札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年5月30日水曜日

地域医療合同セミナーI


529日、札幌医科大学全学の1年生を対象に「地域医療合同セミナーI」という科目を選択してくれた約90名の学生に「地域医療に必要なこと」という講義を行った(出席者は50名ほど)。今後は両学部合同で行う選択授業が一年間に続く。山本のこれまでの自己紹介や活動を紹介をしたあと、映画や本から仕入れた世界や日本の状況について提示した。

地域医療について考える学生の目は真剣であった。授業終了後、総合医になるための質問を受けた。この学生さんたちが、8月に留萌または利尻、別海地区での現地実習に参加することになる。低学年からこのような機会を増やすことが重要であると考えるので、教室としても積極的に関わってゆきたい。(山本和利)

 

2012年5月26日土曜日

医学史 シュビングとナイチンゲール

本日の発表はシュビングとナイチンゲールであった。
どちらも「看護師」であるが、その知名度には雲泥の差がある。シュビングを発表した班は、その資料の少なさを
「google」の検索ヒット件数で表現した。
「ナイチンゲール」の100分の1程度のヒット件数しかなく、
残された著作も1冊だけとのことだった。

シュビングは、それまでの統合失調症の患者ケアに疑問を感じ、
「母なるもの」を提供していく必要性を訴えた。
抽象的すぎてわかりにくいこの概念を
班員の自作のイラストを用いて、わかりやすく説明していた。
これまで、スライド内に用いるイメージ画像は
ネット上から引っ張ってくることがほとんどであったが、
この班は自作していた。
イメージ図に自作のイラストを載せたり、
自分で撮影した写真を使用することは、
発表者のイメージを最も正確に伝えることができる反面、
煩雑で時間のかかることでもある。
そうしたところからも、
発表のために十分準備をしてきていることがうかがえる。

また、発表の中で、シュビングの
「私は、体だけ病んでいる患者を見たことがない」
という言葉を繰り返し用いて、、
「体(病気)だけの治療ではなく、心の治療が大切である」
ということをしっかりと主張していた。

咳・痰・発熱が出現して、おそらく「風邪だろう」と思っても、
発熱が4日目ともなると、「何か悪い病気ではないか?」と不安になるだろう。
そして、医師のもとを訪れ、「風邪ですね。家で休んでいてください」
との医師の言葉にスッキリと納得するだろうか?
「自分の心配している悪い病気ではないことと、その理由」がはっきりと語られない限り、
その不安は解消されないだろう。
諸君はまだ医学部1年生で、医療者というよりは、まだ患者に近い立場である。
上記のような設定なら、今現在はまだ患者の気持ちに共感できるだろう。
ところが、6年間の医学部の授業とその後の研修の現場で
「医学的な病気」のことについてのみ偏った教育・経験を積むと、
上記の患者の「心」を忘れてしまうのである。
今日、この日に学んだ患者の「心」を忘れないでほしい。

また、この班のファシリテートを担当した班は、
今までにないディベート形式の議論を企画してくれた。
「心よりは体の治療が優先される」と
「体より心の治療が優先される」を主張するメンバーを会場から指名し、
それぞれグループで持論を展開してもらう。
その主張がどちらが説得力があったかを会場から判定してもらうというものだ。
実際のディベートはやり方がもう少し複雑だが、
15分という制限時間ではこれが精いっぱいだろう。
しかし、何とか会場から意見を引き出して、
発表テーマについて議論をしようという工夫は存分に伺える。
短い時間ではあったが、それを最大限有効に使えたと思う。

この授業を担当していつも思うことだが、
医学部入学選抜試験をクリアできるほどの才能の持ち主であれば、
どんなことでも「やればできる」のであろう。
この「やれば」のところに我々教育者が
いかに適切にアプローチできるか?が問題なのである。
彼らの能力を引き出すのも埋もれさせるのも
我々教育者の手腕にかかっている。
知識を垂れ流すだけの授業ではなく、
彼らの「やる気」を引き出す授業が求められているのである。
これこそが教育者として最も必要な技術である。


次のナイチンゲールの班は、
当時の上流階級の出身で、何不自由なく育ったナイチンゲールが、
なぜ、劣悪な環境である戦場に赴いたのか?
そしてその中でどんな功績をあげていったのか?
を順を追って説明していた。
その中で、ナイチンゲール自身の言葉を随所に入れて説得力を付加していた。

