札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年5月29日水曜日

FLATランチョンセミナー「今なぜ総合診療医か?」

読者の皆さん、はじめまして。4月から札幌医大地域医療総合医学講座に入職しました若林です。どうぞよろしくお願いします。昨年までは江別市立病院総合内科に勤務していました。日本の医療にはジェネラルが必要であると信じ、日々研鑽を積む毎日・・・かどうかはわかりませんが、臨床に研究に教育に、できることを一歩一歩努力しようと思います。
 
さて今年度のFLATランチョンセミナーが今日から始まりました。その報告をします。
参加者は14名。みなさん、貴重な昼休みを使って来ていただきました。

まずは自己紹介。そして今なぜ総合診療医か?というテーマで40分ほどおしゃべりしました。内容は私の医師人生の紹介(故郷三重県で研修し、後期研修から北海道に渡り今に至るまで)と若い学生の皆さんに伝えることの2部構成です。

皆さん真剣でした。やはりこれから自分たちがどうなっていくのか、キャリアの問題にはたいへん興味があるようです。私は日頃から年齢の近い医師のロールモデルをわかりやすく伝えることの重要性を指摘してきました。数年後こうなる、10年たったらこんな医者になるということをぼんやりとでも理解しなければやはり学生や若い研修医は不安を覚えるのではないでしょうか。医局の大切な機能のひとつはそのわかりやすさです。自分の人生を自分自身で切り開かねばならないというのは一見すごく自由に見えて実は非常に不安かつ不自由なことではないかと思います。若干、逆説的ですが・・・。私の生きてきた足跡が少しでも参考になればいいと思います。

また医療への私自身の想い、こうであってほしいという理想についてもお話ししました。自分のための医学ではなく誰かのためにある医療を追及してほしい、そんな想いからのお話でした。我々ジェネラリストは必ず患者さんに近いところに居ると思います。また臨床だけでなく、人を育てる教育なども立派なジェネラリストの仕事です。そういったことを少しでも理解してもらえたらと思いました。

最後の質問でもキャリアについての質問がありました。確かな臨床能力をつけさせてあげたい、そして将来に対する不安を少しでも解消してあげたいと痛切に思いました。

今日は導入的な内容でしたが、これからは総合診療医として持っておくと便利な臨床概論に移りたいと思っています。少しでも総合診療の魅力を伝えていけたらと思います。

参加した学生の皆さん、お疲れ様でした。そして全国の同志の皆さん、ともに頑張りましょう。
(助教 若林崇雄)

2013年5月27日月曜日

ジェンナー/ペニシリン


医学史講義 ジェンナー・ペニシリン

 本日の講義は感染症との闘いと称し、ジェンナーとペニシリンであった。

まずはお馴染み班員紹介から。今回の紹介方法はあらかじめ作っておいたプロフィールから、それが誰かを当てさせる方式である。ファシリテーションの世界では、集まったメンバー同士の最初の緊張を解く方法として、アイスブレーク(氷解)というのがあるが、その中で「他己紹介」というのがある。今年の1年生の間で定着しつつある班員紹介はその範疇に入るだろう。


まず、ジェンナーについて、「予防接種を作った人」と簡単に紹介しておいて、例としてインフルエンザの予防接種のデータを紹介している。

インフルエンザによる高齢者と乳幼児の死亡率は高いのであるが、インフルエンザの予防接種が始まった後からその死亡者数が減ったグラフを提示している。

正確に言うと、予防接種の効果だけなのか? 栄養状態の改善など予防接種以外の効果もあるではないか?など、交絡因子の検討がされていないが、まぁ、1年生ではこれは許容範囲だろう。

 そもそもジェンナーの最大の功績は、天然痘の予防のための種痘という方法を確立したことであるが、学生諸君はおそらく「天然痘」を知らないだろう。知らない病気を撲滅したといってもなかなかその凄さが伝わらない。そういう聞き手の知識にないことを無理に強調するより、聞き手が「そういうことか」とわかりやすい「たとえ」を用いて強調する手段のほうが大変有効である。

