札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年3月6日火曜日

臨床推論 腹痛



臨床入門のうち当教室担当の臨床推論のなかで「腹痛」を担当しました。

今回の臨床推論シリーズでは助教4人が分担し、共通した展開の中でそれぞれ個性のある講義をしてきました。

私が学生の講義で一番頭を悩ますのは、いかに飽きさせずに彼らの知的好奇心、医学的な向学心を刺激するか、彼らの中に医師として大切なものを残してあげられるかということです。我々は教員ですので教育のプロとして質の高い講義を提供する責任があると考えています。

今回は他の助教によって行われた臨床推論の講義シリーズの最後なので、内容に一工夫してみました。題して「医師アタマ シミュレーション」。

実際に学生さんに患者入室から臨床医が対応すべき様々な行動について課題を与え、配布されたノートに記入しながら講義終了までに医師の考え方、鑑別から診断に至るプロセスのノートを研修医になったつもりで、自らの手で完成させるようにしました。

課題
患者 42歳 女性。心窩部付近の痛みで来院
1) 患者の写真からのインプレッションを五感を働かせて記入する。
2) 患者への最初の声かけを記入する。
3) 患者の主訴から医学的用語を用いた主訴に変換する。
(例おヘソの脇の痛み→右季肋部痛)
4) 患者病歴1の文中から医学的に意味のあるキーワードを抜き出し、下線を引く
5) 病歴1の概要をまとめる(5W1H)
6) 病歴から解剖学的、病態生理学的に標的臓器を検討し、仮診断としての鑑別疾患を挙げる。
7) それらを踏まえて患者病歴を更に掘り下げた病歴2の文中から医学的に意味のあるキーワードを抜き出し、下線を引く
8) 情報を整理して痛みのOPQRST、病歴聴取のCOMPLAINTS+AMPLEの表にまとめる。
9) 鑑別疾患をMost likely, Must rule out, others but rule in.の表に完成させる。
10) 腹部所見のイラストに、述べられる視診、聴診、触診の各所見とその意味を記入し、身体所見情報を完成させる。
11) 病歴聴取からの挙げた鑑別疾患の一覧と、現時点での一覧の比較
12) 臨床検査の選択とその優先順位を考える。
13) すべての時点での鑑別疾患の一覧を比較する。
14) 最終診断

これらの課題をデータ開示と解説を交えながら各30秒から4分程度、ストップウォッチで時間を区切って、休みなく記入させて行きました。時々は無作為に学生を指名して答えさせ、緊張感を持たせる工夫もしました。
また流れをスムーズにして学生を集中させるために講義中は学生が記入するノート資料のみ配布し、終了後に講義スライド中に説明した解説や様々な臨床pearlsをまとめた冊子を配布しました。

講義終了後のフィードバックは大多数の学生から好評価をいただきましたが、案の定「集中力が必要で疲れた。」「記入時間が短い」「一番ハードな講義だった」という意見がありました。中には「臨床の現場がこんなに大変で同時に考えないと行けないなんて、将来が不安だ。」「今の自分では不可能」という人もいました。

講義に与えられた時間は90分(実際の講義時間は95分)でした。時間というのは臨床でも非常に大切なファクターであり、90分という時間はとても好都合でした。なぜなら、通常外来でも初診医は来院から2時間以内に、その患者さんの方針を決定しなければいけません。即ち処方して帰宅させるのか、入院させるのか、更に検査を重ねるのか、ということです。その間にも複数の患者さんについて診療は同時平行です。そうすると、先に挙げたような課題を制限時間内に繰り返していくというのは臨床現場の良いシミュレーションになり、あながち意味の無いことでは無いのです。

逆に大多数が良かったと評価する講義で、多少負荷を与える、といった当初の目的は達成できたのだろうと思います。

教育者は例えて言うなら登山隊のリーダーのようなものかも知れません。「俺について来い」と強引にハイペースで引っ張る人もいれば、列の最後で落伍者を出さないように歩く人もいます。少し頼りなさげでも一生懸命やって頂上に導く人もいます。
自分は所々で目標を提示して声かけをしながら、寄り添って歩く、そういったスタンスで教育に関わっていきたいと考えています。 (助教 稲熊良仁)