特に、「看護に革命を!」と題して、
革命を起こした内容を3つに分けて紹介していた。
最初の講義の「3」のルールをしっかりと守っている。
1)衛生環境の整備  病人を救うのは宗教者の愛ではなく衛生環境である。
2)統計学の導入   戦況を正確に伝えるために「グラフ」表現を考案
3)看護学の確立   看護覚え書き 看護大学の設立など
名前は有名だが、なんとなくしかその生きざまについて知らなかったナイチンゲールだが、
この班の発表によって、いわゆる「白衣の天使」のイメージだけではない
ナイチンゲールの側面がよくわかる発表だった。

人間の集中力はどんなにすばらしい発表でも、
10分程度しか持たないといわれている。
つまり、30分の発表であれば、
10分後と20分後に集中力が切れる時間が来る。
その時間にそれまでの発表とはベクトルの違う
『ネタ』を仕込むことが集中力を維持するのに有効といわれている。
動画を入れたり、寸劇を入れたり、
議論をさせたり、デモンストレーションを入れたりと
少し方向性を代える必要がある。
この班は15-6分経過したところで、
ナイチンゲールの意外な一面のエピソードと画像を入れることで
会場の集中力を維持していた。
『ネタ』の内容については、賛否両論あるが、
少なくとも、会場の雰囲気がそれまでとは一変したことは間違いない。

こうしたプレゼンテーションの「枝葉の技術」を
各班の発表の中からぜひ盗み取っていってほしい。

これからの発表もすごく楽しみだ。(助教 松浦武志)

2012年5月25日金曜日

放射線被曝


核物理学者である武谷三男は、放射線の許容量につき、日本学術会議のシンポジウムの席上で、次のような概念を提出した。「放射線というものは、どんなに微量であっても、人体に悪い影響をあたえる。しかし一方では、これを使うことによって有利なこともあり、また使わざるを得ないということもある。その例としてレントゲン検査を考えれば、それによって何らかの影響はあるかも知れないが、同時に結核を早く発見することもできるというプラスもある。そこで、有害さとひきかえに有利さを得るバランスを考えて、〝どこまで有害さをがまんするかの量〟が、許容量というものである。つまり許容量とは、利益と不利益とのバランスをはかる社会的な概念なのである。」と。この考えは放射線に関して提唱されたものだが、それ以外の場にも有効な考え方である。このように説明すると無暗にCT撮影を希望する患者さんを、撮らないで経過観察する方針に移行できることが多い。

可能性は少ないとはいえ、一度起こるとものすごい被害をもたらす原発事故についてはどう考えればよいのだろうか。1986425日、チェルノブイリ(「ニガヨモギの草」の意)4号炉が猛烈な水素爆発を起こした。事故の原因は、人的エラーと不完全な技術にあると結論付けられた。このとき、25名が死亡している。事故後の処理にロボットが使えなかった。そこで、兵士に選択させた。戦地のアフガニスタンで2年間過ごすか、ガンマ線が飛び交う三号炉の屋上で2分間身をさらすか。(私なら後者を選びそうだ)。

 『ゴーストタウン』(エレナ・フィラトワ著、集英社、2011年)は放射能汚染の長期被害(チェルノブイリ原発事故)について書かれている。10年間ほど取材してブログに掲載したものを本にしたという。著者がバイクで移動しながら撮影したカラー写真が満載である。彼女は述懐する。「進めば進むほど、土地は安くなり、人は少なくなり、自然は美しくなる。」放射能は数万年残るが、人が住めるようになるのは早くても600年後だそうだ。

 チェルノブイリ近郊の市街地に、プロメテウスの彫刻が置かれている。事故後、原子力発電所に移されたそうだ。プロメテウスこそ、神から炎を盗んで、人類に与えてくれた。

 チェルノブイリのあるウクライナよりも、隣国のベラルーシがさらなる被害を受けている。

チェルノブイリの原子炉から250キロメートル圏内では、2000を超える街や村が消えたそうだ。

 「フクシマ」に多くの医療従事者が支援に入っている。頭の下がる思いである。チェルノブイリの場合、100km単位で話がなされるのに「フクシマ」では10km単位で話が提示される。この違いは何なのだろう。(山本和利)