 1兆円というお金はほとんどの人がそのイメージが付きにくいだろうが、「毎日100万円をドブに捨てたとすると、2700年間つまり弥生時代のころから現代まで毎日お金を捨て続ける必要がある。」と説明したほうがイメージがわきやすい。

 プレゼンテーション技法としては、「相手の頭の中にすんなりと入っていく方法」を編み出すことが一番重要なのであるが、学生諸君に発表内容だけではなく「プレゼンテーション技法」を意識させることにより、自然と工夫してくるようになるのである。

その後の発表はジェンナーの生い立ちから「種痘」法の発見にいたるまでの経緯と、その後の現代医学への影響などをわかりやすく発表していた。個々のエピソードについての掘り下げがやや足らない印象も受けたが、全体のストーリーとしてはわかりやすく構成されていたと思う。

その後の質疑応答ではこれもやはり定番となった、内容に関するクイズと感想・質問の意見交換であったが、内容に関する質問がパラパラと出てきていた!

質問に対する回答がやや不十分なところもあったため、最後に補足的な説明を加えておいたが、だんだんと双方向の授業の形態が整いつつあるように感じた。


後半はペニシリンである。

最初いきなりラジオのDJのように2人の学生による掛け合いが始まった。意表を突く演出である。ペニシリンについてのプレゼンテーションとして効果的であったかどうかは別として、何とか工夫しようという姿勢はひしひしと感じられた。こういう試行錯誤から素晴らしいプレゼンテーションのヒントが生まれるのである。挑戦し続けることが大切である。

5分ほどの掛け合いの後、プレゼンターが変わり、その後は一人での発表となった。発表は声が大きく、はっきりしており、全体に会場に話しかけるような感じで進められた。非常に印象的なプレゼンである。

まず、抗生物質の一般的な説明から始まった。続いて、本日のメインである抗生物質ペニシリンが発見されるまでの経緯やその後の大量生産に至るまでの開発秘話や、昨今のペニシリン耐性菌の話まで、内容は盛りだくさんであった。

スライドの枚数も30分の発表に対して、50枚とかなりの内容を盛り込んであるが、わかりやすい図や写真が多く、文字の大きさも内容も適当である。印象的なスライドを時間をかけて説明する班もあったが、この班は内容を充実させることを重視したようだ。このあたりは各班の個性が出て非常に面白い。

 途中で、高学年であればもっとも食い付くであろう「国家試験に出る内容」の解説などを織り込みながら興味を引く内容に仕上がっていた。

 

 後半の質疑応答では、司会班が、学生諸君をあらかじめ班ごとに座席を決めていた。そこに「今回の発表でもっと詳しく知りたいこと」「疑問に思ったこと」「発表に対する意見」をまとめてください。とテーマを投げかけていた。

 これまでの「隣同士で話し合ってください」よりは、あらかじめ相手が指定されている分、議論が進みやすいだろう。このような工夫も議論を深める上では非常に大切である。

会場からはいろいろな意見や質問が出た。かなり活発な意見交換と言えよう。

またその質問に対する回答も的を得ている。ただ、医学史の授業内容もこのあたりから現代的で、臨床的な内容になってきているため、学生同士の質疑応答だけでは不十分な印象を受けた。最後に短時間ではあったが、補足的な説明を行ったが、今後の班は、質疑応答のセッションで、教員に振るということも少し検討してもいいかもしれない。もちろん、学生さん同士の議論が前提ではあるが、、、、、

今後医学史では精神医学の夜明け・感染症・医学教育・戦争と医学・緩和医療・EBMNBM…など現代の医療につながる内容が増えてくる。学生さんの興味をどの程度ひきつけることができるのか?非常に楽しみである。 (助教 松浦武志)

