札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年10月26日金曜日

北海道における家庭医療の実践


1025日、手稲家庭医療クリニックの小嶋一先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「北海道における家庭医療の実践である。自分自身のことを話すことを通じて「家庭医療」を伝えたい。

まず、自己紹介をされた。東京生まれ。居酒屋で酔っ払いに囲まれて育った。九州大学卒。沖縄中部病院で研修。離島医療に従事。米国で家庭医の研修を受ける。2008年手稲渓仁会家庭医療センターで活動。19床の有床クリニック(ホスピス・ケア)で、年間135名の看とりをしている。看取りの際にモニターは付けない。入院してから食事を摂るようになる患者も多い。明るい雰囲気である。内科、小児科、産婦人科を標榜し、家庭医養成と地域づくり。在宅療養支援診療所でもある。医療連携、健康な地域づくり。親子三代で受診する家族もいる。地域医療への貢献も目指す。

クリニックのミッションは「ひとりひとりの生き方を尊重し、地域の力をあわせ、温かみのある医療とケアを提供する。」である。ここで手稲家庭医療クリニックのある日の外来を紹介。すい臓がん末期、不安障害、妊婦健診(DVのリスクが高い)、4か月小児の予防接種(相談の切っ掛けになる)、11歳児の発熱・咳(喘息の管理・禁煙指導)、喘息の聾唖者(配偶者の死の悲しみ、知らない世界、コミュニケ―ションの難しさ)。

家庭医・家庭医療とは

  幅広く診療する

・人生の始まりは母親が「妊娠を考えた瞬間」:葉酸摂取、妊婦健診、体重管理

・人生の終わりは「患者の死」とは限らない:grief careの大切さ

・診療科・臓器にとらわれない診療

・セッティングに応じたギアの切り替え

  攻める医療

medical ecologyのどこを診るのが家庭医か

・予防医療とヘルスメインテナンス

・「病院に来なければ始まらない」とは言わない

  アクセスの良さ

  複雑な状況に対応+多職種連携

  現場に応じて変幻自在

・足りないものを埋める

・地域への根のおろし方

・困っているところへ人を出す

これまでの道のりをさらに具体的に話された。初期研修は野戦病院のようなところで沢山の患者を診た。卒後3年目の離島経験。大事にされて居心地がよかった。米国Family medicine residency2003年、先輩が道筋をつけてくれて米国へ行くことになった。5年間研修した。

家庭医になって、「何でも屋」であること、「継続性」が重要、「へき地医療に関わる医師のキャリアプラン支援」が必要、「家庭医養成の重要性」に気づいた。

公衆衛生修士として「地域の健康という視点」で、「公衆衛生の方法論」を用いて、「家庭医療の位置づけ」をしっかりとして、「医療・福祉・介護の連携」を模索したい。

「患者が望むこと」はいつもシンプルである。すなわち原因の追及、体調を治してほしい、等。風邪の患者さんを風邪の診療だけで終わらせない。「二歩先を読み、一歩先を照らす」患者さんを助けたい。仕事に誇りを持ちたい。成長し続けたい。

ロールモデルやメンター(自分を理解、先を進んでいる、成長を助ける、尊敬に値する)に出会うことが大切。

最後に学生たちにエールを3つ送られた。「自分のすることを愛してください」「置かれた場所で咲きなさい」「世界は変えられなくても自分は変われる」

 90分授業になったことで、事例についての解説が詳細になり、学生たちにとっても家庭医療の本質を理解する助けになったようだ。(山本和利)

 

 

2012年10月19日金曜日

家庭医、家庭医療、家庭医療学

1018日、医療福祉生協連 家庭医療学開発センターの藤沼康樹先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「家庭医、家庭医療、家庭医療学」である。まず、自己紹介をされ、家庭医療に出会ったエピソードを熱く語られた。

カブール医大の視察を受け入れた時の話。往診に連れて行った。地域の困難事例を紹介した。日本に来て、彼ら自身がカブールの医療を振り返る機会になっている(地域の現場で学ぶ大切さ)。

日常遭遇する患者さんたちを紹介された。

家庭医が思春期を診る。17歳女子高生。咽頭痛。予防的介入をすることが大事。アルコール、タバコ、薬、性感染症。思春期独特の悩みの相談。風邪が出会いのきっかけになる。高校で依頼講義は違法薬物、等が多い。

