札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2014年5月27日火曜日

北海道の地域医療




526日、幌加内町国民健康保険病院の森崎龍郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「北海道のへき地医療 幌加内での医療と生活である。

 

まず、自己紹介をされた。横浜生まれ。富山医科薬科大学卒。漢方医。2010年幌加内町国民健康保険病院に赴任。幌加内町の紹介。3つの日本一。そばの作付面積、日本最大の人造湖(朱鞠内湖:ワカサギ釣りができる)、最寒記録-41.2℃(霧氷が見える,雪も多い)。人口1,640人、世帯数841(町として最小数、人口密度が最低)。過疎の町で高齢者が多い(高齢化率35%)。小学校5年生は8名で全員女子。高齢化率28%。病院の紹介。町内唯一の医療機関。医療療養13床、介護療養29床。建て替えの予定は宙に浮いている。平均入院患者26名。平均外来患者数30名。常勤医師1名、非常勤医師1名、職員数22名。

 

日々の診療。外来:超音波、内視鏡検査。訪問診療。入院;回診、病棟業務。病棟管理。予防医学。保健福祉医療連携。産業医。

 

入院病棟:在宅生活が困難な方。脊椎損傷の方。認知症の方。脳卒中後遺症による胃瘻造設者。末期がん患者。骨折、火傷の方。COPD。喘息。

外来診療:高血圧、糖尿病、高脂血症。OA.認知症など。慢性疾患が複数組み合わさった患者が多い。それに急性疾患が加わる。医療から介護まで。事例を提示。

上気道炎、下痢、小児の肺炎(マイコプラズマ肺炎)。60歳代女性の右臀部痛→帯状疱疹。マダニ咬傷。ライム病。

 

当直:自宅待機である。2週に1件の救急車。事例提示。関節脱臼。大腿骨骨幹部骨折。結膜浮腫。アキレス腱断裂(Simmons Thompson test)。

 

プライマリ・ケア医の役割

  1. まずはすべてに対応する。
  2. 自分のできることをする。シンプルに。スーパードクターである必要はない。生涯学習をしようという姿勢が重要である。
     
    道北ドクターヘリ事業:旭川日赤病院が基地。1年半で4回要請している(交通事故、脳卒中)。冬季、悪天候、夜間の対応が問題。
     
    在宅医療:老々介護。認知症同士の介護。介護力がない。カバーする地域の範囲が広すぎる。冬期間の厳しさ(雪はねが大変)。介護スタッフ不足。
     
    出張診療所;4つの診療所。公民館の一部を借りているところもある。
    保健福祉総合センター(アルク):ディサービス、居住部門、老人福祉寮。地域ケア会議の紹介。
     
    保健福祉総合センター
     
    予防接種事業:未就学児の任意予防接種をすべて全額助成。中学生女子の子宮頚がんワクチン全額補助。B型肝炎ワクチン全額補助。インフルエンザワクチンは中学生無料、町民は千円、高齢者の肺炎球菌ワクチン助成2000円。保育園健診。産業医活動(禁煙)。
     
    ここで「地域医療とは?」いろいろなところで使われる。使う側、受け取る側で意味が違っていることが多い。
     
    プライマリ・ケアの定義
     
    事例。9歳男児。体にブツブツ。水痘。1週間後の運動会に参加できるか。ワクチンの緊急接種ができる。抗ウイルス薬で対応。自宅安静。登校停止。保健お先生に連絡。
     
    半年後、父親が来院。40度の発熱、咳。肺炎を疑い胸部Xp,血液検査。XPで肺炎像あり、抗菌薬を処方。禁煙指導。
     
    83歳男性。検査実施したところ、大球性貧血、血小板減少が判明。専門医に紹介したところ、MDSであった。半年後、後ろ向きで倒れた。血糖値、心電図は正常。入院時、意識清明。てんかんを疑った。専門医で治療が開始された。その後、幌加内で定期輸血を開始した。右第23指の壊死(喫煙中にてんかん発作を起こした。)3度の熱傷。
     
    プライマリ・ケア医の役割
    ・日常診療に対応。
    ・こども、父親、家族も診ている。
    ・生活背景を知っている。
    ・アクセスしやすい。
    ・地域の健康にも関与。
     
