札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年7月26日木曜日

身体所見の再現性

ある医師から「ある身体所見Aが当該疾患にどのくらいの頻度で起こるか」を研究したいという相談を受けた。ここで問題になるのは、「身体所見の再現性」である。ある所見が「ある」とA医師が判断した時、B医師や他の医師が同意するかどうか分からないからである(実は同じ医師が日時を変えて行った時にも、不一致が起こることもまれではない)。そこで医師が異なったとき、一致率をどのように検討すればよいのだろうか。

例えば、呼吸困難患者100名の3音の聴取について、表のような結果が得られたとしよう。

B医師                     A医師


所見(+)
所見(-)
所見(+)
5
5
所見(-)
15
75


所見(+)で一致が5名、所見(-)で一致が75名なので5+75=8080/100=0.8。単純な一致率は80%ということになる。これをsimple agreement(単純な一致率)という。

実はA医師は20%の患者に所見ありと判断し、B医師は10%の患者に所見ありと判断している。その点を考慮すると偶然に所見(+)が一致する率は0.1×0.2=0.02100名中2名は偶然一致することになる。同様に偶然に所見(-)が一致する率は0.9×0.8=0.72100名中72名は偶然一致することになる。そうすると所見あるなしは、2+72=7474%は偶然に当たったともいえる。偶然ではなく一致する割合は26%(100-74=26)しか残されていない。偶然を越えて一致した率は単純な一致率は80%から74%を差し引いた6%ということになる。26%のうち6%一致したので、偶然を越えた一致率は6÷260.23となる。この値をκ値(カッパー値)という。


身体所見の論文にこのκ値を入れると妥当性が高まることになる。(山本和利)




医学・歯学教育指導者のためのWS

725日、東京慈恵医大で行われた文科省主催の「医学・歯学教育指導者のためのWS」にファシリテーターとして参加した。
まず文科省から主催者挨拶。WSの趣旨説明、WSのやり方の説明があった。

医学部は3つのテーマを11グループにわかれて2時間半WSを行った(総合診療能力、地域医療、多職種連携)。私が担当したのは「今後の地域医療の在り方を見据えた教育カリキュラム」である。グループ参加者は8つの大学の医学部長や教育センター長、地域医療部門のコーディネーターであった。はじめに各大学の地域医療のカリキュラムについて意見が述べられた。それぞれ大学によって特徴があり、かなり精力的に取り組んでいた。筑波大学や秋田大学は低学年から臨床実習をはじめており、地域医療実習も充実していることがわかった。評価がないと学生は本気で取り組まないという意見が多かった。6年生になると国家試験を意識してか、地域実習に実が入らない学生も少なくなく、国家試験の見直しを求める意見が多かった。

昼休みに、コア・スタッフの反省会が行われた。

午後は、医学部、歯学部それぞれから事例報告が1つずつ行われた。その後、15グループの6分間発表と質疑応答で行われた。

「総合診療能力」

■疾病構造が変わって多様なニーズがでてきた。診療参加型にするための課題を提示。学生の実習時期や診療科間のばらつきがある。

定義;全人的、実践能力、総合診断の能力である。診断学が重要。総合診療を誰が教えるか。医行為を保証する免許制度の確立が必要。厚労省と文科省とのすり合わせが必要。

■臨床実習は各大学:40W+α。若手医師にFDを。大学病院で総合臨床能力を教えられるのか。プライマリケアを担当する医師数を出してほしい。老年医学との関連は?学外にモデル病院を作る。地域医療のお制度化が総合診療へのモチベーションを高める。

■国家試験が近付くと実習に身が入らない。個々の診療科の集大成が総合診療であるとしてよいのか?大学病院だけで実習すべきではない。教え方に斑があるので、FDが必要。

■学生の意識改革(白衣式)を行う。臨床実習をオーガナイズして(各科が協力)、リーダーシップを確立し、FDを実施する。学生のログブック・症例ファイル・ポートフォリオ等による評価記録を充実させる。

コメント;総合診療能力とすると「総合診療医」と誤解されるので、基本的臨床能力をした方がよい。

「地域医療」

■地域医療の定義:へき地だけではなく、地域全体の問題。受診者でけではなく地域全体を診る。「地域枠」入学者のキャリアは、大学・地域病院・自体との連携が必要。地域医療マインドをどう醸成するのか?

