札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年12月24日火曜日

12月の三水会



1218日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。松浦武志助教が司会進行。後期研修医:1名。他:7名。

 

ある研修医の経験症例。30歳代肥満男性。知的障害。糖尿病。運動療法に目覚めている。通勤バスをやめて駅まで歩くことを勧める。歩くと血糖値が下がることを自覚。50歳女性。糖尿病、病院恐怖症、統合失調症。ペットが死亡しうつが増悪。72歳女性。仮面用顔貌、動作緩慢、筋固縮。パーキンソン病の治療を開始。60歳代高血圧にARB,慢性疼痛にトリプタノールを処方。60歳代男性。発熱、下肺野に浸潤影。肺炎、気管支ぜんそく。50歳代女性。溶連菌感染が職場ではやっている。溶連菌感染として対応。20歳代女性。過呼吸。パニック発作として対応。30歳代女性。激しい咳嗽。クラミジア肺炎と診断。20歳代女性。鉄欠乏性貧血。50歳代女性内服を集団後、入浴中に意識消失。てんかん。20歳代女性。関節痛。感染を契機に血小板減少:6.8万。ITP.

往診事例。70歳代女性。慢性頭痛。夫が死亡。トリプタノールを減少し、漢方薬に変更。80歳代女性。OPLLで寝たきり。ハイ便コントロール。80歳代女性。吐血後肝硬変と診断。90歳代女性。糖尿病、高血圧。排便のコントロールができない。90歳台女性。立てない。座位を保持することを心がける。

 

研修医から振り返り1題。

 ある貧血のある80歳代患者の事例。高血圧症、認知症がある。長男夫婦と同居。逆流性食道炎があるが、薬は飲んでいない。血尿があった。もともとHb:15.5gmlHb:6.4g/ml、ハプトグロビン293であった。便潜血陰性。診断をつけないまま、PPIと鉄剤を処方。 慢性炎症による貧血と考えた。

尿路系の悪性腫瘍の除外を試みた。膀胱鏡で異常なし。腎生検は高齢で適応なし。血液検査で血管炎は否定的。腎性貧血も否定的で、血圧コントロールに徹した。綜合内科にコンサルト。ESR:77/h。フェリチン:20-45.鉄剤内服とエリスロポエチン製剤の使用を勧められた。

 

65歳以上の貧血は35%が原因不明である。

 

コメント:慢性炎症が原因ではないのではないか。ピロリ菌感染による鉄欠乏性貧血ではないか。逆流性食道炎は原因にならないか(そこからの出血)?

 

クリニカル・パール:診療所に通う高齢者の貧血への対応を考えてみた。本院、家族の希望を尊重し、頻度の高い貧血を考えて負担の少ない検査から行う。

Referralに4つの形態がある。紹介。併診。無責任丸投げ。分断されたチーム医療。

家庭医が責任を持ちながら専門家に意見を求める(併診)のが大切。

 

今回は、高齢者の小球性貧血について議論が交わされた。(山本和利)

 

2013年12月2日月曜日

沖縄から本土へ:あるジェネラリストの体験



1130日、第1回北海道プライマリ・ケアフォーラムで水戸協同病院総合診療科の徳田安春先生の基調講演を拝聴。

 

実家は沖縄の東海岸の漁師である(ウミンチ)。古い沖縄を見ることができる。大学まで自宅から通学した。沖縄県立病院、聖路加国際病院を経て、水戸協同病院に移った。

しばらくご当地料理名物の話。手稲渓仁会と交流がある。

Diagnostic error in Medicineの学会の話。メインの発表演題に選ばれた話。臨床推論を披露する様子を話された。 Gurpreet Dhaliwal 氏がコメント。NEJMclinical problem solvingがお勧め。

医師のパーフォーマンスは初期にグーと上がってから徐々に鈍化する。鈍化させないためには、①ミュジシャンから学ぶ(practice & exercise)、②decision-Outcome-Recalibration(結果を追う、電話をして経過を追う)、③ケースカンファ・症例集から学ぶ・壊死性筋膜炎の話(肝硬変患者が生の海産物を摂取)。一度に読まない。自分で考えながら進めてゆく。雑誌日big fiveを読む。NEJM THISWEEKは、一週間は無料で読める。

 ここで症例提示

30歳代男性。2週間続く発熱、咳、呼吸困難。風邪として対応。タバコはやめた。HR;122/m, 39.5°、SaO2:97%(酸素12L) 舌に白苔。肺野にlate inspiratory crackles,

WBC:12200, PT:19秒、

CT :すりガラス状陰影

学生から質問:ペットは?猫。旅行は?台湾。熱型は? 性交歴は?