2012年5月22日火曜日

医学史 ガレノスとベサリウス

5月17日 医学史2回目
本日の医学史講義はガレノスとベサリウスであった
ガレノスはギリシャ医学以後、1500年もの間医学の権威で在り続けた人物である
その評価には二面性がある。
その二面性をしっかりと調べて発表していた。

発表の工夫として、今回の班は動画を取り入れていたところが新鮮である。
動画を効果的に利用するにはそれなりの工夫がいる。
まず、人間の動画に対する興味は1-2分しか持たない。
そのため、ピンポイントで訴えかけるドンピシャの動画が必要である。
音楽で言うなら、誰もが知っているサビの部分を使わなければならない。
前奏が長すぎては飽きてしまうし、サビが短すぎては何の曲だかわからなくなる。
この班はこの難問をクリアして、まさにドンピシャの画像を使用していた。
こうした発表の細かなテクニックについては授業では教えていないが、
いろいろな班の発表を見て、よりより発表のために工夫してくるのだろう。
こうした、学習者自らの「気づき」を促すことこそが、教育の本質だろう。
何でもかんでも授業で教え与えればいいというものではない。

後半の発表のベサリウスの班は、
それまでガレノスの権威にすがっていた医学界に
目の前の「事実」を追求することで、間違いをただしていく過程を
順を追って説明していた。
特にベサリウスの功績である、「ファブリカ」という解剖学書については、
詳細に発表していた。

今回の2つの班に共通するのは、
「何を一番伝えたいか?」ということに関しては、
それなりに訴える力があったが、
それ以外のところについては、もう少し工夫の余地があってもいいかもしれない。
たとえば、今回の班は班員全員で発表を分担していた。
分担することのメリットとして、「全員平等」という点があるが、
逆に発表の一貫性が損なわれるというデメリットがある。
今回はデメリットのほうがやや目立った感じが否めない。
全員で分担して取り組みつつも、
作品としての一貫性を持たせるにはどうしたらいいか?

それには、
ファシリテーターの存在が欠かせない。
どの班員にも、現在のプロジェクトの進捗状況や問題点などを周知しながら
全体の課題をこなしていく力量が問われる。
どの範囲を分担していても、全員それぞれが全体像を把握している必要がある。

現在の日本の小・中・高等学校の教育では、
こうしたファシリテーターを進んで買って出たくなるような教育が
一般的に行われているとは言い難い。
そういう教育制度を終えたばかりの1年生諸君にとっては、
今回のような「たった5人」の班のファシリテートにも躊躇してしまうのだろう。

こうした授業・発表を通して、
肌でファシリテートの技術を学んでいってほしい。
必ず必要になる技術なのだから。
(助教 松浦武志)

2012年5月20日日曜日

糖尿病の大規模研究

55回日本糖尿病学会年次学術集会におけるシンポジウムの一つ「大規模試験からのメッセージ」をまとめてみた。

Japan Diabetes Complication Study(JDCP)

西村理明氏

糖尿病学会が主導の前向きコホート研究である。合併症(最小血管、大血管合併症)発症率を検討する。対象者は癌、腎症がないものとした。年齢は4070歳。罹患期間:11.1年。男性の比率は60.8%。糖尿病専門医が診療。6,439名。2007-2009年から開始。

登録患者の属性

糖尿病家族歴:50%。体重;64.3kg。BMI:24.7、最大体重は47歳。高血圧の比率:45.6%。脂質異常者:46.9%。脳血管障害:4.8%。心筋梗塞:3.3%。平均FPG;136mg/dl、平均HbA1c;7.0%。平均血圧:130/75mmHg, 平均腹囲86cm。栄養指導がされている率は80%、運動療法は70%。経口薬服用が57.7%、インスリンが18.3%、両者15%前後。スタチン使用30%。

合併症の発症として網膜症、腎症、脳梗塞、心筋梗塞を追っている(2年まで)。死亡は癌死が一番多い。心疾患、脳血管障害と続く。

J-DOIT3

植木浩二郎氏

海外の研究;糖尿病患者は6歳寿命が短い。大血管症が原因。

発症直後に介入すると合併症は減少する(UKPDS33

HbA1cを極端に改善したら、死亡率が逆に上昇した。低血糖、インスリン、薬剤の使用が原因?

