札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年5月31日火曜日

二酸化炭素温暖化説

『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(広瀬 隆著、集英社、2010年)を読んでみた。

著者は長年、エネルギー問題について原発から燃料電池まで分析・研究している。世界で気温が下がっているのに、日本では温暖化説が鵜呑みにされていると批判し、最近の20年間の気温グラフを提示して議論を進めている。「人間が出す二酸化炭素によって地球が温暖化している」という仮説は誤りであるらしい。学会の通説は「二酸化炭素にために気温が上がっているのではなく、地球本来の自然な変化である(太陽の活動、太陽に対する地球の地軸の経年的な変化、火山の大噴火、等)」

本書は、二酸化炭素温暖化説は捏造であるという趣旨で書かれている。クライメートゲート事件「気温データの捏造」を紹介している。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の理論とデータが巨大な嘘によって作られていた。1000年間の地球気温の変化をグラフ化すると「ホッケー・スティック」のよう形をしており、それは20世紀に入って急激に上昇しているという主張であるが、実はこれが捏造であるというのである。その中で中世にあった地球規模の温暖化を消去しているという。なぜこのような愚かなことをするのか。温室効果ガス削減を狙って原子力発電所を増設しようとしている一派の目論みがあるからだ。しかしながら温室効果ガスで最大のものは二酸化炭素ではなく水蒸気だそうだ。二酸化炭素の増加は気温上昇の原因ではなく結果であるという学説が主流らしい。

その悪玉としてNHK,気象庁、文科省に矛先が向けられている。北極の氷河が崩れるのは古くから続く自然現象だそうだ。南極の氷は増加しているそうだ。異常な寒さに近年たくさん出くわしているのに、全く報道しない「メディア」、それがNHKということらしい。

単にエコに走ればよいかというとそう簡単ではない。椰子の実洗剤と化学洗剤とどちらが環境に優しいか。もちろん、椰子の実洗剤である。しかし、その生産のため膨大な熱帯雨林が消滅している。喫煙が減っても肺がん、喘息が増加している。

クーラーは室内の冷房装置と我々は思い込んでいるが、都市の暖房装置である。(ヒートアイランド:局地的な温度上昇)人間の少ない場所はみな気温が下がっている。原発は発電量の2倍の熱量で海を加熱している。

最後は、原発の問題点を強調している。結論は、1)炭酸ガスは、異常気象に原因ではない。2)原発は、海水を加熱する巨大な自然破壊プラントである。3)ヒートアイランドを起こす排熱量を極力減らす必要がある。原発から発生する電力は余っているそうだ。著者は、ガス・コンバインドサイクルを推奨している。

鳩山由紀夫も室蘭にある日本製鉄所の利権(原子炉圧力容器の製造)と結びついて原発推進派であるらしい。民主党執行部(前原誠司、仙谷由人ら)も似たり寄ったりである。3月11日の東日本大震災が起こらなければ、原発が推進されていたことは間違いない。一時的にしろ、『不都合な真実』をひっさげて遊説していた原発推進者のアル・ゴアを信じた自分が悲しい。何が科学的真実なのか見極めることは何と難しいことか!(山本和利)

2011年5月30日月曜日

FLAT歓迎会

5月30日、特別推薦で入学した1年生(FLAT)を対象に歓迎会を企画した。会場は札幌医大の地下食堂。42名が参加(学生34名)。

司会は武田真一助教と4年生の古川君。
はじめに山本の挨拶のあと、黒木医学部長、道庁の後藤技官から激励のお言葉をいただいた。学生代表の高石君の乾杯で宴開始。

しばし歓談のあと、参加した学生から一人1分間で自己紹介と抱負を語ってもらった。
地域医療への学生の熱い気持ちが伝わってくる。
道新の記者さんも参加し、学生たちにインタービュしていた。
最後、山本の一本締めでお開きとなった。

これからサマーキャンプやランチョンセミナー等、いろいろな企画がある。学生生活をエンジョイしながら、地域医療へのモチベーションも高めてゆこう。(山本和利)

2011年5月28日土曜日

SU二次無効

5月21日、札幌市で開催された日本糖尿病会の「糖尿病SU二次無効の次の一手は」というDebate sessionを拝聴した。

<インスリン>
中村直登氏。足らないものを補う。ADAのアルゴリスムでもそうなっている。安全性が確立している。GLP-1受容体作動薬は膵炎、膵がん、甲状腺がんが多いという報告もある。インスリンから切り替えて2例のDKA死亡例が報告された。併用薬に制限がある。SU薬と併用で低血糖が起こることがある。消化器症状を起こしやすい。時間経過で少し悪化傾向が見られる。
一方インスリンは、確実な血糖低下作用が期待できる。様々なレジメがある。豊富な臨床データがる。早期導入により膵β細胞機能維持効果がある。経口薬と併用可能である。謀無難な持効型インスリン少量を追加するのがよい。

<GLP-1受容体作動薬>
山田祐一郎氏。血糖値を下げるのにインスリンに勝るものはない。確実、継続的、個別対応できる。ACCORD study でHbA1c:6.0%を目指したが総死亡が増加した。平均血糖値降下だけでは駄目である。高血糖、低血糖を避けることが大切。そのためには生体内のインスリンを利用するのがよい。二次無効には質的な障害も考えられる。食事量に応じたインスリン分泌が期待できる。そして血糖値の変動幅が小さくなる。インクレチンとグルコースとが協調してインスリン分泌を促進する。食欲を抑制する。胃の動きを止める。その結果、体重が増加しない(減らす)。

GLP-1受容体作動薬の安全性が保証されれば、大きな威力を発揮する薬になるであろう。インスリンと併用できるようになるのだろうか。(山本和利)

経口薬のfirst choiceは

5月21日、札幌市で開催された日本糖尿病会の「経口薬のfirst choiceは」というDebate sessionを拝聴した。

<SU剤>
吉岡成人氏。世界のガイドラインはメトフォルミンである。TZD剤、αGIは大血管に対するエビデンスがない。SU 薬とTZD薬の血糖値降下作用は同等である。どんな薬でも時間経過とともに悪化してゆく。これはSU薬に限らない。アポトーシスを起こすのはSU剤の中でも差がある。TZD薬は浮腫、骨折、心不全、膀胱がんが多い。ドイツでは保険適用が外された。グリベンクラミドは心血管死を増やすが、最新のSU薬にはない。
<TZD剤>
洪尚樹氏。医学の教科書に書かれている半分は将来嘘になる。ACCORD studyから学ぶべきことは、HbA1cは動脈硬化の指標ではない、ということである。血糖コントロールの目標だけでなく方法論も大事である。糖尿病の病態を完全に正常化しなければならない。75g-GTTをすべきである。日本人はインスリン分泌が低い。代償能力が低い。低血糖を避けるためにはSU剤を使うべきでない。大血管病変を予防する治療法がよい。HDLを上げる。

洪尚樹氏は、教授等の権威の意見だけが尊重されていると批判した。一部当たっている面もあろう。しかしながら、低血糖の害だけを強調し、高血糖の害については全く語らなかった。「75g-GTTを実施しなければインスリン分泌が機能ができない」という前提で75g-GTTを実施しない医師を批判しているが、そのこと自体にどれだけの根拠があるのか不明であり、彼自体が凝り固まった意見に落ち込んでいるという印象を受けた。TZD薬の浮腫、骨折、心不全、膀胱がんが多い、という害も無視していた。(山本和利)

2011年5月27日金曜日

家事労働

『お母さんは忙しくなるばかり 家事労働とテクノロジーの社会史』(ルース・シュウォーツ・コーワン著、法政大学出版、2010年)を読んでみた。27年前に書かれた家事労働に関する学術書である。昨年、翻訳された。

家事労働と市場労働の違い
1.不払い労働である
2.孤立した労働環境である
3.専門化されていない労働者である

家事労働と市場労働の類似点
1.電気や燃料などの動力・エネルギーに頼る
2.社会的経済的ネットワークに依存する
3.労働を可能にする道具類を自分自身で修理できない

「テクノロジーシステムが導入されても、家事労働は軽減していない」というのが本書の要旨である。
かつては、生業と家族生活の労働は、男・女・子どもで分担されていた。それが19世紀以来の工業化によって、衣食住の資材は自給するのではなく、外部から供給され購入されるようになった。それによって、男と子どもで分担していたチョア(日常の辛い仕事:革細工、家畜屠冊、燃料集め等)はなくなったのに、主婦のチョアだけが家庭に残った。家畜を使った運搬は男の仕事であったのに、車が普及してからそれが女性の仕事にされてしまい、女の負担が増えたという洞察は興味深い。女のチョアが軽減していないということについて各時代の資料を紐解いて、丁寧に解説をしている。

今後、数世代たっても家事労働はなくならないであろうし、働く妻や母が生活しやすいようにテクノロジーシステムが変化することはないだろうと著者は推察している。

著者の家事労働に対する意味づけは次のようである。
今日の主婦はこれまでのパンや布、衣服などとは異なった大変重要なものを生産している。それは健康な人々やコミュニティの経済に欠かせない必要な人々を生産していることである。これが現代の家事の意味であり価値である。

全く同感である。テクノロジーの発達によってチョアから解放された男として生まれたが、家事として残されたチョアを少しでも分担しようと本書を読んで決意をした次第である。「どうせ三日坊主であろう」と当てにしていない妻の顔が目に浮かぶが・・・。(山本和利)

2011年5月26日木曜日

1年生 医学史 講義 その3

本日は医学部1年生に医学史の講義をした。
毎度のことだが、自分で講義をするわけではなく、与えられたテーマに対し、学生諸君によりプレゼンテーションがなされ、学生諸君によりファシリテーションがされる授業である。

今回は女性医療者の視点というテーマで、シュビングとナイチンゲールであった。

まず、シュビングの班の発表。
冒頭「医学史検索ランキング」と称して、医学史の講義の中で与えられている人物のYahoo!検索の結果が発表された。1位が野口英世の74万件余りに対しシュビングは640件余りと、情報の少なさをアピールすることから始まった。

シュビングは統合失調症患者の看護の祖と言われ、それまでは「病」に焦点を当てた分類学が主流であった精神医学に「患者」に焦点を当てた精神医学をもたらした看護師である。

患者の思いに寄り添い、患者の訴えに直感で反応し、患者の求めに応える準備をする。患者は医師の言うとおりにしていればよいというそれまでのパターナリズムからの脱却を意味していた。

それらを分かりやすく紹介するために、今回の医学史の発表では初めて動画を用いた発表がなされた。しかも、YouTubeのダウンロードではなく、実際に班員どうしで医師患者役となって行なった寸劇を録画したものであった。う~ん、手が込んでいる。

