札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年5月27日月曜日

ジェンナー/ペニシリン


医学史講義 ジェンナー・ペニシリン

 本日の講義は感染症との闘いと称し、ジェンナーとペニシリンであった。

まずはお馴染み班員紹介から。今回の紹介方法はあらかじめ作っておいたプロフィールから、それが誰かを当てさせる方式である。ファシリテーションの世界では、集まったメンバー同士の最初の緊張を解く方法として、アイスブレーク(氷解)というのがあるが、その中で「他己紹介」というのがある。今年の1年生の間で定着しつつある班員紹介はその範疇に入るだろう。


まず、ジェンナーについて、「予防接種を作った人」と簡単に紹介しておいて、例としてインフルエンザの予防接種のデータを紹介している。

インフルエンザによる高齢者と乳幼児の死亡率は高いのであるが、インフルエンザの予防接種が始まった後からその死亡者数が減ったグラフを提示している。

正確に言うと、予防接種の効果だけなのか? 栄養状態の改善など予防接種以外の効果もあるではないか?など、交絡因子の検討がされていないが、まぁ、1年生ではこれは許容範囲だろう。

 そもそもジェンナーの最大の功績は、天然痘の予防のための種痘という方法を確立したことであるが、学生諸君はおそらく「天然痘」を知らないだろう。知らない病気を撲滅したといってもなかなかその凄さが伝わらない。そういう聞き手の知識にないことを無理に強調するより、聞き手が「そういうことか」とわかりやすい「たとえ」を用いて強調する手段のほうが大変有効である。

 1兆円というお金はほとんどの人がそのイメージが付きにくいだろうが、「毎日100万円をドブに捨てたとすると、2700年間つまり弥生時代のころから現代まで毎日お金を捨て続ける必要がある。」と説明したほうがイメージがわきやすい。

 プレゼンテーション技法としては、「相手の頭の中にすんなりと入っていく方法」を編み出すことが一番重要なのであるが、学生諸君に発表内容だけではなく「プレゼンテーション技法」を意識させることにより、自然と工夫してくるようになるのである。

その後の発表はジェンナーの生い立ちから「種痘」法の発見にいたるまでの経緯と、その後の現代医学への影響などをわかりやすく発表していた。個々のエピソードについての掘り下げがやや足らない印象も受けたが、全体のストーリーとしてはわかりやすく構成されていたと思う。

その後の質疑応答ではこれもやはり定番となった、内容に関するクイズと感想・質問の意見交換であったが、内容に関する質問がパラパラと出てきていた!

質問に対する回答がやや不十分なところもあったため、最後に補足的な説明を加えておいたが、だんだんと双方向の授業の形態が整いつつあるように感じた。


後半はペニシリンである。

最初いきなりラジオのDJのように2人の学生による掛け合いが始まった。意表を突く演出である。ペニシリンについてのプレゼンテーションとして効果的であったかどうかは別として、何とか工夫しようという姿勢はひしひしと感じられた。こういう試行錯誤から素晴らしいプレゼンテーションのヒントが生まれるのである。挑戦し続けることが大切である。

5分ほどの掛け合いの後、プレゼンターが変わり、その後は一人での発表となった。発表は声が大きく、はっきりしており、全体に会場に話しかけるような感じで進められた。非常に印象的なプレゼンである。

まず、抗生物質の一般的な説明から始まった。続いて、本日のメインである抗生物質ペニシリンが発見されるまでの経緯やその後の大量生産に至るまでの開発秘話や、昨今のペニシリン耐性菌の話まで、内容は盛りだくさんであった。

スライドの枚数も30分の発表に対して、50枚とかなりの内容を盛り込んであるが、わかりやすい図や写真が多く、文字の大きさも内容も適当である。印象的なスライドを時間をかけて説明する班もあったが、この班は内容を充実させることを重視したようだ。このあたりは各班の個性が出て非常に面白い。

 途中で、高学年であればもっとも食い付くであろう「国家試験に出る内容」の解説などを織り込みながら興味を引く内容に仕上がっていた。

 

 後半の質疑応答では、司会班が、学生諸君をあらかじめ班ごとに座席を決めていた。そこに「今回の発表でもっと詳しく知りたいこと」「疑問に思ったこと」「発表に対する意見」をまとめてください。とテーマを投げかけていた。

 これまでの「隣同士で話し合ってください」よりは、あらかじめ相手が指定されている分、議論が進みやすいだろう。このような工夫も議論を深める上では非常に大切である。

会場からはいろいろな意見や質問が出た。かなり活発な意見交換と言えよう。

またその質問に対する回答も的を得ている。ただ、医学史の授業内容もこのあたりから現代的で、臨床的な内容になってきているため、学生同士の質疑応答だけでは不十分な印象を受けた。最後に短時間ではあったが、補足的な説明を行ったが、今後の班は、質疑応答のセッションで、教員に振るということも少し検討してもいいかもしれない。もちろん、学生さん同士の議論が前提ではあるが、、、、、

今後医学史では精神医学の夜明け・感染症・医学教育・戦争と医学・緩和医療・EBMNBM…など現代の医療につながる内容が増えてくる。学生さんの興味をどの程度ひきつけることができるのか?非常に楽しみである。 (助教 松浦武志)