2013年5月22日水曜日

入院患者の発熱

ケースプレゼンテーション

74歳女性。

13年前に下垂体の良性腫瘍を摘出しその後、甲状腺ホルモン・副腎ホルモン剤を内服し安定していた認知症女性が、入院2日前より39度の発熱と、食事摂取不能がのため受診した。外来での採血検査・尿検査・胸腹部単純CTなどで腎盂腎炎からの重症敗血症に伴う腎機能障害と肝機能障害、両側下葉の肺炎+胸水などの診断で入院となった。

PIPC/TAZCLDMが開始となり、速やかに尿所見・腎機能障害・肝機能障害は改善した。しかし、入院後7日経っても38度の発熱が断続的に続くため、抗菌薬をCTRXに変更し、熱源精査のため、呼吸器科・循環器科・消化器科・泌尿器科を受診した。

それぞれ、「気管支鏡を行い発熱の原因となる所見なし」・「心エコーでは疣贅や心不全なし」・「CT上胆石があるが、腹腔内の消化器疾患ではない」・「尿所見は改善しており、現在の発熱は尿路感染ではない」。とのことで、入院から17日目に発熱精査(不明熱精査)のため総合診療科に紹介があった。

経過が長く複雑であるので、実際はこれまでの検査結果や画像所見をまとめた資料を渡しながら解説した。

大病院の総合診療科に発熱精査の依頼がある場合は、すでに大概の検査が行われていることが多い。もちろん抗菌薬も何種類も投与されている。古典的な「不明熱」とは違い、ある程度精査がされつくした院内「不明熱」に我々病院総合医は遭遇することが多い。

そうした特殊な『院内の発熱』に対してアプローチを会場に問うてみた。

入院時の診断エラー・腎盂腎炎の膿瘍化・薬剤熱・膿胸・偽痛風・ライン感染などなど、さすがこのカンファレンスに進んで参加しているだけあって、指摘が鋭い。

ここで、『院内発熱のチェック6項目』を提示した。

①副鼻腔炎          経鼻胃管 経鼻挿管

②人工呼吸器関連肺炎     人工呼吸器使用中

③カテーテル関連血流感染     末梢・CVルート

④カテーテル関連尿路感染     バルン使用中

⑤褥瘡感染          長期臥床

CD関連腸炎        抗菌薬使用

院内の発熱は何をおいてもまずこの6項目をチェックすべしと。

理由は「頻度が多いから」である。「Common is Common」である。


この患者さんは末梢ルートを使用中であったが、特に発赤もなく、感染兆候はない。また、尿道バルンが挿入中であったが、泌尿器科医の診察により尿所見は異常なく尿路感染症は否定的であった。また、抗菌薬は使用中であったが、CD関連腸炎を思わせるような腹部症状はない。

 そこで次にシステムレビューを行った。

 今回のプレゼンテーションでは詳しく述べなかったが、不明熱の診療では「完璧な病歴聴取」と「システムレビュー」は最も大切であり、診断の手がかりが多い。

 この患者さんは入院後から左膝が腫脹し、歩くのがつらくなり現在歩行器レベルとなっていた。歩き始めが特に痛いというわけはなく、常に痛いという感じであった。熱がないときは比較的元気なようである。

 この時点で何を考え、どのような指示を出すか?もう一度グループで議論してもらった。

すべての病態を一つの病気で説明すると(オッカムの剃刀)

① 腎盂腎炎→血流感染→化膿性関節炎

② 感染性心内膜炎→化膿性関節炎

③ 肺炎→閉塞→肺膿瘍・膿胸(嫌気性菌の関与)

 

偶然に2つ以上の病態が重複したと考えると(ヒッカムの格言)

① 腎盂腎炎+偽痛風

② 腎盂腎炎+CD関連腸炎+変形性膝関節症

③ 腎盂腎炎+薬剤熱+変形性膝関節症

④ 腎盂腎炎+DVT

のように整理される。 このオッカムの剃刀とヒッカムの格言について説明した。

結局この患者さんは身体所見などから偽痛風が疑われたため翌日整形外科を受診し、関節穿刺と膝関節X線写真にて偽痛風の診断となった。関節液の廃液とNSAIDs投与で解熱し、痛みもなくなり歩行可能となった。

