札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年3月8日木曜日

ホットコーヒー裁判の真相

『ホットコーヒー裁判の真相-アメリカ司法制度‐』(米国 2011年)という‘BS世界のドキュメンタリー’を観た。

本作は、2011年シアトル国際映画祭審査員大賞を受賞。米国企業がもうけ主義で、消費者が法に訴える手段を断ち、裁判を自分たちの思い通りに操っている実態を暴きだしている。

数年前、マクドナルドのコーヒーで火傷を負って、訴訟を起こして3億円をせしめたというュースが世界中を駆け巡った。米国人は訴訟好きで、訴えるのが好きな国民なのだなといった興味本意の印象を私自身は抱いていた。ところが、このような印象を視聴者に持たせることこそが、米国企業の戦略だったのである。

1994年8月、ステラ・リーバックはマクドナルドのコーヒーで重篤な火傷を負った。生命に関わる重症であった。かかった費用1万ドルの保証と業務改善(コーヒーの温度を下げること)をマクドナルドに訴えたが、マクドナルドは誠実さを示さず、たった800ドルの和解金で泣き寝入りさせようとした。そこで訴えざるを得なくなり、裁判になったということが真相のようだ。マクドナルドはこの取材を拒否している。裁判を通じて、それまでに700件以上の火傷事故が起こっていたのに対策がなされていなかったことが判明した。290万ドルの賠償額が決定されたが、それも減額された。この事例を契機に、企業は新たな戦力を模索した。企業は不法行為法改革と称して賠償額に上限を設ける法案を提言した。法廷でやっと勝ち取った賠償額を大幅に減らすことができるという企業よりの法案である。それを推進したのが、またしてもジョージ・ブッシュだそうだ。タバコ業界が黒幕という。

その法案の被害を被ったのがコリン・グーリーの事例である。双子なのに胎盤が1つしかない。超音波検査をしないため、その事実を見逃した。手術の遅れた。一方の胎児に栄養がいかなかったため、酸素不足で脳に重い障害を負った。医療過誤である。視力障害やいくつかの障害で手術を余儀なくされた。陪審員の決定によって560万ドルの賠償を命じられたが、125万ドルしか払われなかった。そして弁護費用を払うと数10万ドルしか残らなかったという。この法案によって懲罰的賠償額、精神的賠償額を制限することができるようになった。訴訟のせいで医療費が上がっていると言っているが、事実関係を調べると嘘のようだ。結局、ネブラスカ医療協会や保険会社が丸儲けとなった。

さらに企業にとって都合の悪い裁判官を最高裁の裁判官にしないように全米商工会議所が何百万ドルを使ってキャンペンを展開した。オリバー・ダイアズ裁判官の事例を紹介している。ジョン・グラシャムがこの事例をもとに『謀略法定』という本にした。全米商工会議所とは企業のロビー活動を行うところである。彼らはこの取材を拒否している。テレビキャンペーンにお金をかけ、企業に不都合な裁判官を落選させるよう、誹謗中傷をメディアに流す戦略をとっている。ダイアス氏は選挙で勝ったのに、数日後収賄で起訴された。陪審員は無罪判決を下したのにすぐに脱税容疑で訴えられている。何とか裁判官として任期を務めたが、その後の選挙では、起訴されたという事実が影響して再選されずに終わった。

米国企業はもう一つ国民を黙らせる戦略をもっている。それが強制的仲裁事項である。不当な扱いを受けても裁判を起こせないという法律である。国民はそれによって法廷から遠ざけられる。あらゆる企業がこの条項を盛り込んでいる(クレジット会社がほとんど盛り込んでいるそうだ)。ジェレミー・リー・ジョーンズは、軍事会社ハリーバートンから派遣されたイラクで、男達に薬を盛られ集団レイプされた。それなのに強制的仲裁事項によって公開裁判にできない。これ以外に多数のレイプ事件が闇に葬られていた。この仲裁は非公開であり、仲裁者は企業寄りである。ほとんど銀行やクレジット会社が勝っている。強制的仲裁事項により情報を闇に葬り、企業が従業員を虐待できる。民事訴訟で加害者の責任を追及できない。ジェレミー・リー・ジョーンズは、政府からの委託禁止を盛り込むこと、責任を明らかにすることを求めて法廷で対決したが、退けられたそうだ。

企業が儲けて生き残るためには何でもするという醜い米国企業の実態を、裁判制度においても実感させられた。これは勇気あるドキュメンターである。放映時間が深夜0時ということがただ一つ悔やまれる。(山本和利)