札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年3月26日月曜日

北海道PC研究会

3月25日、北海道医師会館で開催された第55回北海道プライマリ・ケア研究会学術集会に参加した。参加者は約35名。

学術集会の前に、2011年度第2回幹事会、第31回総会が行われた。

一般演題6題(狭心症、薬剤過敏性症候群、気管支喘息、RA治療中に発症した腸腰筋膿瘍、救急医と外科医の協力体制、地方都市の臨時往診の現状と課題)が発表された。前半は症例報告であり、後半は診療体制に関する内容であった。

その後、草場鉄周氏が『持続可能なプライマリ・ケアを北海道へ』の特別講演を次の4点を強調して行った。
・日本の医療の変化
・プライマリ・ケアの危機
WHO:平等、利用者中心、信頼、政策的改革(高度医療への警鐘、個別性、包括性、継続性、信頼のある入り口)を強調。
・地域での総合診療の強化、循環型地域医療支援モデル
・あるべき姿を求めて
継続性(診療情報、医療機関、医師・患者関係、責任性)、協調性(多職種チーム・ネットワーク)、(専門領域を越えた)包括性・の3つを基盤にして、個別性のある治療を患者本位の臨床技法(Stewart,2003)を用いて行うと地域包括ケアに繋がる。(山本和利)

2012年3月25日日曜日

日本PC連合学会理事会

3月24日、東京都医師会館で開催された2011年度第4回プライマリ・ケア連合学会理事会に参加した。

まず、理事長挨拶。学会の専門医制度について専門医機構で説明したことを報告。震災復興への支援について述べられた。

協議事項
1)予算(まだ各委員会からの案は出されていないため、前年度の予算案を提示)。重点項目は4つ。専門医制度の確立、家庭医専門医プログラム研修医者の増加を図る、支部ごとの在宅医療についての生涯教育の充実、震災復興支援活動を維持。その後、学術、国際関係、医学教育、補汲みン経の支援、会務として具体的な項目が出された。

2)利益相反に関する基本見解が示された。研究活動については早急に承認し、講習会に置ける企業との関係、接遇については再度検討することになった(約1時間の熱い討議)。

3)個人情報の取り扱い。ブロック支部を越えて、情報を流すことは難しい。学会活動の連絡については支部単位に運用を任せる方向で考えたい。

4)地域ケアネットワーク優秀賞を創設したいという提案があった。そのためには基準(方向性)を作ることが重要である。大会長賞との整合性をどうするか。評価が難しいのではないか。運営会議で検討することになった。

5)ワクチン問題について関わってゆく。

6)認定制度について。生涯教育WEB講座を創設する(学会関連生涯教育講座で行われたものをネットに載せる)。旧PC学会で運用されていたケアネットと提携する。5年間で10単位までと上限を設けるのがよいのではないかという意見が出た。会員の情報が保護されるのかという疑問が提示された。連合学会として新たに船出したのであるから利益相反に鑑みてケアネットと契約してよいのか再検討する必要があるという意見が多数出された。

報告事項
第4回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会は2013年5月18日、19日に性大国政センターで濃沼信夫氏が学会長で開催する。

会計報告(旧学会の資産を新学会に委譲した件)。施設とプログラムや選挙制度検討員会から地域ブロック理事選の結果、等々(参加出来ず)。

予定の3時間では協議事項が終了しそうになく、後ろ髪を引かれる思いで帰途についた。(山本和利)

2012年3月24日土曜日

闇の迷宮

『闇の迷宮』(ローレンス・ソーントン著、講談社、2004年)を読んでみた。

アルゼンチンの暗黒時代(1976年~1983年)を描いた小説である。アルゼンチンといえば、タンゴやサッカーを思い浮かべるかもしれない。

アルゼンチン軍部はペロン支持派や左翼活動家を拉致し、拷問し、殺害した。一般市民の行方不明者は3万人にも及ぶと言われている。1982年のフォークランド紛争は国民の目を政治から逸らすために仕掛けられたのだそうだ。しかしながらその目論見が失敗し、民主主義復活のきっかけになったという。

本書の主人公は、行方不明者の姿を見ることができるという不思議な力が備わっている。拉致された妻の生存を信じるという「想像力」を保持しながら、様々な人々の苦難を抱えた状況が次々と語られてゆく。

20世紀に決別したと思われた暗黒の状況が21世に入っても世界中で繰り返されている。このような暗黒の状況と比較すると、自分自身の不安が小さな取るに足らないものであると認識はできるが、明るい未来を信じるだけでは現状は変革されないという現実に、歯がゆい思いを募られているのは私だけであろうか。(山本和利)

2012年3月23日金曜日

ロコモとメタボ

3月21日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は札幌徳洲会病院の森利光院長である(3回シリーズの最終回)。テーマは「ロコモとメタボ」で,参加者は8名。

メタボリック・シンドロームとロコモティブ・シンドロームとの関係について講演された。

メタボリック・シンドロームとは、虚血性心疾患合併の高リスク状態である多危険因子保有状態である。人は血管から老いる。生活習慣から血管障害に至るプロセスとして「メタボリック・ドミノ」という概念が言われている。

