札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年2月24日日曜日

DNA鑑定


法医学の世界や犯罪捜査が変わりつつある。

人間の身体には60兆個の細胞がある。細胞の核の中に染色体があり、その中に長いDNAが折りたたまれて詰まっている。二重螺旋のDNAA(アデニン),T(チミン),G(グアニン),C(シトシン)の4つの塩基の組み合わせの暗号が組み込まれている。この遺伝子暗号は無数の組み合わせがあるため、無数の組み合わせとなり、2人として同じ組み合わせはないそうだ。

最近、DNA鑑定で話題になったものに東電OL事件がある。強盗殺人罪で起訴されたネパール人男性ゴビンダ・プラサド・マイナリ被告は、一審無罪、二審で逆転有罪の判決を受け、最高裁で無期懲役が確定していた。彼は無実を訴え、再審を請求。殺害された女性の体内に残された精液から、第三者のDNAが検出されていたし、それは殺害現場に残された体毛とも一致していた。当時、カバンから検出された血液型がB型ということで被告と一致しており、DNA鑑定をしていない。(予算がないことが大きな理由と説明しているが・・・)。「事件のあった1997年というのは、DNA鑑定の過渡期だった」そうだ。

刑事事件におけるDNA鑑定のレキシは30年足らずである。1985年、英国のアレックス・レフリーズ教授が考案し、「ネイチャー」誌に発表した。これを米国のキャリー・マリスがDNAを増幅させる{PCR増幅法}を発表。微量の資料でも鑑定が可能になった。2003年、科警研に導入された「STR(短い塩基配列の繰り返し)型」検査法が鑑定精度とコスト・パフォーマンスを飛躍的に向上させた。ところが「技術的に可能であった鑑定を捜査機関がしなかった」という問題があったようだ。

結局、「精液などの資料は古く、結論を左右する結果は出ないだろう」とたかを括って、DNA鑑定をしたところ、被告を罪に問う証拠が証明できず無罪となった。

先の「足利事件」でも女児の下着に付着していた精液のDNA型が、殺害したとされた被告のものとは別と判明し、えん罪を認められ、被告は釈放となっている。

人種問題や偏見による見込み捜査結果を科学の進歩が覆している。この点については『東電OL事件 DNAが暴いた闇』読売新聞社会部(中央公論新社、2012年)に詳しく述べられている。(山本和利)