本研究は20066月から開始。現在4.38年経過観察になっている。2型糖尿病患者2,543名。HbA1c6.2%、血圧:120/70mmHgLDL<80mg/dlを目標。

結果

・平均HbA1c:6.6%。体重変化はない。経口剤平均使用率2.5剤。低血糖発症が少ない。

・ACCORDに比べて本研究は低血糖、体重増加を来たしやすい薬剤使用率が少ない。

■久山町研究

土井康文氏

地域住民研究において、糖尿病やIGTは大血管障害のみならず悪性疾患、認知症の合併症の発症率が増やすことが示された。

・脳梗塞発症の相対危険度:男性群2.5、女性群 2.0

・虚血性心疾患発症の相対危険度:男性群1.3、女性群 3.5

・悪性腫瘍死の相対危険度:IGT群1.5、糖尿病群 2.1(高インスリン血症が関連)

・アルツハイマー病発症の相対危険度:IGT群1.6、糖尿病群 2.1(FPGとは県連がない、酸化ストレスが関連)

・脳血管性認知症発症の相対危険度:糖尿病群 1.8

2002年:肥満、IGT等、代謝異常が増えている。碓糖能異常者は60%を占める。

Japan Diabetes Complications Study(JDCS)

曽根博仁氏

日本人2型糖尿病患者の前向き研究。専門医が診ている2,033名、平均年齢59歳(閉経後)、HbA1c;7.7%,ランダム化試験である。従来治療群と生活指導(食事、電話、万歩計、禁煙指導)を追加した治療群で比較した。

結論

欧米と日本の糖尿病患者には多くの相違が認められた(欧米と異なり介入で改善が認められた点)。日本人のエビデンスが必要である。

・脳卒中発症のハザード比:0.62

HbA1c>9%では、網膜症発症率(8年間):50%、網膜症進展率(8年間):40%、

・血糖、血圧のコントロールの重要性が示された(欧米と異なる)

・腎症の発症率:6.7/1000 person-yearと低く、緩解率が高かった。糖尿病+喫煙者の腎症発症・進展リスクは2.1倍である。

・糖尿病患者の肺機能は低下している。

・TGが有意なリスク要因となっている(特に女性)。(高LDL+TG群はハイリスク)

The ADDITION-Europe Study

Torsten Lauritzen氏(デンマーク)

欧米人2型糖尿病患者の前向き研究。40万人の住民からプライマリケアで見つけた3,057名の白人(0.8%)、平均年齢60.3歳、5.3年経過観察。ランダム化試験である。高血圧患者は50%を占める。従来治療群と早期集学的治療(スクリーニングで早期に糖尿病患者を見つける、HbA1c<6.5%,BP<120/80mmHg, TC<5.0nmol/L)を追加した強化群で比較した。

結論
虚血性心疾患の発症がわずかに減少した(予想外に小さかった)。従来治療とのハザード比;0.83(0.65-1.05)

・未治療群と治療群で比較すると有意な差を認める。

・心疾患の発症率:従来群15.9/1000 person-year、強化率13.5/1000 person-year

・血圧、TCは両群とも低下した。

HbA1cの差はない(強化群でやや低下)。

the Action to Control Cardiovascular Disease in Diabetes (ACCORD)

Elizabeth Seaquist氏(米国)
2型糖尿病患者の前向き研究。心疾患のイベントをアウトカムとして、血糖または血圧または脂質(2×2)を強力に低下させる治療と従来治療とで比較検討した。多施設ランダム化研究。10,251名の志願者。40歳以上。アウトカムは心血管疾患イベント。強化群はHbA1c;6.0%, BP;120mmHg,フィブレート、スタチンを使用。

結論
大血管障害を持つと思われる高齢の長期罹患者においては、強力に血糖、血圧、脂質を下げない方がよい。

・血糖値強化群で従来群に比べて死亡率が20%高かったため、早期に研究終了となった。

・また血圧、脂質強化治療群においてもイベント発症に改善が認められなかった。

・糖尿病に特有な最小血管合併症の発症は減少した。

・低血糖の発症は増加した(3倍)が、このような患者のイベント発症率は低かった。

・神経障害のある群、アスピリン服用群は死亡率が増加する。

結果の解釈
・よくわかっていない(低血糖が何らか関係していたかもしれない。8.1%が低血糖で死亡。認識されていない低血糖の影響もあったかもしれない)。

ACCORD-MIND Study
ACCORDのサブ解析である。55歳以上のみ。ベースラインでHbA1cが低いと認知機能が悪い。治療後の両群では差がない。

エビデンスが日々変わってゆく。絶えず勉強が必要だ。(山本和利)




