札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年5月10日火曜日

災害ユートピア

『災害ユートピア』(レベッカ・ソルニット著、亜紀書房、2010年)を読んでみた。

2011年3月11日に未曾有の地震・津波が東日本を襲った。世界中に災害の様子が報道された際に日本人の我慢強さ、礼儀正しさなどが注目された。そのようなことは世界中を探しても希有なことであると。しかしながら、日本以外では本当に人々は災害に遭ったときに野蛮な本能をむき出しにして、性的迫害や略奪をするのだろうか。そのような点について事例を挙げて反論したのが本書である。「災害によって、これまでにみられなかった利他の試み、協力する姿勢が芽生えるのだ」という点を様々な事例を挙げて紹介している。

第一章はサンフランシスコ地震における「楽園」の出現を記載している。このとき自発的に支援の輪が広がったという。「私たちは生きるために意味と目的を必要としている」とヴィクトール・フランクルの言葉が引用されている。「危機や喪失、欠乏を広く共有することで、生き抜いた者たちの間に親密な連帯感が生まれ、それが社会的孤立を乗り越えさせ、親しいコミュニケーションを提供し、物理的・心理的な援助と安心感の大きな源となる」ということらしい。

「革命とカーニバルと災害ユートピアは似ている」という指摘やその根拠を述べた記述は参考になる。

本書を読んで一番収穫があったのは、「災害時には個人よりも組織が問題を起こしやすい」「エリートはパニックを起こす」という点を知ったことである。

2001年9月11日のニューヨークでも、住民や消防隊員等は助け合いの輪を広げた。一方、米国政府はエリートパニックを市民には向けなかったが、国外の民族や組織に向けた、と指摘している。ニューオリンズのカトリーナ・ハリケーンでも、初期に住民の支援の輪が広がっていたのに、政府や報道機関がエリートパニックを起こし、ありもしないレイプや強奪情報を撒き散らして、本当に強奪を引き起こし、軍隊による被害地避難民への抑圧を引き起こして「災害ユートピア」を破壊したという。

東日本大震災で沢山のボランティアが被災地に集い「災害ユートピア」が現出している。医療過疎地が一時的にしろ医師過剰地区になっているところもある。これを契機に、「災害ユートピア」を是非「平時ユートピア」として継続して欲しいものである。政府に頼るとエリートパニックを起こし、折角のユートピアが破壊される可能性が高いというのが本書の指摘である。そうならないために、市民一人一人が知恵を絞り、行動しなければならない。(山本和利)