動画の中で、それまで自分の治療に疑問を訴えてずっとうつむいていた患者(役の学生)が、シュビング(役の学生)の問いかけに対し顔を上げ、シュビング(役の学生)と手を取り合うところには感動した。(会場はかなりウケていた)

少ない情報の中でのまとめは大変であったであろうが、非常にコンパクトにまとまっており、わかりやすい発表であった。惜しむらくは、途中、やや原稿を読んでいるような箇所が何回かあったので、出来ればメモを見る程度に練習しておいたほうが良かったが、後半は会場に話しかけるような発表があり、アイコンタクトをしながらの発表が出来ていた。かなりの完成度であった。


後半はナイチンゲールの発表であった。
ナイチンゲールは先程の班のYahoo!検索では堂々第2位の70万件あまりのヒットがあったようだ。
情報が多ければやりやすいというものでもなく、そこからいかに発表するべき情報を選択するかということこそが大変なのである。以前、プレゼンテーションのコツの授業の中で紹介した、「洗練を極めると簡素になる」というレオナルド・ダ・ビンチの言葉を思い出してほしい。

ナイチンゲールというと、誰もが白衣の天使や献身的な看護というイメージを思い浮かべるが、実際は非常にしっかりと現実を見つめ、学問や科学をもとに行動する「強い」女性なのであった。


裕福な家庭に生まれ育ったナイチンゲールであったが、家族で旅行した際に貧しい人達の現実を見て、それまで非常に地位の低かった「看護師」になることを決意し、周囲の反対にもかかわらず、「あきらめという言葉は私の辞書にはない」と言って看護師になったのであった。
  
看護師になった後にクリミア戦争の負傷兵の看護に携わったが、それまでは病院の衛生管理がひどく、戦争そのものによる死亡よりも、病院に収容されてからの感染症による死亡のほうが圧倒的に多いような現場であった。そうした現場の改善を訴えても、なかなか、受け入れてもらえない中、誰もがやりたがらなかったトイレ掃除を自ら積極的に行う中で、衛生管理の大切さを訴えていった。

そうした努力により、病院の衛生状態を改善し、それまで50%に近かった兵士の死亡率をわずか3ヶ月で5%にまで低下させたのであった。この時ランプを持ち夜回りをしているナイチンゲールの姿から、クリミアの天使という名前で呼ばれるようになり、現在の白衣の天使というイメージが出来上がったようだ。

しかしナイチンゲールの偉大な点はこのエピソードにとどまらず、こうしたデータを統計学という学問として発表したことであった。当時一般的でなかったグラフを活用したのも彼女であった。また、こうして得られたデータを病院建設や、看護の技術に応用し、後世に伝えたことも偉大なことであった。

また、「女性は自立しなければならない」として看護師の地位の向上や女性の地位の向上にも多大な貢献をした。さらに、「ボランティア精神によるものも大切だが、それには経済的な援助が欠かせない」として、自己犠牲による活動だけでは限界があることもしっかりと訴えている。

まさに現在の地域医療は、一部の医療者の献身的な「自己犠牲」の上にかろうじて成り立っているのであるが、それだけでは早晩間違いなく地域医療は崩壊するであろう。(もうすでに崩壊しているが)そんなことを150年近く前から見抜いていたということにはただただ感嘆するばかりである。

発表の構想(ストーリー)は非常に分かりやすく、またそれを説明するための事例を効果的に配置し、スライドも適切にイラストや写真・効果音などを用いていた。また、要所要所にナイチンゲールの生の言葉を入れることにより、彼女の人となりを訴えるのに非常に効果的であった。30分の発表としての完成度はかなり高いものだと思われた。

この班は自分たちのパソコンを持ち込んでの(気合の入った)発表であったが、プロジェクターに繋いだ瞬間、それまでパソコン内で順調に作動していたPowerPointが突然おかしくなり、発表開始が5分程度遅れてしまった。事前の準備不足を指摘されても仕方がない部分ではあるが、やはり、実際にプロジェクターに写してみての動作確認は必要だったかもしれない。発表の完成度が高かっただけに非常に残念である。


このトラブルの間の時間を利用して、学生諸君に以下のようなファシリテーションの極意を伝えた。
「こうした突発的なトラブルが起きたとき、この間(ま)をつなぐことこそ、ファシリテーターの重要な仕事であり、予想だにしない事態に対しても、臨機応変に対応し、会場の雰囲気を掌握することが大切である」と。

水泳はプールでしか教えられない。スキーはゲレンデでしか教えられない。臨床は患者の前でしか教えられない。ファシリテーションも実際のファシリテーションの現場でしか教えられない。

今日はその当たり前のことを実感し、学生諸君にも伝えられたのではないだろうか?

次回以降の授業もホント楽しみだ。


                             (助教 松浦武志)

2011年5月25日水曜日

時計遺伝子

『時計遺伝子の正体』(NHKサイエンスZERO著、NHK出版、2011年)を読んでみた。

体内時計の中心は脳(視交叉上核)にある。ここが破壊されると24時間のリズムが刻めなくなる。ここに第一の性質を形成する24時間でリズムを刻む「時計細胞」が集まっている(中枢時計)が、実は精巣以外のどこにもあるらしい(末梢時計)。これらの機能を狂わすものに「光」がある。光の影響を受けることで体内時計を調整している(第2の性質)。時計を遅らせる方が進めさせることよう簡単である。また「温度に左右されない」という第3の性質がある。

時間と疾患の関係もいくつか分かってきた。体内時計と血圧との関係では、時計遺伝子を失ったマウスは急激に血圧が上昇する。その原因として血中アルドステロン値が上昇しているが考えられている。
アレルギー性鼻炎は午前7時に、脳出血は午後7時頃に起こりやすいといわれている。がん細胞には増殖しやすい時間帯がある。このような情報が今後の医療に活かされるかもしれない。

長時間のリズムにも対応する細胞があるという。日照時間が長くなると分泌される「春ホルモン(TSHβ)」もある。「カレンダー遺伝子」も発見されている。

ヒトゲノムの解読が完了したが、「どの遺伝子がどのように働いているか」はまだまだ解明されていない。規則正しい生活をすることが大切であることは間違いないが、個々によって健康によい生活パターンがあるのかどうかは今後の研究成果を待たなければならない。それまでは無茶な生活をしないということを心掛けるくらいしかなさそうである。(山本和利)

2011年5月24日火曜日

戦争広告代理店

『ドキュメント 戦争広告代理店 情報操作とボツニア紛争』(高木徹著、講談社、2002年)を読んでみた。

著者はNHKのディレクター。本書は第1回新潮ドキュメンタリ賞、第24回講談社ノンフィクション賞を受賞している。

多民族国家であるユーゴスラビアはチトーの死によって崩壊した。その後、分裂し、ミロシェビッチ率いるセルビア人とそこからの脱却を図る各民族との紛争が始まった。スロベニアとクロワチアは少数のよそ者を追いだして独立が完結したが、ボスニア・ヘルツェゴビナはそうはいかなかった。モスリムを中心に独立を決めてしまったが、セルビア人は反発した。

本書は、戦争について情報戦が重要であることを、ボツニア紛争を通じて強調している。

政府に代わってPR(public relations)をする仕事があるという。「ボスニア・ヘルツェゴビナの窮状を世界に訴え、セルビア人の野蛮な行為を世界に知らせる」仕事を請け負ったのがルーダー・フィン社のジム・ハーフである。まず「ボスニアファックス通信」を大手メディアに送った。そして大手記者の外相への単独インタービュを企画した。外相をニュースショウに出演させ、彼の本性を隠すようにコーチをして「過去を語るのを止め、現在に何が起こっているか」を語らせ、悲劇の主人公の憂いを印象付けた。このような小さな努力を積み重ねた。しかしながら、これだけでは忘れ去られてしまう。

そこでキャッチコピーを作った。「ホロコースト」にしようとしたが、米国のユダヤ人が不快を示した。そこで「民族浄化(ethnic cleansing)」という言葉にした。これがボスニア紛争の勝利の行方を左右した。これを広めるため、あらゆる論説委員会議に出席した。その結果、1992年7月、米国の有力雑誌のこの言葉が頻繁に使われるようになった。その後も、米国大統領に接近している。

一方、ミロシェビッチ率いるセルビアもPR活動をしている。しかしながら、「鉄条網ごしの痩せた男」の映像を用いて、モスリムが「強制収容所」に入れられているというナチスを連想させるストーリーが新聞に掲載されるようになり、セルビアはそれになぞられて追及されてとうとう逆襲はならなかった。そして、民間PR会社との契約も破棄してしまった。「強制収容所」は存在しないと説く中立的な米国軍人の発言もジム・ハーフが葬り去ってしまう。その後、和平合意が成立するが、すでにこの時点でPR戦争の勝敗は決していたのである。実は「強制収容所」があったのかどうか今も定かではない。情報戦に力を注いだボスニア・ヘルツェゴビナの勝利である。

著者は、日本の外交当局のPRセンスは極めて低いレベルにあると評価している。これは構造的な問題で、日本では大学を卒業してすぐ外務省に入り、外に出て経験を積むことはなく、一生その中で生きてゆく外交官が大半だからである。日本の国際的地位が低下するのは目に見えている。

本書を読むと、情報PRの重要性と不祥事発生時の危機管理の備えの必要性を痛感する。(山本和利)

2011年5月23日月曜日

日本プライマリ・ケア連合学会理事会

5月22日、東京の医師会館で開催されたプライマリ・ケア連合学会理事会に参加した。
はじめに前沢理事長の挨拶。東日本大震災への学会員の参加に言及。日本医学会加盟を報告。

<報告事項>
・役員選挙規定の修正案。1)全国8ブロックとする。2)代議員数は正会員10名当たり1名とする(約600名)。3)全国区選出理事は正会員数500名当たり1名とする(12名)。4)ブロック選出理事は正会員数300名当たり1名とする(18名)。
・PTCA(Primary-Care for All Team)についての報告。プランA)診療所医師への代診医を派遣。B)医療スタッフをチームで派遣。C)マタニティケアのできる医療スタッフを派遣。
・第2回学術大会に準備状況が報告された。
・各種委員会からの報告があった。
秋期セミナーの開催は
   10月8.9日に、東京医科歯科大学
   11月5、6日に、大阪科学技術センター、の予定である。

<協議事項>
・医学会加盟記念式典について。
6月19日12時~14時まで。ホテル東京ガーデンパレス2F高千穂の間。参加費1万円。
・PCAT事務機能の拡大について
本部を宮城県涌谷町医療福祉センターに移動し、支援金を使って事務員を雇用する。若干の機能は東京にも残す。
・後期研修医の被災地派遣について
長期的な支援が必要である。後期研修プログラムに登録している研修医に研修の一環としてできるだけ参加して欲しい。研修のどこに組み込むのか?受験をしたときポートフォリオの評価のとき考慮する。様々な意見が出され、熱い議論が交わされた。
・社員総会向け議案
1)選挙管理委員会の設置
2)2012年、2013年度の学術開催地について
2012年は福岡市で9月1,2日、2013年は仙台市。
3)2011年事業計画について
公認会計士・税理士が入って作成することになった。
4)その他