    ・必要なときには専門医に任せる。
    ・各専門科の問題を統合して対応。
    ・これまでの経過を知っている。
    ・見知った医師がすべてを知っている
    ・最後まで責任を持つ。
     
    旭川医大の学生がインタービューに来訪。
    「キャリア・アップに繋がるのか?」
    「ここで診療を続けることがキャリア・アップである」と答えた。
     
    講義の最後に、幌加内そば打たん会、野菜作り、山菜取り、スキー、ワカサギ釣り等、田舎の生活の魅力を紹介してくれた。
     
    医者も地域で暮らしている。
    ・地域の人が支えてくれると心強い。
    ・こどもは地域に溶け込むきっかけになる。
    ・プライバシーがないが、守られている。
    ・お互いの気遣いがある。
    ・職住一致によってもたらされる情報、関係性
     
    3年半年経って感じること:患者さんの顔が見える。保健・福祉・救急の連携がスムース。旭川市が比較的近いので助かっている(高度医療・専門医のありがたみがよくわかる)。外傷が多い。人材不足(医師、看護師、介護士、ヘルパー、給食婦、等)。高齢者の生活問題(冬をどう過ごすか)。意外と子供が多い。いろいろなことに関わることができる。シンプルに、コンパクトに地域医療を経験することができる。若いうちに是非、経験を!
     
    絶対に負けないこと。幌加内の患者、生活、町について「最もよく知っている医者」である。
     
    勤務する幌加内町への熱い思いが伝わる講義であった。(山本和利)
     
     

地域医療の課題と展望



 
519日、西吾妻福祉病院並びに六合温泉医療センター 折茂賢一郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域医療の課題と展望-生活モデルと医療モデルである。
 
富岡市出身。富岡製紙工場が世界遺産になった。ユルキャラは、ぐんまちゃんとおとみさん。
地域での事例を紹介。
鹿児島県徳之島の事例。離島医療のサミットに参加。
小豆島で認知症の話をするように言われた。
与那国島の診療所。定年間際の医師が研修者をやめて赴任している。
 
101歳の女性の訪問診療を紹介。在宅の看取りが問題になっている。
地域では生活者としての人と接する。地域全体として認知症の人にどのように接してゆくか。生活という視点で向き合う。
医者にしかできないことは何か?「看取る、死亡診断書を書くこと」
うまくやらないと死体検案書を書くことになる。
在宅ケアの危機。「あなたが寝たきりになったら・・・?」女性の2人に1人が90歳まで生きる。
 
膵癌末期の患者(抗がん剤治療)の緩和治療。地域の中での緩和治
療は難しい。痛みをコントロールし、生きがいを見出す。24時間対応を検討。牧師である夫の話をクリスマス会で聞く。
「生活に近い医療」もある。
 
車いすに乗せて日向ぼっこさせているように見せて、ネグレクトをしている。おむつ、膀胱カテーテルを留置してナースステーションに拘束している。(医療の名の下に虐待をしている)。認知症では居場所を探すことが大切。認知症患者はとても不安な表情をしている。居場所を見つけるとよくなってゆく。色を取り戻す(彩色療法)。音楽療法、園芸療法、等。
 
これまでの活動を披露された。自治医大卒。29歳で六合へき地診療所長。「村の命を僕が預かる」。現在、2施設の管理者。白衣を着ない仕事が沢山あった。へき地包括医療に触れた3年間。顔が見える活動を続けた。半無医村の認識(必要なときに医師がいない、看とり)。その反省を踏まえて福祉リゾート構想へ発展させた。六合温泉医療センターを建設。メディカル・スタッフが地域へ出向く医療を目指した。そして最前線医療から「支える医療」へ。草津温泉、白根山の近くで対象人口26,000人。観光客年間六百万人。高齢化率>30%の地区で外科系・周産期の救急医療を確保。地域の拠点病院を建設。ヘリポート増設。24時間保育。屋根瓦式研修を導入している。
豊富な写真を提示しながら講義は進んだ。
 