その後、入院患者の発熱についてのミニ講義を行った。

まずは先ほどの6項目のチェック。(よく起きる病気は実際よく起きる)

その次に全身のシステムレビュー。特に細菌の侵入門戸となる、体内の無菌部位への穴を徹底的にチェック。(目・鼻腔・口腔内・咽頭・気道・外耳道(鼓膜)・右上腹部(胆道系の出入り口のファーター乳頭)・肛門・膣・尿道・皮膚欠損部)

最後に問題臓器の絞り込みとして、

① 入院原疾患に関連する発熱

② 入院後の処置に関連する発熱

    1)感染性(50%)

    2)非感染性(50%)

③ ①②以外の原因による発熱(稀だが注意)

の順番に行うと漏れが少ないと説明した。(図参照)

 



最後の最後に院内発熱でまずチェックすべき6項目を短歌にして発表を終えた。

 

〽院内発熱  経鼻・経口  ラインにバルン

   クロストリジウム  褥瘡感染  

                 ―詠み人知らず

(助教 松浦武志)

 

杉田玄白/華岡青洲


今日の医学誌の講義は杉田玄白と華岡青洲であった。


まずは班員紹介。こちらも定番となってきたようだ。

今回の班は司会班も発表班も同じスライドのデザインを用いて、発表していうる。よく打ち合わせをしてきた証拠だろう。統一感があっていい感じである。


今回の班の発表者は二人で、それぞれ発表の仕方に違いがあり、その対比は面白い。

前半は、Macを片手に教室を歩き回りながらのプレゼンである。途中ところどころにクイズを入れながら興味をそらさないよう工夫している。持ち歩いているMacがかっこいいという評価もあり、カンペのようだという評価もあり難しいところだろう。個人的には会場が暗くなってしまうところでのメモとしてはバックライトがあったほうが見やすいだろう。その点の工夫は認めてあげたいところである。後半は朴訥とした語り口の中に杉田玄白の業績を紹介しつつ、それが後世に与えて影響について語っていた。眠くなったという意見もあるが、語り口調はその人の個性である。内容的にはよくまとまっているし、ストーリーも明確であった。その点は素晴らしいと思う。語り口調に抑揚がないところは、やや眠気を誘うかもしれない。強調したいところで間を置いたり、何度も繰り返したり、発表者自らの感想を述べたりすることで補う工夫があってもいいかもしれない。


今回の班は、発表スライドを少なくして、その分言葉での解説の内容を充実させたようだ。スライドの背景全体に写真を用いて、かなり印象的なものに仕上がっている。参考文献として提示した「プレゼンテーションZen」のような感じである。写真に文字を書くときには、色の対比など気をつけないといけないことが多い。今回はどう系統の色が重なりやや見にくいところもあったが、今までの班にない工夫がなされており、その点は評価したい。

司会班は、議論の内容をかなり絞って提示している。これは議論の引き金としてはかなり有効である。会場からは2-3人の意見が出た。また、司会班があらかじめ用意した内容以外でも質問がいくつか出てくるようになった。素晴らしいことである。こういう双方向の授業がお互いの学びを深めていくのである。

おそらく、学生諸君の中には、質問をしてもいい雰囲気なのでは?という意識が芽生え始めているのだろう。今後は司会班があえてテーマを準備しなくても活発な議論ができるようになるかもしれない。期待したい。

 次の班は華岡青洲である。

 この班は発表内容を3つに絞って、構成している。「プレゼンテーションのコツ」の授業をよく聞いていた成果か、基本を押さえた手堅い内容である。

 

華岡青洲は、世界で初めて全身麻酔薬を開発し、外科手術を行った人である。現代の小説やドラマ・映画にもなっており、かなり有名人かと思ったが、意外に知らない学生が多い。