次回の理事会は2011年7月1日、16:00~17:30。ロイトン札幌3Fロイトンホール(山本和利)

2011年5月22日日曜日

命の水を求めて

5月21日、札幌市のエルプラザで開催された中村哲氏の「命の水を求めて」という講演会を拝聴した。立ち見がでるほどの盛況ぶりである。学生や研修医の実習でお世話になっている地元医師もみえていた。司会役として札幌医大の私がよく知っている学生さんが登場し驚いた。

第一声は「自然は待ってくれない。」アフガンの様子をビデオで提示しようとしたが、映像が出ないというアクシデント。

28年間の活動を振り返った。現在、ペシャワールは治安が悪い。パキスタンの北西部とアフガニスタン東部は同じ民族同じ言葉。山国である。面積は日本の1.7倍。地域自治が発達している。雪が貴重な水源である。イスラム教。モスク中心。貧富の差が大きい。文化の枠組みの中で最善を尽くす。これまでの医療支援は先進国の都合であって、現地の人のためにはなっていなかった。方針展開をし、ハンセン氏病以外も診ることにした。戦争終結後、世紀の大干ばつが襲った。水不足で汚染水を飲み、慢性下痢で死亡する。

そこで水路建設に乗り出した。アフガンで役に立ったのは日本における江戸時代の工法であった。電気や石油に依存せずにりっぱに水路を保ち、防災機能も果たしているという。東日本大震災後に日本が模倣すべきは、江戸時代の工法やその思想ではなかろうか。

水路完成後に砂漠が緑に覆われた農地の写真はいつ見ても感動する。

講演後の質問コーナー
「リーダーとしての心構えは?」「ニーズがリーダーをつくる。そのなかで芽生える」と。
「支援活動で一番大事なことは?」「人々の期待を裏切らない。裏切られても裏切らない」
「世界平和に貢献するために、今高校生は何をすべきか?」「世界平和といって他国に関わる者は実はろくなことをしていない。まず身近のところの安全・平和を目指すべきである。いじめをなくす、家庭の平穏、等」

人間としてのスケールの大きさを感じさせる講演であり、質疑応答であった。弱者に寄り添い、権力者に立ち向かって行動している人の、聴講者に元気を与えてくれる講演会であった。(山本和利)

糖質カウント法

5月21日、札幌市で開催された日本糖尿病会の「食事療法の新たな展開~食品交換表と糖質カウントをめぐって」というシンポジウムを拝聴した。

<糖質カウント法の考え方とその功罪>
東京女子医科大学の内潟安子氏。「食事内容、時間、間隔、回数に留意する」ことが一番重要である。炭水化物とは、単糖類、二糖類、多糖類(食物繊維を除くべきだが、含まれて表示される)。グルコース以外の単糖類は血液中の糖分という形をとらない。
利点:総カロリーの60%を占め、コンビニ食に表示されている。速く糖分になり、血糖値に反映されるが、速く下がる。交換表の分類に関係なく、一括して考えられる。グライセミックインデックス(調理法の差)を考慮していない。食後高血糖が動脈硬化を促進させると言われるが、高タンパク、高脂質食にするとさらに進む。
欠点:エネルギーにならないグラム数が含まれる。低血糖の危険がある。食物繊維が多い方が血糖は上がりにくい。

<1型糖尿病への適用>
大阪市立大学の川村智氏。良好な血糖コントロールを得るための鍵である。糖質カウント法をしても肥満にはならない。これまで1型糖尿病患者さんは「食べることを我慢していた」糖質カウント法を導入することにより、平均HbA1c;7.3%でまで低下してきている。。
「食前超速効インスリン量は炭水化物量に比例する」が基本である。DAFNE study(2002年)が基本論文である。簡単な覚え方、ご飯1杯=インスリン5単位、2杯=10単位。
コンビニおにぎり120g:4カーボ。

30単位以上の患者さんの場合は次の点が基本である。
インスリン/カーボ比=1.0
インスリン効果値:50(インスリン1単位で血糖値を50mg下げる)

<1型糖尿病以外への適用>
徳島大学の黒田暁生氏。糖質量が変化すると血糖値が変わる。食事量に合わせてインスリンを打つ。摂取する糖質の適量を具体的に患者さんに示す必要がある。一定量の炭水化物をとる。主食の糖質カウントを考える。総カロリーの60%とすると220-240gである。
簡単な計算法。指示カロリー÷20=1食の糖質量。1600カロリーなら80gとなる。
患者さんへの指導として、オカズは病院並みに食べる(20g)。食後血糖値を月10回SMBGをして、その目標値を140mg/dlとする。野菜を先に食べると血糖値が上がりにくいという報告がある。運動により胃排泄が抑制されるようだ。

<糖質カウント法指導の要点>
日本女子大学の丸山千寿子氏。血糖値を異常に上げないことを目指す。糖分だけの食事より他の類が入った食事の方が血糖値は低くなる。炭水化物は差し引き法で計算されている。栄養表示は+-20%誤差が許されている。

<食品交換表の近未来>
京都大学の幣憲一郎氏。交換表は教育媒体であるが、糖質カウントは指導方法である。交換表に糖質量、食物繊維量を盛り込む。別表にする案を検討中。交換表の4版までは、「糖質は一日100g以上」という表現があった。1単位あたり表1のご飯類は平均18gの糖質、表2の果物は20gと思えばよい。各食事の糖質量を平均化すると血糖値の安定化に向かう。目標血糖値を入れるかどうか。カーボよりも糖質という言葉で統一したい。パターナリスティクは表現を修正して欲しいという意見がフロアから出された。エンパワーメント・アプローチが大事である。

はじめて、栄養士や食事療法を中心に研究している医師の講演会に出席したが、新しいエビデンスが多く出てきており、大変臨床に役立つ情報を手に入れることができた。この領域を少し勉強してみたい!(山本和利)

2011年5月21日土曜日

糖尿病性腎症

5月20日、札幌市で開催された日本糖尿病会の「糖尿病性腎症合同委員会ジョイントシンポジウム」を拝聴した。糖尿病腎症の病態は、輸入細動脈の拡張し糸球体静水圧の上昇し(さらに肥満に脂質異常症があると)糸球体障害を引き起こす。

<食事療法>
聖マリアンナ大学の木村健二郎氏。
・食塩感受性となっている。食塩摂取の制限は6g/日未満。(タンパク尿抑制効果のあるARBを使用する。)
・タンパク質摂取量の制限。重症患者のエビデンスはある。軽度の制限:0.6-0.8g/kg/日を実施すると尿タンパク質が低下し、血清アルブミンが上昇する(RRR:31%,NNT;13である。)
・エネルギー摂取は健常人と同程度でよい。実際には30-35kcal/kg/日。肥満者には25kcal/kg/日も可能である。

<肥満糖尿病性腎症患者の緩解をめざして>
秋田県成人病医療センターの猪股茂樹氏。体重を減らすとタンパク尿が減る。1kg の減量でタンパク尿が110mg減る。有効な抗肥満薬はない。高度肥満者に外科療法を行い50kgくらい減量するとタンパク尿が消失するという報告が多い。肥満者には20-25kcal/kg/日を推奨したい。非肥満者は25-32kcal/kg/日を推奨(活動量も考慮して個別化する必要あり)。

<タンパク質摂取の腎保護作用>
金沢医科大学の古家大寛祐氏。目標は0.3-0.8g/kg/日であるが実際には0.6-1.1g/kg/日である。総死亡+末期腎障害のRRR:73%。通常のタンパク質制限による腎機能の低下速度は変化がない。厳格に0.5g/kg/日にすると有意に遅延を認める。
・参考:低タンパク質食が筋ジストロフィーを改善する(マウスの実験)。

<透析患者の血糖コントロールの指標>
大阪市立大学の稲葉雅章氏。透析患者の90%がエリスロポエチンを使用している。血糖評価についてHbA1cは30%程度過小評価になっている。貧血が進むと見かけ上HbA1cが低く見える。HbA1c値とアルブミン値とは無関係であった。透析患者ではグリコアルブミンの方が血糖値をうまく反映するようだ。動脈硬化(手の石灰化を指標)は透析率、グリコアルブミンとの相関が高い(HbA1cとは相関しない。過小評価されているから)。グリコアルブミンを20%以下にすることが目標である(低すぎると低栄養の可能性がある)。糖尿病透析患者の83%に冠動脈狭窄がある。糖尿病患者は20.4倍心血管イベントを起こしやすい。透析患者では貧血が強いほど生命予後が悪いが、糖尿病患者では貧血による差はない。

<日本糖尿病対策推進会議>
新潟の鈴木芳樹氏。糖尿病腎症合同委員会はガイドラインの作成。臨床研究・試験は大規模臨床試験を。日本糖尿病対策推進会議は教育・啓発を行っている。神経症、網膜症、腎症のポスターは日本医師会のHPから糖尿病学会のHPにリンクしている。患者実態調査を行った(20万例を集めた。平均64歳、95%が2型糖尿病, BMI:24.3, HbA1c;7.1%,神経症は47%であった。)腎症2万例を解析中。

透析患者のHbA1cは度過小評価になっていること、貧血は生命予後の悪化につながること、がわかった。大学の授業があるため最後まで聴講することができなかったが、上記の点くらいを知っているとプライマリケア医として困らないのではなかろうか。(山本和利)

2011年5月20日金曜日

EBM 治療編

5月20日、4年生のEBMの授業は「治療閾値」の復習から入った。その後、治療効果の指標について講義した。

論文を読むときに大事なことは、偶然ではないのか、バイアスがあるのではないかをチェックすることである。3つのバイアス(選択、測定、交絡)を説明した。

治療に関する論文を用いて、次の点を説明した。
エビデンスを正確に評価するためには,治療効果の指標を知らなければならない.そこで、いくつかの指標の計算法を示した.
・・・・・・・・・・・D + ・・D -
Exposure + ・・a ・・・b
Exposure - ・・c ・・・d

相対リスク:Relative risk(RR) は治療薬の偽薬に対する比で表の文字を使って表すと(a/a+b)/(c/c+d)と表される.相対リスク減少率:Relative risk reduction(RRR) は1からRRを引いた値である.表の文字を使って表すと1-{(a/a+b)/(c/c+d)}である.絶対リスク減少率:Absolute risk reduction(ARR)は両群のリスクの差をとった(c/c+d)-(a/a+b)と表される.従来,臨床上の有用性を示す指標として,主にRRRとARRが用いられてきた.現在でも,多くの権威ある医学雑誌の論文ではRRRが用いられている.