日本の死亡変遷を見ると、現在は悪性腫瘍、心疾患、脳血管障害が上位を占める。そこで心血管イベントの防止する必要がある。各学会からの集計によると、高血圧;4000万人、糖尿病:2000万人、認知症:220万人、骨粗鬆症:1100万人、慢性疼痛:2300万人、OA:1000万人、腰部脊椎管狭窄症:240万人と報告されている。

ロコモティブ・シンドロームとは、運動器疾患により要介護になるリスクが高い状態。歩行がうまくできないで、日本独自の概念である。

日本には200万人の寝たきり患者がいる。9.3%は骨折・転倒が原因である。12.2%は関節疾患。最終的に第1位は脳卒中で、第2位は運動器疾患となる。

骨格筋は加齢とともに低下する。握力もそれに比例する。それゆえ、骨格筋の衰えは握力測定でスクリーニングできる。人は骨から老いる、とも言える。「メタボリック・ドミノ」と同様に寝たきり状態に至る「ロコモティブ・ドミノ」という概念も提唱される。

高血圧は骨折をきたしやすく、その尤度比は2.7倍である。股関節骨折は心不全、脳卒中、末梢動脈疾患でも増える。逆に骨粗鬆症は動脈硬化をきたす。骨折患者に糖尿病が多い。コラーゲンの質の悪化を招く。骨形成が悪化し、骨の脆弱性が増す。

このようにロコモとメタボは関係しあっている。予防に運動が推奨される。運動療法の効用は、骨密度の増加、インスリン感受性の増加、LDL-C低下をもたらすことである。

具体的には、スクワットを1度に5-6回を一日に3回行う。開眼片足立ちを左右1分ずつ一日3回、が勧められる。

最後に森先生からのメッセージ。健康とは生きがいを大切にすること。やりたいことを実現させるために健康を守る必要がある。QOLとは、自分で選んだ人生を自分らしく生きること。総合医こそロコモにアプローチをしてほしい。

整形外科専門医からはなかなか聞くことのできない斬新な講演であった。(山本和利)

2012年3月22日木曜日

3月の三水会

3月21日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は9名。大門伸吾医師が司会進行。後期研修医:5名。初期研修医1名。他:6名。

研修医から振り返り5題。病棟、外来で受け持った患者について供覧後、SEAを発表。

ある研修医。外来症例の報告。60代の男性。長谷川式20点。認知症患者への対応はどのようにしたらよいか。コメント:まず器質的疾患を除外する。ガイドラインを読み込むことも大切。

急性増悪した間質性肺炎。70歳台の男性.橋本病の既往。労作性呼吸困難、SpO2:84% .吸気時fine crackle陽性。咳がひどい。XP;すりガラス陰影。BiPAPを試行。ステロイドパルスとエンドキサンパルスを実施。家族は蘇生を希望した。家族には疾患に対する理解が不足していた。質問に答え、傾聴するしかなかった。1カ月で死亡。

ある研修医。外来経験。院内スタッフがインフルエンザは落ち着いた。認知症患者の湯たんぽによる低温熱傷(見た目より深い層に達している)。不明熱で見つかった膵臓嚢胞性腫瘍。発作性心房細動への対応。

胃癌術後で食事摂取ができない患者さん。関係性を構築するのが難しかった。SpO2が急速に悪化。意識レベルが低下。「そんなに頑張らなくていいよ」という言葉が出て来た。家族の表情は固かった。医師として口にしてよいのかどうかと反省した。こういうセリフを言えるような関係性をつくりたい。49日にお悔やみ訪問する予定。

ある研修医。外来経験。20歳台男性の胸部痛で狭心症の精査(本当に必要なのか?)40歳台女性の体重減少。40歳代男性の肉眼的血尿。

80歳代女性。発熱、咳そう、喀痰。認知症の夫と二人暮らし。足関節の痛みが出現。偽痛風と診断された。全身倦怠感を訴えたので、患者背景を探った。夫に問題行動があることがわかった。家の中は荒れ放題であった。そこに介入して問題が解決し始めたら症状も軽快した(患者さんのうれし泣きを初めて見た)。「病気を診るのではなく、患者さんを診る」を再認識した。

ある研修医。外来経験。帯状疱疹後神経痛の患者への処方。中年男性の肛門周囲膿瘍(コメント:HIVを疑い性行動を訊く)。肺塞栓症。糖尿病性壊疽。家族歴をもつ肺塞栓症。

80歳代女性の意識障害。頸部骨折術後。糖尿病で血糖降下剤内服中。嘔吐、失禁あり。会話がおかしい。頻脈。血糖値が824mg/dl以上。WBC;23,000、人工関節部位の感染とそれによる敗血症であった。その治療により意識障害は改善した。

(山本和利が)会議で途中退席したため、1名分割愛。

スキルアップセミナー終了後、市内の居酒屋でニポポプログラムが終了となる研修医の壮行会を行った。それぞれ道内の医療機関で総合医(総合内科)として就職する。(山本和利)

2012年3月20日火曜日

パリの中国人

『パリの中国人』(ドイツ・フランス 2009年)という‘BS世界のドキュメンタリー’を観た (深夜に放映されたものを録画して朝5:00から観ている)。

本作は1989年、天安門事件に参加し、当局から難を逃れるためにフランスに亡命した2名の中国人のパリでの生活を取材したものである。

取材に応じてくれたのは天安門広場に集まっただけで、処刑されてしまった市民の写真を偶々撮影して、後日発表したために亡命せざるを得なくなったカメラマンと集会に参加して下腿に銃創を負った学生だった者2名である。