家庭医が子どもを診る。1歳の男児。微熱。第1子に何を聞くか? こどもを診ることで親の世代を診ることができる。母子手帳を見る。予防注射、乳児健診。両親、祖父母の健康問題の相談に乗る。家族志向性小児保健。比較的元気な急性期の症状に対応する。夏休み子供企画。医学部1日体験入学。夏休みの自由研究になる。

54歳男性。腰痛。尿酸が7.8mg/dl.紹介が必要な腰痛(うつ病、膵がん、椎体炎)を除外する。症候別のRed frag signを覚えること。

62歳男性。高血圧。この時期にいろいろなライフ・イベントがおこる。定年の時期。夫が夫人の行動をチェックしたりすると、夫婦の危機となることあり。

44歳女性。糖尿病で血糖降下剤を内服。HbA1c:10.8%。前医には理解の悪い患者と思われていた。夫がタクシー運転手、姑がアルツハイマー病、息子が高校中退。家族ライフサイクルを考慮する。タクシー不況、介護が大変。息子の突然の変化、肉食中心の食事。家族全体の相談役である。介護保険の導入を提案。

27歳の女性。人混みで動悸。パニック障害。アルコール、うつ病、パニック障害は家庭医が診る3大疾患である。

78歳男性。前立腺がんで通院中。専門医とshared care。がんの早期診断が重要。診療所のトイレにHIV、性感染症等のパンフレットを置く(すぐなくなる)。予防と健康増進。

18歳男性。大学受験のための診断書希望。継続的に診る。医師がその人にとっての便利な資源になっている。家庭医は個人と家族を連続的に診ている。

63歳男性。妻と二人暮らし。アルツハイマー病。診断後10年で死亡する。家庭医はどう診るか?日本は、神経内科→精神科→在宅医療、となっている。早期にチームで関わると予後がよいという報告がある。

89歳女性。夜間尿失禁。糖尿病。利尿剤が増えた。膝OAで整形外科に通院中。白内障でよく見えない。4つが累積して尿失禁が起こっている。家庭医が高齢者を診る。医学的診断をつけても50%しか解決できない。「物忘れ」「失禁」「元気がない」「フラフラする」などの問題を得意とする。健康なところ、元気なところを伸ばす(健康生成論)。

6歳女児。咳、鼻水。母親は妊娠中。大工の父親は喘息だが喫煙者。

特定集団のケア。母子寮で予防接種を受けていない子供が多かった。公営団地で「孤独死」が多かった。地域でもっとも健康格差のある分野への取り組み。「街づくりに興味」

往診の事例を紹介。家庭医は、自宅でできるだけ過ごしたいという願いを最大限叶えることができるように支援します。がんの在宅緩和ケア、非がんの在宅緩和ケアが重要。

五十嵐正絃氏の言葉が好き、「長く身近にいて、すべてに関わる」を紹介。特定の個人、特定の家族、特定の地域に継続的に関与すること。

臓器別専門医は、特定の疾患を持つ患者の特定の疾患に特定の問題が生じたときに自己完結的に診断・治療する。一方、家庭医は、特定の個人、特定の家族、特定の地域にすべてに継続的に関与する。

最後にMcWhinneyの家庭医療の原理を紹介。

自分で考えるということが学びの基本である、としみじみと語った。学生からは、面白かった、家庭医療のイメージが変わった、医師を目指したときの気持ちを思いだした、等講義への賞賛の声が出ていた。(山本和利)

2012年10月18日木曜日

10月の三水会


1017日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。松浦武志助教が司会進行。後期研修医:2名。 初期研修1名。他:7名。

研修医から振り返り2題。

ある研修医。救急外来症例の一部。薬物大量服用の女性。落葉キノコを摂取後、動悸で受診。トラック荷台から転落後の血気胸。1週間続く腹痛、謳気、嘔吐できた52歳男性。虫垂炎の穿孔。骨盤内膿瘍を形成。