しかし,対照と比較した新しい治療法の有用性をRRRで表わすと,たとえば,最終集計時の死亡率が10%対5%も1%対0.5%も,同じように50%と表され,臨床上はわずかな差であっても大きな数字に置き換えられるため,読者に誤解を招きやすい.一方,ARRは純小数で表現されるため,個々の患者に応用しようとする場合に理解しにくい.

それらの欠点を解決するための指標がNumber Needed to Treat (NNT)である.NNTは1をARRで割った値をいう.対照となる治療ないし自然経過に加えて1例の効果を観察するためには,その治療を何人の患者に用いなければならないかという指標に置き換えられたことになる.

相対リスク(RR)はその薬剤の切れ味を表現している。自分の患者さんについて評価するときにはARRとNNTを使う方がよい.そうすることにより,1人の患者を救うためにどれだけの費用と薬が必要なのかがより明確になる.

治療法の効果の評価の際には、相対リスク(RR)だけでなくARR,NNTも計算すること。(山本和利)

医学英語

5月20日、1,2,3,4年生の特別推薦学生を対象にランチョンセミナー勉強会を開いた。講師は松前町立松前病院の木村眞司先生。16名の学生が参加。1年生の参加はなし。その他4名。

今回は医学英語。
前半は、学生から英語を知らない医学用語をだしてもらった。こんな言葉が出た。虫垂:appendix. 生検:biopsy、細胞診:cytology、くしゃみ:sneezing、胃もたれ:dyspepsia, heartburn、骨盤位:breech delivery。'-itis'は炎症であるが、本来はギリシャ語の形容詞(~の)であった。Inflamatio appendicitisがappendicitisになった。関節痛」joint pain, arthralgia。

途中、解剖の説明等を交えて進んだ。腰椎穿刺:lumber puncture、髄膜炎:meningitis、嘔気:nausea、めまい:dizziness, vertigo、息切れ:shortness of breath、dyspnea、これをSOBと略してはいけない。米国一般にはson of bitch(あばずれ女の息子)と思ってしまう。拡張型心筋症:dilated cardiomyopathy、下痢:diarrhea、loose stool、便秘:contipation。

後半は患者さんとの会話例を紹介。日本語は松前弁。
How long has it been going on? How long have you had it?  Do you have any other symptoms? Are you taking any medication? Do you have any allergies?
アスピリン(aspirin)はピリン(pyrine)系ではない。

日本語でも英語でも決まり切った言葉があるので、それを覚えればそんなに問題はない、というのが木村先生からの学生へのメッセージであった。(山本和利)

2型糖尿病の治療アルゴリスム

5月19日、札幌市で開催された日本糖尿病会の「IDFの新しい2型糖尿病の治療アルゴリスム アジアへの適応は」というシンポジウム(同時通訳付き)を拝聴した。

白人を対象にしたガイドラインがアジア人に適応できるかどうかを検討する会である。日本人でHbA1cが7%以上の患者が50%以上いる。

IDFのガイドライン。
オーストラリアのCoagiuri氏。世界的に通用するもので、特に途上国のことを考慮したものでなければならない。ひな形を提供するものである。2011年9月発表予定である。

エビデンスを検討した結果、HbA1cの目標値が変更になった。これまでHbA1cを6.5%以下としていた。しかしながら、最近のOutcome研究(ACCORD、ADVANCE、VADT)では顕著な結果がでなかった。逆に重篤な低血糖が上昇した。一方、総合的な加療を行ったSTENO2はHbA1c:7.9%であったが、合併症予防に大きな成果があった。以上からHbA1c:7.0%以下にしても大きな成果は期待できず、副作用を起こす率が増す。HbA1c:7.0-7.5%でよいのではないかという意見もある。
治療戦略
はじめは生活改善。駄目ならメトフォルミン。(最小血管予防のエビデンスがあるから。N数が少ない。大血管予防のエビデンスはない。低血糖が少ない。安価。腎機能低下患者には注意。)HbA1c:7.0%以下を目指す。次はどうするか。6種類の薬剤を用いると、その可能性として720の組み合わせが考えられる。SU剤かαGIを用いることを提言している。SU剤は心血管リスクを悪化させるという報告もある(1.2倍)。メトフォルミンとSU剤とを併用したRECORD研究で悪い報告はなかった。その次はインスリンかDDP-4I,GLP-1(エビデンスが少ない。インスリンの使い方で差はない)。インスリン強化療法にするとHbA1cの達成率が10%改善する。中国はこれに近いガイドラインを採用している。

質問:メトフォルミン単独療法は15%が無効という報告もあるが、早期に併用療法をすべきか?HbA1cが高いときには併用可である。年齢制限はあるか?腎不全患者には注意。

日本のアルゴリスム。東京女子医科大学のSakura Yasuhiro氏。日本のHbA1cは低いので0.4%上乗せする。ガイドライン2010は世界のモノと違っている。HbA1cを6.5%としている。高齢者は7.4%以下。
治療戦略。生活改善。駄目ならSU剤かインスリンかDDP-4I。しかし一般開業医にはこの戦略を用いることは難しい。肥満者にはメトフォルミン。日本でメトフォルミンがファーストラインになっていないのはなぜか。日本では費用効果性を考慮していない。白人よりも肥満者が少ない。日本人でもメトフォルミンは効くというエビデンスがでてきている。

韓国の現状。韓国のKim Sungrae氏。若者の発症が多い。医療費が他の疾患より4.6倍高い。総額の10%が糖尿病。HbA1cをスクリーニングに用いている。ROCカーブから6.1%をカットオフ値とした(感度:85%、特異度:82%)。HbA1cが6.5%以上を糖尿病とする。
治療戦略。生活改善。HbA1cで分ける。8.0以下は単剤。8.0-10%は併用療法。10%以上はインスリンと内服薬併用。HbA1c:6.5%を目標とする。SU薬、メトフォルミン、インスリン抵抗改善薬の切れ味に差はなかった。

ガイドラインに何を求めるべきか。英国のEdwin Gale氏。多国籍介入研究者。ガイドラインは行動様式を変える。義務を強制しない。必ず選択肢が提供されている。価値判断で補完する。患者の定義が明確、選択肢が2つ等では迷いがない。ベストのアドバイスを目指す。組織をベースにして個人へ適用し、見返りとなる価値を求める。体重維持(QOL)かHbA1cの低下か等、目標が患者と医師とでは異なる。拘束力のあるモノとないモノがある(専門家の作ったガイドラインには拘束力はない)。不適切な適用により患者に害をもたらすことがある。ガイドラインは良い医師の代わりにはならない。

総合討論:なぜ多くの患者が目標を達成できないのか?目標HbA1c値が高過ぎるから。高齢者には目標値がキツイかもしれない。糖尿病は進行性の疾患であるから、罹患期間が長いと薬剤が効かなくなる。インスリン治療に早期に切り替えることを勧めたい。しかしながらインスリンを適切に用いて来たのかという疑問がある。症状がないことが多いので患者の認識が低い。低血糖を一度経験すると血糖値を下げるのを怖がる。
HbA1cが7.5%を越えると最小血管合併症が増えると思うが、HbA1cの適性値はどのくらいか?「個々の患者で異なる(個別にリスク計算をする))」というのが答えである。
肥満の有無で治療戦略を変えるか?IDFでは、単純さを保つため区別をしないが、個々の患者にはその患者のデータを尊重して決めるべきである。SU薬を一まとめにして議論しない方がよい。DDP-4Iはどうか?興味深いが安全性の長期データがない(膵炎の発症)。コストが高い。欧米では効果は高くない。日本では効果がある。

感想。
これまでよりもHbA1cの達成目標が緩和された。糖尿病治療もほどほどを目指すのがよいということに落ち着きそうである。私の印象として、ファーストラインの薬剤は、SU薬、メトフォルミン、DDP-4Iあたりがよいのではなかろうか。DDP-4Iは安全性のエビデンスが少なく、欧米では日本ほど人気は高くないようだ。(山本和利)

インスリン注入ポンプの進歩

5月19日、札幌市で開催された日本糖尿病会の「インスリン注入デヴァイスの開発」というセミナーを拝聴した。講師は米国のScott W. Lee氏である。

インスリン治療をしている患者にとって低血糖は大きな問題である。様々なインスリン製剤が発売され簡単にインスリン強化療法が導入できるようによりHbA1cが著明に改善するようになった。しかしながら、コントロール良好群であればあるほど、細かく血糖をモニターしてみると夜間などに低血糖がかなりみられるという。そこで、インスリン注入デヴァイスを用いて血糖コントロールを行うと、低血糖の頻度が減り且つHbA1Cが改善するという触れ込みである。注入の仕方も生理的な分泌を考慮して3種類あるという。そうは言っても糖尿病専門医以外がこれに取り組むには少し敷居が高そうである。

費用がどのくらい嵩むのかわからないが、インスリンの基礎分泌が著しく低下した低血糖と高血糖と繰り返す患者さんには適用があるかもしれない。(山本和利)

2011年5月19日木曜日

1年生 医学史 講義 その2

医学部1年生に医学史の講義をした。
といっても、先週のブログにも書いたとおり、学生がプレゼンテーションし、学生がファシリテーションする授業である。

今日は、ガレノスとベサリウスであった。

ガレノスとはヒポクラテスの跡を継いだ医学者で、その後1500年にも渡り、「医学とはガレノスのことをいう」とまで言われた医学者である。当時としては画期的な手術(白内障の手術)を行ったり、膨大な医学知識を書物としてまとめ、後世に残したりと、その功績は輝かしいものがある。

しかし、そのわりにあまり現代に名が知られることとならなかったのには、彼の功罪の罪の部分が大きかったためであろう。

自分以外の学説を認めなかったことや、当時の神学の影響を無視できなかったことなどから(今となっては)間違いの記述も多かった事などがあるようだ。しかもそれを体系的な書物としてまとめたために、彼の学説を否定する医学者が現れなかったようだ。解剖学なども、「人体はガレノスの言うとおりのはずである」とされ、ガレノスの記述と違う人体構造が見られたときは、「ガレノスの記述のあと、人体が変化したのだ」と認識されていたようだ。そのため、のちにベサリウスが出現する1500年もの間の医学の進歩を妨げた一面もあるようだ。

それにしても、1500年間も自らの学説が覆らなかったとは、、、すごいとしかいいようがない。我々が常日頃勉強しているEBMの世界では5年間に半分のEvidenceは嘘になるとさえ言われているのに、、、、1500年ですか。。。。