正義を信じて行動した者の潔さの裏に横たわる必ずしも幸福とは言えない亡命生活が映し出される。中国で風景カメラマンであった者は、商品のカタログカメラマンを辞して売れない絵を書き続けている。元学生であった者はインターネットで一日10時間中国の民主化を訴え続けている。

正義のために前途有望の人生を棒に振って、望郷の念にかられながら生きている人たちを忘れてはならない。観る者にそんな風に思わせる作品である(山本和利)

2012年3月19日月曜日

指導医のための教育ワークショップ

3月17,18日、札幌KKRホテルでの北海道医師会主催の「指導医のための教育ワークショップ」にチーフ・タスクフォースとして参加した。前日、同会場で約1.5時間の打ち合わせ。参加者は32名。

開会後、役員挨拶(道庁、医師会)があり、タスクフォースから自己紹介があった。まずはよい雰囲気を作るため山本和利が「偏愛マップ(現在の愉しみを書きだす)」を用いて自己紹介・他己紹介するアイスブレークングを行った。

続いて旭川医大奥村利勝教授のリードでKJ法を用いての「北海道における医師養成」を120分。指導医師のモチベーションの維持、地域医療に関わる医師不足問題を挙げるグループが多かった。

昼食後、北大の川畑秀伸氏のリードで「アウトカム基盤型カリキュラム:目標と方略」について。最近の医学教育の流れを反映した内容にしてみた。GIOやSBOの作成はしないやり方である。将来稼業のマイナー科を続予定の研修医に対して内科または外科で3カ月研修するという設定で、コンピテンシィ(実際にできる能力)として2つ挙げてもらい、目標と方略を話し合ってもらった。眼科を目指す研修医の内科研修、耳鼻咽喉科を目指す研修医の内科研修、耳鼻咽喉科を目指す研修医の外科研修、皮膚科を目指す外科研修、等、研修医の興味がある内容を取り込んだ目標と方略が示された。各グループともコミュニケーションが重視されていた。かなり盛り込み過ぎのカリキュラムが提示される傾向が見られた。どこまでやらせるか熱い議論がなされた。

続いて天使病院の山本浩史氏のリードで「アウトカム基盤型カリキュラム:教育評価」。
評価の仕方とポートフォリオ(学習したものを集めて提示して振り返る)についての解説があった。評価の仕方を考えてもらい、態度についてのチェックリストまたは評定評価尺度を作成してもらった。各施設の事例を紹介することで議論が深まったようだ。

夕食後「北海道における地域医療」と題したナイト・セッションで北海道庁の杉澤孝久参事が講演をした。北海道で不足医師数は1,075名。内科医が219名不足。女性医師は12.9%。その後山本浩史氏が「市中研修病院での研修医の指導法」について講演された。研修医がhappyであることを目標にした研修の仕方を情熱的に語られた。質疑応答後、20:45近くに第一日の日程を終了し、参加自由の懇親会となった。

第二日目は、朝8;00開始。山本和利のリードで「フィードバックについて」、自己分析能力の高い研修医、生真面目だが気づきの少ない研修医、能力以上に自己評価が高い研修医という3シナリオを用いたロールプレイを行った。参加者から満足のいく内容であったというフィードバックをいただいた。

コーヒーブレイク後、札幌医大の松浦武志助教のリードで実際にヒヤリ経験をした研修医を招いて「ヒアリハット・カンファランス」を行った。「意識障害の93歳女性」から、最終診断についてと診断エラーのバイアスについての振り返りをしてくれた。一般に単純作業や初心者は経験すればするほど業績はあがるが、経験を積んだ群では、経験年数と業績とは相関しない。振り返り(significant event analysis)が必要である。成功者は、上司(ロールモデル)、プロジェクト、挫折から学んでいる。最後に、SEAセッションを自施設で行うにはどうしたらよいかをグループで話し合ってもらった。

昼食後、勤医協札幌病院の尾形和泰氏のリードで「参加者各自の10分間レクチャーとそのフィードバック」を行った。私が関わったグループのテーマは、「肺がんの診断」「頻呼吸・徐呼吸の鑑別診断」「尿路感染症」「ヨード造影剤投与の注意点」「月経痛」「熱性けいれん」「禁煙について」「こどもの発熱」「脂肪肝」「グリオーマ」「LASIK」「ソケイヘルニア」「頭部CTの脳以外の所見の読み方」「RA」等であり、変わったところでは「競馬の予想の仕方」というのもあった。それぞれが巧みに白板を使って簡潔に得意ネタを披露された。

最後に参加者全員から1分間感想を述べてもらった。ロールプレイや参加型カンファランスに対してこれまでで最高の評価を頂いた。修了証授与後、写真撮影を行い、散会となった。(山本和利)

2012年3月16日金曜日

札幌医科大学卒業式

3月16日、2011年度札幌医科大学の卒業式が札幌プリンスホテル国際館パミールで行われ、それに参加した。

学位記の授与後、島本学長の挨拶、北海道知事高橋はるみ氏の挨拶があった。

賞状授与後、卒業生の挨拶が行われ、昨年の被った震災に負けずに進もうという決意が医学部・保健医療学部両代表から示された。

午後に予定されていた謝恩会には、会議が立て込み参加できなかった。

社会人になっての活躍を祈る!(山本和利)

