を分業によって知ろうとする立場であり、対象を記号によって表現する。未来のことを前もって知るための関係性を求める。科学者はそれぞれ特定の対象を持っており、ものを外から眺め、理論を事実によって保証するため観察と実験を行い、分析する。そのためには「本来一つであるもの」を要素へ還元する。 特殊なものを一般的なもので理解するのである。対象を自分の支配下におくことを切望する。科学の立場を極端に強調すると、たとえば大規模研究やメタ分析の結果をもって医療の政策的統制を図ることもなすことができる。しかしながら大規模研究でやっと有意差が確認された場合であれば,臨床医の経験では実感できないほどの小さな差であるかもしれない。EBMは臨床的重要性よりも統計的有意差で判断するという、一歩間違うと大きな危険をもたらす可能性がある。

因みに日常診療においては、はっきりと診断できず明確な治療指針を立てることが難しい患者群にしばしば遭遇する。個々の患者が個性的であればあるほど科学的根拠が当てはまる部分は低下してゆく。患者の抱える問題によっては他の方法を併用する必要もでてくるのである。このような場合には,あまりに科学的であろうとしすぎた医学を患者の側に今一度引き寄せる必要がある。

そこで、患者の「語り」を通じて、患者の信念にアプローチしようとするのがNBMという実践法である。NBMは、患者の身体問題のみならず生きざまや家族・社会での役割、心理社会的葛藤等、全体を統一的に知ることが欠かせない。そのためには、患者の問題に情熱を傾け、共感し、ときには経験に裏打ちされた直観を用いることも必要である。まさに普遍性よりも個別性を重視することであり、一つ一つが別物と思えるものを、互いに相通ずる物語に作り直すことなのである。ただし注意すべき点は、科学性を欠いたNBMだけでは宗教等のアプローチとの違いが不明確になりかねない。

 患者ケアをする上で、EBMにもNBMにも偏ることなく両者のバランスをとった診療姿勢が今、医療従事者に求められている。

Integrating NBM and EBM という書籍の中でSix “A”s を推奨している。

¨       Acquire enough information to understand the patient’s concern

¨       Ask a clinically relevant question

¨       Access information to answer the clinically relevant question

¨       Assess the quality of the information

¨       Apply the information to clinical question

¨       Assist the patient to make a decision

最近ではPreference-based Medicine(Timothy E, et al. Evidence, Preference, Recommendation- Finding the Right balance in Patient Care N Engl J Med 2012:366;1653-5 ) も提唱されている。

1.適切な環境で挨拶をする

2.患者の価値観、目標を引き出す

3.淡々と方略を説明し感情に応える

4.お勧め方略を示し、妥協点を見いだす

5.見捨てないことを保証し、経過観察する

一方、EBMの立場で、東京慈恵医大の勝沼俊雄氏が、喘息管理の事例を取り上げ、エビデンスに基づかない医療があった時代を振り返った。EBMに限界があったにしろ、EBMをベースに個々の患者と誠実に対峙するときの自己の感性とそこから得られる経験値を掛け合わせることが重要であることを強調された(山本和利)