プレゼンテーションとしては、プレゼンターが積極的に学生に意見を求めたりする場面もあり、発表に変化をつけようという工夫が随所に見られた。

その反面、どの班にも言えることだが、発表や調べ物を班員5人でそれぞれに分担すると、どうしても統一感やストーリー(物語・構想)の一貫性にかける面があるようだ。

ただ、その分、班員全員のプレゼンテーションを見ることができ、それぞれの工夫の跡を伺うことができるのでその点ではメリットもあろうか?どの人も、なんとか原稿を読まないで発表しようという工夫の跡は見られていた。


後半の班は、ガレノスのあと1500年を経て登場したベサリウスの発表であった。松浦はこの班の指導をしたのであるが、正直、彼らが調べてくるまでは「ベサリウスって誰?」状態であった。

それまで、解剖に関しては、高貴な医学部の教授が実際に手を下して行うものではなく、ガレノスの記した書物を読み、そのとおりであることを確認するために身分の低い床屋に刃物で人体を切り刻ませていたようだ。そんな中、幼少の頃から動物を解剖して育ったベサリウスが、自ら執刀して解剖を行い、そのままを記載して書物を記したとされる。ベサリウスの解剖学書である「ファブリカ」の中には、中央にベサリウスが執刀する絵が描かれている。

ベサリウスの記した解剖学書は、非常に芸術的で細部にわたり人体のそのままを記載していったとのことだ。それまではいい加減に俗説が信じこまれていた脳に関しても詳細な記載があることにはただただ驚く。

その影には、圧倒的な努力の跡が伺える。当時はまだ防腐剤が発達しておらず、解剖する遺体はみるみるうちに腐敗するため、短時間で詳細な記録を残さねばならない。また、解剖の機会を「奪ってでもする」ために郊外の処刑台から死体を盗んだり、土葬された墓を荒らして人骨を奪ったり、時には野犬に襲われながらも死体の回収をしたりしていたようだ。

こうしたベサリウスの功績から自分たちが学ぶこととして、翌年に控えた解剖学実習に向けて、教科書を読むだけでなく、目の前のご遺体の真実に目を向けて勉強しようという意気込みを宣言して発表は終了した。


この班は、5人で発表ではなく、2人に絞って発表を行っていた。2人に絞ったおかげで発表に統一感が出て、非常に分かりやすいものとなっていた。スライド内の挿絵の質も素晴らしく、ガレノスとベサリウスの違いが一目瞭然であった。惜しむらくはもう少しベサリウスの凄いところを大げさに強調したりして抑揚をつけても良かったかもしれない。

しかし、最後の、今後の解剖学実習へ向けての意気込みの宣言は、彼らのやる気を感じることができた。こうした次へのステップに繋がる勉強というのは非常に効率のよい勉強方法であろう。ぜひいろいろな場面で利用していきたいものである。


ファシリテーションは、15分と時間が短いこともあり、当初紹介した「バズセッション」以外の工夫の余地が無いという感じであったが、「何か質問ありますかぁ?」と突然聞いてもなかなか反応が乏しいのと同じように「何か周りで話しあってください」と突然言っても、何を話しあえばいいかわからない場合も多々あるであろう。ファシリテーションをする班は、当日の発表を聞いて、「〇〇についてどう思うか班としての意見をまとめてみてください」などのある一定の方向づけをしてもいいかもしれないとアドバイスしてみた。

良いファシリテーションは経験からしか学べない。彼らが授業を通して経験を積んでいく過程で、より良い知恵ややり方を小出しに小出しにしていくことのほうがより学習効果は高いと思う。

この講義はあと半年続くが、その間に松浦があっと驚くような見事なファシリテーションをしてくれる班が出現することを期待したい。

                          (助教 松浦武志)

災害時の糖尿病医療

5月19日、札幌市で開催された第54回日本糖尿病会年次学術集会の「災害時の糖尿病医療」というシンポジウムを拝聴した。

新潟沖地震からの教訓を八幡和明先生が報告。土曜日の夕刻発生。入院患者・職員の安全確認。食事をとれない患者の低血糖が発生。救急患者の来院。インスリンのない1型糖尿病は救急対応が必要。生命を守る。糖尿病の治療が可能か。近隣の病院と助け合う。患者さんと繋がること。患者さんのところへ出かける。避難所では普段食べてはいけないと言われた食品しかでない。被災者は日常生活から遮断され、プライバシーがない。心のケアが必要。震災対応マニュアルを作成することを提言。

東日本大震災への大学の対応。東北大学の石垣泰氏。地震発生後、ただちに患者・職員の安全確認をした。まず非常食の配布。県内のインスリン備蓄確認。周辺の調剤薬局の状況把握。糖尿病専門医の情報共有化。インスリン、関連資材の支援。ガソリン不足が深刻であった。学会主導でインスリン相談電話の設置後、243件受信。そのうち最初の4日間に集中していた。被災地医療機関からの200名以上の患者受け入れ。災害医療コーディネーターと連携し、糖尿病巡回チームを派遣した。そこでは無理のある治療法の変更、SMBGのチェック等を行った。避難所における継続的な糖尿病専門診療が必要である。

地域医療の立場から。医師であり元市長の熊坂義裕氏。負傷者が少ない。ほとんど死亡者。38.9mの津波。原爆被災地と似ている。元々医師不足。有志で巡回診療を開始。津波でインスリンを流された人が多い。学会からインスリンが240本届いた。心強い。インスリンが手元にない患者が20km先から受診。ガソリン不足で動けない。仮設住宅の生活が始まる。被災後、糖尿病コントロールが悪化した者が多い。助かってよかった。ご飯が食べられてよかった。避難生活は甘いものを欲しがるようだ。

被災地外からの支援。名古屋医療センター加藤泰久氏。インスリンの輸送手段がない。配布先がわからない。高台にある小学校が活動場所。聴診器、体温計、サチュレーションモニター、血圧計。支援医師の印鑑が威力を発揮。患者のお薬手帳が威力を発揮。支援者は派遣先との連絡ばかりで、現地での従事者の連携調整が不足している。糖尿病診療の需要は大きい。災害時ほど個人情報が重要。電子カルテは使えない。アナログを無視できない。インスリンはライフラインである。インスリン依存患者の居住地区を把握する必要があろう。医療とは人の輪である。

兵庫医大の美内雅之氏。毎日、180名を診察。高齢者が多い。患者情報がない。感冒、高血圧、糖尿病が多い。SU薬を内服している患者が多かった。血糖測定器を持参。液体ブドウ糖が役立つ(水不足)。被災者の食べ物は菓子パン、カップラーメンが主。薬剤不足、小児薬の不足が目立った。

フロアからの発言。亜急性期に内科医師の不足。DMATへ糖尿病専門医の参加を提言。糖尿病、ワーファリン使用者への対応が重要。災害時の初動が大切。患者に災害時の対応を予め教えておくことが大切(予備のインスリン、内服薬の暗記)。他職種の支援者との横の連絡が不足していた。行政は透析、在宅酸素療法患者を災害弱者と認識しているが、糖尿病患者は含まれていない。行政への働きかけが必要。

木曜の午前なのに会場は満杯であり、参加者の関心の大きさを窺わせた。(山本和利)

5月の三水会

5月18日、札幌医科大学において三水会が行われた。参加者は14名。大門伸吾医師が司会進行。初期研修医:3名。後期研修医:6名。他:5名。

研修医から振り返り6題。
ある初期研修医のSEA。糖尿病と診断された70歳の女児。感冒で近医を受診。HbA1c:14%。血糖:420mg/dl。BMI:21.これまで検診で異常なし。抗GAD抗体陽性。SPIDDMの可能性もあり。SPIDDMについて発表。高齢発症のIDDMと言えないこともない。
クリニカル・パール:「糖尿病の患者をみて、すべて2型糖尿病と決めつけてはいけない。膵癌の可能性も考える。」

ある研修医。毎日忙しく内視鏡検査、外来、往診をしている。意識障害、痙攣の90歳女性。頻脈があり、慢性心不全がある。口から泡を吹いて呼びかけに反応しない状態で発見された(JCS-300)。除皮質硬直の体位。PO2:50台。痙攣が始まった。血糖、電解質異常なし。腎不全あり。PT-INR:4.6。
てんかん、脳血管障害、低酸素血症を鑑別に挙げた。CTで出血なし。家族は高度医療施設への搬送を希望せず。5時間後、反応がでてきた。左半身の麻痺が顕著になった。誤嚥性肺炎の所見あり、その治療を開始。48時間後、左半身を動かすようになった。「てんかん」ということなのだろうか。仮診断:RIND + epilepsy。
振り返り:「わけがわからないのでお願いします」と書いて、後方病院に搬送することは抵抗がある。何を根拠に転送を決めるのか? 病歴、身体診察だけで判断するのは難しい。
クリニカル・パール:「患者背景を考慮して、どのような対応をするか決めることが重要である。」

ある研修医。50歳代の1型糖尿病女性。網膜症、腎症あり。感冒罹患時にインスリンをスキップしたら高血糖になった。コントロール不良となった。調整をして改善していったが、もう少し早めに調整してあげればよかった。
入院中にコントロールがよくても、退院後にうまくゆくかは別問題ではないか。単にインスリンの打ち方だけの問題ではなく、摂取カロリーも影響しているのではないか。

ある研修医。79歳女性。右肘関節置換術。脳梗塞罹患。低アルブミン血症があり、腹水著明。経管栄養を開始。その後発熱が続き、XPで右肺に浸潤影? 誤嚥性肺炎と決めつけて抗菌薬・補液治療をしたが、心不全であった。思い込みをなくして、常に鑑別診断をしっかり挙げるべきであると思った。
抗菌薬を投与することは、問題はなかろう、という意見が出た。
クリニカル・パール:「診断を早期に決めつけない。」

ある研修医。治療と診断が遅れたイレウスの70歳代男性。自転車に乗って受診。下痢と腹部膨満感。XPでニボー像。絶食・補液で対応。CEA高値。CFで上行結腸までしか入らず。内視鏡施行医は感染性腸炎と診断し、その治療を開始した。生検の結果、癌細胞があることが判明した。
クリニカル・パール:「高齢者の遷延する下痢を見た時には、大腸癌を考慮すべきである。病態を説明できない1つの事項を大切にする。」

ある初期研修医。咳の続く23歳男性。アレルギー性鼻炎、喘息の既往。猫にアレルギーがあるが、猫を飼っている。季節の変わり目、布団の出し入れをした。慢性咳そうを調べた。その原因として日本で多いのは、アレルギー性鼻炎、咳喘息、副鼻腔症候群。北海道に夏型過敏性肺炎はない。経験的には、結核、COPD,百日咳を忘れないこと。

