札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年12月31日金曜日

BOX

映画館で観られなかった『BOX 袴田事件 命とは』(高橋伴明監督:日本 2010年)という映画を年末にDVDで観た。

1966年、静岡県で起きた一家4人強盗放火殺人事件をそれに関わった裁判官の目を通して描く。警察・検察が容疑者に自白(虚偽自白)を強要し、冤罪が作られてゆく過程を丹念に描いている。それとなく、出生地、職業、趣味、裁判官内の学閥、等が裁判結果に影響してゆくことも知らされる。死刑確定後、精神を崩してゆく死刑囚。再審は認められるのか?今、袴田死刑囚はどうしているのか?

意に沿わない判決を下した裁判官の苦悩。家庭崩壊の危機。劇中の言葉「人を裁くということは、自分も裁かれるということである。」が胸を突く。裁判官役の萩原聖人と無罪を主張する元ボクサー役の新井浩文の熱演が光る。観て損のない社会派映画である。(山本和利)

2010年12月28日火曜日

日本の食

『肥満と飢餓 世界フード・ビジネスの不幸のシステム』の翻訳者である佐久間智子氏が日本語版解説として「日本におけるフード・システム」を掲載している。日本の食の問題が簡潔に鋭く指摘されている。ここだけでも読む価値がある。

現在の日本の食文化に米国の対日食料戦略が大きく影響しているという。1950年代の食料援助が、米国の余剰小麦の海外市場開拓に使われた。給食制度でパン食を根付かせ、米食のアンチキャンペンを行い、小麦輸入を増やした(これらは農薬の収穫後散布小麦である)。

「農業基本法」と「貿易自由化政策」によって国産より米国産農作物を多く消費する構造に変革されてしまったのだ。大規模な単一作物栽培を奨励し、そのため除草剤、殺虫剤、化学肥料の使用量が増大した。そして遂に今では、日本は主要な食料を輸入に依存する希少な先進国になってしまっている。そのため、国際価格が大きく変動すると生産者と消費者の双方に多大な影響をもたらすことになる。また、米国の戦略によって身についた新たな食文化(食肉、トウモロコシ偏重)が、最貧国から食料を奪っているという現実もある。

さらに食の質も問題である。抗菌薬の多用、乳牛への成長ホルモン(発がんに関与)の投与が問題となる。最近増えた養殖魚では水銀やダイオキシンの残留量が多い。野菜では農薬と食品添加物が問題となる。このような方向へ広告を通じて大手流通業界が消費者を向かわせているのである。

お手軽な還元主義的栄養補給(サプリメントやジュース)では健康になれない。自然と折り合いを付けて来た過去の食文化に学ぶべきである。自然農法や有機農法への支援が必要だ。「安い食料」政策からの脱却が望まれる。人手不足を解消するためには、都市生活者が発想を変えて、休日など農家を手伝うなどの政策を推進することが必要となろう。

このような現実を知ると、根本に関与しないまま、医療などにチマチマと関わっていても日本人の健康を守れないのではないかと居ても立ってもいられなくなる。

札幌医科大学の年内の通常勤務は本日が最終日である。皆様、よいお年をお迎え下さい!(山本和利)

2010年12月27日月曜日

肥満と飢餓

『肥満と飢餓 世界フード・ビジネスの不幸のシステム』(ダジ・パテル著、作品社、2010年)を読んでみた。著者は、世界貿易機関や世界銀行に勤務した経験を持ちながら、現場に赴き、当事者として相手の主張に耳を傾け、その学びと考察を膨大な資料を渉猟しながら実践に活かしているという。

各章からの抜粋。
10億人が飢えに苦しみ、10億人が肥満に苦しむ。これは同一の問題から派生している現象である。これらはシステムが生みだしている。貧しい人々は質の高い食品を手に入れることができない。農民が何を作るか、消費者が何を食べるかを自由に選択できないシステムなのである。例えば、農民が1キロ14セントで売ったコーヒー豆が、焙煎された後には26ドル40セントになっている現実がある。世界を見渡してもわずかな企業(20社)だけがコーヒーの売買に携わっている(生産者と消費者が多数いて、中間の企業が少ない。これをボトルネック状態という)。

現在のインドは「シャイニング・インディア」と言われる一方で、農民の借金苦による自殺または腎臓販売が後を絶たない。農民の言葉:「私たちには腎臓以外に売るモノがない」。低賃金雇用が低下している。韓国でイ・キョンヘ(農業改革のシンボル)の自殺。

「神の見えざる手は、常に見えざる拳を伴う」(自由選択には暴力が付きまとう、ということか)。北米自由貿易協定(NAFTA)が農業貿易も対象にしたため、メキシコ農民は米国の農業センターとの競争に追い込まれた。農村は不安定化し、若者が都市や海外に出て行ってしまい、農村が高齢化している。

フード・ビジネスが市場を動かし、政府を支配する。スーパーマーケットが消費と生産を支配する。常にバーコードでモニターされる消費者。農薬、遺伝子組み換え作物、大学・研究機関を操作している。飢餓に対して食料援助が行われた多くの国々では、十分な量の食料はあったが、分配の仕組みがなかった。

多くの食物に汎用されるレシチンは大豆から作られる。ブラジルの大豆プランテーションにより、森林は破壊され、先住民は土地を奪われ、農民は奴隷化されている。

フード・システム変革のための10の取り組み
1. 私たちの味覚を変える
2. 地元の食材を旬に食べる
3. 農業生態系を保全する食べ方を実践する
4. 地域の人々による事業を支援する
5. すべての労働者には尊厳を持つ権利がある
6. 抜本的・包括的な農村改革
7. すべての人に生活賃金を保障する
8. 持続可能な食のあり方を支援する
9. フード・システムからボトルネックを取り除く
10. 過去・現在に存在する不正義の責任を自覚し、その償いをする

本書は次の言葉で終わっている。「今こそ、組織化し、教育し、食を楽しみ、食を取り戻し、新たなフード・システムを生み出すときである。」

医療の世界では肥満に対してメタボ対策などを打ち出しているが、根幹にある食システムを変えずに対策を練っても空しいだけではないのか。(山本和利)

2010年12月26日日曜日

巡礼コメディ旅日記

『巡礼コメディ旅日記』(ハーベイ・カーケリング著、みすず書房、2010年)を読んでみた。

ドイツの有名コメディアンが「聖ヤコブの道」800kmを踏破した旅日記である(途中、列車に乗ったり、ヒッチハイクをしたりしているが)。ドイツでは「わが闘争」の次に売れたベストセラーだそうだ。本書を切っ掛けに「聖ヤコブの道」に出かけるドイツ人が倍増したそうだ。

旅の様子よりも、コメディアンとして成功するまでの思い出話が興味深い。苦行は人間を哲学者にする、苦を共にすると一生の友人ができる(ここでは二人とも女性であるが)、と本書が教えている。あえて苦行を求めはしないが、今の苦しさが自分自身を成長させると考え、乗り切っていこうと本書を読んで考えるようになった。(山本和利)

2010年12月25日土曜日

世界宗教事件史

本日はクリスマス。
『教養としての世界宗教事件史』(島田裕巳著、河出書房新社、2010年)を読んでみた。

各章からの抜粋。
人類はいつ宗教をもったのか?人類は宗教的な存在として出発したのではなく、広範囲に及ぶ社会や国家の集合体を統合することが必要になった段階で、次第に宗教性を深めていったのだろう。

ピラミッド建設が奴隷労働によるものではないという考古学上の発見が2010年になされた。

一神教だけで世界の宗教人口のおよそ半分を占めているが、ゾロアスター教が後世に多大な影響を与えている。ゾロアスター教は「善悪二元説」である。この二元論はマニ教に受け継がれる。一方、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は一神教である。宗教が抱える絶対的矛盾は、絶対の善である神が創造した世界になぜ悪が蔓延るのかという点である。一神教か多神教かの違いより、根本に悪を認める二元論か認めない一元論かの違いのほうが重要な意味を持つ。

形にして描かれた神は、描き出されたその瞬間に絶対的な神聖性を失う。三つの一神教の中で、偶像崇拝の禁止が最もゆるいのがキリスト教である。聖なる世界と俗なる世界を区別し二つの世界の異質性を強調する(俗なる世界の価値を否定)。「出家」という行為に価値が与えられた。

なぜ開祖は自らの著作を残さないのか?仏典はインドにもとになるものがなく、すべてが偽経であり、中国、朝鮮、日本で膨大な仏典が作られた。そのどれを基盤にして教えを組み立ててゆくかで、「宗派」というものが生み出された。仏教は、膨大な数の仏典が作りあげた巨大な教えの宇宙を意味している。そその仏教の自由さがある。

アウグスティヌスの回心体験の重要性は、キリスト教に改宗することが、淫蕩な生活から離れることを意味するようになった。堕落した存在がその事実を受け入れ善に立ち返るならば世界は救われる(善悪二元論に対する一元論の勝利)。

このような内容が10ページの長さでまとめられている。「モンゴルの世界征服が原理主義を生む」、「ルターの意義申し立てが資本主義を生む」・・・「イランのイスラム革命が世界を変える」等、興味深いタイトルが並んでいる。

多くの日本人にとって、クリスマスは家族や仲間とケーキやアルコールを摂る日なのかもしれないが、宗教についてふと考える瞬間くらいあってもいいのではないだろうか。(山本和利)

2010年12月24日金曜日

FLATランチョン:救急蘇生術

12月24日、特別推薦学生(FLAT)を対象にランチョン講習会に参加した。3名が参加(冬休みで帰省中の学生多し)。河本一彦助教が「BLS」の講習を行った。

今回は蘇生講習用の人形を2体、第二内科からお借りした。
はじめに羽幌病院支援の中に救急車で受診した患者の話。救急隊からまず電話。「2歳の女児が飴を喉に詰まらせている。これから5分で行きます。バイタルは安定している」。救急隊到着時に母親は女児の背中をあわてて叩いていた。泣きながら母親に抱かれて来院。診た瞬間大丈夫だと思った。泣いているのは息ができている証拠である。

前回の復習。救急医療と災害医療の違い。2010年からABCからCABに変わった。循環確保が一番大事。心臓マッサージとして胸骨圧迫を1分間に100回以上することが大事。
救命の連鎖(Chain of Survival)が大事:迅速な119番、迅速な心肺蘇生法、迅速な除細動、迅速な高度救命処置。



3人一組で実習開始。65歳の男性。通勤時、胸が痛い。(朝、道端に男性が倒れていた。)声かけ(「大丈夫ですか」)で反応をみる。意識がない。誰かを呼ぶ。誰かが来た。救急車とAEDの手配を頼む。オトガイ挙上法で呼吸を確認する。頸動脈の拍動を確認する。(見て、聞いて、感じて)。一人が気道確保(2回吹き込み:無理に実施しなくてもよい)。もう一人が胸骨圧迫(30回)。AEDが到着。AEDの組み立て。AEDの指示に従う(スイッチを入れて、パットを装着、患者から離れてショックを行う、すぐ胸骨圧迫)。救急車が来るまで胸骨圧迫を続ける。疲れたら交代。

最後に、バック・バルブ・マスクを使って呼吸。頭の正面に立って、3本の指を顎の下に入れて両手で気道確保。5秒に1回注入。

学生からの質問:「呼吸をしている・心臓が動いている場合は?」救急車を呼ぶ。「横断歩道の真ん中であったら?」助けを呼んで、安全な場所へ運ぶ(下がフカフカでは駄目)。「胸毛がすごく生えている場合は?」一枚目のパッドを貼って、勢いよくはがし、2枚目を貼る。「ペースメーカーを装着している患者は?」その場所を避ける。「湿布を貼っている患者は?」はがす(はばさないと火傷する)。「ネックレスをつけている患者は?」外す。「プールサイドで体が濡れている場合は?」水分をふき取る(みんなが感電する)。

細かな解説を交えた元気な指導。学生のできたところを褒めて、気持ちよく実習は進む(山本和利)

今夜は最高

『今夜は最高な日々』(高平哲郎著、新潮社、2010年)を読んでみた。

タモリ司会のバラエティ番組「今夜は最高」からタイトルは取られている。表紙もTV番組のオープニング場面である。挿絵は和田誠。1980年代(私が医師になったばかりの頃)のテレビ、落語、ジャズ、等のことが綴られている。

第1章のジャズミュージシャンの話に、落語の演目が付いている。ジャズと落語への造詣の深さがわかる。

第2章、「今夜は最高の日々」では『今夜は最高』のことが書かれてる。赤塚不二夫を筆頭にして真剣に遊んでいる様子が綴られている。その頃の番組の出演者や内容が克明に記されており、また観たくなる。あの頃、毎週23時の開始の時間を妻と待った頃を思い出す。著者たちを含め、番組に関わった人たちの笑いへの真剣な姿勢がよくわかる。「今夜は最高」をキーワードで探すとYou Tubeで観ることができる。

どの世界であれ、一流を目指す人たちの活動や意気込みは参考になる。「今のTV番組は低俗」と揶揄されているが、医療も真面目に取り組まないとテレビ界と同じようなことを言われかねないのではないか(もう言われている?)。

本日はクリスマス・イブ。教室員で洞爺温泉病院に勤める敬虔なクリスチャンである岡本拓也先生からクリスマス・メールをいただいた。緩和医療の専門医試験に合格したとのこと。北海道では初の専門医誕生だそうだ(北海道で2名)。合格率20%の難関突破、おめでとうございます。個性豊かな教室員がそれぞれの人生に花を咲かせてゆくのはうれしい限りである。(山本和利)

2010年12月23日木曜日

I am wrong

札幌に来てから12年間、天皇誕生日は働いている。

『言い残しておくこと』(鶴見俊輔著、作品社、2009年)を読んでみた。

母親についての言及がすごい。彼女は愚かで気狂いであったと述べている。「You are wrong」と息子を愛という名で責める母親に、「I am wrong」で生き抜いてきたと述懐している。宗教にしても、共産主義にしても「You are wrong」を押しつけて来ると。それが厭だから宗教にも主義にも従わないと。これを読んで私の母親に似ていると思った。私は母親に優等生であることを求められ、悪さに対してはお灸をすえられ、棒を持って追いかけられたこと、熱が出て学校を休むと氷枕で頭を冷やしてくれながら布団に入ってきて抱きしめてくれていたこと等を懐かしく思い出す。

インタービュの中で印象深い人物に言及している。抜粋すると、「東大から小田実のような人間が出たのは奇跡だ」。幕末から150年のなかでいうと、ジョン万次郎と小田実がすごい。脳卒中後の姉鶴見和子を評価(それ以前の80年は評価していない)。戦後ショックを受けた人は、武谷三男と花田清輝。自分がやっていること、やったことを入れ込んだうえで歴史をみることができる人物として、羽仁五郎、武谷三男、竹内好、吉本隆明を挙げている。

著者の家系は勲一等をもらった人が多い。それを避けるために大学教授を止めたという。私にそんな機会は与えられるはずはないが、心構えとして見習いたい。著者が挙げた人物の著作を読みたくなった(羽仁五郎、武谷三男は懐かしい、大学生のとき読みました)。(山本和利)

2010年12月22日水曜日

精進料理

先日、高野山の宿坊「一乗院」に泊まり、精進料理を味わった。仏教では僧は戒律五戒で殺生が禁じられており、大乗仏教では肉食も禁止のため、野菜・豆類など、植物性の食材を調理して食べる。参詣参篭が信仰の重要な一部となる真言宗系の高野山では、精進料理は僧侶には必須の食事であり、食事もまた行のひとつである。ここでも、研修生が食事の接遇にあたっていた。参拝者を宿坊に泊め、精進料理を提供して仏門の修行の一端を体験させている(こうすることで商売ではなく、宗教活動とみなされれば、税金の額も違ってくるという説もある?)。


夕食の中の一品にアボガドがあり、醤油をつけて食べるよう勧められた。時代に合わせて、メニューも少しずつ変化してきているようだ。

忘年会のシーズンである。たまには健康のために精進料理などがよいかもしれない。(山本和利)

地域密着型チーム医療発表会

12月21日、15:10-17:30、札幌医科大学の3年生を対象に行った「地域密着型チーム医療」の実習報告会を1年生の発表に引き続いて拝聴した。SEAの手法を用いて報告。
■中標津地区
□患者・家族の講義を中心に発表。
・ぽれぽれの会(のんびり、ゆっくり、自分らしく)
・障害という意味:個性ではないか。コケイン症候群:医師の告知の仕方、看護師:患児との接し方、OT/PT:家庭でのリハビリ。
・地域を変える、病院外での活動が大切。
・医療と患者のつながり:患者の生活を把握し、チョットした変化を見逃さない。
中標津の藤田さんからコメント:患者さんを病気ではなく、人としてみてほしい。

■別海地区
□健康教育の報告:事前に高血圧が多いことを察知。塩分が高い食事を想定。
・BMI,血圧の測定
・「高血圧と食塩」についての講義、クイズを取り入れる。
・減塩の工夫、食べ比べ
・老人クラブの方々の関心の高さを実感。
・幅広い知識も必要と実感。
地域医療は住民・医療関係者・行政が相互に努力して作ってゆくもの。地域住民もチームの一員。札幌が特殊(十分な医療環境)で、地域が普通。北海道についての知識不足。
教員からのコメント:これからどう行動してゆくかが重要。
□児童肥満、母子保健
・助産師、保健師の負担が増加している。異常分娩を扱えない。
・こまめなケアができる。
・「元気な体を作ろう」:食事と運動について、適度な運動を定期的に。お菓子を減らす。町内においても地域差がある。小学生でも健康意識が高い。
・予防医療に力を入れる。
・チーム医療はドラマの作成に例えられる。患者が俳優。保健師は現場監督。医師はプロジューサー。OTは衣装係。PTはメイク係。看護婦はマネジャー。一丸とならないとよい作品はできない。

■根釧地区(和歌山県立医大の看護学生も参加)
□相互理解
・連携、医師との信頼関係、健康教育、他大学の看護学生との関わり、4つの場面で気付き。
地域医療、チーム医療(幅広い視点)に「相互理解」が必要である。相手を理解し、自分自身を知り、相手に自分を知ってもらい、信頼関係を築く。この実習に参加しなかった仲間にこの実習の成果を伝える。北海道に愛着を持つ。コミュニケーション能力を涵養する。

■西紋別地区
□西興部村の家庭訪問
ステンドグラスの製作で生計を立てている女性。若年性パーキンソン病、高血圧、喘息、PBCを持つ。家事をリハビリの代用にしている。一緒に歩く。声かけが逆効果になる。この方の全体像をまとめることができた。
・保健師が何役もこなしている。QOLが重要。在宅に適したケアが必要。その地域で可能なこと、不可能なことを明確にして、他地域と連携するのが大事。
・「地域医療とは一枚の絵である。」医療者は絵具。一色が足りなくても、その他の色を混ぜ合わせると不足の色を作ることができる。対象者のパーソナルカラーを見つけ出す医療者になりたい。
高橋先生からのコメント:行政がパレットである。福祉課と一体化することが重要である。
□自主サークル活動
・柔軟体操、ゴム体操、同時に歌合戦、リズム・ダンスに参加した。とにかく元気。笑いが絶えない。参加者同士の体調への気配り。参加者が主体的に運営。BGMの乗りがよかった。
・介護予防が重要。サークルを通じて参加者の健康意識が高まる。地域の健康活動が高まる。
地域医療との関わり:より地域に根付いた「健康」を作ることができる。住民のチームの一員として取り組んでゆくことが重要である。

このような学部を越えた実習を通じて、学生が自然に幅広い視点を獲得していることが確認できた。彼らがこれからの医療を変えてくれるかもしれない。そんな期待を持たせてくれる報告会であった。(山本和利)
 

2010年12月21日火曜日

地域密着型離島実習の発表会

12月21日、13:30-15:00、札幌医科大学の1年生を対象に行った「地域密着型離島実習」の報告会を拝聴した。発表担当のそれぞれのグループ全員が登壇し発表し、その後に質問に答える形式をとった。
■地域包括診療センター
・高齢者にとって介護サービスと医療との架け橋になる人が不可欠。
・日常生活の相談役
■老人保健施設
・みんなにこやか仲よし家族
・集団体操、ストレッチ。
・実習を通じての学部間の「つながり」を強調。学部間の壁がなくなった。
■鴛泊診療所
・天候によって患者数が変動する。産業と密接な関係がある。
・住民のニーズにあった医療を提供している。
■利尻島国保中央病院
・申し送り見学、病棟見学で患者さんから聴きとり、内科外来見学、看護師不足を痛感、内視鏡見学、放射線検査室見学:「患者さんとの距離が近い」
・講演:離島医療に必要な6つのこと。「地域を見る」「出向く」「頑張っている人を知る」「資源を探す」「話を聞く」「地域を愛する」
■施設「やすらぎ」、「希望」「ほのぼの荘」「秀峯園」
・お互いに助け合って生活している
・癒しの空間であった。
・コミュニケーション能力の必要性を感じた。
■Photovoice(写真に声をつけて)を報告
・利尻富士の写真「自然の雄大さ」、利尻の海と山、差し入れられたアワビ、ウニ丼と舟の写真。七夕にかかれた願い事「島はこのままで」、初めて感じた生命の発生、昼食風景「何でこんなに美味しいのだろう」。かもめの写真「出会い」「ついてきな!」「昆布の並ぶ海」、博物館での患者さんの写真「昔を思い出して」、「衰え知らずの95歳」、オタトマリ沼、姫沼の写真、夕日の写真。

途中、利尻在住の高橋先生が「オオセグロカモメ」と「ウミネコ」の区別の仕方を教えてくれた。山田先生から「コウモリ観察」もしたと報告あり。

それぞれのグループが一つのテーマを選び、熱い思いを込めて、10分間のナラティブにして心に浸みるような発表をしてくれた。この気持ちをあと5年間持ち続けて素晴らしい医師に、ナースに、理学療法士に、作業療法士になって欲しい!(山本和利)
 

和歌山県立医大での講義

12月20日、和歌山県立医科大学の4年生に「地域医療の現状と取り組み」の講義を行った。今回がはじめて3年目である。

映画の話を導入に「合成の誤謬」の話をした。医療界においても医師それぞれが自分自身の眼の届く範囲で一生懸命やっていても、総和として地域医療がうまくゆかないことに結びつけて話した。

次に実際に出会った患者さんの例を挙げながら、現実の医療の現場は混沌として、単純化できず一筋縄ではゆかないことを話した。

最後に、札幌医大の4年生にも話した地域医療再生の5つの作業仮説を述べた。(札幌医科大学地域医療総合医学講座の講義を参照)

学生の感想文を読むと、私としては医師の能力一般のつもりで話したものが、総合診療医の話として捉えられているようだ。疲れているのか昼食直後のためか、机に顔を伏せている学生が多かった。1/3の学生には私の講義が医療のあり方や地域医療について再考する切っ掛けになってくれたようだ。2年前の学生に比較し、反応に勢いが感じられないのがやや寂しい。座学で学生に医療の現場感覚を伝えるのは難しい!その一方で、現場での教育はうまくいっている。和歌山医大と札幌医大の研修医の地域医療交換プログラムは、研修医に好評であり、今後も継続しそうである。(山本和利)

2010年12月20日月曜日

高野山訪問記


12月19日、自治医大の同級生廣内幸雄院長が赴任している和歌山県高野山病院を訪問した。翌日、和歌山県立医科大学に地域医療の講義で呼ばれていた(今回が3回目)ので、和歌山に来る最後のチャンスと思い、思い切って伺うことにした。

朝8:00家を出発。関西空港に12:25着。廣内先生が直々に出迎えをしてくれた。先生の車で高野山へ向う(約90分)。途中、華岡青洲の春林軒塾の跡地「青洲の里」を訪ねる。1804年に世界で初めて全身麻酔による乳がん手術を施行ところである。1年生に医学史の授業で教えていたので、一度は訪ねてみたかったところである。



S状の山道をしばらくゆくと高野山の入り口に到着。そこに「大門」があり、記念写真撮影。そして総本山金剛峯寺を拝観。廣内先生の顔パスで拝観コースを行く。顔見知りの人たちから次々に挨拶をされる。高野山に来て30年ということでこの町では知らない人はいないようだ。その後、弘法大師が安置されている奥ノ院へ。そこで織田家、豊臣家、徳川家、等の墓にお参りをする。歩くだけでもかなり疲れる広さである。

最後、役場の裏手にある高野山病院を見学。2階建で現在は常勤4名の医師が勤務。入院患者は減少傾向にあるが、観光客への配慮もあり、簡単には縮小とはいかないということらしい。院長になっても月6日の当直があるという。事務の方からコーヒーとチョコレートを出され、一息入れる。

宿は病院近くの宿坊「一乗院」。若い僧侶の案内で部屋に通される。個室には炬燵が用意され、ミカンとセンベイが乗っている。そこへ抹茶と甘い和菓子のサービス。夕食までポンカンが浮いた湯船で入浴を一人楽しむ。BS放送が見られる。室内からインターネットにも接続できる。チョットしたホテルより高級である。

夕食は宿坊の精進料理を廣内先生と楽しむ。アルコール可である。男性の給師が物珍しい。オーストラリアの4年生大学卒業後に方向転換した男性もいた。

翌日、6:10本堂での勤行に参加。冷とした空気の中、読経が響き渡る。弘法大師の教えは「今を充実して生きよ」ということだ。朝食後、廣内先生に和歌山医大に送っていただく。途中、密教美術を見学させていただく。感謝、感謝。(山本和利)