 

 現代では当たり前かつ必要不可欠となった麻酔薬だが、もし麻酔がない手術があったとしたら? こうした素朴な疑問に、当時の増井梨の手術の体験談を紹介していた。いかに大変で患者・術者ともに苦痛に満ちたものであったかがよく伝わった。学生からも悲嘆の声が漏れていた。

自分の伝えたい内容(ストーリー)をいかに伝えるか? ここがプレゼンテーションで最も大切なところである。自分の考えを支持する根拠を示すのはもちろんであるが、その根拠は容易に相手の頭の中に収まらなければならない。いかにわかりやすいたとえ話やイメージしやすい事象を持ってくるか?ここにプレゼンテーションの差が出るのであろう。

ギャグの質や内容ではない。ストーリーを明確に根拠づけるの組み立てこそが命なのである。あえて反論材料を入れてもいい、その反論材料を明確に否定すれば自分のストーリーは支持される。どのような方法をとるかはその時の伝えたい内容による。このあたりを一般化するのは難しい。

この班は麻酔薬が生まれるまでの歴史と、それによって得られた恩恵と、海外での麻酔薬の歴史を紹介しながら、いかに華岡青洲の麻酔薬が当時画期的であったかを力説していた。

 また、麻酔薬を開発する過程でどうしても必要な人体実験についても言及していた。このあたりの確執が現代の小説や映画となっているのである。知らない学生が多いのには少し驚いた。

司会班は、前の班と同様、論点を絞り込んで質問をしていた。

 「人体実験についてどう思うか?」

 「医師に必要な資質とは?」

やや、概念的で答えにくい質問ではあったが、当てられた学生は自分の考えをしっかりと述べていた。おそらく、当てられなくても意見を言いたい学生はいただろう。もう一息で自発的な意見交換ができそうである。

まだ医学史の講義は10回近くある。活発な意見交換のできる授業となってほしいものである。    (助教 松浦武志)

 

 

 

 

2013年5月17日金曜日

5月の三水会

515日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。若林嵩雄助教が司会進行。後期研修医:1名。初期研修3名、学生2名、他:6名。

ある研修医の経験症例。往診と外来の研修が主体である。往診患者は50名。単純CTも撮れる。血液、尿、単純XPはできる。いくつかの症例の紹介。家族関係、心理的問題などに注目して話が進んだ。この地域は高齢化率が高い。町の中の写真を撮ってそれに名前を付ける実習を行った(photovoice)。独居者も多い。


研修医から振り返り1題。

81歳男性。左肺上葉腺癌。COPD、脳梗塞後遺症、認知症、脂質代謝異常。高尿酸血症。

服飾関係の仕事。脳梗塞後、家族と絶縁状態である。高齢者住宅に居住している。ノロウイルス、インフルエンザに罹患。頻回に受診する。訪問時、息苦しさを訴えることに対して、生物心理社会モデルで説明を考えた。

不安が強かったが、抗不安薬を処方する前に、臨床倫理4分割を用いてスタッフで討論を行った。

1.医学的適応、2患者の意向、3QOL,4周囲の状況に分けて問題点を取り上げ、解決の仕方を話し合った。このような拡大コンセサス・ベースト・アプローチが終末期のあり方を決定することが重要であると考えられた。

クリニカル・パール:終末期のあり方が明確になっていない症例では、施設等を含めた幅広い職種の担当者が集積する在宅合同カンファランスを行い、コンセンサスを形成するすることが重要である。

研修終了生からの報告。

さまざまな病院改革を進めている。仕事を増えている。

 

