札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年2月28日木曜日

患者の語り


228日、NBMの授業の一環として患者さんお二人から患者体験を語っていただいた。

前説として、山本和利が医療人類学の概念、disease(疾患), illness(病い), sickness(病気と社会的に認めてもらうこと), sick role(病者役割), medicalization(医療化),stigma(烙印),explanatory model(病気の説明モデル、解釈モデル)について解説をした。このような概念を念頭に置きながら、患者さんとの共通の基盤を構築することが重要であることを強調した。

 

消化器癌を経験したAさん。そのときの経験した辛さや出会った暖かい気持ちを紹介してくれた。

初期対応に問題があり診断がつくまでに10年間苦しんだBさん。冒頭、不定愁訴の患者が多い、ということを学生さんには知ってほしい、と訴えた。患者の言葉の中には、鍵となる言葉がある。それを見逃さないように。

小児喘息の持病を持っていた。その時代は、心が弱い、精神修養ができていないという風潮があった。そう言われて傷ついた。長い通学路、喘息の発作を悟られないように気をつかった。今すぐ治してもらえる手段がなかった。皆も我慢しているのだろうと思っていた。誰にも助けてもらえないという不安感がいつもあった。喘息の患者の不安は独特である。中学に入って喘息も落ち着き、気管支拡張薬を使うことが減ったが、ドキドキするのでマラソン大会には一度も出なかった。大学生になって夕焼けを見ていても青空を見ていても涙が出てくる自分に気づいた。鬱なのかなと思っていた。

24歳になって動悸がひどくなった。階段を登っても症状が改善しない。ドキドキして発汗が強かった。でも食欲があり一見元気のため、誰も取り合ってくれない。喘息が再度悪化した。処方されたβ刺激剤を内服するとドキドキして死にそうであった。心臓が壊れたのかと思って、恐怖感がひどかった。寝付きが悪く、目が見開いて目がランランとした状況であった。いつも腹ぺこ状態であった。食べても太らないので皆にうらやましがられた。早朝の脈拍が90/分。排便後140/分であった。洋服の上から心臓の拍動がわかった。親からも教師からも「怠け者」というレッテルを貼られていた。

あるとき過呼吸症候群で病院に救急搬送されたが、心が成熟していないと言われ、2時間放置された。

親戚にバセドウ病がいたので、バセドウ病ではないかとかかりつけ医に訊いてみた。首を触ってもらい、血液検査をしてもらった。コレステロールが低いといわれたが、「肩こり・ストレス」と診断され、ビタミン剤・睡眠薬を処方された。少しも治らないので奇病と思っていた。健診で心臓に雑音があると言われ、大学病院を受診したが、不整脈はあるが心臓に異常はなく、緊張するせいといわれた。その結果、自分を責めるようになった。そのうち空腹なのに飲み込めなくなり、ついに呂律が回らなくなった。ひとりでご飯を食べられなくなった。波に飲み込まれ海の底でおぼれているような感じであった。

ある日、地下鉄で動けなくなり蹲っていた。誰も助けてくれなかった。暑い日が続く夏、母親に大学病院に連れて行ってもらった。担当医師ははじめ甲状腺疾患を疑ったようだが、以前の開業医での話をしたら、気のせいということになった。あと受診するとしたら精神科と言われた。その頃、JALのジャンボジェットが墜落したニュースを聞いて恐怖にかられた。喘息が悪化し始めた。気管支拡張剤を上限まで使っても喘息が治らない。市中病院を受診し入院を勧められたが仕事の関係で断った。夜間救急では医師の指示通りの処置を受けると心臓がドキドキするので、いい加減に吸入をした。その場面を看護婦に見つかって仮病と言われた。その後たまたまよい医師に出会って甲状腺ホルモンとシンチ検査を受けた。そこではじめてバセドウ病と診断された。人間の証明ができたと思った。

米国で生活。薬がなくなり受診したら、南欧出身の医師に無視された。半年後に血液検査の異常の報告を受けた。現在、再発寛解を4回繰り返している。喘息は薬剤でうまくコントロールされている。10年間、診断がつかずに苦しんだ経験をユーモアを交えながら語られた。

学生さんからは、患者さんの想いを生で拝聴して、これまでの病気の話を教官から聞くのとは別の刺激・感動をうけたようだ。(山本和利)