■様々な地域医療実習がなされている。地域医療カリキュラムを責任を持って管轄する部署が必要。派遣前の講義・実習ト評価が必要。FD実施。DVDを作成し配布する。国家試験」の変更を要望。

■地域医療教育のメリット;1)病院外の多彩な医療、2)多職種連携を学ぶ、3)プライマリケア、4)より実習参加型になる(学生の資質が顕在化しやすい)。地域に残る医師確保の方策に繋がる。

コメント;世界の傾向は、公衆衛生的な面を含めてゆく。地域診断をさせる。地域医療を教育することと実践することとは別ではないか。まずは無医地区をなくす政策を実現して欲しい。

「多職種連携」

■様々な多職種連携カリキュラムがある。離島実習、救急車乗車実習、病棟実習。PBLに入れる。医療安全。診療報酬体系を教える。キャンパスが離れている。学部間の壁がある。教育目標の設定が難しい。大学間で温度差がある。同一大学内での職種が少ない。

■早期体験実習か臨床実習(緩和ケア、離島実習)でか。丸投げになりやすい。ゴールは何か?医療系以外(ボランティア、民生委員)の連携は不要か?

医学と歯学の連携は重要。高齢者の嚥下障害やがん患者の口腔衛生等。看護学生が司会役をするとうまくゆく。

来賓からのコメントをもらい、最後に高久史麿医学教育振興財団理事長のまとめで終了となった。(山本和利)


2012年7月23日月曜日

第7回札幌医大 指導医養成講習会


72122日、第7回札幌医科大学付属病院 臨床研修指導医養成講習会を企画し、チーフタスクフォースとして参加した。当日、同会場で715から打ち合わせ。受講者は48名。

まず三浦センター長挨拶、タスクフォース紹介後、山本和利のリードで「アイスブレイキング」。偏愛マップを使って、雰囲気を和らげた。各班にグループの愛称名を付けてもらった。病院長も参加しており、会話も弾んでいた。

三浦センター長から「札幌医大の初期臨床研修」の講義。本年度の研修医数は35名。最後にウイリアム・オスラーの生涯を綴った翻訳本を紹介された。100年前にオスラーが「教え過ぎている」と話をしていたということが印象的であった。

続いて北大の川畑秀伸氏の主導で「カリキュラム・目標と方略」を150分。アウトカム基盤型カリキュラムのミニレクチャー後、competency(その職業に期待される態度・思考・判断の特性)を、優秀な研修医を想定して各グループで2つ設定してもらった。研修環境を都市型か地域型かで設定してもらった。「コミュニケーション力」「積極性」「社会人としての自覚」を挙げるグループが多かった。

第一日の午前の日程を終了したところで、写真撮影となった。

昼食後、松前町立松前病院の八木田一雄氏の主導で「上手なフィードバックをしよう」のセッション。自己分析能力の高い研修医、生真面目だが気づきの少ない研修医、能力以上に自己評価が高い研修医という3シナリオを用いたロールプレイを行った。3人一組でのロールプレイは研修医役、指導医役、評価者役をそれぞれ1回ずつ(緊張しやすく技術が未熟な研修医、当直明けで眠気を堪えて外来研修を受ける研修医、問題をあちこちで起こすのに自信満々の研修医の3シナリオ)。

続けて勤医協中央病院臺野巧氏主導での「教育の評価」は、3シナリオを準備していずれか1つのシナリオに沿ってロールプレイを行った。最初に初期研修医評価のための指導医会議(指導医、シニア研修医、看護師長、看護主任、ソーシャルワーカー役になり切って)を模擬体験した。最後に、自施設で行っている360度評価を紹介された。自己省察の大切さを強調された。SMARTを紹介(Specific, Measurable, Achievable, Behavioral, Achievable)。単独で当直ができるかどうか判断するために行っている技能を観察する評価法のMini-CEXを紹介。