2010年12月19日日曜日

壁の時代

『生きるための自由論』(大澤真幸著、河出書房新社、2010年)を読んでみた。

最初の自由について書かれた2章は、私には難し過ぎた。最後におまけのようについている「壁」の話が興味深い。

1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊した。そこから始まったユートピアを、フランシス・フクヤマは、「歴史の終わり」と名付けた。その後、大きな2大対立は消滅したが小さな紛争は続いている。2001年9月11日の同時多発テロで「歴史の終わり」と言われたユートピアも終わった。そして一つの壁が崩壊した後、セキリティ上の無数の壁ができ始めた。2008年にサブプライムローンに端を発した金融崩壊が起こり、我々は、地球規模の壁の時代を生きることになった。米国の高所得者はゲートを施した地区に住み、世界の若者・オーム信者等が壁に囲まれた部屋に引きこもる。

無数の壁に囲まれて生きなければならない我々はどうすればこの状況を打破できるのか。本書には状況の分析のみであり、その答えは書かれていない。(山本和利)

認知症・BPSDの今

12月18日、札幌市内のパミールで行われた北海道BSAP研究会の講演会「認知症・BPSDの今」を拝聴した。

はじめは、砂川市立病院の内海久美子先生の講演知症におけるネットワーク構築の実践」。
院内、地域の医療機関、地域社会資源、地域住民との連携が必要である。

中空知の実情:少子高齢化地域である。診断が難しい。精神科(BSAPの治療)、神経内科(神経症状を伴う診断)、脳外科(脳血管性の鑑別評価、水頭症の治療)、臨床心理士、放射線技師(MRI,SPECTの画像解析)、精神福祉士等の協働。認知症の62.5%がアルツハイマー病であった。初診の診断が2回目で変更になることがある。

医師会から34の医療機関が参加してネットワークを形成。ケアマネジャーとのネットワーク(双方向型情報交換):認知症知識の普及に貢献。かかりつけ医との連絡。地域との窓口(ソーシャルワーカー);在宅支援の必要性、社会福祉援助、病状の地域で把握。認知症を支える会:家族への支援、介護者への支援、かかりつけ医への支援。市民フォーラムの開催(250-500名が参加)。認知症社会資源マップの作成(紙版、インターネット版)。ケアスタッフ講演会、ケアスタッフ研修会。事例研修。介護者や専門職のサポート。北海道認知症研究会を設立。地域住民参加型支援活動。ボランティアに求めるもの:患者玄関先での挨拶、話し相手となってもらうこと。ボランティアの会「ポッケ」の会が立ちあがった。

後半、「認知症ケアネットワークの必要性」、「BPSDの治療」の講演があった。詳細は略す。
砂川市立病院で精力的に問題解決に取り組んでおり、一般の健康問題への取り組みに参考になった。(山本和利)

2010年12月18日土曜日

彼女が消えた浜辺

『彼女が消えた浜辺』(アスガー・ファルハディ 監督:イラン 2009年)というイラン映画を観た。

テヘランからほど近いカスピ海の沿岸のリゾート地に中産階級の三家族がヴァカンスを過ごしに来る。男たちがビーチバレーに興じ、女たちが食事の支度をしている間に、海辺で遊ぶ男の子が波に呑まれる。その事件をきっかけに、子供が通う保育園の先生エリが消える。溺れたのか、失踪したのか。そこからこれまでの明るく喧騒な場面が一転し、波音が打ち寄せる中、暗く重苦しく、様々な感情にさいなまれた場面が観客を心理サスペンスに引きずり込む。本作は、第59回ベルリン国際映画祭最優秀監督賞を受賞している。

やがて明らかになる真実が、三家族の男女たちを苦しめていく。結末を知ると、文化的背景が大きく影響していることがわかる。イラン人のナラティブを知る機会となろう。

患者の苦悩を理解するには、患者の背景を知る必要があるという姿勢に通じる。(山本和利)

2010年12月17日金曜日

インビクタス

『インビクタス 負けざる者たち』(ジョン・カーリン著、NHK出版: 2009年)を読んでみた。 原題は「Playing the enemy」であるが、翻訳タイトルは映画の題名と同じにしている。映画を観てすぐ市立図書館に本書を予約したが、順番が来るのに半年以上かかってしまった。

本書は、南アフリカ共和国初の黒人大統領となったネルソン・マンデラの苦難の人生を綴っている。前半が監獄と出獄後の半生、後半がラグビー・ワールドカップという構成になっている。反アパルトヘイト運動により反逆罪として逮捕され27年を監獄で過ごしたのに、白人に復讐せず、逆に新体制に取り込んでゆくマンデラの姿勢は驚嘆に値する。これは持って生まれた資質なのだろうか。私にはとても出来そうにない。黒人と白人のわだかまりを捨てさせ一体化させるために、ラグビーを通じて国民の意識を変えることができると信じて、弱小だった南アフリカ代表ラグビーチームの再建を決意する。黒人が反発するチーム名「スプリングボクス」という名前をあえて残す。自国開催するラグビー・ワールドカップに向け、マンデラはチームキャプテンのフランソワ・ピナールや選手達に、対話を通じてエンパワーを施してゆく成り行きや最後にラグビー・ワールドカップで優勝し、国民が一体になってゆく過程を読んでゆくと知らないうちに涙が出てくる。真に尊敬できる政治家とはマンデラのような人をいうのだろう。

『インビクタス 負けざる者たち』(監督 クリント・イーストウッド)は2010年に日本でも公開された。こちらはラグビー・ワールドカップを中心に描かれているが、やはり観る者に感動を与える。マンデラ役のモーガン・フリーマン、 フランソワ・ピーナー役の マット・デイモンもよかった。

西部劇を卒業した監督としてのクリント・イーストウッドの活躍は素晴らしい。「チェンジリング」(2008)、「グラン・トリノ」(2008)、「父親たちの星条旗」(2006)、「硫黄島からの手紙」(2006)、ミリオンダラー・ベイビー(2004)がお勧めである。特に一本に絞ると「グラン・トリノ」となろう。これはマンデラの生き方(利他主義)に通じている。(山本和利)

2010年12月16日木曜日

医師に必要とされる能力

12月15日、医学概論Iで「医師に必要とされる多角的能力」という講義を行った。これは札幌市内の医療機関で行う実習の導入として企画されたものである。

まず、医師の仕事について高校生レベル向けに書かれた本の内容をかいつまんで紹介した。
後半、これまでに私が出会った様々な患者さんたちのことを提示した。リアルな社会の物事は、複雑で、不確実で、不安定で、独特で、価値観に葛藤があり、単純な対応ができないことを示した。

1年生は、4年生たちとは異なり、内職をしている学生などなく、目を輝かせて聞いてくれた。大変気持ちよく講義ができた。

講義終了後、「あなたが考える医師に必要な能力」「実習に望む意気込み」等を書いてもらった。臨床の話に飢えているようで、「はじめて医学部入ったことを実感できた」、「臨床が複雑であることがわかった」、「コミュニケーションの重要性を再認識した」等、たくさんの気づきが見やすい字で紙いっぱいに記載されていた。学生全員が聴講したことを喜んでくれており、講義した私としては望外の喜びであった。(山本和利)

12月の三水会

12月15日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は11名。大門伸吾医師が司会進行。

振り返り5題のうち、札幌医大の講義と重なったため聞けなかった2題を除いた後半の3題を報告。

整形外科研修中。寒くなってから手を押さえている高齢者が数名いる(雪道での転倒による骨折患者)。
日曜日夕刻、意識障害・発熱で救急搬送された入院となった91歳男性。肺炎患者という触れ込みで呼ばれた。1週間前から食事摂取できず、37度の発熱。寝たきり、反応が低下したため受診。咳・痰などなかった。既往;肺炎球菌肺炎で入院。胸部大動脈瘤。ここで意識障害の鑑別診断。誤嚥性肺炎、慢性硬膜下血腫、脱水、尿路感染症、肺塞栓、等が挙がった。開眼しており、呼びかけに応答。JCS-1ケタ。BP;127/84mmHg, HR:90/m, SaO2:90%, 心音、肺音:異常なし。皮疹なし。四肢まひなし、感覚障害なし。WBC;6900, CRP;7.8,Na;150, K:3.2, BS;90mg/dl, ECG;大きな異常なし。
胸部CTをコンピュータ上で見ることができなかった。XPで浸潤影あり。大部屋に入院させて、血液培養、尿培養、抗酸菌染色を指示。検査技師を呼ばず、一般抗菌薬で治療開始。翌日、コンピュータ上でCTを見たところ過去になかった空洞が散見された。前回の入院のとき、器質化肺炎としてステロイドを投与されていた。抗酸菌染色が陽性で結核と診断。(胸部CTを供覧)。
振り返り:当直医の肺炎という情報を鵜呑みにして再検討しなかった。結核を全く考慮に入れなかった。「魔がさした」。高齢者の肺炎に結核を入れていなかった。ある病院では、肺炎と診断された患者は全員肺結核を否定してから入院させている。病院全体としての感染症対策システムを構築する必要を感じた。今回はされなかったが、高齢者の肺結核について文献検索が必要であることを参加者から指摘された。
クリニカル・パール:「高齢者を見たら結核と思え」、「結核は忘れたころにやって来る」。

ニポポ卒業生:家庭医試験合格の報告。ブログは振り返りのツールになりうるか?質的研究のやり方をパロディとして報告。ポートフォリオは未来に活かすツール。佐藤健太先生のブログはすごい。ブログは続けてゆきたい。地域医療万歳と言いながら、来年に突撃してゆきたい。ブログの効用について様々な意見が出された。

麻酔科での研修内容を報告。便潜血陽性で診断された患者。右大腸癌切除術を施行されたが、未告知で、発作性心房細動、脳梗塞後遺症がある。本人は他人任せ。娘が手術希望。このような場合、皆さんはどうするか?


今回は忘年会もその後に控えていたため、参加者も多く、報告も多かった。若者たちとディスカッションするのは楽しい。忘年会は時期ニポポ研修医も参加し、1年間の苦労をねぎらってお開きとなった。(山本和利)

2010年12月14日火曜日

臨床哲学講座

『わかりやすいはわかりにくい? 臨床哲学講座』(鷲田清一著、筑摩書房、2010年)を読んでみた。

難しい内容を難しく話す人(学者)は多いか、それをわかりやすく話す人は少ない。著者は数少ない後者である。
本書は、意味について、ふるまいについて、人格について、生理について、ホスピタリティについて、責任について、自由について、コミュニケーションについて、弱さについて、家族について、市民性について、知性ついて、等を分かりやすく掘り下げて解説してくれる。

「ホスピタリティについて」の章では、待つことについて考察している。現在は、待つことがなくなった。携帯電話の普及で待ち合わせの場所で待つ必要がない。TVコマーシャルの終わるのが待てない。母親は子どもの成長が待てない。大学も「評価制度」を導入して、長期間の成果を待てない。

「待つことの大切さ」を説いている。「訪れを待つ」、「寝かせる」も同義である。期待して待ってはいけない。「イニチアチィブの放棄」である。待つとは苦しいことである。なかなか報われない。期待することを断念し、祈るようにして待っていた事柄をも諦める中ではじめて、本当の待つが始まるという。(私の場合、新たな教室員が入ってくれるを待つのが辛かった。ニポポ・プログラムに研修医が入ってくれるのを待つのも辛かった。できることをして待つしかないのだが・・・。)自分を「待つ者」としてはなく、「待たれている者」として受け止める。相手を立てること、相手が一番心地の良く思う状態へともっていってあげること。これがホスピタリティの思想である。

「知性について」の章。一番大事なことは、既にわかっていることで勝負するのではなく、むしろわからないことのうちに重要なことが潜んでいて、そしてそのわからないもの、正解がないものに、わからない、正解がないまま、いかに正確に対処するかということなのである。(総合医・家庭医の対応に似ている)。それなのに現実では二者択一を迫られ、即答を求められる。必要なことは、同調できない者と意見を摺り合わせてゆく対話の技量である。

本書を読み進めると、現実の問題解決にとまどい、一歩も前に進めずいる自分自身が、それでいいのだと慰められる。不思議な本である。(山本和利)

地域再生の罠

『地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか』(久繁哲之介著、筑摩書房、2010年)を読んでみた。

地域再生策のほとんどは、「成功事例を模倣する」という発想に基づいているが、それには2つの欠陥があるという。1)専門家が推薦する事例は、実は成功していない、2)稀な成功事例は異国や昔の話で模倣が極めて難しい、ということである。

大型商業施設への依存が地方を衰退させる。地方固有の文化や資源を活かそうとする「市民の営み」に求めるべきである。街を見る者には「視察」ではなく「体感」することが求められる。地域再生の施策は「提供者側の中高年男性」だけで策定されることが常態化している。それが一番の問題である。アンケートの8割は結論が事前に決まっているので参考にならない。施策者は失敗に目を向けないし、責任を取らない。ないものねだりをして、地域にある資源には無関心である。モデル地区を褒めそやす提灯持ち。車優先空間が空き店舗をさらに増やす。女性グループや若者の会話に耳を傾ける方が余程役立つ。

著者の提案:1)人優先空間を作る、2)市民が安心して連携・参加出来る仕組みを創る、3)利益は個店単独ではなく、地域全体で出す、4)大型店やネット店と戦わない戦略を構築する。宇都宮の「ギョウザ、カクテル、ジャズ」、松江の「水の都、カフェの街」。ブランド化で豊かになれるのは一部の産業者だけ。オヤジ視線のない店が大人気。オヤジ色に染まる地域はさらに衰退。首長の意欲が役場を変える。市民の足を斬り捨て、駅前開発を優先。鉄道廃線後の地域は著しく衰退する。人より車を優先する都市は衰退する。

市民と地域が豊かになる7つのビジョン。1)私益より公益、2)経済効果より人との交流、3)立身出世より対等で心地よい交流、4)箱物より市民が優先される地域作り、5)市民の地域愛、6)交流を促すスローフード、7)心の拠り所となる居場所。

著者は、特にスローフードとスポーツクラブによる交流の場を強調している。住みたいと思わせる地域でないと医師も行かない。地域医療再生の前に地域再生が求められる。我々医師はどうか関わればよいのか。試行錯誤を続けたい。(山本和利)

地域医療講義:総括

12月14日、札幌医科大学医学部4年生を対象に「地域医療講義:総括」というまとめの講義を行った。
導入はいつもの如く、映画の一場面から入った。北海道大学でも5月に行ったものと同じ内容。
・「洗濯ばさみを瞼に挟んでいる二人の少女の写真」。さて、どうしてでしょう?
・「小児悪性腫瘍がフランスの農村で増えているという話」を聞いて、さて、あなたが医師ならどうしますか?
・「家の前に山のような堆積物の前に立つ少年。」これは何でしょう?何をしているところでしょうか?
 そして、医療の話。
1961年 に White KLによって行われた「 1ヶ月間における16歳以上の住民健康調査」を紹介した。大学で治療を受けるのは1000名中1名である。

今、医師になる者に求められるものはなにか?
医学教育における視点の変化(ロジャー・ジョーンズ、他:Lancet 357:3,2001)を紹介。
研修医、総合医には、持ち込まれた問題に素早く対応できるAbility(即戦力)よりも、自分がまだ知らないも事項についても解決法を見出す力Capability(潜在能力)が重要であることを強調した。その根拠として、Shojania KGの論文How Quickly Do Systematic Reviews Go Out of Date? A Survival Analysis. Annals of Intern Med 2007 ;147(4):224-33の内容を紹介した。効果/治療副作用に関する結論は,系統的レビューが発表後すぐ変更となることがよくある.結論が変更なしに生き延びる生存期間の中央値は5.5年であったからである。(5年間で半分近くが入れ替わる)

N Engl J Med の編集者Groopman Jの著書 “How doctors think” (Houghton Mifflin) 2007を紹介。60歳代の男性である著者が右手関節痛で専門医を4軒受診した顛末が語られている。結論は“You see what you want to see.”(医師は自分の見たいものしか見ていない)。

Engel GLのBiopsychosocial modelを紹介。フィードバックする層構造のシステム。

後半は、地域医療再生の試みとして5つの作業仮説を紹介。
作業仮説1.さまざまな臓器専門医を養成する。プライマリケア教育2年。臓器専門教育→臓器専門医取得。彼らが地域医療もする、という案。現状に近いが実効性がない。
作業仮説2。臓器専門医を50%、総合医を50%にする。車の両輪のように。しかしながら総合医志望者が少ない。どちらにも人間力が要求される。ある年の総合医希望者:0.8%。
作業仮説3.若者に期待する案。初期研修終了後、8,000名全員が1年間は地域医療に従事する。
作業仮説4.医師集団の自主性にまかせる。都市部に集中。臓器専門医に集中。開業医の増加・病院勤務医の減少。地域医療に従事する医師がいなくなる。その結果、医者以外の者に地域医療を任すことになる。Evidenceのあるものはナースがおこなう。地域の人格者に、生活相談にのってもらう。
作業仮説5.総合医チームによる循環システム構築する。総合内科医をめざす若手医師の確保。全国から若手医師が集まるような魅力のある教育研修病院作り。

学生への課題として、地域医療再生プランを書いてもらったところ、「医師を増やしても地域医療は再生しない」という意見が多かった。短期間であれば、地域医療に従事したい、強制的にすべきであるという意見も散見された。

この「地域医療」講義を14回聴講して、地域医療・総合医・家庭医に興味を持つようになったという感想が寄せられている。企画者としてはうれしい限りである。(山本和利)

2010年12月13日月曜日

札幌市内の地域医療:医療の在り方

12月13日、旭町医院の 堀元進先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「札幌市内の地域医療」である。今年度は体調を崩され退院後の授業となった。

まず、辛くない授業を目指すことを宣言。札幌医大の臨床実習の様子を紹介。患者さんと一緒に歩むのが医師。学生;「心臓は動いてますヨ」、患者は「よかった」と答える、レベルから始まる。血液検査の数値の意味を理解して欲しい。AST,ALT:逸脱酵素、BUN,Cre:排泄されない、CEA;産生。

今回入院となった自分自身の症状は腹痛、持続する下痢。大腸内視鏡で回盲部に潰瘍病変が多数あり。検査データを示す。最終診断はクローン病。ここで鑑別診断を提示。メサラジン内服して炎症を抑える。ステロイドを併用。CBTの助けになればとあえて披露されたようだ。

在宅医療の話。「なんだか具合が悪い99歳の男性」血液検査でCRP;24。ポータブルXPで肺炎と診断。どうして在宅医療に行くか。在宅医療の機械がすごく進歩した。褥瘡への対応。出張入浴もある。胃瘻造設患者、気管切開患者、脳梗塞後遺症など慢性期の患者を医師・看護師が支えているのだ。

日本医師会の医の倫理綱領を提示。一言でいうと「医師は大変だが、ヒトの役に立つ職業である。」医師の卵の倫理綱領として、医の倫理綱領のパロディ版を提示。学生にとってわからないこと、覚えることが多すぎると共感を示す。学生も共感?医師になると自信がなくてもやらなければいけないこともあると主張。

「患者に希望を与える」。ALS患者は呼吸筋麻痺で気管切開。パソコンでコミュニケーションする。旅行が好きな患者を沖縄まで連れていった。医療者が患者の思いに寄り添うことが大事。

「患者さんの思い」を汲み取る。胃瘻、気管切開、肺がん、甲状腺がんで苦しむ患者さんのビデオを10分間提示。大学病院の医師を受診し、化膿性頚椎炎だったのにホットパックを処方された。学生へのメッセージ:面子を捨てて素直になって欲しい、患者のちょっとした言葉に耳を傾けて欲しい、とかすれた声で切々と訴えた。

「医師の眼」を広く、深く、遠くまで。ネパールの人々の生活している写真を提示。腹部膨満の患者の原因は寄生虫や細菌が多い。病院に行くことができない人も多い。骨折患者の牽引は建設用のブロックを使っている。

学生へのメーッセージ:やるべきことをやり、目標を見失わず、初心を忘れずに努力を続けるべき。試験に落ちるな!夢はその先にある。

学生には堀元先生や患者さんの訴えが伝わったようだ。感想文には、試験を通るように努力し、臨床実習では患者さんの声に耳を傾けたいという意見が多数寄せられた。堀元先生、楽しい講義をありがとうございました。(山本和利)

2010年12月12日日曜日

科学哲学

『ブックガイドシリーズ基本の30冊 科学哲学』(中山康雄著、人文書院、2010年)を読んでみた。

科学哲学に関する著作30冊を紹介している。科学哲学前史の章にあるアリストテレス『自然学』、ガリレオ『天文対話』くらいはついて行ける。アリストテレスの四原説は有名。地球中心の有限宇宙論はアリストテレスの自然論と天文論に基づいた説であるが、それに異を唱えたのがコペルニクスで、望遠鏡を用いて得られたデータからアリストテレスの宇宙論を批判したのがガリレオである。『天文対話』は架空の人物3名による4日間の対話から構成されているという。次のカント『プロレゴメナ』、マッハ『時間と空間』となるとついて行けず読み飛ばしたくなる。

章は「論理実証主義」、「パラダイム論」、・・・「個別科学の哲学」と続く。自分自身が馴染みのあるところを掻い摘んで紹介しよう。
クルト・ゲーデル『不完全性定理』で、有限のステップによりなされる証明の限界がどこにあるか明確に示した。
カール・R・ポパー『推測と反駁』で、ある理論に科学的身分を与えうるかどうかの判定基準はその反証可能性にあることを主張した。
大森荘蔵『流れとよどみ 哲学断章』で、二元論の伝統的構図を拒み、独自の哲学の営みを残した(私には読んでも理解できない)。
トーマス・S・クーン『科学革命の構造』の中で、パラダイム論を展開した。集団的認識論の試みであり、1970年以後の科学論に大きな影響を与えた。「通常科学」、「危機」、「科学革命」という科学活動の3様態がり、科学はこの3様態を繰り返しながら螺旋的に展開すると主張した。
アラン・ソーカル『「知」の欺瞞』で、有名雑誌に掲載された自分の論文が実はポストモダン風の科学批判を真似たパロディに過ぎなかったことを暴露し、「ソーカル事件」を引き起こした。

各テーマの終わりに日本語で読める参考文献が解説と共に掲載されているので、興味を待った読者にはその後の勉学の参考になろう。(難しい話をまとめるのは骨が折れる!)(山本和利)

漂着

『漂着』(小檜山 博著、柏艪舎、2010年)を読んでみた。

小檜山 博氏が5年がかりで書いた、日本の農業の悲惨な現状に対して怒りを込めて著したのが本書である。日本の農業人口が約300万人で、人口比2%しかなく食糧自給率が40%という。

滝ノ上から出てきて、札幌の三越前に座り込んで若い男と逃げた奥さんを捜すための登り旗を揚げる。その経過の中で、農業の悲惨な現状が綴られてゆく。マスコミに注目され、農業を軽視する評論家と主人公がテレビで討論する部分は面白い。話はどんどんとエスカレートし荒唐無稽な結論で終わる。

農民の子として生まれながら農業をせず、小説を書いている著者が後ろめたさも込めて書いた書でもある。農民の子として生まれ医師になった私に通じるところも多々ある。本書を読むことで、医療以外にも日本のアンバランスな面が多々あることを知る契機となろう。(山本和利)

アフリカの少年兵

『ジョニー・マッド・ドッグ』(ジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督:フランス 2007年)という映画を観た。

20世紀末のアフリカ・リベリア共和国の実話を基にしている。誘拐されて反政府ゲリラとされ、麻薬によって精神を破壊され、破壊行為・殺戮を繰り返してゆく様子は、まるでドミュメンタリー映画であるかのような迫力がある。

救いのない少年兵の姿に怒りを覚えるが、その背景には部族間抗争・天然資源の争奪・権力抗争など西洋や大人の欲望が絡んでいる。

少年兵とは対照的にもう一人の主役である少女の行動に救いがある。映画では映像的にも少年と少女が対比して描かれている。

現在のリベリア共和国は女性大統領を選出し、新たな一歩を踏み出しているという。それには女性の働きが大きいという。男達よ、仕事ばかりせず、平和のために立ち上がれ!(山本和利)

こんな日もある

12月10日、金曜日。外来がないので暇なはずであった。
朝、8:30に昨日診た新患のカンファランス。終了後メールを確認し、日本PC連合学会誌の総合カンファの原稿の校正を送る。
10:00飛び込みの面談。教務課職員と札幌医大の教育施設に登録システムについて検討。部屋を出たところで、製薬会社職員の製品説明に捕まる。そんな中5年生の必修臨床実習に来週来る予定の学生からの連絡がないという受け入れ施設からの情報が伝えられ、受け入れ施設の事務責任者と学生に電話連絡。それと別にある教官から、1年生の離島実習に参加した学生の服装の乱れがあったことに対する学生の書いた詫び状がお粗末ということで、どのように対応するか相談を受ける。そうこうするうちに12:00いつものヘルシー弁当を急いで食べる。
12:15 2年生の午前の授業の終了を待って、OSCE模擬患者役選抜を依頼するための説明のため、教室に出向く。
12:30 FLAT勉強会に参加し、コンピュータにワードで入力。
13:30 医学概論委員会に出席。次の仕事のため途中退出。
14:00 5年生の必修臨床実習をした6名の振り返りに参加(臺野巧先生、松浦武志助教、河本一彦助教も)。16:30参加した教員間で評価の打ち合わせ。途中、道内の有名研修病院院長が突然来室し、総合医派遣の依頼。待たせた非礼を謝りながら応対。
17:00北海道プライマリ・ケアネットワーク後期研修プログラム「ニポポ」の研修応募者の面接。
18:00研修応募者と駅北で懇親会。その際、このブログの内容を楽しみにしていると関係者からお褒めの言葉をいただく。
20:30帰宅。妻からこのブログを初めて読んだと言われる。「いかにも働いているように見えるわね」と妻。「働いています!?」(山本和利)

FLATランチョン勉強会:救急のCAB

12月10日、特別推薦学生(FLAT)を対象にランチョンセミナー勉強会に参加した。7名が参加。河本一彦助教が「救急医療のABC」の講義を行った。

まず救急医療と災害時医療の違いを学生に尋ねた。参加した学生は心肺蘇生術の実習を既に受けていた。導入として北米型救急救命室(福井県立病院)のビデオを供覧した。外傷患者が搬入されてきた。高い所から落ちたのに痛みを訴えない患者。実はくも膜下出血であった。トイレの前で突然意識消失した患者。冷や汗を見て、低血糖発作を疑う。8時間ごとの交代勤務が必要。家庭を大事にする医師を紹介。

2005年4月25日に起こったJR尼崎脱線事故を紹介。その写真から感じることを述べてもらった。7両編成なのに6両しか映っていない。(1両はマンションの地下に埋まっていた!)トリアージ(ふるい分けをする)。沢山の被害者がいる。受け入れが大変。

NPO大阪ライフサポート協会のサンプルムービーDVDを供覧。「生きている状態」とは?心臓が動いている。呼吸している。(空気の通り道が必要)
ポイント; 2010年からABCからCABに変わった。「あえぎ呼吸。しゃくりあげるようなとぎれとぎれの呼吸」をみたら心臓マッサージをする。胸骨圧迫 100回以上/分が大事。数曲聴いてもらう。ドラえもんの歌が100/分、「勝手にシンドバッド」は140回/分なので早すぎるので駄目。(心臓拍出量を確保できないから)。「いい日旅立ち」は110回/分、歌詞がよくない?
救命の連鎖(Chain of Survival)が大事:迅速な119番、迅速な心肺蘇生法、迅速な除細動、迅速な高度救命処置。

ユーモアを交えた楽しい講義を楽しんだ。(山本和利)

2010年12月8日水曜日

地図は現地ではない

12月7日。4年生に地域医療のシリーズ講義のなかで「地域診断」レクチャーを行いました。

地域をよく知ることから地域医療は始まります。という導入から地域視診、COMMUNITY AS PARTNER MODEL、Asset mappingなどの手法を通して地域で医療をただ行うのではなく、地域に住み、地域住民として医療を行う視点について説明。

ボランティア組織などに市民生活に参加することの重要性の説明、そして、「あなたを助けるためにあなた自身、あなたの家族そしてあなたの地域を知りたい」コージブスキーの「地図は現地ではない」とのしめくくり、医学生にとって、今後一つの指標になればと願ってレクチャー終了。(寺田豊)

松浦武志先生着任!