2013年2月27日水曜日

模擬患者による医療面接実習

226日、医学部4年生に医療面接実習を行った。

本日の実習は、模擬患者さん(SP)に来ていただいての実習である。

この模擬患者さんは普段は札幌医科大学付属病院で(患者案内などの)ボランティアをしていただいている方々で、その中から、学生教育に参加したいという意思のある方が選抜されている。

 この日のために、この1カ月間は週に1回程度当講座に来ていただいて、模擬患者用のシナリオを練習していただいた。その往復にかかる交通費や練習にさく時間などは全く手弁当で、毎年のことながら本当にありがたいことである。

 近年、学生の講義・実習への遅刻が目立つ。(近年に始まったことではないが、、、)

 学生の質が低いのか?

 講義の質が低いのか?

 いつの時代も議論される『鶏と卵』の水掛け論である。

が、しかし、この実習は違う!

毎年、模擬患者さんはシナリオを真剣に練習して、かなりレベルのたかい患者を演じられる実力をつけておられる。そういう方々が、朝早くから大学にきていただき、この実習に協力いただいている。

この実習に特段に考慮すべき理由もなく遅刻することは、「絶対に」許されない。医師・医学生である前に社会人としての自覚が著しく欠けるとしか言いようがない。

前日の医療面接実習の最後に、「明日の遅刻は絶対に許さない。君たちが4年前に受けた入学試験に遅刻するような学生はだれ一人いなかったはず。雪が予想されるなら、前日から大学の近くに泊まってでも遅刻しないように工夫したはず。4年前にできたことが今できないわけがない。」と、学生への自覚を求めた。

その甲斐あってか、本日はほとんどすべての学生が開始5分前には着席していた。

(残念ながら一人遅刻したが、、、)

「やればできるじゃないか!」 要は「やろうと思う」かどうかなのだ。

「やろうと思わない」学生を「やる気がない」と非難するのは簡単だが、

「やろうと思わせられない」教員に非はないんだろうか?

「やる気がない」から「やろうと思わせられない」

「やろうと思わせられない」から「やる気が起きない」

結局いつもの水掛け論である。

がしかし、少なくとも我々教員は「やろうと思わせるための」努力を怠ってはならない。100人の学生全てが「やる気がない」訳ではない。今回の実習では、30分も前にすでに着席して準備している学生も確かにいる。彼らのためにもわれわれは日々教育スキルを研鑽しなくてはならない。

今回の実習では、学生同士の実習では決して味わうことができない「いい意味の緊張感」があり、学生7人に1人の教員・模擬患者を配置する少人数の教育環境であったこともあり、大変に中身の濃い有意義な実習であったと思う。

学生諸君も大いに刺激を受けたことであろう。

この経験をもとに実際のOSCEは軽く合格して、早く臨床の現場で実際の医学を勉強して欲しい。

泳ぎは水の中でしか教えられない。

医学は臨床現場でしか教えられない。

学生諸君の奮闘を期待したい。(助教 松浦武志)

 

医療面接 実習

225日、医学部4年生に医療面接実習の講義・実習を行った。

この講義・実習は昨年10月に第1回目を行ったのであるが、その復習もかねてOSCE試験直前に同じような内容で実施することになっているものである。

 OSCEは臨床実習に出る前の学生が、その最低限の臨床的技術を身につけたかどうかを判定する試験である。

 医療面接について言えば、

  どのような呼び入れ方をするのか?

どのような事を患者さんから聞き出せばいいのか?

どのような聞き方をすればいいのか?

  どのような言葉を使ってわかりやすく患者さんに説明するのか?

  どのように医療面接を終了するのか?(クロージング)

 といった、医療面接の「技術」を評価するためのものである。そのため、医療面接で得られた情報から患者さんの病気を「診断」することを目的としていない。あくまで、「正しい方法で面接できたかどうか」が問われるのである。

何ともおかしな試験だが、臨床に出る前に、まずその「型」だけでもしっかりと身につける意義は大きいと思う。

しかし、前回と同じでは意味がないし進歩もない。

そこで、前回の医療面接実習では、学生同士で面接の練習をする際のシナリオを教員があらかじめ作成して、学生がそのシナリオ通りに演じる形式としたが、今回はシナリオそのものを自分たちで作ってもらった。