多職種協同(ピラミッド型)=オーダー型
多職種協働(ドーナツ型)=カンファランス型の後者が地域医療では大事。
 
ICF(国際生活機能分類)の視点を強調。
 
     
最後に「医療モデル」と「生活モデル」の違いを強調された。
廃用症候群とコミュニティケア.医歯薬出版,2005より  
 
医療モデル
生活(QOL)モデル
目的
疾病の治癒、救命
生活の質(QOL)の向上
目標
健康
自立(自己決定に基づき、自己資源を強化し、社会的生活を送る)
主たるターゲット
疾患
(生理的正常状態の維持)
障害(日常生活上の支障・困りごと)
(日常生活動作能力[ADL]の維持)
主たる場所
病院(施設)
社会(地域・家庭・生活施設)
チーム
医療従事者
(命令・指示)
オーダー型
異職種(保健、医療、福祉、介護等)
(協力・協働)
カンファレンス型
対象のとらえ方
医学モデル
(病因-病理-発現)
障害モデル
(ICF・国際生活機能分類)
適用期
急性期(短期間・cure期)
急性期以外(長期間の可能性・care期)
手法や手段
EBMEvidence-Based Medicine
ケアマネジメント
    
今回は、認知症への取組が新たに加わり、リアリティのある話に学生達は感銘を受けていた。医師のしての存在意義がストレートに伝わる素晴らしい授業であった。山本和利)

地域包括医療








 


512日、松前町立松前病院の八木田一雄先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは地域包括医療の制度と理論である。


 


地域包括医療(ケア)とは


地域包括ケアシステムとは


30分以内に駆けつける、介護、生活支援、住まい、医療、予防がキーワード。


 


対象人口15,000名。松前町の紹介。8400名、高齢化率40.74%、人口減少。桜まつり、マグロ祭り。


松前町立松前病院:100床。稼動率80%以上。PC医6名、小児科医1名。院外業務あり。築40年。江良診療所。勉強会の紹介。インターネット会議の紹介。年間50名の学生を受け入れ。


 


事例を提示。80歳の女性。息子夫婦と3人暮らし。高血圧、骨粗しょう症、脳出血、保存的治療。右片麻痺。肺炎を繰り返すので胃瘻造設、寝たきり状態。自宅療養を希望、というシナリオを提示。昔は、訪問診察、訪問看護、介護のサポートは保健師、介護は家族。今は問題リストを挙げる。


 


超高齢化社会


高齢化とは:65歳以上の高齢者人口の総人口に占める率。高齢者は循環器系、癌、筋骨格系が多い。7%を超えると高齢化社会。21%を超えると超高齢化社会。3000万人。日本24.1%。超高齢化社会である。平均寿命は男性79.94歳、女性86.41歳。一人暮らし高齢者が増えており、認知症を有する高齢者が増加している(345万人、10%を占める)。特別養護老人ホームの入所申し込み者の状況:42万人が待機している。施設に入所率4%


 


高齢者の特徴:主訴がいくつもある。個人差が大きい。慢性疾患が多い。うまくくみ取る必要がある。予備力の低下。複数の疾患。合併症がある。感覚機能の低下。多剤服用。認知機能の低下。年金生活者(6から10万円/月)


動けない、食べられない、ボケる。


死因は悪性新生物、心疾患、肺炎、


胃瘻などの人工栄養法をやらない・中止の選択肢がガイドラインとして出された。その結果、胃瘻作成の希望者が減った。


 


入院患者のマネージメントの問題点


不穏・徘徊、譫妄、転倒、嚥下障害、社会的入院(全国で25万人)。


医療だけでは対応できないケースがある。


 


用語の解説:ここでADLDEATHdressing, Eating, Ambulating, Toileting, Hygiene)、IADLSHAFT: Shopping, Housework, Accounting, Food preparation, Transport)を紹介され、それに沿って事例を分析された。IADLは一人暮らしができるかの指標となる。を基にサービス担当者会議。話し合いで決めた導入サービスを決める。ジョクソウ予防のため介護ベッドの導入。精神面のケアをし、退院、在宅療養となる。


 


介護保険制度[200041日から]8段階に区分される。市町村に申請。訪問調査+主治医意見書。認定審査会で要介護認定をする。


昔;市町村が決める。所得による違い。長期入院。医療費の増加。介護に向かない。という問題があった。


 