続いて、札幌医大精神科舘農勝氏から「メンタル・ヘルス」の講義を受けた。今回初めて取り入れた講義である。研修医には様々な立場がある。新社会人、新米医療人、過労労働者、見習い医師である。失敗がトラウマ、不全感、雑用が多い、一貫しない対応等が原因となる。海外では看護師がストレスであるという報告がある。外科のプログラムでは、36%が研修と無関係な時間であった。4つのケア:研修医自身で、指導医による、病院全体の取り組み、専門家によるケア、が大切。
医療従事者に起こりやすい心理として、「燃え尽き症候群」と「あわれみ疲労」がある。日本の研修医は他国のそれよりメンタルの問題が起こりやすい。PHQ9で調べると20%が抑うつ状態であった。6年生大学の女性学生は自殺のハイリスクである。現代型のうつの紹介(逃避型、未熟型、現代型、非定型型)、これの中にアスペルが―障害が併存していることがある。30%の研修医が研修中に志望科を変更している。研修医のメンタル・ヘルスのためには、「気付く、支える、つなぐ」が大切。「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」(山本五十六)。アリストテレスの法則:Ethos(倫理的), Pathos(感情的), Logos(論理的)が大切。同僚のサポートも大事。

「北海道における地域医療の現状と道の取り組みについて」と題したセッションで北海道庁の杉澤孝久参事が講演された。医師数は西高東低。道内は全国並み。20116月現在、医師は道内では1,075名不足(札幌、旭川以外)。道内の偏在が著しい。

第二日目は、札幌医大稲熊良仁助教の主導で「5マイクロスキルの実践」セッション。一番の問題は、研修医が考えて答える前に、指導医が答えを言ってしまうことである。今回お勧めのマイクロスキルは5段階を踏む(考えを述べさせる、根拠を述べさせる、一般論のミニ講義、できたことを褒める、間違えを正す)。外来患者シナリオ3つを用いて2人一組になってロールプレイ(シナリオの読み上げ)を行った。最後は、自分たちでシナリオを作成してもらい、いくつか自信作を発表してもらった。

続いて、札幌医大松浦武志助教の主導で「ヒヤリハット教育」セッションを行った。はじめにリスク・マネジメントについてのミニ講義。人は何から学ぶか?先輩の背中、プロジェクトに参加して、挫折から、という意見がある。その後、「左手のしびれ、ふらつきを訴える高齢女性」についてヒアリハット・カンファランスを研修医に実演してもらった。文献レビュー「脳出血の可能性を高くする所見は、拡張期高血圧>110mmHg、昏睡、脳出血の診断スコアであるシリラートスコア>1。可能性を低くするのは頸部雑音。神経所見で脳出血と梗塞を鑑別はできない。ただし、脳出血ではジワジワと症状が進行しやすい。脳卒中を見逃がさないためには、上肢バレー兆候、顔面麻痺、発語異常、筋力低下をチェックする。」クリニカル・パール:病歴・身体所見だけでの鑑別は難しい。CTが有用。身体所見で一致率が低いものがある。最後に自分の施設でSEAセッションを行うにはどうしたらよいかをグループで話し合ってもらった。

昼食後、東京北社会保険病院の南郷栄秀氏の「EBMの教育」。朝に顔がゆがんで動かない64歳男性というシナリオでWSが行われた。PICOを作り、実際にコンピュータを使って文献検索して、「ベル麻痺に対する抗ウイルス薬の効果」を評価してもらった。麻痺の残る率はステロイド+アシクロビル:13.4%、ステロイドのみ:17.6%RRR:24%ARR:4.2%。NNTは24である。患者の背景、意向を入れた場合、各班はどうするか?