2012年5月18日金曜日

第2回FLATランチョンセミナー



5月17日2回目のFLATランチョンセミナーを行いました。

1年生から5年生まで、学生17名が参加してくれました。

今回のお題は「バイタルサイン」です。よくTVドラマなどで「バイタルは?」なんていう台詞がありますが、実は、バイタルサインは「道具がなくともわかる」という便利で、非常に大切なものです。

 FLATの学生にはきちんと覚えてほしく、また「順序」も覚えてほしいと考えています。
1.意識、2.呼吸数、3.血圧、4.脈拍、5.体温という順序です。これBLSABCに関係していますが。

 じつは昨年の「第4回地域医療体験キャンプ」で講義したものですが、なんとそのとき講義した学生がきちんと覚えていてくれました。嬉しい限りです。
また講義後にバイタルサインについて質問してみると、きちんと答えることができ、記憶力のすごさにびっくりしました。

 次回は、5/31 12:20-13:00 血圧・脈拍測定実技の予定です。(助教:武田真一)

脳卒中・糖尿病腎症


55回日本糖尿病学会年次学術集会における教育講演の2題をまとめてみた。

■脳卒中について
星野晴彦氏
脳卒中の75%は、脳梗塞である。臨床タイプは3つ。アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ脳梗塞、心原性脳塞栓症の比率は1:1:1となっている。(出血性が20%、くも膜下出血が7%)。アテローム血栓性脳梗塞とラクナ脳梗塞とで患者背景に昔ほど差はなくなってきた。肥満、高コレステロール血症、IGTが増えているためである。糖尿病があると脳梗塞発症率は10年で3倍に上昇する。

TIA患者は90日以内に10%が脳梗塞になる。そのうち半数は48時間以内である。ABCD2 scoreが重要。(Dは糖尿病) 
ABCD2 score (エービーシーディー・スクウェア・スコア)
Age :年齢      (60歳以上で1)
Blood Pressure:血圧      (収縮期圧140以上か拡張期圧90以上で1)
Clinical factors :臨床症状 (片麻痺で2点、構音障害のみで1)
Duration :発作持続時間(60分以上で2点、10分から59分で1点、10分未満は0)
Diabetes :糖尿病 (合併があれば1)
以上の合計点0-7点で評価する。

心原性脳梗塞:80%は心房細動から。CHADS2 score>2の人は抗凝固薬の適応。(Dは糖尿病)抗凝固薬を服用していた人の方が起こしても予後がよい。発症を1/3に抑える。

CHADS2CHF(心不全)、HT(高血圧)、Age75(高齢)、DM(糖尿病)は、それぞれ1点、Stroke/TIA(脳卒中/一過性脳虚血発作)は2点に計算される。
合計点をCHADS2スコアという。

新薬ダビガトランを高容量服用群はワーファリン群より結果がよかった。糖尿病患者においても同様の傾向が見られた。この結果から、糖尿病患者で心房細動があれば即抗凝固療法をする方向に向かいつつある。血圧コントロールはもちろん重要である。

多発動脈硬化は脳梗塞のハイリスクである。ASOの死亡の60%は血管死。ABI<0.9は脳梗塞のハイリスク。高齢者、糖尿病が多い。
BP;130/80mmHg, HbA1C<6.9%,LDL<100を目標として、抗血小板薬を用いるとよい。

■糖尿病腎症の進行予防
古家大祐氏

腎症の有病率が増加している。糖尿病腎症が透析導入原因の第一位である、2型糖尿病患者は増加しており、未受診患者も多い。早期診断が行われていないことも問題である(アルブミン尿の測定)。顕性アルブミン尿+GFR低下群は心血管疾患率が高い。アルブミン尿とGFRの把握が重要である。