介護保険。


1111日は介護の日。


現在:自立支援。利用者本位。社会保険方式。所得に関わらず1割の利用負担。保険料は毎月約4972円支払う。高福祉、高負担である。所属する自治体によって負担が異なる。総介護料は8.9兆円。2種類(第1号被保険者:65歳以上、第2号被保険者:特定疾患が対象)。特定疾患16種類。居宅サービス、地域密着型サービス、等が受けられる。訪問調査+主治医意見書(傷病、心身状況、特記、等を記載する。介護の手間、ケアプランに役立てる)、認定審査が必要となる。要介護認定、要支援認定。


介護支援専門員(ケアマネジャー)の業務;毎月のケアプランを作る。一人39人まで担当できる。モニタリング、連絡の調整。


 


在宅療養を可能にする条件:入浴や食事の介護、介護に必要な用具、訪問診療、等。384万人が利用。


サービス受給者数の推移:脳卒中、認知症、衰弱、関節疾患が多い。主介護者は配偶者、子、子の配偶者。女性が多い。介護のために利殖や休職をしている。


 


介護保険を取り巻く課題


  1. 都市部を中心にした高齢人口の増加
  2. 認知症高齢者の増加
  3. 高齢者の独り暮らし、夫婦のみ世帯の増加
  4. 良質な介護従事者の確保
     
    地域包括ケアの5つの視点による取り組み
    1.医療との連携強化
    2.介護サービスの充実強化
    3.予防の推進
    4.多様な生活支援サービス確保や権利擁護
    5.バリアフリーの高齢者住居の確保
     
    地域包括ケアシステムの持つ8つの機能
    1.ニーズの早期発見
    2.ニーズへの早期対応
    3.ネットワーク
    4.困難ケースへの対応
    5.社会資源の活用・改善・開発
    6.福祉・教育
    7.活動評価
    8.専門力育成・向上
    その成果:1)寝たきり老人が減少する。2)高齢者本人も家族も安心して在宅ケアを選択することができる(50%が自宅で介護を受けたい)。在宅死:11.7%である。3)老人医療費の抑制に繋がる。
     
    松前町の取り組みを紹介。
    地域ケア会議を月1回。サービス担当者会議。ケアマネジャー連絡会。グループホーム運営会議。在宅医療;66名。週2回、1回7-8名。脳卒中後遺症、認知症、骨折術後が多い。臨時往診はできていない。在宅での看とりの体制が整っていない。
     
    地域包括医療について、実践者から理論や制度について学ぶ貴重な機会となった。学生さんにはやや難しかったか?(山本和利)
     
     


北海道における家庭医療の実践



428日、手稲家庭医療クリニックの小嶋一先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「北海道における家庭医療の実践である。自分自身のことを話すことを通じて「家庭医療」を伝えたい。

まず、自己紹介をされた。東京生まれ。41歳。トライアスロンにはまっている。居酒屋で酔っ払いに囲まれて育った。これまでの道のりを具体的に話された。九州大学卒。研究者を目指したがロールモデルに出会えなかった。米国の医学教育に興味を持ち、学生時代2ヶ月間米国に勉強に行った。沖縄中部病院で研修。実力をつけるため、初期研修は野戦病院のようなところで沢山の患者を診た。急性疾患に偏った研修。この間の担当患者350名。救急患者900名。卒後3年目の離島経験。1500名の島で看護婦と二人。840名を診察。風邪、心肺停止、外傷、精神疾患等。大事にされて居心地がよかった。救急車がない。酸素ボンベの酸素はすぐなくなる。目の前に日本の縮図が見えた。「地域」を始めてみた。日本には外来教育がない。家庭医になって、「何でも屋」であること、「継続性」が重要、「へき地医療に関わる医師のキャリアプラン支援」が必要、「家庭医養成の重要性」に気づいた。米国Family medicine residency2003年、先輩が道筋をつけてくれて米国へ行くことになった。5年間研修した。外来での研修が中心。1年目で150名、2年目は1500名。小児検診、皮膚科、風邪、妊婦健診、成人検診、婦人科検診が多かった。いろいろな患者が来る。薬物中毒、避妊相談。肥満、禁煙指導。開業を前提とした教育。目の前にロールモデルがいる。独り立ちするための移行システム。

 

地域医療・臨床研修の日本の課題に言及。大病院、病棟中心、研修を受けている地域を知らない。地域に当たり前に家庭医がいる社会を作ろう!