最後は札幌医大武田真一助教の主導で「ティーチング・パールを共有しよう」のWS。参加者各自が得意ネタで5分間講義を白板で行い、そのやり方へのフィードバックをしてもらった。
最後に総括として、参加者から感想をもらい、受講者代表に終了証を手渡して解散となった。来年度はさらにブラッシュアップして講習会に望みたい。(山本和利)

2012年7月22日日曜日

医学史 最終日

医学史講義の最終日。
本日のテーマは佐久総合病院の若月俊一と厚岸町立病院の五十嵐正紘であった。両先生とも、地域医療の普及に尽力された先生で、総合診療科でコーディネートしている医学史の最後を飾るにふさわしいテーマであった。

学生の発表はこれまでの発表のいいところを吸収しつつも、独自に考えた新しい方法を取り入れたものもあり、大変わかり易い良い発表であった。

 これで22班すべての発表が終わったわけであるが、どの班も最初の講義で強調した

1)ストーリーを明確に

2)発表のための原稿は読むな

3)スライドには文章ではなく魅力的なタイトルを

4)魔法の3のルールを活用せよ

についてはしっかりと守って発表を行なっていた。

テーマには、資料があふれんばかりにある超有名人から、著書が1冊もないようなマイナーな人まで様々であったが、発表内容はその差を感じさせない、質のとれた発表ばかりであった。

 医学史の講義では、歴史上で医学の発展に貢献した人物について理解を深めるという大きな目標があるが、それ以外に、『いかにわかりやすく発表するか?』ということについて真剣に考えて欲しいという狙いもある。むしろこちらのほうが大きいといえる。

 これについては、この半年の諸君の頑張りを見ると狙いは十分達成されたように思う。

発表終了後に自分の班の発表に対するフィードバック(出席票)を見に来る学生が例年になく多かった。かれらは、「どこが良かったか?どこが改善の余地があるのか?」をしっかりと吸収しようとしていた。今後へ大いに期待させるものである。

 また、発表内容への学生どうしの議論を深めさせるための司会も学生に担当させることにより『ファシリテーション』についての理解を深めてもらう狙いもあった。

 こちらは、学生諸君がこれまでほとんど意識して来なかった概念であったことと、議論を深めるほどの時間がなかったことなどから、授業の場ではあまり深めることは出来なかったが、

彼らは発表の準備をするに当たり、初めての班員どうしで仕事を分担しながらひとつの作品を仕上げていく過程で『どうしたらそれぞれの人のいい所を引き出していけるだろうか」といったことを意識したであろう。その『いいところを引き出して」というのがまさに『ファシリテート』なのである。

 今後諸君が医師となった際、チーム医療を実践できる能力はますます求められていくだろう。その時君たちはリーダーとしての振る舞いを求められる。リーダーはチームの構成員の『いいところ』『得意分野』をうまく引き出して、チームとしてできる最高の医療を患者さんに提供できるようになってほしい。今回のこの半年の講義ではそのさわりだけでも体験できたのではないだろうか?

 講義を聞くだけの受け身ではない、自分たちで司会をし、発表もする参加型の講義としては目標は十分達成できたのではないだろうか?

来年度はさらなるバージョンアップを図りたい。
(助教 松浦武志)


2012年7月20日金曜日

第7回FLATランチョンセミナー

719日に第7FLATランチョンセミナーが行われました。学生13名、教員2名参加。
お題は92930日予定の「第5回地域医療体験キャンプ」の実習内容です。今年も昨年と同様、幌加内町で行われます。

体験キャンプは対象が1年生中心になりますが、単に「地域に行って現場を見てきた」だけではなく、「何かを実際にやってみる」ということを目標にしています。昨年行った「ライフストーリー」や「フォトボイス」、「血圧・脈拍測定」などまず教員側から提案してみました。

体験キャンプ参加者の2年生や5年生の積極的な意見として「1人の人をきちんとライフストーリー聴取することは非常に面白かった、体験キャンプでないと経験できない。」というものがありました。上級生のそのような意見を参考にしながら、1年生に考えて頂き、今年も「ライフストーリー」をメインに行うことになりました。

今年も昨年と同様、充実したキャンプになるよう頑張りたいと思います。(助教:武田真一)


