札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年3月4日金曜日

患者主体の診断 その15

第7章の検査の終盤 Patient-centred diagnostic testing
現在プライマリケア医は、MRI、エコー、内視鏡など幅広い検査が利用出来るようになっている。しかし、技術にとらわれて身体診察や病歴などの情報がおろそかになっている。
自分自身が内視鏡をする中で、検査を実行出来ることが大事なのではなくて、本来の検査目的を思い出すことが重要だと感じた。
このことから学んだことは
1)患者の満足度の点で,どのような検査が必要なのかを熟考すること
2)検査結果は、(検査を行うものの技量によるため)信用出来るものでは無い可能性があること

 検査の検査者による違いは;κ値
例としては、スパイロ検査はκ値としては呼吸器専門医では0.31以内、GPでは-0.12以内であった。
胸部レントゲンは世界的に良く使用される検査であるが、スクリーニング、診断において問題がある。特に肺疾患を診断する手法として病歴、身体診察よりも感度が良いとされている。1950〜60年代にフィラデルフェア在住の45歳以上の6027人の男性ボランティアに6月毎10年間のレントゲンスクリーニング検査を症状と喫煙状況の研究がある。
肺がんとの関係は?レントゲン検査より臨床症状のほうが肺がんとの関係が深い。
Clinical feature Risk%(肺がん)
------------------------------------------
当初CXPで異常なし 1.78
当初CXPで所見あり 2.64
慢性咳 2.98
声のかすれ 3.42

 胸部レントゲン検査は必要?
胸部レントゲン検査では、擬陽性、擬陰性があることを知っていなければならない。例としては、検査条件、体位、不十分な息止めなどがある。また検査上問題が無くても肺野位置によっては診断が困難で、喀血患者の半数は胸部レントゲン検査では正常である
プライマリケアでは、症状や既往が重要で、鼻汁、咽頭痛、25回以上の呼吸数、体温、夜間の発汗、筋痛、痰がなどの情報により肺炎を疑い、レントゲン検査は行わなくとも良いかもしれない。
心不全については、レントゲン検査のκ値は0.5で、LR+も肺血管影の増強2.0、心拡大2.4にとどまるが、一方BNPはECGと合わせるとLR+4.5になる。

 より適切な診断のために
検査を行う範囲が増加するにつれて不適切な検査の増加に対して懸念している
腹部CT検査は自然暴露の4.5年分、胸部レントゲン検査の500倍の被爆量がある。しかし急性腹症ではない場合にも使用されているとの報告がある。既に病歴、身体診察から明らかな診断情報が得られているにもかかわらず60%の患者が検査を受けている。
プライマリケア領域でも、腰痛に対しての検査は、レントゲン検査からCT,MRIに取って代わってきている。
6週間以内の急性腰痛は、全身症状が無く神経所見が無ければ,そのような画像検査は必要ない。
患者主体の検査ではもう一度診断プロセスを再確認することが必要で、事前確率を考量して検査を考慮しなければならない.

検査 indication(κ値)
------------------------------------------
CXP 心肥大(0.48)
CT 脳卒中の異常(0.6)
MRI 椎間板評価(0.59)
下肢エコー DVT(0.69)
甲状腺エコー 結節の有無(0.57)
内視鏡 GERD(0.59)
肝生検 肝硬変(0.49)

 より適切な診断のためのダイアログ
患者主体の検査では以下の2段階のダイアログを意識する。
第1段階
症状、病歴、画像診断歴、主たる感染症、妊娠の可能性、体内金属物そして現時点での診断について検討する
第2段階
1)さらに問診、身体診察からの診断の可能性についての評価を考慮する
2)診断に対しての裏付け、フィードバックに対して最小限の検査で最大限の効果があるのかを意識する
3)最初の診断から適切のステップを踏んで診断しているか
4)患者のリスク、ベネフィットを考慮しているか

 検査はどうすれば減らせるのか?
オランダでの8年間の85名のPC医の検査の適切なフィードバックの介入研究では、検査を減らせることが報告された衝撃的なものであった

検査 減少率(%)
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血算 39
血清 60
生化学 30
尿検査 48
細菌検査 17
ECG 4

 患者主体の診断における検査のあり方
プライマリケア領域では世界的傾向としては7−8%の検査が増加している。診療医の視点では、検査の診断に対する効果についての考察が必要で、さらに患者主体の診断においては経済的な効果の研究も重要である。8年間の85名のGP介入研究では患者1人あたり2ドルのコスト削減を可能にした。医療資源について有効であった。このように患者主体の本当に必要な検査を考えるきっかけとなれば…(寺田豊)