12月1日より採用されることとなりました、松浦武志と申します。
簡単に自己紹介をさせていただきます。

1975年愛知県生まれ。医学部1年の時、旅行で北海道を訪れた際、オホーツク海を埋め尽くす流氷と、全面結氷した摩周湖の美しさに感動し、北海道移住を決意いたしました。その後学生時代に北海道を延べ11回旅行し、大学5年生の時には自転車で道内を30日かけて1500km走破しました。また、ガイドブックに載るような観光地はほぼ制覇し、行くところがなくなったため、通常の観光ではない山登りにはまり、大雪・東大雪・十勝・樺戸・天塩・利尻・礼文・知床・斜里など、日高山系以外はだいたい制覇いたしました。

現在は子育てのためなかなか山登りには行けませんが、山スキーを練習中です。学生時代は山岳部でもなく、自転車部でもなく、人と違ったことをしてみたいと思い、馬術部に所属していました。金持ち倶楽部のイメージがありますが、全くイメージとは違い、馬の養育費はすべて学生のバイトで稼いでおりました。バイトと、オガ粉と糞にまみれた学生時代でした。卒業にやや時間を要した大きな理由でもあります。

将来は、医師になろうと思った原点である、道東・十勝・オホーツク地方で、地域医療の最前線で診療がしたいと思っています。

これまで、通常診療の傍ら初期研修医や後期研修医の指導を主にやっておりましたが、自己流なところも多く、一度学問的に医学教育を勉強してみたいと思ったことと、いろいろな地域で実際に奮闘されておられる先生方と交流してみたいとの思いからこちらの講座にお世話になることにいたしました。

専門は特にありませんが、日本内科学会の内科認定医・総合内科専門医を取得いたしました。得意分野は糖尿病と感染症です。
まだまだ若輩者ではありますが、どうぞよろしくお願い致します。

2010年12月7日火曜日

ロスト・シティZ

『ロスト・シティZ 探検史上、最大の謎を追え』(デイヴィッド・グラン著、NHK出版、2010年)を読んでみた。

伝説の南米アマゾン探検家パーシー・ハリソン・フォーセットについて書かれた本である。フォーセットの時代のことと著者の南米での奮闘が交互の章に書かれている。フォーセットは謎の都市Zを発見するため、1906年から1925年までアマゾンを探検し、1925年の探検を最後にアマゾンで失踪している。その軌跡を追ったものである。

アマゾンの生物や植物の生態がすごい。毒虫、毒魚、病原体を媒介する蚊。こんなところによく住めるものだと思う。本書は、伝記であり、紀行文であり、サスペンスである。ブラド・ピットが映画権を取得したという。面白い映画が期待できそうである。(山本和利)

虫物語

『隠れた指/虫物語』(李清俊:イ・チョンジュン著、靑柿堂、2010年)を読んでみた。札幌市立図書館の新着コーナーにそっと置かれていたものである。

著者は、映画『風の丘を越えてー西便制』の原作者である。韓国では様々な文学賞を獲得している。虫物語を読んでいてはじめて、本作品が私の大好きなイ・チャンドン監督の撮った「シークレット・サンシャイン」の原作であることを知った。

息子を殺された女性が、宗教に救いを求める。犯人が逮捕され、やっと宗教を通じて心の平穏が訪れる。死刑執行を前にした犯人に会って、許そうと面会にいったら既に犯人は入信して、神に許されていた。一歩的な加害者の暴力に対して、被害者である女性は、絶対的存在である神に先を越されて許すことさえできない。どうすることもできない弱者としての人間の絶望を扱っている。

本書は30分で読める。イ・チャンドン監督の「シークレット・サンシャイン」もお勧めである。(山本和利)

多様な意見

『「多様な意見」はなぜ正しいのか』(スコット・ペイジ著、日経PB社、2009年)を読んでみた。

複雑系の専門家が書いた「多様性」の謎に挑んだ本である。 副題は「集愚が集合知に変わるとき」である。久しぶりに出会った名著である。組織変革を目指す人には一読をお勧めする。

「4つの枠組み」が基本となる。観点、ヒューリスティック、解釈、予測モデル。

まず観点が重要である。正しい観点は難しい問題を簡単にしてくれる。革新するためには新しく多様な観点を生み出す必要がある。他分野の人の意見を入れること。例として、金属の並べたかを挙げている。メンデレーエフが金属への原子番号を導入することによって周期表を作り、それを見て元素の作る構造を目の当たりにする(はじめあった空白もそれを埋める新元素が発見された)。正しい観点によって問題が簡単になる。観点とは、現実から一つの内的言語への写像で、物事、状況、問題、出来事にそれぞれ固有の単語を写像させるようなものである。例:何進法、デカルト座標と極座標。

ヒューリスティックは解を探す方法ということである。誰かがある問題を違う風に観る。ヒューリスティック(近道思考)は希望を与えてくれる。新たなヒューリスティックは、観点が作り出した箱の中に予想もしない動きを生み出す。観点は解釈の基礎となる。例:緑色のケチャップ。ペプシコーラがコカコーラに対抗するため2Lサイズを採用

予測するにはモデルが必要である。観点に基づく解釈をカテゴリ化という。粗い解釈に基づく予測モデルではたいていが不正確である。

多様性が能力に勝る。多様な観点とヒューリスティックは、楽しさの原動力になる。一様の集団はたった一人の人を含んでいるのと変わらない。問題解決に取り組む組織は、多様な観点とヒューリスティックへ変わる多様な経験・訓練・アイデンティティを持つ人たちを探すべきである。

「多様性予測定理」、「群衆が平均を負かす則」多様な群衆は各個人の平均より必ず正確に予測できる。群衆はその中の人より良く予測できる。興味のある人は本書の熟読を。簡単な統計手法を用いて、証明している。

優秀な能力を持つが均一な集団だけで知恵を絞るよりも、意見の異なる多様な人が集まって意見を出した方が、名案がでるということである。地域医療がよくならないのは、医師や一部の官僚だけで考えているからではないか。自治医大の尾身茂氏が多様な国民を集めて、この問題を打破しようとしている。期待したい。(山本和利)

2010年12月6日月曜日

特別推薦枠学生の教育視察


12月6日、富山大学地域医療支援学講座・医学教育学講座一行6名の視察を受けた(有嶋拓郎教授、廣川慎一郎教授、山崎勝也准教授、藤浪斗助教、他)。
当教室が関わる特別推薦枠学生の教育の仕方やあり方について2時間半にわたり意見交換を行った。
どの大学も制度は作ったが、それをどう運用して学生を教育してゆくかは明確な方針がなく、現場での試行錯誤に委ねられていることを再認識されられた。
 終了後、熱心に討議をしすぎたため電車の時間を気にしながら慌ただしく視察団一行は旭川医大へ向かわれた。今後とも様々な方々と積極的な交流を続けてゆきたい。(山本和利)

暖かな医療


12月4日、北海道保険医会 創立60周年記念フォーラムで諏訪中央病院名誉院長鎌田實氏の講演を拝聴した。講義のタイトルは「日本の医療をどう支えるか」である。

「暖かな信頼が得られる医療」が基本である。医療崩壊と言われているが、まだ土俵際である。一瞬経済で世界一になったが日本人は幸せでない。政治のリーダーが出て来て欲しい。この10年政治家は言い訳しか言っていない。小泉政権は米国の真似ばかりしている。教育、医療、雇用、子育て、福祉に、暖かい血を通わせなければならない。

パレスチナへ行ったときの話。300名の子供がある年の正月に殺されている。12歳の子供がイスラエル兵士に狙撃され、脳死状態でイスラエルの病院へ収容された。脳死と判定され、イスラエル人へ臓器提供を父親が申し出た。その父親に面談してきた。心臓移植を受けた少女の家には、殺された12歳の少年のポスターが飾られていた。少女の母親は「感謝している」が、被害者の父親に「さぞ辛いでしょうね」という共感の言葉をかけた。少年の父親は少女に会えてうれしいが「喜びは半分だ。平和が来ていない。」少女は医師になりたいという。政治や権力では平和をもたらすことができなかったが、その可能性があるのは医療である。この話から言えることは、この臓器移植を通じて単に臓器としての心臓だけでなく心が移動している。

いい医療があると町が活性化する。病院があることでバランスが取れる。脳卒中、医療費が減る。じいちゃんが白血病の「たぬきのばあちゃん」に世話になった。医師と住民が大事にされたり大事にしたりすることが必要。お互いさま。生活者としてその人がやれていることが大事。患者は本音をなかなか言ってくれない。

鎌田氏にまだ髪がフサフサシテいる時代に、日本で初めてday careを始めた。暖かい医療が基本。日本に欠けているのは暖かな気持ち。「強くて、暖かくて、やさしい国、日本」を作れるはずである。自己決定をしない、周りの空気を読む、あやふやな日本人が多い。NHKで放送された訪問診療を扱った「心の遺伝子」を紹介。研修医の言葉:「鎌田先生は、受けながら包んでゆく」。住民が研修医に対して「暖かさを受け継いでゆきなさい」と伝えてゆく。住民が一緒になって医師を育てる。生きがいをもつことが大事。六花亭のバレンタイン・チョコレート(いのちをつなぐチョコレート)の話(収益がイラクへの薬の義援金となる)。癌で死んだ少女が絵を描いている。その少女の言葉、「私は死ぬけど、幸せでした。私の絵が他の病気の人のためになってうれしい」。自分の困難や不幸を横に置ける。

赤の他人の「両親」に育てられたことに対する恩・感謝が鎌田氏の原点になっているということが伝わってくる講演であった。夫婦で拝聴したが、二人とも元気をもらい、今後の生き方について大変参考になった。

写真は別の機会に撮ったものである。(山本和利)

2010年12月2日木曜日

偶然とは何か

『偶然と何か その積極的意味』(竹内 啓著、岩波書店、2010年)を読んでみた。

著者は長く統計学、経済学、科学技術論の研究に携わってきた。その著者が、確率論の導入によって「偶然」は克服されたという考え方に対して、自然の認識にしても人間の生き方としても正しくないという論点に立って書いた本である。

偶然と必然とは対の概念。必然でないことが偶然である。本書では偶然を科学と人間の現実生活の観点から言及している。ここでは起こったことについて、科学的・論理的に必然性が示されないような事象を偶然と定義している。

ニュートンの宇宙ではすべてが必然である。アリストテレスの4原因のうち、質料因(質の違い)、目的因(神の意志)、形相因(完全な形になるような秩序がある)は否定され、動力因(万有引力の法則)だけが近代科学では認められている。

デカルトの心身二元論:心が物理的法則に従う身体とは独立のもの(2つの原理が存在することになる)。これは一元的な決定論と矛盾する。ラプラスは、偶然は人間の無知から生じるが、「確からしさ」を知ることができるので確率の数学的理論を展開した。

偶然を発生させるメカニズム
1. 初期条件のわずかな違いが結果に大きな違いをもたらす場合。
2. 2つ以上の互いに無関係な因果関係が同時に働くことによって生じる場合
3. 微細な多数の原因として生じる連続的変動
確率
「多くの偶然現象が積み重なれば、偶然的な影響は互いに打ち消し合って一定の傾向が現れる(中心極限定理)」
「それでも残る偶然的な変動部分は釣り鐘型の分布になる(大数の法則)」
賭博者は必ず破産する。

論は「偶然にどう対処すべきか」、「歴史の中の偶然性」と続くが、自分自身の生き方に積極的に取り入れるべき視点に出会うことはなかった。(山本和利)

2010年11月30日火曜日

総合診療について

11月30日、江別市立病院の 濱口杉大先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「総合診療について」である。先生は蚊や虫が好き。熱帯医学が一番の興味とのこと。

まず、医学生のこれからについて語られた。卒業→医師国家試験合格→臨床医学(または基礎医学)→臨床初期研修(2年間)→(自由の身)→(大学医局→市中病院派遣→大学院・留学→大学勤務→教授)または(後期研修→病院スタッフ→市中病院部長・開業)

ここで「学会って何?」を語る。同じ専門科の医師たちが、いろいろやろうと集まって作った団体(日本内科学会、日本外科学会など)。ほとんどの医師は自分の専門科の学会に入る。それぞれの科の専門医制度を作って試験をする。運営資金は年会費と試験の受験料などであり、年に何回かは集まって症例発表会をする。

医師免許は国が出す。すべての診療行為ができる。終身資格である(生活に困らない)。
専門医は各学会が出す。更新が必要であるが簡単。
博士号(学位)は大学のポストに就くのに必要。純正博士と論文博士がある(差がない)。

ここから総合医療の話。そうは言っても、わかりにくい。
プライマリケア医とは、どの分野においても初期の対応をする分野(眼科のプライマリケア、整形外科のプライマリケアなど)。プライマリケア学会に属している。とどのつまり、開業医(以前は臓器別専門医)のことで、日本医師会員のほとんど。
家庭医療医(家庭医)とは、診療所などで様々な分野の外来診療を行う医師で専門は「あなたの専門」。Family medicine(家庭医療)は米国発祥。米国帰りの広い診断・治療学を中心にscienceを重んじるグループと、純正日本の僻地医療を通して独学し、患者中心の医療としてphilosophyを重んじるグループの2つに大きく分かれ、多くの医師はその2極間のどこかに位置する。現在、人気上昇中。
総合診療医とは、入院病床のある施設で、外来・入院・訪問診療などを行う医師で、多くは総合内科医。米国帰りの家庭医もこちらに属していることが多い。大学の総合診療科や一般病院の総合内科に勤務。臓器別にしにくい横断的な救急診療や感染症診療との結び付きが強い。入院診療をするため疲弊しやすく人気がない。発祥は天理よろづ相談所病院。その他沖縄中部病院や市立舞鶴市民病院、佐賀医科大学。総合診療科というのは、多くの場合総合内科である。2010年度に3学会が統合された。

総合内科とは、主に入院設備のある病院で、内科全科の診断、治療をおこなう科である。
診断学が得意(独特の診断法をもつ)で、病歴聴取、身体診察を大切にする。感染症が得意。医学教育が充実している。ICU管理が得意。内視鏡などの手技もおこなう。ベッド数100床規模の病院が一番の活躍の場である。
ここで症例を提示。 20歳男性 陸上自衛隊員(生来健康)。発熱、全身筋肉痛で入院して10日間経過。血液検査、レントゲン、CT、MRIなどで診断がつかない。抗菌薬などを様々使っても軽快せず、総合内科に紹介。患者さんは猿のように毛深かった。後期研修医は病気になる前に何をしていたのかは聞いて10分で診断がついた。(ダニを介するライム病、スピロヘータが身体に入るのに2日間かかる)

北海道では医師の絶対数は多いが地方の入院病床をもつ病院で働く医師の数が激減している。研修は大学病院よりも研修病院でおこなわれる傾向がある。北海道では医師の絶対数は多いが地方の入院病床をもつ病院で働く医師の数が激減している。

地域、特に僻地と江別市立病院の医師チーム(4名)の循環システムを提案したい。この循環システム構築に必要なものは、「総合内科医をめざす若手医師の確保」と「全国から若手医師が集まるような魅力のある教育研修病院作り」である。

総合内科研修システムの概念
研修とは与えられた機会(chance)であり、指導と評価によって支えられている。機会だけあっても駄目。指導と評価が重要である。外部講師の招聘。江別市立病院だけでは全道はカバーできないので、名寄、北見、砂川、富良野、帯広、釧路、函館などの約300床程度の総合病院に総合内科を設立し、そこに指導医を派遣し地方病院で勤務できる若手医師を育て、それぞれの病院から循環型システムを使って医師群を地方病院に短期派遣する。これができた暁には途上国にも循環型で医師を派遣!

学生へのメッセージ。「是非、好きなことをやってください!」“英語の勉強と貯金” 
この2つをやっておくと、いざやりたいことが決まった時にとても役に立ちます。

学生の感想を読むと、将来の進路について詳しくわかったこと、総合診療の中にもいろいろあると知ったこと、地域医療再生の方法を提示されたことなどを高く評価していることがわかった。(山本和利)

2010年11月29日月曜日

ミミズの話

『人類にとって重要な生きもの ミミズの話』(エィミー・スチュワート著、飛鳥新社、2010年)を読んでみた。

ミミズと言っても土の中にいる気持ち悪い虫としか認識していない者が多いのではなかろうか。ところが、本書を読んでみて、「地下で起きていることの大部分の鍵を握っているのはミミズである」ことがわかる。ダーウィンからミミズの研究『肥沃土の形成』が始まったという。土地はミミズによって繰り返し耕され、現在でも耕されているので、カルシウム不足対策に重要な役割を果たしている。地中深くまで通気性がよくなるし、植物の根が伸張しやすくあるし、養分も得られる。ミミズ1匹の腸管内には50種類もの細菌が住んでいる。

土壌生態系においてミミズは強大な影響力をふるう存在である。ミミズは死ぬと瞬く間に分解されてしまう。ミミズは皮膚で呼吸する。眠らないらしい。ちょん切られたミミズが再生するのは片側だけである。ミミズは頼もしい益虫にもなれば、恐ろしい害虫にもなる。ミミズは生態系のエンジニア。ミミズは危険をいちはやく告げる「炭鉱のカナリア」となって、土壌や地下水中に含まれる汚染物質がどの程度悪影響を及ぼしているかを明らかにしてくれる。処理施設から出るバイオソリッドをミミズに食べてもらえば、臭いが軽くなるうえ、土の粒も均質化し、栄養分の富んだ土になる。

この本を読んでから、ミミズを見つけたとき持ち帰って、そっと家の畑に入れてみた。(山本和利)

ランドラッシュ

『ランドラッシュ 激化する世界農地争奪戦』(NHK食糧危機取材班著、新潮社、2010年)を読んでみた。本書は、NHK食糧危機取材班がテレビ番組取材のために使ったものを本にしたものである。

長年放置されたウクライナ、ロシアの農地が韓国、日本、ニージーランド等に買い取られてゆく。日本商社が慎重を期して検討している間に世界最大の造船会社である韓国企業が1万ヘクタールの農地を「かっさらう」形で手に入れる。韓国の穀物自給率は27%。ソウル近郊の農地は工業地になってしまっている。農業人口は年々減り続け、高齢化が急速に進んでいる。まるで日本とそっくりである。

アフリカはランドラッシュの最前線だ。エチオピアの話。政府職員が来て農民に、水道・電気の整備や職場提供を条件に土地を手放すように促す。インド企業に渡った後、条件は反故にされる。外国企業が大規模に食糧生産をしているのに、エチオピアは慢性的な食糧不足に苦しんでいる。農民や国民が苦しんでいる一方で、ランドラッシュは受け入れ国政府にとっては外国からのありがたい投資にほかならない。

ランドラッシュを引き起こした病巣は、国際機関による「米国びいき」が原因であるという意見がある。途上国が「輸入依存体質」から脱却することは、米国・カナダ・オーストラリアが「余剰農産物のはけ口」を失うことであるからだ。「飢餓や栄養不良の原因は、『生産量の不足』ではなく『貧困と不平等』だ」「大規模な農業投資は、アンバランスな競争をもたらし、農村社会を崩壊させる恐れがある。」「ランドラッシュ」は新しい植民地主義だという意見もある。

ランドラッシュは地殻変動の表層に現れた現象ではないか。「米国びいき」が崩壊する前触れであると。

医療について考えてみよう。地域医療の崩壊は何かの前触れなのか?「何の崩壊」なのか?「専門診療偏重?」今を乗り切れば光が見える!総合医に、地域に、国民に。私はそう考えたい。(山本和利)

北海道家庭医療フォーラム2010

11月27日、道内の日本家庭医療学会認定後期研修プログラムの運営 組織・研修医間の交流、情報交換、お互いのレベルアップを図り、「北海道では家庭医療・地域医療が活発に行われている!」 「家庭医療を研修するなら北海道だ!」のイメージ作りを行い、北海道の医学生・初期研修医への家庭医への興味を引き起こすことを目的に「北海道家庭医療フォーラム2010」がかでる2.7で行われた。対象は、医学生および初期研修医。
広場1-6を準備。時間経過に沿って紹介する。

広場2は「頭痛の患者さんがやってきた」講師:木村眞司先生。
○×△で答えてもらう。まず人物の年齢を当てる。鳥の名前。42歳の女性。頭痛でときどき寝込んでしまう(片頭痛)。35歳男性。時々吐く(片頭痛)。じっとしている(片頭痛)。毎晩痛くてのたうちまわる若い男性(群発頭痛)。一番多い頭痛(緊張型頭痛)。締め付けられる感じで肩こり(緊張型頭痛に特異的ではない)。時々起る頭痛(緊張型頭痛)。片頭痛で両側が痛む(40%)。片頭痛の性情は拍動性である(×)。

広場3-1は家庭医療シュミレーション体験。「胸痛の患者さんがやってきた」講師:松浦武志先生。
60歳男性。胸痛。苦悶様。この病気は何か(急性心筋梗塞)。72歳の男性。前胸部が引き裂かれるような胸痛。苦悶様。(解離性大動脈瘤)。21歳男性の胸痛。突然、息をするとき痛む、息苦しい(自然気胸)。年齢・性別・主訴・背景からおおよその疾患のあたりをつける。30歳男性。自衛隊員。シクシク痛む。食欲がない。便が黒い(消化管潰瘍)。16歳女性の胸痛。いろいろ調べてわからない。朝起きると胸痛(身体表現性障害)。家庭医は診断のスペシャリストである。

広場3-2は「腹痛の患者さんがやってきた」講師:小島一先生。27歳女性の下腹部痛。頻尿、発熱。月経、妊娠について訊く(骨盤内感染症)。鑑別診断は、PID,憩室炎、卵巣捻転、子宮外妊娠、虫垂炎、等。PCR検査をする。妊娠反応陰性。PIDに特異的な所見は?(頸部を動かした時の痛み)「SEXしていない」というひとは妊娠しない(NO)。その他のSTIのスクリーニング、パートナーの治療と教育が大事。27歳の女性に必要な健康に関することは無限にある!疾患だけを診るのではない。

広場3-3は「在宅シュミレーション体験(在宅医療を体験してみよう)」講師:安藤高志先生。人口10万人の都市の診療所。「家の中で転んで歩けない」という電話。ここでの注意:診察鞄の道具確認、患者宅へ電話、免許証、携帯電話、財布。家の前で注意:立地条件、家の広さ、隣との距離、入り口(重要)、駐車場所。家の中で着目:玄関の段差、狭くて暗い廊下、電気コード。 部屋の中で着目:襖の段差、敷物の隙間、暗さ。自宅で点滴するとき必要なもの:ハンガー(紐、画鋲)。家の中に飾られている物に着目する。病院とは違った視点でヘルス・アセスメントをする。       