SAPHO 症候群

胸痛を主訴に来院される患者さんは多い。胸部XP・CTや心電図で心臓・肺由来の胸痛ではないと診断された後、どうしたらよいかと戸惑っている患者さんもいる。そうなると食道、上部消化管、頸部・頭部の疾患がないか見極める必要があろうが、忘れてならないのは筋骨格系疾患である。大人の胸痛の原因の1015%を占める。胸壁に圧痛があることで虚血性心疾患や肺塞栓症は除外できないということだが、筋骨格性由来の疼痛である可能性は高まる。
 筋骨格系疾患で胸痛の原因として多いのが、肋軟骨炎、下部肋骨疼痛症候群(中年女性の肋骨縁上の圧痛、)がある。その他、TIetze症候群等、肋骨、胸骨椎体に痛みを引き起こす症候群もある。

リウマチ関連の筋骨格系の痛みの原因として、線維筋痛症、リウマチ、硬直性脊椎炎、乾癬性脊椎炎等が挙がる。

 頻度は多くないが、掌蹠膿疱症を持つ患者が前胸部痛を訴えたとき、それに関連する骨関節炎を念頭に置く必要がある。日本やヨーロッパからの報告が多く、SAPHO 症候群と呼ばれている。Synovitis(滑膜炎), Acne(にきび), pustulosis(膿疱), Hyperostosis(骨化症), Osteomyelitis(骨髄炎)の頭文字をとった呼び名である。これはリウマチ反応陰性の脊椎炎に似ているということだ。

前胸部に起こりやすく、胸骨や鎖骨の圧痛、腫脹、疼痛を起こす。著しい例ではXPで骨の増大が確認できる。ときに顎骨や長幹骨、椎体にも及ぶことがある。

病理は無菌性骨髄炎に類似している。病因は不明。経過としては、一部は自然寛解するが、大部分は寛解・再発を慢性に繰り返すようだ。診断が付かず、慢性疼痛性障害として経過観察されているケースもある。

治療としてはNSAID,コルヒチン、ステロイド、sulfasalazine, メトトリキセート、レチノイド等が挙がっている。抗菌薬の効果は議論が分かれている。最近では、ビフォスフォネートやinfiximabなどが試みられている(ランダム化研究ではない)。

 扁桃腺炎がある場合には、扁桃摘出を勧める医師もいる。(山本和利)




2012年7月19日木曜日

緩和ケアの基本(2)

718日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は勤医協中央病院の小林良裕先生である(3回シリーズの2回)。テーマは「緩和ケアの基本」で,参加者は15名。
今回は、「がん疼痛のマネジメント」の各論である。

がん患者の70%が痛みで困っている。

がん性疼痛の特徴

・主観的な体験

・がん診断時に2530%、終末期に7080%に出現

15%の患者が1か所、60%が2か所、25%が4か所以上の疼痛を自覚する。

・原因

                                   がんによる疼痛

                                   がん治療による疼痛

                                   がんに関連のない疼痛

                                   オンコロギー・エマージェンシー;腸閉塞、病底骨折、圧迫

・全人的な苦痛;身体的、社会的、精神的、スピリッチュアル

痛みを評価するスケールが大切。鎮痛の評価に使いたいからである。

がん性疼痛の分類

・体性痛:部位が限局、明確(うずく、差し込む、鋭い痛み)

・内臓痛:局在が乏しく、不明確(押される、鈍い)

・神経因性疼痛:しびれ、電気が走る、焼けつく

疼痛コントロールの目標

1.痛みに妨げられずに夜は良眠できる状態

2.痛みで安静が妨げられない状態

3.痛みにより体動が妨げられない状態

がん治療の原則

・経口剤

・時刻を決める

・痛みの強さに応じた薬剤

・患者ごとに適量を決める

・服用に際して細かな配慮

・鎮痛補助薬を用いる

三段階除痛ラダ―に則る。(1.非オピオイド性鎮痛薬(NSAIDs, アセトアミノフェン)、2.弱オピオイド、3.強オピオイド)。日本では医療用麻薬の使用がまだまだ少ない。

第一段階:NSAID

プロスタグランジンが生成される過程の酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害する。がん性疼痛に対するベースライン的役割。骨転移による疼痛に対して。疼痛増悪時のレスキューの一つの選択として。