80歳代女性。ある腰痛症の一例。圧迫骨折の既往。MRIL3の圧迫骨折。狭心症、糖尿病、高血圧。頚椎症。153cm、55kg、138/64mmHg ,無症候性細菌尿、鎮痛薬と安静で軽快。第2セフェムを内服してもらった。リハビリ開始。そのうち食欲低下、謳気、腹痛が出現。CTで下行結腸に腸管壁の肥厚、炎症所見、腸管の拡張。WBC;27000,CRP;5.0。ショック症状に移行。心拍数が次第に減少し、死に至った。剖検で、汎発性腹膜炎、偽膜性腸炎の可能性が高い(最終報告未着)。肺血性ショックによる多臓器不全。医師として無力感を感じた。突然の病状悪化に戸惑った。家族は純粋に病気の原因を知りたいということがわかり、ほっとした。偽膜性腸炎の文献的考察。近年、バイナリートキシン例が増加している。

クリニカル・パール;抗菌薬使用や病歴(抗がん剤、高齢者、重篤な合併症、長期入院、けいかん栄養、H2ブロッカー、PPI投与中)から偽膜性腸炎を疑ったら早期にメトロニダゾ―ルやバンコマイシンによる治療を開始すべきである。下痢が出現してからでは遅い。劇症型がある。中毒型巨大結腸症、腸管穿孔などを起こす。症状が揃うのを待っていてはいけない。第三セフェム、ニュウキノロン薬はリスクが高い。WBC>20000,クレアチニン上昇は危険が高い。

入院中の発熱の90%は感染症である。異物を捜す(気管内挿管、経鼻チューブ、CVライン、尿道カテーテル)、ジョクソウ、偽膜性腸炎、の6つを考える。

ある研修医。外来症例。50歳代男性が下血で受診し、病原性大腸菌であった(ベロ毒素が出ると保健所に届け出が必要)。中年女性に多発性神経炎を疑ったが、むずむず足症候群(鉄欠乏性貧血で悪化)であった。慢性咳で受診した70代女性。間質性肺炎であった。

50歳台の男性の不明熱。農業、B型肝炎の既往。収縮期雑音あり。発熱以外の症状なし。尿たんぱく(++)、CRP;7.6、肝機能、腎機能障害。胸部XP,CT[で所見なし。IEを疑ったが、心エコーでIE所見なし。外来でシプロキサンを処方。その後、状態が悪化し、入院となった。MEPMを開始。DICとなる。ヘパリン使用。両肺に浸潤像。高度医療機関へ転院となった。血倍陰性。IEではない。

ステロイドにより回復。発熱前日に農薬を配布していた。診断は急性肺障害という診断になっている。

不明熱レビューを供覧。

ニポポ卒業生。50歳代男性。下垂体腺腫術後。下痢、腹痛、発熱で受診。CTで結腸に浮腫。WBC>15000, CRP;10.0,入院して経過観察したが、下痢が続いている。CF;全体がびらんである。UCを疑う。便培養で偽膜性腸炎であった。メサラジン、メトロニダゾ―ルで症状は軽快したが、CF所見に改善が見られない。UCを考え、ステロイドを使用した。

息切れを訴える肥満中年男性。時々、左半身のしびれが出る。PO2;56,PCO2;37,造影肺CTでは血栓なし、肺野に柵状影。呼吸機能は異常なし。心エコー異常なし。原因不明の低酸素血症。悩ましい。

80歳代女性。数カ月かけて動けなくなった。歩けなくなった。糖尿病あり。プレドニン10mg、アザルピジン内服中。両下肢に紫斑がある。下肢の筋力が明らかに低下。WBC;20000CRP;20。これから精査。血管炎、TTP,感染症等を疑う。

今回は発表数が少なかったので、1例を1時間ほどかけてじっくりと検討を加えた。(山本和利)

EBM 診断編

109日、臨床疫学 診断編。はじめに、診断のプロセスについての解説をした。 4つのパターンが知られている。

1)  パターン認識

2)  多分岐法(multiple branching method

3)  仮説・演繹法(hypothesis-deductive method

4)  徹底的検討法(method of exhaustion

胸痛の症例で検討。ます、命に関わる病気を見逃してはいけない。4 chest pain killer(急性冠症候群、肺塞栓症、解離性大動脈瘤、緊張性気胸)。

前説の後、労作性狭心症を例にして講義をすすめた。

科学的に診断するためには、はじめに、事前(検査前)確率を想定することが大切である。

 一般に医師が診断に用いる推論は患者の年齢,性別,人種,主訴から,ときに身体所見や検査データから初期仮説を形成することから始まる.これは経験的,主観的なものであるため、厳密なものではないが、データを蓄積することによって一般化できることもある

 初期仮説で想定した病気の検査前確率は,病歴と身体所見から推定される.

