札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年4月10日日曜日

飽きる力

『飽きる力』(河本英夫著、NHK出版、2010年)を読んでみた。

著者は科学哲学者であり、オートポイエーシス(自己創生)の専門家である。「飽きる」というとネガティブな印象を受けるが、それをポジティブに評価して記述している点が大変ユニークである。

長期的な積み上げが必要な場合には、努力とは異なる工夫が必要だそうだ。努力だけでは筋違いの迷路に入り込んだときに、努力を有効な努力とし続けるための心の働きが「飽きる力」である。強いラグビーや野球のチームは絶えず練習方法を変えているらしい。飽きるとは「心のゆとり」に近いものである。「飽きる」と「あきらめる」とは違う。どうしても必要な三か月の基礎トレーニングは必要であるが、それでうまくゆかなければ次の選択肢を見つける(飽きる)ことも必要である。なぜなら同じことをしていること自体が既に下降線に入っている状態であるからだ。

著者は、「パラダイム転換」は一つの錯覚であるという。「限界まで来たら別の視点でやってみる」は、本当の視点の切り替えになっているかどうかあやしい。つまり、パラダイム転換には、それに対して手遅れになって初めてそのことに気付くような面がある。それでは物事の変換、時代の変動の最中に居る者にはそのまま活用することができない。地域医療崩壊について、私も専門医onlyから総合医との協同という「パラダイム転換」を主張しているが、手遅れという点では痛い点をつかれている。

一生懸命であることに飽きることも大切。「努力していることの疲れ」はないだろうか。失敗から直接学ぼうとしてはいけない、とも主張している。

リハビリについての発言にも注目したい。症状や病気というのは一つの個性なのである。その能力を回復させるためには、健常者に比べて何が欠けているかではなく、自らの発達過程のなかで、どこから自分がこの能力を獲得してきたかという、本人のなかの現状と健常であった場合の分岐点まで戻ってゆくことが必要である。しかしながら、現状のリハビリは健常者から見てその欠けている部分に刺激を与えるものになってしまっている。

一つのことが長続きしないと悲観したり、意味が見いだせないまま漫然と同じことを繰り返したりしている者にとっては、本書を読むことで少し希望が見いだせるようになるだろう。(山本和利)