札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年8月30日月曜日

「感情」の地政学

 『感情の地政学』(ドミニク・モイジ著:早川書房 2010年)を読んでみた。
  ハンチントンの「文系の衝突」やフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」といった決定論的歴史観(アメリカの武力行使の正当化)への反省に立って、分析手段に感情を加えることで世界を理解しようとする試みである。ここでは、恐れ、希望、屈辱を取り上げている。恐れは、自信が消失している状態(なんてことだ)。希望は自信の表明(やりたい、やれる、やろう)。屈辱は、将来に希望を持てなくなった人の傷ついた自信(そんなことができるはずがない)。
 グローバリゼーションは、国境を越えた経済活動の、市場を通じた統合と定義され、冷戦構造に取って代わった国際システムであり、世界をフラット化したかもしれないが、同時に世界をかつてないほど感情的にしてしまった。
 問題のある世界を変えるためにどうしたらよいのか。「世界の健康」にはバランスのとれた感情が欠かせない。他者との関係がかつてないほど重要になっている。感情は季節と同じように周期的に繰り返すが、感情は変えられる。日本は高齢化や高い若者の自殺率などで、自信を失っており、希望は恐れに変わっている。

  著者は、感情は文化や宗教、地理といった要因とは異なり、人間の意識の持ちようによって変えられるという点を強調している。ほとんどの国や文化は、希望を持ち続け、恐れと屈辱を乗り越えるために変化しなければならない。

  希望を持つためには自信を持たなければならない。自信を持つためには・・・。話が循環して、具体的な策が見えにくいが・・・。自信、希望がこれからの世界のキーワードであることは間違いない。
(山本和利)