2×2表を書いての検査後確率の計算。検査の結果(横に)と真の診断の結果(縦に)である4種類の組み合わせを表現した図である。


 

至適基準

あり

なし

検査

陽性

TP(真陽性数:●)

FP(偽陽性数:▲)

陰性

FN(偽陰性数:■)

TN(真陰性数:◆)

科学的な考え方として、Bayesの定理を紹介。

 
科学的な考え方。Bayesの定理

  18世紀に英国人Bayes Tが考えたもので「はじめに考えた可能性」に「あとから得られた情報」を加味すると「あとで考える可能性」が得られるというものである。診療の場面では(検査前確率)を想定して、検査の(感度・特異度)を用いて計算すると(検査後確率)が得られる、となる。

 検査結果が陽性であれば即診断確定というわけにはいかず、表でいうと、検査が陽性の場合の検査後確率=●÷(●+▲)であり、検査が陰性の場合の検査後確率=■÷(■+◆)である。

感度=●÷(●+■)=TP/(TP+FP)と表される。感度を知るためには、表を縦みることがポイントである。

特異度=◆÷(▲+◆)=TN/(FP+TN)と表される。特異度を知るためには、感度と同様に表を縦にみることがポイントである。

 

聴講者へのメッセージ

 ある患者について、大部分の医師が想定する検査前確率とはかけ離れた検査前確率を想定する医師は、確定または除外診断に至るまでに、さらに高額で危険な検査を追加するはめになる。

そうならないためには、しっかり医療面接をし、身体所見をとって検査前確率を適切に想定する努力が重要である。(山本和利)

 

2012年10月16日火曜日

発熱カンファランス

1013日、手稲渓仁会病院の岸田直樹先生が行う発熱カンファランス「院内で発生する発熱に強くなる‐発熱を中心に‐に参加した。参加者11名。Fishbowl カンファランス形式(若者に発言してもらい、年寄りは見守る)である。

様々な医療行為の介入に伴う合併症のリスクが高くなる。

シナリオ: 80歳女性。発熱と右腰痛、悪寒戦慄あり。胃癌で腹膜播種。高脂血症の薬を内服。細菌尿があり、シプロキサンの点滴を受ける。3日たっても解熱しない。

Roux-en-Y手術。副鼻腔炎の手術。虫垂炎手術。高血圧、高脂血症。末梢点滴をされていた。BP:98/50mmHg, HR:102/m,37.6, RR:20/m,CVA叩打痛あり。WBC;15000,Hb:10.2g/dl,CRP;13.0, 尿培養:大腸菌(+)。