広場1はポスター発表。9のプログラムから発表があった。発表3分、質問2分。優秀なものを表彰。

広場4は公開講演「家庭医って何?(家庭医を知ってもらおう!)」 奈義ファミリークリニック所長 松下明先生の講演。 なぜ家庭医を目指したか?現在20年目。無医村で働くための専門科がない。そんなときRakelの「Family Medicine」という本に出会った。川崎医大総合診療部で5年。ミシガン州立関連病院で3年。行動科学という科目があった。人口6,500名の町。奈義ファミリークリニックへ。電子カルテで家族図が描ける。9名の家庭医。よく診る疾患の紹介。写真を使って後期研修医の活動の紹介。病院、自衛隊へ出張、往診。手技編。地域活動編。
家庭医を特徴つける3本柱
1)患者中心の医療
2)家族志向のケア
3)地域包括医療;予防医学、学校医、産業医、老人ホーム嘱託医。
行動変容の話。椅子の高さや視線、仕草で相手に波長を合わせる。驚いてほめる。プランは患者自身に立てさせる。重要度と自信度を訊く。怒りを表す患者に対して理解を示すことが重要。
家族志向のケア:家族の木をイメージ(家族図を描く)。家族ライフサイクル。それぞれの時期で発達課題がある。5段階ある。
生物・心理・社会モデル(G.Engel)の紹介。ターミナルケアの事例を紹介。
幕の内弁当仮説。家庭医療はバランスのよくとれた「おいしい」幕の内弁当に似ている・小さいがおいしいおかずは小児科・整形外科・皮膚科。患者中心の医療は医師患関係という白米に味をつけた混ぜご飯、癖になる味。家族と地域に目を向けた診療は弁当に「温かみとよい香り」を与える。

広場5はパネルディスカッション「テーマ;北海道での家庭医療の展開(どうすれば家庭医になれるの?)」 各プログラムの責任者への学生の質問。「多職種との連携」をどうしたらよいか?
急性期と慢性期で職種が異なるが連携は大切。連携パスを作成している。ボランティア実習に参加することを推薦。幅広く現場を見ること。多職種カンファランスに参加する。
「学生時代に打ち込んでいて、今役に立っていることは?」診療所の実習・見学。COML
との出会い。患者の生の声を聞いたこと。ケースから学ぶこと。日本PC連合学会に入ること。
学生が参加しやすい企画を増やしてほしい。

広場6は総括。 No1ポスター発表、家庭医問題の優秀解答者の発表(金メダル受賞は札幌医大3年内山博貴さん)最後は参加者全員で記念写真撮影。

場所を中華料理店に場所を移して懇親会。学生参加者全員から感想をもらった。大変好評で、来年度も充実した企画をしたい。(山本和利)

2010年11月26日金曜日

FLATランチョン勉強会

11月26日、特別推薦学生(FLAT)を対象にしたランチョンセミナー勉強会に参加した。16名が参加。医療面接その4として寺田豊助教が指導を行った。

まず復習から。患者役と医師役を割り振ってロールプレイ。咳、熱、全身倦怠感を訴える女性。滑る椅子と固定された椅子。どちらを選ぶか(医師役が滑る方がよい、危険のため)。1年生と3年生。医師主導型のシナリオを読みながら。Closed questionが多い。寺田豊助教はOpen ended questionをはじめに3回くらい繰り返すことを強調した。乾いた咳ってどんな咳?熱があるって何度をいう?2か月続く咳?Xpで陰がある。思い浮かぶ疾患は?「結核」「咳喘息」「マイコプラズマ肺炎」はあるかもしれないと考える。「アレルギー」。職業・家の様子を知りたい。答えは「過敏性肺臓炎」。病気の解説。有機粉塵によって起こるアレルギー疾患。日本では夏に出るタイプが多い。真菌が原因。

後半はサービス・ラーニング(教室における学習と地域における奉仕活動を組み合わせた学習法、体験教育)の話。
寺田豊助教の医学部時代の体験談。1年目:訪問看護、ヘルパー体験、おむつ体験。看護学科の学生と勉強会。KJ法。2年目:難病連、患者会(COML: Consumer Organization for Medicine & Low、がんの子供を守る会、市民と共に創るホスピスケアの会)に参加。ボランティア活動。ひまわり号(障害者がJRに乗って外に出る臨時列車)。3年目:緩和医療を考える会の設立。4年目:勉強会。鍼灸の勉強のために盲学校へ出向く。人との出会いがある。

最後に、中村哲氏の本「医者 井戸を掘る」を紹介。冬季早期臨床体験学習できる施設を紹介。その後、3年生からこれまで行った早期臨床体験の報告をしてもらった。(山本和利)

2010年11月21日日曜日

道立羽幌病院支援


11月17,18日、札幌医科大学の支援チームの一員として羽幌病院に赴いた。前日18:00札幌発特急バスはぼろ号で出発。途中トイレ休憩を入れて羽幌まで3時間。バス停前の旅館に宿泊。宿帳記載時に専門科を訊かれる。「総合診療科?」「そんな科があるのですか?」と昨日札幌医大の内科と耳鼻科を受診したという旅館の従業員と会話を交わす。住民は札幌を目指し、医師がその羽幌へ支援に来る。何かチグハグである。

17日、朝、旅館から病院まで20分ほどの道を歩いてみた。人影は疎らである。役場、警察、消防署、小学校、病院がこの道のりの中に収まっている。坂の上にレンガのきれいな病院が立っている。駐車場に車は疎らである。


私の担当は救急患者または新規の訴えを持つ内科予約外の患者である。予想に反して担当した患者は多くなかったが、カルテ記載の薬剤と実際に患者さんに手渡されている薬剤に違いある事例があり、リスク・マネジメントに関して提案をすることができた。運よく救急車には当たらなかった。今回、たまたま複数のところからの支援が重なり、私の負担は多くはなかったが、2011年1月からそれらの支援もなくなるということで病院にとって大変な日々はまだまだ続きそうである。

昼休みに町内の本屋に出かけてみたが、週刊誌が中心であり、新書や一般書籍はほとんどなかった。病院の職員の方々はアマゾンなどで注文しているようだ。2日目の昼食を日下勝博医師に案内されて海産物の土産物店で食べた。1300円の海産丼はウニ、イクラ、マグロ、鮭、ホタテ、等10種類以上が山盛りである。是非、羽幌に立ち寄ったときには食べてみてください。話のついでにフェリー乗り場、サンセットホテル、海鳥センターの前を通ってきた。札幌に居るときと異なり、ゆっくりとした時間の流れる時を過ごした2日間であった。
(山本和利)

11月の三水会

11月17日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は9名。大門伸吾医師が司会進行。日本PC連合学会誌の事務局が紙面作成のため参加。

振り返り3題。
初診から看とりまでした83歳の肺がん患者。左肺上葉に結節影。肺がんでClass V。呼吸器専門医受診を家族に伝えた。その後家族がでて来て告知をしない方針になり、対処療法で外来経過観察となった。内服加療を続けながら介護認定を申請。Ca 11.5mg/dl、発熱、SaO2低下、食欲低下、咳、呼吸苦が徐々に出現し入院となった。酸素2l/分。告知はいまさらできない。地元の訪問看護を紹介する予定であったが、突然血痰等の症状が出現し死亡。振り返り:家族の希望通り自宅でしばらく経過観察できた。苦痛が少ない。告知をすべきではなかったかと反省している。地域医療資源が乏しい。告知について;告知するメリットの方が大きい。告知後の精神反応がある。参加者からこれまで受け持った末期がん患者さんについての報告があった。

脳梗塞で嚥下機能が低下し肺炎を繰り返す86歳女性。娘が1時間かけて食事をさせている。発熱、低酸素血症、炎症反応あり。CTで両側下肺野に肺炎像。娘と栄養の方法を検討したところ、娘は経口摂取に拘った。再度、発熱、心不全症状出現。この経過を5回繰り返す。働いているため娘は自宅で看られない。施設では1時間かけた経口摂取は無理。施設に入るには胃瘻を作らざるを得ない。結局、入院3カ月後に胃瘻作成。リハビリ病棟に転棟。振り返り:肺炎のリスクを下げることができた。主治医自身が胃瘻をつくることについての考えが固まっていない。造設する医療者と長期管理する医療者で考えが異なるのではないか。アンケートによると胃ろう、人工呼吸器を望まない人は94%。事前指示が普及することを望む。胃瘻の適応を厳密にすべきである。「できるけれども、あえて行わない」という選択肢も念頭に置く。「胃瘻で生きているのを見るのは辛いが、何もしないで死なせることはできない」

アルコール依存症一歩手前の52歳男性。失業中。兄を頼って帰郷したら、兄はアルコール依存症であった。意識が低下し受診。るいそう、脱水、肝機能障害あり。1食100円で過ごし、家で焼酎1l/日摂取。検査の結果、アルコール性肝炎。CAGE質問票を実施。精神科医にコンサルト。行動変容を促すアプローチを目指した。社会復帰サポート・センターを居場所とし、ボランティアをしてもらう。所長がサポートしてくれ、生活保護を申請した。体重が増加し、意欲もでてきた。5A(Ask, Assess, Advice, Assist, Arrange)アプローチを行った。面接の「反映」技法を用いた。科学的事実を伝える。難しいことを言わず簡単にアドバイスした。

これらのディスカッションの様子は日本PC連合学会誌の総合カンファランスの欄に掲載される予定である。(山本和利)

2010年11月18日木曜日

ニポポ・スキルアップ・セミナー:感染症診療の基本原則

11月17日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は江別市立病院の総合内科の濱口杉大先生で、3回シリーズのオープニングをかざる講義およびワークショップでした。講義内容は、代表的な感染症の起因菌、抗生剤の説明などを、医学生1年目から後期研修医そして診療所で活躍される先生までと幅広い17名の参加者を対象として行われた。感染症について医学部1年目でも理解できるようわかりやすく講義した後、ランダムに設定された感染症の症例に対してグループディスカッションを行うというシャッフル型という条件設定されたカードをランダムに配布し組み合わせて症例を作るという新しい形のワークショップで行われた。
3グループに分かれ、(1)「60歳女性」+「ステロイド内服中」+「下腿の発赤、腫脹、疼痛」がみられたという症例、(2)「60歳女性」+「インド帰り」+「咳、膿生痰、側胸痛」がみられたとういう症例、(3)「20歳女性」+「化学療法中」+「腹痛、下痢」になったという架空の症例を通した活発なディスカッションで感染症の理解を深めた。
講義終了後も質問が相次ぎ、今後の宣伝もあり次回のセミナーもさらに盛況なものとなる予感のうち終了した。
次回は1月19日18:30から勤医協中央病院の石田浩之先生による「違いが分かる、大人になるために…と言っても感染症に関して」。場所は札幌医大講堂共用実習室で多くの方の参加をお待ちしています。(寺田豊)

2010年11月16日火曜日

FLATインタビュ

11月15日、北海道新聞の記者からの申し出があった特別推薦学生(FLAT)を対象にしたインタビュに、オブザーバー参加した。学生7名、北海道新聞記者6名が参加。各自自己紹介後、道新の仕事の紹介。

「羅臼の例に見る地域医療の困難」という新聞記事をまとめたものを提示。「2008年、羅臼診療所が一人から二名になった。1年で1億7000万円の赤字。6.6億円の不良債務。自己都合で1名退職。2か月内科医が勤務。その後、内科医が赴任したが18日間で退職。根室地区は10万人当たり医師91名。その後、2010年3月、6000人の町で無医村となる(働けば働くほど患者が集まり、疲れてしまった。行政とのコミュニケーション不足。宿舎の水道管破裂を2カ月放置)。非常勤医師による週3日の体制。地域医療を守る条例を作った。道内の一人勤務医療機関は7か所。」これを前振りとして、意見交換開始。

リーダーの高石さんがFLATの活動を紹介。ランチョンセミナー、留寿都・幌加内のサマーキャンプを紹介。フォトボイスによる地域診断。地域に積極的に赴いている。

「利尻の実習で印象に残っていること」な何かという質問が記者からあった。社会的な入所が多かった。住民の地域への愛着が強いことがわかった。医師が昆布取りを手伝っていること。医師が住民の生活を見ている。医療スタッフ不足を実感。地域に魅力がないと医師は行かない。地元も盛り上げてほしい。時間をかけて島の街並みに触れることができてよかった。「地域で医師としての自分の役割を見つける」という医師の言葉。

その他地域医療に関する話題。自主的にいろいろな地域に実習に行った。地域に行くことが大事。地域医療合同セミナーでチーム医療が体験できる(保健福祉の視点から俯瞰できる)。地域で保健師と一緒に保健福祉をしたい。家庭医・総合医を目指したい。道東のへき地で活躍した道下先生を目指したい。住民の生まれたときから死ぬまでを見たい。日常疾患を地域で診れるようになりたい。入学してから地域医療に触れる機会が多く、地域医療・公衆衛生活動に魅力を感じた。一人ひとりの顔と名前を覚えて活動できる。人との出会いを大切にしたい。地域医療をやりたい気持ちが強まっている。人のために役に立ちたい。

「地域で生活するのにどういうものが必要か?」について2班に分かれてディスカッションが行われた。
学生の意見。行政が暖かいと医師が働きやすい。保健師との連携が重要。食べ物も重要。医師も普通の人間であるという住民の理解が必要。対話が必要。地元の暖かい歓迎が必要。医学の進歩についてゆくネット環境が必要。

学生一人一人が地域医療について真剣に考えて日々を過ごしていることを再認識する貴重な機会となった。彼らの情熱をスポイルしないようなシステム作りを推進したい。(山本和利)

2010年11月15日月曜日

蟻族

日本と中国の間で尖閣列島の問題などを切っ掛けに再び不穏な空気が漂っている。そんな中、中国の高学歴フリーター集団を扱った『蟻族 高学歴ワーキングプアたちの群れ』(廉 思著、勉誠出版、2010年)を読んでみた。

前半は学術論文形式で、後半が蟻族と称される若者の書いた生きざまが記されている。本書は中国国内では十回近く版を重ね、「蟻族」の名が響き渡る切っ掛けとなったという。高学歴ワーキングプアたちの群れを「蟻」に見立てて論文を書いているところが興味深い。研究の立ち上げからの経緯が記されており、社会学の論文が出来上がってゆく様を俯瞰できる。

「蟻族」の特徴は3つ、大学を出ている、所得が低い、一か所に集まって暮らしている、である。著者らがその所在地によって「京蟻(ジンイー)」(北京の場合)などと略称で呼んでいるのも面白い。発生原因をマクロとミクロの視点から、心理状態、性・恋愛・結婚、所得状況、職業、教育状況、インターネット、集団行動の傾向、等について分析している。

後半の「蟻族」の一人ひとりのレポートを読むと、仕事がなく悶々とする日々の鬱屈がヒシヒシと伝わってくる。日本の就職で苦しむ若者たちも同じような状況なのであろう。

翻って、場所とポジションさえ気にしなければ生きていける医師の気楽さに申し訳なさも感じた。学術論文とドキュメンタリーの両方が一冊で楽しめる良書である。(山本和利)

日本糖尿病学会北海道地方会

11月14日、第44回日本糖尿病学会北海道地方会に参加した。
午前は、インスリン・薬物療法を中心とした一般演題を中心に拝聴した。観察開始時のHbA1c>9%でもインスリン導入率は4割程度。Pioglitazone(アクトス)は単独でもインスリン併用でも体重を増加させる。皮下脂肪が増加する。強化インスリン療法を離脱できた群は、肥満群でCPR分泌がよく、離脱しやすい。メトフォルミンを高容量1500mg/日でHbA1cが1.8%まで低下する。

午後は、DPP4製剤を中心に拝聴。

ランチョンセミナーは京都府立医科大学福井道明先生の「将来を見据えたインスリン治療戦略」を拝聴した。
11月14日は世界糖尿病dayで、各地でブルーにライトアップが行われていることを紹介。

インクレチン・ブームである。しかしインスリンをうまく使うことが大切。内服薬単剤では6割がHbA1c>7%。医師が糖尿病ならHbA1c>7.7%で導入したいと思っているが, 患者さんに実際に導入しているれべるは9.2%となっている。HbA1cの値に対して、軽症では食後高血糖が寄与、コントロール不良では空腹時血糖が寄与している。

単純で確実なインスリン戦略が重要である。まず、空腹時血糖を下げる。内服薬に少量持効型インスリンを加える(BOT)。注射を毛嫌いする患者さんも、体験すると変容する。アピドラは亜鉛無添加で即効性。胃切除患者に推薦できる。

まずライフスタイル+メトフォルミンで、さらに基礎インスリン、さらに基礎インスリンPLUS、さらに強化インスリン療法。日本では混合製剤が多いが、これは推薦されない。混合型2回から持効型1回へ。混合型は低血糖が多い。体重も増えない。

大変参考になったが、選択した論文が後援する製薬会社の製品を絶賛する内容ばかりであり、インスリン製剤一般についてもう少し別の視点の論文を加えて公正な発表にして欲しかった。その方が説得力が増すと思うのだが・・・。(山本和利)

北海道内科地方会

11月13日、第257回北海道内科地方会に参加した。
一般演題は呼吸器、腎臓、血液の発表を拝聴した。原因不明胸水に対して胸腔鏡で診断がついたマントル細胞リンパ腫、黄色爪症候群に併発した悪性胸膜中皮腫例、肺に限局した結節性肺アミロイドーシス、粟粒結核中に発見された結核性腹部大動脈瘤、結核性腸腰筋膿瘍、低K血症が著明なシュグレン症候群に合併した尿細管アシドーシス、扁桃腺炎後急性腎不全(IgA腎症の増悪、脱水を背景としたNSAIIDsによる腎虚血)、上気道感染後亜急性甲状腺炎と微小変化ネフローゼ症候群の同時発症例、小腸大量出血を来たした膜性腎症合併ANCA関連血管炎、バクタ・アレルギー(?)ネフローゼ症候群(バクタの予防投与の良し悪しが問題となった)、反復性皮下血腫と血気胸を持つEhlers-Danlos syndrome、等。
各発表に対して診断・病因について活発な意見交換があった。内科医の診断・病因に対する良い意味での拘りを感じた。

専門医部会教育セミナーの司会を山本和利が担当した。今回のテーマは「血球減少を呈する疾患への対応」で、札幌共立病院の古川勝久先生が提示をしてくれた。

第一例は「脳外科から紹介された貧血症例」で、低球性貧血であった。鼻出血、脳AVM、胃の毛細血管拡張が見つかり、オスラー病と診断された。病歴・身体診察の全体から疾患を考える必要を思い知らせてくれる提示であった。

第二例は「高血圧治療中に見られた血小板減少」で、大球性貧血もあった。胃癌による胃全的術を受けているため、ビタミンB12欠乏によるものと診断しその補充で貧血は改善した。血小板減少はさらに悪化し、最終的に降圧に用いていたカルシウム拮抗剤の中止で急速に改善した。いつも薬剤が原因でないかと念頭に置くことの重要さを再認識させられた。

最後に札幌医大第4内科の小船雅義准教授より「血球減少へのアプローチ」の講義を頂いた。
高齢者の貧血;Hbが低い方に分布している。貧血があると死亡率が高まる。定義はHb <11g/dl。悪性腫瘍、感染症を持っている人が多い。小球性貧血の大部分は鉄欠乏性貧血である。十二指腸が切除されていると鉄の吸収がなされず鉄欠乏性貧血(フェリチンが12以下)を引き起こす。静脈注射の鉄はブドウ糖に溶かすのがよい。少なめの鉄剤投与がよい。慢性感染症に伴う貧血(鉄剤を投与しても造血しない)を鑑別することが重要(輸血が唯一の治療)。
血栓、感染症が背景にある巨大血腫に対してワーファリン内服している40歳代女性を提示。
大球性貧血を示す高齢者で、悪性貧血(亜急性脊髄連合失調症)が増加している印象がある。貧血と黄疸がある場合、溶血性貧血(網状RBC増加)を疑う。

感冒で薬剤内服後の血小板減少。皮下出血で血小板が5.2万。薬剤中止で徐々に改善。薬剤性の可能性が高い。血小板減少を起こす可能性のある薬剤は3,000種類以上ある。
ITPにHP除菌で血小板上昇した事例を提示。(その他の治療法:ステロイド、脾摘出、免疫抑制剤)。肝臓疾患を除外する必要がある。
血小板減少の20歳代女性。その後汎血球減少となる。最終的に白血病を発症した。
MDSと診断できない血球減少症(特発性血球減少症)という診断概念が出てきた。

血球減少に対して、最新の情報を織り交ぜながら、事例を提示してくれた講義であり、プライマリケア医の私にとって大変有益が内容であった。(山本和利)

2010年11月12日金曜日

地域での日常疾患

11月12日、松前町立松前病院の木村眞司院長の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域での日常疾患」である。

まずは「松前町、松前漬けを知っているか?」という問いかけから。軽く自己紹介。北海道生まれ、北海道育ち。将来なりたかった職業;英語教師、坊さん、農業従事者。「ネパールの青い空」を読んで地域医療に貢献しようと思った。空手道部、スキー部。自宅通学。学生時代に米国の医学生と出会った。そこでFamily Medicineを紹介された。恩師塚田英之先生の言葉、「君、若くありなさい。若い時は何でもしなさい(オリジナルはドイツ語)」を紹介。母校に残ろうとした物理学者ファインマンが恩師に言われた言葉、「よそがどんなかを見てきなさい(オリジナルは英語)」。様々な研修をして2005年から松前町立松前病院で家庭医・何でも科医で働いている。ここで松前町の紹介に移る。北海道最南端。函館まで95km。桜、鳥。野鳥観察小屋。医師の紹介。江良診療所。医師の一日を、写真を使って紹介。「松前塾」。「プライマリ・ケア・レクチャー・シリーズ」。

松前町でのよくある病気・症状
それぞれの領域で1番頻度が多いのは、消化器系:便秘、循環器系:高血圧、呼吸器系:気管支喘息、血液:鉄欠乏性貧血、代謝・内分泌:糖尿病、腎・尿路系:腎機能障害、神経系:パーキンソン病、精神系:不安障害、社会問題:独居、感覚系:糖尿病性神経障害、難聴、筋骨格系:関節炎、RA、皮膚:皮膚乾症、その他;肥満。
夜間救急では発熱が断トツに多い。
入院患者;認知症、高血圧、糖尿病、肺炎、脱水、心不全、気管支喘息、うつ病、等が多かった。

後半は松前町立松前病院の実習方針・風景の紹介。実習者はすべてのカンファランスに参加。必ず観光案内をする。希望者には農作業。皆で歓迎する。(新企画)一緒に走る、山登り、魚釣り。

最後に学生さんに考えてもらいたいことを述べられた。様々な地域や医療機関を見て見聞を広める。自分が本当にやりたいことを見つける。一人ひとりの行動が医療を変えるかもしれない。学生さんの中から将来北海道の地域医療を担う人がたくさんでることを願っている、という言葉で授業を終えられた。

学生の感想として、楽しそうな松前病院の実習に参加したいというものと、札幌を飛び出して視野を広げたいというものが多かった。実行力のある指導医の言葉の威力が絶大であることを再認識した。(山本和利)

FLATランチョン勉強会

11月12日、特別推薦学生(FLAT)を対象にランチョンセミナー勉強会に参加した。18名が参加。身体診察その5として木村眞司先生が神経診察の指導を行った。

まず河本助教を患者役に実際の診察を披露した。頭痛を主訴に受診の30歳代男性。転げまわる痛み、目が痛む。嘔吐はない。脳外科のMRIで異常なし。群発頭痛。ペンライト、眼底鏡、ハンマーを使用。

まず5分間の簡易診察法を披露した。ペンライトで目に光を当てる。眼底鏡で両眼底を診る。指を追視して視野の検査。額、口唇の筋力を検査。顔面、両手、両足の知覚検査。バレー徴候検査、握力、上肢・下肢の筋力検査。ハンマーを用いて上肢・下肢の反射検査。指―鼻試験。手でギンギンギラギラ。閉眼で直立。歩行検査。踵歩き、つま先歩き。タンデム歩行。片足立ち。両手を前に出して蹲踞。

一通り終わったところで学生から質問を受ける。指鼻試験は小脳機能を診ている。協調運動の検査。肩が伸びるくらいの距離で行うのがコツ。距離をうまく測れない例をコミカルに演じて学生からの笑いを誘う。バレー兆候(立位、閉眼)。異常例では手が回内して下がってくる。軽度の麻痺があるどうかを検査する(錐体路兆候)。ここで脳梗塞、脳出血の説明。TIAなど軽微な麻痺の時、下から勢いよく持ち上げると、行き過ぎて戻る場合がある。脳梗塞になると相対的に回内する筋肉が強くなる。徒手筋力テストのコツは、鼓舞する、途中で筋力を変える、筋力が出にくい患者の不利なポジションで始める、左右を比べる。正常な人を沢山診ることが向上のコツである。ギンギンギラギラは片手ずつ行う(回内・回外を繰り返す)。大きく速く。ここでパーキンソン病の説明。患者の模倣。筋強剛。蹲踞は体幹の筋力を診ている。手を前に出させるのは手を使わせないためである。

今回は参加者数が最大であった。11月27日の家庭医療フォーラムのビラを配布して終了となった。

松前町立松前病院で実習したい場合は、hospital@e-matsumae.comの岩城主査に連絡を。(山本和利)

2010年11月10日水曜日

第1回日本PC連合学会 秋季生涯教育セミナーに参加して

2010年11月6、7日の両日、「第1回日本プライマリ・ケア連合学会 秋季生涯教育セミナー」が大阪科学技術センターで開催されました。初日の6日には、福井県立病院ERの林寛之先生と国立病院機構京都医療センターの坂根直樹先生の2講演、7日にはワークショップ全26企画の中から2企画を受講してきました。以下、ワークショップの概要と感想を交えて報告します。