こんな患者がいた。中年肥満男性に起こった咳発作後の数秒の痙攣。診断は、咳による迷走神経失神。

今回は、疾患の診断や治療についての考察が多いカンファランスであった。次回は感情面や患者背景などを考慮した発表がもう少し欲しいと思った。(山本和利)

東日本大震災・被災地医療支援報告

札幌医科大学医療救護班の第9班として4/30(土)~5/7(土)の期間、岩手県宮古市へ被災地医療支援に行きました。メンバーは医師1名、看護師2名、薬剤師1名、事務員1名の総勢5名でした。

宮古に到着してまず保健所へ行き挨拶をした後、前班から業務の引き継ぎを行いました。避難所4か所を担当、午前・午後に分け診療にあたりました。避難所での診療は、連休中であることも影響して、被災者の方々は昼間、がれきの片付けで街に出掛けており、お年寄りや介護が必要な方が中心でした。避難所には介護保険の書類手続きが進まず施設入所が遅れている方、気切チューブを留置している方、被災後にヘルニアの手術を受けて、すでに退院して避難所で生活している方など様々な方が診察室を訪れました。小学校の校庭には次々と仮設住宅の建設が進められている中で、すでに連休前の時点で市内の診療所・調剤薬局は、ほぼ全てが再開されておりました。

我々5名の宿泊先は共生推進センター2階研修室。畳の上に座布団を引いて、ガムテープで固定して敷布団を作ったりして寝ていました。施設内は電気も、ガスも、水道も通っていて、水洗トイレも平常通り使えました。お風呂は向かいの銭湯を利用していました。食事は大学が用意してくれた保存食品を主に消費していましたが、外食も可能で、スーパーやコンビニの商品はとても充実していました。街は住宅や電柱がなぎ倒され、積み重なったがれきの山がある一方で、市内の魚菜市場では魚や帆立、毛蟹がならび家族連れの買物客で賑わっていました。

今回の被災地医療支援を通して強く感じたことは、限られた条件の中で、年齢や性別、疾患に捉われず診療できる医療班(チーム)が求められていることです。以前より、医師不足・地域医療崩壊が叫ばれていた地域で、継続性を持った医療の必要性を感じました。

被災地の皆様に謹んでお見舞い申し上げますと共に、一日も早い復旧、復興を心よりお祈り申し上げます。(河本一彦)

2011年5月18日水曜日

ドキドキ日当直

北海道に赴任し、初めて飛行機を使った移動で町立松前病医院に行ってきた。土日の日当直を担当するためである。

行きは札幌市内の丘珠より函館空港まで。初めてのプロペラ機に今回1回目のドキドキ。
やや興奮状態で機内に入ったものの、いつの間にか夢の世界に。乱気流(?)による激しい揺れでドッキとし目が覚めた。一瞬、3/11の東日本大震災を想起した。自分は当時山形県南部にある飯豊町の1人診療所に勤務しており、町内施設に約250人程度の被災者が訪れ初期対応に追われていた。停電や断水の状況で(他の地域と比べればかなり早く復旧したが)、すべての運用を電子カルテに依存していた体制で電子カルテが使用できないことは非常に痛手で内服さえわからないという状態であった。電気が復旧した当日、診療所スタッフ総出で直近カルテ並びに常用薬をひたすらプリントアウトしたことを昨日のように思い出す→回想1回目。

そんなことを思いながらやっと函館空港に到着。実は空港から松前まで105km、車で2時間程度とのこと。道内に住んでいる方にとって当然のことかもしれませんが、道内の方の地図の縮尺の感覚と、山形生まれ山形育ちの自分の感覚と明らかに異なるのです!!→カルチャーショック1回目。自分の感覚なら車で1時間もかからないと思っていたのがなんと2時間。皆さんは、日本地図で本州と北海道の縮尺が異なっているということご存知でしたか?道内の方にとっては常識だそうです(by 生まれも育ちも北海道民)。

長旅の末、病院長をはじめとする先生方と初対面、緊張しながらの懇親会。色々なお話を伺いながら、刺身のおいしさに感動。なんせ山育ちなので・・・。→カルチャーショック2回目。

翌朝、時間外の対応の仕方、医療圏や後方病院などの説明を丁寧に指導していただきようやく本来のミッションへ。実は2年ぶりの当直・・・・。ドキドキ計2回目。

入院適応など医学的・社会的面から考慮し入院への誘導、勿論、周囲スタッフの目を気にしました(よく研修医の頃、○○さんに怒られたな~、→回想2回目)。

昔の記憶を頼りに、バックアップの先生方、看護師さんをはじめとするスタッフの皆さんのご協力でなんとかミッション完了!!(転ばないように、先に○を用意してくれていたんだな~、やっぱり人って生かされているんだな~~ 回想3回目)。患者さんの方言がわからず通訳してもらったり、印象深い患者さんがいらっしゃったりなど伝えたいことはたくさんあるが、守秘義務があるため割愛する。

以上、乱文で申し訳ございませんが、道内での初当直を回想しながら綴ってみました。
謝罪というか、ここまで読んでくれた方々に感謝の意を込めてクイズです。この文章の中で自分は合計何ドキしたでしょうか?このブログが載って24時間以内に武田に正解をいただいた方にはもれなく◎○△□をプレゼントします。奮ってご回答お願いします。(武田真一)

2011年5月17日火曜日

FLAT症例勉強会(3)

5月17日、FLATのメンバーと第2回目の症例を用いた勉強会を行った。4年生4名、3年生2名が参加。

喫煙、アルコール多飲があり9kgの体重減少を主訴とする64歳男性。発熱、乾性咳嗽、全身倦怠感がある。身体診察:38.5℃、血圧:100/60mmHg、呼吸数:30/分、心拍数:126/分。右肺野にラ音を聴取。XPで右上葉に浸潤影があった。

肺結核の症例あった。診断や治療の仕方について、武田真一助教がone point講義をした。
次回は、6月7日12:30から地域医療総合医学講座で行う予定である。(山本和利)

学生アドバイザー制

5月16日、札幌医科大学の学生12名と懇談の場をもった。一人の教官が各学年2名で計12名を担当する。学生生活での悩みや問題点などを早期に発見して、学生生活を順調に行ってもらうために昨年度から導入された制度である。大学から1名に付き2回の会議で千円のお菓子代が支給される。

体調不良で事前に申し出のあった数名の学生が参加できなかったが、1時間弱和気藹々と雰囲気の中で学生生活について聞くことができた。(山本和利)

2011年5月15日日曜日

白いリボン

『白いリボン』(ミヒャエル・ハネケ監督:ドイツ 2009年)という映画を観た。 ミヒャエル・ハネケの映画は、人間の邪悪さを描いている。ファニー・ゲーム(これをリメイクしたファニー・ゲーム・USA)は、観客に邪悪さに耐える1時間半である。そんな彼が2009年のカンヌ映画祭でパルムドール大賞に輝いたのである。

第一次大戦前夜のドイツ北部のとある村を舞台に、医師の落馬事故をきっかけに起きる不可解な事件の数々をモノクロ映像で描き、人々の悪意や憎しみを浮き上がらせている。医師の落馬事故後、いくつかの事件が起こるが、最後までそれらの犯人ははっきりとは示されない。しかしながら、監督はよく見ると犯人はわかると言っている。

様々なジャーナリストがこの映画を観て、ナチスの台頭を予見させる等の深読みをして絶賛している。深読みができるということが、良い映画の条件なのかもしれない。タイトルにある「白いリボン」は、牧師が子供たちによい子でいるように願って“白いリボン”の儀式を言い渡し、その結果子供たちを束縛する道具として作用する。建前でよい人間になることを子供たちに求めながら、裏で不徳をなす大人たち。それを告発しているということなのだろうか。

ミヒャエル・ハネケの映画は、怖いモノ見たさで病みつきになる。「71フラグメンツ 」「ファニー・ゲーム 」「隠された記憶」もDVDで観てはいかがでしょうか。(山本和利)

2011年5月14日土曜日

世界犯罪機構

『世界犯罪機構 世界マフィアの「ボス」を尋ねる』(ミーシャ・グレニー著、光文社、2009年)を読んでみた。

著者はジャーナリストで歴史家。共産主義国の崩壊やコソボ戦争などを密着取材しており、記者として有名な賞を受けている。

コミュニズムが崩壊して、資本主義の天国となったのか。強権的な国家権力が消滅し、代わって台頭してきたのが犯罪組織である。訳者があとがきで、21世紀に入って、好戦的な米国、無能なEU,冷笑的なロシア、それに無関心な日本と揶揄している。そのような状況にインドと中国が野望をあらわにして世界に打って出て、多国籍な犯罪組織が活気に満ちた春を謳歌している、とまとめている。

本書は、第一部がコミュニズムの崩壊、第二部が金、ダイヤモンド、銀行、第三部がドラッグ、第四部が犯罪組織の将来、という構成である。世界をまたにかける様々な犯罪の実態を知ることができる。

読んでいるとまじめに生き行くのが厭になりかねないので、読む人は要注意である。(山本和利)

治療閾値

5月13日の4学年の授業では、オッズと尤度比を用いて検査後確率を求める計算法の復習をした。
ここでは確率をオッズに変換し、尤度比を用いて計算する。検査後確率を計算で求めるためには、オッズ(odds )と尤度比に置き換える.

覚えるべきことは、検査前オッズ×尤度比=検査後オッズという式である。これに慣れると暗算できるので便利である。数とこなして是非慣れ親しんで欲しい。

後半は、以下のような状況で考えてもらった.
「診断を十二指腸穿孔であるかどうかに的を絞る.治療は手術をするか,しないかの選択肢のみとする.」と仮定して話しをすすめた.その治療に関わる分岐点の値のことを治療閾値(t)と呼ぶ.今回はこの求め方について解説した.