ここで何を考えるか。「腎盂腎炎」「腎膿瘍」これに加えて「胆嚢炎」「肺炎」「横隔膜下膿瘍」も考えたい。

悪寒戦慄があれば感染症としていいのか? SnNout(除外)/SpPin(確定)を覚える。

Shaking chill(体の震えが止めようとしても止まらない)があると敗血症は?: 感度:45%、特異度:90.3%。

「患者がshakingしていたら、主治医がshakingしろ」

この事例では非感染症は置いておこう。

抗菌薬が無効のとき

・膿瘍、

・薬剤の移行性が悪い:髄膜炎、前立腺炎、眼球炎。

・抗菌薬の容量不足

・当該の菌に感受性がない。

・臨床判断の誤り

腎盂腎炎は解熱するのに34時間、48時間後の発熱26%,72時間後は13%かかる(解熱しないときには腎膿瘍、尿路閉塞を疑う)。

入院時のショック、痛み、リスクが高い人は、72時間待つ必要はない。「高齢者の発熱+最近尿=腎盂腎炎」は誤診の第一歩である。

発熱+背部痛→腸腰筋膿瘍、硬膜外膿瘍、骨髄炎、を疑うこと。

このケースは「腸腰筋膿瘍」であった。セファゾリンに変更し、CTガイド下でドレナージ。薬疹が出現。ユナシンに変更した。症状は軽快し治療終了。

30日後、労作時呼吸困難、SaO2;86%.BP;88/60mmHg, HR:104/m 胸部Xp:異常なし。酸素投与でSa2:95%そのうちに38℃の発熱。

「何が起こっているか?」採血:WBC;15000,CRP;1.1pH;7,5, pO2;52.9, pCO2;31.1, HCO#;24.7,

「肺塞栓」を考える。D-Dimerの感度95%、特異度:45%。D-Dimerは不要。造影CTを行う。

感染の場合

・よくある感染症

・異物

・術後創部感染

非感染の場合

・肺塞栓(14%に出現)

・無気肺では熱は出ない!

39日目に38℃の発熱。謳気、腹部膨満感。水様下痢。腸ぜん動亢進。「クロストリジュウム腸炎」便倍の感度は57%。なぜかWBCが上昇する。

メトロニダゾールで治療。一度改善したが、再度発熱。発熱のみ。カテーテル感染であった。血倍でMRSA陽性であった。治療期間はコアグラーゼブドウ球菌は7日、黄色ブドウ球菌は14日、カンジダは陽性を確認後14日。この事例は血栓性静脈炎も合併していた。

今回の合併症によって医療費は、300万円余分にかかっている(米国では保険でカバーされないので、病院の負担となってしまう)。退院前にニュモバックスを打つこと。

入院後に起こりやすいイベントを熟知していると、適切に対応できるということがよくわかる講義であった。

参考になる話:アセトアミノフェンの使用頻度が増えてから、偽痛風(薬が効かないため)が増えているそうだ。(山本和利)

 

医療面接 実習

109()、医学部4年生に医療面接の実習を行った。

前の週に山本教授と稲熊助教による講義、医療面接DVD鑑賞により、医療面接の理論的なところの学習は一通り終わっているという前提で、シナリオをもとに1グループ3人で、医師役と患者役と評価者役の3役に分かれて、実習を行った。

多くの学生が、「頭では理解できていることが、実際にやってみると何を聞くべきか全く出てこない」「見るのとやるのとでは大違い」など、実際に医師役として面接をやってみることのむつかしさを実感したようだ。

また、全員が「評価者役」を経験して、他の同僚2人の演技をじっくりと第三者的に評価することによって「他人の癖や、良いところ、また直すべきところがよく見えてよかった」「自分が他者から客観的に評価されることで、自分では気づかない『えーと』『それで、』など自分の癖を指摘されて非常に良かった」などの感想が多かった。

今後君たちが研修医となった際、指導医からの評価はもちろん受けるだろうが、「同僚からの評価」は、医学教育の分野では「かなり有効な評価」とされている。この機会に同僚を評価し、また同僚から評価を受ける訓練を受けておくのは大変意味のあることなのである。

また、実習では全員が「医師役」「患者役」「評価者役」を経験した後に、さらにもう1回別のシナリオで「医師役」「患者役」「評価者役」を演じてもらった。これは、1回目に思うようにできなかったところや、他人のいいところ、自分も取り入れるべきところを実際に見て、それを実行する場を与えるためである。人間は「失敗から学ぶ」生き物である。失敗を修正して、それを実行する場がないと成長できない。そのための2回り目なのである。

2回目は多くの学生が「1回目よりかなりスムーズに面接することができた」と感想を述べていた。ただ、今回の実習は、医療面接の「型」を覚えることを目的としていた。つまり、診断のための有効な情報をどう聞き出すか?ということにはあまり力点を置いていない。もちろん、そういう能力は今後、絶対必要不可欠になるが、最初から多くを求めても仕方がない。物には順序がある。まずは、しっかりと医療面接の「型」を覚えてほしい。多くの経験を積んでその「型」を変形させて、進化させて、理想的なArtな医療面接をできるようになってほしい。そのための講義や実習も今後ちゃんと用意している。真摯な態度で授業に臨んでほしい。

学生さんの感想からは、今回はこちら側の意図がうまく伝わったことがうかがえ大変充実した実習であった。(助教 松浦武志)