予防策として
生活習慣;減量、禁煙、食塩・アルコール制限、運動、厳格な血糖管理、RAS阻害薬の使用が言われている。
早期腎症の緩解を目指すことが大切である。緩解が得られれば心血管リスクを75%減らすことができる。HBa1c<6.9% 、アルブミン尿(-)、血圧<130/80mmHg、脂質低値の4つをコントロールする。しかしながら、罹患期間が長い患者に厳格な血糖コントロールは危険である。血糖値、血圧値は個々の患者によって決めるのがエビデンスである。

冠動脈疾患については、血圧は低過ぎると死亡率が高くなるというエビデンスが出て来ている。収縮期血圧は130-135mmHgがよい(メタ解析から)。最近、RAS阻害薬が第一選択薬でよいかどうか疑問が出されている。スタチンは腎保護作用がある(現在、日本でも研究中)。チーム医療で積極的に集約的治療すると(STENO-2 Trial)死亡率が半減する。とはいっても10年で13%は死亡するのが現状である。

たんぱく制限食で腎症の進行を遅らせることができるかどうか調べたが、通常群とで差を認めなかった。一方、活性炭(クレメジン)は腎症の発症を遅らせる。(山本和利)


2012年5月17日木曜日

5月の三水会

516日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。大門伸吾医師が司会進行。後期研修医:3名。 初期研修5名。他:5名。

研修医から振り返り6題。

ある研修医。外来患者のリストを検討。百日咳と抗体価を測定して診断。抗菌薬は治療に必須ではない。高尿酸血症を治療しているが、ザイロリックの用量はいかにすべきか。米国のガイドラインはザイロリックを使用してはいけないというふうに書きかえられている。ペニシリンアレルギーのある人の蜂窩織炎。本当にペニシリンアレルギーがあるのかどうか、突き詰めた方がよい。

88才女性。嘔吐、喘鳴、SpO2低下。脳出血後遺症(VPシャント)。誤嚥性肺炎と診断し治療した。できるだけ延命して欲しいという家人の希望あり。脳出血時と同じ症状なので、MRI撮影を希望(前回CTは異常なしであったがMRIで異常が見つかったから)。脳外科医に依頼してVPシャントのバブルを調整してMRI撮影をした。今後、どう対応したらよいか。コメント:娘の感情を受け入れて、娘を落ち着かせる。今後の未来予測を正直に話して方策を立てる。チームで対応する。



ある研修医。外来リスト。ゴルフで背筋肉離れ、17歳の女子の圧迫骨折、等を経験した。受診患者のうち整形外科手術になる患者は限られている。かなりの患者は総合医が診ることができるのではないかという印象をもった。コメント:外傷、受傷機転を知ることが重要。



58歳男性。感冒後、全身倦怠感と微熱、腰痛。XPで「疲労」と診断。その後、腰痛が悪化し、夜間救急車で受診。ボルタレン座薬を使い、帰宅させようとしたが、体動時の痛みが強いため、入院させた。L3/4に圧痛。LDH:387,CRP:2.3.腰部CTでL2/3に骨融解像。胸部CT,腫瘍マーカーから小細胞がんが示唆された。コメント:Red flagサインを知ることが大事。50歳を超えた患者の初めての腰痛、夜間痛、安静時痛、等。検査の特性(感度、特異度)を知ること。病歴によっては感染症も考慮しなければならない。



ある研修医。小児科研修。入院患者は喘息、肺炎、クループ、胃腸炎が多い。



咳、呼吸困難、咽頭痛で救急搬送された17歳男性。37.4℃、呼吸数:20/分、SpO2:95%。HR:112/分。唾液を頻回に吐いていた。過換気症候群を疑った。夜間のため技師さんを呼ばずXPを撮るのは控えた。心電図、血液ガスは異常なかった。ここで、気胸、肺炎、急性喉頭蓋炎が鑑別に挙がる。XPとCTで縦隔気腫が判明。入院し経過観察となった。早期にXPを撮るべきであった。コメント:病歴を振り返ると、最終診断を教えている。技師さんの負担だけでなく、患者さんのもつ疾患の緊急度、重症度を優先することが大切である。