患者役のシナリオを自分で作ることで、逆に自分が医師役の時に患者に聞かなければならない点を整理することができるのではないか? そういうねらいを持って、実習に臨んだ。

学生諸君の症例を見ると、同じ腹痛でも、胆のう炎やイレウス・虫垂炎といったおなじみのものから、アメーバ赤痢などというかなりマニアックなものまでさまざまであった。診断することが目的ではないので、最終診断はゴールではないのだが、彼らはこうしたシナリオを作ることで、医療面接上聞くべき項目(家族歴や嗜好歴(酒・タバコ)周囲の状況など)そのものを理解するとともに、(最終診断とした)疾患が、どういう経緯をたどるのかという点について、教科書的な医学用語ではなく、実際の患者さんが表現する言葉として理解できるであろう。そして、病歴がいかにその病気を特徴づけるのかということのさわりだけでも理解していってほしい。

講義後のアンケートでは、自分たちでシナリオを作る事には75%の学生が好意的に受け止めていた。その理由としては大体狙い通りのことが記載してあった。

そうでない25%の学生の中には、「確かに勉強にはなるが、OSCE試験直前の今はシナリオを作るより練習をして場数を踏みたい」というような意見が目立った。

確かに、OSCE直前の今が適切かどうかは議論の余地があるだろう。ただ、OSCEに合格することが目的化しすぎてはいないだろうか?

最終的には疾患を理解し、患者を理解し、適切な診断ができる医師を目指すのだが、、、、その方法論は一概に良い・悪いは決められないのだろう。

教育の難しいところである。 (助教 松浦武志)

 

 

 

臨床入門 「情報検索」講義・実習

 222日、医学部4年生に「情報検索」の講義実習を行った。例年、この講義はEBM4つのステップである、

Step 1 臨床上の疑問の定式化

Step 2 情報収集

Step 3 情報の批判的吟味

Step 4 自分の患者への適用   のなかの、

Step 2 情報収集のところの実践的なスキルを教えるものである。 

現在の多くの医学生はここの情報収集はネットで行うことが多い。しかし、その信憑性を担保するものは何もない。彼らには、「その情報を、自分の家族に適用することができるのか?」という視点をもつべきだと話した。

我々多くの臨床医は忙しい診療の合間に、根拠が明白で、信頼できて、すでに批判的に吟味され終わっていて、自分の家族にも使えそうな良質な情報を探さなければならない。

そのためにはPubMedや医中誌などで批判的吟味のされていない一次資料をあたるより、すでに専門家に批判的吟味をされた二次資料をあたるほうが効率が良い。そのためのツールとして、UpToDateDyna Medを紹介した。しかしこれらは英語である。多くの学生は「英語」がハードルとなっているようだ。

そのハードルを下げるためにブラウザのGoogle Chromeに無料でついてくるGoogle翻訳とChromeの拡張機能である英辞郎On the Webを紹介し、実際に実習室でインストールしてもらった。その後、これらを使用して、身近な臨床的な問題を解決するために英語文献にあたってもらった。学生からはその翻訳の意外な正確さ・速さに驚きの声が上がった。

本日の課題は1つの臨床的な疑問に対して、日本語文献と英語文献とに分けて情報収集を行ってもらったが、ものの2時間程度で多くの学生が問題解決のための英語文献に到達できていたようだ。これは、驚異的な速さといえるだろう。

日本語と漢字・ひらがな・カタカナを通じて数十年間をここ日本で過ごした我々にとって、日本語表記は一字一字認識するものではなく、パターン認識であり、その点では英語表記の認識とは根本的に異なるものである。新聞を斜め読みできるのも、ほんの数秒眺めただけの文章から大体の意味を理解できるのも、我々が文章の中の漢字をパターン認識によって瞬時に意味を理解し、次の漢字に視線を移して、途中のひらがなを読むことなく、文章の意味を理解しているからである。

この認識方法は、たかだか中学時代から週5時間程度の接触しかない英語表記では絶対に無理である。この絶対的な差を埋めるために今から多大な努力をするのもいいが、私は、こうした自動翻訳技術を使って、英語を瞬時に日本語表記にしてその大まかなパターン認識から、「どこに何が書いてあるか」を大まかに理解することから始めることを授業で教えてみた。 