アセトアミノフェン

中枢性の鎮痛と解熱作用を有する。一日24004000mgの使用が可能。一日4回が原則。NSAIDと相乗効果がある。

第二段階;弱オピオイド

ペンタジンは使わないこと(作用時間が短く、薬物依存になりやすい)。受容体は3つ、μ、κ、δ。コデインは10%が脱メチル化されてモルヒネになる。レペタン、トラマールは麻薬ではない(処方しやすい)。

第三段階:強オピオイド

モルヒネ、フェンタニール、オキシコドン(将来メサドン、ハイドロモルヒンも解禁されよう)

腎機能障害にモルヒネ、コデインは避ける、呼吸困難にはフェンタニールを避ける。便秘にモルヒネを避ける。静脈注入によるレスキューは2時間量を早送りする。3回以上レスキューするなら翌日から増量する。オキシコドンは腎障害にも使える。

先行する非オピオイド性鎮痛薬は中断しない。経口モルヒネ60mg・日で50%の患者に効く。増量は3050%。副作用を考える。

オピオイド・ローテーション:有害作用をコントロールできない場合、別のオピオイドに変えて等価量の5075%で開始する方法。

オピオイドが効きにくいとき、鎮痛補助薬を用いる。

・三環系抗鬱薬:ノリトレン、アモキサン、トリプタノール、トフラニールを小量使用。

・抗けいれん薬;リリカ、リボトリール、デパケンを少量から開始する。

・抗不整脈薬:メキシチール、タンボコール、キシロカイン

・ケタミン

・放射線治療:骨転移症例に有効である。

今回は、作用機序や使い方を理論的に話してもらった。次回は、疼痛以外の症状への対応について、事例を中心に話してもらう予定である。(山本和利)

7月の三水会

718日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。大門伸吾医師が司会進行。後期研修医:2名。 初期研修4名。他:7名。
研修医から振り返り5題。

ある初期研修医。地域医療研修の報告。「地域で最期まで生きされるよう」がモットーの道東の医療施設で外来研修、老健施設研修、訪問診察、検診・予防接種等を実施。

ここでは意見交換の場が多い、様々な職種とのカンファが多い、地域からの信頼が大きい、患者さんが生き生きしている、院長がパワフルである等の感想を述べた。

89歳男性。気性があらく、認知症がある。誤嚥性肺炎を繰り返している。息子・娘は無関心で嫁が介護している。食べたいものを食べさせたいが、肉親からの批難が心配であった。医療従事者と相談の結果、思い切って食べさせたら、とても上機嫌になった。「人には食べることが大切である」

96歳男性。ADLは大丈夫。老人施設から自宅へ帰ることを希望。在宅サービスの使用で家に帰したい。娘の不安が強く、火の不始末を心配している事例。考えはそれぞれ。考えをすりあわせ、みんなの意見を調節してゆく。研修を通じて、患者の背景が見えるようになった。また様々な意見をきくことができるようになった。

ある研修医。泌尿器で研修。透析を毎日見ている。透析患者で、肺水腫で亡くなった患者さんを経験。

基礎疾患のない33歳男性。3時間の運動後全身倦怠感。その後外来で「横紋筋融解による急性腎不全」と診断され、入院。BUN:70, Cr:7.48,CRP:1.28ここで腎不全の鑑別。CTで尿路系に閉塞なし。腎生検実施。腎性低尿酸血症が疑われた。急性腎不全では、尿酸値にも注目する必要がある。コメント:運動誘発性腎不全に腎性低尿酸血症が多い。家族歴がある。無酸素運動(トラック競技、サッカー等)が原因。腰背部痛がある。男性に多い[93]

ある初期研修医。外来症例。泣きやまない3カ月女児。入浴後に発熱した65歳男性。ストマ周囲からの出血。ルアーが上腕に刺さって抜けない(異物を残さなければ抗菌薬は不要)。炎天下で仕事をしていて筋肉の痙攣が起こった38歳男性。食事中に誤嚥した89歳男性。角膜外傷(小児には眼帯をしないこと)。

