札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2014年5月27日火曜日

北海道の地域医療




526日、幌加内町国民健康保険病院の森崎龍郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「北海道のへき地医療 幌加内での医療と生活である。

 

まず、自己紹介をされた。横浜生まれ。富山医科薬科大学卒。漢方医。2010年幌加内町国民健康保険病院に赴任。幌加内町の紹介。3つの日本一。そばの作付面積、日本最大の人造湖(朱鞠内湖:ワカサギ釣りができる)、最寒記録-41.2℃(霧氷が見える,雪も多い)。人口1,640人、世帯数841(町として最小数、人口密度が最低)。過疎の町で高齢者が多い(高齢化率35%)。小学校5年生は8名で全員女子。高齢化率28%。病院の紹介。町内唯一の医療機関。医療療養13床、介護療養29床。建て替えの予定は宙に浮いている。平均入院患者26名。平均外来患者数30名。常勤医師1名、非常勤医師1名、職員数22名。

 

日々の診療。外来:超音波、内視鏡検査。訪問診療。入院;回診、病棟業務。病棟管理。予防医学。保健福祉医療連携。産業医。

 

入院病棟:在宅生活が困難な方。脊椎損傷の方。認知症の方。脳卒中後遺症による胃瘻造設者。末期がん患者。骨折、火傷の方。COPD。喘息。

外来診療:高血圧、糖尿病、高脂血症。OA.認知症など。慢性疾患が複数組み合わさった患者が多い。それに急性疾患が加わる。医療から介護まで。事例を提示。

上気道炎、下痢、小児の肺炎(マイコプラズマ肺炎)。60歳代女性の右臀部痛→帯状疱疹。マダニ咬傷。ライム病。

 

当直:自宅待機である。2週に1件の救急車。事例提示。関節脱臼。大腿骨骨幹部骨折。結膜浮腫。アキレス腱断裂(Simmons Thompson test)。

 

プライマリ・ケア医の役割

  1. まずはすべてに対応する。
  2. 自分のできることをする。シンプルに。スーパードクターである必要はない。生涯学習をしようという姿勢が重要である。
     
    道北ドクターヘリ事業:旭川日赤病院が基地。1年半で4回要請している(交通事故、脳卒中)。冬季、悪天候、夜間の対応が問題。
     
    在宅医療:老々介護。認知症同士の介護。介護力がない。カバーする地域の範囲が広すぎる。冬期間の厳しさ(雪はねが大変)。介護スタッフ不足。
     
    出張診療所;4つの診療所。公民館の一部を借りているところもある。
    保健福祉総合センター(アルク):ディサービス、居住部門、老人福祉寮。地域ケア会議の紹介。
     
    保健福祉総合センター
     
    予防接種事業:未就学児の任意予防接種をすべて全額助成。中学生女子の子宮頚がんワクチン全額補助。B型肝炎ワクチン全額補助。インフルエンザワクチンは中学生無料、町民は千円、高齢者の肺炎球菌ワクチン助成2000円。保育園健診。産業医活動(禁煙)。
     
    ここで「地域医療とは?」いろいろなところで使われる。使う側、受け取る側で意味が違っていることが多い。
     
    プライマリ・ケアの定義
     
    事例。9歳男児。体にブツブツ。水痘。1週間後の運動会に参加できるか。ワクチンの緊急接種ができる。抗ウイルス薬で対応。自宅安静。登校停止。保健お先生に連絡。
     
    半年後、父親が来院。40度の発熱、咳。肺炎を疑い胸部Xp,血液検査。XPで肺炎像あり、抗菌薬を処方。禁煙指導。
     
    83歳男性。検査実施したところ、大球性貧血、血小板減少が判明。専門医に紹介したところ、MDSであった。半年後、後ろ向きで倒れた。血糖値、心電図は正常。入院時、意識清明。てんかんを疑った。専門医で治療が開始された。その後、幌加内で定期輸血を開始した。右第23指の壊死(喫煙中にてんかん発作を起こした。)3度の熱傷。
     
    プライマリ・ケア医の役割
    ・日常診療に対応。
    ・こども、父親、家族も診ている。
    ・生活背景を知っている。
    ・アクセスしやすい。
    ・地域の健康にも関与。
     
    ・必要なときには専門医に任せる。
    ・各専門科の問題を統合して対応。
    ・これまでの経過を知っている。
    ・見知った医師がすべてを知っている
    ・最後まで責任を持つ。
     
    旭川医大の学生がインタービューに来訪。
    「キャリア・アップに繋がるのか?」
    「ここで診療を続けることがキャリア・アップである」と答えた。
     
    講義の最後に、幌加内そば打たん会、野菜作り、山菜取り、スキー、ワカサギ釣り等、田舎の生活の魅力を紹介してくれた。
     
    医者も地域で暮らしている。
    ・地域の人が支えてくれると心強い。
    ・こどもは地域に溶け込むきっかけになる。
    ・プライバシーがないが、守られている。
    ・お互いの気遣いがある。
    ・職住一致によってもたらされる情報、関係性
     
    3年半年経って感じること:患者さんの顔が見える。保健・福祉・救急の連携がスムース。旭川市が比較的近いので助かっている(高度医療・専門医のありがたみがよくわかる)。外傷が多い。人材不足(医師、看護師、介護士、ヘルパー、給食婦、等)。高齢者の生活問題(冬をどう過ごすか)。意外と子供が多い。いろいろなことに関わることができる。シンプルに、コンパクトに地域医療を経験することができる。若いうちに是非、経験を!
     
    絶対に負けないこと。幌加内の患者、生活、町について「最もよく知っている医者」である。
     
    勤務する幌加内町への熱い思いが伝わる講義であった。(山本和利)