ここでは結論だけ提示しておきたい。
 治療閾値(t)は治療で得られる利益(Benefits: B)と不利益(Costs: C)の割合によって決まる。まず治療によるBとは病気の場合に治療することによって得られる利益から病気があるのに治療されないときの不利益を差し引いた値と定義される.一方、病気がないときの治療は無駄な費用や医療過誤を引き起こす.それゆえ,治療がもたらすCは病気でないときに治療を控える利益から病気がないのに治療で被る不利益を差し引いた値と定義される。治療する選択肢の期待値と治療をしない選択肢の期待値が等しい確率Pが決断の分岐となる確率(t)であり、それを治療閾値と呼ぶ。BとCとで書き換えるとt=C/(C+B) または t=1/[(B/C)+1]と表すことができる。

「B/Cすなわち損失に対する利得の比率が大きければ,病気の確率が低くても治療を選択し、患者への利得が少ない場合はかなり病気の確率が高くないと治療を選択すべきでない」という常識的な答えが導かれる。(詳細を知りたい方は、2010年4月26日のブログを参照してください。)

講義前に学生に「胃がんである可能性がどのくらいあったら手術を受けるか」と質問したところ、大部分が50-70%と答えていた。授業後は(B/C)を勘案して、1%の可能性があれば手術を受けると考えを修正している学生が多くみられた。計算式にはついてゆけないが、この考え方ははじめて聞く内容であり、新鮮で感銘を受けたという意見が少なからずあった。このような基本的な考え方を習得しておくことは医師にとって不可欠であると思っているので、私が思った以上に学生に理解されて、大変うれしい。(山本和利)

2011年5月12日木曜日

1年生 医学史 講義

 今日は、医学部1年生に医学史の講義を行った。
 講義と言っても自分がするのではなく、学生が5-6人の班になり、1人の医学史上の人物について調べてきて授業時間内に発表を行うという形式である。これまでの2週間で、『プレゼンテーションのコツ』や『ファシリテーションのコツ』の授業をやってきたので、その内容をどこまで学生が汲みとってくれていたか楽しみな授業であもる。90分間に2班が発表する。

 本日は
 医学の始まり 『呪術』と『ギリシャ医学』であった。

 呪術の班は、冒頭、「医学史の最初を飾る発表が、うさん臭い「呪術」でいいのか?」と問題提起があったあと、日本やアジア・アフリカ・ヨーロッパの呪術についての発表があった。
 なかでも、日本の厄年についての調査が北海道大学で行われていたというのは面白かった。厄年の人とそうでない人の本人とその家族の死亡率を調べたところ、統計学的な有意差は全くないとのことであった。当たり前といえばあたりまえだが、数字で示されると、深く納得してしまう。しかし、日本では『お祓い』という行為によって、心の安寧秩序が保たれているのであるとのことであった。なるほど。

 その他、各地域の呪術的なものであっても現代に深く根づいているものもあるとのことであった。


 ギリシャ医学の班は、ギリシャ医学の中でも特に特徴的なヒポクラテスを取り上げ、ヒポクラテスが登場するまでの医学(=呪術)とヒポクラテスの医療についてとその後の影響について調べたようだ。
 特に、「ヒポクラテスの誓い」は9項目であるが、現代の医療倫理にも深く影響を及ぼしているようだ。有名な「Do No Harm」の精神や、医療に差別がないことなどを取り上げていた。しかし、現代の医療環境にそぐわない部分も出てきたため、現在「もはやヒポクラテスではいられない(=もはヒポ)』プロジェクトなるプロジェクトがあり、現代版ヒポクラテスの誓いをつくろうという動きがあることを紹介していた。

 その他、日本医師会の作成した、医の倫理マニュアルに『ヒポクラテス』の文字が11回も登場していることを引き合いに、その影響力を紹介していた。


 発表は2班ともきっちり30分で終了し、しっかりと準備してきていることをうかかがせた。
 とくに、スライドそのものは非常に工夫されており、各種アニメーションを駆使したり、画像を織り交ぜたりして、よくありがちな『スライデュメント』(スライド+ドキュメント(文章)の箇条書きスライドのこと)はほぼないに等しい状況であった。
 

 なにより松浦が感動したのは、プレゼンテーションの講義で最も強調した、「口でしゃべる内容を原稿にするな!」ということをしっかりと守り、スライドの『魅力的な』タイトルを見ながら、自らの言葉できちんと発表できていたことだ。誰一人、原稿を読んでいる人はいなかった!!


 発表後の質疑応答では、別の班に会場をファシリテートしてもらったが、ファシリテーションの授業で紹介したバズセッションを取り入れて、積極的に発言を促していた。
 ここで出てきた意見も、きちんとPNPフィードバックに基づいてきちんと発言できていた。まだまだぎこちないところもあるが、これから慣れていくであろう。

 講義後の学生の感想は、単に発表内容に関するものだけでなく、プレゼンテーションの仕方・スライドの作り方に関わるところに言及した感想が目立った。
 松浦がこれまで見てきた(自分が学生時代に受けた講義も含めて)学生に発表させる形式の授業の中では最も盛り上がったものであったと思う。今後発表予定の班は他の班の発表などを参考にしてすこしずつ工夫をしていくであろうし、確実にプレゼンテーション技術は向上してくであろう。

 学生諸君に、多少なりとも影響のある授業が出来ていたんだと確信した。
 
 今後の授業がとても楽しみだ。教育の仕事は面白い!

                           (助教 松浦武志)
 

物語と科学の統合

5月11日、教室勉強会で『Integrating Narrative Medicine and Evidence-based Medicine』(James P Meza著,Radcliffe Pubrishing, 2011年)を紹介した。

まず、大事なことはNarrative competenceを鍛えることである。すなわち、患者の語りの中に(患者の)意味付けを見いだすことが必要である。 そのためには、1)聴くこと 、2)Narrative medicineを実践するため、振り返りが不可欠である。

ナラティブとエビデンスの統合方法としてSix “A”sを紹介している。
・Acquire enough information to understand the patient’s concern
語りには意味があると考え、 その意味を明らかにすること、 患者が答えてほしい疑問
(Narrative dilemma)を見分けること。そして、語りと科学を統合し、 患者を苦悩から解放することにつなげる。

・Ask a clinical relevant question
混沌とした語りを答えられる疑問にする、患者が答えてほしい疑問か検討する。
 Patient
 Intervention
 Comparison
 Outcome

・Access information to answer the clinically relevant question
MedlineやGoogle Scholarで検索する。米国では81%の医師がそうしている。そして、21% の医師は患者と一緒にこの結果を診察室で供覧している。そして、一緒にナラティブをつくる。

・Assess the quality of the information
研究デザインを評価する。Case reports, case controlled study cohort study, meta-analysisのどれに当たるのかを。エビデンスのレベルの高さも考慮する。

・Apply the information to the clinical question
診断の文献では、感度/特異度 、有病率(事前確率) 、尤度比 、検査後確率に言及する。

・Assist the patient to make a decision
語りと科学を混ぜる 。検査を依頼する前に検査の意味を説明する。 そして、ナラティブを一緒につくる。

私自身、この10年間、生活者本位の医療をするためには、これまでの経験知を基にEBMとNBMを統合することが重要であると機会を見つけては話してきた。2011年、ついに私と同じ考えを持つ者がそれを一冊の本にまとめ上げた。(山本和利)

地域医療合同セミナーI

5月10日、札幌医科大学全学の1年生を対象に「地域医療合同セミナーI」という科目を選択してくれた54名の学生に「地域医療に必要なこと」という講義を行った。

山本のこれまでの自己紹介や活動紹介をしたあと、映画や本から仕入れた世界や日本の状況について提示し、学生と一緒に考える機会をもつことができた。身を乗り出すようにして聴講しているひとりひとりの学生の目に輝きがあった。

今後は両学部合同で行う選択授業が一年間に続く。(山本和利)
 

2011年5月10日火曜日

災害ユートピア

『災害ユートピア』(レベッカ・ソルニット著、亜紀書房、2010年)を読んでみた。

2011年3月11日に未曾有の地震・津波が東日本を襲った。世界中に災害の様子が報道された際に日本人の我慢強さ、礼儀正しさなどが注目された。そのようなことは世界中を探しても希有なことであると。しかしながら、日本以外では本当に人々は災害に遭ったときに野蛮な本能をむき出しにして、性的迫害や略奪をするのだろうか。そのような点について事例を挙げて反論したのが本書である。「災害によって、これまでにみられなかった利他の試み、協力する姿勢が芽生えるのだ」という点を様々な事例を挙げて紹介している。

第一章はサンフランシスコ地震における「楽園」の出現を記載している。このとき自発的に支援の輪が広がったという。「私たちは生きるために意味と目的を必要としている」とヴィクトール・フランクルの言葉が引用されている。「危機や喪失、欠乏を広く共有することで、生き抜いた者たちの間に親密な連帯感が生まれ、それが社会的孤立を乗り越えさせ、親しいコミュニケーションを提供し、物理的・心理的な援助と安心感の大きな源となる」ということらしい。

「革命とカーニバルと災害ユートピアは似ている」という指摘やその根拠を述べた記述は参考になる。

本書を読んで一番収穫があったのは、「災害時には個人よりも組織が問題を起こしやすい」「エリートはパニックを起こす」という点を知ったことである。

2001年9月11日のニューヨークでも、住民や消防隊員等は助け合いの輪を広げた。一方、米国政府はエリートパニックを市民には向けなかったが、国外の民族や組織に向けた、と指摘している。ニューオリンズのカトリーナ・ハリケーンでも、初期に住民の支援の輪が広がっていたのに、政府や報道機関がエリートパニックを起こし、ありもしないレイプや強奪情報を撒き散らして、本当に強奪を引き起こし、軍隊による被害地避難民への抑圧を引き起こして「災害ユートピア」を破壊したという。

東日本大震災で沢山のボランティアが被災地に集い「災害ユートピア」が現出している。医療過疎地が一時的にしろ医師過剰地区になっているところもある。これを契機に、「災害ユートピア」を是非「平時ユートピア」として継続して欲しいものである。政府に頼るとエリートパニックを起こし、折角のユートピアが破壊される可能性が高いというのが本書の指摘である。そうならないために、市民一人一人が知恵を絞り、行動しなければならない。(山本和利)

2011年5月9日月曜日

生き残る判断

『生き残る判断 生き残れない行動』(アマンダ・リプリー著、光文社、2009年)を読んでみた。

著者は「タイム」誌の記者。 災害に対する国土安全保障とリスクについて多数執筆している。本書は、災害に遭遇した際に人々はどのように行動するのかを解き明かそうとしている。実は、災害は予測できるが、災害にあって助かるかどうかは予測できないのである。

生存への行程の第一段階を「否認」、第二段階を「思考」、第三段階を「決定的瞬間」と呼ぶそうだ。はじめは現実を認められず、その後ショックから回復し、次に生死を分ける行動をとるという。「9.11」では世界貿易センターにいた人々が階段を下りるのに、安全担当技術者が予想していた二倍の時間がかかった。これは「否認」により、推測することに貴重な時間を費やしたからである。煙や炎を目のあたりにしても、否認は非常に強烈なものである。

ニューオリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」、ポトマック川旅客機墜落、スマトラ沖地震、等、さまざまな災害事例が記載されている。

確信が持てない場合ほど、ヒューリスティックス(近道思考)が増える。ヒューリスティックスは役立つ一方で、たくさんの間違いも犯す。男性のほうが、雷、ハリケーン、火事で死ぬ可能性が高いという。

回復力がある人は、三つの潜在的な長所を持つ。人生で起きることに自らが影響を及ぼすことができるという信念。人生に波乱が起きてもそこに意義深い目的を見いだす傾向。いい経験からも嫌な経験からも学ぶことができるという確信、だそうである。

