札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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2012年7月23日月曜日

第7回札幌医大 指導医養成講習会


72122日、第7回札幌医科大学付属病院 臨床研修指導医養成講習会を企画し、チーフタスクフォースとして参加した。当日、同会場で715から打ち合わせ。受講者は48名。

まず三浦センター長挨拶、タスクフォース紹介後、山本和利のリードで「アイスブレイキング」。偏愛マップを使って、雰囲気を和らげた。各班にグループの愛称名を付けてもらった。病院長も参加しており、会話も弾んでいた。

三浦センター長から「札幌医大の初期臨床研修」の講義。本年度の研修医数は35名。最後にウイリアム・オスラーの生涯を綴った翻訳本を紹介された。100年前にオスラーが「教え過ぎている」と話をしていたということが印象的であった。

続いて北大の川畑秀伸氏の主導で「カリキュラム・目標と方略」を150分。アウトカム基盤型カリキュラムのミニレクチャー後、competency(その職業に期待される態度・思考・判断の特性)を、優秀な研修医を想定して各グループで2つ設定してもらった。研修環境を都市型か地域型かで設定してもらった。「コミュニケーション力」「積極性」「社会人としての自覚」を挙げるグループが多かった。

第一日の午前の日程を終了したところで、写真撮影となった。

昼食後、松前町立松前病院の八木田一雄氏の主導で「上手なフィードバックをしよう」のセッション。自己分析能力の高い研修医、生真面目だが気づきの少ない研修医、能力以上に自己評価が高い研修医という3シナリオを用いたロールプレイを行った。3人一組でのロールプレイは研修医役、指導医役、評価者役をそれぞれ1回ずつ(緊張しやすく技術が未熟な研修医、当直明けで眠気を堪えて外来研修を受ける研修医、問題をあちこちで起こすのに自信満々の研修医の3シナリオ)。

続けて勤医協中央病院臺野巧氏主導での「教育の評価」は、3シナリオを準備していずれか1つのシナリオに沿ってロールプレイを行った。最初に初期研修医評価のための指導医会議(指導医、シニア研修医、看護師長、看護主任、ソーシャルワーカー役になり切って)を模擬体験した。最後に、自施設で行っている360度評価を紹介された。自己省察の大切さを強調された。SMARTを紹介(Specific, Measurable, Achievable, Behavioral, Achievable)。単独で当直ができるかどうか判断するために行っている技能を観察する評価法のMini-CEXを紹介。

続いて、札幌医大精神科舘農勝氏から「メンタル・ヘルス」の講義を受けた。今回初めて取り入れた講義である。研修医には様々な立場がある。新社会人、新米医療人、過労労働者、見習い医師である。失敗がトラウマ、不全感、雑用が多い、一貫しない対応等が原因となる。海外では看護師がストレスであるという報告がある。外科のプログラムでは、36%が研修と無関係な時間であった。4つのケア:研修医自身で、指導医による、病院全体の取り組み、専門家によるケア、が大切。
医療従事者に起こりやすい心理として、「燃え尽き症候群」と「あわれみ疲労」がある。日本の研修医は他国のそれよりメンタルの問題が起こりやすい。PHQ9で調べると20%が抑うつ状態であった。6年生大学の女性学生は自殺のハイリスクである。現代型のうつの紹介(逃避型、未熟型、現代型、非定型型)、これの中にアスペルが―障害が併存していることがある。30%の研修医が研修中に志望科を変更している。研修医のメンタル・ヘルスのためには、「気付く、支える、つなぐ」が大切。「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」(山本五十六)。アリストテレスの法則:Ethos(倫理的), Pathos(感情的), Logos(論理的)が大切。同僚のサポートも大事。

「北海道における地域医療の現状と道の取り組みについて」と題したセッションで北海道庁の杉澤孝久参事が講演された。医師数は西高東低。道内は全国並み。20116月現在、医師は道内では1,075名不足(札幌、旭川以外)。道内の偏在が著しい。

第二日目は、札幌医大稲熊良仁助教の主導で「5マイクロスキルの実践」セッション。一番の問題は、研修医が考えて答える前に、指導医が答えを言ってしまうことである。今回お勧めのマイクロスキルは5段階を踏む(考えを述べさせる、根拠を述べさせる、一般論のミニ講義、できたことを褒める、間違えを正す)。外来患者シナリオ3つを用いて2人一組になってロールプレイ(シナリオの読み上げ)を行った。最後は、自分たちでシナリオを作成してもらい、いくつか自信作を発表してもらった。

続いて、札幌医大松浦武志助教の主導で「ヒヤリハット教育」セッションを行った。はじめにリスク・マネジメントについてのミニ講義。人は何から学ぶか?先輩の背中、プロジェクトに参加して、挫折から、という意見がある。その後、「左手のしびれ、ふらつきを訴える高齢女性」についてヒアリハット・カンファランスを研修医に実演してもらった。文献レビュー「脳出血の可能性を高くする所見は、拡張期高血圧>110mmHg、昏睡、脳出血の診断スコアであるシリラートスコア>1。可能性を低くするのは頸部雑音。神経所見で脳出血と梗塞を鑑別はできない。ただし、脳出血ではジワジワと症状が進行しやすい。脳卒中を見逃がさないためには、上肢バレー兆候、顔面麻痺、発語異常、筋力低下をチェックする。」クリニカル・パール:病歴・身体所見だけでの鑑別は難しい。CTが有用。身体所見で一致率が低いものがある。最後に自分の施設でSEAセッションを行うにはどうしたらよいかをグループで話し合ってもらった。

昼食後、東京北社会保険病院の南郷栄秀氏の「EBMの教育」。朝に顔がゆがんで動かない64歳男性というシナリオでWSが行われた。PICOを作り、実際にコンピュータを使って文献検索して、「ベル麻痺に対する抗ウイルス薬の効果」を評価してもらった。麻痺の残る率はステロイド+アシクロビル:13.4%、ステロイドのみ:17.6%RRR:24%ARR:4.2%。NNTは24である。患者の背景、意向を入れた場合、各班はどうするか?

最後は札幌医大武田真一助教の主導で「ティーチング・パールを共有しよう」のWS。参加者各自が得意ネタで5分間講義を白板で行い、そのやり方へのフィードバックをしてもらった。
最後に総括として、参加者から感想をもらい、受講者代表に終了証を手渡して解散となった。来年度はさらにブラッシュアップして講習会に望みたい。(山本和利)