2012年10月12日金曜日

へき地医療って何だろう

1012日、西吾妻福祉病院並びに六合温泉医療センター 折茂賢一郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域医療の課題と展望-へき地医療って何だろうである。

今回は、虐待された犬の話からはじまって、老人への虐待やネグレクトに話が進んだ。

これまでの活動も披露された。自治医大卒。29歳で六合へき地診療所長。「村の命を僕が預かる」。現在、2施設の管理者。白衣を着ない仕事が沢山あった。へき地包括医療に触れた3年間。顔が見える活動を続けた。半無医村の認識(必要なときに医師がいない、看とり)。その反省を踏まえて福祉リゾート構想へ発展させた。六合温泉医療センターを建設。コメディカルが地域へ出向く医療を目指した。そして最前線医療から「支える医療」へ。草津温泉、白根山の近くで対象人口26,000人。観光客年間六百万人。高齢化率>30%の地区で外科系・周産期の救急医療を確保。地域の拠点病院を建設。ヘリポート増設。24時間保育。屋根瓦式研修を導入している。


    
最後に「医療モデル」と「生活モデル」の違いを強調された。今回は特に国際生活機能分類(ICF)の視点を強調された。

ICFの中心概念は「生活機能」である。心身機能は生命の質に、活動は生活の質に、参加は人生の質につながる。QOLと言われる中のLIFEには生命、生活、人生の3つの意味が含まれる。最後の人生の質の大切さを強調された。

本州で行われている地域医療の話に学生達は大きな感銘を受けていた。六合で実習してみたいいう感想文が多数寄せられた。山本和利)

 

 

臨床疫学(EBM)総論


4年生を対象にした「臨床疫学」という授業を行った。これまでは「EBMと臨床研究」というコースを前期に行ってきたが、今年度より「EBM」と「臨床研究」切り離されて、EBMのところが「臨床疫学」となった。

EBMをどのように実践するかを解説した。

第1段階で、質問を受けた者が答えることが可能な疑問文を作成し,第2段階で、情報の収集をし,第3段階で文献を批判的に吟味し,第4段階で得られた情報が自分の担当する患者に適用できるかどうかを判断するという手順を踏む。

疑問の定式化の例を示す。

P:Patient:どんな患者に

I:Intervention:治療を行うと、

C:Comparison:プラセボの場合に比べて、

O:Outcomestroke発生率または死亡率が低下するか。

 
次の情報の収集は、最近では原著論文を批判的に吟味した情報をまとめた二次情報データベース(DynamedUpToDateなど)を利用することが得策である。この点についても言及した。

授業では科学性だけを強調したわけではない。逆に「人間を対象にした場合75%は科学が通用しない」ことを述べた。 エビデンスを知ることで、誰もが行っている治療法ができなくてはいけないのは当然のこと。それを提供することは医療専門職としての誠意であり、前提にあるもの。しかし、それだけで十分かというとそうではなく、75%は、エビデンスのみで解決できない問題が絡んでいるということだ。残りの75%は人間力で対応しなければならないのである。(山本和利)

2012年10月10日水曜日

多職種連携教育(IPE)


109日、札幌医大FD教育セミナーでHugh Barr教授の講演「What is an effective Interprofessional Education?」を拝聴した。

 
多職種連携教育(IPE)についての話。講演者の背景はソーシャルワーカーである。エビデンスはあるのか、という質問で始まった。

IPEは有効か?」

「どんな状況でどんなタイプIPEをするとどんなタイプの結果が得られるのか?」という疑問に答えよう話が進んだ。

「どんなIPEか(教室、職場・・・)」「誰からの根拠か(患者、学生、教師・・・)」「誰のための根拠か(学生、教師、大学、行政・・・)」「どんな方法で(観察、アンケート、インタービュー、フォーカスグループ・・・)」が問われる。

エビデンスを探してみよう。「どんな評価法が適しているのか?」

システマティックレビューの長所と欠点(出版バイアス、言語バイアス、タイムラグ)が示される。1974年から2003年の文献検索の結果を紹介。研究方法:複数41%、質問法:32%、臨床評価:20%、インタービュー:6%、観察:3%。米国が54%、英国が33%、その他の国が13%。卒後:79%、卒前:19%、両者:2%。実施期間7日以上が58%、27日が26%、1日以下が14%。結果は学習者の反応や態度の変化、知識・技術の向上、行動の変化、組織的行動の変化、患者の利益、等でみている。