●1日目(11月6日)
講演Ⅰ 15:00~16:30
そんなはずじゃ、なかった…救急地雷回避Tips!
福井県立病院ER 林寛之先生
歩いてくる患者の0.2~0.7%は、とんでもない重症患者が紛れている。胸やけ・胃が痛いは要注意。下壁の心筋梗塞では迷走神経刺激で嘔吐、除脈、心窩部痛を認めることも。Dr.林の30㎝の法則:心臓を中心に30㎝範囲内で痛みがあれば疑う。胸痛のPitfalls:圧迫感LR1.7、冷や汗LR4.6、さらに両肩への放散痛LR7.1を示す。AMIのPitfalls最初の心電図の感度は13~69%しかない。重症だったら、救急車で救命センターに行ってくれればいいのに、予告も無く目の前でバッタリ出会うことも。そんなパニック救急にも負けずに、薬局でのトラブル、一般外来での地雷救急を事前に察知するトリアージ能力、および地雷が爆発した時の救急対応、薬剤使用のPitfallsについて講演頂きました。
僕も大学の教員として学生や研修医の方に話をする機会が少しずつ増えてきましたが林先生の講演内容も講演の進め方や声の大きさ、トーンとても勉強になりました。

講演Ⅱ 16:40~18:10
楽しくてためになる糖尿病教育
国立病院機構 京都医療センター坂根直樹先生
糖尿病は患者教育の病気ともいわれている。しかし、例えば体重を減らしましょう、食事に気をつけましょう、腹八分目にしましょうなど医学的おどしを使って行動変容をせまっても、「時間がない」「食事制限をするとストレスがたまる」と言い訳されることもよくある。これを心理学では「抵抗」を呼ぶ。患者が抵抗を示した時は、指導法を変えるサイン。患者の性格タイプや価値観に合わせた指導が効果を上げる。楽しく患者をやる気にさせる糖尿病教育について、HbA1cを体温に例えたり、糖尿病を駅に例えて自分が今どこにいるのか自覚を促す方法、行動変容のステージと技法について御講演いただきました。
坂根先生がおっしゃっていた「HbA1c外来」にならないように気を付けて明日からの診療に役立てようと思います。

●2日目(11月7日)
ワークショップ①9:00~10:30
只今 予約受付中『外来を愉しむ 攻める問診』
藤田保健衛生大学 山中克郎先生
診断の80%は問診による、10%は身体診察、10%が検査と。攻める問診、問診の技術をみがくことは重要である。最初の3分間で患者さんの心をグッとつかむ、鑑別診断が少ないキーワード中のキーワードを見つける、そしてパッケージで繰り出す質問で鑑別診断をぐっと絞り込む。40代 男性 ミャンマーから帰国。発熱+皮診で受診。しばらくして肺の陰影→Asian Big Fiveマラリア、デング、チフス、レプトスピラ、リケッチアの5つを考える。皮膚症状+肺→膠原病、サルコイドーシス、マイコプラズマ、緑膿菌、リッケチア。…するとリッケチアが浮かび上がる。特に専門外で診断を行う時にキーワードからの展開が有効と。どうしても検査に偏重しがちな自らの診療を反省して、明日からの診療に攻める問診で臨めるよう頑張りたい。

ワークショップ②11:00~12:30
ワークショップ③13:30~15:00
一度見れば忘れないSpPinな身体所見
大船中央病院 内科 須藤博先生
※SpPinとは「特異度(Specificity)の高い所見が陽性(positive)のとき、その疾患の診断(Rule in)に役立つ」という意味の略語。
「お宝はすぐ目の前にある」多忙な日常診療でも、少し注意を払うだけで見えるものが沢山ある。あらかじめ知ること、その上で観察力を磨く。ほんの少しの努力で分かることが沢山ある。須藤先生がこれまで集めてきた症例の画像・動画たくさん見せて頂きました。例えば「爪」について。爪は10日で約1㎜伸びる。テリーネイル、リンゼイネイル、ミルケライン…爪の所見にこんなに多くの名前が付いていること、全身疾患が爪に形、色として影響を与えていることを初めて知りました。身体診察の奥深さ、面白さを感じることのできた講演でした。2日間を通じて、何より自分には「勉強」が必要だと強く感じました。まずマクギーの身体診断学を読みます。(河本一彦)

2010年11月9日火曜日

地域医療の課題と展望

11月9日、西吾妻(あがつま)福祉病院 & 六合(くに)温泉医療センター 折茂賢一郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「「地域医療の課題と展望」である。

これまでの活動を披露された。自治医大卒。六合へき地診療所長。現在、2施設の管理者。白衣を着ない仕事が沢山あった。へき地包括医療に触れた3年間。顔が見える活動を続けた。半無医村の認識(必要なときに医師がいない、看とり)。その反省を踏まえて福祉リゾート構想へ発展させた。六合温泉医療センターを建設。コメディカルが地域へ出向く医療を目指した。そして最前線医療から「支える医療」へ。草津温泉、白根山の近くで対象人口26,000人。高齢化率>30%の地区で外科系・周産期の救急確保。地域の拠点病院を建設。ヘリポート増設。24時間保育。屋根瓦式研修を導入している。
豊富な写真を提示しながら講義は進んだ。

「山と離島のへき地医療って違うか」と学生に質問。
山村、半島、広大な地域、大きな島と周辺の離島、本土から距離のある離島、高齢化住宅タウン、山谷地区、等、地域によって様々である。台風のときの対応が難しい。ヘリコプター搬送(有視界飛行である:夜間飛ばない)。
     
最後に「医療モデル」と「生活モデル」の違いを強調された。
 
医療モデルは、目的を疾病の治癒、救命におき、目標を健康に、ターゲットは疾患(生理的正常状態の維持)であり、病院(施設)で行われる。チームは 医療従事者で構成され命令・指示がなされるオーダー型である。対象のとらえ方は、医学モデル (病因-病理-発現)で 急性期(短期間・cure期)が適応となる。
Evidence-Based Medicineの手法が用いられる。

一方、生活(QOL)モデルの目的は、生活の質(QOL)の向上であり、目標は自立(自己決定に基づき、自己資源を強化し、社会的生活を送る)を目指す。ターゲットは障害(日常生活上の支障・困りごと)(日常生活動作能力[ADL]の維持)であり、社会(地域・家庭・生活施設)で行われる。チームは異職種(保健、医療、福祉、介護等)で構成され、協力・協働するカンファレンス型である。対象のとらえ方は、 障害モデル(ICF・国際生活機能分類)で、急性期を過ぎたcare期に適用される。ケアマネジメントの手法が用いられる。
    
授業では時間がなく言及できなかったが、配布資料から重要な部分を提示する。
   現状は「地域医療不全」と認識すべきである。
     治療の前に病態を明らかにすること。
     その為には詳細な病状の把握。
       都市への医師偏在
       国公立病院の経営不振と人材確保困難
       各科専門医崇拝主義
       勤務医からの脱落(9時―17時勤務)
       医療訴訟問題
       女性医師の増加
       国民の意識の変容(専門医療志向)
       関係省庁の縦割り行政の影響     等など
     大ナタをふるう勇気こそが、唯一の治療方法?…社会保障制度のパラダイムの再構築…

一診療所から出発して、地域に出向く病院と急性期対応病院を建設した行動力に多くの学生が感銘を受けていた。後半の時間が足らず、現在の医療状況の分析にまで話が及ばなかった点勿体なかった。(山本和利)

2010年11月8日月曜日

群れのルール

『群れのルール 群衆の叡智を賢く活用する方法』(ピーター・ミラー著、東洋経済新報社、2010年)を読んでみた。

動物・昆虫の集団行動に学ぶ本である。

アリから学ぶこと:アリのコロニーの観察から、アリ同士が出会ったときにどう相互作用するかを定めた単純なルールに従うことによって、指導者がいなくても困難な仕事をやり遂げる。「アリは賢くない。だがコロニーは賢いのだ。」「自己組織化」がなさられるからだという。それに必要なことは次の3つである。「分権的な統制」「分散型の問題解決」「多数の相互作用」。「我々の一人ひとりが目の前の情報に反応し、特定のルールに従って行動すれば、集団全体に秩序が生まれる」「アリのコロニーも同じさ。個別のアリに一切自覚がなくても、集団の行動が変わるのだ」
「アリのコロニー・アプローチ」を用いて「巡回セ-ルスマンの問題」を解く話は面白い。

ミツバチの行動から学ぶこと:群れに多くの選択肢があること。それぞれの偵察蜂が自分の目で候補地を調べること。知識の多様性を確保すること。友好的なアイデア競争を促すこと。選択肢を狭めるための有効なメカニズムを用いること。こうすることでミツバチは短時間のうちに優れた意思決定を下している。

シロアリ(共同プロジェクトにおけるささやかな関わりが最終的に大きな成果になる)、ムクドリ(身近な仲間の行動に目を光らせることで集団が驚くほど正確な協調行動がとれる)の例も参考になる。暴走した群れの悲劇として書かれたバッタの事例はこれまた教訓的である。

このような動物・昆虫の行動を真似て人間が行って成功した事例も大変参考になる(サウスウエスト航空の自由座席制、アメリカン・エアリキッド社(ガス販売)、「ビール・ゲーム」、「ウィキペディア」)

翻って地域医療の現状を踏まえると、アリの逆で「医師は賢い。だがその集団は愚かだ」となろう。医師集団が前提とするルールのどこかが間違っているからだろう。そのひとつに「医師全員が初期から一定期間充実した医療施設で優秀な医療技術者を目指す」があるのではないだろうか。「能力を問わず(若い時期)一定期間地域に赴く」、「不確実に起因する医療過誤の責任を問わない」等をルールに加えてはどうだろうか。個人としてはともかく、専門家集団として賢くなりたいものである!(山本和利)

書物合戦

『書物合戦』(樋口覚著、集英社、2005年)をたまたま図書館で見つけたので読んでみた。

18世紀に『ガリヴァー旅行記』を書いたジョナサン・スウィストが古今東西の名作を登場させて論争させた『書物合戦』という本があるそうだ。ロンドン留学中の夏目漱石や正岡子規のことに触れながら、その反骨精神を紹介している。『ガリヴァー旅行記』が当時の世間を風刺したものであるとは知っていたが、『書物合戦』はその上をゆくようだ。

続いて扱っているのは「電波戦争」である。『1984年』、『カタロニア賛歌』を書いたジョージ・オーウェルが第二次大戦中、BBCを通じてスウィストに会見を申し込んで成功したインタービュ記事を紹介している(200年の時間差があるので当然フィクションであるが)。その中でスウィストの言葉を借りて世間を批判した。オーウェルはこれをラジオでも放送した。ラジオを利用したのはオーウェルであり、ヒットラー(ラジオを通じた演説)であったという。テレビはラジオにすべてにおいて優っている訳ではない。ラジオには俗的な正体を曝露することなく演説を通じて幻想を醸し出すことができるからである。オーウェルはドイツのベルリンから流す放送に、ラジオBBCで戦況ニュース解説を流して対抗した。

別の章ではオーウェルの変遷が綴られている。オーウェルと似たような人生を送った人物として著者は、沖縄の警察官をやめて写真家に転身した比嘉康雄を挙げている。ページをめくってゆくと話はホイットマンとヘンリー・ミラーを登場させ、『インドへの道』を書いたE・M・フォースターについて論じている。

オーウェルの時代はラジオの時代であった。時が流れ、「鉄道」から「ラジオ」、「テレビ」、「インターネット」と情報を取得する手段は移り変わってゆく。表層的で断片的な情報はインターネットで簡単に取得できるかもしれないが、じっくりと深読みを味わうには書物がよいと再認識した次第である。「やはり書物は面白い。」(山本和利)

地域包括医療の制度と理論

11月5日、松前町立松前病院の八木田一雄先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域包括医療の制度と理論」である。

まず自己紹介。1995年自治医大卒業。青森県で地域医療を実践。次に松前町立松前病院の紹介。人口は9272人。漁業、水産養殖業が主。病院1、診療所4、歯科3.高齢者35%。病院の周りには桜がいっぱい。100病床で常勤医8名。診療所の支援もする。3町における唯一の病院で対象人口は16000人。内科系医師は全科診療医と称している。勉強会が多い(松前塾、テレビ会議システム)。松前地域医療教育センターとして研修医を受け入れている。

本論
80歳の女性。息子夫婦と3人暮らし。脳出血、保存的治療。右片麻痺。肺炎を繰り返すので胃瘻造設。自宅療養を希望、というシナリオを提示。昔は、訪問診察、訪問看護、介護のサポートは保健師、介護は家族。今は問題リストを挙げる。これを基にサービス担当者会議。話し合いで決めた導入サービスを決める。退院。在宅療養となる。

超高齢化社会
高齢化とは:65歳以上の高齢者人口の総人口に占める率。2901万人。日本は22.7%。医療費は9.1%。北海道:一人当たり103.7万円。高齢者は循環器系、癌、筋骨格系が多い。一人暮らし高齢者が増えており、認知症を有する高齢者が増加している(250万人)。特別養護老人ホームの入所申し込み者の状況:42万人が待機している。

介護保険制度:8段階に区分される。市町村に申請。訪問調査+主治医意見書。認定審査会で要介護認定をする。
昔;市町村が決める。所得による違い。長期入院。医療費の増加。介護に向かない。という問題があった。
現在:自立支援。利用者本位。社会保険方式。1割の利用負担。2種類。特定疾患16種類。7.4兆円。居宅サービス、地域密着型サービス、等が受けられる。
介護支援専門員(ケアマネジャー)の業務;毎月のケアプランを作る。一人39人まで担当できる。家族の負担。緊急時の対応。

在宅療養を可能にする条件:入浴や食事の介護、訪問診療、等。
サービス受給者数の推移:脳卒中、認知症が多い。主介護者は配偶者。子、子の配偶者。

地域包括ケアの5つの視点による取り組み
1.医療との連携強化
2.介護サービスの充実強化
3.予防の推進
4.多様な生活支援サービス確保や権利擁護
5.バリアフリーの高齢者住居の確保

尾道市御調(みつぎ)町の取り組みを紹介した。

地域包括ケアシステムの持つ8つの機能
1.ニーズの早期発見
2.ニーズへの早期対応
3.ネットワーク
4.困難ケースへの対応
5.社会資源の活用・改善・開発
6.福祉・教育
7.活動評価
8.専門力育成・向上
その成果:寝たきり老人が減少する。高齢者本人も家族も安心して在宅ケアを選択することができる。老人医療費の抑制に繋がる。

松前町の取り組み
地域ケア会議を月1回。サービス担当者会議。ケアマネジャー連絡会。グループホーム運営会議。在宅医療;42名。脳卒中後遺症、認知症、骨折術後が多い。臨時往診はできていない。在宅での看とりの体制が整っていない。

実践だけでなく理論や制度について詳細に述べられたので、その点を学生は高く評価していた。(山本和利)

2010年11月4日木曜日

人生という作品

『人生という作品』(三浦雅士著、NTT出版、2010年)を読んでみた。

一人の人間の生き様をまとめあげた論文集である。はじめに文字学者・白川静を取り上げている。彼はこれまでの文字の成り立ちに対する考え方を根本的に変えた人である。「口」はもと耳口の口ではなく、祝告の器の形にほかならないというのである。「道」「眞」の解釈にしても、古代人の生活様式をもとに呪禁で解釈している。これによって文字を一貫した考えで解釈ができるようになった。優れた学説はすべてその起源に詩的直観を持つ(三浦雅士)。しかしながら、学会の重鎮の反撃が凄まじい。白川静の学説は孤立し、拡散しないで排他的に凝縮する(三浦雅士)。凡庸の専門家集団は簡単には受け入れてはくれない。医療以外の分野でも同じことなのだ。本書を通して白川静の学者としての矜持をみた。

(なぜ、呪禁で成り立っていた文字の原義が忘却されたのかについての考察も面白い。)

章が変わると、「歴史」ではマルクス、レヴィ=ストロースが取り上げられている。「小説」では安部公房、太宰治が俎上に上がっている。三浦の得意分野であるバレエの話にはついてゆけず読み飛ばした。

著者はこれだけの内容を書くためにものすごい下調べをしたことが推察される。膨大な基礎知識と取材力に圧倒された。学問で生きるためには生半可では駄目であることを思い知らせてくれる書物でもある。
(山本和利)

在宅医療

11月2日、寺田豊助教が「在宅医療」の講義をした。

写真を見せながら在宅診療を語る。まず、在宅医療とは何かを説明。在宅医療の歴史として、ゆきぐに大和病院を設立した黒岩卓夫氏を、病院がひらく都市の在宅ケアを始めた増子忠道氏を紹介した。

医療資源について。日本は病院で患者さんを診る文化を作ってしまった。患者の受診回数、医師一人当たりの診察回数、急性期病床の平均在院日数は世界一である。

在宅医療は。医療資源に対して新たな視点を生み出す。早川一光氏を紹介。「自分の体は自分でまもる」1980年、「わらじ医者京日記」で第34回毎日出版文化賞を受賞。

家族と地域支援。かかりつけ医を地域医療の中心に据える。在宅医療と総合医。社会的入院から地域での在宅医療の強化、在宅で看とりができる制度の展開。在宅療養を可能にする条件がある(家族の協力、入浴・食事介護、自宅の改築、緊急時連絡体制、通院手段の確保、定期的訪問、療養指導、等)。

病診連携。循環、連携できる医療システムのカギとなるのが在宅医療。Uターン(紹介元へ)、Iターン(病院の患者を適切な診療所に)、Jターン(紹介元とは別の診療所に)。オープンベッドシステムを広げる。

ある医療改革者の遺言。今井澄氏の「聴診器を温めて」を紹介。諏訪中央病院での活動を紹介。鎌田實氏にバトンタッチ。その中の言葉に「患者の胸に冷たい聴診器を当ててはならない。」がある。寺田氏は私たちがこの志を引き継いでゆくのだと力強く宣言した。

最後に家庭医のバイブル「A textbook of Family Medicine」(Ian R. McWhinney)を紹介し、学生に自分なりの在宅医療の定義を書いてもらった。

その一部を紹介する。「つなぐ医療」「置いてきぼりにしない医療」「家庭・家族の幸せをつくるもの」「人が一番自然な状態で病気と付き合っていける方法」「病院サービスとその人の人生を繋ぐ架け橋となること」「最小の医療資源でより大きな満足をもたらすことができるもの」「人生のQOLを高める医療」
学生はしっかりと考えていることが窺い知れた。(山本和利)

2010年11月1日月曜日

疝気の虫

過日、札幌道新ホールで行われた『立川志らく独演会』に行って来た。ゲストはその師匠の立川談志である。前座(または二つ目)の落語の後、志らくが「紺屋高尾」を熱演。

中入り後、立川談志の登場である。食道がん、糖尿病の療養中とあって、立っている姿も痛々しい。歩くのもやっと、座るのが一仕事といったところである。声がかすれて聴き取りにくいためか、スタンドマイクとは別に胸元にピンマイクを付けている。5分で終わるか1時間やるのかやってみないとわからない状態。場内に緊張が走る。北海道での思い出話から始まり、様々なジャンルのジョークを次から次へと披露していった。途中、頭の中で沢山の情報が走馬燈にように駆け巡るのであろう。ジョークの間に思い出した無関係な話題をついつい挿入してしまう。そして最後は「落語チャンチャカチャン」と題して様々な落語を数秒ずつ繋げて語り、会場の拍手喝采を浴びた。これまでと異なり落語を聴いてもらえることに対する感謝の姿勢が仕草の中ににじみ出ており好感がもてた。短い時間であったが談志の頭の中は落語に関する知識で満ちあふれていることが想像できた。全盛期の落語をもっと聴きたかった。翌日に検査入院が予定されているという。これが、私が観る最後の高座であろう。名残惜しい。

談志の後を受けて、談志の十八番「疝気の虫」を志らくがやってくれた。疝気とはソケイヘルニアであると解説し話は始まった。しかし、広辞苑を引いてみると「漢方で腰腹部の疼痛の総称。特に大小腸・生殖器などの下腹部内臓の病気で、発作的に劇痛を来たし、反復する状態」とある。落語の方は「ソケイヘルニア」でないと話がつながらないのでやむなしか。時事ネタ(流行のラーメン屋から首相批判、等)を入れながらポンポンと話がすすんでゆく。最後は弾け落ちで終わった。

生で聴く落語を堪能できた幸福な時間であった。もう談志の落語を生で聴くことはできないが、その志はしっかりと志らくに受け継がれている。立川流、恐るべし!(山本和利)

同門会

10月30日、午後1時半より4時半頃まで地域医療総合医学講座教室で同門会が行われた。

参加者16名からの挨拶とこの1年の振り返りあるいはトピックをパワーポイントにまとめて10分以内での発表があった。例年になく沢山の関係者が参加してくれて、地域医療総合医学講座に対するそれぞれの思い入れが強いことが伺い知ることができた。
その後、山本和利が地域医療総合医学講座の1年間の活動報告を行った。

(毎年恒例)の地域貢献賞は幌加内国保病院チームの森崎龍郎氏に授与された。参加者にささやかなお土産が進呈され、参加者全員による記念写真撮影となった。

場所を移して北海道のお寿司を食べながら二次会で歓談し散会となった。多くの参加者が三次会で地域医療に関する情報を交換しながら気炎を吐いた。(山本和利)

秋季キャンプ振り返り

10月29日、特別推薦学生(FLAT)を対象にしたランチョンセミナーに参加した。学生14名、教官3名。今回は、9月25日に幌加内町で行った秋期キャンプの振り返りである。これは毎年実習時の感動が薄らがないように終了1ヶ月以内に行っている。司会進行役は河本一彦助教。

自由な雰囲気のもとで「地域医療」について学生の意見を語ってもらった。来年度はできれば学生から実行委員を募り企画をしてもらうことになった。時期については夏の方(7月中旬)がよい(2年生が学外実習と重なってしまう)とか、冬は時間的に余裕があるとか幾つか案がでた。1,2年生主体で3,4年生がリーダー役とするのがよい。毎年場所を変えた方がよい。町民との懇親会は必要。町の中を見る時間を増やして欲しい。バスをチャーターした方が現地で時間的に余裕ができる。学生の実行委員を選んで企画する。

実習の感想:蕎麦を食べるたびに幌加内を思い出す。写真を撮る時間がなかった。2年間続けて行ってさらに地域を知ること、溶け込むことの重要さを学んだ。住民の実際の生活を知ることができたのがよかった。地域を学んだ。住民が親切で暖かく受け入れてくれたことがうれしかった。町の受け入れ態勢の重要性を感じた。いろいろなことが聞けた。現地に行かないとわからないことがたくさんあるとわかった。出身地域の医療の充実に貢献したい。住民の人と話すことで沢山学ぶことができた。

実習を好意的に意義付けてくれている学生が多いことがわかった。(山本和利)

地域医療の実践

10月29日、幌加内町国民健康保険病院の森崎龍郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域医療の実践」である。

まず、自己紹介をされた。横浜生まれ。富山医科薬科大学卒。漢方医。2010年幌加内町国民健康保険病院に赴任。幌加内町の紹介。3つの日本一。そばの作付面積。日本最大の人造湖(朱鞠内湖:ワカサギ釣りができる)。最寒記録-41.2℃。人口1,745人、世帯数853(町として最小)。高齢者が多い。小学校1年生は8名で全員女子。病院の紹介。町内唯一の医療機関。医療療養13床、介護療養29床。2年後に建て替え予定。平均入院患者28.6名。平均外来患者数43.5名。常勤医師2名、非常勤医師1名。佐賀大学総合診療部が支えて来た。来年度からは二人体制となる。

日々の診療。外来:超音波、内視鏡検査。訪問診療。入院;回診、病棟業務。病棟管理。予防医学。保健福祉医療連携。産業医。

入院病棟:在宅生活が困難な方。脊椎損傷。脳卒中後遺症による胃ろう造設者。末期がん患者。
外来診療:高血圧、糖尿病、高脂血症。OA.認知症など。慢性疾患が複数組み上がった患者が多い。それに急性疾患が加わる。
当直:自宅待機である。2週に1件の救急車。関節脱臼。大腿骨骨幹部骨折。結膜浮腫。

プライマリ・ケア医として
1. まずはすべてに対応する。2.自分のできることをする。シンプルに。スーパードクターである必要はない。

道北ドクターヘリ事業:旭川日赤病院が基地。2回要請している(交通事故、脳卒中)。悪天候、夜間の対応が問題。

在宅医療:老々介護。認知症同士の介護。カバーする地域の範囲が広すぎる。冬期間の厳しさ。介護スタッフ不足。

出張診療所;4つの診療所。
保健福祉総合センター(アルク):ディサービス、居住部門、老人福祉寮。ふれあい福祉村構想。地域ケア会議の紹介。

予防接種事業:未就学児の任意予防接種をすべて全額助成。中学生女子の子宮頚がんワクチン全額補助。インフルエンザワクチン、高齢者の肺炎球菌ワクチン助成。

半年経って感じること:患者さんの顔が見える。保健・福祉・救急の連携がスムース。旭川市が比較的近いので助かっている(高度医療・専門医のありがたみがよくわかる)。外傷が多い。人材不足(医師、看護師、介護士、ヘルパー、給食婦、等)。高齢者の生活。意外と子供が多い。

