札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年5月9日月曜日

生き残る判断

『生き残る判断 生き残れない行動』(アマンダ・リプリー著、光文社、2009年)を読んでみた。

著者は「タイム」誌の記者。 災害に対する国土安全保障とリスクについて多数執筆している。本書は、災害に遭遇した際に人々はどのように行動するのかを解き明かそうとしている。実は、災害は予測できるが、災害にあって助かるかどうかは予測できないのである。

生存への行程の第一段階を「否認」、第二段階を「思考」、第三段階を「決定的瞬間」と呼ぶそうだ。はじめは現実を認められず、その後ショックから回復し、次に生死を分ける行動をとるという。「9.11」では世界貿易センターにいた人々が階段を下りるのに、安全担当技術者が予想していた二倍の時間がかかった。これは「否認」により、推測することに貴重な時間を費やしたからである。煙や炎を目のあたりにしても、否認は非常に強烈なものである。

ニューオリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」、ポトマック川旅客機墜落、スマトラ沖地震、等、さまざまな災害事例が記載されている。

確信が持てない場合ほど、ヒューリスティックス(近道思考)が増える。ヒューリスティックスは役立つ一方で、たくさんの間違いも犯す。男性のほうが、雷、ハリケーン、火事で死ぬ可能性が高いという。

回復力がある人は、三つの潜在的な長所を持つ。人生で起きることに自らが影響を及ぼすことができるという信念。人生に波乱が起きてもそこに意義深い目的を見いだす傾向。いい経験からも嫌な経験からも学ぶことができるという確信、だそうである。

最終段階は一瞬のうちに終わってしまう。それはタイミング、経験、感受性、運に左右される。パニックは3つの条件がある場合に起こる。第一に、閉じ込められているかもしれないと感じること。第二に全くどうすることもできないと感じること。第三に深い孤立感。

本書を読んでも災害に遭遇したときに生き残る確率が高くなるというようなタイトル通りにはなりそうにない。ある状況では、否認によって引き起こされた行動が命取りになるし、別の状況では救われることもあり得るからである。要は、日頃から災害に対して避難のための行動をシュミレーションして備えるということが一番大事であると再認識した。(山本和利)