札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年4月8日金曜日

EBM総論

4年生を対象に「EBMと臨床研究」という講義を毎年前期におこなっている。「EBMと臨床研究」という枠組みは今年度が最後となり、来年度は臨床研究部分が切り離されて、「臨床疫学」という授業科目となる。

そもそもEBMがどうして世に出てくるようになったかを説明した。
カナダのマックマスター大学の一般内科に携わる医師らが、機械論を基本としたこれまでの「科学的」アプローチが臨床実践にそぐわないと批判的に総括し、これを変えるための新しい実践法EBMを提唱したものである。Sackettの次の言葉は有名である。
「優れた医師は、自分自身で培った専門的知識・技能とともに最善の利用可能な外部根拠を利用する。そのどちらかが欠けても不十分である。その知識・技能なしの臨床行為は、外部の根拠に虐げられる危険性がある。というのも、たとえ優れた外部根拠であっても、個々の患者には適用できなかったり、不適切であったりするからである。一方、最新で最善の根拠なしの臨床行為は、急速に時代遅れになり、患者にとって有害になる危険性がある」

続いて、EBMをどのように実践するかをわかってもらうために、治療についての実践方法を例で解説した。
脳梗塞発症を心配する59歳の男性。13年前に心筋梗塞罹患。血管外科に通院中。空腹時血糖値:158mg/dl、 HbA1c:5.8%。 総コレステロール, 中性脂肪、HDL-Cの情報はない。左頚動脈に収縮期血管雑音を聴取する。

第1段階で、質問を受けた者が答えることが可能な疑問文を作成し,第2段階で、情報の収集をし,第3段階で文献を批判的に吟味し,第4段階で得られた情報が自分の担当する患者に適用できるかどうかを判断するという手順を踏む。

疑問の定式化の例を示す。
P:Patient:心筋梗塞の既往患者に、
I:Intervention:pravastatin治療を行うと、
C:Comparison:プラセボの場合に比べて、
O:Outcome:stroke発生率または死亡率が低下するか。

次の情報の収集は、最近では原著論文を批判的に吟味した情報をまとめた二次情報データベース(Dynamed、UpToDateなど)を利用することが得策である。関連のあるキーワードを用いて検索を行うことにより簡単に情報にたどり着くことができる。

そして、情報を批判的に吟味する。批判的吟味とは、しっかり読むことであり、具体的には1)妥当性、2)結果、3)適用について検討することである。今はEBM関連書から簡単にさまざまなチェックリストを入手することができる。治療関連の情報では、ランダム化の有無、経過観察率、割付け通りの解析(intention to treat)有無が質の善し悪しに大きく影響を及ぼす。転帰の評価は相対リスク:relative risk (RR)にとどまらず、絶対リスク減少(ARR)やnumber needed to treat(NNT)=1/ARRでも行う必要がある。できれば、95%信頼区間もみておく必要があろう。

授業では科学性を強調したわけではない。逆に「人間を対象にした場合75%は科学が通用しない」ことを述べた。「たとえば、血圧が高いことがどれだけ死亡につながるかということがわかる確率を考えてみる。多変量解析を用いて計算すると、相関係数はせいぜい0.5にしかならない。つまり統計学的には、寄与率は0.5×0.5=0.25であり、人間を対象にした場合25%しか説明できない。高血圧患者には社会的背景や生活環境などさまざまな要素が絡んでくるからである。」

 エビデンスを知ることで、誰もが行っている治療法ができなくてはいけないのは当然のこと。それを」提供することは医療専門職としての誠意であり、前提にあるもの。しかし、それだけで十分かというとそうではなく、75%は、エビデンスのみで解決できない問題が絡んでいるということだ。残りの75%は人間力で対応しなければならないのである。

今回、一人も授業中、席を立つ者も、入室する者もなく、驚くほど行儀がよかった。授業後の感想も好意的なものが多く、科学性のみならず人間性が大事であることを記載しているものが多かった。学生さんのこの授業に対する期待も高いことがわかったので、次回も気を引き締めて臨みたい。(山本和利)