「英語を日本語で理解する」という、多くの英会話教室や英語教室で教えていることとは真逆のことを教えているのである。当然、反発もあるし、医学会の中にも札幌医科大学の中にも賛否両論あることは承知の上である。勿論、学生には、この講義が札幌医科大学の公式見解ではなく、「松浦個人の12年間の経験に裏打ちされた、英語文献嫌いを克服する方法の一つ」であることは強調しておいた。 

 講義後の学生の感想では

 「英語文献に対するハードルが下がった。」

 「これなら、UpToDateを読んでみようという気力がわきます。」

 「今までのレポートはもっと楽に書けたと思う」

 「研修医になってDynaMedを存分に使ってみたい」

といった、好意的な感想がかなりの数に上った。


「この文献、ためになることが書いてあるから、明日までに読んでおけ」と言って、研修医に英語文献を渡して、「こんなにすごいことが書いてあるなら、これから英語文献にあたろうと思いました」なんて言わせられる指導医がどれほどいるだろうか?


 取った魚を与えるのではなく、魚の取り方を教え、さらにそれを楽しいと思わせることこそが真の教育である。

The mediocre teacher tells.                凡庸な教師は指示をする。

The good teacher explains.                良い教師は説明をする。

The superior teacher demonstrates.        優れた教師は範となる。

The great teacher inspires.                偉大な教師は内なる心に火をつける。  

ウイリアム・ウォード

今日の自動翻訳を学んだ学生諸君がこの技術のおかげで英語を全く勉強しなくなるとは到底思えない。英語文献の明快な記載や更新の速さなどそのメリット(もちろんその限界も)を十分に理解したうえでさらなるレベルを目指すのであれば、自然と英語そのものにも興味がわくようになるだろう。しかし、英語が嫌いなために英語文献に近寄ろうともしないいま、その内なる心に火をつけなければ、永遠にその興味は沸いてこないだろう。

自分が苦労したのならば、自分の後輩も同様に苦労すべきである。などという精神論をかざす教育とは決別したい。(助教 松浦武志)   

2013年2月24日日曜日

RS3PE症候群

223日、第266回日本内科学会北海道地方会に参加した。演題発表で興味深い話を聞いた。

NTT東日本札幌病院の渡邉麻子医師の『大腸ポリペクトミーにより改善したRS3PE症候群(Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis With Pitting Edema)の一例』である。80歳代女性。咳、両側下腿浮腫、全身倦怠感で受診。多関節痛と胸水の貯留があった。ANA, RF,CCP抗体が陰性であり、RS3PE症候群と診断された。CFS状結腸に大腸ポリープを認め、ポリペクトミーを施行。翌日より、両側下腿浮腫、胸水とも消失したという。

RS3PE症候群の病態に血管新生・血管透過性促進因子であるvascular endothelial growth factor (VEGF)が関与しているという。この事例でもVEGFが高値であったという。VEGF産生腫瘍であったことを示唆する。

RS3PE症候群とはこんな病気である。60歳以上の高齢者に好発し、比較的急性に発症する圧痕浮腫(pitting edema)を伴うリウマトイド因子陰性(seronegative)の対称性滑膜炎(symmetrical synovitis)で、X線上関節破壊がなく、再発・再燃はまれである。(1985McCartyらが提唱)。消化器系、前立腺などの固形癌や悪性リンパ腫の合併が多いので精査必要とも言われている。プレドニゾロンを1015mg/日の内服が有効で漸減する。

RS3PE症候群についてはPMRの類似疾患程度の知識しかなかったが、この発表を聞いて、日々エビデンスが更新されていることを実感した。(山本和利)

 

 

DNA鑑定


法医学の世界や犯罪捜査が変わりつつある。

人間の身体には60兆個の細胞がある。細胞の核の中に染色体があり、その中に長いDNAが折りたたまれて詰まっている。二重螺旋のDNAA(アデニン),T(チミン),G(グアニン),C(シトシン)の4つの塩基の組み合わせの暗号が組み込まれている。この遺伝子暗号は無数の組み合わせがあるため、無数の組み合わせとなり、2人として同じ組み合わせはないそうだ。