まとめると

卒前では、協働の必要性の気付きがたかまり、態度が変わる。

卒後では、行動変容しやすくなり、実践力が向上する。

その後、質疑応答があった。

英語だけで1時間半途切れなく話されたので、スライド原稿から論旨を推測しながらの書き起こしとなった。(山本和利)

2012年10月8日月曜日

地域医療の現状と課題

106日、余市協会病院の70周年記念講演会に招かれ、「地域医療の現状と課題」の講義を行った。映画『ダーウィンの悪夢』を導入に「ミクロ合理性を足し合わせた結果、マクロ状況の不合理につながる」という話をした。医療界においても医師それぞれが自分自身の眼の届く範囲で一生懸命やっていても、総和として地域医療がうまくゆかないことに結びつけて話した。

医師の時間の20%は利他的な活動に割くようなことが必要なのではなかろうか。次に実際に出会った患者さんの例を挙げながら、現実の医療の現場は混沌として、単純化できず一筋縄ではゆかないことを話した。

混沌とした現実に対応できる総合力を持った医師が求められる。最後に、地域医療再生の5つの作業仮説を述べた。余市町長や医師会長も聴講しており、熱心に聴いてくれている雰囲気が伝わってきて大変話しやすく、気持ちよく講演を終えることができた。(山本和利)

2012年10月5日金曜日

地域医医療:導入編

105日、地域医療総合医学講座の「地域医療」講義の第1回目を行った。

自己紹介をした後、これまで地域医療で経験した事例を紹介した。その後、映画「ダーウィンの悪夢」を通じて、個々の合理的な活動を集約したときに、全体として最悪の結果が起こりうるという「合成の誤謬」の例として紹介した。日本の地域医療の現状も例外ではないと。

地域医療の総論を述べ、最後に短期間ではあるが伊良部島で診療にあたった研修医の日記を紹介した。

学生さんから、たくさんの好意的な意見が寄せられた。地域医療に対するイメージが変わった、短期間でいいのなら是非、地域医療の現場に行きたいという意見が多く見られた。今後の授業への期待も大きいことがわかった。(山本和利)

2012年10月3日水曜日

医療面接

102日、医療面接の導入の講義を山本和利、稲熊良仁助教が行った。例年より半年前倒しになっている。

授業の最初に、稲熊助教が「医療面接の理論と基本」の話をした。第一段階は医療とコミュニケーション。ファーストフォード店の店員と医師の違いを問いかけた。「医療は最初からリスクの高い職場である」「患者やその家族の感情の中で働く」「マニュアル化しにくい事象を扱う」こと、患者には相反する気持ちが同居しているので、それに対応できるだけの理論と技術が必要であることを強調した。

2段階、非言語的と言語的コミュニケーションを説明。場のセッティングが重要である。空間をコントロールすること、身だしなみを整えること、自分の第1印象をコントロールすること。聴く技術と訊く技術の大切さを強調した。

第三段階、医療面接の実際を解説した。

Take home Messageは「医療面接もコミュニケーション技法を用いた一つの技術である」「技術に心を込めるのがプロフェッショナルである」

 
後半は山本和利が、津田司先生監修のビデオテープで医療面接について解説をしながら授業を進めた。このビデオには故田坂先生が医師役で出演している。

ポイントは

・身だしなみ、言葉づかい、礼儀

・医療面接の目的、意義

1.         患者と良好な関係を構築する

2.         患者から情報を収集する

3.         患者への働きかけ(治療・教育)

・面接の手順と把握すべき情報

はじめはOpen-ended questionを用いること、その後にClosed questionに移ること。

・基本的コミュニケーション技法

1.        導入

2.        主訴の把握

3.        共感

4.        説明モデルを知る

5.        不足分を直接質問法で補う

6.        既往歴・家族歴・患者背景を聞く

7.        要約と診察への導入

8.        患者教育・治療への動機付け

次回は学生同士で実際にシナリオを用いた実習である。頑張って!(山本和利)