最終段階は一瞬のうちに終わってしまう。それはタイミング、経験、感受性、運に左右される。パニックは3つの条件がある場合に起こる。第一に、閉じ込められているかもしれないと感じること。第二に全くどうすることもできないと感じること。第三に深い孤立感。

本書を読んでも災害に遭遇したときに生き残る確率が高くなるというようなタイトル通りにはなりそうにない。ある状況では、否認によって引き起こされた行動が命取りになるし、別の状況では救われることもあり得るからである。要は、日頃から災害に対して避難のための行動をシュミレーションして備えるということが一番大事であると再認識した。(山本和利)

2011年5月7日土曜日

臨床推論力向上を目指して

5月7日、札幌医大4年生に行っているEBM診断編の講義内容を、診療支援をしている病院の初期研修医3名に講義をした。まず検査前確率を想定して、検査の(感度・特異度)を用いて検査後確率を計算してもらった。

『Learning Clinical Reasoning』(Jerome Kassirer著lippincott Williams & Wilkins, 2010年)から出題した症例への回答が興味深かった。症例が実際のものであり、情報や検査結果が曖昧なためか、検査前確率の想定が研修医によって大きく異なることがわかった。2年目研修医の方が1年目研修医より優れていた。

研修医も実際の症例では、検査前確率を正しく設定できない。この症例では低く設定する傾向が見られた。心電図の結果を陰性か陽性かの判断も不確かであった。

最後に、オッズと尤度比を用いて、検査後オッズを計算する方法を教えた。ベイズの定理から検査後オッズ=検査前オッズ×尤度比、という式を導くプロセスを紹介したところ、数学に強い研修医にいたく感心された。

少人数での講義は、反応がはっきりしていて大変面白く、こちらが想定していない回答が沢山出て、今後の講義をするうえで大変に参考になった。(山本和利)

2011年5月6日金曜日

科学的な診断思考

5月6日、EBMの診断編の二回目。前回の講義内容の復習をした。まず検査前確率を想定して、検査の(感度・特異度)を用いて検査後確率を計算してもらった。

後半は『Learning Clinical Reasoning』(Jerome Kassirer著lippincott Williams & Wilkins, 2010年)から2症例を呈示して、まず検査前確率を想定してもらってから、検査の(感度・特異度)を用いて検査後確率を計算してもらった。

その1症例
47歳男性。労作時の胸焼けで受診した。安静にしたり、ゲップをしたりすると治る。この症状が3ヶ月間続いている。
放散痛なし、息切れ、動悸なし
安静時には起こらない。
食事・食べ物と無関係
腎血管狭窄性高血圧でACE-I,βblocker, 利尿剤を内服
喫煙者
父親が49歳時に心筋梗塞で死亡。母親・3兄弟のうち2名が心筋梗塞

診断に関する学生の問題点として、検査前確率を正しく設定できない。この症例では低く設定しているものが多かった。画像や心電図の結果を陰性か陽性かに正しく判断できない学生も少なからずみられた。
最後に、オッズと尤度比を用いて、検査後オッズを計算する方法を紹介した。

学生の感想の中では、検査前確率を正確に想定することの重要性とオッズと尤度比を用いた計算法の便利さを挙げている者が多くみられた。(山本和利)

2011年5月4日水曜日

さらば厚労省

『さらば厚労省 それでもあなたは役人に生命を預けますか?』(村重直子著、講談社、2010年)を読んでみた。

本書は「厚労省医系技官」に対する批判書である。 医系技官の大半は、医師免許を持っているが医療現場で責任を持って働いたことがないという。医系技官は英語論文が読めないと書かれている。

米国の患者が当たり前に使える薬を厚労省が禁止しているからという理由で、日本では使うことができない。新型インフルエンザへの対策が世界の対応をかけ離れていること、ワクチン接種体制が不備で、かつそれが医系技官の保身や国の補償経費を減らすことが目的でつくられていることなどが綴られている。新研修医制度も医系技官が導入した「問題のある制度」として言及されている。

著者は、医療制度がうまくいっていないことの諸悪の根源は厚労省の医療政策を司る医系技官であるとしている。

ここまで厚労省も罵倒されると一人くらい反論する人が出てきそうなものである。是非、厚労省からの反論を読んでみたい。(山本和利)

2011年5月2日月曜日

武田真一助教の赴任

初めまして。この度、札幌医科大学地域医療総合医学講座でお世話になることになりました、武田真一と申します。

生まれは山形県の米沢市、趣味は読書(主にマンガですが・・・)、特技はありませんが、泳ぐこととスキーはできます。自治医科大学を卒業し、今年4月で9年間の義務年限がようやく明けました。義務年限中は町立病院や診療所などで勤務しておりましたが、いつも2つの疑問を持っていました。まず、自分が患者さんに対して本当によいことをやっているのか? 2つ目は、どのような勉強(研修・専門医・資格などなど)をすれば1人前の医師として認められるか、ということです。

今からちょうど2か月ほど前、訪問診察をしていた患者さんの看取りをさせていただきました。90歳代後半のご高齢で、家族の希望もあり自宅で看取りたいとのことでした。訪問看護やヘルパーさん達、また近くの老健施設にも協力していただき、各自の情報を交換しながら、家族の負担をなるべく軽減しつつ、自分達に何ができるかなどなど模索しながら(いつも皆でバタバタしながらですが)その患者さんの「看取り」をさせていただきました。その際に考えることが1つありました。それは、ふと気付けば、最期の言葉で「家族の方にこんなによくしてもらって良かったですね。」と言っている自分がいました。いつから自分は人が死ぬ場面において「よかったですね。」なんていうような言葉を言うようになったのでしょうか。また患者さんの家族から「ありがとうございました。」と言われるに自分は医師として値するのでしょうか。

今回は上記のような疑問などを解決すべく(どれくらい時間がかかるのでしょうか、そもそも自分が解決できるか疑問ですが)勉強をさせて頂きたいと思います。

皆様にはいろいろとご迷惑をお掛けするかもしれませんが、ご指導・ご鞭撻のほどどうぞ宜しくお願い致します。(武田真一)

レンタル・チャイルド

『レンタル・チャイルド 神に弄ばれる貧しき子供たち』(石井光太著、新潮社、2010年)を読んでみた。

インドの路上で生きる子供たちを取材したノンフィクションである。

親のない子供たちは、家もないので、路上で日々生き延びていかなければならない。ゴミを漁りそれを食べながら物乞いをする。物乞いの収入を上げるためには、通行人の哀れみを誘うことである。そのために、片眼にさせられたり、片腕、片足を切断されたりする。また、赤子を抱いていると物乞い収入が増えるため、子供が貸し出される(レンタル・チャイルド)。最後には死体乞食(死体を引き回して薪代を物乞いする)になってゆく。

時代の荒波に飲まれて、路上の貧しい少年は「路上の悪魔」に変身してゆく。そんなインド、ムンバイの路上で生活する子供たちを10年間追跡した記録である。

絶対的な貧困が蔓延する世界。豊かな日本に居て、私に何ができるのだろうか。(山本和利)

FLAT症例勉強会(2)

5月2日、4年生のFLATのメンバーと第2回目の症例を用いた勉強会を行った。4年生4名、3年生2名が参加。

嘔気、嘔吐、腹痛、意識レベル低下を主訴に受診した1型糖尿病の14歳男性。嘔気、嘔吐がひどいため母親の判断でインスリン注射を中断し、症状が悪化。病歴と身体診察から脱水、尿・血液のケトン陽性。PH:7.04

糖尿病性ケトアシドーシスの症例あった。診断の肝や治療の仕方について講義をした。
次回は、5月17日12:30から地域医療総合医学講座で行う予定である。(山本和利)

2011年5月1日日曜日

かぜの科学

『かぜの科学 もっとも身近な病の生態』(ジェニファー・アッカーマン著、早川書房、2011年)を読んでみた。

著者はサイエンス・ライター。風邪についてはまだ専門家にも分かっていないことが多い。著者は様々な切り口で風邪の正体に迫ってゆく。風邪の研究を紹介するだけでなく、自ら臨床治験に参加した様子や結果を報告している。この臨床治験に参加したときの製薬会社が提供した至れり尽くせりの状況は医師にとっても参考になろう。風邪は5つの属のウイルスによって起こる。ライノウイルスが50%を占める。これらは鼻腔を好む。インフルエンザウイルスは肺を好む。アデノウイルスは鼻づまりだけでなく、肥満を起こすという。病原体が異なれば好みの環境も異なる。

本書を読むと、風邪の予防には20秒間の手洗いを励行し、顔に触れないことに勝るものはないようだ。マスクはほとんど効果がない。アルコールはウイルスの一部を殺すが、効力が長続きしない。ルイ・パスツールはいう「病原体が問題なのではない。土壌が肝心なのだ。」と。風邪の症状を起こすのは、ウイルスではなく患者の免疫機構であるという考え方を紹介している。

<感受性を減らす行動>
・十分な睡眠をとる
・禁煙する
・ほどほどに運動する
・ほどほどの飲酒(ワイン1杯)
・休暇をとる(ただし働き好きには無効)
・人間関係の輪を広げる
・サプリメントは無効と考える。大量ビタミンCは風邪を予防しない(症状軽減効果あり)。

アデノウイルス14型が殺人伝染病の様相を呈した。これが蔓延しなかったのは毒性が強過ぎたためだ。幼少時の頻繁にかかる軽症ライノウイルス感染が、抗ウイルス手段として効果的な役割を果たしているという研究結果がある。児童の免疫系が十分に微生物にさらされないと、Th1とTh2サイトカインのバランスがとれずアレルギーが起こるということらしい。「何事もバランスが肝心である」

最後の章は「風邪を擁護する」である。私が一番共感した部分である。
・風邪にかかったことにより、休憩することで様々な圧力から自由になれる。
・ライノウイルスにかかるとインフルエンザにかかりにくくなる。
・ウイルスは進化の擁護者である。最近ではウイルスとヒトとが共生関係にあるという専門家も出てきている。

最後に、私が読者に伝えたいこと。
パトリック・バーン教授の言葉。「ひいたかなと思ったら、何もしないこと!」
バーナード・ショーの言葉。「私は病が癒えていく時期を好む。この時期があるからこそ病気もまた悪くないと思えるのだ。」
トーマス・ボールの助言。「風邪のような自然現象を『医療化』してしまうことで、ある治療法が失われるか忘れ去られてしまう」

ある治療法とは何か。

本書には答えは書かれていないが、私の思うに「家族の手当て」であり、「スキンシップ」であろう。皆がこう考えて行動すれば膨大な医療費が浮くだろうに!そして、長らく忘れていた家族との暖かい交流を取り戻すだろうに!(山本和利)