最近、DNA鑑定で話題になったものに東電OL事件がある。強盗殺人罪で起訴されたネパール人男性ゴビンダ・プラサド・マイナリ被告は、一審無罪、二審で逆転有罪の判決を受け、最高裁で無期懲役が確定していた。彼は無実を訴え、再審を請求。殺害された女性の体内に残された精液から、第三者のDNAが検出されていたし、それは殺害現場に残された体毛とも一致していた。当時、カバンから検出された血液型がB型ということで被告と一致しており、DNA鑑定をしていない。(予算がないことが大きな理由と説明しているが・・・)。「事件のあった1997年というのは、DNA鑑定の過渡期だった」そうだ。

刑事事件におけるDNA鑑定のレキシは30年足らずである。1985年、英国のアレックス・レフリーズ教授が考案し、「ネイチャー」誌に発表した。これを米国のキャリー・マリスがDNAを増幅させる{PCR増幅法}を発表。微量の資料でも鑑定が可能になった。2003年、科警研に導入された「STR(短い塩基配列の繰り返し)型」検査法が鑑定精度とコスト・パフォーマンスを飛躍的に向上させた。ところが「技術的に可能であった鑑定を捜査機関がしなかった」という問題があったようだ。

結局、「精液などの資料は古く、結論を左右する結果は出ないだろう」とたかを括って、DNA鑑定をしたところ、被告を罪に問う証拠が証明できず無罪となった。

先の「足利事件」でも女児の下着に付着していた精液のDNA型が、殺害したとされた被告のものとは別と判明し、えん罪を認められ、被告は釈放となっている。

人種問題や偏見による見込み捜査結果を科学の進歩が覆している。この点については『東電OL事件 DNAが暴いた闇』読売新聞社会部(中央公論新社、2012年)に詳しく述べられている。(山本和利)

 

 

家族性地中海熱

223日、第266回日本内科学会北海道地方会に参加した。学術シンポジウム『診断に苦慮した症例を検証する』の3題のうち、2題が「家族性地中海熱familial Mediterranean fever:FMF」であった。

まず、JR札幌病院の村上理恵子医師が、20年間、繰り返す発熱(3日間)、背部痛、一時的に炎症反応を示す40歳代女性を提示。

続いて、北海道大学の藤枝雄一郎医師が、目は発熱と腹痛を繰り返す18歳男性を提示。その後、北海道大学第二内科における不明熱患者40名の遺伝子検査結果を報告された。MEFV遺伝子変異を17名認め、最終診断はMMF変異17名(43%)、不明15名(38%)、特発性脾臓炎2名、血管炎症候群2名、シュグレン症候群1名、混合性結合織病1名、血管内リンパ腫1名、感染症1名であった。コルヒチン有効例は、MEFV遺伝子変異が多い傾向にあったが、それ以外の臨床的特徴は認められなかった。

家族性地中海熱は、次のような疾患である。周期的に繰り返される発熱と、胸部、腹部の痛み、関節の疼痛と腫脹を特徴とする。日本人でも発症し、300人前後の患者がいる。炎症を制御するパイリンというタンパクの異常が考えられている。520歳で症状が出始め、腹痛、胸痛、関節痛と伴に14日間かけて自然に良くなる発熱が起こる。 非発作時はふつうに戻る。家族性といいながら、散発例が多い。 診断は、周期的に繰り返される発熱と上記のような症状からなされることが多いが、遺伝子検査が診断の補助になる。治療の第一選択はコルヒチンで約90%の患者に有効。この結果、アミロイドーシスを予防できるので、長期間の服用が大切である。

FMF典型例の診断基準
必須項目
12時間から3日間続く38度以上の発熱を3回以上繰り返す
補助項目
1.発熱時の随伴症状として、
a 非限局性の腹膜炎による腹痛
b 胸膜炎による胸背部痛
c 関節炎(股関節、膝関節、足関節)
d 心膜炎
e 精巣漿膜炎
f 髄膜炎による頭痛
afのいずれかを伴う
2.発熱時にCRPや血清アミロイドA(SAA)など炎症検査所見の著明な上昇を認めるが、発作間歇期にはこれらは消失する
3.コルヒチンの予防内服によって発作が消失あるいは軽減する

必須項目と、補助項目のいずれかを1項目以上認める場合に診断

ただし、感染症、自己免疫疾患、腫瘍などの発熱の原因となる疾患を除外する

(備考:必須項目、あるいは補助項目のどれか一項目以上有する症例は疑い症例とする。

FMF典型例においては、遺伝子診断が有用であり、MEFV遺伝子変異を90%以上に認める。またMEFV exon10に変異を認めた場合、診断的意義は高い。)