2012年3月15日木曜日

坐る力

『坐る力』(齊籐孝著、文藝春秋、2009年)を読んでみた。

著者の力点は、「坐る力は、人生を大きく支配する力である」、「日本人は長く、勉強することと坐ることをつなげて考えてきた」、「腰が決まらないで字は書けない」、「立腰教育が大切で、腰骨を立てること、鳩尾(みぞおち)を落とすこと」、「臍下丹田を意識する。背負う行為を通じて臍下丹田が鍛えられる」、「坐る力は、自己肯定力につながる」、「息は吸うことより吐くことが大事」。

本書を読んで、腰骨を立てること(尻を引いて、前かがみになる)を試みるようにした。確かに姿勢がよくなり、机の前のものに集中する気にさせてくれる。(山本和利)

2012年3月14日水曜日

OSCE講評

3月13日、札幌医科大学における2011年度共用試験医学系OSCEの結果が発表された。

救急、胸部、外科手技で数名の再試該当者が出た。過度の緊張により手順を省略したりしたことが原因の者もいた。

全体としては各課題ともよく出来ていた。反省点として、(模擬患者にはしっかり挨拶をしている、一方で)入室時に評価者への挨拶をする者が少なかったこと、清潔不潔の区別が不十分であること等が挙げられる。

講評後、概略評価で平均点が3点未満の者については個別に呼び出して、山本和利が問題点をフィードバックした。

再試は3月15,16日に予定されている。(山本和利)

2012年3月13日火曜日

怪物ベンサム

『怪物ベンサム』(土屋恵一郎著、講談社、2012年)を読んでみた。

本書は20年前に出版された『ベンサムという男』を改題して講談社文庫に入れたものである。ベンサムといえば、功利主義、最大多数の最大幸福が有名らしい。ベンサムの趣味は、チェスと音楽と猫。快楽主義で、快感を善とする理論である。本書を読むとベンサムとは徹底して変な人であることがわかる。ベンサムは遺言して、自分の死体をミイラとして残している(これは現在までオートイコンとして残っているそうだ)。英語による最初の同性愛擁護論を書いている。また、『高利弁護論』を書いた。「自分の利益を見込んだ上で、自分自身適切と思える利率で金を借りる取引をすることを決して妨げてはならない」と。パノプチコン(一望監視装置)様式の監獄を考案した。(ミッシェル・フーコーが取り上げて有名になった)。1928年に建設された巨大なパノプシコン様式の監獄がキューバにあるそうだ。

彼の掲げた方策は次の通り。
1)他種類の食物の導入。
2)非アルコ-ル系飲料の導入。
3)衣服、庭、家具の整備。
4)時を過ごすためのゲームの発明。
5)音楽の奨励。
6)劇場、州階、公共の娯楽。
7)芸術、科学、文学の奨励。

1800年に、笑気ガスへの関心と冷蔵庫の開発を試みたという。夏の自然の威力から、人間の生活を隔離すること、そこで腐敗と悪臭から免れた生活が始まることを夢見た。

18世紀にいた一風変わった哲人の話である。(山本和利)

2012年3月12日月曜日

東京難民

『東京難民』(福澤徹三著、光文社、2011年)を読んでみた。

地方から東京へ出てきて三流大学で惰性に流された生活をしていた主人公の大学生が、親からの仕送りが途絶え、授業料を払えなくなったことにより大学を除籍となる。両親は行方不明で、貯金もない。

どうやって都会で生活してゆくのか。主人公が底辺へ底辺へと転落してゆく様子が綴られている(ティッシュ配り、ビラ配り、治験の患者役、ホスト、ドヤ街での日雇い人夫、ホームレス)。定職に就けない者たちの苦悩や苦難がリアルに伝わってくる。

1年ほどの短い期間にもかかわらず、人間として徐々に成長してゆく姿が描かれている。できれば苦労はしたくはないが、人間を優しくし成長させてくれるのは苦労なのかもしれない。そんな気持ちにさせる小説である。(山本和利)

2012年3月11日日曜日

私たちの時代

『私たちの時代』(今村亮監督:日本 2010年)という映画を観た。

本作は、2010年にフジテレビ系列で放映されたドキュメンタリーを劇場映画化したものである。過疎化が進み寂れた小さな町、門前町は日本海に面した石川県奥能登の半島の先端に位置する。石川県のソフトボール名門校である門前高校女子ソフトボール部の活動を取材している。過疎化が進み何と廃校が決まってしまった。その取材中の2007年3月25日に能登半島地震(震度6強)が発生した。そのためであろう。被災直後の部員の様子、表情や被災地域の崩壊した家屋、家並みがマザマザと映し出される。そんな中での門前高校女子ソフトボール部の部員たちの活動が記録されている。