最後に、幌加内そば打たん会、野菜作り、スキー、ワカサギ釣り等、田舎の生活の魅力を紹介してくれた。(山本和利)

2010年10月28日木曜日

アメリカン・コミュニティ

『アメリカン・コミュニティ』(渡辺靖著、新潮社、2007年)を読んでみた。

米国って最近はイラクに戦争を仕掛けたり、経済破綻の元凶となったサブプライムローン問題などで評判を落としたりしている。世界最高の医療レベルを持ちながら、それにアクセスできない国民が30%以上いる国。そしてそれを改善しようとすると、自己負担が増えるという理由で反対する多数の国民。米国ってどんな国なのだろう。米国社会のコアは、その社会を内側から支えるコミュニティであろう。本書は社会学者が9箇所の米国のコミュニティを取材した報告である。

ニューヨーク州メープルリッジのボルダホフ(キリスト教原理主義)、マサチューセッツ州サウス・ボストンのダドリ-・ストリート(ゴミの町)、アリゾナ州サプライズのメガチャーチ(草の根宗教右派)、テキサス州ハンツビル(刑務所・死刑執行の町)等、様々なところに行っている。

米国は多様だ。そして、「賛成・反対」の二元論だけでなく、細かな議論もある。反論が用意されて一つに収斂しないようにはなっているが、その中心にあるのが資本主義、市場主義であることは否定できない。

米国の人々が様々なコミュニティに帰属せざるを得ない背景も見えてくる。ゴミの山・残飯の山のサウス・ボストン・ダドリ-・ストリートを有機野菜の香りで満たした試みなどは、地域再生の参考になろう(トップダウンの企画力・指導力・予算が重要と痛感する)。これを読むと米国への理解が少し深まるかもしれない。(山本和利)

炙り屋本店

過日、札幌ススキノの海鮮料理店『炙り屋本店』に学外講師と学生を連れて行ってみた。

数人でも個室で静かに話ができるのがうれしい。刺身の盛り合わせ、ホッケの干物を注文。サラダが4種類あり分量も多い。生ラムの串焼きも美味しい。梅酒の種類も豊富。

会話も弾んで、日本の医療問題からそれぞれの人生問題まで多岐にわたる。最後は甘いもの(シャーベットかゼンザイ)をとってお開きとなる。(山本和利)

2010年10月26日火曜日

離島、米国そして札幌

10月26日、手稲家庭医療クリニックの小嶋一先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「家庭医療の実践- 離島、米国そして札幌-」である。

まず、自己紹介をされた。東京生まれ。居酒屋で酔っ払いに囲まれて育った。九州大学卒。沖縄中部病院で研修。離島医療に従事。米国で家庭医の研修を受ける。2008年手稲渓仁会家庭医療センター(愛称「かりんぱ」)で活動。19床の有床クリニック(ホスピス・ケア)で、年間100名の看とりをしている。初期研修医4名、後期研修医6名、内科から研修医4名。内科、小児科、産婦人科を標榜。在宅医療もしている。地域医療への貢献(幌加内へ研修医を派遣)も目指す。

これまでの道のりをさらに具体的に話された。初期研修は野戦病院のようなところで沢山の患者を診た。担当患者350名。離島に行くことが決まっていたので積極的に研修をした。週に140時間働いたことがある(寝る、食う、仕事しかない)。卒後3年目の離島経験。伊平屋島、人口1500人。医師一人、看護婦一人。毎日当直。風邪から心肺停止、外傷、精神錯乱まで何でもありであった。慢性疾患への対応がわからなくてもう少し勉強したくなった。

米国Family medicine residency:2003年、先輩が道筋をつけてくれて米国へ行くことになった。5年間研修した。3年間の研修で無理なく開業ができる段階的なプログラム。開業を前提とした教育。継続外来専門施設で研修。外来診察数:150人(1年目)+1500人(2-3年目)。Family Health Center(FHC)は、指導医と研修医がグループ診療を行う。外来にロールモデルがゾロゾロいる。経営なども実地で学べる。

FHCでよく遭遇する問題:小児検診、風邪、健診、皮膚科、腰痛、腹痛、(保険の関係で糖尿病、高血圧が意外と少ない)。術前検診、避妊相談、うつ病、禁煙指導、麻薬中毒、等。FHCで家庭医の幅を思い知った。米国の研修で納得したのは、ロールモデルがいる、入院と外来のバランスがとれている、一人立ちするための移行システムである、等々。

家庭医・家庭医療とは
「患者が望むこと」はいつもシンプルである。すなわち原因の追及、体調を治してほしい、等。風邪の患者さんを風邪の診療だけで終わらせない。エビデンスを大切にする。これまでの縦割り医療では実現できない視点を持つ。予防、未病、健康増進も。複雑な要因を解きほぐし解決する。アクセスが容易である。人生の始まりから終わりまで関わる。年齢、性別、病気の種類を問わない。入り口としての役割。患者の味方になって共に悩みを分かち合う。複雑な問題を整理して導く。医療のプロフェッショナルである。

ロールモデルやメンター(自分を理解、先を進んでいる、成長を助ける、尊敬に値する)に出会うことが大切。

現場主義:スキーはスキー場で習え。へき地医療を知らずして家庭医とは名乗って欲しくない。

家庭医の5つの武器
・ Community Medicine
・ Community Outreach
・ Behavioral Science
・ Quality Improvement
・ Practice Management
時間の関係で詳細は別の機会にということであった。

日本の家庭医には未来がある。その理由として4つ挙げられる(僻地医療の崩壊、予防医療のエビデンスに基づいた実践、産科・小児・救急医療の人手不足、恵まれた保険制度)。

最後に学生にエールを3つ送られた。「武器を磨け」「良きパートナーを」「二歩先を読み、一歩先を照らし、今を精一杯」

学生たちは家庭医療の具体的な内容や離島医療、米国の研修医の実態について知ることができ、感銘した者が多かった。講義が終わってからも追っかけで二名が昼食に参入してくるほどであった。小嶋先生、ありがとうございました。(山本和利)

アドバイザー面談

10月26日、札幌は初雪。みぞれ。
10月25日、札幌医科大学学生のアドバイザーとして担当の学生と面談した。11名中9名が参加。

近況を尋ねると、アキレス腱を切った者や排尿失神で倒れて顔面を怪我した者がいたが、大きな問題はないようであった。

大学への要望として、講義の冷房・暖房をしっかり入れて欲しい、医学部・体育館付近にウォータークーラー(冷たい水飲み器)を設置して欲しい。医学部内に5年生が座れる部屋が欲しい、等があがった。
2年生から、進級規定が厳しくなり進級できるかどうか不安を抱いている者が多いという意見が出た。

洋菓子店から取り寄せたロールケーキを食べながらくつろいだ雰囲気の中会話が弾み、約1時間で散会となった。(山本和利)

2010年10月25日月曜日

日本プライマリ・ケア連合学会理事会

10月24日、東京の医師会館で開催されたプライマリ・ケア連合学会理事会に参加した。

はじめに前沢理事長の挨拶。各支部における会合における活動を紹介された。
9月19日、20日に東京医療センターで行った専門医・認定医試験で、専門医の受験者は67名で合格者は56名(83%)、認定医は24名受験し合格者は21名(87%)であった。

秋季セミナーの開催予定を報告された。人気が集中していて希望者が受講できないものをある。より多く参加者が集えるよう日時や規模について検討中である。

各種委員会(広報・学会誌編集、生涯教育、認定制度、地域ケアネットワーク、倫理、研究支援、国際関係、渉外、学会名称検討、選挙制度検討、等)から活動方針・活動計画の報告があった。話題:地域ケアネトワーク委員会が自殺予防WGを立ち上げた。倫理委員会は男女比を1対1とした。選挙のブロック分けをどうするか。来年度の夏期セミナ(8月6-8日)は経費を削減するため筑波大学の施設を利用する。若手医師部会で冬季セミナーを企画中(2011年2月19日、東京大学)。病院総合医の専門医に関する事務局が決定(あゆみコーポレーション)。学会誌の電子化に伴い、どこまで一般の方がアクセスするようにするかが話題となった。学術集会での口演の査読することになった。

税理士事務所との契約が成立したことが報告された。各支部からの活動報告。プライマリ・ケア薬剤師認定制度について。人気が高い(薬剤師がとりたい資格第2位)。生涯研修受講の認定となる。会計報告(総額1億円)。

ロゴ・マーク、シンボル・カラーが承認された。白黒印刷をしたとき見にくい部分があることが問題になった。

第2回学術大会は7月2,3日に札幌で開催。その内容の発表があった(メインテーマ「時と人をつなぎ 今飛躍の時へ」)。参加費は医師が1万円、医師以外の職種が5千円程度。口演希望者には査読システムを考えている。第3回学術大会は九州で開催。第4回学術大会は東北ブロックで開催予定。医事新報の新連載企画(薬剤連載)が承認された。日本専門医制評価・認定機構への加盟。プライマリ・ケア認定医Bコースを2014年までとする(経過措置)。地域医療再生への寄与、日本歯科医師会との連携、WONCAフィリピン大会への途上国参加者支援について、報告があった。次回の理事会は2011年3月6日。(山本和利)

ペルシャ猫を誰も知らない

『ペルシャ猫を誰も知らない』(バフマン・ゴバディ監督:イラン 2009年)という映画を観た。

イランのクルド人監督バフマン・ゴバディがポップ・ミュージックへの規制の厳しいイランを、実在の事件・場所・人物に基づいてドキュメンタリー風に映画化したものである。デビュー作の『酔っぱらった馬の時間』はイランから迫害を受けるクルド人を描いていた。第2作目が『わが故郷の歌』、第3作目が『亀も空を飛ぶ』。今回は当局の規制厳しい中、その目を逃れながら密かに音楽活動を続ける若者たちの姿を描いている。当局に無許可でゲリラ撮影を敢行したそうだ。

出演者のほとんどは実在のミュージシャンたちである。地下室で音が漏れないように工夫しながら練習したり、田舎の牛小屋で練習したりといった場面がユーモアを交えて描かれる。ペルシャ語のラップミュージックも登場する。

監督はこの映画が完成後、イランを離れたそうだ。主役の2人も撮影が終了したわずか4時間後にイランを離れたらしい。反権力を貫き通す強靱な精神力に支えられて作られた映画である。音楽好きの方は是非ご覧下さい。(山本和利)

家庭医療学の研究

10月22日、藤沼康樹先生に学生講義終了後、スタッフ向けの講義をしていただいた。講義のタイトルは「家庭医療学の研究対象」である。
先生は今、リサーチに興味があり、プロジューサー役をしている。一流の研究者が素晴らしいメンターとは限らない。中小病院の現場の人とリサーチをするのは大変(自己負担のない研究はなかなか進まない)。現在、自腹で12名集めた。

質の高い家庭医療・プライマリケアを効果的・効率的に寄与する学問分野である。単純なヘルス・リサーチではない。
「日本の家庭医療の課題から」
1. 質
(ア) 質を何で測るか
(イ) 安全性、有効性、患者中心性、適時性、公正性
(ウ) 測定のスケールを作る、幸福かどうか
・継続的質改善:T2(ガイドライン通りの診療がなされているか)、SEA
・経営、運営、マネージメント
・生涯学習のシステム作り
・chronic care を大枠で考える:systematic approach(chronic care model)
2. 患者中心性
・共通基盤の確立
・意志決定の実施
・healingと深い繋がり:deep interviewをする
3. テクノロジー
・情報テクノロジー
・診断・治療テクノロジー
4. 研究
・研究ネットワークの構築
・アカデミック部門の協力
5. 政策
・医療政策への関与
・患者の立場から
・Social medicineの立場から
・研究に基づく提言
・地域基盤型参与研究:運動に近い、photo mapping
6. 教育
・教育の充実
・生涯教育

教室員それぞれが研究へのモチベーションが上がったのは確かであるが、このように文字にしてしまうと講義を直接受けたときのインパクトが伝えられないのがもどかしい。
藤沼先生、ありがとうございました。(山本和利)

家庭医、家庭医療、家庭医療学を紹介します!

10月22日、生協浮間診療所・医療福祉生協連 家庭医療学開発センターの藤沼康樹先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「家庭医、家庭医療、家庭医療学を紹介します!」である。まず、自己紹介をされた(内科医から芸風変更し家庭医に、ロンドンの診療所で勉強、考えて言葉にすることが大切と認識、地域全体で医学生を育てる)。

写真を見せながら日常診療を語る。「家庭医研修のある一日」を紹介。4歳の女の子が喘息発作で受診。付き添いのお母さんの治療もする。糖尿病でかっているとき前立腺がんを見つけてもらった男性(診療所のトイレにBPHのパンフレット)。下痢の子供2名。家族の中で認知症のお爺さんの相談。高血圧通院中の患者の膝関節穿刺。不機嫌な3歳児。左耳の中耳炎。下痢の高齢者に物忘れのスクリーニング。嘔気の女性が、実は妊娠。1歳児健診。慢性腰痛への対応。高血圧の患者がたまたま火傷。うつ病の男性。「虫さされ」で来院した男児。伝染性膿化疹。家庭内暴力でシェルターにいる親子。巻き爪の治療。禁煙外来受診者、等々。学生たちは幅広い診療内容に驚きをもって聴き入っている。楽しそうに語る姿が学生を引き付けるようだ。

「ある地域の千人の人に1ヶ月毎日健康日記をつけてもらいました。」(White KL et al:The Ecoligy of Medical Care.New England Journal of Medicine,1961の図を提示)
頭痛患者のごく一部しか医療機関に来ない。家庭医は「地域をカバー」している。

臓器別専門医のケア・モデルは、「病い・疾患 = 連続体 患者 = エピソード」である。

一方、家庭医療のケア・モデルは、「患者/家族 = 連続・継続 病い/ ライフイベント = エピソード」である。何かあったら相談に乗る。年代別年間死亡者数の推移をみると百万人。将来は160万人。その25%が在宅死。

在宅医療の実際の事例を次々に提示。高齢者と中年独身男性。グループホーム。多剤服用を減量。癌末期の患者の急変に対応(バッハを聴きながら永眠)。脳梗塞後遺症患者の胃ろう交換。肺がん末期。卵巣がん末期(配偶者へ誕生会を企画)。ごみ屋敷+猫問題をもつ患者。

アフガニスタン・カブール大学の研修:高度医療にしか興味がないことがわかったので、開き直って往診に同行させたり、問題症例のカンファランスを見せたりした。文化背景によって反応が異なることがわかった。(この研修が契機となりカブール大学の研修プログラムが変わったそうだ)。

「健康テーマパーク」突然、待合室であるテーマの講義を始める。「夏休みこども企画:医学部一日体験入学」夏休みの自由研究になる。子供にとって生きるとはと問うと、「間違えてうんこを踏んでしまうこと」という文章があった(一寸先は闇?)。

家庭医のよろず相談が大切。日本は医療システムの使い方を国民に指導しない唯一の先進国である。家庭医はとりあえず、なんでも相談にのる。

家庭医が高齢者をみる、医学的診断をつけることで解決する問題は、高齢者の場合は50%しかない。「物忘れ」「ころびやすい」「失禁」「元気がない」「ふらふらする」症状への対応を家庭医は得意とする。病気だけでなく、健康なところ、元気なところをのばすことに家庭医は関心がある。元気なところを伸ばす(健康生成論)。

在宅医療:家庭医は、自宅でできるだけすごしたいという願いを最大限かなえることができるように支援する。「がんの在宅緩和ケア(痛みや苦痛のコントロール)」。「非がんの在宅緩和ケア(アルツハイマー病、透析しない末期腎不全、末期心不全、老衰(むせやすくなり、食べられなくなったりすること))」

家庭医が思春期をみる。「予防医療が大事(アルコール、タバコ、クスリ、性感染症)」。「思春期独特の悩み相談」。「かぜ」やちょっとした「けが」のときに、予防的介入をしたりする。

家庭医がこどもをみる。小児科≠小児保健。「予防注射、乳幼児健診を積極的に行う。」「両親や祖父母も含めた健康相談にのる(家族指向性小児保健)」「比較的元気な急性期の症状に対応する(見逃してはいけない病気をつねに意識)。

家族をみる。「こどもからお年寄りまで相談にのれるので、家族全体の相談役=かかりつけ医=家庭医になれる。」「家族と病いは密接な関連をもっている。」「家族全体へのかかわり方を家庭医は知っている。」

予定の講義内容はまだまだあったが、あっという間に1時間が過ぎた。もう一度、聴きたい。家庭医療を将来の選択肢の一つに入れたい等、学生に大きな影響を与えてくれた。「藤沼先生、“どや顔”最高でした!!」という学生の声に、失礼と思いつつ噴き出してしまった(先生、御免なさい)。

藤沼先生、ありがとうございました。(山本和利)

2010年10月21日木曜日

10月の三水会

10月20日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は11名。大門伸吾医師が司会進行。

振り返り4題。
食べられない88歳男性。食べない、動けない。糖尿病、高血圧、慢性腎不全、認知症。食が細くなった。BUN;100,Cre;4.0.身体診察とCT施行。著しい脱水が判明。老衰と説明し家族も了承。家族の了解を得て補液200ml/日で経過観察している。1カ月経て看護師から何もしなくていいのですかと問われた。困った顔をした。これ以上何もしたくないなという印象であるが、ステロイドや抗鬱薬が効くことがなかったか一抹の不安はある。多職種でカンファレンスをする時間的余裕がない。できることなら臨床倫理4分割をしたい。

88歳女性。食べられない。高血圧、慢性心不全、狭心症、逆流性食道炎。脳梗塞の既往。白内障。脱水、腎機能低下、好酸球増多所見あり。ステロイド欠乏状態が判明。ステロイド治療を行い食べられるようになったのでグループホームに返そうとしたがそこから断られた。主治医の趣向で方針が決められているのではないかという不安がある。多職種でカンファレンスをどうようにしたら開けるか。行政を巻き込むとよい。関心を示すスタッフを巻き込む、等の意見が出た。

思春期のケア。まじめそうな16歳男子高校生。電車に乗った直後より、腹痛が起こりトイレに駆け込むと水様便。進学に対するプレッシャーがあり、母親が無自覚。RomaII診断基準やBMW基準を参照し、器質的疾患の除外を検討した。リスクファクターがなければ大腸内視鏡は不要とのこと。過敏性腸症候群を疑い、学校に連絡し、母親への説明を行った。薬物療法を導入し、早めに家を出るなどの生活指導を実施。主治医自身も過敏性腸症候群であることを告げた。3ヶ月後、症状改善した。過敏性症候群は難治性疾患であると思っている。「いつでもトイレにゆける」という言葉を主治医が患者さんにかけたことはよかった。これは家族療法でもある。「腹痛」から「進学に対するプレッシャー」に焦点を移し、「治す」から「気にしない様にする」というコーピングをしているという点で、賞賛の言葉をもらった。

小児麻痺で知的障害のある50歳代女性。ベッド上生活。食欲低下があり血液検査を施行。肝腫大があり、大腸内視鏡で大腸がん(adenocarcinoma)が発見された。肝臓に多数の結節あり。化学療法は難しいという判断。家族は保存療法を選択。その後、腹部膨満が出現。施設での点滴を指示したが、看取りまではできないと主張する施設側。とりあえず入院とした。食事は全量摂取。根気よく食べさせる付き添いの家政婦さんの力が大きい。病院では特別することがないので、施設での受け入れを促したが拒否されたため、療養型施設への転院を勧めた。結局、施設でケアすることになった。2ヶ月後、点滴をしながら療養している。状況を改善しようとしたが、逆に患者さんのQOLを悪化させてしまったのではないか。退院後の往診などのフォローアップ体制があればとも思った。

臨床登録医の医師からALS患者の在宅人工呼吸器管理の準備について報告があった。気管カニューレの交換実習。飼い猫が同居していて問題ないか。災害時の電源確保は発電機で。多職種の人々が大勢集まり連帯感が高まったことを報告。

北海道プライマリケアネットワークの補助金をもらって企画した「中高生への禁煙教育と喫煙アンケート調査」研究をするつもりであったが、実態調査は学校を通じてはしにくいので、意識調査に変えなければいけないという問題が生じた。参加者全員で話し合いをした。学生さんがどれだけ真剣に記入してくれるか、学校・父兄の対応などについて熱い議論となった。(山本和利)

2010年10月19日火曜日

総合医と臓器別専門医

10月19日、勤医協中央病院総合診療科の臺野巧先生の講義を拝聴した。はじめに講義のポイントは「Think globally, Act locally.」で始まった。その後、自己紹介をされ、臓器別専門医(脳外科医)から総合医への転身された経緯を話された。スケート部で東医体三連覇、POPS研究会で活躍、学生会を創設し、寮生活の改善活動をしたとのこと。

脳外科時代は、臨時手術、当直業務、緊急呼び出しが主な業務。充実していたが、年をとると大変と感じていた。同窓会にゆくと他の専門医となった医師も同じ悩みを持っていることがわかった。専門以外の知識がないため全科当直が非常にストレスだった。CT,MRIで異常がないと薬だけ出して終わり。めまいの患者ではDPPVが一番多いが、脳外科はそれに対応できない。そんなとき、『家庭医・プライマリケア医入門』という本に出会った。総合医とは総合する専門医なのだということがわかった。

札幌医大の総合診療科で総合医としての基礎づくりをした(病歴聴取、身体診察など)。学生さんとの学習会:EBM。勤医協へ赴任してから教育の重要性に気付いた。またそこで総合医が認められていることへの驚きと健全なスペシャリズムのあることを知った。

日本の医療情勢。
高齢化率の上昇し、複数の問題を抱えている患者や加齢・廃用の比率増加。総合医、老年医学のニーズが増加する。病院機能の限界。健康増進が重要。複雑系を扱う専門性が必要。Versatilist(十分深い専門性と周辺分野も適度に詳しい)がもう少し増えていかないと日本の医療はうまくゆかない。少人数でよい、相乗効果がでやすい、休みをとりやすい。John Fryの「理想の医療供給体系」を紹介。

世界の医療情勢。
マッキンゼーによる分析。各専門医数の規制がないのは米国と日本のみである。医師への規制があるのが世界の流れである。不足する科ではインセンティブを賦与している。
米国の現状:コストが他の国の2倍で、GDPの17%。高額な医療機器の使用と外科手技が多いためである。臓器別専門医が多いと医療費がかかる。プライマリケア医の育成を強化する。一方、英国の現状。医療費を8.4%に上げた。プライマリケアを重視。

これから医師になる方への問題提起。
総合医が提供する医療は専門医よりもレベルが低いのか?「NO!」である。卒業時にプライマリケア医を目指すのは数%である。各科の専門医の必要数が検討されていない。最後まで理解がすすまないのは医師側ではないか。ハワイ大学外科町淳二先生の言葉を引用。「日本の医師は、できれば最初の5年間くらいはgeneral physicianとしてのトレーニングを積むべきだ」
勤医協中央病院の新しい取り組みを紹介。屋根瓦式研修医教育やMini-CEX,等。

先輩からの熱いメッセージであった。学生さんから総合医支援の声が多数寄せられた。この講義で自分の進路を総合医にしようと思ったといったものが少なからずあった。「もっと総合医になりなさいという講義が必要である」という意見が思いの外多く、こちらとしても大変勇気付けられた。臺野先生、ありがとうございました。(山本和利)

日本プライマリ・ケア連合学会理事長に聞く

10月13日、KKR札幌でプライマリ・ケア連合学会理事長である前沢政次氏にインタビューを行った。

このインタビューは、我が国のジェネラリストを牽引してきた先学に、古きをたずねて将来の針路を学ぶことをねらいとし、これまでに日野原重明氏、鈴木荘一・央両氏に貴重なご意見を頂戴した。今回は、3回目として前沢理事長にお話を伺った。

まず、前沢理事長にプライマリ・ケアに関心を持たれたきっかけを伺い、さらに自治医大から北海道大学に至るまでの足跡を尋ねた。そして、新学会の目指すものについて意見をお願し、最後に、理事長が学会誌に期待するものもお聞きした。

この記事は、日本プライマリ・ケア連合学会誌 第33巻4号(2010年12月号)のインタビュー:ジェネラリスト温故知新に掲載予定である。一つの論文が切っ掛けで前沢理事長の進路が変わったことや家庭医療研究会立ち上げのころの興味深い話を聞くことができた。請う、ご期待。(インタビュア:山本和利)

2010年10月18日月曜日

第17回北海道プライマリ・ケアネットワーク理事会

 10月16日、札幌かでる2・7においてNPO法人北海道プライマリ・ケアネットワークの第17回理事会が行われた。

役員辞任の件,2010年度研究助成金を若林医師に追加助成する件、スキルアップセミナーの件(精神疾患3回、感染症3回)、夏家庭医療学季セミナーにポスター参加の件、8月21日(三水カンファ富良野)の報告、第6回指導医講習会の報告、宣伝広告・パンフ・ポスターの件、11月27日に行う北海道家庭医療フォーラムの件、臨床研修の地域医療研修に関する実態調査、レジナビフェア アンケート結果、総合内科医養成研修センター運営事業、2011年度募集に関わる件、2011年度研修施設の選定の件、2011年度役員改選等について話し合われた。

今回は和室で行われたため、足の置き場に困る理事が多かったように見受けられた。次回は洋室にします。

総合医・家庭医養成に対する意欲のある意見が多数出された。今後とも気持ちを引き締め、参加施設ネットワークを活かして地域医療に貢献できる策を提案してゆきたい。(山本和利)