20歳台女性。前日から発熱でふらふらして動けない。軽度咽頭痛あり、インフルエンザ陰性。WBC:43100, Hb 5.1g/dlで救急担当医からコンサルトを受けた。CRP;27.血液内科に一声かける。問診、身体診察、妊娠反応をチェックした。顔面蒼白。BP:90/50mmHg, HR:110/mSpO2:98%, 38.7度。数年前に出産歴あり、その後死亡。本人は「今、妊娠の可能性はない」はないと断定している。下血、黒色便はなし。診察で下腹部に硬い腫瘤あり。エコーで子宮と思われるところに、モヤモヤした所見あり。妊娠反応は陽性であった。婦人科医を呼んで診察してもらったところ、子宮の中で胎盤が腐っている(そっと自宅分娩していた)。「子宮内胎盤遺残による敗血症」と診断。衝撃的な症例であった。

クリニカル・パール:女性を見たら妊娠と思え。女性は呼吸するように嘘をつく。

ミニ・レクチャー

81歳女性。左足だけがガクガクとして立てなくなった。救急搬送された。会話はできる。バイタル問題なし。既往:高血圧、弁膜症、脊椎ヘルニア。外傷歴なし。

「何を考え、どんな所見をとるか。」

不整脈なし。脳神経:異常なし、腱反射:異常なし。神経所見異常なし。

「脳梗塞、心原性失神を考えたい。」

CTR:64%(臥位),ECG;AMI所見なし。血液AMI所見なし、低血糖なし。1時間後のECG:著変なし。「TIAの疑い」として、本人の希望により帰宅とした。後日、脳外科へ行くように紹介状を書いた。

6日後、脳梗塞であることが判明した。

 

TIAに時間の区切りはなくなった。30分以内に50%で症状が消える。

24時間以内に症状が消えたうち、33%が脳梗塞を起こしていた。

24時間以内にMRIを撮る必要がある。

TIA発症後90日以内に15%が脳梗塞を起こす。

ABCD2スコアという予後予測因子がある。

90日以内の治療効果:NNT:21

UpToDateはアスピリン+ジピリダモール、またはクロピオグリルを推奨している。

 

学生、初期研修医にとっても身のあるカンファランスにしてゆきたい。(山本和利)

2013年5月13日月曜日

病院総合医カンファレンスin北海道


北海道大学で行われた第4回病院総合医カンファレンスin北海道に参加した。

まず、病院総合医の紹介。議論の進め方の紹介

Case study

66歳、発熱が続いている(比較的徐脈)。悪寒戦慄はない。熱のわりには元気。盲腸癌、虫垂穿孔の既往。旅行歴なし。ペット、温泉なし。腰痛あり。血培は陰性。160cm, 50kg,右耳介後部に腫瘤を触知。ESR:140/h, ALP:2488,CRP:14,  Hb:8.2Ferritin, 14,261,胸部Xp,骨シンチ異常なし、造影CT:異常なし。前立腺に腫瘍なし。

鑑別診断として、悪性腫瘍、IVL,薬剤熱、真菌感染症、結核、悪性リンパ腫,Still病、血球貪食症候群、等が挙がった。

PETで骨髄、耳下腺に集積。耳下腺の生検では、良性の耳下腺腫瘍であった。骨髄穿刺でmetastatic carcinoma in the bone marrowという病理診断がついたが、骨髄生検で確認したところ、前立腺がんによる播種性骨髄癌腫症であった。PAS:1900であり、泌尿器科でホルモン療法をしたところ、解熱した。

 

播種性骨髄癌腫症Disseminated carcinomatosis of the bone marrow ; DCBMは、前立腺癌による独特の転移形式であり、20例ほどの報告があるという。泌尿器科で診断されることは少なく、内科医でも知っておく必要があるようだ。
 
実は前立腺癌に限らず、悪性固形腫瘍の骨転移のうち、原発巣、転移巣ともに結節形成性に乏しく、全身の骨髄へびまん性浸潤性に転移をきたすものである。比較的若年者に多くて、原発の多くは胃癌(90%)でその他大腸癌や肺癌、乳癌、前立腺癌にもみられるという。貧血、腰背部痛、出血傾向が三主徴とされるが最も多いのは全身倦怠感・腰背部痛である。この症例も腰痛がある。初期にALP(主に骨由来)とLDHの急増がみられ、遅れて末梢血液中の骨髄芽球の出現、貧血、血小板数の著明な低下がみられる。画像所見としては骨シンチにおけるsuper bone scanbeautiful bone scan)が特徴的である。単純X線やCT所見では骨破壊は軽度のようだ。確定診断は骨髄穿刺・生検が必須。