この部の女性監督は、門前高校の卒業生であり、体育の先生でもある。独身を貫き、遠隔地からの部員を20名近く下宿させている。この先生を慕うコーチもすごい。この二人で生徒達に「あきらめないことの大切さ」を教えている。その部員達がソフトボールに打ち込むために協同生活する姿がほほえましい。朝4時半に起床し、朝食の準備・掃除をして、朝練習に向かう。携帯電話禁止、日焼け止めクリーム禁止、化粧禁止。異性への関心等微塵も示されないが、そこには少女達の青春の輝きがある。

映画の後半は、被災した部員たちの高校存続最後の試合が映し出される。ライバル校津幡高校との因縁の試合である。レギュラーを外れた上級生、ピンチに立っても笑顔を絶やさない相手ピッチャ-。そこにはあり得ないようなドラマが待っている。(ドキュメンタリーとは思えない。現実は小説より奇なり)。

映画の中の卒業式で生徒が答辞を読み上げる。「世界が大きく揺れ、日本が挫折している。道標なき時代に、私たちはどこへ向えばよいのか。何を信じて進んでゆけばいいのか。」と。若者も苦しんでいることが伝わってくる。この少女達のソフトボールに打ち込んだ青春時代が、きっと長い人生の中で出会う彼女たちの苦悩を乗り越える一手段になるだろうと確信させる映画であった。(山本和利)

2012年3月10日土曜日

2011年度共用試験医学系OSCE

3月10日、札幌医科大学4年生を対象に2011年度共用試験医学系OSCEが実施された。
昨年は前日の東日本大地震で、一部の外部評価者や遠征中の学生が参加できず混乱したが、今回は何事もなく開始となる。

今回3回目の土曜日実施である。医療面接に12列、身体診察(6課題)に4列を設け、半日で円滑に終了することができた(8時40分開始、12時55分終了)。

当教室からは4名が参加。休日にもかかわらず参加頂いた各教室の教官・事務の方々、ありがとうございました。

3月13日に講評を行い、3月15,16日に再試の予定である。

2012年3月9日金曜日

臨床推論 頭痛

臨床推論として「頭痛」を担当しました。今回は「頻度」と「緊急度」という観点で頭痛の2×2の鑑別診断表を作成し、それを参考にしながら50歳男性の頭痛に関して訊きたい病歴、とりたい身体所見、行いたい検査などを考えてみました。

緊急度が高く、頻度も大きい「クモ膜下出血」をテーマに、①発症して20分で受診(頭部CTでクモ膜下出血所見あり)、②発症して3日目に受診(頭部CT異常なし)→腰椎穿刺でキサントクロミー、③発症して10分で受診(頭部CT異常なし)→腰椎穿刺で血性髄液、という3タイプを考えてみました。

医師になれば必ず頭痛の患者さんを診察するわけであり、「突然発症(丁度テレビであのシーンだった、など)」「人生最悪の痛みである」「だんだんひどくなってきている」の3つのキーワードは覚えていて欲しいと思います。

また頭部CTをオーダーする際や腰椎穿刺を行う際には、かならず「除外する疾患」「確定する疾患」を念頭に置きながら目的をもって欲しいものです。

危険な頭痛のサイン 
①次第に増悪する
②突然発症
③人生で最悪の頭痛

このすべてが当てはまらなければ「危険な頭痛」ではなかったという論文もあります。(助教:武田真一)

2012年3月8日木曜日

ホットコーヒー裁判の真相

『ホットコーヒー裁判の真相-アメリカ司法制度‐』(米国 2011年)という‘BS世界のドキュメンタリー’を観た。

本作は、2011年シアトル国際映画祭審査員大賞を受賞。米国企業がもうけ主義で、消費者が法に訴える手段を断ち、裁判を自分たちの思い通りに操っている実態を暴きだしている。

数年前、マクドナルドのコーヒーで火傷を負って、訴訟を起こして3億円をせしめたというュースが世界中を駆け巡った。米国人は訴訟好きで、訴えるのが好きな国民なのだなといった興味本意の印象を私自身は抱いていた。ところが、このような印象を視聴者に持たせることこそが、米国企業の戦略だったのである。

1994年8月、ステラ・リーバックはマクドナルドのコーヒーで重篤な火傷を負った。生命に関わる重症であった。かかった費用1万ドルの保証と業務改善(コーヒーの温度を下げること)をマクドナルドに訴えたが、マクドナルドは誠実さを示さず、たった800ドルの和解金で泣き寝入りさせようとした。そこで訴えざるを得なくなり、裁判になったということが真相のようだ。マクドナルドはこの取材を拒否している。裁判を通じて、それまでに700件以上の火傷事故が起こっていたのに対策がなされていなかったことが判明した。290万ドルの賠償額が決定されたが、それも減額された。この事例を契機に、企業は新たな戦力を模索した。企業は不法行為法改革と称して賠償額に上限を設ける法案を提言した。法廷でやっと勝ち取った賠償額を大幅に減らすことができるという企業よりの法案である。それを推進したのが、またしてもジョージ・ブッシュだそうだ。タバコ業界が黒幕という。

その法案の被害を被ったのがコリン・グーリーの事例である。双子なのに胎盤が1つしかない。超音波検査をしないため、その事実を見逃した。手術の遅れた。一方の胎児に栄養がいかなかったため、酸素不足で脳に重い障害を負った。医療過誤である。視力障害やいくつかの障害で手術を余儀なくされた。陪審員の決定によって560万ドルの賠償を命じられたが、125万ドルしか払われなかった。そして弁護費用を払うと数10万ドルしか残らなかったという。この法案によって懲罰的賠償額、精神的賠償額を制限することができるようになった。訴訟のせいで医療費が上がっていると言っているが、事実関係を調べると嘘のようだ。結局、ネブラスカ医療協会や保険会社が丸儲けとなった。