 

Faculty developmentを学んだ。公衆衛生修士として「地域の健康という視点」で、「公衆衛生の方法論」を用いて、「家庭医療の位置づけ」をしっかりとして、「医療・福祉・介護の連携」を模索したい。

 

クリニックで診ているある日の外来患者を紹介。

 

家庭医・家庭医療とは

  1. 幅広く診療する
    ・人生の始まりは母親が「妊娠を考えた瞬間」:葉酸摂取、妊婦健診、体重管理
    ・人生の終わりは「患者の死」とは限らない:grief careの大切さ
    ・診療科・臓器にとらわれない診療
    ・セッティングに応じたギアの切り替え
  2. 攻める医療
    medical ecologyのどこを診るのが家庭医か
    ・予防医療とヘルスメインテナンス(予防接種、ヘルメットの着用、禁煙指導)
    ・「病院に来なければ始まらない」とは言わない
  3. アクセスの良さ(朝、土曜の診察、等)
  4. 複雑な状況に対応+多職種連携
  5. 現場に応じて変幻自在
    ・足りないものを埋める
    ・地域への根のおろし方
    ・困っているところへ人を出す
     
    札幌は診療所が少ない。医師一人で4500名を診ることになる。19床の有床クリニック(ホスピス・ケア)で、年間135名の看とりをしている。看取りの際にモニターは付けない。入院してから食事を摂るようになる患者も多い。明るい雰囲気である。内科、小児科、産婦人科を標榜し、家庭医養成と地域づくり。在宅療養支援診療所でもある。医療連携、健康な地域づくり。親子三代で受診する家族もいる。地域医療への貢献も目指す。ここで手稲家庭医療クリニックのある日の外来を紹介。すい臓がん末期、不安障害、妊婦健診(DVのリスクが高い)、4か月小児の予防接種(相談の切っ掛けになる)、11歳児の発熱・咳(喘息の管理・禁煙指導)、喘息の聾唖者(配偶者の死の悲しみ、知らない世界、コミュニケ―ションの難しさ)。
     
    「患者が望むこと」はいつもシンプルである。すなわち原因の追及、体調を治してほしい、等。風邪の患者さんを風邪の診療だけで終わらせない。「二歩先を読み、一歩先を照らす」患者さんを助けたい。仕事に誇りを持ちたい。成長し続けたい。
     
    ロールモデルやメンター(自分を理解、先を進んでいる、成長を助ける、尊敬に値する)に出会うことが大切。
     
    最後にエールを送られた。できることを地域に尽くしてほしい。継続性が大事である。ビジョンが大事。自分のすることを愛してください。「置かれた場所で咲きなさい」世界は変えられなくても自分は変われる。
     
    クリニックのミッションは「ひとりひとりの生き方を尊重し、地域の力をあわせ、温かみのある医療とケアを提供する。」である。(山本和利)
     
     

家庭医療の実践




 

4月21日、医療福祉生協連 家庭医療学開発センターの藤沼康樹先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「家庭医療の実践」である。まず、自己紹介をされ、家庭医療に出会ったエピソードを熱く語られた。臓器ではなく患者を診るロールモデルとの出会い。

待合室での突然の健康教室の実施。

診療所での活動の始まり。

初めて研修医を受け入れ、研修医が学会発表。

英国のGeneral Practice研修の始まり。文通が始まった。英国に行くことになった。何でも相談に乗るGP.長年付き合ってきた少女の健康相談。

医学教育の学び。Dundee大学医学教育フェローに入った。ポートフォリオを日本に導入した。

2005年家庭医養成プログラムを導入。

 

カブール医大の視察を受け入れた時の話。往診に連れて行った。ケースカンファを見せた。地域の困難事例を紹介した。日本に来て、彼ら自身がカブールの医療を振り返る機会になっている(地域の現場で学ぶ大切さ)。

 

一人でできることは限られている。巻き込むことが大事。

2008年、研究を視野に入れる。

2011年、東日本大震災への関わり。

2013年、武見賞を受賞・

自分の現場で仕事を続けることの中で、新しいコンセプトや人との出会いが生まれた。

継続することの生み出す信頼感。

恥ずかしがらず、突っ込んでゆく。

真の出会いはcontributionから

 

 