ある初期研修医。肺腺癌の76歳女性。イレッサ適応であったが使用拒否。疼痛が悪化し肋骨転移、転移多数が判明。そこで、イレッサを使用することを承諾。患者への説明が難しいと感じた。悪い知らせを伝えるSPIKESという6段階方略があることがわかった。その解説(環境の設定、患者の認識を評価、患者の求めを確認、患者に知識と情報を提供、患者の感情に共感をこめる、方略をまとめる)。コメント:うまいと言われている指導医の説明場面を沢山見ること。



ある初期研修医。97歳女性。胸部違和感、息切れ、全身倦怠感で救急外来受診。BP

125/85mmHg,体温:36.4℃、呼吸数:24/分。SpO295%Coarse crackleあり。念のため、心電図、採血、胸部XPで心筋梗塞を除外したいと思った。心電図:IIIaVFでST上昇。XPで肺うっ血像があったが、血液検査結果がでるまで心筋梗塞を考慮しなかった。重篤感がないため、心筋梗塞を考慮しなかった。研修してから初めての心筋梗塞であった。その後、初期治療計画を立てさせてもらい、ニトロ舌下、血管確保、利尿薬の投与を行った。コメント:高齢者、糖尿病、女性は心筋梗塞でも胸痛が出にくい。臍から上の痛みで受診したら心電図を撮ること。歩いてきた心筋梗塞とくも膜下血腫は見逃しやすい。



ある初期研修医。胃痛を訴える28歳男性。救急外来。朝から胃痛。便の色はふつう。整形外科でNSAIDを処方されている。これまで何度も腹痛で受診している。そのため最初はIBSを考慮した。身体診察で心窩部から右下腹部に圧痛。反跳痛あり。血液検査、CTで虫垂炎と診断し、手術にもっていった。初めて最初から手術まで経過を追えた虫垂炎であった。緊急性のある疾患の除外が大切。Alvarado scoreでスコアリングできる。この事例は6点であったため、CTを撮った。疑ったらまずエコー。小児の発熱、嘔吐、腹痛、腹部膨満では常に虫垂炎を考慮する。



年度が変わり新しい研修医が参加してくれ、雰囲気がいい意味で一新された。ヒヤリ・ハット事例から学ぶことは多いと再認識した勉強会であった。(山本和利)

2012年5月14日月曜日

死者を弔う


医療に対する文化の影響を研究する分野に医療人類学というものがある。その第一人者がアーサー・クラインマンである。彼は精神科領域の研究を台湾で行い、この分野の先駆けとなった。

クラインマンは、著書『病いの語り』(誠信書房、1996年)の中で、「患うという経験の型はどこでも見られるが、その患うことが何を意味し、その経験をどのように生き、その経験にどうように対処し扱うかは、実に様々である。」とし、それを1)文化的表象、2)集合的経験、3)個人的経験、に区分した。


クラインマンは、医療人類学者としての経験・研究から、「病いの語りは、どのように人生の問題が作り出され、制御され、意味あるものにされてゆくかを教える。」と述べている。


患う・悩む(suffering)とは「困惑の問い」「秩序とコントロールの問い」であり、患者を医療化に向かわせる。そして、それを次の3つに区分した。こうすることで良好な患者医師関係が構築しやすくなる。

1)   病い(illness):患者独特なもの

2)   疾患(disease):治療者の視点

       徴候に翻訳

       生物医学モデル

3)   病気(sickness):社会的な関係


ラインマンは、「慢性の病いは、異なった個人によって生きられた経験である。」と考えている。しかしながら、医療従事者の説明モデルによって、「医学の声が生活世界の声をかき消す。」ことが多い。そこで、「患者の言うことに耳を傾けよ、患者は診断を語っているのだ。」と訴え、患者の思いを拾い上げる説明モデル(解釈モデル)を聴くことを提案した。それには、

       障害の原因は何か?

       なぜそのとき発症したのか?

       体への影響は?

       どんな経過を辿るのか?

       どうようにコントロールできるのか?

       生活への影響は?