さらに企業にとって都合の悪い裁判官を最高裁の裁判官にしないように全米商工会議所が何百万ドルを使ってキャンペンを展開した。オリバー・ダイアズ裁判官の事例を紹介している。ジョン・グラシャムがこの事例をもとに『謀略法定』という本にした。全米商工会議所とは企業のロビー活動を行うところである。彼らはこの取材を拒否している。テレビキャンペーンにお金をかけ、企業に不都合な裁判官を落選させるよう、誹謗中傷をメディアに流す戦略をとっている。ダイアス氏は選挙で勝ったのに、数日後収賄で起訴された。陪審員は無罪判決を下したのにすぐに脱税容疑で訴えられている。何とか裁判官として任期を務めたが、その後の選挙では、起訴されたという事実が影響して再選されずに終わった。

米国企業はもう一つ国民を黙らせる戦略をもっている。それが強制的仲裁事項である。不当な扱いを受けても裁判を起こせないという法律である。国民はそれによって法廷から遠ざけられる。あらゆる企業がこの条項を盛り込んでいる(クレジット会社がほとんど盛り込んでいるそうだ)。ジェレミー・リー・ジョーンズは、軍事会社ハリーバートンから派遣されたイラクで、男達に薬を盛られ集団レイプされた。それなのに強制的仲裁事項によって公開裁判にできない。これ以外に多数のレイプ事件が闇に葬られていた。この仲裁は非公開であり、仲裁者は企業寄りである。ほとんど銀行やクレジット会社が勝っている。強制的仲裁事項により情報を闇に葬り、企業が従業員を虐待できる。民事訴訟で加害者の責任を追及できない。ジェレミー・リー・ジョーンズは、政府からの委託禁止を盛り込むこと、責任を明らかにすることを求めて法廷で対決したが、退けられたそうだ。

企業が儲けて生き残るためには何でもするという醜い米国企業の実態を、裁判制度においても実感させられた。これは勇気あるドキュメンターである。放映時間が深夜0時ということがただ一つ悔やまれる。(山本和利)

2012年3月7日水曜日

OSCEに向けた自学自習

4年生は3月10日のOSCEに向けて、自学自習に励んでいる。

大きな部屋に、課題に指定されている技能の習得に、グループを組んで学んでいる。

自学自習を助けるため、当講座のスタッフが、時間を設けて、外科手技、耳鏡の扱い方、救急蘇生について相談に乗っている。

3月6日は43名の学生が集まってきていた。試験準備ということであるが、学生の表情に緊張がみなぎっている。全員の合格を祈る!(山本和利)

14歳のための時間論

『14歳のための時間論』(佐治 晴夫著、春秋社、2011年)を読んでみた。

著者は、量子論に基づく宇宙創生理論{ゆらぎ}研究の第一人者である。本書は『14歳のための物理学』の姉妹編だそうだ。

こども向けに1週間で時間について語るという構成になっている。読みやすい日本語で書かれているが、内容を理解することは難しい。

著者がまとめた時間の本質。
1)「“何ものも存在しない、変化しない”という場合には、時間があるのかないのかを考えることは、難しい」ということ。
2)「宇宙の究極は完全なランダムに向かっている」ということ。
3)「そのランダムに逆らって秩序に向かう営みが、何ものかを規則正しく刻む“リズム”というものであり、それこそが“生きている”ということの証になる」ということ。

最後に「これから」が「これまで」を決める、と書かれている。未来が過去を決めるということ?

本書を読んでも、「時間」について理解が深まったという気持ちにはならないが、「時間」について考える契機にはなるであろう。(山本和利)

2012年3月6日火曜日

臨床推論 腹痛



臨床入門のうち当教室担当の臨床推論のなかで「腹痛」を担当しました。

今回の臨床推論シリーズでは助教4人が分担し、共通した展開の中でそれぞれ個性のある講義をしてきました。

私が学生の講義で一番頭を悩ますのは、いかに飽きさせずに彼らの知的好奇心、医学的な向学心を刺激するか、彼らの中に医師として大切なものを残してあげられるかということです。我々は教員ですので教育のプロとして質の高い講義を提供する責任があると考えています。

今回は他の助教によって行われた臨床推論の講義シリーズの最後なので、内容に一工夫してみました。題して「医師アタマ シミュレーション」。

実際に学生さんに患者入室から臨床医が対応すべき様々な行動について課題を与え、配布されたノートに記入しながら講義終了までに医師の考え方、鑑別から診断に至るプロセスのノートを研修医になったつもりで、自らの手で完成させるようにしました。

