札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年5月13日月曜日

ガレノス/ヴェサリウス


今日の医学史の講義はガレノスとヴェサリウスであった。


司会班から発表班の班員紹介から始まる。プロレスの選手紹介のノリである。司会班のやり方もだいぶ浸透してきたようだ。

3班の発表は、今までにない発表形式で、一人がメインの発表を担当し、班員それぞれにマイクを振っていくというパターンである。

ガレノスの一生を紹介しながら、その中でも特に印象の強かった、当時の白内障の手術を紹介し、最後に、ガレノスが、1000年の後世まで伝えたといわれる四体液説の解説をしていた。

 画像をたくさん用いて、スライドの文字を少なくし、それぞれのスライドで、発表内容をコンパクトに発表していた。特に、「アスクレピオスの杖」のくだりでは、どうして医学の象徴が蛇なのか?ということを説明するエピソードを紙芝居にして、それをデジカメで読み込んだ手作りの画像を使用していた。

 ホームページなどにすでにある美しい写真を使用するよりイメージが湧きやすく大変好評であった。警察が犯人逮捕のために「写真」ではなく、「似顔絵」を多用する理由もこういうところにあるのだろうか?

 各個人の工夫の跡がうかがえる発表内容であったが、所々、理屈が不明瞭なところ、声が小さいところ、原稿の棒読みのようになってしまったところがあったことが残念だ。こうしたところは事前の練習の中で多くは解決可能である。

 また、偶然にもこの班は、発表の小休止にも似顔絵を使ったクイズを行っていた。このクイズもここ3回の発表では定番化してきた印象がある。発表の内容にかかわるものもあれば、まったく関係のないものもあった。どちらがいいのかはその時の発表の雰囲気によるのだが、まったく関係のないことをやると、場がしらける危険性が高い。今後発表予定の班は、そういう会場の雰囲気なども察して、発表を組み立ててほしい。他人のふり見てわがふり直せである。


 司会班はこれまたクイズを行っていたが、テレビ番組をもじって、「クイズガレノリア」と命名していた。

 内容は発表に関する問題が出題されており、難易度の設定は難しいが、この、「発表を振り返る」という点は非常に大切である。人間は1回の講義を聴いただけでは、その90%を忘れてしまうのである。つまり、覚えておいてほしいことは発表の最後にもう一度振り返って、記憶のページに焼き付けることが有効である。この点で、振り返りの内容は、発表の中で特に印象に残したいことに絞るのがいいであろう。その点で大変工夫の跡がうかがえる司会であったと思う。


4班の発表はヴェサリウスであった。

この班は、ヴェサリウスが、当時、絶対的権威であったガレノスの解剖学説を覆し、近代解剖学の礎を築いた「ファブリカ」を発表するまでの経過を、時代背景などを踏まえながらわかりやすく発表していた。

 発表者は一人であったが、この班がいかにヴェサリウスをすごい人だと思ったのか?がひしひしと伝わる情熱的な発表であった。

 特に、発表の所々に、発表者自らの経験を踏まえたエピソードを紹介することで、単なる第3者(ヴェサリウス)の歴史的事実から、目の前の友人(発表者)=第2者の身近な身の上話となり、会場の興味をひかせるのに非常に効果的であったと思う。

 発表の最後には今後2年生から取り組む「解剖学」への意気込みも自らの意見として述べていた。医学を志して入学してきた医学生が、最初に「医学」を肌で実感するのが、この「解剖学」であろう。その大きな節目に向かっての意気込みをみんなで共有したことは非常に大きなことである。

 さらに驚いたのは、この班は札幌医科大学図書館から「ファブリカ」の複製版の大型教科書を参考資料として持ってきていた。それを最後に紹介したところ、多くの学生が、その資料をわざわざ見に来ていたのである。

 これまで多くの教員が、自分の講義の参考資料として、実際の本や参考書などを持ってきてはいるが、実際に学生が授業後に手に取ってみることはほとんどない。今回の講義では多くの学生が、この「ファブリカ」の内容に興味を示し、さらに「見てみたい」と思わせるに十分な発表であったということだろう。

発表者個人の資質と言ってしまえば確かにその点は一理あるだろう。しかし、おそらく、スライドづくりや資料集めに奔走した班員の努力があって、ここまで参加者を引き付ける内容となったと思う。学生諸君の努力を感じた発表であった。

司会班はお馴染みとなったクイズを中心に発表後の司会を担当していたが、クイズの内容は、発表内容の中でも特に覚えていてほしいことを中心として構成していた。おそらく、前半の発表の素晴らしさと相まって、学生諸君は「ガレノス」と「ヴェサリウス」の名前は記憶に残ることだろう。こうした司会進行・発表ができるのは素晴らしいことである。

 また、この班は会場からの意見を引き出す際に、テーマを絞って質問していた。そのため当てられた学生は答えやすく、「ヴェサリウスが、ガレノスを糾弾するような内容を発表した時に、ガリレオのように学会から抹殺されるようなことにならなかったのはなぜですか?」といった、有機的な質問を引き出すことができていた。それに対する回答も素晴らしく、こういう双方向の教育こそが、大学での教育なのであろう。

 1100の講義形式では教育効果には限界がある。それを少しでも埋めるためには発表者と参加者の有機的なつながりが必要である。そのつながりをうまく引き出せるかどうかが、司会班のファシリテート力にかかっている。試行錯誤でもいい、今後の学生諸君のさらなる工夫に期待したい。(助教 松浦武志)