札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年5月26日木曜日

1年生 医学史 講義 その3

本日は医学部1年生に医学史の講義をした。
毎度のことだが、自分で講義をするわけではなく、与えられたテーマに対し、学生諸君によりプレゼンテーションがなされ、学生諸君によりファシリテーションがされる授業である。

今回は女性医療者の視点というテーマで、シュビングとナイチンゲールであった。

まず、シュビングの班の発表。
冒頭「医学史検索ランキング」と称して、医学史の講義の中で与えられている人物のYahoo!検索の結果が発表された。1位が野口英世の74万件余りに対しシュビングは640件余りと、情報の少なさをアピールすることから始まった。

シュビングは統合失調症患者の看護の祖と言われ、それまでは「病」に焦点を当てた分類学が主流であった精神医学に「患者」に焦点を当てた精神医学をもたらした看護師である。

患者の思いに寄り添い、患者の訴えに直感で反応し、患者の求めに応える準備をする。患者は医師の言うとおりにしていればよいというそれまでのパターナリズムからの脱却を意味していた。

それらを分かりやすく紹介するために、今回の医学史の発表では初めて動画を用いた発表がなされた。しかも、YouTubeのダウンロードではなく、実際に班員どうしで医師患者役となって行なった寸劇を録画したものであった。う~ん、手が込んでいる。

動画の中で、それまで自分の治療に疑問を訴えてずっとうつむいていた患者(役の学生)が、シュビング(役の学生)の問いかけに対し顔を上げ、シュビング(役の学生)と手を取り合うところには感動した。(会場はかなりウケていた)

少ない情報の中でのまとめは大変であったであろうが、非常にコンパクトにまとまっており、わかりやすい発表であった。惜しむらくは、途中、やや原稿を読んでいるような箇所が何回かあったので、出来ればメモを見る程度に練習しておいたほうが良かったが、後半は会場に話しかけるような発表があり、アイコンタクトをしながらの発表が出来ていた。かなりの完成度であった。


後半はナイチンゲールの発表であった。
ナイチンゲールは先程の班のYahoo!検索では堂々第2位の70万件あまりのヒットがあったようだ。
情報が多ければやりやすいというものでもなく、そこからいかに発表するべき情報を選択するかということこそが大変なのである。以前、プレゼンテーションのコツの授業の中で紹介した、「洗練を極めると簡素になる」というレオナルド・ダ・ビンチの言葉を思い出してほしい。

ナイチンゲールというと、誰もが白衣の天使や献身的な看護というイメージを思い浮かべるが、実際は非常にしっかりと現実を見つめ、学問や科学をもとに行動する「強い」女性なのであった。


裕福な家庭に生まれ育ったナイチンゲールであったが、家族で旅行した際に貧しい人達の現実を見て、それまで非常に地位の低かった「看護師」になることを決意し、周囲の反対にもかかわらず、「あきらめという言葉は私の辞書にはない」と言って看護師になったのであった。
  
看護師になった後にクリミア戦争の負傷兵の看護に携わったが、それまでは病院の衛生管理がひどく、戦争そのものによる死亡よりも、病院に収容されてからの感染症による死亡のほうが圧倒的に多いような現場であった。そうした現場の改善を訴えても、なかなか、受け入れてもらえない中、誰もがやりたがらなかったトイレ掃除を自ら積極的に行う中で、衛生管理の大切さを訴えていった。

そうした努力により、病院の衛生状態を改善し、それまで50%に近かった兵士の死亡率をわずか3ヶ月で5%にまで低下させたのであった。この時ランプを持ち夜回りをしているナイチンゲールの姿から、クリミアの天使という名前で呼ばれるようになり、現在の白衣の天使というイメージが出来上がったようだ。

しかしナイチンゲールの偉大な点はこのエピソードにとどまらず、こうしたデータを統計学という学問として発表したことであった。当時一般的でなかったグラフを活用したのも彼女であった。また、こうして得られたデータを病院建設や、看護の技術に応用し、後世に伝えたことも偉大なことであった。

また、「女性は自立しなければならない」として看護師の地位の向上や女性の地位の向上にも多大な貢献をした。さらに、「ボランティア精神によるものも大切だが、それには経済的な援助が欠かせない」として、自己犠牲による活動だけでは限界があることもしっかりと訴えている。

まさに現在の地域医療は、一部の医療者の献身的な「自己犠牲」の上にかろうじて成り立っているのであるが、それだけでは早晩間違いなく地域医療は崩壊するであろう。(もうすでに崩壊しているが)そんなことを150年近く前から見抜いていたということにはただただ感嘆するばかりである。

発表の構想(ストーリー)は非常に分かりやすく、またそれを説明するための事例を効果的に配置し、スライドも適切にイラストや写真・効果音などを用いていた。また、要所要所にナイチンゲールの生の言葉を入れることにより、彼女の人となりを訴えるのに非常に効果的であった。30分の発表としての完成度はかなり高いものだと思われた。

この班は自分たちのパソコンを持ち込んでの(気合の入った)発表であったが、プロジェクターに繋いだ瞬間、それまでパソコン内で順調に作動していたPowerPointが突然おかしくなり、発表開始が5分程度遅れてしまった。事前の準備不足を指摘されても仕方がない部分ではあるが、やはり、実際にプロジェクターに写してみての動作確認は必要だったかもしれない。発表の完成度が高かっただけに非常に残念である。


このトラブルの間の時間を利用して、学生諸君に以下のようなファシリテーションの極意を伝えた。
「こうした突発的なトラブルが起きたとき、この間(ま)をつなぐことこそ、ファシリテーターの重要な仕事であり、予想だにしない事態に対しても、臨機応変に対応し、会場の雰囲気を掌握することが大切である」と。

水泳はプールでしか教えられない。スキーはゲレンデでしか教えられない。臨床は患者の前でしか教えられない。ファシリテーションも実際のファシリテーションの現場でしか教えられない。

今日はその当たり前のことを実感し、学生諸君にも伝えられたのではないだろうか?

次回以降の授業もホント楽しみだ。


                             (助教 松浦武志)