課題
患者 42歳 女性。心窩部付近の痛みで来院
1) 患者の写真からのインプレッションを五感を働かせて記入する。
2) 患者への最初の声かけを記入する。
3) 患者の主訴から医学的用語を用いた主訴に変換する。
(例おヘソの脇の痛み→右季肋部痛)
4) 患者病歴1の文中から医学的に意味のあるキーワードを抜き出し、下線を引く
5) 病歴1の概要をまとめる(5W1H)
6) 病歴から解剖学的、病態生理学的に標的臓器を検討し、仮診断としての鑑別疾患を挙げる。
7) それらを踏まえて患者病歴を更に掘り下げた病歴2の文中から医学的に意味のあるキーワードを抜き出し、下線を引く
8) 情報を整理して痛みのOPQRST、病歴聴取のCOMPLAINTS+AMPLEの表にまとめる。
9) 鑑別疾患をMost likely, Must rule out, others but rule in.の表に完成させる。
10) 腹部所見のイラストに、述べられる視診、聴診、触診の各所見とその意味を記入し、身体所見情報を完成させる。
11) 病歴聴取からの挙げた鑑別疾患の一覧と、現時点での一覧の比較
12) 臨床検査の選択とその優先順位を考える。
13) すべての時点での鑑別疾患の一覧を比較する。
14) 最終診断

これらの課題をデータ開示と解説を交えながら各30秒から4分程度、ストップウォッチで時間を区切って、休みなく記入させて行きました。時々は無作為に学生を指名して答えさせ、緊張感を持たせる工夫もしました。
また流れをスムーズにして学生を集中させるために講義中は学生が記入するノート資料のみ配布し、終了後に講義スライド中に説明した解説や様々な臨床pearlsをまとめた冊子を配布しました。

講義終了後のフィードバックは大多数の学生から好評価をいただきましたが、案の定「集中力が必要で疲れた。」「記入時間が短い」「一番ハードな講義だった」という意見がありました。中には「臨床の現場がこんなに大変で同時に考えないと行けないなんて、将来が不安だ。」「今の自分では不可能」という人もいました。

講義に与えられた時間は90分(実際の講義時間は95分)でした。時間というのは臨床でも非常に大切なファクターであり、90分という時間はとても好都合でした。なぜなら、通常外来でも初診医は来院から2時間以内に、その患者さんの方針を決定しなければいけません。即ち処方して帰宅させるのか、入院させるのか、更に検査を重ねるのか、ということです。その間にも複数の患者さんについて診療は同時平行です。そうすると、先に挙げたような課題を制限時間内に繰り返していくというのは臨床現場の良いシミュレーションになり、あながち意味の無いことでは無いのです。

逆に大多数が良かったと評価する講義で、多少負荷を与える、といった当初の目的は達成できたのだろうと思います。

教育者は例えて言うなら登山隊のリーダーのようなものかも知れません。「俺について来い」と強引にハイペースで引っ張る人もいれば、列の最後で落伍者を出さないように歩く人もいます。少し頼りなさげでも一生懸命やって頂上に導く人もいます。
自分は所々で目標を提示して声かけをしながら、寄り添って歩く、そういったスタンスで教育に関わっていきたいと考えています。 (助教 稲熊良仁)

2012年3月5日月曜日

ロズウェルなんか知らない

『ロズウェルなんか知らない』(篠田節子著、講談社、2005年)を読んでみた。

過疎の町を再生しようと町に残った若者たちが奮闘する話である。若者が必死になって何かを企画しても(役所は動かず)年寄りに文句を言われ、折角来てくれたお客も旅館の接遇が悪いために、固定客とならない。そんな時に、一人の都会から移り住んだ若者の発想で、UFOで町おこしをすることになる。苦労の末に全国からお客が来るようになったところで、一波乱が起こるという展開である。

本書の題名に入っている「ロズウェル」であるが、1947年7月米国ニューメキシコロズウェル付近で、何らかの物体が回収されたことを含む、一連の出来事を指し、ロズウェルUFO事件とも呼ばれるそうだ。
この事件の真相は、極秘の調査気球であったと報告されている。一方、UFO の存在を信じる者たちの多くは、アメリカ軍が回収した残骸とは「墜落し異星人たの乗り物」であると主張している。

地域医療を再生するには、その地域が活性化されなければならないとよく言われるが、過疎となり産業が傾き、就職先の少ないところをどう再生するのか。本書を読むと、その大変さが実感できる。(山本和利)

2012年3月3日土曜日

第1回全国地域医療教育協議会総会

3月2日、東京の砂防会館で開催された第一回全国地域医療教育協議会総会(第4回全国シンポジウム 地域推薦枠医学生の卒前・卒後教育をどうするか?)に、武田真一助教と一緒に参加した。

総会前に世話人会が行われた。

前田隆浩会長の挨拶後、総会。

■筑波大学前野哲博教授より全国地域医療教育協議会のアンケート結果の報告があった。
回収率が100%であった(N=80)。地域医療教育部門は73%の大学にある。そのうち寄付講座が48%[県が主]。半数が2年で期限切れである。教員数:139名。常置講座は40.5%。20大学には何もない(都市部の大学に多い)。将来が不安定。半数は消滅の可能性あり。臨床教授・准教授・講師は全国で4,700名。奨学金をもらっている地域枠学生は980名。6%の大学が地域枠学生について開示していない。90%の大学が地域医療教育を全学生を対象に行っている。80%が保証制度等に加盟している。予防接種は73%が受けている。交通費は40%、宿泊費は20%が学生の全額負担。