日常遭遇する患者さんたちを紹介された。

家庭医が思春期を診る。17歳女子高生。咽頭痛。予防的介入をすることが大事。アルコール、タバコ、薬、性感染症。思春期独特の悩みの相談。風邪が出会いのきっかけになる。高校で依頼講義は違法薬物、等が多い。

 

家庭医が子どもを診る。1歳の男児。微熱。第1子に何を聞くか? こどもを診ることで親の世代を診ることができる。母子手帳を見る。予防注射、乳児健診。両親、祖父母の健康問題の相談に乗る。小児保健という。家族志向性小児保健。比較的元気な急性期の症状に対応する。夏休み子供企画。医学部1日体験入学。夏休みの自由研究になる。

 

54歳男性。腰痛。尿酸が7.8mg/dl.紹介が必要な腰痛(うつ病、膵がん、椎体炎)を除外する。症候別のRed frag signを覚えること。

 

62歳男性。高血圧。この時期にいろいろなライフ・イベントがおこる。定年の時期。夫が夫人の行動をチェックしたりすると、夫婦の危機となることあり。

 

44歳女性。糖尿病で血糖降下剤を内服。HbA1c:10.8%。前医には理解の悪い患者と思われていた。夫が54歳タクシー運転手、姑がアルツハイマー病、息子が高校中退。家族ライフサイクルを考慮する。タクシー不況、介護が大変。息子の突然の変化、肉食中心の食事。家族全体の相談役である。介護保険の導入を提案。

 

27歳の女性。人混みで動悸。パニック障害。アルコール、うつ病、パニック障害は家庭医が診るこころの3大疾患である。

 

78歳男性。前立腺がんで通院中。専門医とshared care。がんの早期診断が重要。診療所のトイレにHIV、性感染症等のパンフレットを置く(すぐなくなる)。予防と健康増進。

 

18歳男性。大学受験のための診断書希望。継続的に診る。医師がその人にとっての便利な資源になっている。家庭医は個人と家族を連続的に診ている。

 

63歳男性。妻と二人暮らし。アルツハイマー病。診断後10年で死亡する。家庭医はどう診るか?日本は、神経内科→精神科→在宅医療、となっている。早期にチームで関わると予後がよいという報告がある。視線を合わせることが大切。

 

89歳女性。夜間尿失禁。糖尿病。利尿剤が増えた。膝OAで整形外科に通院中。白内障でよく見えない。4つが累積して尿失禁が起こっている。家庭医が高齢者を診る。医学的診断をつけても50%しか解決できない。「物忘れ」「失禁」「元気がない」「フラフラする」などの問題を得意とする。別個の問題を総合的に判断する。健康なところ、元気なところを伸ばす(健康生成論)。

 

6歳女児。咳、鼻水。母親は妊娠中。大工の父親は喘息だが喫煙者。妊娠はDVのハイリスク。

 

特定集団のケア。母子寮で予防接種を受けていない子供が多かった。公営団地で「孤独死」が多かった。一軒屋に住む老老家族が危険。多剤内服している患者が施設に入ると危ない(すべての薬を飲まされて、副作用の出現)。猫屋敷、ごみ屋敷。地域でもっとも健康格差のある分野への取り組み。「住みやすい街づくりに興味」

 

往診の事例を紹介。家庭医は、自宅でできるだけ過ごしたいという願いを最大限叶えることができるように支援します。がんの在宅緩和ケア、非がんの在宅緩和ケアが重要。

 

 

五十嵐正絃氏の言葉が好き、「長く身近にいて、すべてに関わる」を紹介。特定の個人、特定の家族、特定の地域に継続的に関与すること。

 

家庭医のよろず相談とは

日本は医療システムの使い方を国民に指導しない唯一の国である。ガイド役が重要。

 

臓器別専門医は、特定の疾患を持つ患者の特定の疾患に特定の問題が生じたときに自己完結的に診断・治療する。

一方、家庭医は、特定の個人、特定の家族、特定の地域にすべてに継続的に関与する。

 

最後にMcWhinneyの家庭医療の原理を紹介。

 

自分で考えるということが学びの基本である、としみじみと語った。学生からは、面白かった、家庭医療のイメージが変わった、医師を目指したときの気持ちを思いだした、等講義への賞賛の声が出ていた。(山本和利)