札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年5月14日土曜日

治療閾値

5月13日の4学年の授業では、オッズと尤度比を用いて検査後確率を求める計算法の復習をした。
ここでは確率をオッズに変換し、尤度比を用いて計算する。検査後確率を計算で求めるためには、オッズ(odds )と尤度比に置き換える.

覚えるべきことは、検査前オッズ×尤度比=検査後オッズという式である。これに慣れると暗算できるので便利である。数とこなして是非慣れ親しんで欲しい。

後半は、以下のような状況で考えてもらった.
「診断を十二指腸穿孔であるかどうかに的を絞る.治療は手術をするか,しないかの選択肢のみとする.」と仮定して話しをすすめた.その治療に関わる分岐点の値のことを治療閾値(t)と呼ぶ.今回はこの求め方について解説した.

ここでは結論だけ提示しておきたい。
 治療閾値(t)は治療で得られる利益(Benefits: B)と不利益(Costs: C)の割合によって決まる。まず治療によるBとは病気の場合に治療することによって得られる利益から病気があるのに治療されないときの不利益を差し引いた値と定義される.一方、病気がないときの治療は無駄な費用や医療過誤を引き起こす.それゆえ,治療がもたらすCは病気でないときに治療を控える利益から病気がないのに治療で被る不利益を差し引いた値と定義される。治療する選択肢の期待値と治療をしない選択肢の期待値が等しい確率Pが決断の分岐となる確率(t)であり、それを治療閾値と呼ぶ。BとCとで書き換えるとt=C/(C+B) または t=1/[(B/C)+1]と表すことができる。

「B/Cすなわち損失に対する利得の比率が大きければ,病気の確率が低くても治療を選択し、患者への利得が少ない場合はかなり病気の確率が高くないと治療を選択すべきでない」という常識的な答えが導かれる。(詳細を知りたい方は、2010年4月26日のブログを参照してください。)

講義前に学生に「胃がんである可能性がどのくらいあったら手術を受けるか」と質問したところ、大部分が50-70%と答えていた。授業後は(B/C)を勘案して、1%の可能性があれば手術を受けると考えを修正している学生が多くみられた。計算式にはついてゆけないが、この考え方ははじめて聞く内容であり、新鮮で感銘を受けたという意見が少なからずあった。このような基本的な考え方を習得しておくことは医師にとって不可欠であると思っているので、私が思った以上に学生に理解されて、大変うれしい。(山本和利)