日本には、非定型FMFが多いようだ。発熱期間が典型例と異なり、数時間以内であったり、4日以上持続したり、微熱のこともある。関節痛、筋肉痛などの非特異的症状にとどまり、四肢の関節炎を認めることもある。この場合、MEFV遺伝子解析が診断の補助となるそうだ。 コルヒチン投与により症例の改善を認めることが多く、診断的治療を重ねてコルヒチン投与が推薦されている。

藤枝雄一郎医師は、疑わなければ診断はできない、ことを強調された。(山本和利)

 

 

2013年2月21日木曜日

臨床推論シリーズ「事前確率」


2月20日のニポポスキルアップセミナーは「臨床推論シリーズ」の第三回目として「事前確率」についてレクチャーを行いました。

 

若手の方には医療従事者として働き始めても、臨床推論や診断学が実際の現場で生かされているイメージは浮かびにくいと思います。

 

 

診断学を教える時によく聞く質問としては以下のことです。

「そもそも事前確率なんて、その場の環境とか個人の経験で変わっちゃうわけですよね?」

「だいたい最初の事前確率はどうやって知るのですか?個人の考えや経験により異なるので一般性はないのでは?」

 

診断学では様々なテクニックや診断法を学ぶわけですが、所見や検査の感度特異度からの尤度比は数値化できても最も重要な医師個人の頭の中の事前確率はブラックボックスに思えてしまいます。

 

若い学生・研修医向けに分かりやすく説明するために今回は国民的ゲームである「ドラ◯ンクエスト」をはじめとしたロールプレイングゲームになぞらえて解説しました。

キーワードは「成長」です。

 

ゲームでは主人公は一般的に下記のような成長過程をたどります。

   フツーの若者が勇者を夢見て旅に出る。

   最初は弱いモンスターにも負ける

   武器と防具を買ってパワーアップ

   弱い敵をやっつけながら金と経験値を稼ぐ

   経験値が貯まるとレベルアップする。

 ( 強さ・かしこさ・魔法など)

   もっと強い敵も増え、手強くなる。

   自分の仲間を増やす(①~⑦くりかえし)

   最強の敵をやっつけてハッピーエンド

 

一方医師の成長も下記の過程を辿ります。

   実際の臨床現場ではフツーの若者が医者免許をGET

   最初は簡単な病気も分からない。

   診断学を学んでパワーアップ

   簡単な病気をこなしながら金と経験値を稼ぐ

   経験値が貯まるとレベルアップする。

  (知識・診断力・技術・度胸など)

   もっと難しい病気も扱い、手強くなる。

   自分の医師仲間を増やす(~くりかえし)

   医師の成長には終わりは無い

 

こうしてみると似ているようでもあります。

 

ゲームにおいても臨床においても、初心者は自分の周りの敵(疾患)にいつ出会うか分かりません。また敵(疾患)の強さも分かりません。無鉄砲な作戦を取れば、あっという間にヤラれてしまいますので、自然と慎重な戦い方になります。

 

ゲームにも慣れてくると最も危険な敵を瞬時に見分けて攻撃を集中し、効率よい戦いかたを覚えます。同様に医師も経験をつむに連れて直観的推論を多用して効率よく、危険をさけて臨床判断を下せるようになります。これは、一つ一つの判断で効率よく情報収集を行い、事前確率が高められる為です。しかしバイアスを認識できて補正できないと諸刃の剣になるため、熟練者以外はミスを誘発しやすくなります。臨床になれた4〜8年めで失敗をしやすいのはこのためです。

 

しかし、医師としてキャリアを積みながらどのように事前確率を高め、鑑別診断を優先順位付けする力を付けるかは若手からベテランになる上で重要な分岐点です。

1)     毎日学び続けること

2)     Evidenceから事前確率を高めるツールがある事(予測スコアなど)

3)     医師仲間、同僚と協力すること

4)     しっかりとしたディスカッションのできる現場で働く事

5)     教育を学びの糧とすること

 


若手へのアドバイスとしてこれらの事を伝えました。

 

注:著作権の観点からスライドは実物よりかなり修正・省略してあります。

 実物は100倍面白いです(言いすぎかな?)(稲熊良仁 助教)