札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年5月20日金曜日

2型糖尿病の治療アルゴリスム

5月19日、札幌市で開催された日本糖尿病会の「IDFの新しい2型糖尿病の治療アルゴリスム アジアへの適応は」というシンポジウム(同時通訳付き)を拝聴した。

白人を対象にしたガイドラインがアジア人に適応できるかどうかを検討する会である。日本人でHbA1cが7%以上の患者が50%以上いる。

IDFのガイドライン。
オーストラリアのCoagiuri氏。世界的に通用するもので、特に途上国のことを考慮したものでなければならない。ひな形を提供するものである。2011年9月発表予定である。

エビデンスを検討した結果、HbA1cの目標値が変更になった。これまでHbA1cを6.5%以下としていた。しかしながら、最近のOutcome研究(ACCORD、ADVANCE、VADT)では顕著な結果がでなかった。逆に重篤な低血糖が上昇した。一方、総合的な加療を行ったSTENO2はHbA1c:7.9%であったが、合併症予防に大きな成果があった。以上からHbA1c:7.0%以下にしても大きな成果は期待できず、副作用を起こす率が増す。HbA1c:7.0-7.5%でよいのではないかという意見もある。
治療戦略
はじめは生活改善。駄目ならメトフォルミン。(最小血管予防のエビデンスがあるから。N数が少ない。大血管予防のエビデンスはない。低血糖が少ない。安価。腎機能低下患者には注意。)HbA1c:7.0%以下を目指す。次はどうするか。6種類の薬剤を用いると、その可能性として720の組み合わせが考えられる。SU剤かαGIを用いることを提言している。SU剤は心血管リスクを悪化させるという報告もある(1.2倍)。メトフォルミンとSU剤とを併用したRECORD研究で悪い報告はなかった。その次はインスリンかDDP-4I,GLP-1(エビデンスが少ない。インスリンの使い方で差はない)。インスリン強化療法にするとHbA1cの達成率が10%改善する。中国はこれに近いガイドラインを採用している。

質問:メトフォルミン単独療法は15%が無効という報告もあるが、早期に併用療法をすべきか?HbA1cが高いときには併用可である。年齢制限はあるか?腎不全患者には注意。

日本のアルゴリスム。東京女子医科大学のSakura Yasuhiro氏。日本のHbA1cは低いので0.4%上乗せする。ガイドライン2010は世界のモノと違っている。HbA1cを6.5%としている。高齢者は7.4%以下。
治療戦略。生活改善。駄目ならSU剤かインスリンかDDP-4I。しかし一般開業医にはこの戦略を用いることは難しい。肥満者にはメトフォルミン。日本でメトフォルミンがファーストラインになっていないのはなぜか。日本では費用効果性を考慮していない。白人よりも肥満者が少ない。日本人でもメトフォルミンは効くというエビデンスがでてきている。

韓国の現状。韓国のKim Sungrae氏。若者の発症が多い。医療費が他の疾患より4.6倍高い。総額の10%が糖尿病。HbA1cをスクリーニングに用いている。ROCカーブから6.1%をカットオフ値とした(感度:85%、特異度:82%)。HbA1cが6.5%以上を糖尿病とする。
治療戦略。生活改善。HbA1cで分ける。8.0以下は単剤。8.0-10%は併用療法。10%以上はインスリンと内服薬併用。HbA1c:6.5%を目標とする。SU薬、メトフォルミン、インスリン抵抗改善薬の切れ味に差はなかった。

ガイドラインに何を求めるべきか。英国のEdwin Gale氏。多国籍介入研究者。ガイドラインは行動様式を変える。義務を強制しない。必ず選択肢が提供されている。価値判断で補完する。患者の定義が明確、選択肢が2つ等では迷いがない。ベストのアドバイスを目指す。組織をベースにして個人へ適用し、見返りとなる価値を求める。体重維持(QOL)かHbA1cの低下か等、目標が患者と医師とでは異なる。拘束力のあるモノとないモノがある(専門家の作ったガイドラインには拘束力はない)。不適切な適用により患者に害をもたらすことがある。ガイドラインは良い医師の代わりにはならない。

総合討論:なぜ多くの患者が目標を達成できないのか?目標HbA1c値が高過ぎるから。高齢者には目標値がキツイかもしれない。糖尿病は進行性の疾患であるから、罹患期間が長いと薬剤が効かなくなる。インスリン治療に早期に切り替えることを勧めたい。しかしながらインスリンを適切に用いて来たのかという疑問がある。症状がないことが多いので患者の認識が低い。低血糖を一度経験すると血糖値を下げるのを怖がる。
HbA1cが7.5%を越えると最小血管合併症が増えると思うが、HbA1cの適性値はどのくらいか?「個々の患者で異なる(個別にリスク計算をする))」というのが答えである。
肥満の有無で治療戦略を変えるか?IDFでは、単純さを保つため区別をしないが、個々の患者にはその患者のデータを尊重して決めるべきである。SU薬を一まとめにして議論しない方がよい。DDP-4Iはどうか?興味深いが安全性の長期データがない(膵炎の発症)。コストが高い。欧米では効果は高くない。日本では効果がある。

感想。
これまでよりもHbA1cの達成目標が緩和された。糖尿病治療もほどほどを目指すのがよいということに落ち着きそうである。私の印象として、ファーストラインの薬剤は、SU薬、メトフォルミン、DDP-4Iあたりがよいのではなかろうか。DDP-4Iは安全性のエビデンスが少なく、欧米では日本ほど人気は高くないようだ。(山本和利)