13歳女性。悪心、右下腹部痛。水様下痢。38度。WBC;10400,CRP:4.1,入院せず、その後悪化。虫垂炎に特徴的な腹部所見あり。妊娠していないことを確認し、外科医をコール。診察後、腹膜炎には至っていないと判断された。造影CTで細菌性腸炎と診断し入院加療になった。ここで虫垂炎のレビュー。発熱や嘔吐が疼痛の発生に先行する場合は、通常は虫垂炎ではない。

ある研修医。外来症例。急性中耳炎。人工股関節脱臼。過換気症候群。下腿切創(感染の起炎菌は黄色ブドウ球菌が連鎖球菌である)。

80歳代男性。買い物中に痛みが出現。呼吸困難も出現。前立腺がんの既往。S状結腸がんの既往。Sa2;92%。両下肢リンパ浮腫。乾癬。両下肢の浮腫、発赤著明。CTでCOPDあり、大動脈解離はなかった。Dダイマーが高値。造影CTで肺塞栓症の所見なし。

その後、胸椎多発転移が判明。腎機能が低下し、透析導入となった。造影剤を使わずに大動脈解離や肺塞栓症を除外できないか?造影剤使用に関する危険因子;eGRR<60ml/m、糖尿病、脱水、腎毒性薬剤、等が挙げられる。予防は生食で補液。NSAIDや利尿剤を中止する。予防的透析は意味がない。

ある初期研修医。失神で救急搬送されてきた70歳女性。法事中に発汗、動悸。目の前が真っ暗になった。23分意識なし。血液検査、心電図は異常なし。以前にも玉ねぎの仕分中失神している。降圧剤が変更になってから(ARB+利尿剤)失神になったと本人は思っている。起立時血圧が20mmHg低下するが、失神は起こっていない。

今後、どうすべきか? 起立性低血圧でよいのか?褐色細胞腫等を考慮すべきか?

病棟中心とした研修から、外来や老健施設を中心とした地域医療研修をすることで、患者背景や患者の思いを考察することになるということがわかった。研修する場(もちろん指導医も)の重要性を再認識させられる発表会であった。(山本和利)

2012年7月16日月曜日

地域医療実習発表


7月5日FLATランチョンは医学部5年生から「地域医療実習のススメ」という内容で発表をしてもらいました。これは「1,2年生に夏休みなどの長期休暇のときに、自主的・積極的に地域医療に触れて欲しい」という5年生からの想いで企画されました。

5年生が低学年の1,2年生の時に松前町立松前病院や町立厚岸病院で実習をしたことを発表してもらいました。待合室実習や病棟での介護実習、リハビリ実習などを通して、職員を含めた住民の方が医師に望む「地域にずっといてもらいたい」というのは、「信頼する」ことができるからや、「単純に相手を知りたい」ということから「コミュニケーション力」をつけるために医学以外にも勉強しなくてはいけないという動機付けになったことなど、様々なことを学んできたようです。そのようなことを「実体験者」から「未体験者」の1,2年生に伝えてもらうことは非常に説得力がありました。

FLATの皆さんには、是非「屋根瓦式」の指導システムの伝統を作っていただき、将来の地域医療に役立ててほしいと思います。(助教 武田真一)

2012年7月15日日曜日

臥位呼吸

70歳台女性患者のことで相談を受けた。これまで老人ホームで寝たり起きたりしていたが、数日前から喘鳴が強くなった。糖尿病、高血圧があり、大腿骨頸部骨折の手術を2年前に受けている。心拍数は108/分。奇妙な点は、臥位では喘鳴が消えるのに、座位で喘鳴が悪化する。酸素飽和度が92%と低下していることであった。
 一般に喘鳴は座位で悪化することが多い。これは起座呼吸(0rthopnea)と呼ばれており、うっ血性心不全、COPD,喘息等が悪化した患者にみられる。この病態機序は臥位になったときに下肢・内臓の血液が体循環に戻り負担が増えるからと説明されている。最近の研究では、心不全の起座呼吸を起こすメカニズムとして、気道抵抗の増加、呼気流量の低下、横隔膜エネルギー消費の増加等が挙げられている。うっ血性心不全に対する起座呼吸の感度は37.6%、特異度は89.8%という記述がある(陽性尤度比:3.6)。