 

■高齢者の不定愁訴へのアプローチ(short lecture

具合が悪い、元気がない、食欲がない、等の場合。

病気のonsetは重要。急性の変化は年のせいではない。

ADL, IADLDEATH, SHIFT)を訊く。

4大鑑別疾患

心疾患、感染症、貧血、慢性硬膜下血腫、(甲状腺機能低下症)

薬の変化、

検尿、血液、胸部XP、(頭部CT

最近元気がなくなった2症例を提示。上記のアプローチをした結果、Af,慢性硬膜下血腫の事例を紹介された。

 

■総合医Snapshot diagnosis 1

35歳男性、発熱、倦怠感、胸部XPで肺炎像、一度解熱後、再度発熱。CTで両肺野のairbronchogramがないfinger gloved浸潤像。粘液栓を思わせる所見。

最終診断:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症。

 

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症

血液および痰のなかに好酸球が増加していることと、胸部X線写真で肺に浸潤陰影を認める肺好酸球増多症の例として、初めて報告(1952年)。 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症は、多くの場合、もともと気管支喘息患者に続発するので、喘息の合併症と言える。診断時の年齢は大半が40歳以下という。女性に男性よりやや多い。ステロイド依存性喘息患者の10%にみられ、また喘息患者の28%がアスペルギルスに対する皮膚反応が陽性であるといわれている。喘息症状、胸部X線所見、皮膚反応、血液中好酸球の増加、血清総IgE値の上昇などが診断の手がかりとなる。胸部X線所見は、一過性、移動性もしくは固定性のびまん性陰影で、病変の活動性と相関するという。

 

■総合医Snapshot diagnosis 2

肺結核で加療後。両側性の下腿浮腫。CTで大動脈の肥厚。

最終診断:IgG4関連大動脈炎。(感染性大動脈炎をまず考える)

 

IgG4関連大動脈炎

IgG4関連疾患は2000年代に提唱された新しい疾患である。組織学的にはIgG4陽性形

質細胞やリンパ球浸潤が涙腺, 唾液腺, 後腹膜, 膵臓, 胆管などで起こり, 臨床的にはMikulicz, 後腹膜線維症, 自己免疫膵炎, 糖尿病, 原発性硬化性胆管炎類似の胆管病変などを呈する全身性疾患であり, ステロイド治療に対する良好な反応性を認める。①血清IgG4の高値, ②本疾患に特徴的な臓器の障害(唾液腺,涙腺, 膵臓, 後腹膜), ③組織学的にIgG4陽性形質細胞とリンパ球の浸潤の確認, の3項目のうち、2項目を満たすことが必要のようだ。

 

Surviving sepsis campaign guide line 2012short lecture

(これまでのguide lineと変わったところ)

救急外来の患者は敗血症として扱う。

3時間で評価。乳酸値、血培、広域スペクトラム抗菌薬、血圧低下。

6時間で評価。治療への反応。ドパミンの評価が下がっている。

乳酸値の正常化を目指す。

プロカルシトニン:初期に感染症の判断には使えない。低値で治療中止の判断に用いる。

 

case study

74歳女性。認知症あり、コミュニケーションが取れない。下垂体腫瘍術後。発熱。CRP:42, WBC:28.000,肺炎像あり、抗菌薬で加療し、一時軽快したが、再度発熱が起こった。

(松浦助教が詳細を報告予定)

 

若い医師の参加が多くて熱気があり、総合診療を展開する上で診断や治療について大変に参考になる有益な会であった。(山本和利)