 

診断は?

HIVによるカリニー肺炎。

ST合剤、ステロイド。

 

Suttonの法則「お金があるところから盗るのだ」

 

Case study4大疾患。

HIV, TB, malignant lymphoma, SLE

 

Dr.Gの裏話もうかがえた。

 

ユーモアを交えた話であり、大変刺激的な話であった。(山本和利)

 

 

 

 

 

 

 

 

北海道の地域医療の発展のヒントを探る


1130日、第1回北海道プライマリ・ケアフォーラムで札幌医大1年生の発表を拝聴した。

 

医学史で扱った若月俊一先生の生涯をまとめて発表した。

劣悪な村の健康状態を知り、出張診療を始めた。

牛の健康診査を参考に、全村民を対象とした健康診断を始めた。

集まりをよくするため、演劇で啓発し、集団検診を行った。若月氏が脚本を書き、職員が演じた。村民の8割が高血圧であった。予防は治療に勝る。7年後には医療費抑制に成功した。

5割を入院に、3割を外来に、2割を公衆衛生活動に充てる。病院際を開催し、啓発を重ね、現在も2万人の参加がある。

医療の民主化も進めた。

日本農村医学会を設立した。国際農村医学学会も主催した。マグサイサイ賞を受賞。

 

若月先生は「人たらし」。魅力に取りつかれてしまう。教育活動、啓発をされた。

 

若月イズムはどうなったか。長野県は平均寿命日本1位、医療費は47位。佐久総合病院は地域医療のネットワークを支えている。地域ケア科(在宅医療を担う)。治す医療から支える医療、寄り添う医療の実践を行っている。健康管理センターを中心に予防活動。保健補導員を常駐させ、若月イズムは継承されている。現在、病院の分割再構築がなされている。

 

学生の感想。

その人たちとの積極的な関わりは予防医学的効果を増進する。住民自らが獲得するもの。専門性と総合性を持った両者のチームワークが重要。地域を知り、地域に溶け込んだ。

 

我々に地域医療へのヒントを与えてくれるのではないか。

 

パネリストから、「学生のレベルを超えた発表である」という賞賛があった。

 

討論

北海道でのヘルスプロモーション

・出稼ぎ健康手帳というものがある。

・仕事をする中で、認知症の患者問題が見いだされ、新たな課題が見えてくる。

・佐久病院におけるネガティブは面がなかったのか、そこが知りたい。

・5割を入院に、3割を外来に、2割を公衆衛生活動は、高度成長時代のモデルであり、現在は2割を入院に、3割を外来に、5割を公衆衛生活動・その他にすべきである。人・地域を看取る必要がある。

 

北海道での地域医療の歴史的変遷とこれからの在り方

・これまでは専門医療を地域に広げてゆくことであった。

・これを変えてゆく必要がある。

・何を目標にするかで方略は変わる。たとえば、受け持ち患者の救急受診が減る、等。

・医療者に対する行政の対応に改善を求めたい。継続性が大事である。

 

最後に発表した学生から、ヴァージョンアップをして次回に臨みたいという意見で締めくくられた。(山本和利)

 

 

 

 

 

 

2013年11月29日金曜日

地域医療の課題と展望


 

1129日、西吾妻福祉病院並びに六合温泉医療センター 折茂賢一郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「地域医療の課題と展望-生活モデルと医療モデルである。

地域での事例を紹介。

鹿児島県徳之島の事例。離島医療のサミットに参加。

小豆島で認知症の話をするように言われた。

与那国島の診療所。定年間際の医師が研修者をやめて赴任している。

 