ニポポ研修医面接2

10月16日、札幌医科大学で来年度ニポポ研修医の第二回目の面接を行った。面接官は山本和利と木村眞司理事。事務局の日光ゆかりが同席。大変意欲のある方であり、あっという間に1時間が経過した。

二次募集を開始しました。総合医、家庭医になりたいという意欲のある研修医方々、応募してください!
(山本和利)

幸福(しあわせ)

『幸福(しあわせ)』(小林政広監督:日本 2006年)という映画を観た。

舞台は北海道の勇払駅。苫小牧の近くらしい。この監督は北海道を舞台にすることが多い。男女の主人公が揃ってお尻を突き出してガニ股で歩く。別の映画「春との旅」の若い女性もガニ股で歩くように指導されたらしい。そんな中年男がボストンバッグ一つでふらりと勇払駅に降り立つ。そして街外れの公園で、突然倒れるように眠ってしまい、場末のスナックに職を見つけた中年女が、男を介抱し店に連れてくる。

男も女も過去に秘密を持って生きているようだ。そこに香川照之扮する常連客が狂言回しとして登場する。歌手を目指すもうまくゆかず人生に失望してカラオケで「心凍らせて」(高山厳やテレサ・テンが歌っている)を歌う場面が固定カメラで撮った映像で流れる。そんな場面が4回も出てくる。この場面がなかなか展開しないので面はゆい面もあるが、慣れてくると味わい深い。

家族に捨てられた男と、家族を捨てた女。それぞれが見つけ出す幸福とは何か。そんな映画の結末よりも、映画の醸し出す雰囲気を味わいたくて、もう一度観たくなる映画である。(山本和利)

2010年10月12日火曜日

地域医医療:講義2

10月12日、北海道庁保健福祉部の鈴木隆浩主幹から「北海道の地域医療の現状と道の取り組み」を拝聴した。

北海道の医師数は12,000人で、全国の4%を占める。これまで右肩上がりであり、224.9名/10万人であったが、2004年からは北海道内の医師数の伸びが鈍化している。また医師の地域偏在もある。札幌圏には6,371名がいるが、南檜山圏には34名しかいない。10万人当たりで見ると上川中部圏は317.5人であるが、根室圏は91.2人に過ぎない。ドクターヘリを3機導入しているが、限界がある。

アンケート調査によると、日本中で医師が1万8千人不足し、北海道は780人不足している。現状の1.1倍必要という計算になる。女性医師が増加(13.1%)し、無床診療所が増加し、病院・有床診療所が減少している。小児科を主たる診療科とする医師数は不変だが、複数標榜する医師が減少している。産婦人科は20-30歳代の女性医師が6割を占める。

道内の卒後臨床研修医の状況として、大学の研修医が不足し、地域の医師の引き上げが起こっている。国が研修医制度に見直しをかけたが、研修医数の上限を決められたため、北海道にとっては有効な政策となっていない。その中でさらに数十名が去り240名が後期研修医として道内に残っている。

北海道の医療機関の特徴は市町村立病院が多く、100床未満の病院も6割と非常に多い。
そして54.4%が標欠となっているため、診療報酬が少ないため経営が成り立ちにくい。
1人勤務の診療所・病院が増えているが、一人やめるとドミノ倒しで医師がやめてゆく。

次のような北海道の取り組みを紹介。
北海道医療対策協議会
・ 医師派遣要請
・ 全体調整依頼:現在22名の要請に4名に応諾。
・ 札幌医科大学地域医療支援センターから15名派遣
・ 旭川医大:3名
・ 自治医大:10名
・ 北海道地域医療振興財団:14件成立
・ 北海道女性医師バンク:最近は成立が少ない。
・ 地域医療支援派遣医師確保事業:最近は0件
・ 道外医師招聘事業:道内13名、道外3名
・ 医師版移住促進事業:11名
・ 短期医師:派遣日数:2,230日
医学生向け合同説明会
総合医養成支援事業
指導医養成事業
10億円の予算をつけている。(4億円増加)
学生奨学金制度:6年間で1,200万円、将来は全体で奨学生が160名になる。
研修医への貸与金制度:年額240万円もある。
道内の医学部入学者344名。

新たな事業
・ 地域医療指導医派遣システム推進事業:北大
・ 総合内科医養成研修センター運営支援事業:23病院を指定

授業の最後に学生に質問。
将来僻地に行ってもいい人:約10名。
内科系希望:約15名
産科・小児科:約5名。

道庁が様々な取り組みをしていることを始めて知る学生が多かった。成果が今ひとつなので、さらなる取り組みを期待したい。(山本和利)

サンゲ・サブール

『悲しみを聴く石』(アティーク・ラヒーミー著、白水社、2009年)を読んでみた。

アフガン亡命作家によるフランス語で書かれた作品である。暗い部屋に意識のない男が寝かされていて、その周りで祈りの言葉を九十九回唱え続ける妻。その中に独白が混じり込む。

「サンゲ・サブール」とはペルシャ語で「忍耐の石」。その魔法の石に向かって他人に言えない不幸・悩みを打ち明けると、石はそれをじっと聴き、飲み込み、あるとき、粉々に土砕ける。その瞬間、語り手は苦しみから解放されるという神話があり、タイトルはそれからとられている。

 あまりにも辛い不幸は、誰かに語るしか癒されない。他人にも言えない。意識のない石なら言える。意識のない夫の身体になら語ることができる。

総合診療外来で、ときどき私を「忍耐の石(医師)」と見なして語りかけてくる患者さんがいる。私は石になりきれているだろうか。「忍耐の石」となって患者さんの話を聞き続けたら、患者さんは苦しみから解放されるのだろうか。自分が砕け散らないと駄目なのか。

語ることの大切さを思わずにはいられない作品である。(山本和利)

日本プライマリ・ケア連合学会誌編集会議

10月11日、東京の医師会館で開催されたプライマリ・ケア連合学会編集委員会に編集長として参加した。

掲載不可の判断をどうするか、原著論文の基準をどうするかが始めに話し合われた。できるだけ建設的な意見を編集委員会から著者にフィードバックすること、単に方法論的な面だけを重視して原著にするのではなく、方法論に問題があってもプライマリ・ケアの視点でユニークさがあれば原著とすることなどが確認された。

特集企画として「家庭医専門医制度について」と「総合診療カンファランス」という案が出された。また来年度の学術集会の中で「論文の書き方」というワークショップを編集委員会で企画することになった。その後、和文誌、英文誌の掲載予定の論文報告がなされた。

最後に、PubMEDへの収載を打診すること、理事・代議員に査読のできる分野についてアンケートをとって査読者の数を増やすことなどが提案された。(山本和利)

息もできない

『息もできない』(ヤン・イクチュン監督・出演:韓国 2008年)という映画をリクエスト上映企画で観た。

殴る・蹴るの場面がこれでもかこれでもかと出てくる映画であるが、見終わって余韻の残る映画でもある。家庭内暴力の中で育ち愛を知らない手加減のない仕事振りで恐れられている取立て屋と精神を病み、働けない父を抱えている女子高生の運命的な出会いを描く。

小児期に暴力被害を受け、成人となって否定したはずの暴力を生活の糧にしている男が、父親を殴る自分の姿が自分の嫌った父と同じであることに気付き、その無意味さに気づいたとき、ドラマが待っている。暴力が世代を経て伝播してゆく悲惨さが伝わってくる。

監督が持ち家を売って、さらに借金までして作ったという映画である。韓国映画の傑作がまた生まれた。(山本和利)

ニポポ研修医面接

10月9日、札幌医科大学において来年度ニポポ研修医の面接を行った。面接官は山本和利と佐古和廣副代表理事。事務局の日光ゆかりが同席。医学部に入るきっかけ どんな医師になりたいのか どんな医療がしたいのか、北海道プライマリ・ケアネットワーク「ニポポプログラム」の魅力、研修修了後の進路、初期研修の振り返り等を訊いた。来週も面接が予定されている。総合医、家庭医になりたいという意欲のある研修医が応募してくれることを期待したい。(山本和利)

2010年10月8日金曜日

FLATランチョン勉強会

10月8日、1,3年生の特別推薦学生(FLAT)を対象にランチョンセミナー勉強会に参加した。2年生は看護実習期間中で不在。13名が参加。身体診察その4と題して最近髭を生やし始めた木村眞司先生が腹部診察の指導を行った。

まず腹部に起こった痛みについて学生に問いかけから始めた。腹部の解剖について3年生に、肝臓と脾臓の場所を訊いた。胃、十二指腸、小腸、大腸、等様々な部位の病変で起こる。
過去に経験した事例を出しながら講義を進めた。歩いた時に心か部痛が起こる例。心電図は正常であったが、心臓カテーテル検査で三枝病変が発見された。胆嚢、胃、肝臓。
臍部は小腸病変である。
下腹部痛は大腸、膀胱。

次に参加学生の一人に仰向けになってもらい腹部触診を行った。学生がアドリブで虫垂炎患者を演じてくれた。
ポイントと話の進行。
1. まず右側に立っての視診から。
2. 次に聴診。聴診器を温める。腸雑音を聞く。(学生が聴診器で聴く)
3. 右季肋部の打診。
4. 軽く全体を触診。痛みのある部位は最後に診察。
5. マックバーニー点を教授。腹膜刺激兆候。踵叩打試験、閉鎖孔兆候、等。

女子学生の参加が目立つ。体験者になるのも女性が多い。男子学生、集まれ!(山本和利)

地域医療特論:産婦人科

10月8日、札幌医科大学の3,4年生を対象に北見日本赤十字病院の水沼正弘先生が行った「地域医療特論」を拝聴した。はじめに産婦人科の齊藤豪教授の導入があった。(次週も小児科の講義が予定されている)。

まず、日本赤十字社の紹介。基本精神は人道、公平、中立、独立、奉仕、単一、世界性である。北見市はかつて野付牛町といっていたそうだ。北見日本赤十字病院は1935年に開設。5か月で完成。トイレ、水回りが大事。1980年改築。現在、680床。急性期病院として期待されているため、慢性疾患患者が病院から追いやられた。2008年は内科の引き上げにあい苦労した時期であった。4年後には500床で新築病棟が完成予定。25億円事業で北見赤十字病院主体事業を企画している。現在の医師数は91名。研修医は約10名(かつては30名)。当初東大、慶応大学出身の研修医を受け入れていたときの話も出た。職員は約千名。

地域医療連携について。オホーツク医療圏内(青森県と同じ面積)での「地域完結型医療」を目指す。北網地区と遠網地区。地方センター病院が1施設。地域センター病院が3施設。対象人口は31万6千人。北見市は12万7千人。外部に患者が流出しにくい。内科、整形外科は完全紹介制になっている。精査、高度医療が必要な患者のみを診るようにしている。かかりつけ医と専門医との「二人主治医制」を目指している。放射線科医が4名いる。電子カルテ化が進んでいるので、かかりつけ医が北見日赤病院の情報を自分の医療機関から閲覧することができる。また「開放型病院」であり、かかりつけ医が北見日赤病院で手術もできる。救急は小児科の患者が多い。当直時に遭遇した殺人事件の被害者、頭蓋底骨折、解離性大動脈瘤、等の経験談を紹介された。

北見日赤病院はユニセフ・WHO認定施設。産科・新生児医療は圏内で複数の医療機関が対応してくれているので比較的恵まれている。分娩数は減少しているが、ハイリスクの早産、多胎産が多い。頸管縫縮術の紹介。750gの超低出生児の20年にわたる経過を文献考察を含めて報告。最後に医療事故の話。子宮破裂事例とその反省。胎児敗血症事例。全前置胎盤・癒着胎盤の事例。感動的な家族立会分娩を紹介。

講義の後半、具体的な産婦人科の事例は生々しく、産婦人科に関わらない者には普段聞くことができない内容であり、大変参考になった。学生たちのアンケートをのぞき見ると、現場の大変さを感じ取ったようであり、地方でも最先端の医療が実践されていることに驚いているようでもあった。(山本和利)

2010年10月6日水曜日

音楽嗜好症

『音楽嗜好症』(オリヴァー・サックス著、早川書房、2010年)を読んでみた。

神経学・精神医学教授で開業医として活躍するオリヴァー・サックスがまたまたユニークな本を出した。これまでパーキンソン病を扱った『レナードの朝』やユニークな神経疾患を紹介した『妻を帽子と間違えた男』等、10冊近く出版している。

本書では、音楽と神経疾患との関係を出会った患者さんや手紙をもらった事例、文献などを引用に紹介している。突然音楽が聞こえるようになった患者、特定の音楽で誘発される癲癇発作、「音楽の幻聴が聞こえる」患者を紹介。音楽幻聴には難聴と関係が強いらしい。セロクエルやガバペンで治療に成功した例があるそうだ。

知的障害がある一方で音楽的才能がすばらしい音楽サヴァン症候群や病的に音楽好きなウイリアムズ症候群についてこの本ではじめて知った。

視覚障害があると音楽能力が高まる話やその考察も興味深い。音楽に色がついていると認識してしまう感覚(共感覚)を持つ事例も紹介されている。音階ごとにそれぞれに色が付いている人や音階に味がついている人もいるようだ。

 最終章は「認知症と音楽療法」である。馴染みのある音楽を聞かせることによって不眠や問題行動が減少する事例を紹介している。

オリヴァー・サックスの本を読むといつも「人間って不思議だ」「世の中には様々な症状を持つ人が沢山いるのだ」という気持ちにさせられる。日常診療の中で、患者さんの訴えを真摯に受け止めなければならないと改めて思った次第である。(山本和利)

地域医医療:講義1

10月5日、札幌医科大学地域医療総合医学講座の「地域医療」講義の第1回目を行った。

自己紹介をした後、これまで地域医療で経験した事例を紹介した。
まず、映画「ダーウィンの悪夢」を通じて、個々の合理的な活動を集約したときに、全体として最悪の結果が起こりうるという「合成の誤謬」の例として紹介した。日本の地域医療の現状も例外ではないと。

地域医療の総論を述べ、最後に短期間ではあるが伊良部島で診療にあたった研修医の日記を紹介した。

学生さんから、たくさんの好意的な意見が寄せられた。短期間でいいのなら是非、地域医療の現場に行きたいという意見が多く見られた。今後の授業への期待も大きいことがわかった。14時間の講義で構成されている。学生諸君、請うご期待。

2010年10月5日火曜日

くまげら


JR富良野駅近くの郷土料理店『くまげら』に行ってみた。

因みに「くまげら」とはキツツキ科クマゲラ属に分類される鳥類で、日本では1965年に国の天然記念物に指定されている。アイヌの間では「チプタ・チカップ」(船を掘る鳥の意)と呼称され、クマの居場所を道案内する神として崇められていたそうだ。

この店はテレビドラマ「北の国から」の撮影にも使われ、宮沢りえ、中嶋朋子も来店したという。シカ肉、鶏肉などを中心としたクマゲラ鍋が名物。チーズを豆腐のような食感で味わうチーズ豆腐がうまい。ジャガイモを詰め込んだソウセージ「しろうさぎ」も美味しかった。うまい日本酒も用意されており、風情のある容器で運ばれてくる。中国からの観光客がバスで乗り付けていた。夜12時までやっているという。もともとは蕎麦屋で、夜9時半すぎると蕎麦を注文できるという。食通の方は、富良野を訪れたときにはいかがでしょうか。(山本和利)

卒業試験小委員会

10月4日、札幌医科大学卒業試験小委員会に参加した。10月中旬に行われる試験の問題約750問(本試験、再試験問題を合わせて)を委員会で検討した。

誤字、脱字に始まり、用語の適切さ、表現の仕方、等を国家試験問題作成の手引き書に則りながら7名で検討した。16時半に始まり、終了は22時であった。

本試験は3日間、学生の健闘を祈りたい。(山本和利)

2010年10月4日月曜日

患者と医療従事者とで創る物語

 10月3日午前中、メンタルケア・スペシャリスト養成講座で「患者と医療従事者とで創る物語」という講義を行った。受講者の1割くらいが男性。

導入は私自身の若かりし日に実践した静岡県佐久間町の地域医療の紹介から入った。その後、オリバー・サックス『妻を帽子とまちがえた男』に収録されている、診察室では「失行症、失認症、知能に欠陥を持つ子供みたいなレベッカ」、しかし、庭で偶然みた姿は「チェーホフの桜の園にでてくる乙女・詩人」という内容を紹介した。最近発刊された「音楽嗜好症」もついでに紹介。
医学教育における視点の変化を紹介し、研修医、総合医には、持ち込まれた問題に素早く対応できるAbility(即戦力)よりも、自分がまだ知らないも事項についても解決法を見出す力Capability(潜在能力)が重要であることを強調した。

後半は、本題のナラティブの話。6つのNarrative要素:Six “C”を紹介。
隣にたまたま座った受講生同士で話し合いながら講義を進めたので、笑いに包まれ和やかに進行した。聞き上手の精神対話士になってください。(山本和利)

北海道PC研究会第52回学術集会

10月3日、北海道プライマリケア研究会第52回学術集会に参加した。
一般演題。
第1題目。「99カード」の使用報告。オレンジ色の袋に薬剤情報を入れて、玄関枠に設置しておくと、救急対応時に有益である。

第二題目。総合診療科におけるPIPC(Psychiatry in Primary Care)の使用経験の検討.
身体化障害やうつ病を疑った場合にこれで問診すると15分くらいで終了し、診断・治療に有益であった。

第三題目。若手家庭医のへき地診療所での実践。患者数が増え、一人の受診回数や医療費が減少し、医療費が大幅に減少したことを報告した。

第四題目。粟粒陰影を示した3事例。粟粒結核を鑑別することが重要で、従来の喀痰検査に加えPCR法やQFT2Gが有効である。

第五題目。ジスロマックSRによって発症した横紋筋融解症。幸い補液のみで1カ月後正常化した。ジスロマックSRによるものはきわめてまれであるが、注意が必要である。

第六題目。大腸憩室から出血を繰り返した抗血小板薬使用例。ステント治療をしたばかりの人の場合、薬剤をどのようにしたらよいのかが議論となった。

第七題目。非胸痛性急性心筋梗塞の臨床像。20%に胸痛なし。重症感が強く、嘔吐、冷汗は早めに心電図をとること。非胸痛は下壁梗塞に多い。死亡率が高い。12誘導心電図で95%は診断できた。

特別講演は京都大学の福原俊一教授の「プライマリケアの研究とは?」というものである。
いつになく沢山の参加者があり活発な討議が行われた。(山本和利)

消えた警官

『消えた警官 ドキュメント菅生事件』(坂上遼著、講談社、2009年)を読んでみた。

2010年10月、大阪の特捜検事の捏造事件がマスコミを騒がしている。本書は1952年大分県菅生(すごう)で起こった駐在所爆破事件を検証したものである。戦後、農地改革など民主的な政策がとられる中で、地主が強くて封建的な風土の残る菅生で、国家権力・警察が謀略を練って起こした捏造事件である。

謎の男が現れ、地元の過激分子と一緒に駐在所爆破事件を起こす。しかしながら三人逮捕されたはずなのに、そのうちの一人が消えてしまう。それを共同通信や新聞社の記者がこの疑惑を追及してゆく経緯が記されている。無実を勝ち取るまでの法定場面や科学捜査の場面は手に汗を握り、次のページをめくるのが待ちきれない。

 いつの時代も権力の横暴は存在するのだ。ミステリー嗜好の方にも、ドキュメント嗜好の方にもお勧めである。(山本和利)

SABOT

札幌地下鉄東西線丸山公園駅近くのイタリア料理店『SABOT』に行ってみた。
人気が高く当日直接いっても入れないという。名前を一見するとフランス料理かと思うが、ワインはイタリア産ばかりである。SABOTをインターネットのフランス語辞書で引くと「靴」と出てくる。靴の形をしたイタリアを意味しているということか。

ワインはボトルで頼むと1本が4千円以上とやや高め。サラダの量は多くないがうまい。鴨肉料理は柔らかく生姜が添えられており、とろけるような味であった。ピザは薄くカリカリと焼きあげられており、出前のピザとは異なった美味しさがある。注文してから食べるまでやや時間がかかることと料金がやや高めが難。時間と懐に余裕のある方にはお勧めである。(山本和利)

2010年10月1日金曜日

激しい腹痛・下痢と血圧低下

「53歳 主婦。去年から2・3カ月に一度の割合で激しい腹痛の下痢のときに嘔吐があり、血圧が急に下がります。
座って至れないほど、具合が悪くなり、トイレで倒れてしまいます。
その状態が30分ほど続き、ようやく起きれるようになります。
何が原因なのでしょうか?
家族がいないときに倒れたらと思うと不安です。
便潜血検査は毎年異常ありません。」

<総合医からの回答>
この経過全体から受ける印象としては、過敏性腸症候群の症状として激しい腹痛の下痢、
嘔吐が起こり、自律神経の一つである副交感神経の亢進により血圧が急に下がるものと考えられます。この過敏性腸症候群は、腸の粘膜に病変がなく、ただ腸の働きが強くなりすぎることによって腹痛や便通異常といった症状が現れる病気です。ストレスやプレッシャーがかかると腸が敏感に反応して症状を起こす、つまり腸の自律神経の不安定な状態といえるでしょう。

便潜血検査は毎年異常がないということですが、年齢のことを加味しますと炎症性腸疾患や悪性疾患を現時点では否定できませんので、最寄りの医療機関を受診し血液や便検査、消化器内視鏡を受けることをお勧めします。

炎症性腸疾患や悪性疾患が否定されれば、過敏性腸症候群に対して有効な内服薬がありますので、それで症状を軽減することができます。便の水分バランスを調整する薬、腸のけいれん・緊張を取り除く薬、便秘に対しての軽い下剤・整腸薬や腸管運動機能調整薬などが有効です。環境やライフスタイルの改善も重要です。また、便秘が主症状の場合は高繊維質のものを食べるとよいでしょう。

血圧が低下する症状がそれでも起こる場合には、医師に相談すると血圧の下がりにくい内服薬やその時の対処法を教えてくれると思います。(山本和利)

2010年9月29日の北海道新聞【学んで直そう】に掲載された。

学生担当症例の検討会

9月30日、金沢大学総合診療部の学生実習の振り返りに参加させてもらった。MSワードに書かれた文章を供覧しながら発表。従来の症例検討のスタイルである。

第一例目。嘔吐、頭痛、心か部痛の20歳代の女性。バッファリン内服中。その後、右下腹部痛が出現。学生は片頭痛と思っていたと。それぞれの問題について診断名を挙げていたが、できれば一つでまとめてほしいとコメントした。20歳の女性ということなので、オッカムのかみそり(Occam’s Razor)「一つの原因は観察されるすべての事象の源である」でゆく。もう一点患者自身の説明モデルを追加するよう指摘した。推測:片頭痛とバッファリンによる胃腸障害に虫垂炎など感染性の腸疾患を併発したと考えた。

第二例目。60歳代男性。膵がん・胃癌術後。抗がん剤治療中に急性白血病化した。地固め療法中、ショック状態。救急車で心停止。救急対応で蘇生。学生は最初、敗血症性ショックと考えたが、後でカリウム値が高く、クレアチニン値も高かいことが判明。考えるべきこと多数あり。

第三例目。汎血球減少で多発性骨髄腫を疑い精査となった80歳代女性。歩行障害あり。診断後、多発性骨髄腫の新薬を開始した。高齢者に対してどのように治療をしてゆくかが議論された。

小泉教授が3例に2時間かけて学生を指導する従来型の症例検討のスタイルが、久しぶりでありそれが新鮮でもあった。(山本和利)

プライマリケアと家庭医療

9月30日、金沢大学総合診療部の講義を依頼され、5年生に「プライマリケアと家庭医療」の講義をした。
毎年、招かれて行っている内容を今回は一部変えて、本年6月に行った「家庭医療学の理論的基盤」の内容を追加した。

自己紹介をした後、これまで関わってきた事例を交えながら、医療のパラダイム変化、家庭医療学の歴史 、家庭医療学の基本原理(総合医・専門医を巡る勘違い、受療行動、コミュニケーション技能/医師・患者関係、癒しのプロセス、患者中心の臨床技法、予防と健康増進、家族と病気)等を話した。

従来よりも授業中の学生さんの反応はおとなしい印象であった。対話形式の授業を歓迎する声も聴かれた。ただ記述によるフィードバックも少なく少し残念であった。

 終了後は総合診療部臨床実習の振り返りの会に参加させていただいた。

 夕刻場所を変えて、学生有志を募っての会では「地域基盤型実習」という講義を行った。

2010年9月29日水曜日

研修医の振り返り

9月29日、研修医の振り返りを行った。2か月で約130例の外来患者さんを担当した。疼痛で座れないという患者さんや食物への異物混入を訴える患者さん。様々な背景が原因で不調を訴える患者さんたち。
その中から印象的な事例を2例を発表してくれた。

第一例は腹痛、下痢、発熱の20歳代女性。はじめはウイルス性腸炎として対応したが、その後、血便が出現するようになったため再受診。カンピロバクター腸炎、病原性大腸炎、虫垂炎を鑑別診断に挙げた。調べてみてカンプロバクター腸炎は3日後、下痢、発熱、嘔吐、虫垂炎に似ている、ギランバレー症候群を呈することがある。エリスロマイシンがファースト・チョイス、等がわかった。
SEA:腹痛が4日続き血便があるということはただごとではない。経過を観察することが重要であることがわかった。
クリニカル・パール:血便を伴う感染症をみたらカンピロバクター感染を考慮する。
1/3は初期段階で消化器症状を欠く。

