札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2012年5月26日土曜日

医学史 シュビングとナイチンゲール

本日の発表はシュビングとナイチンゲールであった。
どちらも「看護師」であるが、その知名度には雲泥の差がある。シュビングを発表した班は、その資料の少なさを
「google」の検索ヒット件数で表現した。
「ナイチンゲール」の100分の1程度のヒット件数しかなく、
残された著作も1冊だけとのことだった。

シュビングは、それまでの統合失調症の患者ケアに疑問を感じ、
「母なるもの」を提供していく必要性を訴えた。
抽象的すぎてわかりにくいこの概念を
班員の自作のイラストを用いて、わかりやすく説明していた。
これまで、スライド内に用いるイメージ画像は
ネット上から引っ張ってくることがほとんどであったが、
この班は自作していた。
イメージ図に自作のイラストを載せたり、
自分で撮影した写真を使用することは、
発表者のイメージを最も正確に伝えることができる反面、
煩雑で時間のかかることでもある。
そうしたところからも、
発表のために十分準備をしてきていることがうかがえる。

また、発表の中で、シュビングの
「私は、体だけ病んでいる患者を見たことがない」
という言葉を繰り返し用いて、、
「体(病気)だけの治療ではなく、心の治療が大切である」
ということをしっかりと主張していた。

咳・痰・発熱が出現して、おそらく「風邪だろう」と思っても、
発熱が4日目ともなると、「何か悪い病気ではないか?」と不安になるだろう。
そして、医師のもとを訪れ、「風邪ですね。家で休んでいてください」
との医師の言葉にスッキリと納得するだろうか?
「自分の心配している悪い病気ではないことと、その理由」がはっきりと語られない限り、
その不安は解消されないだろう。
諸君はまだ医学部1年生で、医療者というよりは、まだ患者に近い立場である。
上記のような設定なら、今現在はまだ患者の気持ちに共感できるだろう。
ところが、6年間の医学部の授業とその後の研修の現場で
「医学的な病気」のことについてのみ偏った教育・経験を積むと、
上記の患者の「心」を忘れてしまうのである。
今日、この日に学んだ患者の「心」を忘れないでほしい。

また、この班のファシリテートを担当した班は、
今までにないディベート形式の議論を企画してくれた。
「心よりは体の治療が優先される」と
「体より心の治療が優先される」を主張するメンバーを会場から指名し、
それぞれグループで持論を展開してもらう。
その主張がどちらが説得力があったかを会場から判定してもらうというものだ。
実際のディベートはやり方がもう少し複雑だが、
15分という制限時間ではこれが精いっぱいだろう。
しかし、何とか会場から意見を引き出して、
発表テーマについて議論をしようという工夫は存分に伺える。
短い時間ではあったが、それを最大限有効に使えたと思う。

この授業を担当していつも思うことだが、
医学部入学選抜試験をクリアできるほどの才能の持ち主であれば、
どんなことでも「やればできる」のであろう。
この「やれば」のところに我々教育者が
いかに適切にアプローチできるか?が問題なのである。
彼らの能力を引き出すのも埋もれさせるのも
我々教育者の手腕にかかっている。
知識を垂れ流すだけの授業ではなく、
彼らの「やる気」を引き出す授業が求められているのである。
これこそが教育者として最も必要な技術である。


次のナイチンゲールの班は、
当時の上流階級の出身で、何不自由なく育ったナイチンゲールが、
なぜ、劣悪な環境である戦場に赴いたのか?
そしてその中でどんな功績をあげていったのか?
を順を追って説明していた。
その中で、ナイチンゲール自身の言葉を随所に入れて説得力を付加していた。

特に、「看護に革命を!」と題して、
革命を起こした内容を3つに分けて紹介していた。
最初の講義の「3」のルールをしっかりと守っている。
1)衛生環境の整備  病人を救うのは宗教者の愛ではなく衛生環境である。
2)統計学の導入   戦況を正確に伝えるために「グラフ」表現を考案
3)看護学の確立   看護覚え書き 看護大学の設立など
名前は有名だが、なんとなくしかその生きざまについて知らなかったナイチンゲールだが、
この班の発表によって、いわゆる「白衣の天使」のイメージだけではない
ナイチンゲールの側面がよくわかる発表だった。

人間の集中力はどんなにすばらしい発表でも、
10分程度しか持たないといわれている。
つまり、30分の発表であれば、
10分後と20分後に集中力が切れる時間が来る。
その時間にそれまでの発表とはベクトルの違う
『ネタ』を仕込むことが集中力を維持するのに有効といわれている。
動画を入れたり、寸劇を入れたり、
議論をさせたり、デモンストレーションを入れたりと
少し方向性を代える必要がある。
この班は15-6分経過したところで、
ナイチンゲールの意外な一面のエピソードと画像を入れることで
会場の集中力を維持していた。
『ネタ』の内容については、賛否両論あるが、
少なくとも、会場の雰囲気がそれまでとは一変したことは間違いない。

こうしたプレゼンテーションの「枝葉の技術」を
各班の発表の中からぜひ盗み取っていってほしい。

これからの発表もすごく楽しみだ。(助教 松浦武志)