101歳の女性の訪問診療を紹介。在宅の看取りが問題になっている。

地域では生活者としての人と接する。地域全体として認知症の人にどのように接してゆくか。生活という視点で向き合う。

医者にしかできないことは何か?「看取る、死亡診断書を書くこと」

うまくやらないと死体検案書を書くことになる。

 
膵癌末期の患者(抗がん剤治療)の緩和治療。地域の中での緩和治療は難しい。痛みをコントロールし、生きがいを見出す。24時間対応を検討。牧師である夫の話をクリスマス会で聞く。

「生活に近い医療」もある。

 

車いすに乗せて日向ぼっこさせているように見せて、ネグレクトをしている。おむつ、膀胱カテーテルを留置してナースステーションに拘束している。(医療の名の下に虐待をしている)。認知症では居場所を探すことが大切。認知症患者はとても不安な表情をしている。居場所を見つけるとよくなってゆく。色を取り戻す(彩色療法)。音楽療法、園芸療法、等。患者さん達の顔色がよくなってゆくのに驚かされる。

 

これまでの活動を披露された。自治医大卒。29歳で六合へき地診療所長。「村の命を僕が預かる」。現在、2施設の管理者。白衣を着ない仕事が沢山あった。へき地包括医療に触れた3年間。顔が見える活動を続けた。半無医村の認識(必要なときに医師がいない、看とり)。その反省を踏まえて福祉リゾート構想へ発展させた。六合温泉医療センターを建設。メディカル・スタッフが地域へ出向く医療を目指した。そして最前線医療から「支える医療」へ。草津温泉、白根山の近くで対象人口26,000人。観光客年間六百万人。高齢化率>30%の地区で外科系・周産期の救急医療を確保。地域の拠点病院を建設。ヘリポート増設。24時間保育。屋根瓦式研修を導入している。

豊富な写真を提示しながら講義は進んだ。


多職種協同(ピラミッド型)=オーダー型

多職種協働(ドーナツ型)=カンファランス型の後者が地域医療では大事。

 

ICF(国際生活機能分類)の視点を強調。
  

最後に「医療モデル」と「生活モデル」の違いを強調された。

廃用症候群とコミュニティケア.医歯薬出版,2005より  

 
医療モデル
生活(QOL)モデル
目的
疾病の治癒、救命
生活の質(QOL)の向上
目標
健康
自立(自己決定に基づき、自己資源を強化し、社会的生活を送る)
主たるターゲット
疾患
(生理的正常状態の維持)
障害(日常生活上の支障・困りごと)
(日常生活動作能力[ADL]の維持)
主たる場所
病院(施設)
社会(地域・家庭・生活施設)
チーム
医療従事者
(命令・指示)
オーダー型
異職種(保健、医療、福祉、介護等)
(協力・協働)
カンファレンス型
対象のとらえ方
医学モデル
(病因-病理-発現)
障害モデル
(ICF・国際生活機能分類)
適用期
急性期(短期間・cure期)
急性期以外(長期間の可能性・care期)
手法や手段
EBMEvidence-Based Medicine
ケアマネジメント

    

今回は、認知症への取組が新たに加わり、リアリティのある話に学生達は感銘を受けていた。医師のしての存在意義がストレートに伝わる素晴らしい授業であった。山本和利)

 

 

病院における総合診療


1125日、勤医協中央病院総合診療・家庭医療・医学教育センターの臺野巧先生の講義を拝聴した。はじめに、twitterで質問を受け入れるシステムを紹介。

用語の整理。

2017年以降は総合診療専門医、内科専門医に統合されてゆく。

総合診療医

・家庭医

・病院総合医

 

「プライマリケアという言葉は、「サービス」を合わらす言葉である。

臓器専門医と総合診療医のどちらになりたいか、を問うた。

 

その後、自己紹介をされ、臓器別専門医(脳外科医)から総合医への転身された経緯を話された。スケート部で東医体三連覇、学園祭実行委員長、POPS研究会で活躍。学生会を創設し、寮生活の改善活動をしたとのこと。

 

脳外科時代(10年半)は、臨時手術、当直業務、緊急呼び出しが主な業務。充実していたが、年をとると大変と感じていた。同窓会にゆくと他の専門医となった医師も同じ悩みを持っていることがわかった。専門以外の知識がないため全科当直が非常にストレスだった。CTMRIで異常がないと薬だけ出して終わり。めまいの患者ではDPPVが一番多いが、脳外科はそれに対応できない(デップス・ホールパイプ法、エプリー法が有効)。頭痛の99%に異常はない。NSAIDsで薬剤誘発性頭痛を作っている。うつ病も見逃すことが多い。外来教育が皆無であった。受けた教育が偏っていることを痛感した。そんなとき、『家庭医・プライマリケア医入門』という本に出会った。総合医とは総合する専門医なのだということがわかった。