■帝京大学の井上和男教授の「地域枠学生のキャリア形成‐missionの自己実現‐」
日本の地域枠は家庭医になることが要件になっていない。入学時の地域医療への興味が在学時に徐々に減ってゆく。いくつかの試みが示された。ジェネラリスト・医療過疎地での経験を積み、キャリア形成につながる方策が必要である。real-case based learningが重要。

■岐阜大学村上啓雄教授の「岐阜県医学生修学資金と岐阜県医師育成・確保コンソーシアム」
167名に支給。2年間の初期研修は岐阜県内。その後、9年間のうち2/3は指定機関に勤務。
研修医は3名がドロップアウト(24名中)。マッチングは特別枠なくフリーに行う。専門科の選択は自由である。岐阜圏域や三次病院へ長期赴任は不可としている。

■和歌山県地域医療支援センター長の「和歌山県立医科大学の地域枠入学医学部生に対する取り組みについて」
2次医療圏に格差が激しい。都市部に公立病院が少ない。県民医療枠:全国公募。1学年に20人。奨学金なし。専門医養成コースを設けている。地域医療枠:県内募集。1学年5-10名。奨学金あり。9年間の義務年限。総合医養成コース。自治医大卒業生と同じ扱い。大学病院と一般病院の両方で研修する。和歌山県立医大の中に地域医療支援センターを設置。学生は将来が不安。他学生とどう違うのかわからない。対策としてセミナーを実施。自治医大卒業医師の講演。病院見学。学長が現場の病院に出向いて講演。問題として診療科・指導医の偏在、地域枠学生のモチベーションの維持が挙げられた。

■秋田大学長谷川仁志教授の「地域医療再生のための大学と地域医療機関による1年生からの卒前・卒後シームレスな医師育成体制構築‐地域枠推薦学生と総合力ある専門医‐。

キャリアアップ体制構築が必要。2次医療圏のレベル維持を目指す。県内で(一般卒業生が流出する分)地域枠医師数の比率が増す。研修1年目が大学、2年目臨床研修病院。県庁所在地以外は医師不足。地域枠学生を区別せずに1年生から総合力を付ける試みがなされている。1年生から診断学を学び、症例ベースで、各科で必要な勉強をさせている。また1年生からOSCEをしている。(長谷川仁志教授を中心にして6年間の教育システムを変革してしまった素晴らしい試みである。)

最後に質疑応答が行われた。全体としては、総合医・専門医といった一律のものを示すのではなく、各県が各々の事情に応じて努力してことが重要であるという方向性で締めとなった。(山本和利)

2012年3月1日木曜日

地域通貨

『地域通貨』(嵯峨生馬著、NHK出版、2004年)を読んでみた。

貨幣とは複数のコミュニティで共有された「約束事」である。必ずしも貨幣=法定通貨とは限らない。
貨幣の4機能。1)価値評価機能、2)交換機能、3)蓄積機能、4)増殖機能。
シルビオ・ゲゼルが利子をマイナスにする「自由通貨」という考え方を提唱した。地域通貨とは、「ある特定の地域、コミュニティの範囲に限り流通するお金」のことである。効力を約束されていない。地域内で調達する割合が高いような商品・サービスは地域通貨の利用できる割合が高く設定されている。

1999年から急速に地域通貨が増加しているそうだ。
地域通貨に類似するものに地域振興券が思い浮かぶ。その地域振興券はうまくよかなかったという。その理由は、大手流通業者にまわり、地元商店街に回らず、日常的な買い物に使われ、新たな消費に繋がらなかった。ばらまき(参加して得たものではない)、「円の代わり」に過ぎなかった。商店街のポイント制度は大きな魅力になっていない。

地域通貨の3つの特徴。1)社会的な目的に基づいて発行されている、2)「私たち」という感覚をもつ、3)流れの道筋をデザインしておき、サービスの循環構造をつくりだす。

オーストリアのヴェルグルで労働証明書を発行し、月ごとに1%相当のスタンプを貼付しないと価値が存続しない制度をつくり、成功した。ニュージーランドのLETSの特徴は、参加者全員が通貨を発行する権利をもち、何の制約もない。性善説に支えられる。
「企業担保通貨」という発想もある。それは、NPOや市民団体のプロジェクトに企業が地域通貨を寄付する。

方式として、紙幣方式、通帳方式、口座方式の3つがある。

地域通貨として有名なものに、米国ニューヨーク州「イサカアワーズ」、スイス「WIR」、我が国では草津市「おうみ」、宝塚市「ZUKA」...等がある。

今後の課題として、ITを活用した地域通貨の方向性、複数の地域通貨に対応したプラットフォームの構築、インターネットとICカードの連携、法定通貨との並行決済システムの構築、代替ではなく補完的機能を目指す、等が挙がっている。

地域通貨を成功させる7つのポイントは、
1)定期的なイベントがコミュニティにいのちを吹き込む
2)「プロジェクト」がコミュニティを育てる
3)目で見える「ゴール」を設定することで喜びを共有する
4)わかりやすい「交換価値」を提供する
5)企業の「ポイントカード」に学ぶ
6)地域通貨が使えるお店ではなく「使うお店」に
7)底辺にあるのは「センス・オブ・コミュニティ」

マンパワーやお金の不足する地域における地域興しには、欠かせない発想ではないのだろうか。(山本和利)