       治療への希望

       治療への恐れ

等の質問が含まれる。これはOSCEにおける医療面接の聴取すべき項目に盛り込まれている。


生きている時ばかりでなく、死者にも文化は影響を与える。それがよくわかるものとして『父の初七日』(ワン・ユーリン監督、台湾、2009年)を紹介したい(日本映画では伊丹十三監督の『お葬式』がある)。

舞台はクラインマンが研究をした台湾の片田舎である。突然の父親の訃報を聞き、台湾で働く女性主人公が帰省する。病院で心停止しても、酸素吸入を受けながら救急車で家に運ばれ、そこで死亡宣告を受ける(台湾では家で死ぬことが最高の幸せと考えるから)。そしてその地域の伝統的な道教式の葬儀が執り行われることになる。占いで葬儀は7日後と決まり、それまでに、泣き女が出てきたり、音楽隊の演奏があったりとお祭りのような騒ぎになる。そんな中で過ごす7日間に父親と過ごした思い出が蘇る。本当に涙を流すのは4ヶ月後であった・・・。

ある地域の医療機関では、在宅ケアを受けて亡くなられた患者宅に四十九日になると訪問をして、患者家族の悲嘆ケアをしているという。地域医療の現場では、その地域特有の文化を考慮しながら医療展開をするという魅力も兼ね備えている。(山本和利)







2012年5月13日日曜日

北海道PC連合学会代議員会

513日、札幌で開催された2012年度第1回北海道プライマリ・ケア連合学会北海道ブロック支部代議員会に参加した。参加者は約30名。

始めに暫定支部長である山本和利が挨拶をし、2012年度の活動報告、会計報告を行い、続いて、幹事・監事選挙と支部長選挙の経緯と結果報告を行った。


その後、新支部長である木村眞司氏と議長を交代し、新議長の下で会を進めた。

新支部長の挨拶の後、副支部長三名の紹介と挨拶があった(川畑秀伸氏、草場鉄周氏、臺野巧氏)。参加者の紹介の後、組織構成案が紹介された(今後、さらに検討)。

休憩を挟んで、56名の5グループに分かれて、今後の会の活動方針、内容、方法などについてKJ法を用いた話し合いが行われ、その後各グループから発表が行われた。プライマリ・ケア教育や診療、地域医療の推進、市民へのアピールなどの重要性を訴える意見が多数出された。

次回の幹事会は6171000から2時間、定期総会(代議員会)は62314:00 ~が確認され、約2時間で参会となった。(山本和利)




医療市場の開放

グローバル化を目指して、様々な産業分野の市場を国外勢力に解放すべきか、国内産業を保護すべく開放を見送るべきかの議論が盛んである。医療について、日本医師会は開放反対の声明を出している。ここでグローバル化を考える上で参考になる書籍を紹介したい。


『中国化する日本』(与那覇 潤著、文藝春秋、2011年)である。著者は、日本史を専門とする若手研究者である。学術用語を用いずに、若者言葉を交えて解説しており分かりやすく、引き込まれてしまう。

 著者のいう「中国化」とは中国の宋で導入された社会のことを指している。それは今の言葉でいうと「グローバル化」に近い。中国史を1か所区切るなら唐と宋の間で切れるとする立場である。その根拠は、宋時代に入って1)貴族制度を全廃して皇帝独裁政治を始めた、2)経済や社会を徹底的に自由化する代わりに、政治の秩序は一極支配によって維持する仕組みを作った、からであり、その後、新たな要素は加わっていないという

 この中国化という概念で、日本の歴史を論評している。源平合戦は、守旧派勢力の源氏と新しいことをやろうとした(中国化)平氏のと争いと観る。それ以降の時代も全て「中華文明」対「日本文明」という概念で論評してゆく。

 中華文明の特徴は

1.権威と権力の一致(皇帝が政治的権力を掌握)

2.政治と道徳の一体化(政治と道徳の「正しさ」の一致)

3.地位の一貫した上昇(皇帝が行う科挙で官僚を選抜)

4.市場ベースの秩序の流動化(農村共同体秩序の解体) 

5.人間関係のネットワーク化(父系血族コネクションの優先)

この反対が「江戸時代の日本」となる。

 モンゴル来襲、江戸時代、明治維新、昭和日本、「大東亜戦争」、戦後民主主義、平成日本、等、これまでとは違う「再江戸時代化」対「中国化」の概念で一刀両断に論じきってしまっている。

「再江戸時代化」にしても、「中国化」にしてもそれぞれに短所と長所を抱えている。日本はどの方向へ向かうべきなのか?医療はどうあるべきなのか?今、大きな岐路に立っていることは間違いない。(山本和利)