 

札幌医大の総合診療科で総合医としての基礎づくりをした(病歴聴取、身体診察など)。学生さんとの学習会:EBM。勤医協へ赴任してから教育の重要性に気付いた。またそこでジェネラリストが必要とされているていることへの驚きと健全なスペシャリズムのあることを知った。

 

今やっていること

・総合診療

・医学教育

・日本PC連合学会

総合診療医と臓器専門医のメリット・デメリットを学生同士で話し合ってもらった。

 

日本の医療情勢。

White KL(1961)Green LA(2001)の論文を紹介。大学病院に入院するのは1000人に1名である。

高齢化率の上昇し、複数の問題を抱えている患者や加齢・廃用の比率増加。総合医、老年医学のニーズが増加する。病院機能の限界。健康増進が重要。複雑系を扱う専門性が必要。Versatilist(十分深い専門性と周辺分野も適度に詳しい)がもう少し増えていかないと日本の医療はうまくゆかない。専門医を活かすためには総合医が必要。超専門医は少人数でよい、相乗効果がでやすい、休みをとりやすい。

 

音羽病院院長の弁

病院総合医を大量生産する。総合医7名を送ったら救急応需率が上昇し、黒字化した。

札幌でも同じことが起こっている。

コストだけでなく、予後を改善させる。

John Fryの「理想の医療供給体系」を紹介。

総合診療医によって成功しているモデルケースが増えている。

病院長は気づいている。

国も気づいている。

総合診療医養成協議会が道庁主催で発足した。

社会保険グループも気づいている。

米国も気づいている。

マッキンゼーによる分析。各専門医数の規制がないのは米国と日本のみである。医師への規制があるのが世界の流れである。不足する科ではインセンティブを賦与している。

米国の現状:コストが他の国の2倍で、GDP17%2008年)。高額な医療機器の使用と外科手技が多いためである。臓器別専門医が多いと医療費がかかる。プライマリケア医の育成を強化する。一方、英国の現状。医療費を8.4%に上げた。プライマリケアを重視し、患者満足度が上がった。

 

女性医師にとっての家庭医:無理なく出産、子育てしながら研修できます。

 

初期臨床研修について

総合診療医は日常疾患のエキスパートでなければいけない。頻度順で。

TOP50の問題で全体の80%を占める。

高頻度疾患を優先順位付きで学ぶ。質高く、深く。

健康増進。

地域医療:ニーズに合わせて。

 

若い学生へ。

総合診療医を目指してほしい。

総合的な基盤をもった専門医に。

両者の協力が重要。

現在、総合診療医のロールモデルは着実に増えている。

 

 

日本の研究医レベルは米国に比較して低い。

総合医が提供する医療は専門医よりもレベルが低いのか?「NO!」である。卒業時に総合診療医を目指すのは数%である。各科の専門医の必要数が検討されていない。最後まで理解がすすまないのは医師側ではないか。ハワイ大学外科町淳二先生の言葉を引用。「日本の医師は、できれば最初の5年間くらいはgeneral physicianとしてのトレーニングを積むべきだ」

 

general physicianになるには、初期研修が重要である。ジェネラルマインドが大事。ローテーションをしただけでは身に着かない。本幹なき枝葉末節教育になっていないか。よい研修とは、病歴と身体診察を重視した研修医向けカンファランスをやっていること。研修目標が明確であること。うまくいっている病院とは、大学の派遣を受けていない、ジェネラルマインドをもっている、教育に力を入れている病院である。臓器専門医と総合診療医が協力することが大事。

 

勤医協中央病院の新しい取り組みを紹介。研修医に合った振り返りカンファランスが重要である。評価、フィードバックをする。屋根瓦式研修医教育やMini-CEX,プロフェッショナリズム教育、ヒアリハットカンファランス、等。

 

先輩からの熱いメッセージであった。山本和利)