第二例は、フィリピンから帰国後、咽頭痛、咳、鼻水、腹痛、下痢、発熱の20歳代女性。
38.1度、咽頭発赤。何らかの感染症。
鑑別診断として輸入感染症(デング熱、マラリア)、感冒、等を挙げた。
SEA:素足で泥の中で作業をするという日本人支援労働者の衛生面への意識の低さを懸念した。
クリニカル・パール:国内においても輸入感染症の知識が必要であることがわかった。

1年目の研修医であっても、2ヶ月間で十分に外来研修から学んでいることがわかった。たくさんの人を受け入れたいので、是非、研修医の皆さん、選択して下さい。(山本和利)

総合医を育む離島医療

(利尻島国保中央病院会員25周年記念誌に寄せた文章を転載します。)

利尻島国保中央病院会員25周年、おめでとうございます。札幌医大地域医療総合医学講座は創設されて11年半が経ちますが、その間に教室員2名が貴院の院長として関わりました。私自身も利尻島の診療所のお手伝いをさせていただき、学生実習でも多くの者がお世話になりました。稚内港でフェリーに乗船するまでに2時間半待ったり、飛行機が欠航した際には稚内から札幌まで寝台車で帰ったりしたこともあり、離島の診療の大変さを、身をもって感じました。

かつて私が出身地の静岡県で僻地医療に従事している時も様々な困難に直面する患者さん達に出会ったことを思い出します。一人暮らしの高齢の患者さんは半身不随のため山を下りることができず、医師や看護婦の定期往診だけを楽しみにしていました。通院が困難な都会の専門医に治療してもらうことよりも、地元での対処療法で満足して感謝しながら自宅で亡くなった癌患者さんもいました。脳出血が疑われる患者さんの収容先をやっとの思いで確保、くねくねとうねった細い山道を救急車で1時間近く搬送したこともありました。肝性昏睡を繰り返しながらも地元の有志で構成されている救急隊に迷惑をかけるのを嫌って、救急車を呼ばずにそのまま自宅で亡くなられた患者さんもいました。僻地では、住民が老齢化し、老夫婦のみの核家族ばかりがどんどん増えています。特に山間地域では巡回バスやタクシーの他には交通手段がなく、在宅ケアや訪問看護、デイケア、ホームヘルパー等の活用が重要になってきますが、実際にはうまくいかない現実があります。

このような山間部の問題は、離島ではさらに過酷な面があると思います。病院の中だけで病気を治すだけでなく、社会資源を活用したり、多職種が連携したり、行政と協同したりして島全体のことに関わる必要が出てくるでしょう。離島医療の問題は一部の医療評論家が強調するようなインターネットを使って遠隔治療を導入すれば解決するといった単純なものではなく、実際その現場に行き、その現場の住民・患者さんたちと生活を共にすることでしか解決ができないからです。そのような医師を離島で確保することは容易なことではありません。しかしながら、意を決して「総合医として離島・僻地で働く」ことになった医師達は皆地域の現場で「輝いて」います。利尻島の医療も例外ではなく、これまで多くの輝く医師達に支えられてきました。そのような医師は日進月歩の医療に遅れることなく、住民のニーズに応えるべく日々それらに合わせて変容してゆきます。地域の現場が総合医としての学習の場になっています。住民・患者さんたちの生活を知ることで、その背景を考慮し包括的に診る視点が涵養されてゆきます。このような志を持ち、離島・僻地のニーズに応えられる技能・態度を持った医師を育成したいと私は思っています。

今後ともたくさんの医師が関わって利尻島の医療が益々発展することを願っております。(山本和利)

2010年9月27日月曜日

蕎麦打ち体験


9月26日、学生に交じって蕎麦打ちをはじめて体験した。場所は幌加内そば道場。講師は幌加内町立国保病院薬局長の井盛さん他2名。そば道場と書かれた青いエプロンを借りて着け、手を丁寧に洗って作業開始。

工程は4段階からなる。1)水まわし・こね、2)のばし、3)きる、4)ゆがく。小麦粉100g、そば粉400g、水225ccが用意されていた。小麦粉とそば粉は2対8で水はその45%だそうだ。はじめのこねが一番難しいらしい。約半分の水を入れて両手で円を描くようにこねる。そうすると小さな玉ができるが、水を入れながら10分ほどこねる作業を続けると大きな玉になってゆく。はじめてなので指導を受けないとどの程度こねればいいのかがわからない。指導員のOKがでたところで1個のおおきな玉にまとめる。ざらざらからすべすべした感じになってゆく。この感じは、やり始めるとはまるかもしれない。これを中央へ巻き込むように練る。これを菊ねりというそうだ。次に円錐形にして中の空気を出す作業をする。それが済んだら生地を手で叩いて饅頭のような円柱にする。それを手で周辺を広げるようにして薄くしてゆく。

次が麺棒を使っての、のばしである。真中に麺棒を置いて端へ伸ばしてゆくことを、30度毎に角度を変えながら10回くらい繰り返す。それが済むとソバ粉を振りかけて、麺棒を生地に巻きつけて、丸いものから四角いものにしてゆく作業にうつる。初心者の私にはこれが中々うまくゆかない。指導員がなんなく修正して丸いものが四角になってゆく。あとは厚さが均等に2mmになるように麺棒を使って引き延ばしてゆく。それができたら、生地がくっつかない様に打ち粉を半分に振って3回折りたたむ。

次がそば切り包丁と押さえの小間板を使って細く切ってゆく作業に移る。女子学生よりも男子学生の方が細かくきれいに切っているのが意外であった。単に性格の違いか。切った蕎麦を生舟という箱にくっつかないように入れてゆく。ここまで約1時間かかった。ゆがくのは今回指導員にお任せすることになった。
しばらく待って、全員で試食となる。一口口に入れて蕎麦がうまいとはじめて思った。

次から次と出てくる蕎麦をさすがの学生たちも食い切れず。残ったツユに蕎麦湯をいれて飲んで締めとした。茹でた蕎麦は森崎龍郎先生宅へ、茹でてない蕎麦は我が家へのお土産となった。(山本和利)

秋期キャンプin 幌加内


9月25日、特別推薦学生を対象に秋期キャンプを幌加内町で行った。3年生2名(内山博貴さんと古川亨さん)と1年生7名(男性1名、女性6名)の計9名が参加。河本一彦助教が付き添って札幌駅を電車で9時出発。深川からJRバスで幌加内へ。到着後、付近の蕎麦屋で昼食。集合時間までの間の時間を利用して3班に分かれてカメラを抱えて地域診断に出かける(Photovoice)。

午後は、幌加内町立国保病院院長の百武正樹先生の講演と蕎麦打ち名人小林四郎さんの「日本一の蕎麦の里:蕎麦による幌加内町の町興し」という講演を拝聴。その後。2班に分かれての施設見学。そして、お楽しみの一つせいわ温泉ルオント(フィンランド語で自然という意味)で温泉につかり、夕食を兼ねての懇親会(地元の住民の方々が12名参加し計26名)。山本和利はOSCEの総括者として参加していたため、懇親会から参加。4つのテーブルに分かれて懇談。特別推薦学生でない者が今回半数以上であったのは驚きであった。入学してから地域医療に興味が出たから参加したということらしく、うれしい限りである。来年度は特別推薦学生がたくさん参加できる時期に設定したい。二次会は幌加内らしく蕎麦を食べるということになった。河本一彦助教はその後、深夜1時まで明日の振り返りのための準備。

9月26日。朝、宿舎の周りを散策。病院の近くに郵便局、神社、お寺、中学校、高校(蕎麦打ちが必修)、介護施設、蕎麦屋などが集中している。洋風の建物であるバスターミナルに蕎麦屋、旧国鉄の資料館が入っている。最盛期1万7千人の人口が今は1,700名。きれいな街並みの中、病院近くに廃屋もあり。

8時半から山本和利の司会で、地域診断のまとめとPhotovoiceを発表しながら各自振り返り。稲作が減反となり蕎麦に産業の基点を移した幌加内町。鉄道模型を写してタイトルは「わ、輪、和」。家の傍に置かれたシャベルカーに注目。生活と農業が近い。空気がきれい。春夏秋冬がはっきりしている。咲いているものと枯れている向日葵の写真(生と死を象徴)。ソバ畑とスキー場を写した「幌加内の夏と冬」。ソバの花を写して「人の傍(ソバ)にいる医師」になりたい。蕎麦屋で待つこと1時間の間に撮った写真。持ち切れずに思わず食べかけてしまった蕎麦の写真。

Significant event analysis。 懇親会で剣道の話で盛り上がったこと。スポーツネタは大事。人との繋がり。地域が魅力を発信することが重要。地域の住民たちが仲がよい。積極的に住民の方と話をすることの大切さ。将来の進路を考える契機になった。病院と行政と大学など多方面の連携が重要。幌加内の住みやすさ。思いっきり子供を遊ばせられる環境。考え方一つで楽しく過ごせる。チーム活動やいろいろな目線の大切さ。ソバに対する取り組み。残りの時間を山本和利が「医療と社会」の講義。

10時からソバ打ち道場でソバ打ち体験。自分たちの打った蕎麦を昼食とした後、現地解散となった。ここに至るまでに縁の下の力持ちとして労をとっていただいた当教室派遣助教の森崎龍郎先生はじめ地元の関係者の方々にこの場を借りて感謝申し上げたい。(山本和利)

Advanced OSCE

9月25日土曜日、6年生を対象にAdvanced OSCEが行われた。受験者は101名。関係者は8時に集合。評価者(教官)48名、模擬患者(学生)24名が全員集合しまずは一安心。対象学生は試験時間を考慮して別室に2班に分かれて集合。トイレで部屋を離れる時も事務職員が付いて問題漏洩のないようにしている。今年度は事務職員が16名参加している。

8時半開始。今年度も4課題を出題。一課題15分。医療面接、身体診察、鑑別診断などを組み合わせている。それぞれの課題場面を覘いてみた。挨拶や身だしなみはしっかりしている。問診をとる作法はできているが、鑑別診断に必要なkey wordsがなかなか訊き出せない。外科手技では清潔操作に問題がありそうだ。アレルギー対策で採用した手袋の包装の仕方が従来のものと異なったていたため学生が戸惑ったのかもしれない。
一時、受験学生1名の集合が遅れてスタッフ一同騒然となるが、許容範囲内の時刻に到着したため、医学部長からの厳重注意で事なきを得る。

無事終了後、全員朝集まった場所に集合。模擬患者を演じてくれた学生にお礼のプリンを手渡す。評価者から評価表を回収し学籍番号順に並べ直す作業、OSCEの部屋を元に戻す作業等、終了後も大変である。学務課を中心とした事務の方々の熱意をもっての対応にこの場を借りで感謝したい。

今年度は評価者会議、模擬患者講習会をしっかり行ったため、全般的に大きなトラブルは起こらなかった。課題によって難易度が違いすぎることが問題かもしれない。来年度、問題作成に活かしたい。
9月28日に学生に成績発表とフィードバックを行う予定である。(山本和利)

2010年9月21日火曜日

地域医療フォーラム2010

9月19日、東京秋葉原で開催された自治医科大学主催の「地域医療フォーラム2010」に参加した。参加人数は340名、そのうち卒業生は約220名。今回は第3回目で初めての東京開催である。

 午前中、女性医師支援フォーラム、自治医大地域医療フォーラム2009の開催結果報告がなされた。
 午後、開催挨拶後、尾身茂氏から趣旨説明。自治医大の枠を越えて呼びかけ。地域医療の再生、医師の地域および診療科の偏在を問題視。異なる利害のために誰も身動きができない(deadlock)。このDeadlockをどうやって打開するか。地域におけるグランドデザインの構築、」総合医の役割・意義、地域医療を目指す医師の養成について分科会で話し合うことを提案。

3つの分科会。1.地域医療再生の地域の取り組み、全国の取り組み。2.地域の高度医療機関に求められる総合医。3.地域枠学生の教育にどう関わるか。

厚労省の新村和哉氏の講演。地域医療再生計画の概要。国は2350億円を使っている。医師確保。ハードよりソフト重視。モデル事業的に行う。寄付講座、地域枠学生への奨学金貸与、等・・・。地域医療支援センターについて言及された。特別枠として17億円要求。各県に1か所設置。1県に3300万円。

高知医療再生機構副理事長家保英隆氏。「高知県における地域医療再生計画の取り組み」医師数は少なくないのに若手医師が減少している。県庁所在地は医師過剰。郡部で減少。59億円の大部分を医師確保対策に充てている。高知医科大学学生へのアプローチ。若手医師のキャリア形成。県外からの医師招聘。入試選抜法を改革し、県内出身者を全体の1/3まで増やした。社団法人化してお金を使いやすいようにした。「病院GP養成」の仕組みを作っている。
 
全体討論。
・「地域医療再生の地域の取り組み」各県によって事情が異なる。総合医の比率を上げる。全国レベルの医師派遣を(all Japan)。
・「全国の取り組み」:計画作成に活かせる実態調査を。全体のビジョンの明確化。地域全体を見渡せる医師。
・「地域の高度医療機関に求められる総合医」ニッチを埋める能力、横断的な分野、メネジメント能力。
・「地域枠学生の教育にどう関わるか」卒前教育。Outcomeは都道府県への貢献である。

鹿児島大学大脇哲洋教授より講義。研修医数は半減。医学部入学者数8846名。地域枠で増やしている。都道府県との協議しているのは36県。キャリアパスについては32%。地域医療教育は学生全員に。施設の基盤が不安定である。総合医だけでなく専門医教育も必要。地域枠は期間限定なので地域医療関わる医師数に波がある。各県によって事情が異なる。どのような地域で働くのかで、目指す専門領域が異なってくるのではないか。

徳島大学谷憲治氏の「徳島県の取り組み」。病院の規模によって1群、2群、3群と分けて研修を予定している。「地域医療研究会」を作った。現在91名が参加。医療の世界を広く見てゆきたい。阿波踊りに「地医輝連」で参加。自主参加で、屋根瓦方式で行っている。学生の方に情報が入ってこない。全国組織のネットワークを作る。アンケートで全国調査をする。

新潟大学井口清太郎氏の「地域枠学生の連携」について講義。自治医大学生、県費奨学生、新潟大学地域枠学生の三者が顔が見える関係性を構築するために合同合宿を行っている。WSと懇親会が重要。入口だけでなく出口を考える必要がある。地域医療講座は寄付講座が大多数であるが、それを永続的な講座にしてほしい。
ゲストコメント。

全国国保協議会会長の広畑衛氏。会員の40%が自治医大卒業生。自治医大と同じ悩みを持つ。

日本プライマリ・ケア連合学会理事長の前沢政次氏。総合医の活躍の場は病院規模が大き過ぎず小さ過ぎずが大事。総合医の割合が一定以上必要。組織のトップは分ってくれていても専門医の同僚がわかってくれないことが多い。地域協働型プライマリ・ケア、選挙の人と免許の人が仲良くする、制度化されたジェネラリストのための専門医制度の確立が必要。総合医に必要な4つの能力は次の通りである。
1. 情報のマネジメント
2. コミュニケーション
3. チームワーク
4. 変化に対応できる能力、 とTrisha Greenhalghの言葉で締めくくられた。

総括:医学部長、桃井眞里子氏。解決には地域住民の理解が重要。日本は米国の6倍の受診率。地域医療の現状についての情報を発信する必要がある。総合医、総合力のある専門医をつくる教育が重要である。

最後に地域医療振興協会理事長の吉新道康氏が、地域医療マインドの涵養に全寮制の意義が大きいことを強調された。(山本和利)

「患者さま」とは呼びたくない

最近、「患者さま」と呼ぶように指導している医療機関が増えている。私にはそれを使いたくないという抵抗があったが、『街場のメディア論』(内田樹著:光文社 2010年)を読んで気持ちがすっきりした。

 「患者さま」という呼称は医療を商取引モデルで考える人間が思いついたものであるという。そうなると「患者さま」は消費者的にふるまうことを義務付けられる。

「患者さま」という呼称を採用するようになって病院の中で起こったことは、1)入院患者が病院の規則を守らなくなったこと、2)ナースに暴言を吐くようになったこと、3)入院費を払わずに退院する患者が出てきたこと、だそうだ。

 弱者の味方をすることと「患者さま」と呼ぶことは等価ではない。医療者が患者さんに同等の関係で医療を提供し、患者さんがそれに対して素直に「ありがとう」という言える関係を取り戻したいものである。
(山本和利)

2010年9月17日金曜日

動機付け面接法

9月15日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は勤医協中央病院の田村修先生である。参加者は11名。「日常診療で使える動機付け面接法(MI)」はスキルである。

動機の3つの要素は、準備、意志、能力(ready, willing, and able)である。

行動変容の5段階(proshaska):無関心期、感心期、準備期、抗動期、維持期。自信度と重要度を評価する(0-10の10段階で)。

Motivational Interviewing(MI):ミラー、ロルニッツによって開発された対人援助理論。理論は次の3つの理論を基盤としている。1)精神分析理論:両価性の理解、2)クライアント中心療法(ロジャース):共感的応答、3)認知行動療法:ソクラテスの質問法。アンビバレントが鍵。人間関係に影響される(動機は面接者の態度や方法に影響される)。「変わりたい、しかし変わりたくない」と考える。「逆説的反応」を利用する。ソフトに直面化する方法である。本人の口で話してもらう。目的を選ばない。

基本的態度:1)共感性、2)暖かさ、3)誠実さ。「寄り添う気持ちが大切」。
原則:1.共感的応答。受容と同意。ポーカーフェース。謙虚に聴く。解釈の押し付けをしない。2.矛盾を広げる。変化の重要性、懸念の感情、変化の願望、変化の自信を呼び覚ます質問。3)抵抗に逆らわず抵抗とともに進む。抵抗はドラマの幕開け。焦点を移す、視点を変える、枠組みを変える。4)自己効力感を育てる。

5つの方法:OARS
O:Open question(開いた質問), A:Affirm(認めて肯定), R:Reflective Listening(オウム返し), S:Summarizing(要約)+ Change talk(本人が語るときを逃さない)。レジスタンス・トークには反応しない。

面接者が陥りやすい落とし穴:質問攻めで考えさせない、直面化を迫って否認させてしまう、反対の立場に立たせる、本人の意思を引きださない、機が熟す前に拒絶される、非難する態度で委縮させる。
面接のコツは、相手より話は短く、開いた質問で、振り返りを多くすること。

ここでプチ・ロールプレイ。一人は権威的スタイル。もう一人はMI的面接スタイル。傍からロールプレイを見ていて一方的に解決法を述べるだけの権威的スタイルが有効でないことが分かった。患者役はMI的面接スタイルは慣れないため言葉に詰まることもあったが、アイデアを話しやすく、自分自身に自信がつくという感想であった。

次回から感染症シリーズである。(山本和利)

9月の三水会

 9月15日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は12名。
若林崇雄医師が司会進行。山本和利がミニレクチャーを2つ。地域基盤型教育、糖尿病性腎症。

振り返り5題。

30分後に研修医の講演が組まれているときに救急外来を受診した40歳代男性。先輩医師より診療を依頼される。仕事中の呼吸困難。過呼吸。胸痛なし。心電図のII,III, AVfでST上昇。不安定狭心症から急性心筋梗塞として3次病院に搬送。途中、VFを2回起こす。Clinical pearls:若い男性の過呼吸では基礎疾患を探すこと。胸痛がなく、呼吸困難だけの急性心筋梗塞があること。致死的疾患を除外するための努力をすること。参加者から様々な意見が出た。

40歳代男性の左胸部から背部痛。圧痛あり。筋肉痛を疑う。同伴者から胸部の異常音について言及され、精査の結果、慢性気胸、胸水。病歴だけによる診断の難しさ。身体診察所見の重要性。

患者本人が自宅へ帰りたいが、家人が入院を望む緩和ケア患者への対応。患者・家人への説明の難しさ。在宅ケアの不安(痛みへの対応。急変時の対応)。適切な説明ということが以外と難しい。退院することなく病院で死亡。外出もできず患者本人の希望が叶えられないままであったことがとても残念。参加者の意見:研修医は相手の患者のことを考えながら自分の感情を述べている。自分を患者さんに重ねて見てしまっている。入院適応でなくても家族の希望を尊重すべきか。緩和ケアはドラマ作りである。「介護の抱え込み」防止を考える。地方の在宅介護者の1/4がうつ状態である。町の介護力がシステムとして貧弱である。

初期研修医の報告。過換気症候群の16歳女性が救急車で受診すると一報が入った。患者さんを見る前の間、いろいろなことを考えた。患者が来てみると以前に小児科で受け持った患者さんであった。発作を頻回に起こしている。じっくり話を聴くことで患者を落ち着かせた。前医に対する不安を軽減させ、直前研修したばかりの他院精神科の外来受診にうまく繋げることができた。スーパーローテーションの利点を生かすことができた。参加者から:患者が自分の気持ちを主治医に伝えることは難しいので主治医に手紙を書く。母親と小児患者はセットで考える。

ニポポ卒業生から医療を哲学的に俯瞰。村上春樹の言葉「高くて硬い壁」に対して「卵の側に立つ」に共感。ミッシェル・フーコーの言葉「種の医学」「病の解読のための場所が必要」「医師は肉体を癒す」「正常の確立=異常の排除」「戦争と虐殺」などを解説してくれた。

「総合内科って何」という研修医が行った一般市民向けの講演内容を解説。専門医は専門分化し、それ以外は専門外。専門以外を診ない傾向にある。総合内科を志す医師は少なく肩身が狭い。総合内科医は、「専門外」と言わない。

日本の明日の医療を担うために、我々総合医が頑張らなければ!(山本和利)

2010年9月14日火曜日

医学教育の理論と実践

ニポポ指導医養成講習会で話題になったので、『医学教育の理論と実践』(John A. Dent/ RonaldM.Harden著:篠原出版新社 2010年)を読んでみた。

構成は、カリキュラム開発、学習環境、教育方略、教育ツールと支援、カリキュラムのテーマ、評価、教員と学生、の7部からなっている。

医学教育について全般的に網羅されているので、関心のあるテーマについて辞書的に使うこともできよう。得意のテーマについて、さらに詳しく知りたいという場合は、簡略にまとめ過ぎているきらいがあり、物足りないかもしれない。私の場合、「EBM」の章がそれにあたる。とは言え、新たに勉強したい場合には大いに参考になろう。

第11章「地域における教育」を見てみよう。地域基盤型医学教育(Community-based medical education: CBME)を紹介している。これは三次医療機関以外の施設で行われる医学教育を指す。「プライマリ・ケア」と「プライマリ・ヘルスケア」と違いを知ることが重要である。「プライマリ・ケア」とは、地域住民がその地域の医療システムに最初に接触することであり、「プライマリ・ヘルスケア」とは、医療提供に関する考え方を意味しており、健康増進や疾病予防を重視し、保健医療計画に住民の積極的参加を勧めるものである。

CBMEの目標を3つのカテゴリーに分けると分かりやすいそうだ。
1. 総合診療について学ぶ
2. 総合診療以外の専門分野を学ぶ(小児科、精神科、内科など)
3. 多数の診療分野を並行して学ぶ(都会から離れた地域の診療所)
オリエンテーションと振り返りが重要。

CBMEを成功させるための実践的原則は、4つ。
1. 医師患者関係(学生を引き込む)
2. 大学と医療組織との関係(地域の医師を大学教官が指導する)
3. 行政と地域との関係(学生による調査や地域開発事業への参加)
4. 個人と医療専門職との関係(メンターとの振り返り)

医学教育を三次医療機関から地域に移すには、変革が必要であることを強調している。医学教育に関わる者にとって手元において役立つ本の一つと言えよう。(山本和利)

松前町立松前病院

 9月13日、当教室員が大勢お世話になっている松前町立松前病院に出かけた。札幌駅から千歳空港、函館空港、そして小本事務長運転の病院車と乗り継いで出発から到着まで約5時間。

松前町立松前病院は、木村眞司院長を中心に「全科診療医」による診療を謳っている。外科系医師が不在になったのをきっかけに「全科診療医」を謳い、今は整形外科疾患等にも対応している。断らない救急医療を掲げ、日常疾患に「全科診療医」が対応し、手術や高度医療が必要な疾患は函館の3次医療機関に任せる、高齢者にニーズのある耳鼻科・眼科などは大学等の非常勤で対応するなどの方針をとっている。加えて一番の特徴は、札幌から時間的アクセスが最長であるにもかかわらず、学生・研修医の実習の受け入れが非常に多いということであろう。今回も、市立函館病院から佐々岡悠太さん、手稲恵仁会病院から高橋利佳さん、筑波大学5年生菅沼大輔さん、札幌医大5年生和田朝香さんが2週間から1カ月の日程で参加している。因みに昨年1年間でみると松前町立松前病院の札幌医大総合診療科実習受け入れは18名と参加施設最多であった。

町長、町議会議長にもお会いすることができた。松前町の医療は、松前町と病院事務、医療スタッフが一体となって取り組んでいることが最大の特徴であり強みかもしれない。国からの補助金があるとはいえ、町長の言によると昨年の病院会計は9千万円の黒字であったそうだ。道内・道外の市町村職員の視察も増えているようだ。町議会における議員からの松前町立病院に対する不満は皆無になったという。町外での検査・治療費が減り、国保会計からの出費減少が大きいということだ。総合医・家庭医を中心に地域医療を実践することが、住民・患者の満足だけでなく、経営的にも満足ゆくものであることを松前町立松前病院が示してくれた。

単に医師数を増やすということで地域医療の問題が解決するとは思われない。松前町立松前病院のような総合医・家庭医を中心にした医療が実践できるよう、国の政策に積極的に取り入れて欲しいものである。(山本和利)