この患者さんは、軽度の炎症反応を示したが、胸部XP,CTで異常を認めなかった。喉頭鏡でも閉塞はなかった。しばらく抗菌薬治療を試みみたが、座位によっての喘鳴は続いていた。

いろいろ考えた末、肺塞栓症ではないかと思い至った。肺塞栓の診断基準であるWell’s Score3点(心拍数>100/分と長期臥床)である。Dダイマーを測定してもらったところ、やや正常値を越えていた。そこで肺の造影CTで確認をしてもらったが、肺塞栓症の所見は認めなかった。その後、症状は徐々に改善したという。

最近手にした『mechanisms of clinical signs』という書籍によると臥位呼吸(platypnea)として記述がなされている。原因の1つは心臓内に右・左シャントが起こるためで、ASD,PFD等の先天性心疾患、肺切除が挙げられる。もうひとつの原因は、肺高血圧や右房圧の上昇であり、肝肺症候群、呼吸器疾患、COPD,肺塞栓症、ARDS等がある。静脈から動脈への血流シャントがその機序と説明されている。

ときに、肝硬変患者で酸素飽和度が著しく低い患者が出会うことがある。これは当に肝肺症候群であり、その機序は1)びまん性の肺内シャント、2)血管収縮による換気不良、3)V/Qミスマッチ、4)胸水や横隔膜機能低下が挙げられている。

まれであるが、臥位呼吸を見たら、右・左シャントや肺高血圧等の基礎疾患が潜んでいないか疑ってみる必要があるようだ。(山本和利)




2012年7月14日土曜日

2012年度同門会

恒例となっております、札幌医科大学地域医療総合医学講座の同門会が
開催されました。

例年11月におこなわれていましたが、本年度は教室スケジュールの都合により77日の1300より行われました。同門会員の方々によっては例年と異なる日程のため、夏休みや他のイベントと重なり、出られなかったという方もおられましたが、遠くは長野県からの参加者も含め、15名の参加となりました。

 まず教室を代表して山本教授からこの1年間の教室動静の報告と挨拶がありました。続いて同門会長の合田先生からのお言葉を頂きました。

松浦助教による教室の活動報告に引き続いて、各同門会員から近況報告がスライドを使って報告されました。

遠隔地に赴任している同門会員のため、PCLSにも使用されているWebEXを用いての発表も行なっていますが、今年は松前町立松前病院院長の木村眞司先生が、待機当番中の合間をぬって参加してくださいました。

同門会各員の活動や発表報告は大変個性に富んでおり、大変盛り上がりました。また広い北海道や日本全国で同じように地域医療に志を持って取り組んで

いる先生方の活動をこうして年に1回まとまって見ることのできる機会は貴重で、お互い励まされるものがあったのではないでしょうか。

毎年その年に活躍された方に送られる地域医療貢献賞ですが、松前町立松前病院の木村院長に贈られました。木村先生は全国に広がったインターネット勉強会(通称PCLS)の発案・創始者でもあり、今年度からはプライマリケア学会北海道支部の支部長に就任され、八面六臂の活躍中です。副賞として、木村先生の御趣味でもあり、松前病院で実習した学生・研修医の人達が必ず参加するという農作業用のつなぎが「木村ファーム」の刺繍入りで5セット贈られました。

 全員の発表の後に教室長の河本助教から同門会会計報告があり、その後全員での記念撮影を行なって終了となりました。

懇親会は場所を変えて札幌の大通駅近くの居酒屋にて行い、こちらも飛び入り参加もありで大いに盛り上がりました。

 
当教室も創立以来13年を過ぎ、様々な先生がたと繋がる教室へと発展してきました。山本教授以下教室員・スタッフ一同また来年に皆さんにお会いできることを楽しみにしております。(助教 稲熊)